第60話 「希望の光」③
翌朝。
第51統合大隊の前線拠点。昨日までとは、明らかに空気が違っていた。大量の補給物資が届いたことで、隊員たちは再び戦えるだけの力を取り戻しつつある。しかし、アリアは休んでいる暇を与えるつもりはなかった。司令所に集まったリリア、ルード、そして各小隊長へ、アリアは地図を広げる。
「包囲網を突破する」
アリアが指を置いたのは、王国軍の前線陣地が存在する方向だった。
「敵は西、南、東の三方向から我々を包囲している。北側に王国軍の前線がある」
リリアが地図を見る。
「ここまで抜ければ、王国軍と合流できますね」
「そう」
アリアは頷いた。
「問題は、そこまでの敵防衛線だ」
地図には、連邦軍の防御陣地が何重にも記されている。
「正面から全員で突破するのは難しい。そこで、部隊を二つに分ける」
アリアは第51統合大隊の配置表を取り出した。
「第1魔導小隊は、ここに残す」
「陸軍部隊八個小隊のうち、五個小隊も残す」
ルードが頷いた。
「そう」
「そして突破部隊は?」
「第2、第3、第4魔導小隊」
「それと陸軍三個小隊」
リリアが頷く。
「突破部隊は、私たちの側から敵防衛線へ圧力をかける。防御部隊は、今の陣地を維持する」
アリアが続ける。
「敵が突破部隊を追えば、こちらの陣地が薄くなる。逆に陣地へ攻撃を集中させれば、突破部隊が進める」
「挟みながら突破するわけですね」
「うん」
アリアは第2から第4魔導小隊の小隊長を見る。
「マーガレット少将、スー大佐、ヴァース少将」
「はい」
「突破部隊を頼みます」
三人が敬礼する。
「任せて」
「了解しました」
「必ず道を開こう」
ルードも続く。
「陸軍三個小隊は私が指揮します」
「お願い」
アリアは頷いた。
「そして、私とリリアはここに残る」
「え?」
リリアが顔を上げる。
「大佐が?」
「うん」
「突破部隊ではなく?」
「陣地を守る」
アリアは地図の防御拠点を指す。
「ここを落とされたら、突破部隊も戻ってこられない」
「‥‥‥分かりました」
やがて突破作戦の準備が整った。
「総員、傾注!」
リリアが大隊員たちを前に声を上げる。
「おはよう。早速だが諸君」
アリアが突破部隊へ告げる。
「目的は敵の包囲網を北側へ押し開くことだ。無理な追撃はするな。敵の防御線を一つずつ崩せ。そして、必ず戻れ」
「了解!」
突破部隊が動き始める。
「第2魔導小隊、上空へ!」
「了解!」
「第3、第4魔導小隊、左右から支援!」
「了解!」
「陸軍部隊、前進!」
ルードの号令が続く。魔導士たちが一斉に飛び上がる。地上では陸軍兵士たちが進む。その姿を、アリアとリリアは陣地から見つめていた。
「始まりました」
「うん」
連邦軍もすぐに動いた。敵が近づいてきます!」
「砲撃開始!」
前方から激しい砲撃が始まる。
「第2魔導小隊、右側から回り込め!」
マーガレットの指示が通信機から響く。
「敵砲兵陣地を狙います!」
「了解!」
魔導士たちが急降下する。敵砲兵陣地へ魔力弾を集中させる。砲台が沈黙する。
「左側、敵歩兵!」
スーの声。
「第4魔導小隊、援護!」
「了解!」
魔導士たちが敵部隊へ攻撃を加える。地上ではルードが指示を飛ばす。
「前進!」
「魔導支援に合わせろ!」
「敵の左翼が崩れた!」
「そこへ入れ!」
陸軍部隊が前へ進む。連邦軍は押し込まれていく。
「敵が後退しています!」
「そのまま進め!」
しかし敵もただ逃げているわけではない。
「敵増援!」
「右側から来ます!」
すかさずヴァースが指示を飛ばす。
「第3魔導小隊、迎撃!」
「了解!」
新たに現れた敵部隊へ、魔導士たちが攻撃を加える。熟練した三人の指揮は的確だった。隊員たちは迷わず動く。それを見ていたリリアが呟く。
「‥‥‥すごいですね」
「何が?」
「三人とも、隊員への指示がとても的確です」
「経験が違うから」
「なるほど‥‥‥」
リリアは再び前方を見る。突破部隊は着実に敵を押し込んでいる。包囲網の一角が、少しずつ崩れていた。
「第2魔導小隊、さらに前進!」
「第3小隊、敵の側面へ!」
「第4小隊、陸軍部隊を援護!」
次々と指示が飛び交う。
「敵陣、突破まであと少し!」
ルードが叫ぶ。
「全員、押せ!」
「了解!」
その頃、陣地に残ったアリアとリリアのもとにも、敵が攻撃を仕掛けてきた。
「敵がこちらへ来ます!」
「予想通り」
アリアが立ち上がる。
「残留部隊、迎撃準備」
「了解!」
連邦軍の歩兵が陣地へ迫る。
「撃て!」
陸軍兵士たちが一斉に射撃する。魔導士も上空から援護する。
「左側、敵が突破しかけています!」
「第1魔導小隊を向かわせて」
「了解!」
リリアが指示を出す。
「アリア大佐、北側も来ています!」
「私が行く」
アリアは箒へ飛び乗る。
「リリア、ここを頼む」
「分かりました!」
アリアが空へ舞い上がる。敵の攻撃をかわしながら、陣地の北側へ回り込む。
「ここか」
敵部隊が防御線へ接近している。アリアは魔導銃を構える。
「止まれ」
一撃。敵部隊の前進が止まる。
「今だ!」
残留部隊が一斉に反撃する。敵が後退する。
「撃退しました!」
通信が入る。
「よし」
アリアは上空から突破部隊を見る。
遠く。突破部隊が確実に敵陣へ食い込んでいる。
「‥‥‥もう少し」
アリアが呟く。
北側の王国軍前線までの道が、少しずつ開いていく。第51統合大隊は包囲されてから初めて、自ら包囲網を押し返し始めていた。




