6-2・負けたくないから
「陽ちゃんが突撃するなんて思わなかった。
心臓に悪いから、先に言ってよね」
「藤原くんの魔法のおかげで、いい感じの“タイミング”が見えたからさ」
「それならそれで、僕に『突撃しろ』って言ってよ」
「みこっちゃんに負けたくないからさ、
僕だって少しくらいは勇気を見せなきゃ」
「・・・僕に?負けたくない??」
僕って、陽ちゃんからライバル視されてたの?
「負けたくねーってのは吉見だけじゃねーぞ」
武藤さんが僕等と並んで、吉見くんの肩をポンと叩いた。
「フミヤがいきなり魔法使って驚いただろ?」
「うん、びっくりしちゃった」
「アイツ、『尊人には負けらんねー』ってさ、
以前は『社会に出たら意味が無い』って言ってた勉強をしたり、
再異世界で、オマエに隠れて魔法の練習してんだぜ」
低空飛行だった藤原くんの成績が夏頃から上がりだして、四年制大学を狙えるようになったのは噂で聞いてる。
「睦姫っ!今は戦闘中だぞ!余計なことを喋ってんなっ!」
「素直に『恥ずかしいからバラすな』って言えよな!」
「へぇ~・・・ふーみんのくせして可愛いとこあんじゃん!」
「うるせーよ!」
これはマズい。陽ちゃんや藤原くんみたいな凄い人が頑張ったら、僕みたいに才能の無い人なんて直ぐに追い抜かれちゃう。
「負けてらんない・・・僕も頑張らなくちゃ」
何となくだけど、ダークファントムの攻略方法は見えた。魔法の類を弾き返す障壁は脅威だけど、障壁を発する為に掌をフリーにしなきゃならないので、武器を持てない。言うまでも無く、魔法を弾き返すまでは動けない。だから、両掌で障壁を発生させたあのタイミングでは、陽ちゃんの隙だらけの突撃にすら対応できなかった。
「リダクション解除!ヒール発動!」
ここからは、踏み込んだ戦いになる。指示をされなくても、僕が何をするべきかは解っている。
「対象は真田さんと藤原くん!」
真田さんと藤原くんの体が一瞬だけキラキラに包まれた。これで、ヒールの干渉下に入ったはずだ。
藤原くんが何を狙っているのかも見当が付く。陽ちゃんが突撃したのと同じタイミングをこじ開けて、敵を問答無用で制圧する特殊能力を使用するつもりだろう。
「うおぉぉっっ!!」
「やぁっっ!!」
真田さんと藤原くんが、先程よりもダークファントムに踏み込む!真田さんの放った魔法の火球を弾き返してる隙に、藤原くんがダークファントムの懐に飛び込んで剣を振るう!ダークファントムはギリギリで回避をしてから、真田さんの魔法を警戒して大きく距離を開けた!
「ぬぅぅ・・・卑怯な」
ダークファントムが藤原くんを睨み付ける。
「オメーみたいなワケの解んねーヤツ相手にして、
馬鹿正直に戦うわけがないだろ!
卑怯でもなんでも勝てば良いんだよ!」
藤原くんがダークファントムを睨み返す。
今の一連、ダークファントムの対応が遅かった。藤原くんの剣がダークファントムに届きそうだった。真田さん達が踏み込みを深くしたのは解るけど、それだけでこんなに変わるのだろうか?
「陽ちゃん、なんかした?」
隣に立ってる陽ちゃんの顔色が悪い。
「さっき突撃した時にね、武藤さんが合成した毒の粉末をバラ撒いた。
効いてきたみたいだね」
「・・・どく?もしかして、陽ちゃんんも吸ったの?」
「そりゃ、まぁ・・・至近距離で撒いたからね」
「大丈夫なの?」
「致死毒じゃないから大丈夫。全身が痺れてしばらく動けそうにないけど」
藤原くんの口ぶりからして、ダークファントムが麻痺していることを把握している。これも全部、藤原くんの思惑通り?
「藤原くん・・・すごすぎるでしょ」
動揺する皆を落ち着けて、勝ち筋を示し、実行をする。指示は無くても、皆が役割を決めて動く。
「ツィホーのオッサンが消えた時さ、フミヤだって動揺したはずだぜ。
でも、アイツはそーゆーの見せねーんだ。周りが動揺してる時は特にな」
武藤さんが、藤原くんの内心を説明してくれる。
「そうなんだ?」
これが優れた統率者。僕の敵う相手じゃない。藤原くんは僕の何に負けたくないの?僕が勝ってるところなんて「クソ真面目」くらいしかないよ。
「・・・でも」
藤原くんの圧倒的な存在感を理解できるからこそ、過去の嫌な経験が思い起こされる。智人と最初に戦った時、ワンマンチームだった最初の藤原組は、藤原くんが戦闘不能になった途端に総崩れを起こして壊滅した。
「頼りっぱなしじゃダメなんだよね」
真田さんと藤原くんは、ダメージお構い無しでダークファントムに突っ込んでいる!ダークファントムの放った光弾を回避した藤原くんが懐に飛び込んだ!だけど、次の光弾を発射され、剣で防御するけど数歩後退させられてしまう! 真田さんが魔法の火球を飛ばしながら接近するけど、障壁で弾き返されて真田さんに着弾してしまう!
「藤原くん。真田さん」
ダークファントムが麻痺状態に陥ってなかったら、2人はもっとダメージを喰らっているのだろうか?ダメージを負う2人を見ているのが辛い。ヒールで回復したいけど、今使ってしまったら後が無くなる。「冷静に」と自分に言い聞かせて、興奮と苛立ちを、どうにか抑え込む。
「うおぉぉっっ!!」
「やぁっっ!!」
真田さんの放った氷柱がダークファントムに弾かれて真田さんに着弾!
「早璃っ!根性で堪えろ!!」
藤原くんの放った火球がダークファントムに弾かれて藤原くんに着弾!
「ふーみんこそっっ!やぁっ!」
真田さんが氷柱の着弾を無視して、次の氷柱を飛ばす!しかし、またもやダークファントムの右掌から発する障壁に防がれてしまう!
「うおぉぉっっ!富醒!ルーラー!!・・・動くなっ!!」
藤原くんが特殊能力を発動する!麻痺毒で動きが鈍っているダークファントムは射程圏内!確実にルーラーの干渉を受ける位置だ!
「ぬおぉぉぉっっっ!!」
だが、ダークファントムは気合を発してルーラーによる精神拘束を振り解いて、大きく後退をする!
「なにっ!?」
「オマエが物理攻撃と魔法以外の何かを仕掛けてくることは予想していた。
だから、こちらからは魔法攻撃をせず、精神力を溜めて抵抗力を上げておいた」
ダークファントムが、足を止めてしまった藤原くんに掌を翳す!
「卑怯な手段を使っても私には届かない。
これがオマエの限界だ。・・・死ね!」
ピークエクスペリエンスは真田さんが使用中なのに、僕にはダークファントムがどう動くのかが見えていた。いつの間にか、自力のゾーンに入っていた。
「わぁぁっっっ!」
気付いた時には、藤原くんへのトドメを発する直前のダークファントムに踏み込んでいた。




