表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したら、弟が婚約者になりました  作者: くなぎ八重
第二章 赤き竜とオアシスの街
84/105

79話   オアシスの街②


 安宿の一室、窓枠に腰を下ろしたリヒトは、外の景色をぼんやりと眺めていた。

 街の片隅に追いやられた宿からは、フェニアが誇るオアシスの輝きは見えない。視界に入るのは、整然と並ぶ白亜の建物の壁と屋根ばかりで、その隙間から辛うじて街の入り口が覗ける程度だった。

 だが、それでよかった。

 リヒトは今、この窓から見えるもの以上を望んではいなかった。

 ただ待っているのだ。ルナリスたち、別動隊の到着を。

 この街に入ってから三日が経つ。昨日には街へ着いてもよさそうなものだが、待ち人の姿はいまだ訪れない。


(まさか、道中で何かあったんじゃ――)

 

 思索に沈んでいると、背後で扉の開く音がする。買い物に出かけていたオズとザヒールが戻ってきたらしい。

 女性陣の二人は散策に出かけ、ティオは「オアシスを見てくる」と言い残して部屋を出て行った。森の民であるエルフは、少しでも自然を感じられる場所にいたいのだろう。

 ザヒールは、この街へ入ることを最後まで恐れていた。赤の部族の末裔である彼にとって、ここは過去の影が色濃く残る場所だからだ。

 だが今のところ、目立った問題は起きていない。

 街に入る前、仲間たちは少年の姿を整えることに心を砕いた。砂にまみれた汚れを拭い、手持ちの服に着せ替えたのだ。少年に対してリヒトの服は大きすぎたが、グレイスが襟を詰め、裾を折り上げ、色々と工夫を凝らしてくれた。

 旅の埃を帯びてはいたものの、王子が身にまとう衣である。少なくとも、砂漠でひっそりと隠れ生きてきた少年に見えぬ程度には、整った身なりとなっていた。


「戻りました。すいません、留守を任せてしまい……」


 ザヒールが言いながら外套のフードを脱ぐ。切り揃えられた艶やかな黒髪が、さらりと揺れる。


「気にするな。俺も、この街じゃ大人しくするしかないしな」


 顔が割れて、最も立場的に困ることになるのはリヒトだ。ウォルフワーズの王子が密入国などということになれば、国同士の問題に発展しかねない。仮面を着けているとはいえ、慎重に行動するに越したことはない。

 オズは大きな包みを机の上に置き、額に滲んだ汗を拭った。包みの中には、干し肉や果実酒の瓶、日持ちのする薄焼きパンが詰まっている。量に比して金貨の減りは大きい。


「はぁ……どの店も、法外な値段をふっかけてきましたよ。殿下のお財布がなければ、パンひとつ買えそうにありません」

「こら、オズ。殿下と呼ぶんじゃない」

「そ、そうでしたね……。えぇと、リヒト様のお財布が無ければ――」


 わざわざ言いなおすオズに、つい苦笑が漏れる。

 リヒトは立ち上がると、買い出し品の整理をする少年を手伝いながら尋ねた。


「街の様子はどうだった? ずいぶん貴族の滞在が多いようだが……」

「エルドラの収穫祭へ向かう方たちだそうです。毎年、祭りの前は込み合うのだとか」

「なるほど。ここで優雅に時間を潰す、ってわけか」


 国土の大半を砂漠が占めるザルカード王国は、食品の多くを貿易に頼っている。エルフの国と隣接する西域では、わずかな緑地を利用して農業も営まれているらしいが、近隣諸国からの輸入品のほうがはるかに多い。

 その点はノクティリカと似ている。異なるのは、こちらでは地下水脈を比較的容易に掘り当てられることだろう。それでもなお、民の中には飢えに苦しむ者も少なくないと聞く。

 収穫祭に向かう人々の中には、食料の買い付けを目的とする者もいるのかもしれない。もっとも、この街で贅沢を楽しんでいるような貴族たちが、そんな殊勝なことを考えているとは到底思えないが。

 ザルカードの内政は、思っていた以上に腐敗しているのかもしれない。リヒトは胸の内でひそかに呟くと、窓の外に視線を走らせた。

 石畳を往来する人々の中に、彼女たちの姿はまだ見えない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ