105話 ひとときの休息②
灼熱の太陽が真上から照りつける頃。
フェニアで過ごす最後の一日を堪能するため、一行は思い思いに街へ繰り出していた。
オアシスの街は、訪れた時よりもさらに多くの観光客で賑わい、白亜の建造物が立ち並ぶ通りには、笑い声や客引きの声が絶えず響いている。
「ザルカードの貴族って、なかなか個性的な服を着てますよねぇ……」
青の雫亭の窓から通りを眺めていたサフィナが、感嘆とも呆れともつかない声を漏らした。隣に顔を出したルナリスも、思わず笑って頷く。
「そうね。色使いが独特というか……目が覚めるわよね」
装いひとつにも国柄は表れる。
自然に恵まれたウォルフワーズでは、緑や青、茶色など落ち着いた自然色が主流だが、対するザルカードは赤や黄色などの原色に加え、派手な柄布が多い。
貴族の男性が身につける羽飾り付きのターバンなどは、極楽鳥のように鮮やかで、視界に入るだけで気圧されるほどだ。
「みんな、エルドラの収穫祭へ行くんでしょうか?」
「この時期は混み合うって、宿の方も言ってたわね。ザルカードからも観光客が来るくらいだから、よほど大きなお祭りなんでしょうね」
「私たちも、間に合いそうでよかったです」
青の雫亭の一室に残っているのは、ルナリスとサフィナだけだった。
フェニアには、オアシスの水を利用した大きな共同浴場がある。ベルとグレイスに「一緒に行かない?」と誘われたが、この灼熱の中、湯に浸かるのはかえって疲れるということで遠慮した。ノクティリカ育ちの二人は、他の仲間に比べると暑さに弱い。
「あなたも、少しくらい街を見てきたら?」
窓際で頬杖をつくサフィナに声をかけると、彼女はむくれたように口を尖らせた。
「だって、ルナリス様は行かないんでしょう?」
「私はもう少しゆっくりしたいから」
「じゃあ、わたしだって――」
「でも、次にいつここへ来られるか分からないのよ?」
「そ、それは……そうですけどぉ……」
サフィナだって、本当は外へ出たいのだ。だが自分を残してはいけないと気を遣っているのが丸分かりで、ルナリスは小さくため息をついた。
ちょうどその時、通りを歩くオズの姿が窓越しに見えた。
彼は朝から街の図書館に出かけており、ようやく戻ってきたところらしい。
「オズ! ちょっといい?」
窓から声をかけると、オズは眩しそうに目を細めて顔を上げた。
「ど、どうしましたか?」
「もし時間があるなら、サフィナを連れて街を見てきてほしいの」
「ちょ……ルナリスさま!」
突然の指名にサフィナは真っ赤になって抗議したが、
「え、ええ。構いませんが……」
オズはあっさりと承諾し、なぜかそわそわと頬を染めていた。
「さ、行ってらっしゃい」
「もうっ、強引なんですから……!」
そう言いながらも、サフィナの声はどこか弾んでいる。
髪を軽く整えると、侍女は照れたように笑い、オズのあとを追って部屋を出ていった。
二人の背中が見えなくなるのを見届け、ルナリスは大きく背伸びをする。ひとりきりになった部屋は、しんと静まり返っていた。
「とはいえ……こうなると少しヒマねぇ。リヒトはどこにいるのかしら……」
ぽつりと漏れた独り言は、熱い空気にゆっくりと消えていった。




