↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
64/70

第64話 「終戦記念日」①

 ――――戦争が終わった。

 私がそう実感したのは、降伏文書への調印が行われた日だった。

 二年間。

 王国とミレーヌ連邦の間で続いた戦争。

 いやもっと正確に言えば、戦争が始まるまでに八年間もの軍事衝突が続いていた。国境付近で何度も戦闘が起きた。

 兵士が傷つき、村が巻き込まれ。そして、私も大切な人を失った。

 長かった。本当に長い戦いだった。

 開戦当時。私は十二歳だった。まだ、軍人として何も知らなかったわけではない。けれど今思えば、私はまだ十二歳の子供だった。それでも私は第10魔導中隊を率いて戦場へ向かい、中隊長として、そして大隊長としてたくさんの戦いを経験した。

 空を飛んだ。

 敵を撃った。

 何度も死にかけた。

 そして、何度も仲間に助けられた。

 あれから二年。

 私は十四歳になった。

 身長も少し伸びた。

 魔力も増えた。

 軍人としての経験も増えた。

 でもあの戦争で失ったものが戻ってくることはない。それでもようやく、戦争は終わった。

 ミレーヌ連邦。

 北方へ追い詰められた連邦は、最後には降伏を決断した。そして、降伏文書に正式に調印した。それによって、二年間に及んだ戦争は終結した。八年間続いた両国の軍事衝突そのものに、ようやく幕が下りたのだ。

 そして現在ミレーヌ連邦は王国の軍事的・政治的支配下に置かれている。連邦は独立した国家としての力をほとんど失い、事実上、王国の植民地となった。

 戦争に勝った。

 王国はそう宣言した。

 街では勝利を祝う声が上がっている。

 新聞も、王国軍の勝利を大々的に報じている。

 私たち軍人にとっても、ようやく帰ることのできる場所ができた。

「第51統合大隊、全員に一週間の休暇を与える」

 そう告げた時大隊の中からは、これまで聞いたこともない清涼の歓声が上がった。

「一週間!?」

「本当に休んでいいんですか!?」

「今度こそ、本当に戦場へ行かなくていいんだな!」

 私はその様子を見ながら、少しだけ笑った。

 この二年間休暇らしい休暇なんて、ほとんどなかった。

 前線へ行って。

 戦って。

 戻って。

 また戦場へ行く。

 そんな日々の繰り返しだった。

 だから一週間という時間が、とても長く感じられた。

「……一週間か」

 リリアが隣で嬉しそうに呟く。

「はい。今度こそ、本当に休めますね」

「ああ」

 私は空を見る。

 戦場で何度も見上げた空。

 雪が降っていた空。

 敵航空機が飛び交っていた空。

 そして、何度も仲間と一緒に飛んだ空。

 今は静かだった。

 もう、砲撃の音は聞こえない。

 もう、敵航空機も飛んでいない。

「……終わったんだな」

「はい」

 リリアが笑う。

「終わりました」

 私は十四歳になった。戦争が終わった。

 そして第51統合大隊にも、一週間の休暇が与えられた。

 ようやく私たちは軍人ではなくただの人間として、少しだけ休むことができる。

 しかし、果たして私は日常に戻れるのだろうか。そう思う心も私の胸の中にあった。


*


 戦争が終結してから初めての夏。王都では、二年間に及んだ戦争の勝利を祝う戦勝記念パレードが開催された。王都の大通りには、朝から大勢の市民が集まっている。

「王国軍だ!」

「見て、あの魔導士!」

「戦争に勝ったんだ!」

 通りの両側から歓声が上がる。沿道には王国の旗が掲げられ、街全体が祝賀ムードに包まれていた。その大通りを、王国軍の各部隊が整然と進んでいく。

 陸軍。

 海軍。

 空軍。

 そして魔導軍。

 その中には第51統合大隊の姿もあった。

「総員、歩調を合わせろ!」

 ルードが号令をかける。

「了解!」

 魔導部隊と陸軍部隊が、同じ隊列で進んでいく。かつては互いに反発していた二つの部隊。それが今では、同じ第51統合大隊として堂々と王都の大通りを進んでいる。

 先頭に立つ大佐の制服を身につけたアリア。その隣には少佐となったリリアがいる。

「……すごい人ですね」

 リリアが小さく呟く。

「ああ」

 アリアも沿道を見る。市民たちの顔には笑顔が溢れている。手を振る者や王国旗を掲げる者。子供たちが軍人たちへ声援を送る。

「ありがとう!」

「王国軍、ばんざーい!」

 そんな声が飛んでくる。アリアは少しだけ手を上げる。市民からさらに歓声が上がった。

「大佐、人気ですね」

「そう?」

「はい」

「こういうのは苦手だ」

 アリアは少し困ったように答える。

「人に見られるのは落ち着かない」

「でも、みんな喜んでますよ」

「……そうだね」

 アリアはもう一度、沿道を見る。

 二年間。

 戦場で戦ってきた。

 自分たちが戦った結果によって、今この人たちは笑っている。

 それだけは、少しだけ嬉しかった。

 長いパレードも、夕方には終了した。

「皆、ご苦労だった!」

 解散の号令がかかる。隊員たちが互いに労をねぎらう。

「終わったな!」

「足が痛い……」

「でも、楽しかったな」

 そんな声が飛び交う。アリアとリリアも宿舎へ戻ろうとした。その時。

「アリア大佐、リリア少佐」

 二人を呼び止める声。振り返るとそこにはフランが立っていた。

「フラン中将」

「ちょっと来てくれる?」

「はい」

 二人はフランについていく。総司令部の一室。扉を開けた瞬間。

「……」

 アリアが固まった。部屋の隅に、酒瓶や酒樽が大量に積み上げられている。

「……何これ」

「見ての通りよ」

 フランが笑う。その量は、明らかに一個人へ渡す量ではない。リリアも目を丸くしている。

「これ、全部……?」

「第51統合大隊への贈り物」

「……多すぎません?」

 リリアが尋ねる。

「まあ、そうね」

 フランは楽しそうに笑った。

「どうして、こんなに?」

 アリアが尋ねる。するとフランは、何でもないことのように言った。

「大隊には酒豪が多いと聞いたものでね」

「……」

 アリアが無言になる。リリアも言葉を失った。

「……誰からそんな話を?」

「いろいろ聞いたのよ」

 フランは笑う。

「戦争が終わったんだもの。これくらいあってもいいでしょう?」

 アリアは大量の酒瓶を見つめる。

「……これ、どうやって運ぶの?」

「そこは大隊のみんなで考えて」

「……」

 アリアは深々とため息をついた。

「まあ、みんな喜ぶか」

「きっと大喜びよ」

 フランは満足そうに笑った。

 こうして戦勝記念パレードの夜。第51統合大隊には、予想外の「戦勝祝い」が届けられることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。