第29話 「過去の束縛」②
「‥‥‥まだ、終わっていない」
アリアは魔導銃を構えた。周囲には連邦軍兵士。その数は、明らかに一人で相手にできるものではない。
「撃て!」
誰かが叫ぶ。連邦軍の兵士たちが一斉に動く。アリアは身を低くする。
その瞬間、箒を強く握りしめた。このままでは囲まれる。ならば一気に飛び上がるしかない。アリアは全身の魔力を一気に高めた。
「‥‥‥っ!」
身体の内側から、膨大な魔力が溢れ出す。いつもの飛行とは比べものにならない。魔力を箒へ集中させる。そしてアリアが一気に上空へ跳び上がった。凄まじい魔力の放出に伴う風と土煙が周囲へ広がる。
「な――!」
「何だ、この魔力は!」
連邦軍兵士たちが驚く。アリアは上空へ駆け上がりながら、魔導銃を構えた。
「邪魔をするな!」
連続して放たれた魔力弾が次々と分裂し、アリアを取り囲もうとしていた敵部隊を次々と倒していく。さらにアリアは飛行しながら旋回する。
「そこ!」
再び銃撃。周囲の敵兵たちが散り散りに逃げていく。アリアはその隙に高度を取る。ようやく敵の包囲から抜け出した。
「アリア少佐!」
通信機から声が響く。
「大丈夫ですか!」
「問題ない」
アリアは答える。しかし、その呼吸は荒い。先ほどの急上昇で、大量の魔力を消費していた。それでも止まれない。
「全員、集合!」
「了解!」
散開していた九人がアリアのもとへ集まる。
「少佐、無茶をしすぎです!」
「分かっている」
「魔力の消費が――」
「後で考える」
アリアは敵大隊を見下ろす。指揮官を失ったことで、連邦軍の動きはさらに乱れている。
「今が好機だ」
アリアが言う。
「全員、敵大隊を押し切る」
「了解!」
選抜小隊が一斉に降下する。十人の魔導士による集中攻撃。連邦軍は応戦するが、統制が取れない。
「敵がばらばらです!」
「各個撃破!」
隊員たちが次々に敵部隊を押し返す。アリアも魔導銃を構える。しかし今度は、先ほどのように一人で突っ込まない。
「左翼を頼む!」
「了解!」
「右翼は私が抑える!」
「はい!」
十人が互いに援護しながら攻撃する。しばらくしてカイルが叫んだ
「敵部隊、後退しています!」
「追撃する!」
「了解!」
逃げようとする部隊を追い、選抜小隊はさらに攻撃を続ける。そして次々と敵兵が倒れていく。
「‥‥‥敵大隊、戦闘能力を喪失!」
隊員から報告が入った。アリアは周囲を見渡す。先ほどまで組織的に動いていた大隊は、完全に崩れていた。
「よし」
アリアは短く答える。
「これ以上は追わない」
「了解」
「前線へ向かう」
アリアは方角を確認する。王国軍が進撃している方向。
「選抜小隊、前進!」
「了解!」
十人は一斉に飛び立った。しばらく飛行すると、遠くに王国軍の部隊が見えてきた。
「味方の航空隊です!」
上空から王国軍の航空機部隊が飛来する。さらに、その後方。輸送機から王国軍の歩兵隊が降下を開始していた。
「空挺部隊だ!」
選抜小隊の一人が声を上げる。次々と兵士たちが降下していく。地上へ着地した歩兵隊が、すぐに戦闘態勢を整える。アリアは通信機を取る。
「こちらファントム小隊」
『こちら王国軍第4陸軍大隊空挺部隊。敵前線後方へ降下した』
「了解。こちらも合流する」
『了解した』
アリアは隊員たちを見る。
「これより敵を挟撃する」
「了解!」
王国軍の歩兵隊が地上から進む。その上空を選抜小隊が飛ぶ。さらに上空には王国軍航空機部隊。連邦軍から見れば、突然後方から現れた三つの戦力だった。
「後方に王国軍だ!」
「航空機もいるぞ!」
「どうなっている!?」
「司令部はなんで何も言ってこないんだ!」
「司令部との通信が取れません!」
連邦軍の部隊が混乱する。正面からは、それまで苦戦していた王国軍主力が押し寄せてくる。そして後方からは、空挺部隊と選抜小隊。上空からは航空機部隊。
「今だ!」
アリアが叫ぶ。
「全員、攻撃開始!」
選抜小隊が一斉に降下する。魔導銃による攻撃。王国軍航空機による銃撃に爆弾投下。そして地上から進む歩兵隊。連邦軍は前にも後ろにも逃げ場を失い、次第に戦線を崩していく。
「前進!」
王国軍歩兵隊の指揮官が叫ぶ。
「敵の中央を突破する!」
選抜小隊もそれに合わせて前進する。
「右側を援護する!」
「了解!」
「敵の機関銃陣地を抑えろ!」
「はい!」
アリアは上空から戦場全体を見渡していた。
前線。
後方。
空。
すべての王国軍部隊が、一つの方向へ動いている。ようやく作戦の目的が達成されつつあった。連邦軍の前線は大きく崩れ始めている。アリアは一度、目を閉じる。先ほどの男の姿が脳裏に浮かぶ。もう終わった。過去に囚われている場合ではない。
「‥‥‥私は」
アリアは小さく呟く。
「今を生きる」
そして目を開く。
「全員、前進!」
十人の魔導士が再び飛び立つ。その先には、王国軍が押し上げていく新たな前線があった。 四年前、村で一人きりになった少女は、今、仲間たちとともに戦場を駆けていた。




