第47話 「首都制圧作戦」①
ミレーヌ連邦首都。王国軍は、ついに首都内部へ侵入していた。
街の中心部には、連邦政府の中枢機関が集中している。大統領府に連邦軍総司令部、各省庁の庁舎。そして、政府関係者が勤務する施設。反対にこの一帯には一般市民の居住区は存在しない。連邦の政治と軍事を司る、まさに国家の中心だった。第51統合大隊は、その区域の制圧を任務としている。
「大隊各部隊、配置完了」
リリアから通信が入る。
「地上部隊、問題ありません」
ルードからも報告が返ってくる。アリアは大統領府と、その奥にある連邦軍総司令部を見つめていた。
「‥‥‥ここまで来たか」
小さく呟く。周囲には敵兵の姿が見える。しかし、これまでの戦闘で見てきたものとは違う。敵も自国の中枢を守るため、最後の抵抗を見せようとしている。アリアは通信機を手に取った。
「リリア」
「はい」
「この周辺に、敵の非戦闘員はいないんだな?」
リリアは周囲を確認する。
「はい」
即答だった。
「この一帯は政府機関と軍事施設が集中していて、民間人の居住区域はありません」
「避難の必要がある者は?」
「確認されていません」
「‥‥‥分かった」
アリアは少しだけ息を吐く。今回の作戦では、ヴァレンティ―ノ戦時国際法に基づき、戦闘区域へ攻撃を行う前に避難警告を発する必要がある。たとえ敵国であろうと、戦闘に関係のない人々を巻き込まない。それは主権国家にとっていくら戦時下においてでも守るべき原則だった。
「これから警告を出す」
アリアが通信機を手にする。
「全部隊、一時待機」
「了解」
周囲の王国軍部隊が攻撃を止める。敵もまた、突然静かになった王国軍を警戒する。
「‥‥‥?」
連邦軍兵士たちが周囲を見回す。何が起こるのか分からない。そして。大統領府の前、アリアが大きく息を吸った。
「ミレーヌ連邦の皆さん!」
通信機を通して、首都中心部へ声が響く。その瞬間。統合大隊の面々は目を見張った。アリアの出した声は、普段の威厳ある大佐のものとはまるで違った。子供が大声で呼びかけるような、妙に幼い声。
「これから、の中心部を攻撃することをヴァレンティ―ノ戦時国際法に基づき、警告します。 この警告より攻撃対象地にいる者は戦闘員とみなし、攻撃を加えます! 繰り返します!」
アリアはわざと子供っぽい声を張り上げる。その声は、連邦軍の防衛部隊にも届いた。
「‥‥‥何だ?」
「子供?」
「王国軍の声か?」
連邦軍兵士たちの間に戸惑いが広がる。中には、思わず緊張を緩める者もいた。
「本当に攻撃してくるのか?」
「子供のいたずらだろう」
アリアは声を止めた。そして。
「―――警告終了」
声が変わる。完全にいつもの大佐の声だった。
「第51統合大隊」
「攻撃開始」
「了解!」
次の瞬間、空から魔導部隊が一斉に降下した。同時に、地上の陸軍部隊も動き出す。
「前進!」
「敵陣を突破しろ!」
「第1陸軍小隊は左側を制圧だ!」
「了解!」
連邦軍は完全に不意を突かれた。
「攻撃だ!」
「敵が来るぞ!」
「応戦しろ!」
しかし、つい先ほどまで聞こえていた幼い声のせいで、わずかに生じていた油断。それが致命的だった。
「魔導部隊、上空へ!」
アリアが先頭を飛ぶ。
「敵の防衛線を押し下げろ!」
「はい!」
魔導士たちが一斉に攻撃を開始する。地上では陸軍部隊が建物の周囲を制圧していく。
「左側、確保!」
「右側も!」
「敵部隊が後退しています!」
「追い込みすぎるな!」
アリアは常に全体を見ながら指示を出していた。
「リリア!」
「はい!」
「大統領府へ!」
「了解!」
リリア率いる部隊が大統領府へ向かう。正面入口。連邦軍の兵士たちが最後の防衛線を作っている。
「敵が集まっています!」
「第1魔導小隊、上から押さえる!」
「はい!」
魔導士たちが上空から敵の動きを封じる。その隙を逃さず、陸軍部隊が前進する。
「突入!」
「了解!」
建物内部へ王国軍が進入する。連邦軍も抵抗を続ける。しかし、既に統制は崩れていた。
「二階、確保!」
「三階、異常なし!」
「大統領府中央部へ到達!」
アリアが周囲を確認する。
「無理に追うな」
「目的は制圧だ」
「敵を全員倒す必要はない」
「了解!」
アリアは次に、別方向を見る。そこには連邦軍総司令部がある。
「ルード少佐」
『はい!』
「総司令部を頼む」
『了解!』
「第3魔導小隊は上空援護だ!」
陸軍部隊が、総司令部へ向かって進撃を始める。その上空を魔導士たちが援護する。
「敵の反撃!」
『こちらで抑えます!』
「任せた」
アリアもその区域へ向かう。
通信施設。
指揮所。
警備隊。
次々と連邦軍の抵抗拠点が制圧されていく。
『アリア大佐!』
「何?」
『連邦軍総司令部、制圧完了!』
アリアの目がわずかに見開かれる。
「大統領府は?」
『こちらも制圧完了!』
リリアから通信が入った。
『大きな抵抗はありましたが、こちらの損害はほとんどありません!』
「‥‥‥そう」
アリアはゆっくりと息を吐いた。作戦は成功している。しかも大隊に大きな損害を出すことなく、敵の国家中枢を奪取した。
「全隊へ」
アリアが通信する。
「大統領府、連邦軍総司令部の制圧を確認」
一瞬の沈黙。
「我々は、第一段階の任務を達成した」
「よくやった」
通信機の向こうから歓声が上がる。
「やった!」
「成功だ!」
「大統領府を取ったぞ!」
アリアは周囲を見る。王国旗が、大統領府の上へ掲げられていく。連邦の国家中枢。それが、王国軍の手に落ちた。アリアはその光景を静かに見つめていた。まだ戦争が終わったわけではない。連邦軍のすべてが降伏したわけでもない。それでも今日、確実に歴史は動いた。
「‥‥‥第一段階、成功」
アリアは本国へ通信を入れた。
その声にはこれまでとは違う、わずかな確信が込められていた。




