2-3・現実世界の異世界人
「うおぉぉ!グレートファールフォース発動!」
ツィホーさんが覇気を放ちながら気勢を上げた!この「俺に任せておけ」的な時の居丈高な感じ、ちょっと智人に似ているかも。
「ゴブリンどもを八つ裂けっ!」
しかし、掌を翳したツィホーさんが突っ立ってるだけ。
「・・・あれ?」
何も変化は無く、真田さんはゴブリンに追われている。
「真田さんっ!避けてっ!」
僕は無我夢中でバスケットボールの入ったボール籠を引っ張り出してひっくりかえし、ボールを真田さん達に向かって転がす!
「わっ!わっ!」
真田さんは、テンポ良くボールの群れを飛び跳ねて回避!その真後ろを走っていたゴブリンにボールがぶつかって、突進速度が落ちる!
「わぁぁぁっっ!」
真田さんが僕の脇を走り抜けて僕の後ろに隠れた直後、空になったボール籠を持ち上げながらジャンプ!飛び掛かってきたゴブリンに籠を被せた!逆さまになった籠が地面に降りて振動が僕の全身に伝わり、直後に閉じ込められたゴブリンが仰向けに倒れる!
「ガルルッ!」
言うまでもなく、籠に閉じ込めただけでゴブリンを倒せるわけがない。籠を持ち上げて脱出しようとするので、必死で籠に体重をかけて妨害する。すると今度は、格子から片方の手を出して僕のズボンの裾を引っ張り、もう片方の手に持った小さな斧を僕目掛けて振るう!
「ひぃぃっっ!」
ヤバい。もしかして、僕死ぬ?モンスターから真田さんを引き離すのに必死で、その後のことを考えていなかった。異世界で死んでも現実世界の命は一定の保証をされてたけど、現実世界で死んだらどうなる?・・・って、そんなもん、考えるまでもないだろうな。
「ナイスだ尊人っ!そのまま捕獲を維持しろ!」
剣を持った藤原くんが突っ込んできて、格子の間に切っ先を入れてゴブリンのど真ん中を貫いた!
大量の血飛沫が上がって僕と藤原くんに浴びせられ、ゴブリンは脱力して地に伏して動かなくなる。
「ふ、藤原くん・・・ありがとう。死ぬかと思っちゃった。
躊躇わずに刃物を振れるなんて、相変わらず度胸あるね」
藤原くん凄すぎ。僕だったらビビって動けなくなってます。
「アホ!躊躇いまくったに決まってんだろ!だから出遅れたんだよ。
そしたら、オマエが真っ先に飛び出したから・・・」
「藤原くんも人の子なんだね」
「おいおい、オマエ、俺を何だと思ってたんだよ?」
さて、忘我して成敗したのはいいけど、死体はどうしよう?こんなところに放置はできないから、どっかに埋めるべき?
・・・てか、僕と藤原くん、返り血を浴びまくってて、このまま帰ったら見た人はビックリするだろうな。
・・・てか、これってホントにゴブリンかな?現実世界にゴブリンなんて存在するの?ゴブリンに似ているどこかの飼い犬だったり、ゴブリンの仮装をした変質者だったらどうしよう?僕達は殺人犯になっちゃう?正当防衛は成立する?
「ありゃ?」
ゴブリンの死体から黒い湯気みたいなのが発生して、全身が粒子化をして消えていく。僕と藤原くんの返り血も、黒い湯気になって蒸発していく。
異世界で脱落した仲間達が白いキラキラになって消えたけど、あの時と同じようなパターンかな?よく解らないけど、隠蔽しなくて良くなったし、何よりも仮装をした変質者ではなさそうなので助かった。
「尊人くん、助けてくれてありがと!」
落ち着きを取り戻した真田さんが寄ってくる。怪我は無いみたいで良かった。
「僕は頭に血が上ってワケが解んないことしてただけ。
ゴブリンをやっつけて皆を救ってくれたのは藤原くんだよ」
「史弥も・・・ありがとね」
もしかして、「真田さんが藤原くんにお礼を言う」を見るのって初めてかな?この2人って「真田さんが反発している」しか見たことないや。真田さんが素直に行動した時、藤原くんってどう対応をすんのかな?「如何にも藤原くん」って感じに、少し照れながら横を向いて「フン」とか言いそう。
「おい、中坊(早璃)!なんでオメーが来るんだよ!?
俺が呼んだのは尊人だけだぞ!」
あれ?藤原くん、真田さんを睨んで怒ってる。思ってた展開とちょっと・・・というか全然違う。
「はぁ?来るに決まってんじゃん!
いきなり電話してきて『尊人くんだけよこせ、あたしは来なくてよい』って
言われても意味わかんねーし!」
数秒前まで素直に対応してた真田さんが、煽られて突っかかる。
「俺の言い分を無視して首を突っ込んで、
ゴブリンに襲われて早々に迷惑かけるなんて有り得ねーつーの!」
「史弥が、あたしを待ってないで先に行くのが悪いんでしょ!
来るのを待っててくれれば、あたしだけが襲われるなんて無かった!」
「呼んでねーんだから待つわけないだろ!」
え~~~と、色々とボタンの掛け違えはしちゃってるけど、総じて真田さんと藤原くんの言い分に悪いところは無い。つまり、「真田さんも来る」と思ってたのに待たなかった僕が悪いってことになるのかな?
「あ・・・あの・・・多分、僕が悪いんだね。ごめん」
「尊人くんはなんにも悪くないんだから謝らなくていいの!」
「オメーが謝る理由なんて無ーんだから、簡単に謝んな!
だいぶマシになったと思ってたけど、俺の見込み違いか!?
プライドは無いのか!?情けねー奴だ!」
「いや・・・あの・・・」
穏便に済ませたかっただけなのに、なんか怒られた。
「尊人くんを悪く言うな!尊人くんは情けなくない!
無駄にプライドばっかり高いふーみんなんかよりずっとマシ!」
「なんでいちいち俺と尊人の間に首を突っ込む!
俺が尊人をいじめるとでも思ったのか!?」
それは無いってのは、自信を持って言える。1年前以前はいじめられるどころか相手にされてなかったし、1年前以降は仲良しではないけど、なんとな~く認めてもらえていました。
「思ってないけど・・・でも、ちょっと心配で」
「オメーは尊人のかーちゃんかっつーの!
おい尊人、過保護すぎるバカに、オマエからもなんか言ってやれ!」
「・・・・・・・・」
真田さんは僕にとっての大切な人。そして、僕は真田さんから「恋人」として扱われたい。多分、この言葉を言えれば場は収まるんだけど、恥ずかしくて言えません。
「あ、あのさ・・・
優先しなきゃならない話題は、『真田さんが来たこと』ではないよね?」
僕が視線を向けて指さした先で、存在をすっかり忘れられていたツィホーさんが突っ立っている。




