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第2話 少女と戦場②

 翌朝。

 まだ太陽が完全に昇りきる前のことだった。

 王国軍第1魔導大隊の前線基地。第15即応魔導小隊の四人は、出撃準備を終えていた。四人の目の前には、四本の箒が並んでいる。魔導士にとって、箒は単なる移動手段ではない。魔力を流すことで空を飛ぶことができる、魔導士専用の装備だった。その横には、魔導銃が置かれている。見た目は普通の軍用ライフルに近い。しかし銃弾を発射するために火薬を使うわけではない。魔導士自身の魔力を銃身へ流し込み、術式によって魔力弾へ変換して撃ち出す。魔導士が空を飛びながら魔導銃を撃つ。それが、この世界における魔導戦の基本だった。

「全員、準備はできたか」

 アリアが尋ねる。

「はい」

 リリアが答える。

「問題ありません」

 二人の男性伍長も頷く。

「よし」

 アリアは箒に跨った。十二歳の少女とは思えないほど、動作には迷いがない。リリアもその隣で箒に跨る。

「アリア中尉」

「何?」

「初めての前線です。無理はしないでくださいね」

 アリアは少しだけリリアを見る。

「リリアもね」

「私は大丈夫です」

「……そう」

 アリアは小さく頷いた。

「行こう」

 四人の身体が浮き上がる。次の瞬間、四本の箒が一斉に前方へ飛び出した。四人は高速で飛んでいく。やがて前方に、国境付近の戦場が見えてきた。土煙の覆われた大地。遠くから響く砲撃音。地上では王国陸軍の兵士たちが進軍している。そのさらに後方には、王国空軍の航空機が飛んでいる。魔導軍は王国軍全体から見れば少数精鋭の部隊だった。連邦軍は、通常の歩兵、砲兵、戦車、航空機、艦艇などを中心とした軍隊を構成している。魔法を持たない軍隊と魔法を持つ軍隊。両国の軍事思想は大きく異なっていた。

「第15即応小隊、前線到着」

 無線から声が聞こえる。

『こちら東部方面軍コントロール。第15即応小隊の前方三キロ、王国陸軍が交戦中。友軍の援護に当たれ』

「了解」

 アリアは短く答えた。

「高度を上げる」

 四人が一斉に上昇する。視界が開けた。地上では、王国軍の部隊とミレーヌ連邦軍が激しく戦っている。連邦軍の兵士たちは、地上から大量の銃弾を撃ち込んでいる。王国軍も応戦する。しかし、いかんせん敵の数が多い。

「アリア中尉」

 リリアが声をかける。

「分かってる」

 アリアは魔導銃を構えた。

「敵の左翼を叩く」

「了解!」

 アリアの魔力が魔導銃へ流れ込む。銃身が淡く輝く。次の瞬間、アリアが引き金を引いた。魔力弾が一直線に飛んでいき、地面にあたると爆発する。連邦軍の陣地へ着弾する。しかし、それだけでは止まらずアリアは箒を急旋回させた。

「リリア、右!」

「はい!」

 二人が左右に分かれる。アリアは敵の側面へ回り込んだ。そして再び魔導銃を構える。異常なほどに正確だった。飛行しながら、高速で移動しながら、敵の動きを予測して撃つ。魔力弾が次々と敵陣へ飛び込んでいく。

「な……」

 地上の王国兵士たちが空を見上げる。

「あれは……味方の魔導士か?」

「速すぎる!」

 連邦軍もようやく空の存在に気づいた。連邦軍の対空射撃が始まる。大量の銃弾が空へ向かう。

「遅い」

 アリアは呟いた。箒が急激に横へ滑る。銃弾がすべて空を切る。そのままアリアは敵陣上空へ入り込んだ。アリアの魔導銃が火を吹く。敵の火力拠点が次々と沈黙していく。

 わずか数分。それだけで、戦況が変わった。連邦軍の攻撃が止まる。地上の王国陸軍が一気に前進する。

「……待って」

 アリアが突然、箒を止めた。

「アリア中尉?」

「下」

 アリアが地上を指差す。そこには、倒れている王国兵士たちがいた。

「負傷兵……」

 リリアも気づいた。

「救助しますか?」

「する」

 アリアは迷わなかった。

「リリア、右側の三人を」

「はい!」

「二人は左の負傷者を回収」

「了解!」

 四人は敵を攻撃するだけではなく、地上へ降りていった。アリアは負傷兵の一人へ駆け寄る。

「動けるか」

「……中尉……?」

「話すな。担架を呼ぶ」

 アリアは無線を取った。

「こちら第15即応小隊。負傷兵六名を確認。救護班を寄越せ」

『了解』

 その間にも、アリアは周囲を警戒していた。敵が近づけば魔導銃を構える。しかし、必要以上には撃たない。味方を守り、負傷兵を安全な場所へ移す。そのすべてを、ほとんど一人で判断していく。リリアはそんなアリアを見ていた。昔からそうだった。アリアは戦うことに優れている。だが、それ以上に誰かを助けることに執着している。

「アリア少尉」

「何?」

「前線、押し返しました」

「……そう」

 アリアは地上を見渡した。連邦軍は後退している。王国軍の進撃路が開かれた。救助された負傷兵たちは、後方へ運ばれていく。

「全員、生きてる?」

「はい」

「ならよかった」

 アリアは小さく息を吐いた。その表情には、ほとんど感情が浮かんでいない。しかしリリアには分かっていた。誰も死ななかったことに安心している。

「帰るよ」

「はい、アリア中尉」

 リリアが答える。二人の男性伍長も続いた。

「了解しました」

「了解です」

 四人は再び箒へ乗った。そして基地へ向かって飛び立つ。

 この日、第15即応魔導小隊は、初陣とは思えない戦果を上げた。敵部隊を撃退し、王国軍の進撃を支援。さらに複数の負傷兵を救助。そして何より、四人の小隊が、一個中隊規模の敵部隊を相手に戦況を変えた。その報告は、すぐに第1魔導大隊司令部へ届いた。

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