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容赦なく

 レベル制のゲームには、RPGなどでお馴染みだろう《職業》というシステムがある。

 《ファイター》《ウォーリア》のような前衛職や、《盗賊》《魔法使い》のような後衛職まで様々だが、キャラクターメイキング画面で職業を選択し自分好みのプレイングが楽しめるシステムだ。

 しかしレベル制のゲームと一括りにしているが、《プレイヤーレベル》と《職業のレベル》が一つのシステムとして梱包されているゲームと、《プレイヤーレベル》と《職業レベル》が別々にカウントされているゲームの二種類がある。


「ハッハッハ! この餓鬼かぁ! 《市民:Lv0》でギルドに入りたい命知らずってのは!」

「ヒャハハ! 傑作ですよコイツァ!」

「あんまり大人をからかうなよなぁ! お、隣のお嬢ちゃんは中々良い体してんじゃねぇの……ゴクリ」

「ったく、今時Lv0とかどんだけ温室で甘やかされた貴族の坊ちゃんだっつーの!」

「兄貴、コイツですぜ! さっき飯食ってるときに、大層豪華なモンスターの素材持ってるって言ってたの!」

「お、そいつぁ良いこと聞いちまった……。おい餓鬼、痛い目見たくなけりゃ金になるモンスターの素材出せや!」

「ヒャハハ! 悪いな、これも勉強代と思って諦めてくれや」


 ギルドの水晶に手をかざして《市民:Lv0》が表示された少年を、四人組でガタイのよい男が代わる代わるで嘲り笑う。

 どうやらこの世界では、前者の『プレイヤーレベルと職業レベルが一括り』になっているようだ。


「お前が行けよ……」

「嫌だぜ……お前が行ったらどうだ。《剣士:Lv3》だろ」

「無理だよ、あいつら《盗賊:Lv5》の集団だぜ……」


 周りにいるギルドのメンバーもどうしたものかと頭を抱え、遠目に眺めるだけ。または知らんぷりして離れていく。

 男達は、兄貴と慕い《盗賊:Lv7》という高レベルのリーダーを筆頭にしたパーティで、取り巻いている下っ端も《盗賊:Lv5》とそれなりに腕の立つ上級パーティとして有名だが、それと同時に悪評も響き渡っている問題児集団だ。

 なまじLvが高く実力があるのを良いことに、クエストの報酬金で金で女を囲っては酒を浴びるように飲み、酔いが回れば暴れ始めるのだが、止めに入った兵士すら赤子の手を捻るように呆気なく半殺しにしてしまうような凶暴性を物語る過去を持つ。

 その有様をまざまざと見せつけられたギルドメンバーは、ギルドマスターを含め、何時しか彼らを制することができなくなっていた。


「おい、聞いてんのか!」

「……」


(『紀伊店のか』って有名な誤字変換だよな)


 しかし威圧する男四人を前に少年は無口。それどころか突っ込む余裕すらあった。

 あの夜に三人殺した時と同じだ。


「あ、あの、私達に関わらない方がいいですよ~……。モンスターの素材も持ってませんよ~……」


 なるべく控えめに、ただ一人事情を知るマリィは男達を諭す。

 頼むからこれ以上少年を刺激してくれるなと願いながら。


「ヒャハハ! そうだなぁ……嬢ちゃんが俺達と一晩明かしてくれるっつーならいてもいいぜ!」

「お、そいつぁ名案だな!」

「兄貴、ここはそっちの女をもらってしっぽりしけこむとしましょうや!」

「バカ野郎! ここは素材と女、両方だろ!」

「「「さ、流石兄貴!」」」

「今日の酒は旨くなりそうだぁ……」


 捕らぬ狸の皮算用。

 男達のばかげた笑い声をバックに、少年は丸い錠剤らしきものをバッグから複数個取り出した――――不適な笑みを浮かべて。

 これから起こりうる出来事が楽に想像できてしまったマリィは、心中ご愁傷様と男達に同情した。


「外出てて」

「はいはい……キミの仰せのままに」


 マリィは少年に言われたとおり、スタスタと歩いてギルドの外に出ようとする。


「あっ、おい待て! どこ行きやがる!」


 当然、下っ端その1がマリィを捕まえようとしたが、その前に少年が立ち塞がった。


「……」


 無言のままノーモーションで少年は、手にした丸い錠剤らしき物体を下っ端その1の足元に転がす。

 すると、爆竹のようにパン!パン!と破砕音を鳴らしながら赤・緑・黄・紫、様々な色の煙をまき散らし始めた。


「うおっ、なんだこ――――ガ……カハッ!?」


 下っ端1は音と煙に驚いたのも束の間、白目を剥いて口から泡を吹き出しその場にドサリと倒れてしまった。

 ピクピクと痙攣し、その皮膚には斑点模様の赤い痣が浮かんでいる。


「《ファイアタブレット》、《ポイズンタブレット》、《パラライズタブレット》は効く、《ハプニングタブレット》は不明と」


 少年はブツブツ呟きながら、いつの間にか取り出したメモ帳に、今目の前で起きた現象を記していく。彼はマメな性格で、敵キャラクターにどんなバフ・デバフや戦術が効くのか、ソロ狩りの最適化を図るためにこうしてメモを取る癖があるのだ。

 wikiや動画などを参考にすることもあるが、テンプレを一から作るのもまた一つの醍醐味だ。

 ちなみに今使ったのは《薬スキル》で、効果はそれぞれ『炎上・毒・麻痺・タゲ切り』となっている。

 また要求される薬スキル値が、左から『10・20・30・40』と駆け出しの初心者が使える初歩的なスキルなのだが、AOE(範囲)で発動するため雑魚狩りなどに重宝されており、魔法関連のスキルを上げているプレイヤーであっても、自身の身を守るためにだけに《薬スキル》を40まで上げるくらい有用なスキルなのだ。

 最も、《薬スキル》を上げるにはひたすら薬を自作し、薬のスキルを敵に使い続けなければ上がらないので、手間暇かかるしお金もかかるのが難点だが。


「い、今……何が……」

「サム! 畜生サムがやられちまった!」


 冷静沈着な少年とは対照的に、男達はあたふたし出した。

 《市民:Lv0》の子供一人に訳の分からないものを投げつけられたかと思いきや、修羅場を潜り抜けてきた《盗賊:Lv5》の仲間があっという間にやられたのだ。


「落ち着け、サムの仇はオレサマが直々に取ってやる……!」


 一方、兄貴と慕われていた男は仲間がやられたせいか、額に青筋を浮かべ、まだ煙を発している錠剤を物ともせずに前に進み出てきた。


「お?」

「俺は《盗賊:Lv7》だ。その手のちんけなトラップは効かねぇぞ……覚悟しろ!」

「……」


 少年はちらりと男を見ると、男が発した言葉をまたメモ帳に書き込んでいく。


「『盗賊:Lv7、炎上・毒・麻痺』、無効と……」

「余裕ぶってんじゃねぇぞ!」


 男は懐から短剣を取り出し少年に切りかかった。

 メモを取っていた少年は避ける動作が間に合わず、短剣は腹に吸い込まれるようにして消えていった。

 少年の口端から血が垂れ落ち、余裕そうな表情から一転しカッと眼を見開いて驚愕に変わる。


「死ねぇ!」


 だが男は容赦なく追撃で更に一閃、また一閃と少年を斬り付けていく。少年は抵抗の意思を見せることなく、無惨にも切り刻まれてしまった。

 いや、最早抵抗できるほどの気力が欠片も残っていないと言うべきだろうか。腹だけでなく、腕は切り取られ、足も切り取られ、ダルマ状態の死体となってギルドのロビーに転がった――――。


「ハァ……ハァ……。どうだ、これがオレサマの実力よ……へへへ……」

「あ、兄貴……」

「このギルドに来たまでは良かったが、オレサマを怒らせちまったのが不味かったな……」

「兄貴、兄貴ってば……」

「おいお前ら! あの逃げた女を追え! 素材もあいつが持って――――」

「兄貴ってば! しっかりしてください!」




「『盗賊:Lv7、タゲ切り』、有効と」




「――――は?」


 男は我に返った。

 切り刻まれた死体などどこにも見あたらず、少年は変わらずにメモを取っている。

 彼は幻を見させられて、幻影に向かってナイフを振り回していたのだ。端から見れば空をナイフで切り裂いて、床にナイフを突き立てていた滑稽な男に映っただろう。

 そしてメモ帳をしまった少年は――――。


「じゃあ死ねや」


 無慈悲な宣告を下した。

 《忍者スキル70:二刀流》のパッシブスキルで、先ほどの銃に勝るとも劣らない《剣スキル:100》のスキル値を要求する片手剣を両手に一本ずつ持つと、両手に魔力を集中させて《補助魔法スキル90:エンチャント『雷』》を付与した。

 バチバチと火花を散らす剣に男達は戦々恐々、顔が引きつっている。


「兄貴! 早く倒してくださいよ! 兄貴ってば!」

「兄貴……一体何が……」

「分からねぇ……俺には……何が起きてるのか……」

「に、逃げましょう兄貴! 逃げ――――」

「まだ逃げられるって甘い考え捨てろイドハゲ、それ一番言われてるから」

「意味わかんねぇ事言ってんじゃねぇよぉ!!」


 ネットスラングを挟む余裕すらある少年に慈悲はない。

 更に《補助魔法スキル30:バーサーカー》で力を底上げし、《補助魔法スキル60:ムーブメントアップ》で移動速度を上げ、《補助魔法スキル70:アーマーアップ》を使い防御力を上げた。

 万が一に備えて万全のコンディションだ。


「補助魔法重ねがけ、サイコー!!」


 ここからはただ、少年の殺戮ショーの開演となった――――。


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