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異世界転生したら、弟が婚約者になりました  作者: くなぎ八重
第二章 赤き竜とオアシスの街
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102話  宝石の導き③


 大きく硬い拳が振り下ろされ、石の台座は乾いた音を立ててあっけなく粉砕された。

 つい一瞬前まで、そこにはリヒトとザヒールが立っていたのだ。だが、拳が届く寸前、リヒトは少年の身体を抱え上げ、身を翻して危機から逃れた。


「逃げるぞ!」


 短い指示に、一行は反射的に扉へと駆け出す。


「うそっ! 扉が開かない!?」


 ベルの悲鳴が響いた。マシューが肩で扉を押し開けようとするも、先ほどまで容易に通してくれた扉は、打って変わってびくともしない。扉の縁には白い光が走り、いままさに動き出した魔導人形の力に呼応しているようだった。


「やっぱり、あいつを倒せってことかぁ!?」


 アイゼンが鞘ごと剣を構える。石を相手に抜身の刃をぶつければ、あっという間に刃は折れるだろう。少しでも武器を保たせるための、咄嗟の判断だった。

 魔導人形は、もはや単なる機構ではなかった。巨体の動きには明確な意志が宿り、重々しい歩みのたびに床が震え、積もった微光虫が砂煙のように舞い上がる。頭部と四肢には、五色──赤、緑、黄、紫、そして黒の光がそれぞれに灯り、不気味な脈動を放っていた。


「ラセル! ザヒールを守ってくれ!」


 リヒトは少年をラセルに預けると、即座に魔導人形の死角となる背面へと回り込む。その間、ルナリスはベルに手を引かれて逃げ回っていた。


(なんだかんだで、いいコンビじゃないか……)


 ふっと笑みが漏れたのも束の間、リヒトは足の腱に狙いを定め、鞘ごと剣を叩きつけた。しかし渾身の一撃も、石の巨体には傷ひとつ付けられない。

 魔導人形は、足元で必死に動き回るリヒトやアイゼン、マシューらにはほとんど目もくれず、真っ直ぐにザヒールを狙い続けていた。狙いは少年──いや、少年の手にある黒瑪瑙の杖なのだろう。


「ゼファー! ザヒールから杖を貰ってくれ!」


 リヒトの叫びに、相棒の狼は即座に意図を理解したらしい。ザヒールのもとへ駆け寄り、杖を咥えると、そのまま滑るような俊敏さで走り出す。石の巨体は圧倒的な力こそ持つが、素早い動きには対応しきれない。ゼファーのしなやかな軌跡に翻弄され、拳がしきりに空を切った。

 だが、このまま剣で叩きつけるだけでは埒が明かない。武器が折れれば反撃の術を失うだけだ。


(さて……どうするべきか)


 熱気混じりの緊張が肌を刺す中、リヒトは額の汗をぬぐいながら、次の一手を思案していた。


 一方その頃、ルナリスは逃げ回りながらも、魔導人形の動きを観察していた。見た目こそ故郷ノクティリカのものと驚くほど似ている。だが、ひとつだけ決定的に違う点があった。頭部と四肢に灯る、五色の輝きだ。

 赤、緑、黄、紫、黒──。


(五大鉱脈家が司る宝石と、同じ色だわ……!)


 思い至った瞬間、ルナリスは息を呑んだ。オアシスの街に続き、ここでも祖国との繋がりを感じさせられたことに、背筋がぞくりと粟立つ。

 もしこの魔導人形がノクティリカ式のものと同じならば、何故こんな場所に配置されているのか。祖国は、一体何を企んでいたのか。

 疑問が次々と浮かぶが、いま考えに沈む余裕はない。

 頭の奥で響いていた歌声は、ザヒールが杖に触れた時からぴたりと止んでいた。


「も、もう疲れたぁ!」


 ベルがついに立ち止まり、荒い呼吸のまま叫んだ。幸い、ゼファーが囮となって魔導人形を引きつけているため、こちらへ注意は向いていない。

 ルナリスは肩で息をしながら、必死に石の巨体へ挑み続ける仲間たちを見つめた。剣しかないこちらと、石の身体を持つ巨躯。あまりにも分が悪い。


(なにか……なにか、あいつを止める方法は……)


 無力な自分が恨めしい。見ているだけで役に立てない自分自身に、焦りが底のほうからじわじわと募っていく。

 そして、その焦燥に反応するように、胸の核が蠢き始めた。


「くっ……!」


 胸元を押さえるルナリスに、ベルが慌てて駆け寄る。


「ちょっと、大丈夫?」

「っ……大丈夫、よ」


 顔を上げると、ベルと目が合った。愛らしい瞳には、心配の色が宿っている。

 ──負けられない。

 心の隙間に入り込もうとする“あれ”になど。

 もう、誰にも余計な心配をかけたくない。


(私を支配しようだなんて……許さない!)


 ルナリスは大きく息を吸い込み、決意ごと胸の奥に沈めた。蠢いていた思念が、ゆっくりと静まり返っていく。姿勢を正した時には、胸の痛みはもう消えていた。

 弱音など吐いていられない。リヒトたちは、今も必死に戦っているのに。


「私にできることを、やらなくちゃ……!」


 ルナリスは駆け出した。魔導人形の正面が見渡せる位置へ。もちろん、ベルもついてくる。文句を言いながらも、彼女は決してルナリスの側から離れようとしなかった。


「なんなのよ、突然!」

「今は集中させて」


 部屋が広い分、遠目からでも魔導人形の全体が見える。だが、攻撃の余波がいつ飛んでくるか分からない。

 それでもルナリスは動かず、じっと五色の光に意識を向けた。


「……聞こえる。微かだけど」

「あんた、一体なに言って──」


 ベルが戸惑いを見せたその時、リヒトが駆け寄ってくる。


「前に出るな! 背後に回っていないと危ないぞ!」

「そんなこと言われても、このひとがぁ!」


 ベルが抗議する横で、ルナリスはリヒトに詰め寄り、きっぱりと言い放つ。


「分かったわ、リヒト! あいつの攻略方法が!」


 そして、「五色の宝石」がはめ込まれた石の巨体へと指を突きつけた。




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