3-1・ツィホーさんの本気
戦闘開始直後に解った。ツィホーさんは腰が入ってなくて、腕の力だけを使っているので、ロクに剣を振り回せていない。藤原くんがツィホーさんの振るう剣筋を的確に見切って、剣の腹にアルミレーキの先(櫛)をぶつけて弾き返す。
「この勝負、藤原くんの圧勝かも」
「尊人くん、わかるの?」
隙だらけになったツィホーさんの腹を、藤原くんがアルミレーキの後ろ側(棒の先)で突く。ツィホーさんが軽く蹲ったところで、藤原くんが振り回して遠心力を付けたアルミレーキの先を頭に叩きつける。
「多分、藤原くんはこうなるのが最初から解ってた」
1年前、僕は藤原くんとの剣の稽古で散々しごかれた。平和主義と喧嘩回避のスタンスで生きてきた僕が戦うべき時にキチンと体を動かせるようになったのは、藤原くんに鍛えられたおかげ。
ツィホーさんの剣の技術は、1年前の僕の技術とほとんど変わらない。
「ツィホーさん、剣の素人だよ」
ツィホーさんに振るう剣を弾いて、体の開いた部分にアルミレーキを打ち込む。ツィホーさんは鎧兜を装備しているので、致命打にはならない。藤原くんは、それを見越してアルミレーキを振っている。
「異世界の冒険者なのに剣の素人?それじゃ、冒険なんてできないでしょ?」
「真田さん達のダメ出しが正しいって証明されてるってこと。
ツィホーさん、特別な力に頼りすぎで、自分を動かす戦いが全くできてない」
智人も同じだった。特殊能力ばかりを使って、自分の肉体で自分を守ることを怠ったのが付け入る隙になった。藤原くんは負けてしまったけど、トモの弱点に気付いてた。
「藤原くん、やっぱり凄い人だよ。
ぶっきらぼうなのに皆から一目置かれる理由が解る。
スクールカーストのトップを維持できた理由が解る」
ダメージと体力の消耗で、ツィホーさんの動きが鈍くなる。藤原くんが容赦なくアルミレーキの連打を叩きこみ、堪え切れなくなったツィホーさんは尻もちをついた。
「降参か?」
「なめるなっ!小僧を相手に手を抜いてやったんだ!」
「ああ、そうかよ!だったら、今からは本気で来い!」
立ち上がったツィホーさんが、剣を構えて切っ先を藤原くんに向け、気合を発して気勢を上げる!
「うなれ、聖剣・天地真理!グレートファールフォース発動!!」
だけど、天地真理は呻らない。
「なにっ!?何故だ!?何故、発動しない!!」
「これでハッキリしたな!うおぉぉぉっ!」
突進した藤原くんが、ツィホーさんの籠手にアルミレーキを叩き付けた!ツィホーさんの手から剣が落ちる!
「くっ!」
「テメーが戦いの素人っての・・・
さっきのゴブリン戦で何もできずに突っ立ってた時点で丸解りなんだよ!」
ツィホーさんが後退するより早く懐に踏み込んだ藤原くんが、正拳をツィホーさんの顔面に思いっきり叩き込んだ!
「そういえば・・・さ」
ふと、以前、真田さんが言った「藤原くんの評価」を思い出した。
「藤原くんって、喧嘩の時、相手にハンデを与えて、
相手が絶対に有利って演出をしたうえでボッコボコにするんだっけ?」
「うん。ふーみんはそーゆーヤツ」
「ツィホーさんは鎧着て剣持ってて、藤原くんは防具無しで武器はアルミレーキ。
モロにそのパターンになってるね」
1年前のあの時、真田さんのアドバイスが無かったら、僕もこのパターンに陥ってたかもしれないんだよね。
「ふーみん、セコいよねぇ~」
「セコくはないと思うけど・・・」
ふらついたツィホーさんの足に、藤原くんがアルミレーキを引っ掛けて転倒させる。
丸腰のツィホーさんは後退する、藤原くんがアルミレーキで叩く叩く叩く。
「くそ!俺が本調子ならオマエごとき!」
ツィホーさんが後退する、藤原くんがアルミレーキで叩く叩く叩く叩く。
「どうしたどうした!もう終わりか!?」
ツィホーさんが後退する、藤原くんがアルミレーキで叩く叩く叩く叩く叩く。
「随分と息巻いていたようだが、グレートなんちゃらってのは、どうなった!?」
「ちくしょーーー!!!」
ツィホーさんは涙目、藤原くんがアルミレーキで叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く。
「なんかもう・・・勝負じゃなくてイジメだよね」
「ふーみんのメンドクサイところがモロに発揮されちゃってる」
ツィホーさんが可哀想なので、僕と真田さんで割って入って藤原くんを止める。
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ツィホーさん、僕達から50mくらい離れた木に寄り掛かって、メッチャ落ち込んでいます。
「現実世界では、僕達だけじゃなくて異世界人も特殊能力が使えないってのが
ハッキリしたってことだよね」
「そういうことだな」
異世界でのツィホーさんは凄いのかもしれないけど、現実世界では全く使えないことが解った。
僕達の世界は、皆が同じ土俵で切磋琢磨しなきゃならない世界。同じ土俵を嫌って「自分は皆とは価値観が違う」と言う人もいるけど、たいていが出来ない人の言い訳で、そーゆー人は凡人以下に落ちぶれていく。そして、稀に出現する「同じ土俵」とは別の場所で成り上がれる人は天才と呼ばれる。言うまでもなく、僕は天才ではなく凡人側。凡人中の凡人。皆と同じ土俵で少しでも上に行けるように藻掻かなければならない。
僕達の世界に「特別扱いの力」なんて存在しない。たま~に「自分は特別」と勘違いをしちゃってる人がいるけど、たいていはイタイ人扱いをされちゃう。ちょっと気の毒だけど、ツィホーさんみたく「自分は特別」に溺れて自力の研磨を怠った人は、この世界では「なんにもできない人」になっちゃうんだろうな。
「もしかして藤原くんがツィホーさんと戦った目的ってさ、
ツィホーさんを追い詰めて、特殊能力が発揮されるかどうかを確かめるため?」
「ん?・・・ああ・・・まぁ・・・」
「そんなわけないじゃん。
ツィホーさんが偉そうにしててムカついたから、
上下関係をハッキリさせたんでしょ?」
「チゲーよ!
ムカついたのは事実だが、異世界人がどうなろうと俺には関係無い!」
「だったらなんで無意味な喧嘩なんて吹っ掛けたのよ?」
「ヘタレが煽りやがったから・・・」
「ヘタレって僕のこと?」
「・・・ふんっ!」
「尊人くんはヘタレじゃねーし!」
「僕、なんか煽るようなこと言ったっけ?」
「言ってないでしょ。意味わかんない」
「うるせー!」
ツィホーさんが使い物に成らないってのは、モンスター出現時に全く頼れないってことを意味している。
「オークやコボルトやゴブリンくらいなら俺等でも何とかなるかもしれんが」
「ホブゴブリン以上の怪物が出現したらヤバいってことだよね」
「現実世界に紛れ込んだのが、さっきのゴブリンだけなら良いんだけど・・・」
魔法無し、特殊能力無し、武器はツィホーさんが持ってる剣一本のみ。
「調理室に行けば包丁くらいはあるよね。
持ってこようか?」
「丸腰よりはマシだけど、ホブゴブリンに通用するとは思えない・・・かな」
警察に相談するべき?「ゴブリンが出現したから倒しました」「他にもモンスターがいるかもしれません」なんて言って信用してもらえるのだろうか?
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藤原にとっての尊人は、認めているが負けたくない相手。早璃の件では完敗を自覚している。喧嘩なら勝つ自信があるが、自分の得意分野以外で勝ちたいと思っている。
戦闘なら自分の方が優れていると自負しているのに、ゴブリン戦の時に真っ先に動いたのは尊人だった。藤原は戸惑って出遅れて、尊人の勇敢さに煽られて参戦をした。内心では得意分野でも尊人に出し抜かれたことに焦っており、その苛立ちがツィホーへの八つ当たりに向かってしまった。尊人たちの前では大人ぶって格好をつけているけど、年相応の悩める少年です。
ちなみに尊人は、襲われていたのが早璃じゃなければ、もう2テンポくらい行動が遅かったと思う。




