第54話 「捨て駒の意地」③
第51統合大隊は、さらに敵陣深くへ進んでいた。
最初の攻撃は見事なまでにはまった。魔導部隊によって防衛線を崩し、その隙に陸軍部隊が前進する。敵の砲兵陣地を潰し、通信設備を破壊し、航空戦力を押さえる。これまでの訓練と実戦で培ってきた連携は、確かな力となっていた。
「敵の第二防衛線、完全に突破!」
「そのまま第三防衛線へ!」
「了解!」
ルード率いる陸軍部隊が進む。上空では第3魔導小隊が援護する。そのさらに先では、アリアとリリアの率いる第1、第2魔導小隊が敵航空機を相手にしていた。しかし敵陣へ進めば進むほど連邦軍の抵抗は激しくなっていった。
「敵砲兵、さらに増えています!」
「右側からも攻撃!」
地上から次々と砲撃が飛んでくる。さきほどまで優勢だった王国軍も、次第に足を止められ始めた。
『アリア大佐!』
ルードから通信が入る。
『前方の防衛線が予想以上に厚い!』
「突破できそうか?」
『時間をかければ可能ですが‥‥‥敵の増援が多すぎます!』
「了解。時間をかけてもいい。着実に突破しろ」
アリアは空から地上を見下ろした。敵陣は、まるで奥へ進むほど巨大になっているようだった。
「やっぱり、奥に予備戦力を残していたか」
リリアが応答する。
「それでも進むしかありません」
「そうだね」
アリアは魔導銃を握り直す。
「第1、第2魔導小隊! 我々は上空からの脅威を取り除く! 進むぞ」
「はい!」
その時。
「‥‥‥?」
通信士が突然声を上げた。
「アリア大佐!」
「何?」
「北東の空!」
アリアが振り返る。
遠く。
水平線の向こうから。無数の機影が現れていた。
一機。
二機。
十機。
二十機。
さらに増える。
「‥‥‥」
その数を見て、魔導士たちの間に緊張が走った。
「敵航空部隊!」
「数を確認!」
「およそ二個増強大隊規模!」
リリアが息を呑む。
「二個増強大隊‥‥‥?」
通常の航空部隊とは比較にならない規模だった。大量の戦闘機が編隊を組み、第51統合大隊へ向かってくる。
「第1、第2魔導小隊へ通達!」
アリアが叫ぶ。
「敵航空部隊を迎撃する!」
「了解!」
魔導士たちが一斉に高度を上げる。敵航空機もこちらへ向きを変えた。次の瞬間、空が一気に戦場になった。
「来るぞ!」
「散開!」
「右から三機!」
「こちらで抑えます!」
魔導士たちが箒を操りながら敵機を迎え撃つ。魔力弾が飛び交い、連邦軍機の機銃が空を切り裂く。
「一機撃墜!」
「こちらも!」
「左翼、援護!」
「敵機が多すぎる!」
最初のうちは、魔導士たちが優勢だった。しかし敵機の数があまりにも多い。一機を撃墜している間に、別の二機が迫ってくる。
「上!」
「避けろ!」
「くっ!」
魔導士たちは次々に散開させられる。リリアも敵機を一機撃墜した直後、別方向から迫った機体の攻撃をかわす。
「‥‥‥多すぎる!」
通信機から、隊員たちの声が飛び交う。
「弾薬残量、六割!」
「魔力、半分を切りました!」
「こちらも長くは持ちません!」
アリアは周囲を見渡す。敵はまだ大量にいる。こちらは疲労している。このままでは、少しずつ押し切られる。
「第1小隊、右翼へ!」
「了解!」
「第2小隊、左翼!」
「了解!」
アリアは部隊を左右に分ける。それでも敵機の波は止まらない。
「アリア大佐!」
リリアが叫ぶ。
「このままでは―――」
「分かってる!」
アリアの視線が、上空の敵航空機へ向く。
「‥‥‥なら」
魔力を集める。
「アリア大佐?」
「私がやる」
「まさか‥‥‥」
アリアの周囲の空気が変わった。大量の魔力が、体内から一気に引き出されていく。
「アリア大佐、待ってください!」
リリアが慌てる。あの時敵司令部で、大量の魔力を使った直後、アリアは重度の急性魔力欠乏症に陥った。今回も同じことになるかもしれない。
「魔力を使いすぎです!」
「大丈夫」
「でも!」
「大丈夫だ」
アリアは魔導銃を構える。銃身が強い魔力光を帯びる。
「第1、第2魔導小隊諸君。衝撃に備えよ」
魔導士たちが距離を取る。敵航空機が一斉に迫る。
数十機。
さらにその後ろにも機影が続いている。アリアは静かに狙いを定めた。
「‥‥‥今だ。分裂爆発魔法!」
一瞬、空が白く染まった。巨大な魔力弾が放たれる。それはまっすぐ敵の編隊へ突き進み―――。
閃光が広がった。放った弾丸が分裂し、それらが次々と敵航空機を巻き込みながら爆発していく。
「‥‥‥!」
リリアが目を見開く。敵航空機が次々と戦闘不能になっていく。
そして。
「十機撃墜!」
通信に驚きの声が響く。たった一撃。それだけで十機もの戦闘機が撃墜された。敵航空隊の編隊が大きく崩れる。
「敵が動揺しています!」
「今だ! 攻撃!」
魔導士たちが一斉に反撃する。連邦軍機が次々と散開する。先ほどまで押されていた第1、第2魔導小隊は、再び戦況を取り戻し始めた。
「アリア大佐!」
リリアが急いでアリアへ近づく。
「大丈夫ですか!?」
「うん」
「魔力は!?」
「問題ない」
アリアは何事もなかったかのように答える。
「‥‥‥本当に?」
「本当」
リリアはアリアの魔力状態を確認した。確かに以前のような異常な枯渇は見られない。
「‥‥‥あれ?」
リリアが首を傾げる。
「魔力保有量‥‥‥以前より増えてる?」
アリアは少し考える。
「たぶん」
「たぶんって‥‥‥」
「成長したからじゃない?」
「そんな簡単な話なんですか?」
「知らない」
アリアは再び敵航空隊を見る。
「でも、まだ戦える」
「‥‥‥」
リリアは複雑な顔をする。確かにあの頃のアリアとは違う。十四歳になったアリアは、身体の成長とともに魔力の総量も増加しているらしい。以前なら限界を超えていた魔力消費でも、今では十分に耐えられる。もっともリリアにとっては、少し安心できる話でもあった。
「‥‥‥よかった」
「何が?」
「また倒れるんじゃないかと思いました」
「大丈夫だよ」
アリアは小さく笑った。
「私は前より強くなってる」
「‥‥‥そうですね」
リリアも少し笑う。
「でも、無茶はほどほどにしてください」
「努力する」
「またそれですか」
二人は一瞬だけ笑った。しかしその先には、まだ大量の敵航空機が残っている。
「アリア大佐!」
「何?」
「敵が再編成しています!」
「分かった」
アリアは再び魔導銃を構えた。
「第1、第2魔導小隊!」
「はい!」
「ここからが本番だ」
「了解!」
魔導士たちが再び空へ散開する。地上では、第51統合大隊の陸軍部隊が前進を続けている。上空では、魔導部隊と連邦航空隊が激突する。敵陣の奥へ進めば進むほど、戦いは激しくなる。
それでも、第51統合大隊は止まらなかった。
捨て駒と呼ばれた部隊は、今日もまた、その意地を戦果に変えながら前へ進んでいた。




