第69話 「アリアとリリア」④
アリアから辞令を渡されたリリアは、しばらくそれを眺めていた。
「‥‥‥本当に、私が副官なんですね」
「ああ」
「六年ぶりに会ったと思ったら、いきなりですか」
「軍というのは、そういうところだろう」
「それはそうですけど‥‥‥」
リリアは苦笑しながら、自分の部屋へ戻ろうとした。
「まず、荷物をまとめないと」
「うん」
アリアはその背中を見送る。
「ところで、リリア」
「はい?」
「第10魔導中隊の諸君を集められるか?」
「‥‥‥?」
リリアが振り返る。
「どうしてです?」
「ちょっと話がある」
「話?」
「ああ」
アリアはそれ以上説明しない。リリアは首を傾げた。
「分かりました」
そう言って宿舎へ向かう。廊下を歩きながら、リリアは少し考える。中隊を集めるということは、何か重大な話なのだろう。しかし、何を告げるつもりなのか。
やがて、中隊員たちが休んでいる宿舎へ到着する。リリアは一度、大きく息を吸った。
「‥‥‥よし」
扉を開ける。
「総員、おこーし!」
「リリア中佐?」
「何かありました?」
隊員たちが次々に顔を出す。
「全員、訓練場へ集合だい」
「今からですか?」
「そうだ」
「分かりました!」
隊員たちは次々と準備を始めた。
しばらくして第10魔導中隊の全員が訓練場へ集まった。
「一体、何があるんでしょう?」
「急な集合なんて珍しいな」
「もしかして新しい命令?」
そんな声が聞こえる。やがてリリアが前へ出る。
「総員、傾注!」
メアリの掛け声に合わせて、隊員たちが姿勢を正す。
「気をつけ!」
一斉に敬礼。そしてリリアの隣へ、一人の女性が歩いてきた。
「‥‥‥え?」
「誰?」
隊員たちがざわめく。
しかし、アリアの姿を見た瞬間。
「‥‥‥!」
何人かの表情が変わった。
見覚えがある。かつてこの部隊を率いていた伝説の中隊長。六年前に姿を消した少女、アリアだった。
「第10魔導中隊」
アリアが前に立つ。
「久しぶりだな」
その声を聞いた瞬間。隊員たちの間に驚きが広がった。
「アリア‥‥‥中将?」
「本物‥‥‥?」
アリアは少し笑った。
「そうだよ」
そして、隊員たちを見渡す。
「今日は、貴官らにいくつか伝えることがある」
全員が静かになる。
「まず、リリア少佐―――」
「はい」
「本日付で西部方面軍司令官付副官を任ずる」
「‥‥‥!」
隊員たちが驚く。
「そして」
アリアはメアリを見る。
「メアリ少尉」
「は、はい!」
突然名前を呼ばれ、メアリが姿勢を正す。
「貴官を第10魔導中隊中隊長に任命する」
「‥‥‥!」
メアリの顔が驚きに染まる。
「私が‥‥‥中隊長‥‥‥?」
「そうだ」
「で、でも‥‥‥!」
「能力は十分だ」
アリアは静かに言う。
「貴官には、この中隊を任せられる」
メアリはしばらく呆然としていた。
「‥‥‥はい!」
力強く敬礼する。アリアは頷いた。
「それから」
全員を見る。
「第10魔導中隊は、本日付で西部方面軍へ転属する」
「‥‥‥!」
さらにざわめきが広がる。
「西部方面軍‥‥‥?」
「アリア中将の直属になるってことですか?」
「そういうことだ」
アリアは答える。
「私が西部方面軍司令官として着任する」
隊員たちの間から、驚きの声が上がる。リリアも、少しだけ笑った。アリアは続ける。
「そして―――」
一呼吸。
「貴官らには、私の右腕になってもらおう」
隊員たちが静かになる。
「私はこれから西部方面軍全体を指揮する。そこには陸軍も、海軍も、空軍も、魔導軍もいる。その中で、私は貴官らを一つの中核部隊として使いたい」
アリアの目が、まっすぐ隊員たちを見る。
「第10魔導中隊には、私とともに戦ってもらう」
隊員たちの表情が少しずつ変わる。
「かつての部下だから、という理由だけではない。貴官らの実力を買っている」
「‥‥‥」
「だから―――」
アリアは敬礼する。
「これからも、私を支えてほしい」
一瞬の沈黙。
そして。
「了解!」
第10魔導中隊全員から、力強い返事が返った。リリアも敬礼する。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「うん」
アリアが微笑む。メアリは胸元の新しい階級章を見つめる。今日から、自分がこの中隊を率いる。それでも目の前にいるアリアの姿を見ていると、不思議と不安はなかった。
やがて、出発の準備が始まった。第10魔導中隊の荷物が輸送車へ積み込まれる。隊員たちが次々と乗り込んでいく。リリアも荷物を持って歩いている。
「‥‥‥六年前と逆ですね」
「何が?」
「昔は、アリアがいなくなって、私がここに残りました」
「そうだったな」
「今度は二人で出ていく」
「うん」
アリアは空を見上げる。
「しかも、もっと大きな部隊のもとへ」
「はい」
メアリが二人のもとへ来る。
「アリア中将」
「何?」
「第10魔導中隊、出発準備完了です」
「分かった」
アリアは頷く。
「では、行こう」
「はい!」
こうして。
アリアとリリア、そして、第10魔導中隊の隊員たちは。東部の駐屯地を後にした。
向かう先は西部方面軍司令部。
新たな任務。
新たな部下。
そして、新たな日々。
戦争が終わっても二人の軍人人生は、まだ終わらない。
むしろここからが、新しい始まりだった。
いよいよ次のお話で最終話! 最終話はこの後21時30分に投稿します!




