第38話 「統合大隊」②
それから数日。
第51統合大隊の錬成が始まった。アリアが立てた訓練計画は、想像以上に厳しかった。魔導士は飛行しながらの射撃。陸軍兵士は空挺降下後の迅速な展開。そして双方が合流してからの共同戦闘。首都攻略を想定し、空と地上から同時に敵陣へ攻め込むための訓練だった。当然、魔導軍側と陸軍側では得意分野が違う。
「実際の作戦では、まず陸軍部隊の着地地点を魔導部隊が制圧。その後、魔導士は航空機を相手にしつつ、空中から拠点の制圧と陸軍部隊の支援。空挺降下して着地した陸軍部隊は地上から敵拠点を制圧する」
アリアが説明する。
「理解したな?」
「はい!」
第10魔導中隊の隊員たちは即座に返事をする。しかし、陸軍側からは返事は無かった。
「どうした?」
アリアが尋ねる。
「何でもありません」
ルードが答える。だが、アリアには分かっていた。何度訓練しても、陸軍側の一部には不満が残っている。魔導士を特別扱いしている。十二歳の少女に指揮されるのは納得できない。 自分たちのやり方のほうが正しい。そんな感情が、態度の端々に表れていた。そして、それは次第に露骨になっていった。
「また魔導部隊中心の訓練かよ」
「陸軍のことなんて何も分かってないくせに」
「大佐だか何だか知らないが、子供に命令されるなんてな」
訓練場の隅から聞こえてくる声。第10魔導中隊の隊員たちも、それを聞いていた。
「‥‥‥」
拳を握る者。睨み返す者。しかし、アリアからは何の指示もない。だから、魔導士たちは耐えていた。リリアもまた、何度も仲間をなだめていた。
「今は我慢して」
「でもリリア少佐‥‥‥」
「分かってる」
リリアは陸軍側を見る。
「アリア大佐も、きっと考えがあるから」
そんな日々が続いた。やがて魔導士側の我慢も限界に近づいていた。
ある日の夕方。アリアとリリアの執務室。扉が勢いよく開いた。
「アリア大佐!」
数名の魔導士が入ってくる。リリアが驚いて立ち上がる。
「どうしたんですか?」
「もう我慢できません!」
一人が叫ぶ。
「陸軍の連中、何なんですか!」
「何かと俺たちに突っかかってくる!」
「今日だって――」
「落ち着いて」
アリアが静かに言った。しかし魔導士たちは止まらない。
「大佐!」
別の隊員が言う。
「決闘させてください!」
「‥‥‥」
リリアが目を見開く。
「決闘って‥‥‥」
「俺たちと陸軍の連中で、一対一でも小隊戦でもいい!」
「どっちが強いか、はっきりさせればいいんです!」
アリアは黙って彼らを見る。しばらくして口元が、わずかに上がった。かつて士官学校時代。模擬戦で攻撃を受けた際に浮かべた、あの笑み。
「‥‥‥いいね」
「え?」
魔導士たちが目を輝かせる。
「貴官らの気持ちも分かる。しかし今は手を出すな」
「‥‥‥!」
アリアは笑みを消さないまま言った。
「決闘はしない」
「でも!」
「今やれば、大隊が壊れる」
アリアは机の上の書類を見る。
「私たちはあと一か月で首都へ行く」
「‥‥‥」
「その前に、仲間同士で潰し合ってどうする」
魔導士たちは黙った。
「不満なのは分かる」
アリアは続ける。
「だが、怒りに任せて動けば、相手と同じになる」
「‥‥‥はい」
「今は手を出すな」
「分かりました」
魔導士たちは渋々敬礼して退出していく。静かに扉が閉まる。リリアがアリアを見る。
「‥‥‥いいんですか?」
「何が?」
「さっき、ちょっと楽しそうでしたよね」
「そう?」
「そうです」
アリアは少し笑った。
「でも、本当に今は手を出すつもりはない」
「それなら安心しました」
リリアはそう言いながらも、これはまたひと悶着ありそうだなと心の内で思うのだった。
*
その数日後。今度は陸軍側に動きがあった。朝の訓示でその日の訓練内容が発表される。
「本日の訓練は、魔導部隊と陸軍部隊による共同戦闘訓練」
アリアが説明する。
「想定敵部隊を突破し、指定地点を確保する。その後、魔導部隊が上空から支援する。陸軍部隊は地上から目標地点を制圧する」
魔導士たちは頷いた。
「‥‥‥」
陸軍部隊から返事がない。
「集合時刻は?」
「午前八時です」
リリアが答える。午前八時はすでに過ぎている。
「陸軍部隊が来ません」
隊員の一人が報告する。
「‥‥‥そう」
アリアは時計を見る。十分、二十分と時間が過ぎていく。それでも来ない。やがて連絡が入る。
「第3陸軍大隊の二個小隊、今日の訓練を欠席するそうです」
「理由は?」
「‥‥‥体調不良者が多い、と」
リリアが眉をひそめる。
「昨日は全員元気でしたよね」
「そうだね」
アリアは静かに答えた。
「なるほど」
「アリア大佐?」
アリアが立ち上がる。
「訓練は中止する」
「え?」
魔導士たちが驚く。しかしアリアは少しだけ口元を上げた。
「その代わり」
隊員たちを見る。
「模擬戦と行こうではないか」
「‥‥‥!」
魔導士たちの目が輝く。
「陸軍部隊と?」
「そう」
アリアは淡々と言った。
「訓練をサボるくらいなら、実力で理解してもらう」
リリアが頭を抱える。
「アリア大佐‥‥‥」
「何?」
「まさか、本当にやるつもりですか?」
「もちろん」
アリアは楽しそうに笑った。
「せっかく向こうからキッカケをくれたんだ」
こうして第51統合大隊の本格的な対立が、模擬戦という形で始まろうとしていた。
「統合大隊」は④まで続きます。
第39話「統合大隊」③は明日12時半、第40話「統合大隊」④は明日18時半に投稿!
今日21時半には、番外編の単話を投稿します! 是非お読みください。




