第8話 「中隊長と副官」①
それから一週間。アリアとリリアは、王都の王国軍総司令部へ呼び出されていた。並んで廊下を歩く二人は正式な軍服を身につけている。
「アリア」
「何?」
「今回は何の呼び出しでしょうね」
「先日の戦闘の報告じゃない?」
「それなら二人とも呼ばれるかな?」
「分からない」
リリアは苦笑する。
「相変わらずね」
「何が?」
「何でもない」
やがて二人は、指定された会議室の前へ到着した。扉の前で立ち止まる。リリアが一度深呼吸した。
「緊張してる?」
「少しだけ」
「そう」
「アリア小隊長は?」
「別に」
「本当に?」
「うん」
アリアはいつも通りだった。そして扉をノックする。
「入れ」
「失礼します」
二人が入室する。室内には、数名の上級将校が待っていた。
「アリア中尉、リリア少尉」
「はい」
「二人とも呼び出した理由は分かるか?」
「いいえ」
アリアが答える。将軍の一人が書類を手に取った。
「先日の戦闘以降、第15即応魔導小隊の評価は大きく上がっている」
「ありがとうございます」
「特にアリア中尉」
「はい」
「君の指揮能力について、複数の部隊から高い評価が寄せられている」
アリアは黙って聞いている。
「そこで、以前提示した話を正式に決定した」
将軍が一枚の辞令を取り出す。
「中尉」
「はい」
「貴官を王国魔導軍第10魔導中隊の中隊長に任命する」
アリアの目がわずかに動いた。
「……了解しました」
「それに伴い、階級を少佐へ昇進させる」
「少佐……」
リリアが小さく呟いた。十二歳で少佐。異例どころの話ではない。しかし、目の前の将軍たちはそれを当然のこととして扱っていた。
「第10魔導中隊は新設部隊だ」
将軍が説明を続ける。
「現在、編成はまだ完了していない」
「はい」
「そこで貴官には、正式な着任まで三か月の猶予を与える」
「三か月?」
「その間に中隊の編成を行え」
アリアは書類を見る。
「小隊の編成、人員配置、装備の確認。さらに各小隊の訓練計画まで、貴官自身に決めてもらう」
「了解いたしました」
「そしてもう一つ」
将軍は隣に座っていたリリアを見る。
「リリア少尉」
「はい!」
「貴官についても辞令がある」
「小官にもですか?」
「アリア少佐の副官として、第10魔導中隊へ配属する」
リリアが目を見開く。
「そして階級を大尉へ昇進させる」
「拝命いたします」
リリアは思わずアリアを見る。アリアはいつも通り、落ち着いている。しかし、その目にはわずかな安心が浮かんでいた。
「……よかった」
小さく呟く。
「アリア少佐?」
「何?」
「今、よかったって……」
「言ってない」
「言ったよ」
「気のせい」
リリアは少し笑った。
「じゃあ、そういうことにしておく」
将軍は二人の様子を見ながら、話を続ける。
「第10魔導中隊の正式発足は三か月後」
「それまでに、部隊の編成と教育を完了させろ」
「了解しました」
「私たちは、かなり大きな部隊を率いることになるんですね」
「そういうことだ」
将軍は頷いた。
「これまでとは責任の重さが違う」
「……はい」
アリアは静かに返事をする。
「三か月で、部隊を作る」
「その通りだ」
「分かりました」
アリアは辞令を受け取った。そして深く敬礼する。
「期待している」
将軍は二人を見て静かにうなずいた。二人が会議室を出る。しばらく二人とも無言で廊下を歩いた。先に口を開いたのはリリアだった。
「……大尉になっちゃった」
「うん」
「アリアも少佐かあ」
「うん」
「十二歳で少佐って、改めて考えるとすごいよね」
「そう?」
「そうだよ!」
リリアは呆れたように笑う。しかし、その笑顔はすぐに真剣なものへ変わった。
「でも……三か月で中隊を作るんだよね」
「そう」
「大丈夫かな」
「大丈夫にする」
アリアは即答した。
「私たちの中隊だから」
「……私たち?」
「うん」
アリアはリリアを見る。
「リリア大尉にも手伝ってもらう」
「もちろん」
リリアは笑った。
「私、アリア少佐の副官だからね」
「よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします。アリア少佐」
その呼び方に、アリアは少しだけ違和感を覚えた。昔のような関係ではない。もう二人は、同じ士官候補生でも、同じ小隊の仲間でもない。中隊長と副官。それでもアリアにとって、リリアが特別な存在であることだけは変わらなかった。
「帰ろう、リリア大尉」
「はい、アリア少佐」
二人は並んで歩き出した。
これから三か月。第10魔導中隊を、一から作り上げるために。
*
翌日。
アリアとリリアは、王都にある王国軍の施設へ向かった。第10魔導中隊の正式発足まで、残された時間は三か月。その間に中隊の編成を終え、隊員たちを教育しなければならない。そのため二人は、これまで暮らしていた基地を離れ、王都の軍施設で生活することになった。
「ここが、私たちの部屋です」
案内された部屋の前で、リリアが鍵を受け取る。
「二人部屋なんだ」
扉を開けると中にはベッドが二つに机が二つ、衣類を収納する棚と、小さな本棚。軍施設の部屋らしく簡素ではあるが、生活するには十分な設備が整っていた。アリアが部屋へ入る。
「悪くない」
「そうだね」
リリアも荷物を置く。
「でも、まさか同じ部屋になるとは思わなかった」
「嫌?」
「そんなわけないでしょ」
リリアは笑った。
「むしろ安心したよ」
「そう」
アリアは自分の荷物を整理し始める。リリアもその隣で荷解きを始めた。
「アリア」
「何?」
「今日から、さっそく選抜だよね」
「うん」
「どんな人が来るんだろう」
「分からない」
「アリアなら、すぐ決めそう」
「能力を見ないと決められない」
「それもそうか」
リリアは笑いながら荷物を片付けた。
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