第70話 「アリアとリリア」⑤ 終
西部方面軍司令部。長い道のりを経て、アリアたちはようやく西部方面軍の司令部へ到着した。
「ここが、西部方面軍……」
リリアが窓の外を見る。王都や東部の駐屯地とは違う。西部方面軍司令部を中心に、広大な軍事施設が広がっている。
「結構大きいですね」
「方面軍だからな」
アリアはいつもの調子で答える。やがて二人を乗せた車両が、司令部から少し離れた場所にある一軒の家の前で止まった。
「……ここ?」
リリアが首を傾げる。
「ああ」
アリアが先に降りる。
「今日からここで暮らす」
「ここで?」
「司令官宿舎だ」
「なるほど……」
リリアも荷物を持って降りる。
すると。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「……え?」
玄関の扉が開く。そこに、一人の女性が立っていた。黒を基調としたメイド服に整った姿勢、落ち着いた表情。年齢は二十代ほどに見える。
「お久しぶりでございます、アリア様」
「ただいま、ソフィー」
アリアは何の驚きもなく答える。
「……」
リリアは二人を見る。
「えっと……」
思わず口に出る。
「メイドさん?」
「はい」
女性は丁寧に頭を下げる。
「わたくしは、ソフィーと申します」
「ソフィーさん、よろしくお願いします」
リリアも頭を下げる。すると、ソフィーは無表情のまま告げた。
「わたくしはメイドにございます」
「……はい?」
「どうぞソフィーとお呼び捨ての上、ご主人様の思うがままにお使いください」
リリアは完全に困惑した。
「いや、でも……」
「何か問題がございますか?」
「いえ、その……」
ソフィーは微動だにしない。
笑わない。
驚かない。
ただ淡々と主人の要求を受け入れるメイドとして立っている。
「ソフィーは、昔からこうなんだ」
アリアが言った。
「昔から?」
「私が諜報課にいた頃から仕えてもらっている」
「諜報課にいた頃から……」
アリアが六年間、諜報課で活動していた間もこの女性がそばにいたらしい。リリアは改めてソフィーを見る。
「では、よろしくお願いします、ソフィーさん」
「ソフィーとお呼びください」
「……はい。ソフィー」
やはり表情は変わらない。アリアはそんなソフィーを見て、少し笑った。
「相変わらずだな」
「そのように教育されておりますので」
「そう」
こうしてアリアとリリアは、西部方面軍司令部近くの家で共同生活を始めることになった。
*
その夜二人は簡単な夕食を取りながら、新しい生活について話した。
「明日から忙しくなりますね」
「そうだな」
「方面軍司令官の副官なんて、今までとは仕事の規模が全然違います」
「覚悟しておけ」
「……はい」
リリアは少し笑った。
「でも」
「何?」
「またアリアと一緒に仕事ができるなら、頑張れます」
「そうか」
アリアはコーヒーを飲む。
「なら、期待しているよ」
*
翌朝。
二人は揃って西部方面軍司令部へ向かった。建物に入り、長い廊下を進む。
「こちらが司令官執務室です」
案内役の士官が敬礼する。
「ご苦労」
アリアが答える。扉が閉じる。広い執務室。机の上には、すでに大量の書類が積まれていた。
「……」
リリアがそれを見て、思わず固まる。
「多いですね」
「ああ」
「初日からこれですか?」
「方面軍だからな」
アリアは机の前に座る。すると、通信兵が一枚の資料を持って入ってきた。
「アリア中将」
「何?」
「西部方面の最新情勢です」
「そこへ置いて」
「はっ」
通信兵が退室する。アリアは資料へ目を通す。しばらくして。
「……リリア」
「はい?」
「話しておくことがある」
「何でしょう?」
アリアは資料を机へ置いた。
「王国は今、ヴィール帝国との関係が急速に悪化している」
「ヴィール帝国……」
リリアは息を呑む。王国の西隣に位置する大国。かつてから国境問題や外交問題を抱えていたが、ここ最近は特に緊張が高まっていた。
「まさか……」
「ああ」
アリアは静かに頷く。
「開戦間近になっている」
「……」
リリアは言葉を失う。ようやく終わったと思った戦争。その記憶もまだ新しい。
それなのに。
「もう次の戦争が……?」
「そうなる可能性が高い」
アリアは窓の外を見る。西へ続く空。その先にヴィール帝国がある。
「王国軍もすでに準備を始めている」
「西部方面軍も?」
「当然」
アリアは立ち上がる。
「だから、私たちも準備する」
「……はい」
リリアは背筋を伸ばす。
「覚悟しておけ」
「はい」
アリアは少しだけ笑う。
「これから忙しくなるぞ」
そして机に積み上げられた大量の書類を見る。
「……まったく」
一度、深いため息。
「世の中は不条理だな」
リリアは思わず笑った。
「本当に、アリアらしいです」
「何だ?」
「いえ」
リリアは敬礼する。
「これからもよろしくお願いします、アリア中将」
アリアも敬礼を返す。
「ああ、よろしく頼む。リリア中佐」
六年前。
戦場で別れた二人。
六年後。
二人は再び同じ場所に立っている。
コーヒーを飲み、書類に追われ、時には戦場へ向かう。
二人の物語は、終わらなかった。
戦争が終わっても、平和が訪れても、また新たな時代が始まろうとしていても、アリアとリリアは、これからも共に歩いていく。
そして新たな戦いの足音が、西の彼方から、静かに近づいていた。
ここまでお読みくださりありがとうございました!
いやあ、下手ですね、ハイ……
もっとうまく文章が書けるようになりたい……
今回投稿した「アリアとリリア ~戦火を生き抜くは幼き才能の華~」は、結構前に書いた作品でした。やっぱり納得行かないので、実は大幅修正・大幅加筆版を作成中です。完成まではしばらくかかりそうですが、頑張って1年以内には連載を始めたいと思う次第です。
ぜひともお気に入り登録、ブックマーク登録をして、新生「アリアとリリア」並びに休載中の「探偵と殺し屋の幼馴染」の公開をお待ちいただければと思います。
改めて駄文をお読みくださりありがとうございました!!
2026.10.4 平井瑛太




