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コント集  作者: 河野吉田
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9/37

コント集9

コント集9 

・目次


81・・・・三つ巴

82・・・禁煙

83・・・ダメ出し

84・・・嬉しくない

85・・・腰の低い泥棒

86・・・タール量

87・・・なんとやら

88・・・カツアゲ

89・・・私服警官

90・・・サインボール



『三つ巴』



・登場人物


 西岡・・・探偵。

 枝村・・・ジャーナリスト。

 北島・・・刑事。



・舞台


 居酒屋






 明転。

 飲み屋。テーブルが一つに椅子が三つ。テーブルの上には酒とつまみ。

 西岡、北島、板付き。


北島「はい、じゃあ乾杯」

西岡「かんぱーい。久し振りだね、こうやって会うの。高校卒業以来だからもう七年振りかな?」

北島「そうだな。まぁ皆違う道に進んだもんだな」

西岡「そうだねぇ。ま、似たような職に就いたけどね」

北島「全然違うだろ」

西岡「そうかな?ところで枝村は?」

北島「後から来るって。先に始めててってさ」

西岡「ふーん」

北島「と言うか、ちょっと話があって今日呼んだんだ」

西岡「何?」

北島「今お前が追ってる行方不明事件、もう関わるのは止めてくれ」

西岡「何で?」

北島「『何で』って、そりゃ危険だからに決まってるだろ。こう言うのは俺達警察の仕事だ。素人が手を出して良いものじゃあないんだ」

西岡「素人ねぇ。確かに俺は警察じゃなくて探偵だけど、それなりのプロ意識を持ってこの事件を追ってるんだよ」

北島「どう言うプロ意識だ」

西岡「そりゃ探偵として、真実を突き止める事がよ」

北島「真実は俺達が明らかにしてからで良いだろ。何かあってからじゃ遅いんだぞ」

西岡「大丈夫だって。俺は確かに警察じゃあないが、それに近いプロ意識でやってるよ……探偵としての、プロ根性でね!」

北島「探偵はこう言う仕事が本業じゃないだろ!」

西岡「本業だよ。警察じゃ手に負えない事件を追って、何件も事件を解決してきているよ」

北島「ほー?例えば?」

西岡「これだよ(バッグから資料を取り出し、北島に渡す)」

北島「何、何……これ全部迷子の犬とか猫探しの依頼じゃねぇか!」

西岡「警察じゃ相手にしてもらえないって、依頼者が泣いて俺の所に来たんだよ」

北島「そりゃそう言うのは警察の仕事じゃないからな!」

西岡「非常に難解な事件だった……」

北島「まぁ骨の折れる地道な仕事だっただろうよ!でもそれだけじゃねぇか!」

西岡「真実を追い求める事はそちら、警察と同じだ!」

北島「真実って程でもないだろ!犬猫がどこにいたかくらいのもんだろ!」

西岡「大変な事実が多かった……時には被害者を山の中で見つけたり、川で見つけたりな!」

北島「被害者って言うな!ただの迷子のペットを!」

西岡「ペットじゃない!大切な家族だよ!」

北島「感覚の問題だろそれ!」

西岡「とにかくこれが俺の本気だよ!」

北島「お前がやってるのは警察の真似事で、事件解決に繋げてる訳じゃない」

西岡「いずれそんな事件に関われたらと思って探偵を続けている!コナンとか金田一みたいに!」

北島「そう言う探偵は漫画とか小説での話だ!現実と空想をごっちゃにするな!」

西岡「夢はでっかく持ちたいじゃないか!」

北島「夢過ぎるだろ!」

西岡「夢は信じ続けていれば必ず叶う!」

北島「限度がある!探偵は探偵らしく大人しく地味な仕事してろ!」

西岡「酷い!地味な事じゃなくてそう言う世界に飛び込みたいんだ!」

北島「だったら警察に就職しろ!そしたらこう言う仕事に就けるわ!」

西岡「俺は探偵として事件を解決したいの!分かんない?この気持ち?」

北島「分からん!ただの真似事で怪我でもしたらどうするんだよ!」

西岡「名誉の負傷!」

北島「怪我程度で済まなかったらどうすんだ!」

西岡「名誉の負傷!」

北島「名誉の負傷で全部片づけようとすんな!」

西岡「俺はロマンで生きていきたいんだ!」

北島「ロマンで警察の邪魔をするな!」

枝村「(上手から登場)ごめんごめん、お待たせ。何?何か揉めてる様に聞こえたけど?」

北島「あぁ、ちょっとな。まぁ座ってくれ」

枝村「うん。久し振りだねー。高校卒業以来?」

北島「あぁ、うん。あ、で、西岡にも言ったんだけど、ちょっと話があってさ」

枝村「何?」

北島「今関わってる事件を追うの、お前も止めてくれないか?」

枝村「え?何で?」

北島「こう言うのは警察の仕事だから。ジャーナリストとしてこの行方不明事件を追うのはもう止めてくれないか?危険だからさ」

枝村「何だよ突然?」

西岡「酷いだろ?いきなり俺達の仕事を奪うような話しだしてさ」

北島「少なくともお前からは仕事を奪ってない」

枝村「どういう事?」

北島「上から言われてんだよ。お前の知り合いなら、邪魔だからもう関わるなって言っとけってさ」

枝村「でもジャーナリストの本懐として、真実を突き止めるのが仕事だから」

西岡「分かるわー。俺も同じ気持ち」

北島「お前のはちょっと違うだろ」

枝村「俺はジャーナリストとして、これからも色んな事に首を突っ込んでいくつもりだけど?今は情報化社会だから早く色んな情報を仕入れて記事として流さなきゃいけないし」

北島「でもこれからもこっちの事件に関わってくるようなら、公務執行妨害を適用する事になるんだ。そうはなってほしくない」

枝村「そうならない程度には進めてるつもりだけどね」

西岡「俺も」

北島「これからどうなるか分からないだろ。それに真実を突き止めるのは警察の仕事だ。警察が事を明らかにしてから記事にしても遅くは無いだろ?」

枝村「それでもいち早く情報を知りたいって人は世の中には沢山いるんだ。その人達の為に俺は俺なりの調査をしてるんだ」

西岡「俺も」

北島「それで自分の身を危険に晒してまでやる事か?違うだろ?ジャーナリストは真実を報道する仕事だよ。でも急ぎ過ぎたって意味無いじゃないか」

枝村「身を危険に晒してでも一刻も早く伝えなきゃならない事がある。それが俺の仕事」

西岡「俺も」

北島「五月蠅ぇなさっきからお前は!お前は少し黙ってろ!」

西岡「酷ーい!」

枝村「東京の刑事、酒屋で男性に罵声を浴びせて泣かせる、と」

北島「おーい!嘘を書くんじゃない、嘘を!」

枝村「嘘じゃないよ。実際、罵声浴びせてたし」

西岡「聞いて下さいよジャーナリストさん!俺、この刑事に酷い事言われて泣かされたんです!」

枝村「詳しく聞かせてください」

北島「急に仕事に入るな!こんな事流されたら俺クビになっちゃうだろ!」

枝村「これも警察の不祥事を明らかにするネタだから」

北島「ただの揚げ足取りだろ!だからマスコミがマスゴミとか呼ばれるんだよ!」

枝村「東京の刑事、次に狙うは別の男性。これまた罵声を浴びせる」

北島「だから止めろって!マジでクビになるわ!」

枝村「でも間違ってないでしょ?」

北島「部分的にはな!でも話の流れがあってこうなったんだよ!」

枝村「事実を事実として受け止める。それがジャーナリズム」

西岡「ジッチャンの名に懸けて真実はいつも一つ!それが探偵ズム」

北島「もういいわ!とりあえず変な事を書くなよ!」

枝村「分かったよ。でも俺はキチンと情報を警察にもリークさせてるんだから別に良いでしょ?」

北島「それには助かってる部分はあるけど……」

西岡「そうか!捜査協力で情報提供すれば何の問題も無い訳だな!」

北島「そう言う事じゃねぇよ!」

西岡「情報ならいくらでもあるよ、これとか!」

北島「さっきの犬猫のやつじゃねぇか!いらねぇよ!」

西岡「ちぇー、何かヒントになるかもと思ったんだけどなー」

北島「とにかく、危険な事だから注意していてほしいんだよ。それに上からも被害者家族からも苦情が出てんだよ」

枝村「具体的に何だよ?」

北島「警察の跡を追っかけて何度も聞き込みをされたりして何度も説明するのが面倒臭いって色んな所から言われてんの。それに現場にも出てくるし、上の人ピリピリして正直やり辛いんだよ」

枝村「仕方ないじゃないか。聞き込みが地道だし、近道なんだから」

西岡「現場に行った方が警察の話も盗み聞き出来るし楽なんだよね」

北島「それを止めてくれって言われてんの!実際二人は一般人なんだから、もし相手が凶悪犯だったら力ずくで襲われるかもしれないんだし」

西岡「それに関しては大丈夫!スタンガン持ってる!」

北島「何でそんな物騒な物持ってんの!?」

西岡「探偵七つ道具の一つ!」

北島「何だよそれ!?完全に襲われる事前提の攻撃道具じゃねぇか!」

枝村「それなら俺も持ってるよ。ほら」

北島「そんな懐からパッと出すような物じゃないだろ!何?最近の流行りなの?」

枝村「最近仕事以外でも物騒だからねー」

西岡「ねー」

北島「下手すると危険物所持で捕まるぞ!?」

枝村「銃刀法違反じゃ無ければ大体は大丈夫でしょ」

西岡「それにこっちから積極的に使う訳じゃないし。正当防衛だよ、正当防衛」

北島「怖いわ!それに正当防衛は日本では成り立たないからな!」

西岡「そうなの!?ドラマとかだと成り立つじゃん!」

北島「だからそれはドラマの話だっつの!」

西岡「マジかよー。折角使おうと思ってたのに……あ、試しに北島、浴びてみない?」

北島「嫌だよ!それじゃ正当防衛でも何でもなくただの暴力だろ!」

西岡「ケチー」

北島「ケチじゃない!」

枝村「で、何?今日はその話しに来ただけ?」

北島「あぁ、上からお前らが鬱陶しいからどうにかして来いって言われてな。こんな事言って通じる相手じゃないってのは分かってたけど一応な」

西岡「分かってんなら言わなきゃ良かったのに」

枝村「そうだよ」

北島「これも俺の仕事なの!」

西岡「じゃあこれも俺の仕事だよ。被害者遺族の悲痛な声を聞いて駆けつける、難事件を解決するベテラン探偵!」

北島「ベテランって程の歳でもないだろ!」

枝村「私も真実の伝道者って所」

北島「お前の場合さっきのも含めてただの揚げ足取りだろ!」

枝村「揚げ足を取られるような事をしてんのは事実でしょうが」

北島「それを止めろって言ってんだよ!結構マスコミの記事が警察は無能みたいな風潮を流すんだから!」

西岡「警察が頼りにならないのは事実でしょ?事件が起こってからでないと動けないってのは」

北島「それ仕方ない事なんだよ。色々手続きとか段階があるから」

西岡「だったら代わりに先回りして事件を解決するのがこの探偵の仕事!」

枝村「その前に俺が事件の真相を掴んで市民を安心させてあげるよ」

西岡「何っ!?じゃあ商売敵だね!」

枝村「受けて立とうじゃないか。真実を明らかにするのはこの俺だ!」

西岡「ジッチャンの名に懸けて真実はいつも一つ!俺が先だ!」

北島「お前のジッチャン公務員だろ!」

西岡「と言うかジャーナリストって確かに真実を明らかにするのが仕事だけど、それで事件解決に繋がってるのか?」

枝村「いや?それが目的じゃないし」

西岡「ただの自己満足じゃん。会社の利益にして食い物にしてるだけじゃん」

枝村「何が言いたいの?」

西岡「その点、俺はちゃんと事件を解決して被害者家族を安心させたいって信念があるんだよ。事件を解決してこそ真実を明らかにするのに意味があるでしょ?」

枝村「情報を先に仕入れて被害者に届けるのも一つのやり方だろう。事件解決は俺の仕事じゃない」

西岡「なんかガメツイ感じ~」

枝村「何だよ!警察の真似事おままごとで呑気にやってるお前にとやかく言われたくないわ!」

西岡「何ぃ!?」

北島「もう良いだろ!とにかく事件に関わるのは止めてくれって言ってんじゃん!」

西岡枝村「止めたら仕事が無くなる!」

北島「これだけが仕事じゃないだろ!枝村はほのぼのした記事を書くとか。少なくとも西岡はこういう事をする以外が本来の仕事だろ?」

枝村「やっぱこういう事件の方が読者の評判が良いんだよね」

北島「他にも読者層を広げれば良いだろ?」

枝村「ダメ。他は弱い。ついでに警察の粗探し出来て読者の評判が良いんだよね」

北島「だから警察を陥れるような事は止めてくれって!」

西岡「私は仕事の視野を広げてやってるんだよ。それが名探偵!」

北島「漫画や小説やドラマとは訳が違うんだってのに!邪魔なんだよハッキリ言って!」

枝村「警察、マスコミと探偵業を全面否定。邪魔と言い放つ」

北島「だから部分的に取るな!誤解が生まれるだろ!」

枝村「事実は事実じゃん」

北島「それを記事にするならせめて間を書いてくれ!マジで誤解を生む!」

西岡「大体あってると思うけどねー?」

枝村「ねー?報道の自由は我らにあり!」

北島「報道にも制限がある!嘘や誤解を招く事を書くな!」

西岡「警察が我々の仕事に制限する程の権力があるのかー!?」

北島「そもそもお前は誰に頼まれてやってんだ?」

西岡「そりゃ勿論被害者家族からだよ!」

北島「そんな事頼んでないって被害者家族から言われてんだよ!」

西岡「表面上はそうでも、きっとそう望んでるはずだ!」

北島「じゃあ結局お前もただの自己満足で動いてるだけじゃねぇか!止めろその迷惑行為!」

西岡「俺には聞こえる!被害者家族の助けを求める声が!」

北島「幻聴だよ!」

枝村「とにかく俺はこの行方不明事件から手を引く気は無いからね!」

西岡「俺だって!」

北島「分かったよ!ったく!何年経っても変わらないよお前らは……話が通じないんだから」

枝村「そう言う北島もね」

西岡「職業は違うけど、皆真実を追う事に変わりは無いんだし、そこは皆昔から変わらないよね」

北島「事件に関しては一番俺が真実を明らかにする立場だからな。もう関わるなよ」

枝村「嫌だ。これからも俺なりの真実の追い掛けをする」

西岡「私もジッチャンの名に懸けて真実はいつも一つ」

北島「何に懸けてるんだか……とにかく、命を懸ける事だけはだけはするなよ。一警察からの警告と、友達としての頼みだ」

枝村「俺は命を懸けてやる仕事をようやくみつけたんだ!二人には負けないからな!」

西岡「俺だって二人には負けない!命懸けで犯人をとっ捕まえてやるからな!」

北島「ちぇっ!三つ巴はこれからも続くのかよ……厄介な奴らと友達になっちまったもんだ」

枝村「本当だよ」

西岡「全く」

北島「いつか本当に邪魔したら二人ともとっ捕まえてムショに入ってもらうからな」

枝村「俺も二人の嫌~な事記事で流してやる」

西岡「俺は二人がやらない事を全部仕事として引き受けて仕事を奪い続けてやる」

北島枝村西岡「……ふっふっふっ……」









―――終わり

『禁煙』



・登場人物


 北島

 藤原



・舞台


 喫茶店






 明転。


 喫茶店。テーブル一つに椅子二つ。テーブルの上には灰皿とコップが二つ。北島には水。藤原にはジュース(ストロー付き)がある。

 北島、藤原、板付き。煙草を吸っている。


藤原「何かどこの店も最近、禁煙の所が増えてきたよな」

北島「あぁ。喫煙者には肩身の狭い世の中になってきちまったよ」

藤原「北島、お前、一日にどれくらい吸う?」

北島「俺?俺は大体一箱半くらいかな」

藤原「へー、結構吸うなぁ」

北島「これでも全盛期よりは減ったよ?」

藤原「前はどれくらい吸ってたの?」

北島「大体三箱とか吸ってたなぁ」

藤原「へー。大分吸ってたんだなぁ」

北島「そういう藤原は?」

藤原「俺は今は二箱くらいかなぁ。前は三箱とか吸ってたけど」

北島「お前も結構吸うねぇ」

藤原「でも最近煙草の税金上がりまくって、その影響で吸う量減らしたんだよね」

北島「俺もそうよ。なんつーか、このままの勢いで吸ってたら貯金が出来ないんじゃないかって思ってさ」

藤原「それな」

北島「この五年で五十円、値上げされたしな」

藤原「マジで?じゃあこの五年で元の値段の煙草が百十四箱も買えたんじゃん」

北島「なにその早い計算能。税金怖ぇー」

藤原「これじゃあ貯金なんか出来ないよなぁ」

北島「貯金してんの?」

藤原「うん」

北島「何で?車とか買うの?」

藤原「結婚とかもそろそろ考えなきゃなぁ、とか思ってさ」

北島「あー、それな。何か最近、喫煙者、減ってるんでしょ?」

藤原「そうなの?」

北島「らしいよ。だから結婚ってなると、煙草吸う人とじゃないと俺は厳しいなって思ってるから、俺は結婚はほぼ諦めた」

藤原「禁煙はしないんだ?」

北島「俺はもう前に禁煙しようと思って失敗したから諦めた。俺に禁煙は無理」

藤原「あっそー。俺は最近、親が結婚しろ、結婚しろって五月蠅いから婚活、始めたんだよね」

北島「そうなん?で、収穫は?」

藤原「収穫て。言い方よ。まぁ、ピンと来る人は来ず……って感じ」

北島「そんなもんかぁ」

藤原「やっぱり喫煙者は最初からNGみたいでさ」

北島「そんなもんかぁ」

藤原「俺、禁煙しようかな」

北島「結婚の為に?」

藤原「それもあるけど、何より体調がね。肺癌が怖い」

北島「ここまで吸って来たら今更、肺癌なんて……」

藤原「まぁそうなんだけどさ。長生きはしたいじゃん?」

北島「まぁな」

藤原「それに禁煙したら飯が美味いって話はよく聞くじゃん」

北島「それはよく聞くな」

藤原「それに口臭もうんこみたいな臭いじゃなくなるみたいだし」

北島「コーヒーはもれなく飲むしな」

藤原「肺が綺麗になって運動も出来るようになるって聞いたし」

北島「まぁ、それは確かにな」

藤原「臭いも分かるようになるって聞いたし」

北島「嗅覚も元に戻るのか?」

藤原「らしいよ?」

北島「へー」

藤原「俺、禁煙するわ」

北島「いや無理だよ」

藤原「何でさ」

北島「一日二箱吸っているような奴が禁煙なんか出来る訳無い」

藤原「いいや。俺は禁煙する」

北島「じゃあ一年、禁煙出来たら一万円やるよ」

藤原「マジで?一万円って煙草、十七箱買ってお釣りが来るぞ?」

北島「そんな瞬間的に煙草の計算が出来る奴が禁煙なんか出来ねぇよ」

藤原「良いんだな?一万円」

北島「良いよ。まぁ出来る訳無いけどな」

藤原「忘れるなよ?」

北島「良いよ。じゃあ今からな」

藤原「ちょっと待って。これ吸い終わったら禁煙始める」

北島「たった今この瞬間禁煙出来ない奴が禁煙出来る訳が無いって。止めとけ止めとけ」

藤原「いや、これで止める。(煙草を揉み消す)あー、止めた!(水を飲む)あー、もう水が美味い!」

北島「そんな即効性無ぇよ。気のせいの賜物だよ」

藤原「はぁー……(手で口と鼻を覆う)あぁ、口臭もフローラルな香りがする」

北島「だからそんな即効性無ぇよ」

藤原「体も軽いし、筋肉が踊ってる」

北島「気のせいだよ」

藤原「店の香りも良いなぁ。コーヒーの香りが香ばしい」

北島「ここ喫煙席のど真ん中だぞ。煙草の臭いしかしねぇよ」

藤原「体がどんどん健康になっていくのが分かる」

北島「まぁ、お前が幸せなら何でも良いけどさ」

藤原「しかし、煙草を止めた途端に何か胸がざわつく……何かを欲してる感覚がある」

北島「煙草吸いたいんだろ」

藤原「そんな事は無い。俺はもう煙草は止めたんだから」

北島「さっきの今でそんな簡単に禁煙なんか成功しねぇよ。だったら世の喫煙者、皆、煙草を止められてるよ」

藤原「やっぱりこの残りを吸い終わってからにしとくかなぁ……」

北島「禁煙なんて体に返って悪いから止めとけ止めとけ」

藤原「あっ、後一本しかないや」

北島「我慢せずに追加で買って来いよ」

藤原「いや、これっきりにする(煙草に火を点けて吸う)」

北島「どうせ長続きしないから無駄無駄」

藤原「最後の一服だからよーく味わうぞー(煙草を長ーく吸う)」

北島「…………(煙草を吸って揉み消す)」

藤原「(煙草を長ーく吸う。吐かない)

北島「(水を飲む)」

藤原「(煙草を長ーく吸う。吐かない)」

北島「お、おい。いい加減吐いたらどうだ?」

藤原「(煙草を長ーく吸う。吐かない)」

北島「死んじゃう死んじゃう!吐け、藤原!(藤原の背中を叩く)」

藤原「……ブハッ!ハッ!俺は何を……?」

北島「煙草を吸うだけして吐かなかったんだよ」

藤原「そうだったのか……ありがとう、北島」

北島「もう半分以上吸っちゃったじゃないか」

藤原「あぁ……折角最後に味わおうと思ったのに……勿体無い……俺の二十九円……」

北島「よく煙草にそこまで計算が出来るな。でもこれで終わりにするんだろ?」

藤原「まだちょこっと残ってるからそれ吸ったら終わりにする」

北島「どうせ続かないだろうがな」

藤原「(煙草を吸う)」

北島「(スマホを弄る)」

藤原「(煙草を吸う)」

北島「(藤原の方を見る)おい、もう根元まで火が行っちゃってるじゃないか」

藤原「もうちょっと吸える」

北島「いやいやいや、無理だって。もうそれフィルターまで行っちゃってるから」

藤原「……ゲホッ!ゲホッ!変な味がして来た……」

北島「それ絶対フィルターまで火が行っちゃったんだって。もう止めとけ」

藤原「あぁ。もう止める。よーし、もう煙草とはおさらばだ!」

北島「あっそー」

藤原「…………(貧乏ゆすりをする)」

北島「(スマホを弄る)」

藤原「…………(次第に大きくなる貧乏ゆすり)」

北島「藤原?」

藤原「(体全体が揺れ始める)」

北島「藤原?藤原!藤原!?おい!藤原!」

藤原「おっ、おっ、おっ?(揺れが止まる)どうした?」

北島「どうした?じゃねぇよ。お前、本当は煙草吸いたくて仕方ないんだろ?」

藤原「そ、そんな事無ぇよ?」

北島「そうか?じゃあ今の揺れは何だったんだよ?」

藤原「俺、揺れてた?」

北島「揺れてたよ。尋常じゃないくらいに」

藤原「マジか……何かの病気かな……」

北島「ある意味病気だよ。無理すんな」

藤原「無理なんてしてない」

北島「そうか?まぁ、頑張れよ」

藤原「おう」

北島「(スマホを弄る)」

藤原「…………(おもむろにストローを手に取り、ライターで火を点けよるとする)」

北島「おい、藤原」

藤原「えっ、何?」

北島「それ何だよ」

藤原「え?あっ、ストローだな」

北島「お前、それに火を点けようとしてただろ」

藤原「そんな事無いよ(慌ててコップにストローを戻す)」

北島「そんな事あるって。普通シケモクから取るって」

藤原「とにかく大丈夫だから……」

北島「あっそー。もう一本吸っても良い?」

藤原「良いよ。俺に構わず」

北島「おう(煙草に火を点けて吸う)」

藤原「…………」

北島「…………」

藤原「(北島の吐く煙を吸いに行く)」

北島「うわっ、何だよ?」

藤原「あぁ、気にしないで」

北島「気にするよ。お前、煙を欲してるじゃん」

藤原「そんな事無いよ」

北島「いや、自分の行動をよく考えてみ?(煙を吐く)」

藤原「(煙を手で頭に浴びせる)」

北島「…………」

藤原「…………」

北島「お前、もう吸え」

藤原「えっ?」

北島「お前、もう吸った方が良いよ」

藤原「何でさ」

北島「だって頭に煙を浴びせてる時点でお前もうかなり重症だよ」

藤原「とにかく俺は大丈夫だから」

北島「本当かぁ?もう手の付けられない状態だと思うんだが」

藤原「大丈夫だから……健康の為だから……」

北島「こう言っちゃ何だけど、お前、吸ってないと体に悪いよ」

藤原「そう?」

北島「禁断症状、出るの早過ぎるよ。しかもヤベェし」

藤原「やっぱり俺には禁煙は向いてないのかな……」

北島「そういう事。大人しく煙草吸ってろ。じゃないとこっちが怖くて仕方ない」

藤原「そうか……」


 暗転。


 明転。


 喫茶店。

 北島、藤原、板付き。


藤原「飯も食い終わったし一服するか」

北島「そうだな。てか禁煙、止めたんだな」

藤原「一旦、止めた」

北島「無理に止める必要は無ぇよ。非喫煙者より税金払ってんだから胸を張って煙草吸えよ」

藤原「そうする事にした。でも行く行くは禁煙しようかなって思ってる(電子煙草を取り出して吸い始める)」

北島「あれ?電子煙草にしたの?」

藤原「あぁ。健康を考えたらやっぱり煙草はアカンなぁと思ったんだけど、いきなり止めるのは無理だって分かったから徐々に減らしていこうかなと思って」

北島「禁煙はするつもりなのか」

藤原「まぁね」

北島「でも電子煙草って高くなかった?」

藤原「そんな高くなかったよ?大体一万円ちょっとくらい」

北島「スティックは?」

藤原「普通の煙草より五十円くらい安い」

北島「将来的に見たら全然節約も出来るのか」

藤原「まぁそんな感じ」

北島「何か紙巻と比べると、吸った感じがしないって聞くけど、どうなの?」

藤原「最初はそうだった。紙巻と半々で吸ってたけど、今はもう電子煙草だけって感じ。でも吸った感じ、物足りなさはある」

北島「その分吸ってたりして」

藤原「実はそうなんだよ」

北島「へー。紙巻の時は二箱とか吸ってたけど、今はどうなの?」

藤原「一日四箱」

北島「増えとるやんけ」

藤原「でも体には良いから」

北島「一応煙草だからな?」

藤原「でも体には良いし」

北島「マジで肺癌になるし、貯金も出来なくなるから、もう一日二箱くらいで止めとけ」

藤原「でもネットだと体に気を遣うなら紙巻き煙草より電子煙草の方が体に良いって聞いたぞ?」

北島「いや、紙巻き煙草と比べたら害が少ないってだけで、体に良い物ではないからな?」

藤原「マジで?ネットの情報、アテにならんな」

北島「煙草で健康になれる訳無いだろ」

藤原「それもそうか」

北島「どうせ禁煙なんて出来ないんだから諦めろ」

藤原「いや、いつかは禁煙するぞ」

北島「そう言ってこの前、禁断症状が酷かったじゃないか。無理無理」

藤原「いや、俺はやるぞ」

北島「煙草止めたいなら、煙草を止めるなら、みたいな本買ってみたりとかしたら?」

藤原「買ってみるか」


 暗転。


 明転。


 喫茶店。

 北島、藤原、板付き。


藤原「この前、煙草を止めるならコレを読め、って本買ったんだけどさ」

北島「おう、買ったのか。どう?」

藤原「読んでみたけど全然禁煙出来そうにない」

北島「どんな内容だったの?」

藤原「煙草による体の害とか、引き起こされる病気とか、その詳しい闘病生活とか、一年で使った金はこれだけの物が買える、とかそんなの」

北島「ありきたりなやつだったか」

藤原「全三巻セットだったんだけど、もうそんなのに六千円も使ったかと思うと気分が沈んじゃってさ」

北島「ネットでそんなのいくらでも探せるもんな」

藤原「だったら煙草、ワンカートン買った方が良かったよ。お釣りも来るし」

北島「何でも煙草換算すんな。そういうところがあるから禁煙出来ないんだよ」











―――終わり

『ダメ出し』



・登場人物


 藤原

 北島



・舞台


 控室






 明転。


 控室。椅子が二つ。

 藤原、北島、舞台上手から登場。


北島「俺達の漫才、結構ウケたな」

藤原「そうだな」

北島「後は採点結果待ちだけど……でも正直、自信無いな……」

藤原「あぁ、そうだな」

北島「他の漫才師の方が面白いんじゃないかと思えてくる……」

藤原「確かにな」

北島「何か、お前あっさりしてるな」

藤原「そうか?」

北島「うん。何か、他に気になる事があるって感じだ」

藤原「気になる、か。確かにそうだな」

北島「何だ?言ってみろよ」

藤原「あぁ、そうだな。まぁ、座れよ(椅子に座る)」

北島「何だ?改まって」

藤原「いいから」

北島「分かったよ(椅子に座る)」

藤原「前々から言おうと思ってた事がある」

北島「何だよ?」

藤原「お前、甘いんだよ」

北島「は?」

藤原「さっきの漫才、評価で言って、百点だったと言えたか?」

北島「いや、そうは思えないけど……」

藤原「自分では何点だったと思う?」

北島「まぁ、厳しめに言って、六十点くらいかなと」

藤原「甘い。甘過ぎる。だからお前はダメなんだ」

北島「何だと?じゃあお前は何点だったと言うんだ?」

藤原「三十点だよ」

北島「それは厳し過ぎるんじゃないか?そこそこウケてたじゃないか」

藤原「そこそこじゃダメなんだよ。確実に笑わせられるところでウケなかった事が多々あったじゃないか」

北島「まぁ、確かに……」

藤原「収録が終わったら反省会開こうと思ったけど、今言わないとダメな気がするから言うぞ。お前はダメだ!」

北島「おいおい、俺だけかよ?」

藤原「あぁ、お前だ。お前に対するダメ出しを言うぞ」

北島「何だよ?」

藤原「さっきの漫才、一番最初の挨拶、覚えてるよな?」

北島「『どうもー、敏感ペットボトルでーす』だったが?」

藤原「その後の俺のセリフ、『皆様から見て左に見えるのが私、藤原です。いきなり汚い話で申し訳ありませんが』でお前が『何ですか?』と相槌を打って、『北島です』と言う。この件覚えてるよな?」

北島「あぁ。それが?」

藤原「アレ、どう考えても俺の『北島です』を言うタイミング遅かったろ!」

北島「……はぁ?」

藤原「そしてその後の好きな自販機の飲み物が何かお前から聞かれた時、『おでん缶』って答える時、俺の喉が詰まって小さい声で言っちゃって聞き取れなかったから二回言ったろ。俺のせいでスベッただろ!」

北島「は、はぁ……?」

藤原「その後も俺がトチってセリフ飛ばしたろ。アドリブでお前が繋げてくれたから助かったけど、俺、フリーズしちゃってその後も引き摺って最後まで酷かったじゃないか!」

北島「まぁ、そうですけど……」

藤原「この失態をどうしてくれるんだ!」

北島「……お前の失態じゃん」

藤原「そうだよ。だからこそ、お前がしっかり俺の事叱ってくれないから、大事なこの漫才コンテストで失敗を招いたんじゃないか」

北島「俺のせいなの?」

藤原「お前のせいだろ。じゃなきゃこんな不安が残る漫才はしなかった。これまでの漫才もそうだよ。俺の失敗をお前が指摘して来なかったから、甘いまま、ここまで来ちゃったんじゃないか!」

北島「俺が甘いって、お前に対して甘いって事!?」

藤原「それ以外に何がある!」

北島「それはおかしいって!お前が悪いんじゃん!」

藤原「そうだよ。俺が悪いよ。でもお前が何も言わないから、不安は抱きつつも、俺はこのままで良いんだと勘違いして、失敗続きのまま、ここまで来ちゃったじゃないか」

北島「自分で直さなきゃって少しでも分かってるんだったら自分で直せば良いだろ。何で人のせいにするんだよ」

藤原「相方を叱るのも相方の仕事だろ」

北島「そりゃそうかもしれんけど、お前が自分で気付いてたならそこ直しゃ良いだろ」

藤原「お前がそこに気付かないから、俺がこうしてお前を叱ってるんじゃないか」

北島「これは叱ってると言えるのか……?」

藤原「相方を育てるのが相方の仕事だって言っただろ?この俺の言葉を受け止めて、これからの俺の失敗を必ず指摘するように」

北島「は、はぁ……何このダメ出し」

藤原「ちなみにお前に対するダメ出しはこの俺に対する甘さだけで、漫才のネタ作りとか漫才の最中に対するダメ出しは無いから。お前はそこだけは完璧だから」

北島「何で急に褒めてきたの?まぁ、ありがとう」

藤原「じゃあ、以上の事で、俺に対するダメ出しをしてほしい」

北島「ダメ出し?」

藤原「そう。今後の俺とお前の為に、評価してほしい」

北島「どういう評価の仕方を?」

藤原「俺はどこを直せば良いと思う?」

北島「あぁ、そういう?そうだなぁ……さっきお前が言った通り、噛むとかタイミングのズレとかを無くしてくれたり、アドリブで臨機応変に対応出来たらもっとウケてたと思う」

藤原「それはもう俺が言った事だろう!やる気あんのか!」

北島「えぇ……何で怒られてんの……?」

藤原「お前の為を思って言ってんじゃないか。同じ事を繰り返し指摘しても意味なんか無いぞ?」

北島「もっともらしい事言ってんじゃないよ。えー?後何だろう……まぁ、強いて言うなら、緊張し過ぎかな?それを改善出来たらミスも少なくなるだろうし、余裕が出来ると思う」

藤原「緊張を無くす為にはどうしたら良い?」

北島「えー?まぁ、場数を踏むしか無いんじゃない?」

藤原「何それ?じゃあこれからも失敗し続ける可能性があるじゃん」

北島「まぁ、そうかもしれんね」

藤原「それじゃあいつまで経っても俺は成長出来ないじゃないか!ちゃんとダメ出しする気あんのか!」

北島「もー、何なのお前……じゃあどうすりゃ良いか自分で考えろよ」

藤原「それが出来たらこんな事してない」

北島「はぁ?じゃあこれからの俺達の事話し合うしか無いじゃないか」

藤原「何だよ?」

北島「解散だ、解散。やってられるかよ」

藤原「何で?」

北島「お前、直す気が見られないんだよ。全部俺のせいにしてさ。これからやってけないよ」

藤原「そうか。じゃあ解散だな」

北島「でもこれだけは言わせてくれ。お前のそのドモりとか詰まったりするところも含めて俺は面白いと思って評価してたんだ。だからこのままでもいたかった。でもお前はそれを望んでいないようだから諦める」

藤原「そうか……俺は、お前のネタとツッコミが好きだった。面白いと思った。俺はこれからもお前とやっていきたいと思ってた」

北島「……ん?」

藤原「お前が諦めるなら、俺は身を引く」

北島「待て待て。俺はお前とやっていきたいと思ってる。お前は?」

藤原「俺はお前とやっていきたいと思ってる」

北島「じゃあ解散する必要が無いじゃないか」

藤原「お前が言い出したんだろ」

北島「元はと言えばお前が始めた話だろ」

藤原「まぁ、そうか」

北島「じゃあこれからは俺はお前のダメ出しを真剣に考えるから、お前は自分のミスを減らせるように努力すれば良い。どうだ?」

藤原「その努力をどうすれば良いかが分からないんだけど?」

北島「最初に言ったけど、場数を踏んで慣れていくしか無いだろ」

藤原「そんなぁ……俺は早くお前のお荷物から卒業したいのに」

北島「俺はお荷物だなんて思ってないよ。でもお前がそう思ってるなら、気長に改善していこうよ」

藤原「そうかぁ……分かった。お前の言う通りにしてみるよ」

北島「おう」


 暗転。


 明転。


 控室。

 藤原、北島、椅子に座って板付き。北島、雑誌を読んでいる。


北島「『敏感ペットボトル。新ジャンル。ドモり漫才』か」

藤原「あの話し合いから五年。まさか俺が一切成長しないまま、ここまで売れるようになるなんてな」

北島「努力はしてたろ。結果が出なかっただけで」

藤原「結局、今でもドモりとか詰まりとかセリフ飛ばしは健在だけどな」

北島「でも『続ける事に意味がある』とはよく言ったものだよ。お前のおかげで仕事増えたし」

藤原「お前が見切らなかったおかげだよ。ありがとう」

北島「こちらこそ、ありがとう」

藤原「これからの事だけど、俺はどうしたら良い?」

北島「とりあえず、現状維持で」

藤原「って事は、ミスを改善出来るように努める?」

北島「いや、そこはもう諦めよう。お前も無理だろ?」

藤原「五年で何一つ改善出来なかったからな」

北島「その無駄な努力は諦めよう」

藤原「無駄って……他に言い方無かったのかよ」

北島「でも事実だろ?」

藤原「まぁ……」

北島「お前はそのままで良いんだよ」

藤原「何か嬉しい」

北島「じゃあこれからも、漫才、ミスしていこう」

藤原「だから言い方よ。でもこれからも頑張ってミスしていくわ」

北島「出来ればわざとじゃなくて、自然体で」








―――終わり

『嬉しくない』



・登場人物


 北島

 藤原

 西岡



・舞台


 藤原宅






 明転。


 藤原宅。卓袱台一つ、座布団三つ。後ろにラック。ラックの上には帽子とサングラス、Tシャツ、ボトムスが飾ってある。

 北島、藤原、西岡、舞台上手から登場。北島、西岡、荷物を持っている。


藤原「いらっしゃい」

北島「お邪魔するぞ」

西岡「お邪魔~」

藤原「まぁ座ってくれよ(座る)」

北島「おう(座る)」

西岡「おう(座る)」

北島「じゃあ早速だけど、誕生日おめでとう!藤原!」

西岡「おめでと~、藤原」

藤原「ありがとう、北島、西岡。お前らも誕生日おめでとう」

北島「お決まりの、誕生日プレゼント交換な。はいコレ(誕生日プレゼントを一つずつ藤原と西岡に渡す)」

西岡「俺からも、はい(誕生日プレゼントを藤原に二つ、北島に一つ渡す)」

藤原「ありがとう。おっ、西岡は二つか」

西岡「おう」

藤原「じゃあ俺からも、はい(誕生日プレゼントを北島に西岡一つずつ渡す)」

北島「サンキュ」

西岡「ありがと~」

北島「もうこの誕生日会やるのも何年になる?」

西岡「大学からだから、五年とか?」

藤原「おー、もうそんななる?社会人になってもよく続いてるよなぁ」

北島「皆同じ誕生日だから、誕生日会を開こうって決めて、なんやかんや今までよく続いたな」

西岡「楽しくてなんだかんだ忙しいって言いながらも集まってるよね。まぁ飲む口実って感じだけど」

北島「でも良かったのか?彼女とかは?」

藤原「あぁ、良いの良いの。彼女いないし」

西岡「そうなのか。今年も寂しいな」

藤原「うるせっ。そういうお前らはどうなんだよ?」

北島「俺もいないよ」

西岡「俺も」

藤原「なんだ、揃いも揃って寂しい独身男性か」

北島「うるせっ」

西岡「ははっ、うるせっ」

北島藤原西岡「はっはっは」

北島「あっ、アレ飾ってるんだ?」

藤原「え?あぁ、 サングラスとか?」

北島「うん」

西岡「アレってここ四年の北島からの誕生日プレゼントだよね?」

藤原「うん。サングラスとTシャツとボトムスと帽子ね。大事に飾ってる」

北島「一度も身に着けてるとこ見た事無いけど?」

藤原「あー、何か勿体無くてさ。汚れたら嫌だから飾ってる」

北島「えー?たまには着けてるとこ見せてよ」

藤原「まぁまぁまぁ。そのうちな?」

西岡「藤原はまだ劇団、続けてんの?」

藤原「うん。この前、準座から座員に上がったよ」

北島「おぉ、おめでとう。かく言う俺もこの前、主任に昇進したよ」

西岡「おぉ、北島もおめでとう。俺は相も変わらず平社員だよ」

藤原「まぁ、今年も健康で歳を喰ったという事で良いじゃないか。あ、じゃあ開けて良い?誕生日プレゼント」

北島「おう、開けてくれ」

藤原「じゃあ北島の方から(包装を解く)これは靴か」

北島「この帽子とサングラスのブランドと同じやつで、有名な野球選手が身に着けてるやつと同じ商品なんだよ」

藤原「マジか。結構高いんじゃないの?」

北島「まぁ三万くらいかな。でも良いやつで、俺も使ってる靴だから是非プレゼントしたくて奮発しちゃった」

藤原「ほーん。ありがとう」

北島「おう」

藤原「じゃあ次は西岡のな」

西岡「きっと喜ぶと思うぞ」

藤原「マジで?期待しちゃうよ?」

西岡「良いよ」

藤原「えー?何だろ~?これは酒か~?(包装を解く)これは、醤油?」

西岡「うん」

北島「何で……?」

西岡「醤油が切れてるってSNSで呟いてたから」

北島「えぇ……?」

藤原「……これは?(包装を解く)電池?」

西岡「うん」

北島「何で?」

西岡「電池も切れてたってSNSで呟いてるの見たから」

藤原「…………(腕を組んで俯く)」

北島「おい、西岡。いくらなんでも酷いぞ」

西岡「何で?」

北島「お前さぁ、何で日用品を買うんだよ。去年も一昨年も、いや、この行事を始めた時からそうだったけど、何で日用品をプレゼントするんだよ」

西岡「だってあっても困らないじゃん」

北島「そらそうだけどさ。でももう少しプレゼントらしい物を贈れよ」

西岡「でも心がこもってるなら何でも良いんじゃない?」

北島「それにしたって、こんな安くていつでも買えるようなやつ買うなよ」

西岡「だけど俺ん家って貧乏じゃん?弟と妹を大学に通わせなきゃならないから、あんまり高いの買えないんだよ」

北島「それでもそこは―――」

藤原「俺さぁ、お前からの誕生日プレゼント、全然、嬉しくない」

北島「ほら。藤原、怒っちゃったじゃないか」

藤原「違うよ」

北島「えっ?」

藤原「北島、お前だよ」

北島「えっ?俺?」

藤原「うん。北島、お前からの誕生日プレゼント、全然、嬉しくない」

北島「えっ?何で?」

藤原「お前の誕生日プレゼント、俺の趣味じゃない」

北島「そうなの?」

藤原「うん」

北島「じゃあ西岡のは?」

藤原「嬉しい。とても助かる」

北島「何でや。俺のは嬉しくないの?」

藤原「正直そう」

北島「何でだよ。折角俺が選んできてやったのに」

藤原「ごめん。でも本当の事だから」

北島「えー!?嘘ー!?」

藤原「ごめん、ごめん、ごめん!マジでごめん!」

北島「理由は何だよ?」

藤原「センス無ぇんだよな、お前の誕生日プレゼント」

北島「はぁ?」

西岡「あ、それ俺も思った」

北島「何だよ、西岡まで。どこがセンス無いって言うんだよ?」

藤原「この靴もそうだけど、今までのプレゼントで、あの帽子とサングラスとTシャツとボトムス、俺に似合うと思ってんの?」

北島「そう思ってるから買ったんじゃないか」

藤原「こういうのは一流アスリートとかモデルとかが着るからそれっぽく見えるのであって、普通の人間の俺が着たところで、ただの変なファッションにしかならないんだよ」

北島「そんな事ないだろ。仮にもファッション誌にも取り上げられたファッションだぞ?」

藤原「ほら、そういうところだよ。何でもファッション誌の言う事を鵜吞みにする。自分のファッションは自分で決めるから、こういうのに手を出さないでほしい」

北島「えぇ?じゃあ俺のって迷惑だった?」

藤原「うん」

北島「でもタダで貰えるんだから文句言うなよ」

藤原「タダと言えばタダだけど、それぞれに誕生日プレゼントを贈り合ってるんだから、貰った物に対してそれ相応の対価をお返ししてる訳だろ?」

北島「うん」

藤原「それで考えると、北島からのプレゼントは釣り合ってないんだよな」

北島「何でだよ。西岡の日用品の方が良いって言うのかよ?」

藤原「実際、困ってたところに持ってきてくれるし、正直、助かる」

北島「マジかよ……じゃあ今までのプレゼント全部、持って帰るから返せよ」

藤原「一度、貰った物を返す訳にはいかないな」

北島「代わりに五年分の新しいプレゼント持ってくるから」

藤原「いいよ。どうせまたセンス無い物ばかり持ってくるだろうから。来年から気を付けてくれればそれで良いから」

北島「なんなん、全く……でも西岡の今までのプレゼント、お前、喜んでる様子が無かったけど、それでも良かったの?」

藤原「あまりにもドンピシャで欲しい物が来たから言葉を失ってただけ」

北島「マジかよ。西岡、お前これまで贈ってきた物ってなんだったっけ?」

西岡「え~?何だったかな……最初に送ったのは、缶詰、詰め合わせだっけ?」

藤原「食料が尽きてたから助かった」

西岡「次の年は、米10kgだったっけか」

藤原「スパゲッティとパンに飽きてたし、丁度、切らしてたから助かった」

西岡「一昨年は、五千円分チャージしたパスモだったか?」

藤原「現金持ち合わせてなかったからとても助かった」

西岡「去年は、電球四個だったかな?」

藤原「一気に切れて困ってたから大いに助かった」

北島「お前、いつも日用品贈ってんな」

西岡「ツイッター見てたら困ってるみたいだったから」

北島「全く以って誕生日プレゼントらしくない」

藤原「自然体で良いんだよ。無理して高い物買わなくたって、心がこもってれば嬉しいんだよ」

北島「じゃあ俺からの誕生日プレゼントは心がこもってなかったって言うのかよ?」

藤原「うん」

北島「酷くない?これでも一生懸命選んだんだぞ?」

藤原「お前のは誰かが言った、嬉しい事ってのをそのまま鵜呑みにして実行しただけ。心はこもってない」

北島「おいおい、それは言い過ぎだぞ。流石に凹む」

藤原「言い過ぎか?」

北島「うん。それに心がこもってなければ、こんな高い物プレゼントしないぞ」

藤原「心の込め方が空回りしてるんだよな。実際、要らない物ばかり貰ってる人の気持ち考えた事ある?」

北島「それ、今言われても分からんよ。最初から言えば良かったじゃないか」

藤原「言えるかぁ?こんな事。わざわざ高い物を贈ってくれた友人に、『お前の誕生日プレゼント嬉しくない。いらない』ってさぁ。言えるか?言えねぇよ!」

北島「……今言ってるじゃん」

藤原「この際だから言ってやろうと思って」

北島「この際って何だよ。じゃあもう俺、来年からお前が欲しい物言ってくれればそれを買う事にするから」

藤原「それはちょっと……」

北島「何で?」

藤原「自分から物をねだるってちょっと気が引ける」

北島「えぇ?じゃあどうすれば良いの?」

藤原「ちょっとよく考えて、それなりのプレゼント贈ってくれればそれで良い」

北島「でもそれでまたセンス無いプレゼント贈る可能性があるなら、初めからお前の欲しい物聞いてた方が良くない?」

藤原「お前の為にセンスを磨く練習をしてやるって言ってんだよ。将来の嫁さんになる人の為にこれからここでセンスを磨いておけば役に立つだろ」

北島「それを言うなら西岡に言えよ。アイツ、何でも日用品贈ってくるんだぞ?」

西岡「でも現に俺のプレゼントは喜ばれてる訳で」

北島「五月蠅ぇ」

藤原「西岡、北島からのプレゼントを開けてみろよ」

西岡「え?あ、おう……(北島からの誕生日プレゼントを開ける)」

藤原「北島、西岡からの誕生日プレゼントを開けてみろ」

北島「俺もか?おう……(西岡からの誕生日プレゼントを開ける)」

西岡「これは、漫画?」

北島「そうそう。お前漫画好きだったろ?ネットで人気の漫画探して買ってきたんだよ」

西岡「…………」

北島「えっ、嬉しくなかった……?」

西岡「俺、これ試し読みで一巻分読んだんだけど、好きじゃなかったんだよな」

北島「マジか……そりゃ悪かった」

西岡「いや、気持ちだけ受け取っとくよ」

藤原「な?北島、お前は自分で考えずに、他人の意見だけを取り入れて贈ってるんだよ。心がこもってない証拠だ」

北島「……かなりショック」

藤原「で、西岡からの誕生日プレゼントは何だった?」

北島「近所のスーパーの商品券」

藤原「嬉しいだろ?」

北島「まぁ、あっても困らないけど……」

藤原「どうせ使うんだし、良かったろ」

北島「でも誕生日プレゼントらしいかと言われると……」

藤原「現ナマよりはマシだろ?」

北島「まぁな」

藤原「この通り、西岡はセンスが良い。あっても困らない物を贈ってくれる」

北島「そういうお前はどうなんだよ。お前からのプレゼントを開けても良いか?」

藤原「おう。良いぞ」

北島「西岡、お前も開けろ(藤原からの誕生日プレゼントを開ける)」

西岡「うん(藤原からの誕生日プレゼントを開ける)」

北島「これは……何?(藤原のブロマイド写真集を見せる)」

西岡「あ、俺も同じだ(藤原のブロマイド写真集を見せる)」

藤原「去年出た、俺のブロマイド写真集だ」

北島「うん、だから?」

藤原「俺はこれから売れるだろう。将来、高く売れるかもしれないサイン入りだ」

西岡「あぁ、はい」

藤原「今まで俺を応援してくれてたお前達に、せめてものお礼だ。受け取ってくれ」

北島西岡「…………」

藤原「ん?どした?」

北島「いや、これさぁ―――」

西岡「凄ぇじゃん!これ!」

藤原北島「マジで!?」

西岡「いやぁ、芸能人の写真集って、何か照れ臭くて今まで買えなかったんだよな~!」

藤原「いやぁ、芸能人だなんてそんな」

北島「西岡、本当にコレが良いのか?」

西岡「うん。何で?」

藤原「コレって何だよ。良いだろ別に」

北島「いや、こういうのは普通にくれよ!」

藤原「何だよ、物乞いみたいに」

北島「言い方ぁ!確かに喜んでるよ!でもこういうのは誕生日じゃなくても、出た段階でくれよ!友達ならそれくらい大目に見ろよ!」

藤原「でも俺まだそこまで稼げてないし……」

西岡「俺もずっと貧乏だし……」

北島「……ごめん!」

藤原「良いよなぁ、稼げてる奴は」

西岡「流石、金の使い方を分かってらっしゃる」

北島「だからごめんて!」

藤原「じゃあこの不要な物をどう処分すれば良いか考えようじゃないか」

西岡「そうだな。売るか」

北島「せめて飾って……」

藤原「今まで飾ってただけマシだと思え」

西岡「俺は受け取った翌日にすぐに売ったけどな」

北島「マジで?」

西岡「うん。弟と妹の学費に当ててた」

北島「ま、まぁ、それでお前らの役に立てたなら良いけど……」

藤原「まぁ、いつもセンス無い物を贈ってくれる代わりに俺達は懐が温かくなる訳で」

西岡「いつも誕生日プレゼントありがとう」

北島「えー?じゃあもうこれからは現ナマをプレゼントするからそれで良しってことにしてー?」

藤原「それはちょっとー?」

西岡「なぁー?」

北島「何?何だよ?」

藤原西岡「誕生日プレゼントなんだから折角だから物が良い」

北島「どうせ金に換えるんだからどっちでも良いだろ!」





―――終わり

『腰の低い泥棒』



・登場人物


 北島

 西岡



・舞台


 北島宅



・衣装


 北島・・・スーツ、鞄

 西岡・・・全身黒づくめの服。包丁。唐草模様の風呂敷。名刺入れ。名刺。






 明転。


北島宅。テーブル一つに椅子四つ、タンス一つ。

西岡、板付き。タンスを漁っている。床には風呂敷を広げ、そこに物を置いている。そして風呂敷を結ぶ。

北島、風呂敷を結んで一息ついている西岡の所に上手から登場。


北島「ただいま……うわっ!?だ、誰!?」

西岡「あぁ、北島康介さんですか?」

北島「え、えぇ、そうですけど……貴方は?妻の知人か何かで?」

西岡「私はこういう者です(名刺を取り出し、渡す)」

北島「西岡聖弘……泥棒?」

西岡「はい。泥棒です」

北島「本物の泥棒……?」

西岡「はい。本物の泥棒です」

北島「いやいや、何かの冗談でしょう?妻から何かサプライズか何かを頼まれて何かやってるんでしょう?」

西岡「残念ながら、奥様とは面識がありません。私はれっきとした泥棒なんです」

北島「えぇ……初めて見た。生の泥棒」

西岡「なかなか無い体験でしょうね」

北島「何?じゃあ俺の家の物を盗んでたの?」

西岡「はい。コレです」

北島「ちょっと見てみて良い?」

西岡「どうぞ(風呂敷を渡す)」

北島「あぁ、どうも(風呂敷を受け取り、広げる)うわー……通帳とか印鑑とか現金が入ってる……マジで泥棒だったのか……」

西岡「だからそう言ってるでしょう」

北島「じゃあコレらは返してもらうね」

西岡「それ、貰っちゃ駄目ですか?」

北島「いや駄目だよ。俺のだし」

西岡「そうですか~……」

北島「……あのさぁ、警察に通報して良い?」

西岡「何故?」

北島「いや、不法侵入だし、窃盗未遂だし」

西岡「それだけはちょっと~!(北島の肩を掴む)」

北島「うわっ!ちょっと止めろよ!」

西岡「警察に通報はしないで下さい~!」

北島「普通するだろ!」

西岡「今、執行猶予期間中で、これでまた捕まったら実刑なんですよ~!」

北島「分かった!分かったから!離れろ!」

西岡「通報だけはしないで下さい~!」

北島「分かったつの!怖いんだよ、お前!」

西岡「あぁ、すみません!別に怖がらせるつもりは無かったんです!」

北島「とりあえず離れて!」

西岡「はい!(離れる)」

北島「あー……じゃあ今回は見逃してあげるから、もうウチにだけは入らないなら通報はしないから」

西岡「ありがとうございます!」

北島「じゃあさっさと出て行って」

西岡「はい!じゃあこれにて!(舞台上手へ退場)」

北島「何なんだよ全く……あ、この風呂敷どうすんだよ。捨てるか?」


 SE、インターホンのチャイムの音。


北島「はーい?(舞台上手に退場)うわっ!?(後ずさりしながら舞台上手から登場)何!?何しに来たの!?」

西岡「いやぁ、ちょっと」

北島「何!?あ、風呂敷!?風呂敷なら返すから!(風呂敷を差し出す)」

西岡「(風呂敷を受け取る)いやぁ、そうじゃなくて。実はこういった事もしてまして(名刺を取り出し、渡す)」

北島「西岡聖弘、強盗」

西岡「副業で強盗もしてます!(包丁を取り出す)金を出せ!」

北島「通報ー!」








―――終わり

『タール量』



・登場人物


 北島

 藤原

 強盗(最後だけ登場)



・舞台


 喫煙所



・衣装


 北島、藤原・・・スーツ

 強盗・・・全身黒い服に覆面






 明転。


 喫煙所。ベンチ一つに丸型灰皿二つ。

 北島、藤原、煙草を吸いながら板付き。


藤原「先輩、最近、喫煙所めっきり減りましたよねぇ」

北島「そうだなぁ。そろそろ禁煙でも始めるかぁ」

藤原「まずはタール量、減らして、噛みガムなり電子煙草なりにして、最終的には飴とかガムに代えていくってのが禁煙のコツらしいですね」

北島「らしいな。でもなぁ……前にタール量、減らしてみたんだが、結局、吸い応えが無くて元のタール量に戻って禁煙、失敗したよ」

藤原「一緒に禁煙しません?」

北島「えっ?」

藤原「一緒に健康的な生活にしましょうよ。お金も貯まりますし。こういうのは一人でやるより仲間がいた方が意欲向上に繋がるらしいですよ?」

北島「そうだなぁ。じゃあ一緒にやるか、禁煙」

藤原「よし。じゃあまずはタール量を減らしていきましょう。先輩、今どれくらいの量吸ってるんですか?」

北島「俺は今8mgかな。お前は?」

藤原「一000mgッス」

北島「一000mg。何か聞いた事無ぇ数字だな」

藤原「そうですか?」

北島「どこで買ってんの?」

藤原「まぁ、煙草専門店ですかね」

北島「煙草専門店でもそんな法外な数値のミリ数、扱うかね?いくらなの?」

藤原「一箱五万円です」

北島「って事は一本二千五百円か。一日何本吸ってんの?」

藤原「二箱です」

北島「二箱。一日で十万、吸ってんの?」

藤原「はい。ヘビースモーカーなので」

北島「ヘビースモーカーの域を逸脱してる。何でその金あんの?」

藤原「競馬とか競輪とか競艇とかオートレースとかパチンコで何とか」

北島「……もう止めろよ。普通に。一ヶ月で三百万円とか勿体無さ過ぎるだろ」

藤原「ですよねぇ……」

北島「ちなみにその煙草、重くないの?」

藤原「もう慣れました」

北島「なれの問題なのか……えっ、一箱、二十本入りだろ?」

藤原「そうですよ?」

北島「ちょっと箱、持たせて(手を差し出す)」

藤原「良いですよ(ポケットから未開封の煙草の箱を取り出し、手を差し出した北島の手の上にパッと落とす)」

北島「危ねっ!?いきなり落とすなよ!?骨折れたらどうすんだよ!?」

藤原「すんません」

北島「そして重っ!?」

藤原「二0kgですからね」

北島「『ですからね』じゃねぇんだよ!こんなん凶器だろ!」

藤原「店主にも言われました」

北島「じゃあ売るなよ!その店主!」

藤原「俺に言われても……」

北島「ていうかコレ、外箱も中身も本当に紙で出来てんの?」

藤原「そうですよ?」

北島「よく耐えられるな」

藤原「特殊技術を駆使してるらしいですよ」

北島「どこに技術費やしてるんだ……てかコレ普段二個持ってるんだろ?スーツのポケットに穴空いたりしないのか?」

藤原「これの為だけに特殊加工してもらいました」

北島「だからどこに技術駆使してんだ……てかコレ一000mgって言ったよな?この長さで一kgって考えられないんだけど」

藤原「そこも特殊技術で圧縮しているらしいです」

北島「だからどこに技術駆使してんだ……」

藤原「一本吸ってみます?」

北島「あ?あぁ、じゃあ折角だから(財布から二千五百円を取り出して渡す)」

藤原「何ですか?コレ?」

北島「一本二千五百円だろ?その代金」

藤原「いいですよ、そんな。どうせ禁煙するんですから」

北島「そうか?でもお前、絶対、禁煙出来ないぞ?」

藤原「何でですか?」

北島「一日40kgも煙草吸ってる奴がいきなり禁煙なんて出来る訳が無い」

藤原「そんなのやってみないと分からないじゃないですか」

北島「分かるよ。お前に禁煙は無理」

藤原「まぁまぁ、とりあえず一本(煙草を差し出す)」

北島「おう(受け取り、火を点けようとする)うぉおっ……!?やっぱり重い……!コレ両手で支えないと持てないぞ……!?お前今までどうやって片手の指だけで持ってたの……!?」

藤原「俺、昔剣道部だったんスよ」

北島「あっそう……!これ自力で火ィ点けられない……!」

藤原「火ィ、点けましょうか?」

北島「頼むっ……!」

藤原「(ライターを取り出し、北島の煙草に火を点ける)」

北島「(吸う。そしてすぐ咳き込む)ゲェッホ!ゲェッホ!何だコレ!?道路の味がする!?」

藤原「道路食べた事あるんですか?」

北島「モノの例えだよ!普段こんなん吸ってんの!?お前!?」

藤原「これを吸うようになってから、何、喰っても排気ガスの味しかしないんですよね」

北島「だろうな!?何かの病気だよ、お前!」

藤原「禁煙したら飯が上手くなるって言うじゃないですか。だから食の喜びを得たくて禁煙しようと思って」

北島「それ以前に会社の健康診断で何か言われなかったのか?」

藤原「このまま吸い続ければもうすぐ死にます、とは言われました」

北島「だろうな!」

藤原「後、周りの人達にも有害で死者が出てもおかしくない、とも言われました」

北島「もう止めよう!?なっ!?俺も協力するから!一緒に禁煙しよう!?」

藤原「先輩……!そこまで俺の事を……!」

北島「俺自身の心配だよ!今までずっと隣で吸ってた俺も死ぬかもしれないからな!?」

藤原「というのは口実で、俺の事を心配してくれてるんですよね!?」

北島「それもあるけど!」

強盗「(声のみ)強盗だー!手を挙げろー!」

北島「ご、強盗!?」

藤原「ヤバいですよ!先輩!」

強盗「(声のみ)おい!これに金を詰めろ!(舞台下手から登場)おっ、喫煙所かぁ……丁度、煙草切らしてたんだよなぁ。おい!お前!」

藤原「お、俺ですか……?」

強盗「煙草寄越せ!」

藤原「は、はい!(煙草を強盗に差し出す)」

強盗「(指で持とうとする)うおっ!?重っ!?何だコレ!?」

北島「藤原!行け!」

藤原「はい!うおおおおおおおおおおおおおおお!!!(まだ開けてない煙草の箱で強盗の頭を殴打する)」

強盗「ぐわっ!?(気絶する)」

藤原「はぁ……!はぁ……!」

北島「藤原、大丈夫か?」

藤原「はい。何とか」

北島「店員さーん!警察に通報ー!あとロープかガムテープ!」

藤原「まさか、俺がこんな殺傷能力がある物を普段持ち歩いてるなんて……」

北島「だから言ったろ?凶器だって」


 沈黙。


藤原「俺、煙草は止めようと思います」

北島「そうしな」






















―――終わり

『なんとやら』



・登場人物


 北島

 西岡

 藤原



・舞台


 ふ頭






 明転。


 ふ頭。

 SE、汽笛の音。

 藤原、舞台上手から何かを探しながら登場。

 北島、西岡、舞台下手から登場。


藤原「北島っ……!」

北島「よぉ、藤原。探してるのは、俺か?」

藤原「…………」

北島「お前とは縁みたいなのがあるみたいだな。まさに犬も歩けばなんとやらだ」

西岡「ボス、棒に当たる、です」

北島「ここで決着着けようぜ」

藤原「良いだろう。これっきりにしようぜ(銃を取り出す)」

北島「あぁ。西岡」

西岡「はい(銃を渡す)」

北島「飛んで火にいるなんとやら、だな」

西岡「ボス、夏の虫、です」

北島「お前は世界を知らない。狭い世界観では、俺は倒せん」

藤原「何?」

北島「井の中の蛙なんとやら、だ」

西岡「ボス、大海を知らず、です」

北島「お前は俺を倒してどうするつもりだ?」

藤原「俺は、この国を変える!その為に、お前を倒し、実権を握る!」

北島「欲張りは身を滅ぼすぞ。二兎を追う者はなんとやら、だ」

西岡「ボス、一兎をも得ず、です」

藤原「俺はお前とは違う。お前のように腐った政治はしない!」

北島「いいや、お前は俺と同類だ。俺と手を組めば天下を取れるぞ。牛は牛連れ、なんとやらだ」

西岡「ボス、馬は馬連れ、です」

藤原「何をふざけた事を!俺がお前と手を組む?馬鹿も休み休み言え!」

北島「やれやれ……馬の耳になんとやら、か」

西岡「ボス、念仏、です」

藤原「俺とお前は理想が違う。そもそも手を組むなんて考えられない」

北島「最終的に辿り着く所は同じだよ。それに気付いていないだけだ。牛も千里、なんとやら、だ」

西岡「ボス、馬も千里、です」

藤原「お前だけは絶対に許さない」

北島「やれやれ、昔、お前を世話した事を忘れたか。犬は三日飼えばなんとやらだな」

西岡「ボス、三年恩を忘れず、です」

藤原「昔の事なんて忘れた。俺は、今を生きる。お前を倒して」

北島「正に飼い犬になんとやらだ。やるか」

西岡「ボス、手を噛まれる、です」

藤原「行くぞ!北島!」

北島「来い!負け犬のなんとやらだ!」

西岡「ボス、遠吠え、です」

北島「ちょっとごめんね!?おい、西岡!五月蠅いぞ、さっきから!」

西岡「だってボス、最近、物忘れ激しいから」

北島「物忘れじゃねぇよ!」

藤原「じゃあ知らなかったのか」

北島「知っとるわ!知ってるけどあえて言ってねぇんだよ!」

西岡「何でですか?」

北島「そっちの方が何か格好良いからだよ!」

西岡「そんな単純な理由だったんですか?」

北島「悪いか!?」

藤原「そんな格好良くないぞ」

西岡「ちゃんと全部ハッキリ言った方がよっぽど格好良いと思いますよ」

藤原「そうそう」

北島「お前も五月蠅ぇな!えっ、何?俺格好悪く見えてたの?」

西岡「はい」

藤原「うん」

北島「マジかよ……恥ずかしっ……!」

西岡「ボスは前々から諺をボカす癖があったので、今まで訂正してきたんですよね。でもボスは毎回、勉強してこないどころか無視するんですよね」

北島「無視してた訳でもないし、勉強してこなかったんじゃないの!あえて言わなかったの!」

西岡「格好良いと思ってたんですよね?」

北島「あ、まぁ、その、はい……」

藤原「ダッセェ。こんなのが俺の宿敵だったのか」

北島「うぅっ……」

西岡「キチンと覚えて、そのまま使った方が大人で格好良いと思いますよ?」

北島「そうなん?」

西岡「えぇ」

藤原「俺もそう思う」

北島「敵からそう言われるなら、そうなのかもしれんな」

西岡「それにしても動物の諺が多かったですね。動物、好きなんですか?」

北島「たまたまだよ。それが何か?」

西岡「いや、案外、可愛いなって」

北島「気持ち悪っ」

藤原「気持ち悪いと言えば、西岡、さっきからサポートばかりしてるけど、もしかして北島の跡を狙ってたりしないか?」

北島「何?」

藤原「的確なツッコミ、まるで知識は、頭脳は自分が持ってるかのような言い方。実は裏切るつもりなんじゃないか?」

西岡「何を馬鹿な。そんな事ある訳無いでしょう」

北島「本当に何も無いんだな?」

西岡「勿論です。あんな輩の言う事を真に受けてどうするんですか」

北島「そうだよな。さて、この後どうするか……」

西岡「じゃあ最初からやり直しません?」

北島「仕切り直し?」

西岡「えぇ。ちょっとリズムが乱れてしまいましたし。どうですか?」

藤原「俺はそれで良いよ」

北島「よし、じゃあ最初から。飛んで火に居るなんとやら―――」

西岡「夏の虫」

北島「あー!そうだった!夏の虫!夏の虫ね!分かってたよ!飛んで火に居る夏の虫とはこの事だ。お前は世間を知らない。正に井の中の蛙大海を知らず―――」

藤原「(発砲する)」

北島「うわぁ!?危ねぇ!何すんだよ!」

藤原「長いから」

北島「お前、仕切り直しでも良いって言ったじゃねぇか!」

藤原「思ったより長くなりそうだからもういいかなって。それに不意打ちの方が成功率、高そうだし」

北島「お前には正々堂々という言葉を知らんのか!」

藤原「汚職に手を染めてるお前が言うか」

西岡「そうだそうだ」

北島「五月蠅ぇ!お前はどっちの味方なんだ!とにかく、仕切り直しだ!拳銃で決闘だ!(銃をしまい、少し離れる)」

藤原「良いだろう!受けて立つ!(銃をしまい、少し離れる)」

西岡「(二人の間に立つ)」


 沈黙。


北島「早く抜け」

藤原「お前が先だ」

北島「フッ、そうかい」


 沈黙。


北島「(銃を抜き、撃つ)」

藤原「(銃を抜き、弾丸を躱し、撃つ)」

北島「(弾が当たって)ぐわっ!(跪く)」

西岡「ボス!(駆け寄る)」

藤原「俺の勝ちだ」

北島「クソッ……!猿も木からなんとやら、か……!」

西岡「ボス、落ちる、です」

北島「分かってるよ……!最期くらい、格好付けさせてくれよ……!」

西岡「だから格好良くないですって」

藤原「逆に何で格好良いのか分からん」

北島「追い打ち掛けないで……じゃあ最後にこれだけは全部、言ってやろう……正に、狛犬と獅子の雄叫び、世に非ず、だ……(倒れる)」

藤原「どういう意味だ?」

西岡「さぁ……ボスのオリジナルの諺かもしれません」

藤原「そうか。意味が分からないままだとモヤモヤするな」

西岡「そうですね(北島から銃を取り、藤原を撃つ)」

藤原「ぐわっ!?」

西岡「あの諺の意味を知りたければ、向こうに逝く事ですね」

藤原「く、くそっ……!(倒れる)」

西岡「……ボスの跡は私が継ぐ。でもボスみたいなカリスマは私には無い……実権を握れる代わりに、自由に動いてくれる駒が居なくなった。正に馬を得てなんとやら、ですね」

北島「鞭を失う、だぞ」

西岡「生きてたんですか!?」

北島「防弾チョッキくらい着てるさ」

西岡「そういえばそうでした」

北島「狡兎死して走狗烹らる。お前、俺を最初から捨てるつもりで動いていたな?」

西岡「…………」

北島「まぁ良い。藤原、もう良いぞ」

藤原「はい(起き上がる)」

西岡「なっ……!?これはどういう事ですか!?」

藤原「(防弾チョッキを見せる)」

西岡「防弾チョッキ……?」

北島「お前がどれだけ忠誠心高く俺の下で働いているか確かめたんだ」

西岡「じゃあ最近、ボスと藤原さんが揉めて、藤原さんが組織を抜けたのって……!?」

藤原「全部、演技だよ」

西岡「じゃあ私の独り相撲だったって事ですかぁ~?も~!」

北島「お前はまだ政治に就くには早い。馬に乗るまではなんとやら。暫く下の階級で勉強するんだな」

西岡「牛に乗れ。分かりました」

藤原「暫くはまたボスの諺のサポート係だな」

西岡「いい加減その仕事から卒業したいんですけど!」

北島「そもそも頼んだ覚えは無い!」







―――終わり

『カツアゲ』



・登場人物


 藤原正将

湯擦集瑠ゆすりたかる

 狩井親仁かりいおやじ



・舞台


 路上



・衣装


 藤原・・・スーツ

 湯擦・・・アロハシャツ

 狩井・・・湯擦とは柄が違うアロハシャツ





 明転。


 湯擦、何枚かラミネート加工された紙を持って舞台中央に板付き。

 藤原、舞台上手から登場。


湯擦「あ、お兄さん、ちょっと良いですか?」

藤原「はい?」

湯擦「ちょっとアンケートにご協力して頂けませんか?」

藤原「えー?でも俺、今、会社、終わって疲れてるんですけど」

湯擦「いくつかアンケートを答えてくれたら景品をお渡しします」

藤原「ポケットティッシュ的な何か?」

湯擦「ちょっと違いますね」

藤原「えー?でもなぁ……」

湯擦「すぐ済みますんで!どうですか?」

藤原「うーん……じゃあちょっとだけなら……」

湯擦「ありがとうございます!じゃあちょっとこちらに……」


 湯擦、藤原を連れて舞台の奥の方に移動。


藤原「何ですか?こんな路地裏に連れて来て」

湯擦「まぁまぁ。じゃあ早速お伺いしたいんですけど、お名前は?」

藤原「藤原正将です」

湯擦「藤原様ですね。年齢は?」

藤原「三十六です」

湯擦「あら!私と同い年ですね!」

藤原「そうですか」

湯擦「ご出身は?」

藤原「大阪です」

湯擦「あらあら!良いですよね、食道楽!私、お好み焼きをおかずにご飯食べられますよ!」

藤原「あ、あぁ、そうですか」

湯擦「はい!今は会社員で?」

藤原「はい。サラリーマンです」

湯擦「今勤めてる会社はブラック企業だったり?」

藤原「うーん……仕事は辛いけど、ブラックって程でもない感じですね」

湯擦「そうですか。ちなみになんですけど。差し支えなければ、どこの会社にお勤めか教えて頂ける事って出来ますか?」

藤原「株式会社小川モーターズです」

湯擦「おぉ、最近有名になったところですね。どの役職に就いてますか?」

藤原「課長ですね」

湯擦「成程。じゃあ稼ぎは良いんじゃありませんか?」

藤原「まぁ、そこそこ、ですかね」

湯擦「はいはい。で、これが重要なんですけど、学生時代、虐められた経験は?」

藤原「特に無いですね」

湯擦「そうですか!ではそんな藤原様にうってつけのサービスがあります!」

藤原「何ですか?」

湯擦「カツアゲです!」

藤原「……は?」

湯擦「ですから、カツアゲです!」

藤原「カツアゲ?」

湯擦「はい!」

藤原「豚カツ屋さんか何かで?」

湯擦「いいえ、カツを揚げるんじゃなくて、カツアゲをします!」

藤原「ど、どういう事?」

湯擦「私はこれから貴方をカツアゲします!」

藤原「はぁ?」

湯擦「今まで経験した事が無いとの事で、貴重な経験になると思います!」

藤原「アンタ、一体どういう人なんだ?」

湯擦「あぁ、これは失礼しました。私、こういう者です(名刺を取り出して藤原に渡す)」

藤原「……湯擦集瑠。カツアゲ屋?」

湯擦「はい。私、カツアゲだけで喰っている者です」

藤原「何だその害悪な職業は……」

湯擦「今、手持ちのお金はいくらありますか?」

藤原「そんな事言う訳無いだろ」

湯擦「じゃあ少ししか無いという事ですね。今ならキャンペーンで、通常三万円脅し取るところ、一万円で勘弁して差し上げます」

藤原「それ俺に何のメリットもないじゃないか。馬鹿馬鹿しい。俺は帰る(舞台上手に去ろうとする)」


 狩井、舞台上手から登場。


藤原「な、何だよアンタ?」

湯擦「まだお渡ししてませんでしたね、景品」

藤原「あぁ、あったな、そんなの。それが何だよ?」

湯擦「お渡しします、景品。引導をね」

藤原「最後通告って事!?」

湯擦「なるべく穏便に済ませたかったのですが、仕方ないですね」

藤原「分かった!分かりました!金は出すから暴力だけは止めて下さい!」

湯擦「聞き分けの言い方は好きですよ」

藤原「(財布を取り出し、五千円札一枚と千円札四枚を湯擦に渡す)」

湯擦「これだけですか?」

藤原「給料日前でして……」

湯擦「給料日は明日ですか?」

藤原「は、はい……」

湯擦「そうですか。ではちょっとジャンプしてもらえますか?」

藤原「え?あ、はい……(SE、小銭の音)」

湯擦「ちょっとはあるじゃないですか」

藤原「はい……(小銭を湯擦に渡す)」

湯擦「ありがとうございます。あ、こちらポイントカードです。(ポイントカードを藤原に渡す)」

藤原「ポイントカード?何の?」

湯擦「カツアゲされた金額の百円につき一ポイントで、一ポイント一円で使えます」

藤原「何で使えるんですか?」

湯擦「また我々にカツアゲされた時に使えます。ポイントで代わりに支払う事が出来ます」

藤原「うわ……めっちゃ限定的……」

湯擦「今回丁度一万円なので、百ポイントお付けしておきますね」

藤原「は、はぁ……」

湯擦「今回は新規加入という事で二千ポイント付けておきましたから」

藤原「あぁ、うん。はい。どうも……」

湯擦「後コレどうぞ(クーポン券を藤原に渡す)」

藤原「これは?」

湯擦「次回から使える割増しチケットです。これ一枚でカツアゲされる金額が三割上がります」

藤原「んなの使う訳無いでしょ!?」

湯擦「お得なのになぁ」

藤原「アンタ達にとってはお得でしょうよ!」

湯擦「そりゃそうでしょう。それが目的なんですから」

藤原「はぁ……もう帰っても良いですか?」

湯擦「はい」

藤原「じゃあ……(舞台上手に帰ろうとする)」

湯擦「あ、ちょっと」

藤原「まだ何か?」

湯擦「この事は警察には言わないで下さいね?」

藤原「えぇ……いや、言うでしょ。事件ですよコレ」

湯擦「株式会社小川モーターズに勤める三十六歳の藤原正将課長さん。もうここまで聞いたら、また狙いますよ」

藤原「うわっ……言わなきゃよかった……」

湯擦「我々の事は警察に言ったら、報復が待ってますからね」

藤原「怖っ……分かりました。誰にも言いません」

湯擦「物分かりの言い方は好きですよ。では」


湯擦、狩井、舞台上手に退場。


藤原「何なんだよ全く……(舞台上手に行こうとする)」


 湯擦、狩井、舞台上手から登場。


藤原「うわっ。何?まだ何か?」

湯擦「今度はこっちの用事です。オイ」

狩井「はい。私、こういう者です(名刺を渡す)」

藤原「狩井親仁。オヤジ狩り屋?」

狩井「はい。今キャンペーンで巻き上げるお金の割引をしてるんですが、如何ですか?」

藤原「またこのパターンかよ!」

狩井「さっきアンケートの答えてもらっているので、後で景品は差し上げます」

藤原「また引導とか言うんじゃないでしょうね?」

狩井「いえ、ちゃんとした物です」

藤原「さっきの金でもう手持ちの金は無いですよ!」

狩井「じゃあ口座にはあるんですね?すぐそこのATMまで一緒に行きましょう」

藤原「もう、もう許して!」

狩井「痛い目、見たいですか?」

藤原「もうお金は無いんです!だから許して!」

狩井「仕方ないですね……じゃあ、ちょこっと痛い目に遭ってもらいましょう」


 湯擦、藤原を羽交い絞めにする。


藤原「な、何をする気ですか!?」

狩井「言ったでしょう?痛い目に遭ってもらうと……(鉛筆を三本取り出し、藤原の左手の指と指の間に挟む)

藤原「え、鉛筆?」

狩井「はい」

藤原「鉛筆で何をするつもりだ?」

狩井「まぁまぁ、受けてみて下さい。行きますよ?せーのっ(藤原の指を握る)」

藤原「いででででででででで!!!」

狩井「今日はこれくらいで勘弁してあげましょう。次までにお金は用意しておいて下さいね」

藤原「地味に痛ぇ……」

狩井「あ、それ景品の鉛筆です。良かったら受け取って下さい」

藤原「いらねぇ……」

狩井「後コレ次回から使える割り増しクーポンです」

藤原「それもいらねぇ……」

湯擦「是非、今後とも我々をご贔屓に!」

藤原「一体、何なの?アンタ達?」

湯擦「我々は優しい強請り屋です。なるべく人を傷付けずにお金を巻き上げる集団です」

藤原「やってる事は犯罪なんだよなぁ」

湯擦狩井「それでは、またのご利用、お待ちしております」

藤原「利用はしてないんだよなぁ……」

湯擦「では我々はこれで」


 湯擦、狩井、舞台上手に退場。


藤原「優しい強請り屋か……時代も変わったな……(舞台上手に行こうとする)」


 湯擦、狩井、舞台上手から登場。


藤原「またかよ!?もう許して!」

湯擦「予約とかされていきます?」

藤原「は?予約?」

湯擦「予約されると割引が出来るのですが」

藤原「予約なんかしねぇよ!」

湯擦「じゃあ明日もこの時間にここいら辺を回っていますので、その時はまた宜しくお願い致しますね」

藤原「俺もうこの街から出て行く!」







―――終わり

『私服警官』



・登場人物


 北島

 藤原

 枝村



・舞台


 銀行



・衣装


 三人共、ペアルック風に上から下までお揃いの服装(枝村のみヘルメット着用)




 明転。

 銀行。長ソファが二つ、下手側に観葉植物がある。

 北島、藤原、ソファに座って板付き。


沈黙。


北島「……あのさぁ」

藤原「……はい」

北島「俺達、今日銀行強盗の情報を掴んで、それで私服警官として潜入しているんだよな?」

藤原「そうですね」

北島「だよなぁ」

藤原「なるべく目立たない恰好で来いとの事でしたね」

北島「だなぁ。なのに何で……」

北島藤原「私服被るかねぇ!?」

北島「何でこうなった……」

藤原「なるべく普通の恰好と思ったらこれでした」

北島「俺もだよ」

藤原「他に服無かったんですか?」

北島「これが一番、普通だと思ったんだよ」

藤原「普段どんだけ派手な格好しているんですか」

北島「普段からこんな感じだよ。そういうお前はどうなんだよ」

藤原「俺だって普段からこんな感じですよ。ほら(スマホの画面を見せる)」

北島「何お前?自撮りしてんの?」

藤原「悪いですか?」

北島「いや、悪か無ぇけど……まさか今日の事、呟いたりしてねぇだろうな?」

藤原「そんな事しませんよ。それよりこの服……」

北島「どれどれ……あっ、俺これ持ってる!」

藤原「本当ですか!?」

北島「あぁ。これマルオカニシのジャケットだろ?」

藤原「そうですそうです!って事は、北島さんもマルオカニシファンですか?」

北島「まぁな!良いよな、ココ!」

藤原「警察官になった頃に見付けて、それからのファンなんですよ」

北島「俺も俺も。へー。ココに目を付けるとはなかなかだな」

藤原「ありがとうございます」

北島「これだとどこ行っても町に溶け込めるから好きなんだよな」

藤原「俺、このブランドの服でよくキャバクラに行きますよ」

北島「そうなん?どんな感じの反応、貰えんの?」

藤原「結構、褒めてもらえますよ。でもなかなか同伴してくれる娘がいないんですよ」

北島「やっぱり安い服ってのは見抜かれちゃうのかなぁ」

藤原「でも服が安い分、金は店に落としてるんですよ?それなのに誰も振り向いてくれないんですよ」

北島「単純に顔が好みじゃないんじゃない?」

藤原「えー?何ですかそれー?あんまりですよー」

北島藤原「あっはっはっはっは!」

北島「って、違ーう!ほのぼのしてる場合か!コレ明らかに目立ってるだろ!」

藤原「確かに……さっきから他のお客さんから変な目で見られてますし」

北島「お前、今日他に服、持ってきてないのかよ?この際いつものスーツで構わんぞ」

藤原「現地集合だったのでスーツは持ってきてないですよ」

北島「何でだよ。じゃあすぐそこの商店街で服を見繕ってこい」

藤原「金欠です」

北島「何なんだよ全く……」

藤原「そういう北島さんはどうなんです?替えのスーツとか、お金とか」

北島「……俺も似たようなもんだ」

藤原「じゃあ人の事言えないじゃないですか」

北島「……すまん」

藤原「いや、謝られてもこの状況変わりませんよ?」

北島「あぁ、そうだな。じゃあ、とりあえず、二人離れようか」

藤原「分かりました(北島から舞台上手側に少し離れる)」


 沈黙。


藤原「(北島の元へ行く)あの……」

北島「何だ?」

藤原「お客さん、我々を交互に見て笑ってるんですけど」

北島「あぁ、そうだな」

藤原「空気にならなくちゃいけないのに、広い範囲で見られるとこれは逆効果なんじゃ?」

北島「……じゃあ、近くにいた方が良いか」

藤原「それで端っこにいた方が、怪しまれない気がします」

北島「そうだな。じゃあそうしよう。来い(舞台下手の観葉植物の裏に隠れる)」

藤原「はい(北島に着いて行く)」


 沈黙。


藤原「……あの」

北島「今度は何だよ?」

藤原「ペアルックの男二人が観葉植物の裏に隠れてイチャイチャしてるって構図にしか見えないんですけど」

北島「マジで?」

藤原「はい」

北島「どうしようか……もうカミングアウト的な事した方が良くないか?」

藤原「カミングアウト?何の?」

北島「俺達がゲイだって」

藤原「はぁ?俺はもう部署でカミングアウトしてますけど、北島さんには最愛の人がいるじゃないですか。そこまで身を犠牲にしなくても良いんですよ?」

北島「今それを言ってる場合か!このままじゃ俺らの将来に関わるんだぞ!」

藤原「だからって今ここでそれを言う必要無いでしょうって言ってんですよ!」

北島「その方が自然だろ!?それともこのまま怪しい二人で終わらせるつもりか!?」

藤原「だからって北島さん、俺達がイケナイ関係に見られるのは不本意です……!」

北島「(周囲の視線を感じて)あっ……」

藤原「えっ?あっ……」

北島「(同じく周囲の視線を感じて)あっ……あー、いや、その……(藤原と目を合わせる)あ、僕達ゲイでーす」

藤原「ゲイでーす。夫婦の口座を作りに来ましたー。はーい」


 北島、藤原、ソファに座る。


北島「……これで良かったんだよな?」

藤原「これ以上もう変な視線を集める事は無いでしょう……」

北島「恥ずかしくて死にそうなんだが……」

藤原「それは俺だって同じですよ……」


 枝村、舞台上手から登場。


枝村「強盗だー!手を挙げろー!」

北島藤原「あっ!?」

枝村「何だ!?あっ!?」

北島藤原枝村「あー……」

北島「(警察手帳と拳銃を取り出して)手を後ろに回して伏せろ」

藤原「(警察手帳と拳銃を取り出して)警察だ」

枝村「えっ?あ、はい……(手を後ろに回し伏せる)」

北島「午後二時十七分、強盗未遂の容疑で現行犯逮捕!(枝村に手錠を掛ける)」

枝村「クソッ……!」

北島「何でこんな事をした?」

枝村「ホステスに貢ぐ為の金が無かったからだよ……」

藤原「どこのキャバクラだ?」

枝村「クラブ・オガワだ」

藤原「何っ!?そこの誰に惚れた?」

枝村「アミちゃんだ……」

藤原「何だと!?」

北島「どうした?」

藤原「あ、いえ……お前、自分が何したか分かってるのか?」

枝村「犯罪なのは分かってる……だけど……!」

藤原「そうじゃない!」

枝村「えっ?」

藤原「何でその服で銀行強盗なんかした!?」

北島「藤原?」

枝村「そりゃ、ここの服は安くて良い服が揃ってるから……」

藤原「その服を着て歩くって事は、代表して歩いてるのと変わらないんだ!それをこんな銀行強盗なんかしたらこの服の価値が下がる!どうしてそれが分からない!?」

北島「藤原……お前、そこまでこのブランドの事……」

藤原「それと、どうしてこの服を選んだ?」

北島「おう。どうしてだ?」

藤原「安いからか?センスが良いからか?格好良いからか?モテる為か?」

北島「藤原?」

藤原「モテる為にはどうしたら良い?」

北島「藤原?」

藤原「金があるとホステスにモテるのか?」

北島「藤原?」

藤原「このブランドの服で高級感を出す為にはどうしたら良い?」

北島「藤原?」

藤原「ところでアミちゃんに同伴してもらうにはどうしたら良い?」

北島「藤原!」

藤原「何ですか?」

北島「お前、目的変わってない?」

藤原「目的?」

北島「お前、キャバクラのアミちゃんって娘を落とす為に話してるだろ」

藤原「そんな事無いですよ」

北島「嘘吐けよ。何でアミちゃんって娘の事を聞いたんだよ」

藤原「特に他意はありませんよ。ただ、アミちゃんに悪い虫が着かないようにしてるだけです」

北島「そうなのか?」

藤原「未然に犯罪を阻止しようとしただけです」

北島「なら良いんだけどさ」

藤原「で、同伴をしてもらうにはどうしたら良い?」

枝村「……強いて言うなら、清潔感のある男かな」

藤原「この服じゃあ清潔感が無いって言うのか?」

枝村「いや、その系統の格好だと落伍者だと思われてしまう可能性がある」

藤原「はー?成程ね?で?どういう服がモテる?」

北島「藤原?」

藤原「どういう風なのが好印象になる?」

北島「藤原?」

藤原「どうしたらアミちゃんに好かれる?」

北島「藤原?」

藤原「で、もう一回聞くけど、アミちゃんに同伴してもらうにはどうしたら確実性が増す?」

北島「藤原!」

藤原「はい?」

北島「やっぱり邪な気持ちじゃねぇか!」

枝村「コマメなプレゼントを贈ると良いよ」

北島「お前も言わなくて良いよ!」


















―――終わり


『サインボール』



・登場人物


 北島康介(野球選手)

 藤原(北島のファン)



・舞台


 野球場の関係者入り口



・衣装


 北島・・・野球選手のユニフォーム。背番号三番。キャリーケースにバットとグローブ。

 藤原・・・北島のユニフォームの柄の法被とバッグ。頭に包帯。






 明転。


 北島、電話をしながら舞台下手から登場。


北島「あー、もしもし?康介だけど。今反省会終わって、これから帰るから。うん。あんまり活躍出来なかったからこっ酷く叱られたよ~。帰ったら何か元気が出る物用意しといて?え?そうだなぁ……みゆきちが作るカレーが食べたいな。うん」


 藤原、舞台上手から登場。


藤原「あっ!北島選手!?」

北島「うん、うん……」

藤原「北島康介選手ですよね!?今日も大活躍でしたね!」

北島「あ、ごめん。ファンの方から声掛けられたから一旦切るね(電話を切る)あ、どうも。北島康介です」

藤原「やっぱり!俺、藤原って言います!俺、北島選手の大ファンなんです!」

北島「あぁ、それはありがとうございます」

藤原「観てましたよ!甲子園時代!あの頃からのファンなんです!」

北島「そんな時からですか!ありがとうございます!」

藤原「それで、今お時間ありますか?」

北島「ちょっとなら大丈夫ですよ」

藤原「実は、その……このボールにサインを書いてほしいんです!」

北島「えっ?今日、私ホームラン打ってないですよ?」

藤原「はい!ファールのボールです!」

北島「えぇ?ファールのボールにサインをしてほしいんですか?」

藤原「はい!駄目ですか……?」

北島「ホームラン打った球に書きたかったぁ……」

藤原「駄目ですか……?」

北島「せめてホームランボールにしたかったけど、まぁ良いでしょう。ところで、その頭はどうしたんですか?」

藤原「ファールのボールを取る時に頭にぶつかりました!」

北島「えっ!?そ、それは、す、すみませんでした……」

藤原「まるで、目も覚めるような衝撃でした!」

北島「何て言ったら良いか分かんないですよ……」

藤原「とにかく、お願いします!」

藤原「ありがとうございます!(バッグからボールと赤いペンを取り出す)じゃあこれにサインをお願いします!」

北島「赤は止めません?その、傷の色と同じというか……」

藤原「記念の色になりました!」

北島「だから何て言ったら良いか分からないですよ……まぁ、貴方がそれで良いなら……(ボールとペンを受け取り、自分のサインを書く)これ、貴方の名前を入れた方が良いですか?」

藤原「はい!じゃあ上様で!」

北島「領収書みたいになっちゃいますよ!?」

藤原「大丈夫です!」

北島「あぁ、まぁ、貴方がそれで良いなら……上様、っと……(ボールと赤いペンを返す)これで良いですか?」

藤原「(ボールだけを受け取る)うわぁ!感激だなぁ!ありがとうございます!」

北島「あの、ペンは?」

藤原「あっ、まだ書いてほしい物があるんです!(ボールを二個取り出す)」

北島「これらは?」

藤原「今日、北島選手が打ったファールのボールです!」

北島「全部集めたの!?」

藤原「いいえ!全部が引き寄せられるように俺の所に来ました!」

北島「あぁ、そう……奇跡ですねぇ……」

藤原「こんなラッキーな事はありませんよ!」

北島「客席に届いたのが全部ファールなんてこっちは悲しいんですけどね……」

藤原「ナイスファール!」

北島「全然嬉しくない……」

藤原「奇しくも北島選手の背番号と同じ三番と同じ三個のファールのボールが取れました!」

北島「本当に嬉しくない……ちなみに、怪我の方は大丈夫なんですか?」

藤原「はい!奇しくも北島選手の背番号と同じ三針縫いました!」

北島「だから何て言えばいいのか言葉に詰まりますよ……」

藤原「で、これらにも書いてほしいんです!お願いします!」

北島「まぁ、良いですけど……これらも上様で良いんですか?」

藤原「いえ、一つは中様、もう一つは下様でお願いします!」

北島「中様は凄く薄い雁皮紙、下様は身分、教養などの低い人々の事ですけど良いんですか!?」

藤原「上中下で揃えたいんです!」

北島「あぁ、はい、そうですか……(ボールを一個ずつ受け取ってサインを書き、ペンと一緒に藤原に渡す)これで良いですか?」

藤原「ありがとうございます!ナイスファール!」

北島「それどういう気持ちで言ってるの?」

藤原「一ファンとしての応援です!」

北島「そ、そうですか。ありがとうございます。では私はこれで……(舞台上手に行こうとする)」

藤原「ちょちょちょ!どこ行くんですか?」

北島「え?帰るんですけど?まだ何か?」

藤原「あのー……もし良かったら、これをお願い出来ないでしょうか……?」

北島「何ですか?」

藤原「握手、して頂けませんか……?」

北島「あぁ、何だ、そんな事ですか?良いですよ(手を差し出す)」

藤原「わぁ!感激だぁ!(バッグからアルコールスプレーを散り出して自分と北島の手に掛けて握手する)」

北島「このご時世とはいえ、ちょっと失礼じゃありません?」

藤原「いえ!もしこれで何かしらの感染症が北島選手に移ったら大変ですから!」

北島「あぁ、そういう……お気遣いありがとうございます」

藤原「あぁ!もうこの手一生洗いません!」

北島「あっはは、そこまでしなくても……」

藤原「って事にもいかない世の中なので、消毒しますね(再びアルコールスププレーで自分の手を消毒する)」

北島「何も目の前でやらなくても……」

藤原「で、ここからが本題なんですけど……」

北島「まだ何か?」

藤原「握手してほしいんです!」

北島「えっ?今したじゃないですか」

藤原「(バッグから手袋を取り出す)永久保存版として、この手袋で握手してほしいんです!」

北島「じゃあ最初からそれで握手したら良かったじゃないですか」

藤原「生の感覚も体験しておきたかったんです!(手袋をはめる)」

北島「は、はぁ……」

藤原「お願いします!(手を差し出す)」

北島「はいはい(握手する)」

藤原「うわぁ!ありがとうございます!(手袋を取り、バッグからジプロックを取り出して中に入れる)」

北島「そうやって保存するんですね」

藤原「これとサインボールを金庫に入れて、十年後にメルカリで売ります!」

北島「取っといてよ~!ファンなんでしょう~!?」

藤原「それまで現役であるとは限りませんから!」

北島「凄く現実的~!」

藤原「それにしても、今日の試合は凄かったですね!」

北島「確かに、激闘でしたね。何とか勝てて良かったですが……」

藤原「ノーヒットノーランでしたしね!」

北島「えっ?私、ピッチャーじゃあないですよ?」

藤原「ですから、ノーヒットノーランで三振して終わったじゃあないですか!」

北島「あれはピッチャーが相手を抑える意味であって、ヒットもランも出来なかったって意味じゃあないですよ!?」

藤原「ナイスファール!」

北島「だからそれどういう感情で言ってるんですか!?貴方、本当に私のファンなんですか!?」

藤原「大ファンですよ!だからこうして会いに来たんじゃないですか!」

北島「ただ私を貶しに来てる様にしか思えないんですけど!?」

藤原「それと……まだお願いがありまして……」

北島「まだ何か?」

藤原「北島選手のグローブ、頂けないかと……」

北島「コレは駄目です!コレは職人さんが手縫いで作ったんですから!」

藤原「まぁ、俺の頭も手縫いでしたけどね」

北島「あげるよぉ……!(グローブを渡す)」

藤原「良いんですかぁ!?」

北島「後が怖いもん……じゃ、家で妻が待ってるんでこれで……」

藤原「ちょっと待って下さい!」

北島「まだ何か?」

藤原「北島選手の、バットを頂けないかと……」

北島「コレは駄目です!これも職人さんが手作りで、コレのおかげで打率が飛躍的に上がったんですから!」

藤原「じゃあ間接的にコレで殴られたようなモノなんですね……」

北島「あげるよぉ……(バットを渡す)」

藤原「良いんですかぁ!?」

北島「何も言えないもん……じゃあもうこれで帰りますからね」

藤原「(バットを振りかざす)あー!あー!」

北島「わー!?わー!?何!?何ですか!?」

藤原「最後に、一つだけお願いがありまして……」

北島「はぁ……本当にもうこれで最後ですよ?何ですか?」

藤原「北島選手の、キャップを頂けないかと……!」

北島「コレは駄目。コレだけは絶対に駄目!入団当初から私の血と汗と涙が詰まった愛情深い物なんだから!」

藤原「じゃあ俺はこの血だらけの頭を晒しながら電車に乗って帰宅する訳ですね」

北島「あげるよぉ……(キャップを渡す)」

藤原「良いんですかぁ!?至れり尽くせりじゃないですかぁ!」

北島「もう何言われるか分からないから怖いんだよぉ……じゃあ、もう帰るから」

藤原「あっ!北島選手!」

北島「何ですか?もうあげる物何も無いですよ?」

藤原「ナイスノーヒットノーラン!ナイスファール!」

北島「だからそれどういう感情で言ってるの!?」

藤原「一生応援します、って意味です!」

北島「今日は私酷かったんだから、もっと元気出る、励ましの言葉にして!」












―――終わり


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