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家買うぞ!


「これと……これと……はいこれ。お願いします」

「少々お待ち下さい」


 ギルドで暴れてから翌日、少年はマリィと町を軽く散策し、《ゴルマ商会》と呼ばれる《商会ギルド》が牛耳っている商業施設の一角で、道中倒してきたモンスターのめぼしい素材を売っていた。


「……はい、こちらが50万ルピになります」

「わぁ凄いお金……ありがとうございま~す!」


 虎や熊の毛皮、爪、牙、その他諸々。どれもこれも《Lv7》という高レベルモンスターの素材なだけに、高価格で売れた。商会グルドに入会していないため、手数料諸々が引かれる形となったが、それでも大金と呼べるだけの金を手にしている。

 ジャラジャラと、金貨の詰まった袋をマリィは受け取りお礼を言った。


「すげー金、入会してたらどんだけ受け取れてたんだっつの」

「にしても美人さんね、胸も大きいし……。強さと美しさって比例するのかしら……」

「でも彼氏持ちだぜ。多分青田買いだろ、性格悪ぃな」


 お金の音に、マリィの肌を露出した衣装と美貌も相まって、周囲の客達の注目が集まってしまった。


「……」


 隣にいる少年はマリィの彼氏だと思われているようだが、当の本人はどこ吹く風で辺り周辺をキョロキョロと見渡している。

 商会ギルドの無い世界・ゲームからやってきた彼にとって、物の売買を専門にした商会ギルドは物珍しいのだ。


「もしよろしければ、隣に銀行がありますのでそちらにお預けになっては如何でしょうか」

「どうする?」

「……」


 少年は人差し指をクイクイッと動かす。金貨袋を寄越せということらしい。


「平気みたいなのでこのままで~」


 マリィは少年に金貨袋を渡すと、少年はアイテムカバンに収納し、二人は商会ギルドから出て行った。。

 アイテムカバンからは銃やら剣やらタブレットを取り出していたが、サイズに関わらずアイテムは《1スタック》と数えられるので、どんなアイテムでも入るのがアイテムカバンの良いところだ。

 ちなみにお金の通貨が、スキル制ゲームとこの世界とで違うため、《50万ルピ》は『一つのアイテム』としてカバンに収納されている。


「それで、これからどうする~? 少年クン、何かアイテム探す~みたいな話ししてたけど……」

「……たんねぇ」

「たんないって……お金が?」

「……」

「え、嘘っ」


 少年は無言のまま頷いた。50万ルピというのはかなりの大金なのだが、どうやら彼にとっては目標とした金額に足らず、このままでは品漁りもままならないらしい。

 50万ルピもあれば、商業ギルドを練り歩いて掘り出し品のレアアイテムを探せば、1個や2個くらい買えるだろうに。


「じゃあ……いくらあればいいの?」

「5M」

「……『M』?」

「えーっと、いちじゅうひゃくせん……500万」

「ごっ、500万ルピ必要なの!!? 何買うつもりなの!?」

「決めてない」

「えぇ~……?」


 《Lv7》モンスターの素材を売ってもなお必要としているらしく、10倍のお金が必要らしい。

 こちらの世界のお金事情など、露も知らない少年からしてみれば、「レアアイテム買うなら最低でも1Mは必要だろう」と、スキル制ゲームを基準にしてレートを考てるのだ。


「マリィ、50万ルピで家って買える?」

「え? 家?」

「……」


 突拍子もない提案だったが、少年はただマリィを見つめている。本気らしい。


「う、う~ん……。安い土地に投げ売りされてるような古~い家なら多分買えると思うけど、私もそこまで詳しくないからなんとも……。そうだ、昨日のシスターちゃんにでも聞いてみよっか? あの子、冒険者ギルドに所属してるんだから伝手とかありそうだし」

「グッドアイディア」

「そう? えへへ~……少年クンもっと褒めて!」

「……」


 嬉しそうにはしゃぐマリィをスルーし、昨日の騒ぎを起こしたギルドへと向かった。


「もうイケズ!」







「おや……貴方達は昨日の……」

「お、ナイスタイミング! 昨日ぶりだね~」

「……」


 ギルドへ向かう道中で偶然にも、二人は昨日のシスターとバッタリ出くわした。マリィはニコニコと笑顔で挨拶を交わすが、少年は相変わらず突っ立ったまま。

 しかし、何かを言いたそうにジッとシスターを見つめている。


「えぇと……私に何かご用でしょうか……?」

「そうそう。シスターちゃんさ、冒険者じゃない? だからちょっと手伝って欲しいことがあってさ~」

「あぁ成る程……。しかしタイミングが悪いですね、私は冒険者ギルドを辞めてしまったので」

「へ? 辞めた?」

「はい」


 冒険者同士の伝手を頼りにしていた少年とマリィは、想定外の出来事に困惑する。

 まさか昨日の今日知り合った人間が、冒険者ギルドを辞める予定を立てていたとは。これではアテが空振りに終わってしまう。


「言いたくないなら無理強いはしないけど……どうして辞めちゃったの?」

「……元々私は蘇生魔法を覚えたくて、孤児院で《シスター》を続けていました。ですが、冒険者ギルドに入った方がレベルの上昇が早く見込めると思ったんです。しかし……昨日の一件で、ギルドの人たちにはほとほと呆れました。女性・子供が暴漢に絡まれていると言うのに、誰も助けに入らないとは……」

「お前含めてな」

「うわ少年クン、思っててもそれ言う……?」

「いえ、仰る通りです。それについては面目次第もありません……。私は冒険者に向いていなかったのでしょう……だから辞めたんです。また孤児院でシスターとして働き、『治療者』のレベルを上げて蘇生魔法を覚えようと思います」


 人それぞれの得意分野にあった仕事をするのが一番だ。

 彼女は孤児院でシスターとして働いてた、という経歴からも、あまり争いごとに絡まないで今まで生きてきたのだろう。

 昨日は、見ていることしかできなかった不甲斐なさ、そして自分の弱さを彼女は痛感していた。それに加え、あの男達の増長を今まで止められなかったという悔恨もある。

 それらが積もりに積もって、冒険者ギルドを辞めようという考えに至ったのだ。


「そっかー……。折角シスターちゃん見つけたのに、残念だったね~」

「ローナ」

「……?」

「私の名前です。ここで会ったのも何かの縁……というか、私を探していらっしゃったみたいですし、名前を知らないと不便でしょう」

「ローナ……? どっかで聞いたことあるような……」

「どこにでもある、有り触れた名前ですので……」

「……それもそっか~」


 過去を詮索するように勘ぐるマリィだったが、流石に出会って二日のローナの過去を、根掘り葉掘り聞くほどプライバシーに欠けた人間では無かった。


「それで、私にご用件とは……?」

「それが少年クンが家が欲しい~って、ホームシックに陥っちゃって~」

「……」


 少年は首を縦に振る。

 この世界に来て、はや十日目が経っていた。初めのうちは修学旅行やキャンプなどのアウトドア感覚で楽しんでいたのだが、そろそろ自宅が恋しいので、ホームシックと言えばホームシックだし、強ち間違いでもないからだ。

 それに、宿はやたらとくっつきたがるマリィと同室なので、彼は一刻も早く羽根を伸ばせるパーソナルスペースが欲しいのだ。

 このままだと自慰すらできない。

 少年はゲーム内のキャラクターを模倣し、感情がないかのように振る舞っているが、元居た世界では高校生である。性欲の塊だ。

 マリィファーストコンタクトこそ最悪だったが、日を重ねるにつれて気の知れる良い仲になり、しかし艶気をこれっぽちも隠さない彼女との二人旅によって、彼の性欲も限界に達しようとしていた。


「……あれ、スルー?」


 一方のマリィは、何かしら少年からのアクションを期待して冗談めかしく言ったのだが、少年に軽くあしらわれてしまい少々困惑気味である。

 ローナは家が欲しいというマリィの言葉に、顎に手を当てて逡巡した後、口を開いた。


「確か……必要無くなった所領を専門に、売り買いする知り合いが商業組合にいますので、それならばお手伝いできます」


「ありがとう。これあげる」


 少年はバッグから、透明な液体が入った試験官を取り出してローナに手渡した。

 ローナは試験官を落とさないように注意しながらも、中身の液体をしげしげと見つめる。


「これは……?」

「『リザポ』」

「りざぽ……ですか? 聞いたことありませんね……どのような効果なのでしょう?」

「『リザレクションポーション』。略してリザポ。死体に振りまけば蘇生できる」

「えっ」

「やたら蘇生に拘ってたからあげる」

「えっ」


 少年が手渡したのは《回復魔法100:リザレクション》と同等の効能を発揮する『リザレクションポーション』だ。少年の説明通り液体を死体に満遍なく振り掛ければ復活する蘇生薬。

 少年が遊んでいたスキル制ゲームでは、《ヒーラー》を確保できなかったパーティが狩りに行く際、苦肉の策として1~2本持ち歩くことが多い。

 ただしリザポを入手するためには、150円課金して5本1セットを運営から直接買うか、《薬スキル:100》と、苦行とも言えるほどにまで薬を作り続けてスキル値まで上げなければならず、尚かつレイドボス並に強力なボスモンスターを倒して、リザポの素材を入手し自作するかのどちらかだ。

 一応ゲーム内でも買えるには買えるが価格は非常に高く、一本3万Gにもなるのでこちらは推奨しない。


「う、受け取れませんよこんなの!! そりゃぁ嬉しいですけどリザポなんて、希少なんじゃないんですか!?」

「……」

「都合の良いときだけ無言になるの止めてくださいよ!」


 少年は声を荒げるローナを無視した。もうあげると決めたのだから、彼女が受け取ろうが受け取らなかろうが、自分は関与しない。いらないなら捨てればいい。そういうスタンスだ。

 それに少年は、スキル制ゲーム内の銀行に、リザレクションポーションを100本近く預けている。アイテムカバンから一本二本消えたところで大した傷手にならない。


「ひえぇ……とんでもないものをもらっちゃいました……。私、何を要求されるのでしょうか……」

「いや、普通に家紹介すればいいんじゃない? にしても~……ローナばっかり狡い! ねぇ少年ク~ン、私の分は~?」

「……家買いに行こ」

「まさかの無視!?」

「ころすぞ」

「構ってくれた第一声がそれ!?」

「わ、割れちゃったらどうしましょう……どこに保管すればよいものか……。いやそもそもこれは国王に献上すべきでは……あぁでもお父様……私はどうしたら……」

「早く」


 少年は、ブーたれながら自分に抱きついてしなだれるマリィを無視し、カタカタと震える手でリザポをどう扱ったものか迷うローナを突っついて急かした。


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