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第11話 「中隊諸君」②

 それから数日後。

 第10魔導中隊の訓練は、相変わらず厳しいものだった。そんなある朝、訓練場に集合した隊員たちの前へ、アリアが現れた。その隣には、いつものようにリリアがいる。

「中隊諸君。今日は少し気分を変えて訓練場所を変更してみよう。毎日同じ訓練場では、つまらないだろう?」

 隊員たちが顔を見合わせる。

「これより全員、近隣の演習場へ移動する」

「了解!」

「装備を整えろ」

 それだけ言うと、アリアは踵を返した。隊員たちは慌てて準備を始める。

「何するんだろう?」

「知らない」

「また、とんでもない訓練じゃないだろうな……」

 そんな声が聞こえてくる。リリアもアリアの隣を歩きながら尋ねた。

「アリア少佐」

「何?」

「今日の訓練内容、聞いてないんですけど……」

「演習場に着けば分かる」

「……また秘密ですか?」

「うん」

「最近、秘密が多いなあ」

 アリアは答えず、前を歩き続けた。しばらくして。第10魔導中隊は、広大な演習場へ到着した。周囲には山や森林が広がっている。実戦を想定した大規模訓練を行うには十分な場所だった。

「全員、配置につけ」

 アリアの指示で隊員たちが散開する。しかし、誰も訓練内容を知らされていない。

「アリア少佐」

 リリアが周囲を見回す。

「何をするんですか?」

「待って」

「待つ?」

「うん」

 アリアは空を見上げた。しばらくして遠くから、飛行音が聞こえてきた。

「……飛行機?」

 隊員の一人が空を指差す。次第に、その姿がはっきりしてくる。王国空軍の航空機だった。 複数の機体が編隊を組み、演習場へ接近してくる。

「空軍大隊……?」

 リリアが驚く。航空機は第10魔導中隊の上空を通過した。次の瞬間、訓練弾が投下される。

「来るぞ!」

 リリアが叫んだ。

「全員、防御態勢!」

「了解!」

 隊員たちが一斉に動く。魔法弾で訓練弾を迎撃する者や遮蔽物へ移動する者、箒で上空へ逃れる者。全員が訓練で教えられた動きを取る。訓練弾が次々と着弾する。大きな爆発音が演習場に響いた。

「くっ……!」

「防御を維持!」

「隊列を崩すな!」

 リリアが指示を飛ばす。隊員たちは必死に耐える。リリアは確信していた。これは防御訓練だ。実戦では、魔導士だけが攻撃するとは限らない。敵には航空戦力も存在する。だからこそ、敵航空部隊から攻撃を受けた際の対処を学ばせようとしているのだろう。

「リリア大尉!」

 アリアが叫ぶ。

「私は離れたところから見ている。指揮はリリア大尉が取りたまえ」

「了解!」

リリアはそれだけ答える。隊員たちは必死に防御を続けた。数人が退避豪を掘り、そこへ隠れながら、上空の航空機へ訓練弾を撃ち込む。航空機は何度も上空を通過する。そのたびに訓練弾が落ちてくる。しかし、しばらくすると今度は地面から轟音が響いた。

「……え?」

 隊員たちが振り返る。遠くの丘の向こうから、王国軍の砲兵隊が姿を現した。

「砲兵隊!?」

「なんで!?」

 リリアも目を見開く。しかしすぐに中隊に指示を飛ばす。

「防御を維持しろ! 第1、第2小隊は航空機! 第3小隊は砲兵に対応しろ!」

 隊員たちは必死に動く。空からは航空機。地上からは砲兵。完全な実戦想定だった。

「アリア少佐!」

 リリアが空に箒で浮かぶアリアに向かって叫ぶ。

「これは一体どういうことですか!」

「演習だ」

「それは分かります!」

 リリアが叫び返す。

「空軍と砲兵隊まで呼んだんですか!?」

「うん」

「どうして!?」

 アリアは淡々と答えた。

「私が第10魔導中隊を標的として使うよう頼んだ」

「……」

 リリアが絶句する。アリアは隊員たちを見ていた。

「魔導士は、魔導士とだけ戦うわけじゃない。戦場では、様々な部隊が同時に動く。敵がどんな攻撃をしてくるか分からない」

 アリアは続ける。

「だから、全部経験しておけ」

「……なるほど」

 リリアはようやく理解した。これは単なる防御訓練ではない。第10魔導中隊を、あらゆる状況に対応できる部隊へ鍛えるための訓練だった。

「第3小隊、右へ」

 リリアも地上から指示を飛ばす。

「全員防御を維持!」

 隊員たちは必死に食らいつく。やがて訓練終了の合図が鳴った。航空機が離脱し、砲兵隊も射撃を停止する。演習場に静けさが戻ると隊員たちはその場に座り込んだ。

「……死ぬかと思った」

「まだ訓練二週間ちょっとだぞ……」

「これが第10魔導中隊か……」

 そんな声が聞こえる。リリアも大きく息を吐いた。

「アリア少佐……」

「何?」

「本当に容赦ないですね」

「そう?」

「そうです」

 アリアは隊員たちを見る。

「でも」

「?」

「みんな、最初より動けるようになった」

 リリアも隊員たちを見る。確かにそうだった。最初なら、空軍の攻撃だけで隊列は崩れていただろう。しかし今は違う。砲撃が加わっても、互いに声を掛け合い、防御陣形を維持している。

「……そうですね」

 リリアが笑った。

「少しずつ、中隊らしくなってきましたね」

「うん」

 アリアは空を見上げる。これからも訓練は続く。さらに厳しくなるだろう。それでも第10魔導中隊は確実に、一つの部隊へと成長し始めていた。

③まで続きます

③は21時半公開!

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