5-2・ざまぁ
でも謝るべきだよね?とりあえず、謝ってる時だけで良いから、真田さん、別の方向を見ていてくれないかな?
「オマエ等アホか?何やってんだよ?」
背後から声が聞こえた直後に頭を叩かれた。
「ふんぎゃ!」
ケンさんから手を離して振り返ったら、呆れ顔の藤原くんが立っている。
「なんか騒がしいから見てみたら、渦中は“まさかの”オメーかよ」
「ご、ごめん」
「でもまぁ、怒った理由は納得してやるよ」
「・・・ん?」
「どーせ、晩飯まですること無ーし、
暇つぶしで、この喧嘩を売って良いって言ってんだよ」
「え?今ので正解なの?」
「知らねーよ。こーゆー時の正解は、オマエの心の中にしか無いんだからな」
藤原くんは不敵な笑みを浮かべ、挑発的な目でケンさん達を眺める。
「俺等は喧嘩を売ってるつもりだが、アンタ等どうする?」
ブドーって人がニタニタと笑いながら藤原くんの前に立つ。藤原くんはクラスで3番目に背が高いんだけど、ブドーさんの方がもっと大きい。
「オマエもツィホーの仲間か?
そっちの小娘(真田さん)やガキ(僕)よりはやりそうだな。
いいぜ、この喧嘩、買ってやるよ」
「おい、待てよブドー。買うのは俺だ。
ソイツはおまえに任せてやるが、この小僧は俺がもらう」
ケンさんが、僕の肩を掴んで力を込める。メッチャ怖い。
「だったらあたしは、尊人くんをバカにしたソイツをぶっ潰す!
尊人くんを舐めんなっ!」
真田さんがシンさんの前に立った。
「おいおい、これは俺と尊人の売った喧嘩だ。
なんでオマエまで絡んでくるんだよ?」
「ふーみんには関係無いでしょ!」
「俺が関係者だから言ってんだよ!」
藤原くんは呆れ顔をして止めるんだけど、真田さんは聞く気無し。キッカケを作ってしまった僕が言うべきではないんだろうけど、あれよあれよという間に全く望んでいない喧嘩を買っていただくことになり、僕vsケンさん、真田さんvsシンさん、藤原くんvsブドーさん、3組の対戦が決まってしまった。
言うまでも無く、吉見くんと武藤さんは「コイツ等、こんなところに来てまで、なにやってんの?」と呆れ顔だ。
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店内では迷惑になるし、町中では目立ってしまう。宿で一式を装備して、町の外に移動をすることになった。
道中で、藤原くんが僕の肩を組んで、作戦を耳打ちする。
「いいか、尊人。
場所が決まったら、先ずはオマエがデモンストレーションをやれ」
「僕が?何すればいいの?」
「俺との果たし合いの前に、特種能力の2連打をやっただろ。
あれと同じことを、アイツ等に披露してやれ」
「ああ・・・なるほど」
以前、真っ向から藤原くんと戦っても勝てないと判断した僕は、戦う前に手の内(特種能力)をプレゼンして警戒させ、警戒心を逆手に取って、全く警戒をされていない自力のみを駆使して追い詰めた。
「久しぶりすぎて感覚が鈍っているだろうから、
『対象に刃を向けて切る』のイメージトレーニングしろ。
剣を持つ自分にビビってへっぴり腰になったら、戦う前に敗北決定だぞ」
「指摘されてなかったらやっちゃったかも。気を付けます」
ケンさんをどの程度惑わせるかは解らないけど、ベテラン冒険者を相手にして正面から戦って無事で済むとは思えない。戦いの駆け引きに長けている藤原くんの案に乗るべきだろう。
「藤原くんと真田さんには、ヒールを使うつもりだから安心してね」
「余計なことを考えなくて良い。オメーはデモンストレーションに集中しろ」
「うん」
そりゃそうだ。戦いが上手い藤原くんや魔法が使える真田さんと比べて、負ける可能性は僕が一番高いだろう。人のことなんて気にしてられない。でも、2人には戦う前にヒールを使うからね。
「ここらでどうだ?」
壁門を通過して町の外に出て4~5分歩いて、丁度良い大木が数本立っているところで、藤原くんが足を止めた。
「どこでも構わん」
「死に場所くらいは決めさせてやるよ」
「先ずは誰が戦う?それとも、3戦同時か?」
藤原くんに目配せされて頷く。
「先ずは僕がっ!」
深呼吸で気持ちを整えて、皆の前に進み出る。
「即死させちゃったあとで『ズルい』って言われたら困るので、
最初に僕の技を見てください!」
「はぁ?」
対戦予定のケンさんは呆気に取られている。戦う前に「手の内を見せる」って言ってるんだから当然そうなるよね。
標的に決めた大木から10mくらいの距離まで近付いて、背負っている剣を抜刀して左手で持つ。ここから先は、対戦相手だけじゃなくて、藤原くんにも初披露になる。
「富醒発動!レンタル!!
ファンブル、アジリティ、ウインドミル待機!
ファイヤーウインドミル発動!!」
右腕を後ろ回しにグルグル回して、大木目掛けて火球2発を飛ばす!
「ウインドミル待機!アジリティ発動!!」
立っていた場所に残像を残し、たった今飛ばした火球を追って、大木に向かって高速移動!
「アジリティ待機!アーマーファンブル発動!!」
皆の視線が残像に向いてる間に大木の前に到着!藤原くんのアドバイス通り、剣を空気抵抗の無い角度で振って太い幹を叩き切った!
素早く後退して、大木が葉音を立てながら倒れるのを確認する。皆からは、大木に火球が着弾した直後に、瞬間移動した僕が大木を切ったように見えたはず。瞬間移動と切断だけでも良かったんだろうけど、「アイツと戦うと魔法と斬撃を同時に喰らうぞ」と思ってほしくて、特殊能力の3連を披露しました。・・・ちゃんとできていればね。
「どうかな?」
皆の方を見たら、スーパーライジングのメンバーとツィホーさん、それから藤原くんが驚きの表情を浮かべていた。ちゃんとできたみたいだね。
しばらくは「マジか?」的な表情をしていた藤原くんが我に返って口を開く。
「さ、先に言っといてやるが、尊人は俺等の中で最弱だ!」
「むぅぅ」 「なにぃ?」 「マジか?」
「つまり、尊人は、俺を含めた他の4人に一勝もしたことが無い!」
「ぬぅぅ」 「なんだと?」 「マジか?」
「俺と早璃は、尊人など比較にならないほど強い!
それに、そっちに控えている睦姫は睨んだだけで相手の心臓を止めるし、
吉見は理詰めで対戦相手の脳をフリーズさせるぜ!」
「ぐぬぅぅ」 「なんてことだ」 「マジか?」
ケンさん達が引き攣った表情で僕を見たので、頷いて肯定をする。確かに僕は、藤原くんとの果し合いや模擬戦では一勝もできていない。真田さん&陽ちゃん&武藤さんとは一回もタイマン勝負をしていないから、当然、一勝もしたことが無い。藤原くんは嘘は言ってません。まぁ、「武藤さんが睨んだだけで相手を殺す」は、ちょっと言いすぎだけど。
「そ、そう言えば、俺は今日、食事の調理当番だった!
早く帰らねば!」
「俺は神官だ。そろそろ、神に祈らなければならぬ。
勝負に付き合ってやりたいのだが、俺は忙しいのだ」
「ペットの散歩をさせなければならん!
ペットがいなければ、存分に貴様等の相手をしてやるのだがな!」
スーパーライジングは「じゃ、そういうことで」って雰囲気を醸し出しながら、そそくさと立ち去った。
「え?3番勝負は?」
僕がプレゼンテーションをしただけで終わり?僕だけじゃなくて、戦う気満々だった真田さんも呆気に取られている。
「おい、フミヤ。睨んだだけで殺すって・・・あたしゃメデューサか?」
武藤さんは爆笑している。
「初手で闘争心を折って、戦わずして勝つ・・・かな?」
陽ちゃんは藤原くんの魂胆に気付いてるっぽい。
「他人をこき下ろさなきゃ自尊心が保てないザコなど、
二度と絡んでこないように追い払えば済む話だ」
ああ、なるほど。僕の特殊能力3連をベースにした藤原くんのプレゼンで、戦う前にケンさん達の心をへし折ったわけか。
「あんな連中相手に、こっちの手の内を見せる必要なんて無ーよ」
さすがは藤原くんだ。道中で僕に耳打ちをした時点で、この展開をイメージしてたんだね。
「え?あれ?ちょっと待って!
『手の内を見せる必要無い』たって、僕、手の内を全部見せちゃったよ!」
「バーカ!オメーの真骨頂は、上っ面の特殊能力なんかじゃねーだろ」
「ん?しんこっちょう?」
「ふーみん、たまには正しいこと言うじゃん!」
僕の「しんこっちょう」に関して、真田さんがウンウンと同意をする。
「俺はいつも正しい!」
「僕の真骨頂?キレると凄い・・・とか?」
怒りでパワーアップした記憶は無いけど、「僕系は“それ系”かな?」と予想して聞いてみる。
「アホ!『キレたら凄い』は誉め言葉ではなく悪口だ。
オマエのお友達のブラークってヤツのことを想像しろ。
スゲー奴はキレなくてもスゲーだろ」
「・・・うん」
「キレた時点で、もう切り札は無い。
『キレたら凄い』は簡単に逆上する浅い奴への皮肉だ。
オメーはそんな薄っぺらななヤツじゃねーだろ」
「う、うん・・・まぁ・・・そう・・・・・なのかな?
自分じゃよく解んないけど」
なら、僕の真骨頂ってなんだろう?聞きたかったんだけど、藤原くんに睨まれて、頭を小突かれる。
「そんなことより・・・だ!
おい、尊人!いつ、特殊能力を3連続で使えるようになったんだよ!?」
「えっ!?」
藤原くん、怒ってる?
「聞いてねーぞ!
俺まで度肝を抜かれて、脳内が真っ白になりかけたじゃねーか!」
「ご、ごめん!
藤原くんまでビックリさせるつもりは無かったんだけど、言いそびれちゃって」
嘘です。藤原くんの魂胆を知らなかったので、藤原くんにもビックリしてもらうつもりでした。
「まぁまぁ、結果オーライでいいじゃん!
ふーみんが言う『尊人くんの真骨頂』って、こーゆーことでしょ?」
真田さんがフォローしてくれる。
「ま、まぁ・・・な」
話題が「僕の真骨頂」に戻ったんだけど、仲間ごと騙すのが僕の真骨頂ってこと?僕って、そんな嫌な奴だったの?よく解んないよ。
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尊人は無自覚無双に近いことをしている・・・が、無自覚無双を何度もできるのは、無自覚を教えてくれる友達がいないキャラか、無双を理解できないくらい頭の悪いキャラだけ。
尊人はやってしまった直後に藤原に小突かれて、自分のやったことが無自覚無双と理解をした。
尊人の真骨頂は、腹を括ると想定外の動きで周囲を圧倒させること。これは、キレるとパワーアップする的なファンタジーではなく、コツコツと基礎を積み重ねるタイプなので、行動目的が明確化をすると基礎力を数珠繋ぎにして応用力を発揮できるため。基礎の積み重ねを「そんな地味なことを続けても意味が無い」と笑う者ほど、尊人の真骨頂に驚かされる。モーソー転移Ⅲで吉見が尊人にプレッシャーをかけ続けたのは、尊人の真骨頂に気付いていたから。早璃も尊人の凄さを認めているが、理屈込みで尊人を認めているのは吉見と藤原になる。
当初は尊人と早璃と藤原が3番勝負でケン達を圧倒して「ざまぁ」をする展開を考えていた。だけど、尊人は暴力を信頼していないし、藤原は「ざまぁ」で気分を良くするような小者ではない。デメリットしか無いので、勝負をするフリをして、藤原のハッタリで闘争心をへし折る展開に変更した。
作者は「ざまぁ」を「力を持たない者の醜い願望」としか感じない。力で虐げられた者が、力を得た途端に見せびらかして力で虐げる。「虐げる力」を否定するのではなく、自分が力で虐げられているのに、「虐げる力」を肯定している。これは、いじめられっ子が自分より格下を標的にして、自分をいじめの対象から外す理屈。「自分を虐げる行為」を否定しているだけで、虐げられるのが自分以外ならOK。要は、「ざまぁ」系の主人公は、いじめっ子になって目立ちたいけど、力が無くてなれないタイプ。「虐げる力」を否定するタイプの人間は、暴力以外に価値観を見出して力を伸ばすので、相応の仲間に認められて孤立はしないし、暴力以外の部分で逆転現象を起こす要素を蓄えている。




