第12話 「中隊諸君」③
———それから、三か月。
王都の軍施設、第10魔導中隊の訓練場には、隊員たちが整列していた。かつてここへ集められたばかりの頃とは、明らかに違う。
飛行技術。
射撃技術。
魔力制御。
状況判断。
そして、部隊としての連携。
三か月間、徹底的に鍛えられた隊員たちは、立派な魔導士へと成長していた。リリアが前へ出る。
「総員! 傾注!」
全員の姿勢が一斉に正される。アリアが前へ出た。
「中隊諸君」
「はい!」
「今日で、予定していた教育課程は終了する」
隊員たちの間から、わずかに安堵の空気が流れる。
「ただし最後に一つだけ、訓練を行う」
「……」
嫌な予感がする。隊員たちは互いに顔を見合わせた。アリアは淡々と告げる。
「模擬戦をする」
「模擬戦……」
「相手は私とリリア大尉」
隊員たちがざわつく。
「俺たち全員ですか?」
「そう」
「二人対全員……?」
「そう」
リリアが隣で苦笑した。
「アリア少佐……」
「何?」
「最後まで厳しいね」
「最後だから」
「なるほど……」
リリアは隊員たちを見る。三か月前なら、二人だけで十分すぎるほどの差があった。しかし今は違う。隊員たちは実戦を想定した訓練を何度も経験している。それぞれが役割を理解し、互いに連携できる。
「始める」
アリアが告げた。
「ルールは簡単。私たち二人を戦闘不能にすれば君たちの勝ち。逆に、全員が戦闘不能になれば私たちの勝ち」
「使用するのはすべて訓練用の装備」
「了解!」
隊員たちの目に闘志が宿った。この三か月間。何度もアリアに鍛えられてきた。何度も追い込まれてきた。
「勝つぞ!」
「おう!」
隊員たちが散開する。リリアも箒に乗った。
「アリア少佐」
「何?」
「みんな、本気ですよ」
「分かってる」
「油断しないでくださいね」
アリアが少し笑う。
「もちろん」
「では――」
リリアが魔導銃を構える。
「開始!」
隊員たちが一斉に動いた。まずは二手に分かれる。正面から攻撃する部隊と側面へ回り込む部隊。さらに後方には援護役。見事な連携だった。
「左!」
リリアが叫ぶ。
「分かってる」
アリアが攻撃をかわす。しかし、その直後。
「今だ!」
別方向から攻撃が飛んでくる。アリアが箒を急旋回させる。魔力弾が横を通り過ぎる。
「危ない……!」
リリアが息を呑む。
「第三小隊、追い込め!」
「了解!」
隊員たちが一斉に動く。アリアとリリアは防戦を強いられた。
「すごい……」
リリアが呟く。
「三か月前とは全然違う」
「うん」
アリアも攻撃をかわしながら答える。
「連携ができてる」
「どうします?」
「予定通り」
「了解!」
二人は別々の方向へ飛んだ。隊員たちはすぐに追う。しかし、アリアとリリアは、あえて隊員たちを広い場所へ誘導していた。
「今!」
アリアの声。リリアが一気に高度を上げる。その瞬間、アリアが反対側から急降下する。
「えっ!?」
「しまった!」
二人の動きによって、隊員たちの陣形が一瞬だけ崩れた。そこを二人は見逃さない。次々と模擬弾を命中させていく。
「戦闘不能!」
「俺も!」
それでも隊員たちは諦めなかった。
「まだ人数はいる!」
「囲め!」
「アリア少佐を追い込め!」
再び攻撃。今度はアリアが追い込まれる。隊員たちは三か月の訓練の成果をすべてぶつけていた。
「右!」
「分かってる!」
「上から来ます!」
リリアが知らせる。アリアが攻撃をかわす。しかし、その隙に別の隊員が接近する。
「もらった!」
模擬弾がアリアへ向かう。しかし、アリアは笑った。
「甘い」
箒を反転させる。攻撃を紙一重でかわし、相手の背後へ回る。
「戦闘不能」
「くっ……!」
また一人。さらに一人。徐々に隊員たちが減っていく。それでも最後まで隊員たちは優勢を保っていた。アリアとリリアは、常に複数方向から攻撃を受けている。
「リリア」
「はい!」
「次で終わらせる」
「了解!」
二人が一気に距離を取る。隊員たちが追う。
「逃がすな!」
「二人とも追い込め!」
隊員たちが一斉に攻撃する。その瞬間、アリアとリリアが左右へ分かれた。
「なっ――」
隊員たちの攻撃が空を切る。二人はそのまま背後へ回り込む。
「そこ!」
リリアの模擬弾が命中した一人が離脱する。
「これで終わりだな」
アリアはそう言うと魔導銃に魔力を流し込む。そしてアリアの一撃が最後まで残った10人の隊員たちに向かっていく。そして10人の所まで行くとその弾丸は爆発した。10人が煙の中に包まれる。
「……爆発魔法……しかもあの威力って……」
隊員の誰かがつぶやいた。そして静かに模擬戦が終わりを告げた。隊員たちはその場に座り込んだ。
「負けた……」
「あと少しだったのに……」
「二人相手なのに、最後まで追い込めたんだけどな……」
アリアとリリアが地上へ降りる。リリアは隊員たちを見渡した。
「みんな、すごかったよ。三か月前なら、こんな戦い方はできなかった」
隊員たちの表情が少し明るくなる。アリアも口を開いた。
「私たちが勝った。でも、最後まで君たちは優勢だった」
隊員たちが顔を上げる。
「三か月前の君たちなら、私たち二人をここまで追い込むことはできなかった」
アリアは全員を見る。
「よくやった」
「……!」
それは、三か月間で初めて聞く言葉だった。
「ありがとうございます!」
一斉に返事が響く。アリアは頷いた。
「これで教育課程を終了する。明日から、君たちは正式な第10魔導中隊の隊員だ」
隊員たちは互いに顔を見合わせる。
「はい!」
力強い返事が訓練場に響き渡った。リリアはそんな隊員たちを見ながら、隣のアリアへ小さく笑いかける。
「アリア少佐」
「何?」
「いい中隊になりましたね」
「……うん」
アリアは隊員たちを見つめる。三か月前。まだ何も知らなかった彼らが、今では、自分の背中を預けられる仲間になっている。
「これからが本番」
「はい」
王国魔導軍第10魔導中隊。その部隊は、こうして正式に産声を上げた。




