第42話 「共に戦うということ」①
翌朝。
第51統合大隊の訓練場。夜明けとともに、訓練が始まっていた。
「総員、配置につけ!」
「はい!」
リリアの声が響く。魔導部隊は箒を手に取る。陸軍部隊は装備を確認し、整列する。しかし昨日までとは、明らかに様子が違っていた。
「右の第2陸軍小隊、展開を早めろ!」
「了解!」
「降下後はそのまま第一集合地点へ!」
「はい!」
陸軍兵士たちは、誰一人として不満を口にしなかった。魔導部隊が空へ上がる。その動きに合わせて、陸軍部隊も地上から前進する。
「魔導支援、開始!」
「了解!」
上空からの模擬射撃に合わせ、地上部隊が敵役の陣地へ突入していく。
「左翼、敵役が動いた!」
「第二小隊、対応!」
「了解!」
昨日までならば、互いに勝手な動きをしていた。
魔導部隊は魔導部隊。
陸軍部隊は陸軍部隊。
そんな意識がはっきりと存在していた。
しかし今日の陸軍部隊は違った。魔導部隊の動きを確認しながら、自分たちの位置を調整する。魔導士が援護に入れば、その隙に前進する。魔導士が敵役を引きつければ、地上から別の目標を確保する。まるで昨日までとは別の部隊のようだった。その様子を、訓練場の端からアリアが見つめていた。
「……」
アリアは腕を組み、満足そうに頷く。
「いい」
隣に立つリリアも、陸軍部隊の様子を見る。
「本当に変わりましたね」
「うん」
「昨日まで、あんなに不満そうだったのに」
「昨日、分かったんだろう」
「何がです?」
「自分たちだけで戦っても勝てないって」
アリアは淡々と答える。
「それに気づいたなら十分だ」
「……なるほど」
しばらくして、訓練の第一段階が終了した。
「そこまで!」
リリアが叫ぶ。隊員たちが一斉に動きを止める。
「今日の訓練は調子がよさそうだな」
アリアが口を開いた。
「特に陸軍部隊。魔導部隊との連携が格段に良くなっている。この調子で頑張ってくれ」
「はい!」
陸軍兵士たちの返事も、以前とは比べものにならないほど揃っていた。アリアはその様子を見ながら、少しだけ口元を緩める。その横で、リリアが首を傾げた。
「……これで良かったんですかねぇ」
「何が?」
「昨日の模擬戦ですよ」
リリアは苦笑する。
「かなり厳しい言い方をしていましたよね」
「そうだった?」
「そうですよ」
「別にいいのだよ」
アリアは陸軍部隊の訓練を眺めながら答える。
「ああいう連中には、あれが一番さ」
「……」
「言葉だけで分からないなら、実際に自分たちで経験するしかない」
リリアは少し考える。
「確かに、昨日の模擬戦が終わってから、みんな明らかに変わりました」
「うん」
「でも、あんなに怒らせて大丈夫かなって……」
「怒ってもいい」
アリアは即答する。
「悔しがってもいい」
「……」
「重要なのは、その感情を次に生かせるかどうかだ」
アリアは陸軍兵士たちを見る。
「昨日負けたことを恥じる必要はない。今日、同じ失敗を繰り返す方が問題だ」
「なるほど」
リリアは微笑む。
「じゃあ、アリア大佐としては満足?」
「まあまあ」
「まあまあ?」
「まだ足りない」
リリアは思わず苦笑した。
「やっぱり厳しいなあ」
「敵の首都へ行くんだから、当然」
アリアは空を見上げる。あと一か月もない。その間に、第51統合大隊を一つの部隊として完成させなければならない。
魔導士と陸軍兵。
出身も、戦い方も、価値観もそれぞれ違う者たち。
「……一緒に戦えるようになればいい」
アリアが呟く。
「それができれば、この大隊は強い」
「はい」
リリアも頷いた。訓練場では、再び号令が響いた。
「次の訓練に移る。各員準備!」
「了解!」
魔導部隊が飛び上がる。陸軍部隊がその後に続く。今度は、誰一人として互いを疑っていなかった。まだ完全な信頼とはいえない。しかし少なくとも彼らは、同じ方向を向き始めていた。
第51統合大隊。
それは少しずつ、本当の意味で「統合」され始めていた。
*
それから、一週間。第51統合大隊に遺された時間はわずかに2週間だった。最初の頃とは、部隊の雰囲気も大きく変わっている。魔導部隊と陸軍部隊は、今では互いに声を掛け合うようになっていた。訓練中に魔導士が上空から支援すれば、地上の陸軍兵士がそれに合わせて前進する。陸軍部隊が敵役の注意を引けば、魔導部隊が側面へ回り込む。一方が失敗すれば、もう一方がすぐに援護する。少なくとも「魔導軍」と「陸軍」という二つの部隊ではなく、同じ第51統合大隊として動けるようになりつつあった。しかしアリアには一つだけ気になっていることがあった。
「……まだ足りない」
訓練場の端。模擬戦を終えた隊員たちを見ながら、アリアが呟く。
「何がです?」
隣に立つリリアが尋ねる。
「実戦経験」
「……」
「訓練では、どうしても限界がある」
アリアは戦場を見つめるように、遠くへ視線を向けた。
「本物の砲撃を聞いた時」
「敵の攻撃が自分へ向かってきた時」
「仲間が隣で撃たれた時」
「その時に、訓練通り動けるかどうかは実際に経験しなければ分からない」
リリアも頷く。
「確かに……」
第51統合大隊は、連邦首都攻略という極めて重要な任務を任されている。その部隊に、実戦経験のない兵士を大量に送り込むわけにはいかない。
「総司令部へお願いしてみるか」
「何をですか?」
「実戦を積ませたい」
リリアが目を見開く。
「どこかの戦線へ?」
「うん」
「もうすぐ首都攻略作戦なのに?」
「だからこそ」
アリアは即答した。
「実戦を経験したうえで、最後の二週間を仕上げたい」
「……なるほど」




