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虎のお肉を食べながら


(うめぇ……うめぇ……)


 少年は鬱蒼と茂った森の中で焚き火をし、倒したモンスターの肉を適当な枝にブッ刺して炙りもっしゃもっしゃと貪っていた。

 《シルバータイガー》という毛皮が貴重なモンスターから切り分けた肉だ。

 モンスターは自慢の俊敏さを生かすことなく、少年が鍛えに鍛え抜いた高スキル魔法によって一瞬で命を散らしていった。一万人に一人いるかいないかの超貴重な10Lv冒険者がパーティを組んで倒せる超強力なモンスターなのだが、少年からすればスローのデバフを絶えず付与し続けていればソロ狩りなど容易いだろう。


(これはいる、これもいる、多分いる……)


 少年は肉を咀嚼しながら虎の毛皮を剥ぎ取りアイテム袋に詰め込んでいく。ドロップ品は、いつかどこかで使えるかも知れないから拾っておくケチな性格だからだ。


「で……何時までそこにいるんですか」


 少年は5mほど離れた大樹に向かって、《投擲スキル》を使って爆発するナイフを投げつけた。これはイベントで配布されたお遊びアイテムで、爆発こそすれどもダメージはない。


「ひゃっ!」


 カッと小気味よい音を立ててナイフが大樹に突き刺さると、爆竹が破裂したような音と共に派手な爆発エフェクトが舞い上がる。

 すると木陰から悲鳴を上げて何かが飛び出てきた。


「もう……酷いじゃない! 私、か弱い女なのよ!」


 正体は、出るところが出て引っ込むところは引っ込んだ理想的な女体を余すところなく見せつけるような、痴女じみた服装の妙齢の女性だった。確かに武器らしい武器は見あたらず自己申告通りか弱そうに見える。

 が、少年は正体を知ると興味なさ気に食事を再開した。

 自分に害をなす人間でなければ放置する姿勢のようだ。


「う゛う゛ん゛……! ねぇ、私マリィって言うの~」

「……」


 ちょいとばかり撫でるような声色で少年に名前を告げる女性。

 しかし少年は無視、ただただ肉を食らっていた。


「ちょっと~何で無視するの~?」


 マリィは無視されたのが気に障ったのか、少年に媚びるようにして擦り寄った。腕を胸の下に持っていき、乳房を寄せて上げる仕草もおまけで、だ。

 しかしどこかぎこちなく、あまり慣れていないことがバレバレだったが、それでも彼女は真剣に誘惑するつもりのようである。


「チッ、うざ」

「え」


 少年はガチな容赦ない舌打ちしてまた肉を食べる。

 マリィは年頃の少年に自慢の色香が通じない現実を受け止めきれず、呆気にとられてしばらくポケーッとその場に立ちつくすが、頬をヒクヒクさせて少年のお相伴に与ろうとして焚き火に近寄っていく。


「ねぇボク、君一人じゃその量のお肉食べきれないでしょう? 私にもすこーしだけ、分けてくれない~?」

「やだよ、くたばれやハイエナが」


 またもバッサリと切り捨てる少年。今度は塩味の肉に飽きたのか、バッグから調味料を取り出してパッパと味付けをしながらだ。

 彼は《料理スキル》も高いので、こうして自分で調理しておくとバフが付くことがある。

 今回は200gのステーキに塩+コショウ+香草一種類によって《HP上昇&MP上昇Lv1》のバフが付いている。

 この世界ではプレイヤーLv5でHP100が平均的な数値だが、彼の料理はHP上昇Lv1のバフだけでHPが50も上昇する。あちらの世界だとミソッカスな数値だが、この世界では破格のHP上昇値だ。

 それはそれとして、当たり前だが女性はピキピキ来ている。


「ね、ねぇボク。私は名を名乗ったんだから~君も名前を名乗ってくれないかな~?」

「ウチのオトンより息くっせぇから黙れや。お前さ、俺がアイツらに襲われてるの黙って見てたろ」


 前半部分はかなりピキピキと来たが、マリィは少年の言葉にドキリと心臓を跳ね上げる。

 深夜に怪しげな男三人が町の外に飛び出したからコッソリ後を付けてみれば、少年を取り囲んで拉致しようとしていた。少年は確かに小綺麗な見た目をしているが、どこか世間知らずそうで愛らしい見た目をしている。その手の愛好家には堪らないショタだっただろう。

 男達は手段は問わず、生きていればどうでもよさそうに剣やら棍棒やらを手にしていた。

 が、少年は見たことのない武器や走法で全て返り討ち。

 しかも『皆殺し』という形で。

 一部始終を影から見ていたマリィは彼を助けることもできたが黙って見ていた経緯がある。しかし彼の強さに惹かれたのも確かで、おこぼれに与ろうとこうして後をつけていたのだ。

 しかし全てバレていたとあっちゃあその目論見もお終いよ。


「キメェんだよそーいう鼻につく態度。最初から普通にしろや」


 少年は毒舌を絶やすことなく畳みかける。

 しかしこれも仕方のないことなのだ。特に女性に対しては――――。

 レベリング制のゲームに限らずだが、ネットゲームやオンラインゲームには《姫プレイ》というなりきりプレイが存在する。

 お姫様のようにふわふわしたロールプレイをし、心強い騎士はいじんに優しく守られながらレベリングをしたり、貢ぎ物をさせたり、ボス戦を肩代わりしてもらったりと、寄生虫のような面倒くさいプレイヤーが存在するのだ。

 姫プレイをするに当たって敷居の差が存在する、それは性別だ。

 男で姫プレイしようとするとネカマプレイしなければならず、もしも中身が男だとバレた場合は公開処刑というなの晒しスレに名前が連なることだろう。中身が女の場合、ボイチャでも繋いで適当にヨイショしておけばアッチが勝手に働いてくれるので楽ちんだ。

 彼は現実世界のオンラインゲームにて、とある一人の姫に出会っている。

 その姫によって、仲の良かった身内や加入していたギルドが互いに醜く罵り合ったり、雰囲気がギスギスする様を目にしてきたのだ。だから彼は確かに年頃の男の子だが、初対面の女性相手にはとかく厳しい傾向にあった。

 お姫様本人にその気がなくって周りが勝手に持ち上げている『周囲持ち上げ型姫プレイ』だったら普段通りの態度で接するが、明らかに姫であることを開けっぴろげにして媚びを売る『自発型姫プレイ』には今のように罵声を浴びせることも多々あったりする。

 オンラインゲームでコミュニティを破壊した姫は後者であり、今回もマリィが後者であったが故に容赦はしない。


「……あーもう分かったわよ!! 何も力になってあげられなくてごめんね! でもお腹空いたからお肉頂戴!! お願い!」


 女性はハーブや塩コショウに鼻孔を擽られ、遂に空腹に耐えかねて本音をポロリする。パンと両手を合わせて少年に懇願した。


「あそこに肉切り分けたから勝手に食ってどうぞ」


 少年は豹変した態度の女性を意に介さず、木質の机の上に並べられた肉を指さす。


「あ、ありがとう……」


 一応お礼を言いながらも、マリィは「え、素直に肉をくれるのか」と驚く。

 マリィは肉を適当に掻い摘んで、落ちていた枝をナイフで刮ぎ簡単な櫛を作ると、それに通して火に炙った。ふと少年を見やると、彼はバサバサという布が擦れる音を立てながら、バッグから明らかに許容量を超えた青い物質を取り出していた。


「ねぇ……何ソレ……」

「シェラフ。もう寝るお休み」

「え、あ、うん、お休み……」


 彼がアイテムカバンから取り出したるは、課金ガチャで手に入る《ブルーシェラフ》だ。

 装備部位は胴体のアクセサリで、効果は使用中に《眠りモーション》のバフが強制的に付くようになる。

 《眠りモーション》中はHPとMPの回復速度が急激に上昇していくという、あまり戦闘向きではない装備品ではあるが、《眠りモーション》が可愛いので非戦闘時においてプレイヤー同士の交流に使うような魅せ装備だ。

 少年はモゾモゾとシェラフに入ると、スゥスゥと寝息を立てて寝始めた。

 初対面で、しかもファーストコンタクトも最悪なマリィがいるのにグッスリ就寝できるのは、ひとえにこの装備の効果もあるのだろう。


(何なのコイツ……)


 マリィはお肉を食べながら、焚き火に照らされた得体の知れない少年の寝顔を見つめるのだった。



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