↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/70

第10話 「中隊諸君」①

 翌朝。

 王都の軍施設に、まだ朝霧が残っていた。訓練場には、第10魔導中隊の隊員候補たちが整列している。選抜から一夜明け、いよいよ、本格的な教育が始まる。隊員たちは緊張した面持ちで前方を見つめていた。やがて、軍靴の音が響く。アリアとリリアが訓練場へ現れた。アリアは隊員たちの前に立つ。その隣にはリリア。リリアが一歩前へ出た。

「総員! 傾注!」

 声が訓練場いっぱいに響く。隊員たちが一斉に姿勢を正す。全員の視線がアリアへ集まる。リリアが一歩下がる。そして、アリアが口を開いた。

「中隊諸君」

 静かな声。しかし、その場にいる全員が聞き取れるほどよく通る。

「今日から三か月間、君たちは第10魔導中隊の隊員として教育を受ける」

 隊員たちは黙って聞いている。

「ここに集められた理由は、魔法が使えるからではない」

 アリアが全員を見る。

「君たちは、戦場で生き残り、仲間を生かすために選ばれた」

 その言葉に、空気が引き締まる。

「だから、訓練は厳しくする」

 何人かの顔が強張った。

「覚悟しろ」

「はい!」

 返事が響いた。

 その日から、地獄のような訓練が始まった。最初は飛行訓練。ただ飛ぶだけではない。

高速飛行。

 急旋回。

 急降下。

 低空飛行。

 編隊飛行。

 さらに、飛行しながらの魔導銃射撃。

「遅い!」

 アリアの声が飛ぶ。

「敵は待ってくれない!」

 隊員たちが必死に箒を操る。

「高度を維持!」

「右!」

「隊列を崩すな!」

「魔力を使いすぎ!」

 次から次へと指示が飛ぶ。続いて地上訓練。

 魔力制御。

 状況判断。

 そして模擬戦。

 休憩時間すら短い。

 隊員たちは初日から疲労困憊だった。それでもアリアは訓練を止めなかった。

「もう一回」

「ええっ!?」

 思わず声を上げる隊員。

「聞こえなかったか?」

「……もう一回お願いします!」

「よし」

 それを見ていたリリアは、少しだけ心配そうな顔をしていた。

 そして二週間。

「もう無理……」

「足が動かない……」

「今日で何日目だ……?」

「まだ二週間だぞ」

 訓練場の隅では、隊員たちが疲れ切った様子で座り込んでいた。その少し離れた場所。 アリアは次の訓練計画を確認している。リリアが隣へやって来た。

「アリア少佐」

「何?」

「ちょっと相談があります」

「どうぞ」

「訓練内容なんだけど……」

 リリアは隊員たちを見る。

「もう少し優しい内容にしてもいいんじゃないかな」

「駄目」

 即答だった。

「……やっぱり?」

「まだ足りない」

「足りないの!?」

「実戦では、これ以上に厳しい」

「でも、みんな二週間でかなり疲れてるよ」

「疲れている時に動けるようにする訓練だから」

「うーん……」

 リリアは困ったように頭を抱える。

「アリアは厳しすぎるよ」

「そう?」

「そうだよ」

 アリアは訓練場を見る。そこには、疲れ切っていても次の訓練に備えている隊員たちがいた。

「でも、みんな少しずつ上手くなってる」

「……それはそうだけど」

「最初は編隊飛行すらできなかった」

「うん」

「今はできる」

「うん」

「なら続ける」

「……なるほど」

 リリアは納得したような、していないような顔をする。

「でも、休息はちゃんと取らせてね」

「それは当然」

「睡眠時間も」

「確保してる」

「食事も」

「当然」

「ならいいけど」

 アリアは厳しい。しかし、無意味に隊員を追い込んでいるわけではない。すべては戦場で生き残るためだった。

 翌朝。また訓練場に隊員たちが集まる。疲労の色は濃い。それでも、全員が整列する。リリアが前へ出る。

「総員! 傾注!」

 一斉に姿勢が正される。全員がアリアを見る。アリアは隊員たちの顔を一人ずつ確認する。

「中隊諸君」

 その言葉だけで、隊員たちの背筋が伸びる。

「昨日より今日。今日より明日」

「少しずつ強くなれ」

「はい!」

「そして――」

 アリアの目が鋭くなる。

「絶対に死ぬな」

 隊員たちが息を呑む。

「敵を倒せ。仲間を守れ。そして、生きて帰れ」

「はい!」

 大きな返事が訓練場に響いた。

「よし」

 アリアが踵を返す。

「訓練開始」

「はい!」

 再び、訓練が始まった。隊員たちは悲鳴を上げながらも、必死についていく。そしてその様子を見ながら、リリアは小さく笑った。

 厳しい。厳しすぎる。けれどアリアが彼らを本気で生かそうとしていることだけは、誰よりもよく分かっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。