第48話 「首都制圧作戦」②
連邦首都。
大統領府と連邦軍総司令部を制圧した第51統合大隊は、ようやく一息つく間を得ていた。
「こちら、捕虜を確認しました!」
陸軍兵士から報告が入る。
「分かった」
アリアは大統領府の前へ向かった。そこには、武器を置いて投降した連邦軍兵士たちが集められている。兵士たちは皆、疲れ切った表情を浮かべていた。
「人数は?」
「現在確認できているのは三十数名です」
「負傷者は?」
「軽傷者が数名。軍医が対応しています」
「そう」
アリアは頷いた。捕虜となった連邦軍兵士たちは、静かに地面へ座らされている。その中には下士官らしき人物もいる。
しかし―――。
「‥‥‥」
アリアは、捕虜たちを一人ずつ見ていった。何かがおかしい。
「リリア」
「はい」
「この中に将校は?」
「少し待ってください」
リリアが名簿を確認する。
「‥‥‥少尉が二名。中尉が一名です」
「それだけ?」
「はい」
アリアは周囲を見る。
大統領府。
連邦軍総司令部。
そして、首都中心部。ここは連邦の国家中枢だ。それなのに。
「大佐以上は?」
「確認できません」
「将軍は?」
「‥‥‥いません」
「政府関係者は?」
「確認できていません」
アリアの表情が変わる。
「‥‥‥おかしい」
リリアもそれに気づいた。
「確かに‥‥‥」
「国家の中枢を攻撃した」
アリアは大統領府を見る。
「なのに、要職に就いている者が一人もいない」
ルードもやって来た。
「どうかしましたか、大佐」
「捕虜を見て」
「‥‥‥?」
ルードが捕虜たちを見る。
「将校が少なすぎる、と言うかいませんね」
「そう」
アリアは答える。
「ここは大統領府だ。連邦軍総司令部もある。それにしては、最高幹部が誰もいない」
「はい」
ルードも考え込む。
「まさか‥‥‥」
「何?」
「逃げた?」
アリアはすぐには答えなかった。
「その可能性が高い」
しかしその場合、どこへ行ったのか。アリアは地図を広げる。
連邦首都。
東部戦線。
そして北側へ延びる道路。
「‥‥‥待って」
アリアが何かに気づいた。
「今、前線は?」
「王国軍による大規模攻勢が始まっています」
リリアが答える。
「東部戦線だけじゃない」
アリアは北側を見る。首都北方には、連邦軍の守備が比較的薄い地域がある。そこには、王国軍があえて大部隊を投入していない。
その代わり王国軍第3陸軍大隊の残り五個小隊と第21陸軍中隊。彼らが守備の薄い地域を縫うように進軍していた。目的はもちろん連邦首都への挟撃。
「‥‥‥地上部隊が来ている」
アリアが呟く。
「はい。先ほど、北側から接近中との報告がありました」
リリアが答える。アリアは地図を見つめる。そして、もう一度捕虜を見る。
「なら‥‥‥」
アリアの目が細くなった。
「最高司令部の人間は、最初から首都にいなかったんじゃないか?」
「‥‥‥!」
ルードも地図を見る。
「首都を放棄することを想定していた?」
「あるいは」
アリアは続ける。
「首都が陥落した時に備えて、別の場所へ指揮機能を移していた」
リリアの顔が強張る。
「じゃあ、大統領は‥‥‥」
「分からない」
アリアは首を振る。
「だが、ここにいないことだけは確かだ」
*
一方、その頃。東部戦線。
「全軍、前進!」
王国軍の大規模攻勢が始まっていた。砲兵隊が一斉に砲撃を開始する。航空機部隊が連邦軍陣地上空へ進出する。陸軍部隊が前線へ押し寄せる。連邦軍も必死に抵抗する。
「敵陣を突破しろ!」
「第一防衛線を突破!」
「第二陣、前へ!」
王国軍は、これまでにない規模で攻撃を行っていた。それは単なる陽動ではない。首都攻撃を成功させるために、連邦軍の主力を東部戦線へ引きつけるための大攻勢だった。さらに その戦線の北側。連邦軍の防衛が薄い地域。
「進め!」
第3陸軍大隊の残り五個小隊が進む。その後方には、第21陸軍中隊。
「敵の姿は?」
「ほとんどありません!」
「なら、そのまま進め!」
彼らは大きな戦闘を避けながら、首都へ向かっていた。連邦軍は東部戦線への対応に追われている。そして首都も、第51統合大隊によって制圧された。王国軍は着実に、連邦を包囲しつつあった。
*
首都内部。アリアは地図を見つめたまま、動かなかった。
「‥‥‥おかしい」
「何がですか?」
リリアが尋ねる。
「簡単すぎる」
アリアは答えた。
「首都の防衛が手薄だった」
「はい」
「警備部隊の規模も大きくなかった」
「はい」
「そして、大統領府と総司令部を取ったのに、主要人物が誰もいない」
アリアの目が鋭くなる。
「これは偶然じゃない」
「‥‥‥」
「敵は、何かを隠している」
ルードが地図を指す。
「北側へ逃げた可能性は?」
「ある」
アリアは頷く。
「でも、それだけじゃない」
「では‥‥‥?」
アリアは首都周辺の地図をじっと見つめた。連邦の政治中枢を制圧した。軍事中枢も制圧した。それなのに、戦争を終わらせるべき人物が誰もいない。ならば。
「‥‥‥まだどこかに本当の司令部がある」
アリアは小さく呟いた。
「この国は、首都を失っても戦えるようにしている」
リリアが息を呑む。
「では、私たちが制圧したのは‥‥‥」
「囮かもしれない」
その言葉に、三人の表情が変わる。首都制圧作戦は成功した。そう思っていた。だが本当の戦争は、まだ終わっていなかった。




