3-2・予感的中
「ひやぁぁぁっっっっっ!!」
「きゃぁぁぁっっっっっ!!」
甲高い男女の悲鳴が聞こえた。男の悲鳴は、以前、異世界のお化け屋敷(洞窟アトラクション)で聞いたことがあるような気がする。
「今の悲鳴、陽ちゃん(吉見くん)?」
「睦姫か?」
嫌な予感しかしない。僕達は悲鳴が聞こえた方向に駆け出す。途中で転がってたバスケットボール(真田さんを助ける時に使用)を2つ拾って校舎正面へ。
「いた!」
日暮れ過ぎなのでハッキリとは解らないけど、陽ちゃんと武藤さんっぽい人が、ゴブリンよりも体格の大きい何者かに追われている。
「えいっ!」
ボール1つを左脇で抱えたまま、追走者に向けて右手でもう1つのボールを投げた。だけど、慌てて投げたので外れてしまう。
「やぁっ!」
僕よりの数歩踏み込んだ真田さんが、ボールを両手で抱えて前に押し出すようにして投げた(チェストパス)。飛んでったボールが追走者に着弾。しかし、威力が弱かったので足止めには至らない。
「えいっ!」
助走をつけて真田さんより踏み込み、追走者に向かってワンハンドでボールを投げる。ここまで近付くと、追走者が何なのかが解る。1年前、異世界初心者だった僕の心を最初にへし折った仇敵だ。
「ホブゴブリン・・・嫌な予感、当たっちゃった」
勢いよく飛んだボールがホブゴブリンに着弾。ホブゴブリンは僅かに 蹌踉けてから足を止め、僕を睨み付けて駆け出す!
「ひえぇぇっ!」
ヘイト獲得に成功!だけど、武器を使い切った僕に対抗手段は無いので、勢いよく翻って逃げる!真後ろにいた真田さんも逃げる!
「オメー等、なに遊んでんだ!?」
猛然と突進してきた藤原くんと擦れ違った!
「藤原くん!?」
向き直って藤原くんを見送った直後、藤原くんのドロップキックがホブゴブリンに炸裂!ホブゴブリンは仰向けに倒れた!
さすがは藤原くん。メッチャ頼りになる。
「おい、異世界人!トドメを頼む!!」
藤原くんが、唯一まともな武器を持っているツィホーさんに攻撃の催促をする。いくら近接戦闘経験値が皆無のツィホーさんでも、倒れている相手を倒すことくらいはできるはずだ。
「・・・・・・・ん?」
「へ?」
「あれ?」
し~~~~ん
ツィホーさん、いないじゃん。もしかして、まだ、体育用具室脇の木のところで落ち込んでいる?
「ガルル~」
ホブゴブリンが起き上がって、藤原くん、僕と真田さん、離れた場所で様子を見ていた陽ちゃんと武藤さんを順番に睨み付ける。
「ヤベーぞ!逃げろっ!」
藤原くんの指示で、僕らは一斉に逃げ出す!
藤原くんがメッチャ強くて頼れるのは知ってるけど、さすがに素手でホブゴブリンを殴り殺すのは無理だよね。
「体育用具室に向かえ!」
藤原くんの誘導で逃走方向が決まる。確かに、重たい扉と頑丈な壁に囲まれている体育用具室なら籠城が可能。それに、唯一殺傷武器を持っているツィホーさんに合流できるかもしれない。
足の速い藤原くんを先頭にして校舎の角で曲がり、体育用具室を目指して突っ走る。
「いた!」
薄暗いので明確には解らないけど、進行方向のずっと先で、ツィホーさんっぽい人を発見。案の定、木に凭れ掛かって項垂れているっぽい。あそこまで行ければ武器を獲得できる。
「みんな待ってっ!きゃっ!」
こんな時にこんな感想を言うのは不謹慎だろうけど、普段は態度が太々しくてドス効いた声で喋る武藤さんが、珍しく女の子らしい黄色い悲鳴を上げた。走りながら振り返ったら、最後尾でホブゴブリンに追い付かれそうになっている。ツィホーさんとの合流には間に合いそうにない。
「助けなきゃ!」
校舎外壁に立てかけたあったアルミレーキ(さっき藤原くんが使ったやつ)をゲットしてから体の向きを変え、迫ってくるホブゴブリンに突進!武藤さんとホブゴブリンの間に割って入る!
「ガルルッ!」
自分よりも力がある相手に真っ向からぶつかっても弾き返される。それは、異世界で学んだこと。だから、まともにやり合うつもりはない。
「わぁぁっ!」
アルミレーキを斜めに構え、ホブゴブリンが振り下ろした剣筋を見極めて受け流す!刃はアルミ製の柄を滑って地面に着弾した!
一応は上手くできたけど、1年のブランクがあるので、ちょっと失敗してアルミ製の柄が少し曲がり、握っていた手がジンジンと痺れる。
言うまでもなく、1年前以降、武器どころか拳を振り回した経験もありません。真田さん達と一緒に行った大型スーパーのゲーセンで、太鼓ゲームのバチを振り回した程度です。ちなみに、陽ちゃんと組んでやったんだけど、揃ってリズム感が無さ過ぎて、直ぐにゲームオーバーしました。
「睦姫は体育用具室まで逃げろ!・・・おぉぉっ!」
頼もしい雄叫びが聞こえた直後、藤原くんが真横に踏み込んできて、ホブゴブリン目掛けて剣を振り上げる!
ツィホーさんと合流して、剣を借りてきた(奪い取ってきた?)のだ。
ホブゴブリンは数歩後退して回避。攻勢一辺倒だった今までとは違って、警戒心を露わにして僕と藤原くんを交互に睨む。
「尊人!時間稼ぎご苦労!」
息を整えてアルミレーキを構える。隣に立ってくれてるだけで凄く心強い。剣を持つ姿勢が物凄く様になってるけど、ブランクは無いのかな?もしかして、1年前以降も剣を振り回していた?
「戦力としてアテにすっからな!」
「うん!」
1年前は足手まといになりっぱなしだった僕が、藤原くんと肩を並べて戦う日が来るなんて、考えたこともなかったよ。
以前なら楽勝できた敵なんだけど、こちらが大幅に弱体化しているので苦戦する。そんな「物事は思い通りにはいかない展開」を書きたかった。
戦力ダウンはしているけど経験して得た勇敢さは生きている。モーソーワールドでひたすら基礎を積み重ねた尊人は、戸惑いながらも戦いの基本が身に付いている。早璃も同じだけど、多用していた魔法が使えないので尊人ほど勇敢には動けない。吉見と武藤は非戦闘系なので出遅れるけど、一定の場慣れはしている。藤原は、ある意味論外で、即座に戦闘スイッチを入れることができる。




