↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/70

第36話 「終わりの見えない戦い」③

 翌日。

 王都。王国軍総司令部。

 朝早く、一台の軍用車両が総司令部の正門前へ到着した。車両から降りたのは、二人の少女。アリアとリリアだった。

「アリア少佐」

「何?」

「今日の召集、一体何でしょうね」

「分からない」

 アリアはいつも通りの表情で答える。

「でも、総司令部から直接呼ばれたんだから、普通の話じゃないと思う」

「‥‥‥そうですね」

 二人は建物へ入る。受付を済ませると、案内役の士官が待っていた。

「アリア少佐、リリア大尉。こちらへ」

「了解」

 二人は士官の後について歩いていく。やがて、いつもの作戦参謀室ではなく、大きな会議室の前で足を止めた。

「こちらでお待ちください」

「分かりました」

 士官が扉を開く。

「失礼します」

 二人が入室する。そこには、陸軍、海軍、空軍、魔導軍、それぞれの上級将校が集まっていた。昨日までの会議と同じ顔ぶれもいる。そして、その中にはフランの姿もあった。

「アリア」

「フラン」

「座って」

「はい」

 二人が席につく。しばらくして、会議を取り仕切る将校が立ち上がった。

「アリア少佐、リリア大尉」

「はい」

「本日、二人に伝えるのは、王国軍の今後を左右する重要な命令だ」

 アリアの表情がわずかに引き締まる。

「先日、総司令部において一つの作戦が決定された」

 将校が地図を広げる。そこには、ミレーヌ連邦の首都が記されていた。

「連邦首都への直接攻撃だ」

「‥‥‥」

 アリアは静かに地図を見る。自分がフランへ進言したものと同じ作戦。リリアも地図を見つめている。

「この作戦を実施するにあたり、王国軍は新たな統合部隊を編成する」

 将校が一枚の辞令を取り出した。

「部隊名称は、第51統合大隊」

「第51統合大隊‥‥‥」

「そうだ」

 将校は説明を続ける。

「第10魔導中隊を基幹とし、第3陸軍大隊から二個小隊を編入。魔導軍と陸軍による混成部隊とする」

「そして」

 別の資料が二人の前へ置かれる。

「この部隊に、先ほど説明した首都攻略作戦を任せる」

 アリアは資料へ目を通す。任務内容。首都周辺への空挺降下を行い、敵防空戦力の排除。そして地上部隊との連携し、首都の主要軍事拠点の制圧。必要に応じた敵司令部の破壊。 さらには地上部隊との合流を経て、挟撃。いずれも極めて重要な任務だった。

「‥‥‥分かりました」

 アリアが答える。すると、将校はさらに一枚の辞令を取り出した。

「次に、人事について伝える」

 二人が顔を上げる。

「第51統合大隊大隊長に、アリア少佐を任命する」

「‥‥‥!」

 リリアが目を見開く。アリア自身は少しだけ目を動かしただけだった。

「さらに、大隊長就任に伴い――」

 将校は一呼吸置く。

「アリア少佐を大佐へ昇進させる」

 会議室が静かになる。十二歳で大佐。王国軍史上でも、極めて異例の人事だった。

「了解しました」

 アリアは淡々と敬礼する。

「そして」

 将校は次の辞令を見る。

「第51統合大隊副大隊長兼大隊長副官に、リリア大尉を任命する」

「‥‥‥!」

 リリアが姿勢を正す。

「それに伴い、リリア大尉を少佐へ昇進させる」

「はっ!」

 リリアが敬礼する。

「二人とも、異例の昇進になる」

「承知しています」

 アリアが答えた。

「しかし、今回の作戦には君たち二人の指揮能力が必要だ」

 総司令部の将校が続ける。

「第10魔導中隊のこれまでの戦果は、我々も高く評価している」

「‥‥‥ありがとうございます」

「そして第51統合大隊の編成、教育を君たちに任せたい」

 アリアは資料を見つめた。

「編成?」

「そうだ」

「つまり」

「新たに加わる陸軍二個小隊を含め、第51統合大隊を一個の部隊として錬成してほしい」

 アリアは少し考えた。魔導士と陸軍兵士。戦術思想も装備も違う。それを一つの部隊としてまとめなければならない。

「アリア大佐」

「はい」

「部隊の錬成には、どれほどの期間が必要だ?」

 アリアは即座に答えなかった。机の上の資料を確認する。

 編成。

 装備。

 飛行訓練。

 地上戦闘。

 魔導士と歩兵の連携。

 空挺降下。

 首都攻略を想定した市街戦訓練。

 そして、実戦を想定した総合演習。

「一か月」

 アリアが答えた。会議室の数人が顔を見合わせる。

「一か月で可能か?」

「可能です」

 即答だった。

「本当に?」

「これまで第10魔導中隊を三か月で錬成しました」

 アリアは静かに続ける。

「今回は、すでに軍務経験のある兵士が中心です」

「‥‥‥」

「一か月あれば十分です」

 その言葉に、総司令部側から反対意見は出なかった。むしろ。

「分かった」

 すぐに承認される。

「第51統合大隊の錬成期間は一か月とする」

「ありがとうございます」

 アリアが敬礼する。

「必要な施設、人員、装備については可能な限り優先して用意する」

「了解しました」

 フランも静かにアリアを見る。その目には、少しだけ複雑な感情が浮かんでいる。また、この子が前線へ出る。今度は中隊ではない。大隊を率いる。それも、王国軍が戦争を終わらせるための重要作戦の中核だ。

「以上で人事と編成についての説明を終える」

 議長が告げる。

「第51統合大隊には、大きな期待をしている」

「必ず任務を遂行します」

 アリアが答える。リリアも続いた。

「私も、大隊長を支えます」

 そして二人は同時に敬礼した。会議が終わる。しかし、二人が部屋を出ようとした時。

「アリア」

 フランから声がかかる。

「何?」

「大佐になったからって、無茶をしていい理由にはならないわよ」

 アリアは少しだけ目を細める。

「分かってる」

「本当に?」

「‥‥‥たぶん」

「そこは『はい』と言いなさい」

 リリアが思わず笑う。

「ふふっ」

「リリアまで笑わないで」

「すみません、アリア大佐」

 その呼び方を聞いて、アリアは少しだけ変な顔をした。これまでずっと「アリア少佐」だった。今日からは違う。

「‥‥‥慣れないな」

「私もです」

 リリアも笑う。

「大尉と呼ばれていたのが、今日から気づいたら私も少佐ですから」

「そうだね」

 二人は会議室を出る。これから一か月。第10魔導中隊は、第51統合大隊へと姿を変える。そして王国軍が戦争の終結をかけて挑む、連邦首都攻略作戦が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。