第35話 「終わりの見えない戦い」②
それから数日後。
王都、王国軍総司令部。
この日もまた、陸軍、海軍、空軍、魔導軍の各幹部が一堂に会していた。長机の上には、ミレーヌ連邦の広大な地図が広げられている。フランも魔導軍作戦参謀として、その席に着いていた。
「では、次の議題に移る」
会議を取り仕切る総司令部の将校が口を開く。
「東部戦線における第10魔導中隊の運用についてだ」
フランは顔を上げる。
「第10魔導中隊?」
「そうだ」
将校は地図の上に指を置いた。
「現在、第10魔導中隊は魔導軍作戦局の直属部隊となっている」
「その通りです」
「これを、王国軍総司令部直属へ配置換えしたい」
フランの眉がわずかに動いた。
「‥‥‥目的は?」
「それを今から説明する」
将校は一枚の資料を取り出す。
「我々も、連邦首都周辺の防衛網が手薄になっていることを確認している」
フランは黙って聞いていた。
「そして、現在の戦線を正面から押し続けても、戦争は長期化する可能性が高い」
「はい」
「そこで、我々は一つの作戦を立案した」
将校が地図を広げる。その中心には、連邦首都が記されていた。
「連邦首都への直接攻撃だ」
フランは目を細める。数日前アリアからも同じ提案を受けていた。偶然とはいえ、総司令部も同じ結論へ辿り着いたらしい。やはりあの子の作戦立案能力は本物だなと心の中でフランは思った。
「具体的には?」
フランが尋ねる。
「まず、空挺部隊を投入する」
将校は首都周辺を指した。
「第10魔導中隊と、第3陸軍大隊から選抜した二個小隊。この二個小隊を航空機で敵首都近辺まで輸送し、空挺降下させる」
「魔導士部隊と陸軍部隊を同時に?」
「そうだ」
フランは地図を見る。
「第10魔導中隊で航空戦力を排除しつつ、陸軍部隊と共に連邦軍総司令部と連邦の首相官邸を制圧する」
「しかし、それは‥‥‥」
言いかけたフランに有無を言わさず、続いて将校の指が地図の別の場所へ移る。
「同時に、第3陸軍大隊の残り五個小隊と、第21陸軍中隊を地上から進軍させる」
首都へ向かう複数の進路が示される。
「敵の防衛網が手薄な陸路を選び、可能な限り一気に進む」
「‥‥‥挟撃」
フランが呟く。
「そうだ」
将校は頷く。
「空から首都を攻撃し、同時に地上部隊も首都へ迫る」
地図上で、二つの矢印が連邦首都へ向かって伸びる。
「敵が空挺部隊への対処に兵力を回せば、地上部隊が進撃する。逆に地上部隊を止めようとすれば、首都への空挺攻撃への対応が遅れる」
「その通りだ」
フランはしばらく黙って地図を見ていた。理にかなった作戦だった。敵の防衛網が手薄であることを前提に、一気に首都へ攻め込む。首都そのものを制圧、あるいは軍事指揮系統を破壊することができれば、連邦軍全体に致命的な打撃を与えられる。
「成功すれば‥‥‥」
誰かが呟いた。
「戦争を終わらせられる可能性があります」
別の将校が続ける。
「連邦の政治・軍事中枢を直接攻撃すれば、これ以上の戦争継続は困難になるでしょう」
フランは資料を見る。そして一つの疑問を口にした。
「なぜ、第10魔導中隊なのですか?」
会議室が少し静かになる。
「第10魔導中隊は、これまで東部戦線で突出した戦果を挙げている。それだけではない」
最初の将校が答える。
「中隊長のアリア少佐は、敵の航空戦力に対する戦闘能力が極めて高い。さらに、敵司令部への潜入作戦を成功させた実績もある」
「‥‥‥」
「今回の作戦に最も適していると判断した」
フランは目を閉じる。アリアは、自分の考えで首都攻撃を提案した。そして総司令部も、ほぼ同じ結論に達していた。
「それで、第10魔導中隊を総司令部直属に?」
「そうだ」
将校が頷く。
「作戦期間中だけではない。今回の作戦を円滑に実行するため、第10魔導中隊を総司令部直属の部隊として配置換えする」
フランは黙って聞いていた。
「さらに、第3陸軍大隊の二個小隊を第10魔導中隊へ編入する」
「編入?」
「そうだ」
別の資料が机に置かれる。
「空挺降下部隊として、第10魔導中隊と第3陸軍大隊の二個小隊を一つの部隊に再編する」
資料には、新たな部隊編成案が記されていた。
「第10魔導中隊を基幹とし、陸軍二個小隊を統合」
「部隊規模は?」
「約五十名規模になるな」
フランは資料を読む。
「‥‥‥部隊名称は?」
将校が答える。
「第51統合大隊。魔導軍と陸軍の混成部隊だ」
会議室にいる各軍の将校たちが、それぞれ資料を確認する。
「残る第3陸軍大隊五個小隊と第21陸軍中隊は、地上進撃部隊として運用する」
「つまり」
フランが整理する。
「第51統合大隊が空挺降下による首都攻撃」
「はい」
「第3陸軍大隊残存部隊と第21陸軍中隊が地上から進撃」
「その通りです」
「そして、双方が首都へ到達することで連邦軍を挟撃する」
「はい」
フランは再び地図を見る。赤い線と青い線。二つの進撃路が、連邦首都で交差する。
その先にあるのは、この長い戦争の終わりか、はたまた数多ある王国軍の部隊のうちの1つが滅びるか。
「‥‥‥かなり大規模な作戦になりますね」
「だからこそ、第10魔導中隊には総司令部直属となってもらう必要がある」
フランは少し考えた。やがて。
「分かりました」
そう答えた。しかし、胸の奥には別の感情があった。アリア、あの子はきっと、この作戦を聞けば志願する。いや中隊長として、当然のように自分が先頭に立つと言うだろう。フランには、それが分かっていた。
「作戦開始時期は?」
「この後、アリア中佐に作戦を伝え、各部隊の再編と準備を進めてもらう」
将校が答える。
「準備が整い次第、実行に移す予定だ」
会議はその後も続いた。空挺部隊の輸送に地上部隊の進撃、航空支援、砲兵支援、補給、 各軍の連携。数多くの問題について議論が重ねられていく。
そして最後に。
「では、決定とする」
総司令部の将校が宣言した。
「第10魔導中隊は王国軍総司令部直属へ配置換え。第3陸軍大隊より二個小隊を編入し、第51統合大隊を編成する。残存する第3陸軍大隊五個小隊および第21陸軍中隊は、地上進撃部隊として運用する。目的は―――」
会議室の全員が地図を見る。
「ミレーヌ連邦首都への直接攻撃」
こうして王国軍は、これまでにない大規模な作戦へ向けて動き始めた。そしてその先頭に立つことになるのは、わずか十二歳の少女、第10魔導中隊を率いるアリア少佐だった。




