第36話 「終わりの見えない戦い」③
翌日。
王都。王国軍総司令部。
朝早く、一台の軍用車両が総司令部の正門前へ到着した。車両から降りたのは、二人の少女。アリアとリリアだった。
「アリア少佐」
「何?」
「今日の召集、一体何でしょうね」
「分からない」
アリアはいつも通りの表情で答える。
「でも、総司令部から直接呼ばれたんだから、普通の話じゃないと思う」
「‥‥‥そうですね」
二人は建物へ入る。受付を済ませると、案内役の士官が待っていた。
「アリア少佐、リリア大尉。こちらへ」
「了解」
二人は士官の後について歩いていく。やがて、いつもの作戦参謀室ではなく、大きな会議室の前で足を止めた。
「こちらでお待ちください」
「分かりました」
士官が扉を開く。
「失礼します」
二人が入室する。そこには、陸軍、海軍、空軍、魔導軍、それぞれの上級将校が集まっていた。昨日までの会議と同じ顔ぶれもいる。そして、その中にはフランの姿もあった。
「アリア」
「フラン」
「座って」
「はい」
二人が席につく。しばらくして、会議を取り仕切る将校が立ち上がった。
「アリア少佐、リリア大尉」
「はい」
「本日、二人に伝えるのは、王国軍の今後を左右する重要な命令だ」
アリアの表情がわずかに引き締まる。
「先日、総司令部において一つの作戦が決定された」
将校が地図を広げる。そこには、ミレーヌ連邦の首都が記されていた。
「連邦首都への直接攻撃だ」
「‥‥‥」
アリアは静かに地図を見る。自分がフランへ進言したものと同じ作戦。リリアも地図を見つめている。
「この作戦を実施するにあたり、王国軍は新たな統合部隊を編成する」
将校が一枚の辞令を取り出した。
「部隊名称は、第51統合大隊」
「第51統合大隊‥‥‥」
「そうだ」
将校は説明を続ける。
「第10魔導中隊を基幹とし、第3陸軍大隊から二個小隊を編入。魔導軍と陸軍による混成部隊とする」
「そして」
別の資料が二人の前へ置かれる。
「この部隊に、先ほど説明した首都攻略作戦を任せる」
アリアは資料へ目を通す。任務内容。首都周辺への空挺降下を行い、敵防空戦力の排除。そして地上部隊との連携し、首都の主要軍事拠点の制圧。必要に応じた敵司令部の破壊。 さらには地上部隊との合流を経て、挟撃。いずれも極めて重要な任務だった。
「‥‥‥分かりました」
アリアが答える。すると、将校はさらに一枚の辞令を取り出した。
「次に、人事について伝える」
二人が顔を上げる。
「第51統合大隊大隊長に、アリア少佐を任命する」
「‥‥‥!」
リリアが目を見開く。アリア自身は少しだけ目を動かしただけだった。
「さらに、大隊長就任に伴い――」
将校は一呼吸置く。
「アリア少佐を大佐へ昇進させる」
会議室が静かになる。十二歳で大佐。王国軍史上でも、極めて異例の人事だった。
「了解しました」
アリアは淡々と敬礼する。
「そして」
将校は次の辞令を見る。
「第51統合大隊副大隊長兼大隊長副官に、リリア大尉を任命する」
「‥‥‥!」
リリアが姿勢を正す。
「それに伴い、リリア大尉を少佐へ昇進させる」
「はっ!」
リリアが敬礼する。
「二人とも、異例の昇進になる」
「承知しています」
アリアが答えた。
「しかし、今回の作戦には君たち二人の指揮能力が必要だ」
総司令部の将校が続ける。
「第10魔導中隊のこれまでの戦果は、我々も高く評価している」
「‥‥‥ありがとうございます」
「そして第51統合大隊の編成、教育を君たちに任せたい」
アリアは資料を見つめた。
「編成?」
「そうだ」
「つまり」
「新たに加わる陸軍二個小隊を含め、第51統合大隊を一個の部隊として錬成してほしい」
アリアは少し考えた。魔導士と陸軍兵士。戦術思想も装備も違う。それを一つの部隊としてまとめなければならない。
「アリア大佐」
「はい」
「部隊の錬成には、どれほどの期間が必要だ?」
アリアは即座に答えなかった。机の上の資料を確認する。
編成。
装備。
飛行訓練。
地上戦闘。
魔導士と歩兵の連携。
空挺降下。
首都攻略を想定した市街戦訓練。
そして、実戦を想定した総合演習。
「一か月」
アリアが答えた。会議室の数人が顔を見合わせる。
「一か月で可能か?」
「可能です」
即答だった。
「本当に?」
「これまで第10魔導中隊を三か月で錬成しました」
アリアは静かに続ける。
「今回は、すでに軍務経験のある兵士が中心です」
「‥‥‥」
「一か月あれば十分です」
その言葉に、総司令部側から反対意見は出なかった。むしろ。
「分かった」
すぐに承認される。
「第51統合大隊の錬成期間は一か月とする」
「ありがとうございます」
アリアが敬礼する。
「必要な施設、人員、装備については可能な限り優先して用意する」
「了解しました」
フランも静かにアリアを見る。その目には、少しだけ複雑な感情が浮かんでいる。また、この子が前線へ出る。今度は中隊ではない。大隊を率いる。それも、王国軍が戦争を終わらせるための重要作戦の中核だ。
「以上で人事と編成についての説明を終える」
議長が告げる。
「第51統合大隊には、大きな期待をしている」
「必ず任務を遂行します」
アリアが答える。リリアも続いた。
「私も、大隊長を支えます」
そして二人は同時に敬礼した。会議が終わる。しかし、二人が部屋を出ようとした時。
「アリア」
フランから声がかかる。
「何?」
「大佐になったからって、無茶をしていい理由にはならないわよ」
アリアは少しだけ目を細める。
「分かってる」
「本当に?」
「‥‥‥たぶん」
「そこは『はい』と言いなさい」
リリアが思わず笑う。
「ふふっ」
「リリアまで笑わないで」
「すみません、アリア大佐」
その呼び方を聞いて、アリアは少しだけ変な顔をした。これまでずっと「アリア少佐」だった。今日からは違う。
「‥‥‥慣れないな」
「私もです」
リリアも笑う。
「大尉と呼ばれていたのが、今日から気づいたら私も少佐ですから」
「そうだね」
二人は会議室を出る。これから一か月。第10魔導中隊は、第51統合大隊へと姿を変える。そして王国軍が戦争の終結をかけて挑む、連邦首都攻略作戦が始まろうとしていた。




