第53話 「捨て駒の意地」②
作戦開始から1時間。第51統合大隊は、連邦軍防衛線の手前まで進出していた。
遠くには、連邦軍の防御陣地が見える。
塹壕。
砲兵陣地。
機関銃座。
そして―――その後方には、連邦軍の航空基地が確認されている。アリアは地図を広げ、リリアとルードに最後の作戦説明を行っていた。
「今回の作戦は、正面から全員で突っ込むわけではない」
アリアが地図上を指でなぞる。
「まず、魔導部隊が先行する」
第一段階。
魔導部隊による敵陣への攻撃。
「敵陣へ一気に攻撃を加え、敵が態勢を崩したところで―――」
指が地上部隊の位置へ移る。
「陸軍部隊が前進する」
「なるほど」
ルードが頷く。
「空から崩して、地上から食い込むわけですね」
「そう」
アリアは続ける。
「陸軍部隊が敵陣へ入り込んだ後、魔導部隊を二つに分ける」
地図上で二つの線が引かれる。
「第3魔導小隊は、陸軍部隊の上空援護。敵の地上部隊や砲兵を抑えてほしい」
「了解しました」
第3魔導小隊長のカイル少尉が頷く。アリアは残った二つの小隊を見る。
「そして、第1魔導小隊と第2魔導小隊は私とリリアが率いる」
リリアが頷く。
「任務は敵航空戦力の撃滅」
ルードが少し眉をひそめた。
「……大佐」
「何?」
「第1、第2魔導小隊の二個小隊だけで、敵航空戦力と戦うんですか?」
「そう」
「厳しくありませんか?」
ルードは地図を見る。
「敵の航空戦力が相当数残っている可能性があります。二個小隊では、数で圧倒される恐れがある」
アリアは少しだけ笑った。
「ルード少佐」
「はい」
「私たち元第10魔導中隊に空を飛ばせたら―――」
アリアは胸を張った。
「右に出るものはおらんよ」
「……」
リリアが思わず笑う。ルードは驚いたようにアリアを見た。
「アリア大佐、ずいぶん自信満々ですね」
「事実だから」
「まあ……確かに」
ルードは少し考えたあと、苦笑した。
「分かりました。大佐がそう言うなら、任せます」
「よし」
アリアは地図を畳んだ。
「それじゃあ、始めるぞ」
「了解!」
第51統合大隊が動き始める。最初に空へ上がったのは、第1、第2魔導小隊。アリアとリリアが先陣を切り、その後ろを魔導士たちが続く。
「高度を取れ」
「了解!」
「敵の防空陣地を確認!」
「よろしい。第一目標、砲兵陣地!」
魔導士たちが一斉に降下する。
「貫通魔法! 撃て!」
空から魔力弾が降り注ぐ。連邦軍の砲兵陣地が次々と沈黙していく。
「敵の砲撃、止まりました!」
「次!」
魔導部隊は休むことなく攻撃を続ける。
機関銃座。
観測所。
通信施設。
次々と連邦軍の防御拠点が攻撃されていく。
「連邦軍、混乱しています!」
「まだだ!」
アリアが叫ぶ。
「さらに奥へ!」
「了解!」
魔導士たちは一気に敵陣深くへ切り込む。まるで空を駆ける刃だった。
「今です! ルード少佐!」
リリアが通信機に向かって叫ぶ。
「全軍、前進!」
通信を聞いたルードの号令が響く。陸軍部隊が一斉に進撃を始めた。
「第二小隊は、正面だ! 第一小隊、右側を制圧しろ! 俺と一緒に第三小隊は左側だ!」
「了解!」
魔導部隊によって混乱した連邦軍は、陸軍の前進を止められない。
「敵の反撃!」
「魔導支援をする! 上空からの攻撃に注意しろ!」
今度はカイルが叫んだ。
「上空から来ます!」
第3魔導小隊が急降下する。
「敵機関銃座、確認!」
「撃て!」
魔導銃が火を噴く。陸軍部隊がその脇を通過する。
「道が開いた!」
「前進!」
「順調だな……」
ルードが呟く。作戦は、見事にはまっていた。魔導部隊が敵の頭上から防衛線を崩す。その直後に陸軍部隊が突入する。連邦軍は反撃しようとするものの、地上と上空の両方から攻撃を受け、対応しきれない。
「敵陣、第一防衛線突破!」
「続け!」
「第二防衛線へ!」
王国軍は順調に前進していく。
一方アリアとリリアが率いる第1、第2魔導小隊は、さらに高い高度へ上がっていた。
「そろそろ来ます」
リリアが空を見る。
「敵航空機を確認! 増強大隊程度です!」
遠くから機影が現れる。
一機。
二機。
さらに十数機。
連邦軍航空隊だった。
ルードなら、先ほどの懸念を再び口にしたかもしれない。だがアリアは笑った。
「来たか」
「第1、第2魔導小隊!」
アリアが叫ぶ。
「ここからは私たちの仕事だ! 行くぞ!」
「了解!」
魔導士たちが一斉に散開する。敵航空機が接近する。
だが箒に乗った魔導士たちは、航空機とは違う動きを見せた。
急旋回。
急上昇。
急降下。
小回りの利く箒による複雑な機動。
「右!」
「上から来ます!」
「分かってる!」
リリアが敵機の側面へ回り込む。
「今!」
魔力弾が飛ぶ。一機目。さらに別の魔導士が二機目を狙う。
「撃墜!」
「次!」
アリア自身も敵機の間をすり抜ける。
「遅い」
分裂魔法によって放たれた魔力弾に敵機が大きく傾く。
「一機撃墜!」
通信に次々と報告が入る。
「敵の編隊が崩れています!」
「そのまま追い込め!」
最初は数で勝っていた連邦航空隊だった。しかし空中戦が始まってわずかな時間で、形勢は逆転した。
「第1小隊、左!」
「了解!」
「第2小隊、右!」
「了解!」
アリアとリリアが中央へ入り、二つの小隊が左右から敵を挟み込む。連邦軍機が逃げようとする。
「逃がすな! リリア!分裂魔法を使えるか!?」
「行けます!」
「じゃあ、私に合わせろ!」
リリアとアリアは並んで航空機に照準を合わせる。
「てぇぇ!」
二人の放った弾丸は編隊を再編成した航空機に一気に命中していく。
「第1、第2小隊! 貫通魔法だ! てぇぇ!」
アリアの合図で魔導士たちが一斉に追撃する。敵航空戦力は次々に戦闘空域から離脱していった。
一方、その下では。
「第二防衛線、突破!」
「敵部隊、後退しています!」
ルード率いる陸軍部隊も前進を続けていた。上空からの脅威が減ったことで、地上部隊の進撃速度はさらに上がる。
「このまま第三防衛線まで行く!」
「了解!」
魔導部隊と陸軍部隊。二つの戦力が互いの力を引き出しながら、連邦軍の防衛線を次々と突破していく。それはまさに、統合大隊という名にふさわしい戦いだった。
かつて互いに反発していた魔導士と陸軍兵士が、今では、互いの背中を守っている。
そして、その先頭を飛ぶアリアは。
「……これが第51統合大隊だ」
小さく呟いた。
総司令部から敵の司令塔を逃したことの責任を転嫁され、捨て駒とされた部隊。
しかし捨て駒になるつもりなど、誰一人としてなかった。戦場に確かな戦果という花を咲かせるために、第51統合大隊は、さらに深く敵陣へ進撃していった。




