第52話 「捨て駒の意地」①
翌朝。
第51統合大隊の駐屯地。早朝から、隊員たちは広場へ集められていた。
魔導部隊。
陸軍部隊。
どちらも整然と並んでいる。しかし、その表情にはどこか重いものがあった。昨日伝えられた新たな作戦。第51統合大隊だけで連邦軍の防衛網へ突入し、可能な限り大きな損害を与える。支援部隊はなく、明確な撤退条件もなし。
どう考えても、正気でいられるような作戦ではなかった。
「総員、傾注!」
リリアの号令が響く。隊員たちが一斉に姿勢を正す。
やがてアリアが前へ出た。大佐の階級章が、朝日に照らされる。その隣にはリリア。そして、少し離れた場所にはルードが立っている。アリアはしばらく、全員の顔を見渡した。誰もが不安を抱えている。それは当然だった。しかしアリアは口元に、ほんの少し笑みを浮かべた。
「大隊諸君。昨日、総司令部から新たな作戦命令を受けた」
隊員たちの表情が引き締まる。
「内容はリリア少佐とルード少佐から聞いたな?」
「はっ!」
「なら、改めて言おう」
アリアは一度、空を見上げる。
「どうやら総司令部は―――」
少し間を置く。
「我々を捨て駒にするらしい」
ざわめきが走る。しかし、アリアは気にしない。
「支援はなし、撤退基準も曖昧で、敵の防衛網へ大隊単独で突入しろ、と来た」
アリアは肩をすくめる。
「まったく、随分と景気のいい命令を考えてくださったものだ」
数人の隊員から、苦笑が漏れる。リリアも思わず口元を緩める。アリアは再び前を向く。
「だが―――」
声が変わった。先ほどまでの軽さが消える。
「何にせよ、我々がすることは一つだ」
隊員たちがアリアを見る。
「戦場に、戦果という花を咲かせる」
静かな声。しかし、全員に届く。
「そして―――」
アリアが魔導銃を肩に担ぐ。
「共産主義者どもを、駆逐してやろうではないか!」
「……!」
一気に空気が変わった。
「どうせ捨て駒として扱うというのなら―――」
アリアは笑う。
「捨て駒には、捨て駒の意地がある」
その言葉に、隊員たちの目に少しずつ闘志が戻っていく。
「ただでは終わらない。ただでは使い潰されない。総司令部が我々を必要としないというのなら―――」
アリアは前を指差した。
「我々の価値を、戦場で思い知らせてやれ! そして―――」
声を張り上げる。
「総司令部に、我々に頼るほかないと認めさせてやろうではないか!」
「おおおおおおっ!」
第51統合大隊から、凄まじい歓声が上がった。魔導士も陸軍兵士も今抱えている不満や不安を吹き飛ばすように、声を上げる。
「やってやるぞ!」
「第51統合大隊の力を見せてやれ!」
「絶対に生きて帰るぞ!」
ルードも拳を握る。
「大佐!」
「何だ?」
「我々も、全力を尽くします!」
「期待している」
アリアは頷いた。リリアも隊員たちを見る。その表情から、先ほどまでの不安は消えていた。リリアは心の内で感心した。自分より年下のアリアの方が、人をまとめる力を持っている。そして人を勇気づける力も、奮起させる力も。アリアがもう一度口を開く。
「ただし!」
歓声が止まる。
「忘れるな。確かに我々は勝つために戦う。だが、それ以上に―――」
アリアの目が鋭くなる。
「生きて帰る。国のために命を捨てるなど、糞くらえだ!」
隊員たちが一斉に頷いた。
「了解!」
「よし」
アリアは満足そうに頷く。
「今日の午後から、最終準備に入る。各小隊は装備を確認。魔導部隊は飛行具と魔導銃の整備。陸軍部隊は弾薬と防護装備を確しろ。明日の朝には全員出られる状態にしておけ」
「了解!」
こうして第51統合大隊は、総司令部から与えられた「捨て駒」のような任務へ向けて準備を始めた。
しかし隊員たちの胸に、もう迷いはなかった。
捨て駒になるのならただ消耗されるだけの部隊では終わらない。その存在を、戦場そのもので証明する。
*
作戦決行日がやってきた。
夜明け前。まだ薄暗い空の下。第51統合大隊は、出撃準備を完了していた。魔導士たちは箒を手に、陸軍兵士たちは装備を身につけ、全員が出撃を待っている。アリアは先頭に立っていた。
「……行くぞ」
「はい!」
第51統合大隊。捨て駒とされた部隊の、意地を懸けた戦いが始まろうとしていた。




