5-3・頼れるツィホーさん
外地遠征が始まった。道なき道を掻き分けたり、獣道を通らなきゃならないこともあるけど、平原や、それなりに整った道もある。
「外地にも一定の文明があるんですね」
「テーレベール圏(内地)との交流は無いから、
ちゃんと把握されてないだけだけなんだね」
接触はできていないけど、森の向こうに生活の煙が上がっているのが見える。外地に住んでいるのはエルフやドワーフ等々、人間族とは違う価値観の種族。テーレベール圏の人達とは違って、たくさんの人が一か所に集まって町を作るのではなく、10~50人単位の集団で小さな村を作って生活をしているらしい。
「ミコト殿、皆さま、そろそろ、周囲への警戒をしてください」
僕だけを特別扱いしていたツィホーさんだったけど、ケンさん達との衝突以降は藤原くん達のことも認めて、「小僧」扱いをしなくなった。
「あれがダークファントムの城です」
ツィホーさんが指さす小高い山の上に「いかにも」って感じの不気味な城が立っている。
「あの城のボスが、ツィホーさんを現実世界に飛ばしたんですっけ?」
「ツィホーさんの恋人さん達は無事なのかな?」
僕達は、東都市から外地に出て東の果てを目指していた。東の果てに行く為には3つの領地を通過しなければならない。黙って通過させてもらえればありがたいんだけど、各領土の城主さんにそのつもりは無さそうだ。
「ここからは徒歩だ。
無防備になってしまう馬がモンスターに狙われないようにな」
「了解です」
乗ってきた馬を周りから見えにくい場所に隠して、徒歩で小高い山に向かう。
「わっ!わっ!不気味な奴が飛んできた!」
城側から、大きな角が2本生えた漆黒の人型が、背の翼を羽ばたかせて向かって来た!ツィホーさん曰く「レッサーデーモン」という名の番人らしい。
「きゃっ!」
初見の魔物に慌てた真田さんが、足元の岩に躓いて尻もちを付く!
「真田さんっ!」
真田さんを庇って前に立って構えたんだけど、僕の前にツィホーさんが立った!
「ここは俺に任せてください!」
ツィホーさんが、まだ距離のあるレッサーデーモンに向かって剣を構える!
「うなれ、聖剣・天地真理!グレートファールフォース発動!」
切っ先から放たれた光弾がレッサーデーモンに炸裂して粉々に弾き飛ばした!
「え?もう倒しちゃったの?」
ツィホーさん、メッチャ強い。ツィホーさん、絶好調。現実世界で、藤原くんに惨敗していじけてた時と全然違う。ケンさん達に嫌味を言われて表情が引き攣っていた時とも違う。
「すっげ~」
でも、剣から色んな攻撃を飛ばすばっかりで、1回も剣そのものを使って戦っていない。何のために剣を持っているんだろう?剣を構えるのが格好いいと思ってるから、剣から攻撃を飛ばすのかな?
「はっはっはっは!これが真の俺です!」
凄いんだけど、特殊能力ばっかりに頼ってると封じられたら何にもできなくなること、自分自身の力も鍛えなきゃならないこと、現実世界で学ばなかったのかな?
「・・・チィっ!」
藤原くんは露骨にイライラしている。僕もツィホーさんの居丈高な感じはあんまり好きになれない。
「でも、仕方ないよね。今はツィホーさんに頼るしかない」
キマイラやグリフォン、今倒したレッサーデーモン。外地のモンスターは、内地のモンスターと比べて1ランク~数ランク強い。当たり前のように魔法を使ったり、魔法みたいな息を吐いたりする。
藤原組が総力を挙げて倒したのは、筋肉質で二足歩行の牛と、鎧を着けた四足歩行の牛くらいかな?・・・あぁ、牛は元々四足歩行でした。ぶっちゃけ、僕等だけじゃ無理ゲーすぎ。ツィホーさんが同行してくれなかったら、外地に出て半日もしないうちに全滅していたかも。
「痛っ!しくじった~」
立ち上がった真田さんが足を庇う。今の転倒で捻っちゃったみたい。
「睦姫、薬を頼む」
「おう!」
藤原くんの指示を受けた武藤さんが、真田さんの足首に合成薬を塗ってから布を巻く。さすがに即効で完治することは無いけど、軽く捻った程度なら2~3時間で回復するだろう。
「サリ。俺の背に乗れ」
ツィホーさんが真田さんの前でしゃがんで背を向けた。「おんぶしてあげる」って言っているのだ。
「・・・で、でも」
真田さんは不満そう。
ケンさん達との衝突以降、ツィホーさんは藤原くん達のことも認めて、「小僧」扱いをしなくなった。そして、真田さんに対しては、下心見え見えってくらい優しくなった。さすがは、この世界の人。ツィホーさんの面子を保つ為にケンさん達と戦おうとした(実際は違うけど)真田さんのことを好きになっちゃったっぽい。
「みこっちゃん」 「尊人」 「まさか黙認するつもりか?」
陽ちゃん、藤原くん、武藤さんから催促をされる。真田さんは「コイツ(ツィホーさん)じゃねーよ」って目で僕を見ている。
言われなくても解っています。その役をツィホーさんに任せるつもりはありませんよ。
「尊人くん、ありがと」
僕がツィホーさんの横で背中を提供したら、真田さんは直ぐに僕の背に体重を乗せてきた。ツィホーさんにはちょっと申し訳ないけど、この反応は嬉しい。
「ツィホーさんは先導係なんですから、真田さんは僕が背負いますよ」
ツィホーさんが寂しそうにしてたので、一応、面子は立てておく。本音は「テメーに早璃は任せられねー!」なんだけど、素直に言えるほどの度胸は無い。
「ああ・・・そうですね。先導は俺にしかできない仕事だ」
真田さんを背負って立ち上がり、山の上の城を眺める。
「やっぱり、あのお城の王様にお願いしなきゃ、通らせてくれないみたいですね」
「討伐して押し通る以外の選択は無いのです!」
「もう少し穏便にできませんか?」
「何を生易しいことを!」
真田さんへのアプローチに失敗したツィホーさんは、ちょっと苛立ってるみたい。
「野蛮なの、苦手なんですよね」
僕等が侵略者なら抵抗されるのは仕方ないけど、通るだけなんだから許してくれても良いじゃん。この「決められた舞台装置は覆せません」みたいな雑な世界観、やっぱり好きになれない。
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