第58話 「希望の光」①
―――数時間後。
夜の闇の中を飛び続けた第1魔導小隊は、ようやく第51統合大隊の前線拠点へ戻ってきた。
「前方に味方拠点!」
「識別信号、確認!」
アリアが先頭を飛び、後ろから第1魔導小隊が続く。そのさらに後ろには、マーガレット、スー、ヴァースの三人。
「戻ってきたぞ!」
地上の兵士が空を指差した。
「本当だ!」
「第1魔導小隊だ!」
「アリア大佐が帰ってきた!」
防御陣地にいた隊員たちが次々と立ち上がる。やがて魔導士たちが次々と着地する。物資を積んだ輸送具が地面へ降ろされる。
「食料だ!」
「弾薬もあるぞ!」
「医薬品まで!」
隊員たちの間から、歓声が上がった。一週間に及ぶ包囲戦。物資が底をつきかけていた彼らにとって、補給物資はまさに希望そのものだった。
「大佐!」
「お帰りなさい!」
「本当に助かりました!」
アリアの周囲に隊員たちが集まる。
「騒ぐな」
アリアは苦笑しながら言う。
「まず物資を各部隊へ配分する」
「はい!」
隊員たちが次々と物資を運び始める。
「‥‥‥?」
ある兵士が、ふとアリアの後方を見る。
「‥‥‥あれ?」
「どうした?」
「いや、あの三人‥‥‥」
三人とも、見慣れない人物ではない。しかしその階級章を見て、兵士の顔が一気に青ざめる。
「‥‥‥少将?」
「え?」
「いや、少将だぞ!」
周囲の兵士たちが一斉に三人を見る。
「‥‥‥!」
「作戦局の将校じゃないか!」
その瞬間、さっきまで歓声を上げていた隊員たちが、慌てて姿勢を正した。
「総員、敬礼!」
誰かが叫ぶ。全員が一斉に敬礼する。
「お疲れさまです!」
突然の整然とした光景に、アリアは少し驚いた。そして、マーガレットが苦笑する。
「まあまあ。そんなに固くならなくてもいいのに」
「いえ! 少将閣下ですので!」
隊員は緊張した声で答える。スーも少し困ったように笑う。
「私たちは視察に来たわけではないわ」
「で、ですが‥‥‥」
ヴァースも周囲を見回す。
「まあ、仕方ないだろうな」
そんな中、隊員たちの視線が、今度はアリアへ向いた。
「‥‥‥?」
アリアは三人を見る。
「マーガレット少将」
「何?」
「その箱、こちらです」
「ありがとう、アリアちゃん」
「スー大佐は、こちらをお願いします」
「ええ」
「ヴァース少将はこちらを」
「分かった」
アリアと三人は、まるで昔から一緒に働いていたかのように自然に会話している。
「‥‥‥」
隊員たちが固まる。
「‥‥‥え?」
「大佐‥‥‥?」
「なんであんなに親しげなんだ?」
「というか、少将相手に普通に話してるぞ‥‥‥」
さらに驚いたのは。アリアの三人に対しての態度があまりにも慣れていることだった。
「アリアちゃん、これどこに置く?」
「こちらです、マーガレット少将」
「了解」
「アリア、私はこちらを運ぶわ」
「ありがとうございます、スー大佐」
「ヴァース少将は、こちらをお願いします」
「ああ」
そんな会話が続く。陸軍兵士の一人が、隣の仲間へ小声で尋ねる。
「‥‥‥大佐って、あの三人とどういう関係なんだ?」
「知らない」
「でも、少将と大佐があんな普通に話してるの、初めて見たぞ」
「俺もだ」
さらにリリアが三人のもとへやって来る。
「アリア大佐。こちらの方々は‥‥‥?」
「あなたがリリア少佐ね。アリアの副官の」
マーガレットが微笑みながら言う。
「はっ! 第51統合大隊大隊長副官を拝命しております。リリア・ヴェルフェリア少佐であります!」
リリアは最敬礼をしながら言った。
「そんなに緊張しなくていいのよ」
「‥‥‥ですが」
「アリアちゃんもいつもこんな感じだから」
「‥‥‥」
リリアはアリアを見る。確かにアリアは三人を前にしても、普段より少し柔らかい表情をしている。軍務中の大佐というより昔から知っている年上の軍人たちと接する少女のようだった。その様子を見ていたルードも呆然としていた。
「‥‥‥大佐」
「何?」
「この三方とは、以前から?」
「うん」
「かなり親しいんですね」
「昔からの知り合いだから」
「なるほど‥‥‥」
ルードは三人を見る。全員が魔導軍の高級将校。しかも、作戦局に所属する人物たち。そんな人物たちとアリアが親しく話している。そして、自分たちはつい先ほどまで、その事実を知らなかった。
「‥‥‥大佐って、本当に何者なんですか」
「ただの軍人だよ」
アリアは即答した。
「いや、それは無理がありますよ」
ルードが苦笑する。周囲から、小さな笑い声が漏れる。
包囲されてから一週間。疲労と不安に満ちていた前線拠点。
しかし今、大量の物資が届いた。そして、三人の熟練魔導士が加わった。
「弾薬、各小隊への配分完了!」
「食料も配り終えました!」
「医薬品は医務班へ!」
次々と報告が上がる。アリアはそれを聞きながら頷いた。
「よし」
そして。
「これで、もう少し戦える」
その言葉に、第51統合大隊の隊員たちが頷く。
「はい!」
誰もが思っていた。
一週間。苦しい戦いだった。援軍も来なかった。けれども今、確かな援軍と物資が届いた。それだけで暗かった大隊の空気は、少しだけ変わった。
希望の光が、ようやく、戦場へ差し込んだ。




