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スキル制とレベル制の違い(2)


 この世界の『HP』は、文字通り命を可視化した数値である。


 《HPは0になれば死ぬ》


 これは誰しもが免れないこの世の定め。

 ではHPの減り方はというと、モンスターから攻撃されて怪我をしたり、階段から転げ落ちたりすれば身体的外傷によって減っていく。ただの風邪であったり、箪笥に小指をぶつけた程度ではミリ単位も減らない。

 中には例外もあり、命を蝕む大病を患っているケースだとHPが毎日1ずつ減っていく。

 『HP:1』という数値はこの世界の市民からしてみればかなり大きな数値だ。

 普通に暮らしていれば《市民:Lv2》が平均と記したが、その際における平均HPはなんとたったの『20』。大病を患えばたったの二十日間で人は死んでしまう。


 逆にHPを回復させる方法はどうなのか。

 これはかなり充実しており、まずは『6時間寝るとHPが1ずつ回復する』『モンスターを素材にした美味しい料理を食べるとHPが回復する』という民間療法に始まり、『神父・シスターのいる教会や診療所で回復魔法をかけてもらう』『雑貨屋・診療所などで回復アイテムを買う』などなど豊富だ。

 しかし民間療法以外だとそれなりなお金がかかる。特に教会や診療所で回復魔法をかけてもらうと、HPを小回復してもらうだけでお給料二ヶ月分もするらしい。

 バカみたいに金がかかるのには、歴とした理由がある。

 医療に従事する者は『治療者:Lv5』にまで登り詰め、最低限でもこの世界における最大回復効果を誇る《マスターヒール》が使えるようにならないと、国から《ヒーラー》と認めて貰えないからだ。

 それだけ効果覿面という保証なのだが、あまりにもお金が高すぎると冒険者や一般市民から苦情が来ている。

 何はともあれ、《ヒーラー》はこの世界において高嶺の花、雲の上の存在、鍛錬に鍛錬を積んで名乗れる由緒ある称号なのだ。


 最も、その程度だとスキル制ゲームでは《ヒーラー》とは認めてもらえないどころか、鼻で笑われるだろう。


 例えば、この世界で《ヒーラー》と認めて貰える代表的なスキル《マスターヒール》は、スキル制ゲームにおける《回復魔法スキル80:グレートヒーリング》に値する。

 が、それぞれ回復値が違う。

 《マスターヒール》の回復効果が200~250なのに対し、《グレートヒーリング》は500~700近くも振れ幅が変わるのだ。

 一般市民の平均レベルである《市民:Lv2》だとHPは20前後。対するスキル制ゲームで言う一般市民のHPは倍近くもある50前後。

 スキル制ゲームは《体力スキル》が上昇するにつれてHPも上昇するが、レベル制のこの世界では《Lv》が上昇しないとHPも増えない。

 これはスキル制ゲームの方がHP量がかなり多く設定されているのもそうだが、あまりにもこちらの世界のHPが低いため《マスターヒール》の回復により、赤ん坊から強者まで、誰も彼もが事足りるのだ。

 そのため《ヒーラー》はこの程度の回復魔法が使えるだけで名乗れてしまう。


 では『スキル制ゲームのヒーラー』はどうか。

 こちらの世界における蘇生魔法は、《治療者:Lv8》にならなければ使えず一握りの実力者にしか許されない高貴な魔法。

 対して前回も記述した通り、あちらで《ヒーラー》を自称する最低ラインは蘇生魔法……つまり《回復魔法スキル100:リザレクション》が必須条件になる。

 ボッチ・ソロで遊ぶならばいらないが、他のプレイヤーと《ヒーラー》としてパーティを組む最低条件だ。


「――――つまり僕が使った《回復魔法スキル100:リザレクション》はヒーラーを名乗るなら絶対必須条件。分かった?」


 ギルドを出て町で適当な宿を取り、少年はベッドの上に寝ころびながら、シスターに『スキル制ゲームでのヒーラーの価値観』を説明していた。

 彼はタイピングが遅く、戦闘時や移動時にチャットをする際は単語や使い慣れてるネットスラングで繋いだりするのだが、こうして長文を話したい時は手を動かしていない時にしかしないのだ。


「えぇとその……」

「……」

「うぅ……。分からない、ということが分かりました……」

「……」

「すみません……」


 少年が高名なヒーラーなのか、それとも特殊な方法で蘇生魔法を使えたのか秘密を探るべく同行していたシスターは、次から次に飛びてくる専門用語の数々に参ってしまっていた。

 少年は懇切丁寧に専門用語の一つ一つを解説していたのだが、あまりにも数が膨大すぎて着いていけないのだ。


「あっそ。明日はマリィの持ってる素材換金しに行く。お休み」


 シスターが理解しなかろうが納得しなかろうがどうでも良かった。聞かれたから答えた。ただそれだけだ。

 少年は、今はマリィが持っているお金だけで食いつないでるが、一にも二にも遊べるだけの現金が必要だと考えている。

 彼は今までソロプレイを中心にスキル制ゲームを遊んでいたが、それはかつて所属していたギルドが姫に壊されたからではない。友人・知人に誘われれば普通にパーティに参加するし、週末に行われるレイドボス戦は積極的に遊びに行く。

 少年は、自分のハンドスキルがどこまで通用するのか挑戦してみたいというのもあったが、『素材・レアアイテムを独り占めしたい』というマニア欲求があったからソロプレイを中心に遊んでいるのだ。

 彼はレアな素材・レアなアイテム・レアな装備に目が無いコレクターの側面があり、ひがな一日中プレイヤーの露店を眺めていても飽きない性格をしていた。


 端的に言うと、少年は早く現生を手にこの世界のレアアイテムやレア装備を物色したいのだ。


「それよりギルドはどうするの~? あの調子だったら一部始終みてたみんな受け入れてくれそうだったのに」

「そうですよ。私だってギルドに入れるよう口添えしますのに……」

「イラネ」

「……え?」

「自分で作る」

「作るって……ギルドを!?」

「……」


 少年は無言でベッドに敷かれた薄手の毛布に潜り込んだ。

 彼は今まで2回ほど、自分でギルドを設立したことがある。

 一つは、かつて少年が所属していたギルドが『お姫様』に潰されたこともあり、女性・ネカマお断りを続けたため過疎り自然消滅。

 もう片方は、暇つぶしに遊んでいた新生のオンラインゲームで気の許せる友人やネットの知り合いを集めたが、アカウントハッキング事件が起きて一人の仲の良い親友とも呼べる人物のアカウントが乗っ取られてしまいこれまた自然消滅。

 どちらもろくな結末を辿っていないが、それでも彼はギルドリーダーを務めた経験があるのだ。


「む、無茶ですよ! ギルドは王に申請が受理されないと設立が認められません!」

「……は? ゴミじゃん」


 が、ダメ。

 この世界では過去にギルドの運営経験があろうが王が首を縦に振らなければダメ、認められないのだ。

 まるで、運営が全てを握っていたオンラインゲームの悪しき習慣を彷彿とさせる絶対王政に、少年はこの世界のギルドを「ゴミ」とバッサリ切り捨てた。


「じゃあ王様に認めさせちゃえば? 少年ならパパパッと魔法使って認めさせるくらいできるんじゃない? それこそ蘇生魔法をバンバン使ってさ~!」

「名案そうする」

「ダメですよ! キチンとした段取り踏まないと、そもそも掛け合ってすらくれませんって!」

「クソが死ね」

「で、ですが、これは王が制定した決まりでして……」

「お休み」


 不貞寝。

 シスターの度重なる峻拒により不貞寝。

 彼は自然な睡眠導入ではなく、今度こそ完全に寝ようとアイテム袋から《ブルーシェラフ》を取り出して中に潜ってしまった。


「Zzz...」

「え……え? もう寝て……え?」

「シェラフって言ってすぐに寝られるんだって。私も使ってみたいな~」


 ベッドの上でシェラフにくるまれる、帽子on帽子みたいな浮いた少年に呆気にとられるシスターだったが、初見ながらも頭の上にZマークが連なっていることから、既に就寝していることが目に見えて分かった。

 マリィは早くこの光景に慣れようとスルースキルを磨いていた。


「あの……私、何かお気に障ること言いましたか……?」

「いや全然、普通の事を言ってたよ?」


 マリィはシェラフから僅かに覗く少年の頭を撫でながら、シスターを宥めた。


「元気だしなって、本当に嫌われた訳じゃないんだから。……それで、シスターちゃんはどうするの? 私達と一緒にこの宿で寝る?」

「いえ、私は神父様から借りている部屋がありますし、明日からギルドのクエストがありますのでこれで失礼します。私はただ、蘇生魔法の秘密を知りたかっただけですし……。長々とお時間いただきありがとうございました」

「この子が気になる気持ちは分からんでも無いし、私達はしばらくここに居ると思うからまた何時でもおいで~」

「はい、ありがとうございますマリィさん。では今度こそ失礼しますね」

「バイバ~イ」


 深々とお辞儀をし、シスターは去っていった。


「……そう言えばあのシスターちゃん、名前は何て言うんだろう」


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