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1-2・統和の英雄~太陽の子

「物見遊山のつもりで来たのだがな・・・

 君のような少年がギラガーランドに圧勝するとは・・・

 なかなか興味深いものを見せてもらった」


 背後から拍手が聞こえる。振り返らなくても解る。拍手をしているのは赤い特攻服の人だ。


「だが、ギラガーランドはギラディエスターの中では最弱の種族。

 その程度で勝利の余韻に浸られても困る」

「ギラガーランド?ギラディエスター?」


 振り返って赤い特攻服の人を見つめる。姿形は人そのもの。だが、その内側から発せられる威圧感は、怪物が発していた威圧感よりも恐ろしく感じる。


「ギラディエスターは某大国が開発をした怪物の総称。

 ギラガーランドは、君が倒した怪物の種族名だ」

「某大国?何のために?」

「太陽の子を抹殺して、自らが世界の頂点に立つ為に」

「太陽の子?」


 僕には、赤い特攻服の人が何を言っているのか全く理解できない。


「あんた・・・いったい?」

「私はダークエルフィート四天王の一人、

 スカーレットナイト・ゼノバーン!」

「・・・ゼノバーン?」

「私は、興味を持った一角の者にしか名を聞かない!・・・君の名は!?」

「源尊人!」

「フッ!君の顔と名、覚えておこう!!」

「あんた、僕の知らない何を知っている!?

 なんで櫻花おーちゃんが狙われたんだ!?」

「それは、君が守り抜いた“太陽の子”に聞きたまえ」


 突風が吹き、砂埃がゼノバーンの姿を隠した。


「次に君と会える時を楽しみにしよう。

 それまで、生き残っていてくれることを期待する」

「・・・なにぃ!」


 砂埃が止んだ時にはゼノバーンは消えていた。先程までのように周囲を威圧するプレッシャーは、もう感じられない。


「ダークエルフィート・・・ゼノバーン・・・

 一体なんなんだ?」


 状況は全く把握できない。だけど「僕には奴らと戦う力がある」ってことだけは解る。


「・・・尊人」


 おーちゃんに名を呼ばれて振り返る。おーちゃんは僕に見惚れていた。


「・・・・・・・・・・・・・」


 おーちゃんを助けたい一心で忘我気味だったけど、こ~ゆ~勇敢なの、なんか僕っぽくない。


「なんか凄いじゃん。尊人ってこんなに強かったの?」

「よ、よくわかんない。

 おーちゃんを助けたいって思って夢中で・・・」

「えっ?私を?」


 おーちゃん、凄く可愛い。僕にとっての彼女は、初恋で片思い。おーちゃんよりも好きになれる女の子なんて、一生現れないって自信がある。だから、おーちゃんに微笑んでもらえるだけで、僕は「勇気を振り絞った価値があった」と感じられる。


「う・・・うん。おーちゃんを」


 照れながらおーちゃんを見つめる。おーちゃんは、純真な笑顔で真っ直ぐに僕を見つめてくれた。


「太陽の子、織田櫻花先輩」

「貴女が自らの運命を知る日を心待ちにしておりました」


 声をかけられたので振り返ったら、1学年下の双子・田中姉妹が並んで片膝をついて、おーちゃんを見上げていた。


「阿部校長から『太陽の子をお連れするように』と言われています」

「それから、太陽の子を守った源先輩も・・・」


 田中姉妹が立ち上がって、僕と櫻花おーちゃんに「校長室に来てほしい」と催促をする。


「・・・校長?」

「貴方たちの疑問には、予言の伝承者たる阿部校長が答えます」


 この時の僕はまだ知らなかった。

 この世界に、かつてない危機が迫っていることを。

 救世主の定めを背負った“太陽の子”が織田櫻花おーちゃんってことを。

 世界の支配を目論む組織が、目障りな“太陽の子”が覚醒をする前に亡きものにしようとしていることを。

 そして僕は、「櫻花おーちゃんを守りたい」の一心で、世界の未来を左右する戦いに身を投じることを!



 僕は悶絶する。


「・・・こ、これはイタイな。

 ギラガーランド・・・ギラディエスター・・・

 ダークエルフィート・・・スカーレットナイト・ゼノバーン

 ・・・で、ヒロインが櫻花おーちゃん」


 突然、目の前に敵が現れて、襲われた可愛い幼馴染を間一髪で助けて、謎のライバルからアドバイスを受けて不思議な力を発揮して怪物を倒す。そして、片思い真っ最中の幼馴染は救世主の定めを背負っている。


「恥ずかしすぎっ!」


 二次試験が終わるまでは、根を詰めて受験勉強をした。不合格なら後期試験に挑まなきゃならないので、まだまだ気は抜けないんだけど、張りつめていた気持ちを一時的に開放したくて、気分転換のつもりで机内の整理整頓をして、引き出しから中学生の頃に書いた自作小説のノートを引っ張り出して、数年ぶりに目を通して今に至る。


「ヤバすぎるでしょ」


 ノートの表紙には、僕だけが一目見て解るように丸シールを6つ並べて貼ってある(さすがに表紙にでかでかとタイトルを書く勇気は無し)。

 執筆をしたのは冒頭とメインキャラのラフスケッチのみ。自作小説の続きは、一個上の斉藤先輩(男子)と五十嵐さん(女子)と同期の長谷川くんと一個下の田中姉妹が櫻花おーちゃんを守る宿命を背負っていて仲間になるとか、阿部校長が伝承者としておーちゃんを導くとか、徐々に大きな事件に巻き込まれていくとか、ラスボスを倒した僕は皆から「統和の英雄」と呼ばれるとか、最後は櫻花おーちゃん幸せになるとか・・・文字化するのが面倒臭くて書かなかったけど、当時の僕の脳内では色々と浮かんでいた。

 ちなみに現実の僕は、サッカー部エースの斉藤先輩や、生徒会長の五十嵐さんや、美人の田中姉妹とは話したことはない。長谷川くんは、小学生時代におーちゃんが「格好良い」って言ってた男子ね。

 僕が徐々に頭角を現して長谷川くん達から認められ、やがてはチーム内で最強になる。仲間達では倒せない強敵を僕が倒して万歳される。仲間の女子達は僕に好意を持つ。そんなイメージで知名度抜群の彼等が仲間になるって設置にした。


 書いていたのは中2の春以降。中学に入学してバスケ部に入部届を出した頃は、こんな僕でもスタメンに選ばれることを信じて疑わなかった。スタメンになって大活躍をして、櫻花おーちゃんに応援に来てもらおうと思っていた。でも、徐々に「あれ?何もかもが思い通りにはなってないぞ」と感じるようになり、「頑張っても無駄」と考えて、やる気を失った。


 創作ノートを引き出しの手前から奥に追いやったのは、中2の夏が終わってからだった。僕は「そのうち頑張る」とか「他者を凌駕する潜在能力はある」なんて妄想に溺れているのに、櫻花おーちゃんがテニス部の部長になって、秋の新人戦の時に全校生徒の前でスピーチをした。

 

 ものすごく差を付けられた気がした。このままじゃダメだと思った。「僕にでもできること」を考えるようになった。部活動でキラキラな汗を流している櫻花おーちゃんが綺麗に見えて、少しでも追い付きたくて、下手なりにバスケの練習を頑張るようにした。


「もし、僕がモーソーワールドから戻ってこられなかったら、

 このノートは遺品としてお父さんとお母さんに見られていたんだろうか?」


 クローゼットに隠してある“アイドルの水着姿が載ってる雑誌”を発見されるより恥ずかしいかもしれない。

 当時は「こんなの書いてても意味が無い」なんて思いながら「もしかしたらまた書くかも」と思っていたんだっけ?


「さすがに、もう続きなんて書かない・・・・・・・・よね」


 ゴミ箱に捨てたらお母さんに見られてしまいそうだ。一計を案じて、使い終わったノートや要らない雑誌を束にして、真ん中くらいに創作ノートを挟み、ビニールの紐で十字に縛る。 

 もし今、自作小説を書くことになったら、きっと、ヒロインには“別の子”を宛がうんだろうな。・・・てか、書く気はないけど、たまに“別の子”をヒロインにした妄想はしています。



 作中には出てこないけど尊人の中学の教頭の名は山田。生徒からは陰で禿田と呼ばれており、尊人は渾名しか覚えていない。


 尊人が「統和の英雄」を書けなくなったのは、当時の自分の価値観を押し付けたキャラが活躍して万歳される御都合主義な状況に感情移入できなくなったから。自分の価値観を押し付けたキャラが妄想の中でしか活躍できない状況が虚しくなった。

 中二の秋に真っ向勝負の中で自分にできることを探すようになる。キッカケになったのは櫻花との差をハッキリと認識したから。そう言う意味では、櫻花の存在が尊人を成長させた。反面、勝手に櫻花との距離を空けて、遠い存在にしてしまった。

 早璃が真っ向勝負の中で藻掻くスタンスになったのは高校になってからなので、尊人が2~3歩リードしている。早璃は「バスケが好きなのにバスケからは好かれていない」に苦しんでバスケから離れたので、「バスケからは好かれていない」を受け入れた上でバスケが好きな尊人が輝いて見えた。

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