4-3・進退の選択
僕等は、智人の家の近所にある公園で腰を落ち着けていた。自販機で買ったコーヒーやジュースを飲みながら、真田さん達が相談をする。僕は会話に参加する気力が湧かず、黙って俯いて、ちびちびとジュースの缶に口を付けるだけ。
「行ける定員はスイッチを託された尊人くんの他に5人か~」
「ツィホーで1枠は決定か?」
「・・・てかどうすんの?行くの?」
「行きたくないよな」
真田さんは目の前で親友の沼田さんを失った。陽ちゃんは本来は穏やかな性格なのに勝つ為に心を鬼にするしかなかった。藤原くんは仲間達と共に敗死をした。武藤さんは親友の安藤さんを討たなければならなかった。あんな世界、誰だって行きたいわけがない。
「いや~、助かった!これで俺は居るべき世界に帰れるのだな!
神子ミコト様々ですな!」
僕等が何も決めていないのに、「帰還」を前提にして喜んでるツィホーさんがウザい。静かにするか、どっかに行ってくんないかな?
「5人が私たち以外でも良いならさ、
もっと強い奴とか大人に行ってもらえばいいんじゃね?」
「そうしてもらいたいけどさ、どうやって事情を説明して信じてもらうの?
モーソーワールドに行ってパニックになられても困るよね」
僕は異世界を受け入れるのに2週間くらいかかったかな?きっと、真田さんや藤原くんも似たようなもんだろうな。モーソーワールド未経験の人や、記憶を消去したクラスメイトを連れてっても、直ぐに馴染めるわけがないよね。
「やっぱ、選抜の5人は、あたし達5人の一択になっちゃうのかな?」
「問題は、行くかどうかの選択だね」
ただの高校生が「世界の崩壊を防ぐ為に冒険に挑む!」と聞けば格好いいんだけど、「なんで僕達がそんなことやらなきゃなの?」って気持ちの方が強い。
「ねぇ、みんな」
フリーズ気味の頭で色々と考えたけど、良い答えなんてなんにも出ない。だから考えないことにした。
「みんなを巻き込みたくない。僕一人で行ってくるよ」
5人が必須ってんじゃなくて、あくまでも最大で5人。行くのは1人でも良いってことだよね。
僕のミスなんだから僕が責任を取る。具体的な方法は全く見えていないけど、とりあえず異世界に行けば、なんかヒントがあるかもしれない。
「はぁ?」×4
真田さん&陽ちゃん&藤原くん&武藤さんが「コイツ、バカなの?」って表情で一斉に僕を見つめる。
「尊人くん、なに、わけの解んないこと言ってるの?」
「一人で行くって、どういう発想?」
「巻き込むってなんだ?」
「出たよ、根暗の悪癖」
それなりに勇気のある決断をしたつもりなんだけど、皆の反応がスッゲー悪い。
「え~~っと・・・
僕がトモを連れ帰れなかったのが悪いんだから、責任を取って・・・」
「誰か『尊人くんの所為』なんて言ったっけ?言ってないよね?」
「そう言えば、無責任馬鹿(喋る光)が『尊人が取り零した』とかほざいてたな」
「あんな奴の言い訳を真に受けてたの?
自分の責任を放棄して、みこっちゃんの所為にしてるだけでしょ」
「そんなことより、オマエ、私達の話を聞いてなかったのか?
全員で行くか、全員で放棄するかを思案してんだぞ」
僕の「勇気のある決断」は「そんなこと」で処理されてしまった。
「え?でも、『スイッチを託された僕は決定』みたいなことを・・・」
「尊人くんはスイッチを起動するだけで、他の人に任せる方法だってあるでしょ」
ああ、なるほど。勝手に追い詰められて、そんな選択肢は全く頭の中にありませんでした。
「どうする?
行きたくないけど行くしかないかな?」
「他の人に頼れる状況じゃなさそうだしね」
「要は、ワケの解んねーところに潜り込んだチートを引き摺り出して、
張っ倒してやりゃいいんだろ?
「張り倒す役は私な。
調子の良い言い訳をして現実から逃げやがったチートをぶん殴りたい」
「命と時間は担保されてるんだから、行くだけ行ってみようか?」
「『行く』で決まりみたいだね。
みこっちゃん、それでいいかな?」
「う、うん・・・いやいや、ちょっと待ってよ!」
皆が辛い思いをする必要なんて無い。
「いつ行く?今から?明日?」
「時間空けると、根暗が余計なことをゴチャゴチャと考えるぞ」
「悩んだ末に、単独で勝手に動かれても困るよな」
「なら今からでいいね」
巻き込みたくないのに、話が勝手に進んで「みんなで行く」に決まってしまう。言葉を失っている僕に、皆が再び視線を向ける。
「おい、尊人!
なんか勘違いしてるみたいだけど、ミスったのは私達も同じだ!」
「君がチート君を力業で抑え込んだあの時さ、
あの場にいた僕達全員が、チート君を脱落させるチャンスを逃したんだよ」
「俺はその場にいなかったからよく解んねーけどよ、
オマエ等と違って不完全燃焼で終わっちまったからな、
もう一度行って派手に暴れて、慣れねー受験勉強疲れの憂さを晴らしたいんだ」
「なんか、ふーみんってさ、
未来から来たロボットが助けてくれる国民的アニメに登場する乱暴者みたい。
テレビアニメの時は嫌な奴なのに映画だと良い奴になるパターンね」
「歌声が騒音レベルのガキ大将と一緒にするな!
俺は尊人から搾取なんてしてねーぞ!」
皆、言葉にはしないけど、僕が背負わなきゃならないことを、僕一人に背負わせないように、気を使ってくれている。
「真田さん・・・陽ちゃん・・・藤原くん・・・武藤さん・・・」
一人ウジウジ悩むのは僕の悪い癖。自覚はしてるけど簡単には直せない。でも、皆がそれを理解してくれている。
「みんな・・・ありがとう」
僕が受け入れたら、皆が笑顔になった。
異世界を経験してなかったら、真田さんとは時々話す程度で、卒業後の接点を考える選択肢なんて無かっただろうな。吉見くんは「すごく頭が良い人」と憧れるだけの存在かな?藤原くんと武藤さんは済む世界が違う怖い人達。こんなふうに絡むことや、実はイイヒトって解る機会は無かったはず。
異世界は嫌いだけど感謝はしている。異世界のおかげで経験できたことはいっぱいある。
「尊人。テメーには一つミッションを出しておく」
「・・・ん?僕にできることなら頑張るけど」
「いつまでも、早璃のことを苗字で呼ぶのはやめろ」
「・・・はぁ?」
「モーソーワールドから戻ってくるまでに、名前で呼べるようになれ。
できなきゃチームから追放する」
藤原くんから、難易度がメッチャ高いミッションが飛んできた。
「あ!それオモシレー!
事情を知る私等以外からすれば、尊人が急に中坊を名前呼びした印象になるな」
武藤さんまで便乗してきやがった。
「僕も前々から思ってたんだよね。
僕や俊一のことは渾名で呼ぶようになったのにさ、
未だに『真田さん』は固いよね」
そりゃ無いよ、陽ちゃん。だったら陽ちゃんも、沼田さんのことを苗字じゃなくて名前で呼びなよ。俊くんなんて長野組で一番の新参者なのに、前々からの苗字呼びが定着してる「真田」以外は、名前で呼んでるよ。
「ちょっと、ふーみん!それ、セクハラだよ!!」
真田さんが顔を真っ赤にしながら文句を言ってるけど、苦情の内容がよく解らない。僕が藤原くんからセクハラされてるってこと?それとも僕が真田さんを名前で呼ぶのがセクハラって言ってるの?
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尊人と早璃は、周りから見ると仲睦まじい。早璃が積極的に尊人のパーソナルスペースの内側に踏み込む。「え?あんなに仲良いのに、付き合ってないの?」ってレベル。吉見と沼田は、どちらも受動的で、沼田は吉見の好意に気付いていない。先の展開は考えていないけど、性格が似すぎている吉見×沼田のカップリングは成立しません。




