コント集10
コント集10
91・・・・・フルネーム
92・・・・引き籠り犯
93・・・・顎で使う
94・・・・泣き落とし刑事
95・・・・舌打ち
96・・・・入れ替わってない
97・・・・不良生徒
98・・・・万引き
99・・・・留学生のバイト
100・・・・銀行強盗訓練
『フルネーム』
・登場人物
藤原
北島
西岡
アプリ音声(女性)
・舞台
藤原宅
明転。
藤原宅。卓袱台一つに座布団が二つ。後ろに机と椅子。机に上にはスマートフォン、デスクトップパソコン、USBメモリ、デジカメ。床にテレビのリモコン。舞台後ろにアコギ。
藤原、北島、西岡、舞台上手から登場。
藤原「まぁ座ってくれ」
北島西岡「お邪魔しまーす(席に着く)」
藤原「ちょっと待っててくれ。今、デスクトップパーソナルコンピュータ立ち上げるから(PCを起動させる)」
北島「あぁ、サンキュ」
藤原「おう。あれ?俺の最新式アンドロイド搭載モバイル向けオペレーティングシステム装備携帯電話、何処やったっけ?」
北島「モバ……何?」
西岡「アンドロイドのスマートフォンの事だと思うよ」
北島「スマホって詳しく言うとそんな長ったらしい名前なんだ……」
西岡「鳴らしてやろうか?」
藤原「頼む」
SE、着信音。
藤原「あぁ、ここか。サンクス」
北島「おう」
藤原「で?今日はデータの受け取りだけで良いのか?」
北島「大学の卒業アルバムで使う資料が欲しいんだよ。纏めてあるんだろ?」
藤原「あぁ、俺のデスクトップパーソナルコンピュータにデータは入ってるよ。写真と各生徒の情報も」
北島「あぁ、このパソコン?データ移せる?」
藤原「そこにあるユニバーサルシリアルバスフラッシュドライブメモリに移して良いよ」
北島「ユニ……何だって?」
西岡「USBメモリの事だよ」
北島「分かりにくっ(パソコンの席に着いて作業をする)」
西岡「写真はUSBメモリに入ってるの?」
藤原「うん」
西岡「ムービーは?」
藤原「あぁ、それはデジタルカメラモジュールに入ってるよ。そこのパーソナルコンピュータの側にあるやつね。セキュアーデジタルメモリーカードに入ってるから持って行って」
北島「セキュ……?何?」
西岡「SDカードだよ」
北島「あぁ、そうなの?」
西岡「北島、カメラ取って」
北島「はいよ(カメラを西岡に渡す)あれ?お前ギター弾くの?」
藤原「あぁ、そのアコースティックギター?高校の時、ちょっとだけね」
北島「へー」
藤原「そろそろ日本時間午後七時だけど、夕飯はどうする?」
北島「あー、そういえば腹減ったなぁ」
藤原「レトルトパウチのラグー・アッラ・ボロニェーゼとスパゲティ・アッラ・カルボナーラとスパゲッティ・アーリオ・オリオ・エ・ペペロンチーノがあるけど、どれにする?」
北島「何、何、何?何を言ってるの?」
西岡「ボロネーゼかカルボナーラかペペロンチーノスパゲッティのどれが良いか聞いてるんだよ」
北島「よく分かったなお前。藤原、良いのか?金は出すよ」
西岡「俺も」
藤原「良いよ良いよ。親から大量に送られてきてて処分に困ってたから」
西岡「それでも悪いよ」
藤原「大丈夫、大丈夫。ストックなら沢山あるから」
北島「そう?悪いな。あー、じゃあボロネーゼで」
西岡「俺はペペロンチーノで」
藤原「はいよ。ちょっと待っててな。電子レンジで温めるから」
北島「あいよー」
藤原、舞台上手に退場。
西岡「あ、もう七時か。ニュース観たいんだけど、観て良い?」
藤原「(裏から声のみ)良いよー。テレビジョンのリモートコントローラーそこら辺に無い?」
西岡「えーっと……あぁ、あった(テレビを点ける)」
SE、電子レンジの音。
藤原、お盆にスパゲッティを乗せて舞台上手から登場。
藤原「お待たせー(スパゲッティをそれぞれの前に置く)」
北島「サンキュ」
西岡「ありがとー」
北島藤原西岡「頂きます」
西岡「藤原。お前、普段こんな食事、摂ってんの?」
藤原「こんなって?」
西岡「レトルト」
藤原「いや?レトルトパウチはたまにだな。忙しい時とか。普段はカレーアンドライスとかホワイトシチューとか作ってるよ」
北島「ちょっとごめんね?ちょっと待ってくれる?」
藤原「何?」
北島「前々から気になってたんだけど、何でお前、物をフルネームで言うの?」
藤原「え?駄目?」
北島「いや、駄目じゃないけど、何と言うか分かりにくいというか、伝わりにくいんだよ」
藤原「そうかなぁ?皆が物の名前を略し過ぎてるだけなんじゃないのかなぁ、と思うんだけど」
北島「略称で定着してるんだからそれに合わせろよ」
藤原「日本人は皆、物事を略し過ぎなんだよ」
北島「USBメモリとかSDカードとか正式名称で言われてもピンと来んよ」
西岡「俺は分かるけどね」
北島「何で?」
西岡「藤原とは小学生の頃からの付き合いだから何となく覚えた」
北島「お前らは通じ合ってるかもしれないけど、俺には分からんよ。いちいちボロネーゼスパゲッティだのカルボナーラスパゲッティだの」
藤原「ラグー・アッラ・ボロニェーゼとスパゲティ・アッラ・カルボナーラとスパゲッティ・アーリオ・オリオ・エ・ペペロンチーノな」
北島「覚えられるか!後、何だ?カレーとシチューだっけ?」
西岡「カレーアンドライスとホワイトシチューだよ」
北島「西岡、お前よく覚えてたな。何でフルネームなん?」
藤原「だってカレーだけだったらライスじゃなくてナンを食べたかもしれないし、シチューもシチューだけじゃホワイトシチューかビーフシチューかどうか分からないじゃない」
北島「大体分かるだろ。普通カレーって言ったらカレーライスだし」
藤原「カレーアンドライスな」
北島「うるせっ。普通シチューって言ったらホワイトシチューだろ!」
藤原「そうとは限らんだろ」
北島「あとスパゲッティって古いよ。もうパスタの方が短くて伝わりやすいだろ」
藤原「でもパスタってイタリア料理の小麦粉で作った麺の総称だから、確実に伝わるスパゲッティって言った方が良いと思うな」
北島「現代の流れに沿えよ。とにかくこれからは俺に分かり易い略称で言ってくれ。分からんから」
藤原「分かった」
北島「西岡聖弘もまた何かあったら頼むわ」
西岡「良いよー」
藤原「あ、北島康介はラグー・アッラ・ボロニェーゼか」
北島「俺達の名前をフルネームで呼ぶな」
藤原「いちいち五月蠅いなぁ。分かったよ。北島、Tいる?」
北島「T?何?」
西岡「タバスコの事じゃない?」
藤原「そう」
北島「そんなんで伝わるかよ。極端過ぎる」
藤原「えー?じゃあもっと分かり易く言うわ。TBSKいる?」
北島「略せてないじゃん。むしろ長くなってるし、文字数も変わってないし」
藤原「で、いるの?いらないの?」
北島「いらない」
藤原「あ、そう。あ、飲み物無かったな。取ってくるわ。(舞台上手に退場)OJとMCとMZどれが良い?」
北島「何?分かんない。OJ?インプラント治療の団体?」
西岡「オレンジジュースの事だと思うよ」
北島「MCは?司会?」
西岡「麦茶の事とだと思うよ」
北島「MZは?マイケルジャクソン?」
西岡「それはMJ。水の事だと思うよ」
北島「長くなってるし文字数も増えてる……てか何でお前は分かるんだよ」
西岡「付き合いが長いから」
北島「何でも分かる範囲を超えてるよ」
藤原「で?何が良い?」
北島「じゃあ麦茶で」
西岡「俺は水で」
藤原「はいよー。(オレンジジュース一つと麦茶一つと水一つ持って舞台上手から登場。配る)」
北島「サンキュ」
西岡「ありがとー」
藤原「で、俺のパーソナルコンピュータからデータ移せた?」
北島「あぁ、まだ時間掛かるみたい」
西岡「そんなに枚数あるの?」
北島「この四年間分だからな。これからが大変だ。皆で厳選しなきゃならんからな」
西岡「俺も手伝うよ」
北島「お前はムービーがあるだろ?そっち優先して、一段落着いたらこっちに来てくれ」
西岡「分かった」
藤原「渋井病院付属大学六十二期生卒業記念用アルバムの制作って大変だよな」
北島「だから正式名称で言うなって……」
西岡「これは正式名称なのか?ただのフルネームでは?」
藤原「俺個人的に写真は厳選したから、更に篩に掛けてくれ」
北島「マジで?サンキュ」
藤原「あのさぁ、その『サンキュ』って言うの止めてくれない?」
北島「何で?」
藤原「俺達友達じゃん?親しい仲には『サンクス』って言うんだよ。後せめて『サンキュー』って言ってくれよ。短くされるの嫌い」
北島「良いじゃん、それくらい。特に深い意味は無ぇよ」
西岡「あ、データ移動終わったみたいだよ?」
北島「おっ、やっとか。どれどれ……あぁ、終わってる。じゃあ俺帰るわ」
西岡「じゃあ俺もSDカード持ったし、帰るわ」
北島「皿とコップはそのままで良い?」
藤原「オールコレクト」
北島「オールコレクト?」
西岡「OKって事」
北島「だから分かりにくいんだって。明日までに治しとけよ、その癖」
藤原「W」
北島「W?何?ネット用語のカッコ笑い?」
西岡「分かったって事だよ」
北島「だから何でお前は分かるんだよ。そして極端過ぎんだよ、藤原」
藤原「しょうがないじゃん。いきなりこの癖は変わらんよ」
北島「良いからどうにかしてくれ。いちいち聞き直さなきゃならんの辛いんだから」
藤原「お前が覚えれば良いじゃん」
北島「嫌だよ。とにかく、明日までに直しとけよ、そのフルネームで呼ぶ癖」
藤原「努力はする」
暗転。
明転。
藤原宅。
藤原、舞台上手から登場。
藤原「北島ッチ、西岡ッチ、アゲアゲどうぞ~」
北島西岡「お邪魔しまーす(舞台上手から登場。席に着く)」
藤原「何系飲む~?お茶っちゃ?ジュースィー?」
北島「じゃあお茶で」
西岡「俺も」
藤原「かしこまり~(舞台上手に一旦退場し、お茶を三つ持って来て配る)まま、グイッと~」
西岡「酒じゃないんだから」
藤原「はにゃ?酒ぴっぴの方が良かった感じ~?」
北島「いや、お茶で良いけど……」
藤原「そう~?麦茶だったけど良かった~?」
北島「うん……」
西岡「おう」
藤原「良かった~。もし麦茶が合わなかったらマジOMGでぴえんだったよ~」
北島「OMG?ぴえん?」
西岡「OMGはオーマイゴッド。ぴえんは悲しいとかそんな感じの意味だよ」
北島「あぁ、そうなん?あ、で、昨日の写真のデータなんだけど」
藤原「あっ、結構篩に掛けたんだけど、そこからさらに選ぶのエグチじゃなかった~?」
北島「え、エグチ……?」
西岡「エグさが違うって意味だよ」
北島「あぁ、そういう……まぁ……でもおかげでかなり手間が省けたよ。ありがとう」
藤原「そう言ってもらえると俺も嬉しいよ~!俺ってしごできでしょ?」
北島「しごでき……?」
西岡「仕事が出来るって意味」
北島「あ、あぁ、まぁ、そう、かな……」
藤原「キタコレ!褒められた!これはテンアゲですわ~!」
西岡「動画の方もありがとね」
藤原「俺一人だったらキャパいだったから西岡ッチ、しごできだから余裕っしょ?」
西岡「うん」
北島「…………(腕を組んで俯く)」
藤原「はにゃ?どうしたの?北島ッチ?」
北島「なぁ、何でそんな喋り方なん?」
藤原「何が?どういうパティーンで話してるの?」
北島「何でギャル語なん?」
藤原「だって昨日お前がフルネームで呼ぶ癖直せって言ったんじゃん」
北島「だからって何でギャル語なんだよ」
藤原「略語調べてたらこの喋り方の方が良いかなって」
北島「だから極端だって!お前は限度ってものを知らないのか!」
藤原「ぴえん……」
北島「余計に分からんから止めろ!」
藤原「じゃあどうすれば良いのさ!?」
北島「普通の言葉を使え!普通の言葉を!」
藤原「普通の言葉使ってるだろ!」
北島「何でもかんでも正式名称で呼ぶなって言ってんだよ!」
西岡「あー!もう!俺が翻訳すれば良い話だろ!?」
北島「そうじゃねぇ!こいつの将来の為に言ってんだよ!」
藤原「余計なお世話だ!」
北島「大体、西岡がいないと話が進められないとか不便で仕方ないだろ!」
藤原「勉強不足のお前が悪い!」
北島「何だとこの野郎!」
藤原「やんのかこの野郎!」
西岡「待て待て待て!一旦落ち着け!」
北島、藤原、落ち着いて席に座る。
西岡「こういう事もあろうかと、このアプリを用意した(スマホを取り出し、二人にメールを送る)」
SE、ピロン、という音。
北島「何コレ?」
西岡「正式名称翻訳アプリ。これからはこれでやりとりしなよ。試しに藤原、何か言ってみろ」
藤原「モバイル向けオペレーティングシステム装備携帯電話」
アプリ「スマホ」
藤原「おー」
西岡「ほら、北島も」
北島「PC」
アプリ「パーソナルコンピュータ」
藤原「おー!何コレ!?メチャ神ってるじゃん!」
アプリ「おー。何だコレ?とても神掛かってるじゃないか」
西岡「どうだ?凄いだろ」
北島「凄いけどいらねぇ!いちいちコレ使わないといけないのかよ!?」
アプリ「好ぴだけど、いちいちコレ使わないといけないとかマジ怠なんだけど」
西岡「そうするしかないじゃん」
北島「自分達の口で会話にならないの寂しいだろ!なぁ!?藤原!?」
アプリ「ウチらで会話出来ないのマジ萎える。そうだろ?藤原?」
藤原「ぴえん通り越してぱおん……」
アプリ「悲しいを通り越してとても悲しい」
北島「だから止めろ!分かった!分かったから!俺も勉強するから、お前も勉強しろ!これで手を打とう!それで良いな!?」
藤原「ありよりのあり。乙です!」
北島「あぁ……この言葉を暫く聞く事になるのか……」
藤原「そんなサゲないで、元気盛りでいきまっしょい!」
北島「平穏よ、我を救い給え……」
アプリ「ぴえん通り越してぱおん」
北島「このアプリ五月蠅ぇ!」
―――終わり
『引き籠り犯』
・舞台
自宅
取調室
・登場人物
康介(息子)
正将(父親)
愛真(母親)
西岡(警察官)
明転。
自宅。座布団一枚。
康介、漫画を読んでいる。
SE、サイレンの音。
康介、一瞬外を見る。その後、サイレンの音が自宅前に着いた事に気付き、窓を開けて外を見る。
西岡「北島康介!お前は完全に包囲されている!」
康介「……はぁ?」
西岡「大人しく出て来い!」
康介「えっ……ちょっと意味分からないんだけど……俺、何か犯罪、犯した……?」
西岡「さっさと出て来い!この引き籠り犯!」
康介「引き籠り犯って何だよ!?」
西岡「早くその部屋から出て働け!」
康介「何でそんな事で警察が動くんだよ!?」
西岡「市民を守るのが警察の役目だからだ!」
康介「俺が誰かに迷惑を掛けたか!?」
西岡「親に迷惑を掛けてるだろう!」
康介「どこが!?」
西岡「お袋さん、泣いてるぞ!」
愛真「康介!いい加減に働いて!」
康介「母さん……?」
愛真「どうしてこうなったの!?私達の教育が悪かったの!?」
西岡「お母さん、全ては彼自身の責任です」
愛真「刑事さん……!」
正将「自分の責任から逃げるな!俺はそんな風に育てた覚えは無いぞ!外に出て稼いで来い!自分の足で!」
西岡「いい加減外に出て働け!ご両親がこんなにも悲しんでるんだぞ!」
康介「いや、俺、働いてるけど……」
西岡「何!?何だって!?」
康介「俺!働いてるよ!」
西岡「何っ!?お父さん、お母さん、どういう事ですか?」
愛真「いいえ!働いていません!ずっと自室に閉じ籠って、ご飯とトイレとお風呂以外で基本、部屋の外には出ません!」
正将「そうだ!自宅から外に出てもこないじゃないか!」
康介「だから俺は自室で働いているんだよ!」
西岡「それは世界を救う仕事とか言ってゲームしてるとかじゃないのか!?」
康介「違ぇよ!在宅ワーカーだよ!」
正将愛真西岡「在宅ワーカー……?」
西岡「具体的に何やってるんだ!?」
康介「SEだよ!」
正将愛真西岡「SE……?」
西岡「SEって何をするんだ!?効果音でも作ってるのか!?」
康介「システムエンジニアって言えば分かるだろ!」
正将愛真西岡「システムエンジニア……?」
西岡「おい!難しい横文字使えばそれっぽくて格好良いと思っているんだろう!?ニートだろう!?」
康介「違ぇよ!立派な仕事だよ!ってかそっちも横文字使ってるじゃねぇか!」
西岡「具体的に何するんだ!?」
康介「無視か!利用者の欲求に叶ったコンピュータシステムの開発、設計を行う事だよ!」
西岡「また小難しい事言って!家に引き籠ってる事に変わりは無いだろう!」
愛真「そうよ!ずっと家に居るじゃない!」
正将「たまに外に出るけど、コンビニかスーパーに寄るだけで帰ってくるじゃないか!」
康介「毎月家に金入れてるだろ!その金はどこから出ていると思ってんだよ!」
愛真「それは……」
正将「何故……?」
西岡「収入源は何処だ!?ネオニートか!?」
康介「久し振りに聞いたわ、そのネオニートとか言うやつ!だから在宅ワーカーでシステムエンジニアだって言ってるだろ!」
西岡「また訳の分からない事を言って!」
康介「だから訳の分からない事を言ってるのはお前らの方だろ!俺は俺なりに仕事してるんだよ!」
正将「お前が外に出ないでいる間、俺達が近所の人達から何て言われてるのか知ってるのか!」
康介「何だよ!」
正将「息子さんは孝行息子なんですね、ってな!」
康介「……良い事じゃないか!」
正将「どこがだ!実家から出ずにずっと部屋に引き籠ってるって遠回しに皮肉を言われてるんだぞ!」
康介「んな訳あるか!近所の人にはちゃんと在宅ワーカーでSEやってるって伝えてあるわ!」
愛真「そんな訳の分からない言い訳通用しないわよ!ずっと私達はご近所さんから後ろ指差されてるのよ!」
康介「じゃあちゃんと俺の仕事の事を理解して説明しろよ!そうすりゃ解決だろ!それにたまにだけどスーツで会社に行ってる時あっただろ!」
正将「ハローワークにでも行ってたんだろ!」
康介「違うわ!」
正将「形だけ働く意思を見せて、俺達に希望を持たせようとしてただけだろ!パフォーマンスだ!パフォーマンス!」
康介「だから働いているんだってば!」
西岡「もう何言っても意味無いな……北島康介!お前、何が望みだ!」
康介「望み?」
西岡「そっちの要求は何だ!金か!」
康介「いらん!俺の要求は帰れ!それだけだ!こんな大事にして、そっちの方がご近所さんに恥ずかしいだろ!」
愛真「お願い!お願いだから部屋から出て来て!それだけでも良いから!」
正将「そうだ!頼む!」
西岡「親御さんがここまで頭を下げて言ってるんだぞ!心が痛まないのか!」
康介「俺の方が心痛いわ!俺の仕事を認めてもらえないんだからな!」
西岡「もう強硬手段に出るしかない。良いですね?お父さん、お母さん?」
正将愛真「はい」
西岡「警官隊、突撃ー!」
SE、警官隊の「うおー!」という声。
康介「うわっ!?何だ何だ!?」
暗転。
明転。
取調室。テーブル一つに椅子が二つ。テーブルの上にはスタンドライト。
康介、西岡、板付き。
西岡「どうしてこんな事をした?」
康介「何がだよ?」
西岡「引き籠りだよ。何でこんな悪行をした?」
康介「だから俺は働いてるって。それに、仮に引き籠りだとしても、そこまで大事にしなくても良いだろ。犯罪じゃないんだから」
西岡「犯罪じゃないから何やっても良いとは限らないだろ!」
康介「そりゃそうだけど、俺は何も悪い事はやってねぇ!」
西岡「犯罪者は誰でもそう言うんだよ!」
康介「俺は犯罪者じゃねぇよ!」
西岡「お袋さん、お前がずっと引き籠ってるから心配してたぞ」
康介「まぁ、誤解を生ませてしまったのは悪いとは思ってるけど……」
西岡「お袋さん、お前が小さい頃から可愛がってくれてただろうなぁ……」
康介「あぁ、はぁ、まぁ……」
西岡「母さんが~夜なべ~をして~……」
康介「俺そこまで追い込まれてるの?」
西岡「子作~り励んでた~」
康介「止めろ!」
西岡「そうして長い妊活の苦労の末、お前のお袋さんが34歳の時に生まれたのがお前だ」
康介「だから止めろ!両親の性事情が一瞬チラついたじゃないか!」
西岡「ご両親の苦労を考えた事あるのか!」
康介「だから一生懸命、これからの親の介護の事を考えて在宅ワーカーになって支えてやろうと思ってんじゃないか!」
西岡「親御さんはなぁ、早く孫の顔を見たいみたいなんだよ!」
康介「あー……婚活かぁ……それは考えてなかったなぁ……」
西岡「ヒモでも良いからお金の事はどうにかして、相手を見付けて結婚しろと言っているぞ」
康介「ヒモでもって……」
西岡「お金の事は最悪、ご両親が面倒を見ると言っていたぞ」
康介「じゃあ俺、働かなくても良いじゃん。何だったんだよ、働け、働けって」
西岡「働け!そして結婚して孫の顔を見せてやれ!」
康介「だから後は結婚するだけだろ!分かったよ!婚活アプリなり婚活パーティーなり結婚相談所なりで相手探すよ!」
西岡「黙秘権か」
康介「めっちゃ喋ってるだろ」
西岡「もう夜の七時か。そろそろ腹減っただろ?」
康介「あぁ、昼から何も食べてないからな」
西岡「カツ丼喰うか?」
康介「マジであるんだな。取り調べで『カツ丼喰うか?』って」
西岡「で、どうする?」
康介「んー……でもこれって奢りじゃないんでしょ?確か自腹なんだよね?」
西岡「そうだが?」
康介「じゃあいいかな。そろそろ家に帰れるでしょ?」
西岡「折角だから喰っていけよ。なかなか出来ない経験だぞ?」
康介「……それもそうか。じゃあ頼むわ」
西岡「分かった。(スマートフォンを取り出す)もしもし?カツ丼一つ(スマートフォンをしまい、舞台上手に一旦退場し、カツ丼と割り箸を持って登場する)おまたせ。召し上がれ」
康介「(カツ丼を受け取る)頂きます」
西岡「どうだ?美味いか?」
康介「あぁ、滅茶苦茶美味い」
西岡「それは良かった」
康介「(カツ丼を喰い切る)ご馳走様でした」
西岡「お粗末様でした。はい、9800円」
康介「高っ!?何でそんな高いんだよ!?」
西岡「豚肉はバークシャーという純粋豚で、卵は比内地鶏の卵。タマネギは淡路島産の由緒あるブランドで、米は新潟県産のコシヒカリを……」
康介「もう良いよ!分かったよ!払えば良いんだろ!払えば!(財布を取り出して一万円札を取り出して西岡に渡す)」
西岡「一万円お預かりしまーす!(後ろに向かって)一万円入りまーす!」
康介「誰に言ってんだよ?」
西岡「豚カツ屋の店主」
康介「本格的に豚カツ屋になってきたな」
西岡「(財布に一万円札をしまい、百円玉二枚取り出して康介に渡す)二百円のおつりでーす!」
康介「何なんだよお前……(財布に二百円を入れる)」
西岡「さぁ腹もいっぱいになったところで、話を戻そう。お前、働く気は無いのか?」
康介「だから働いているって。これ名刺ね。(ポケットから名刺を取り出して西岡に渡す)ここに電話してくれれば俺が就職してる事が分かるだろうよ」
西岡「ふぅん……?全くこんな物まで用意してるなんて、よっぽど暇人なんだな」
康介「俺からするとアンタらの方がよっぽど暇人に見えるよ」
西岡「(スマートフォンを取り出し、ネットで名刺の会社を調べる)……おぉ、結構、大手の会社なんだな。そういえばテレビでもCMやってるし広告もよく見るな」
康介「それ程でも」
西岡「名刺の電話番号とも合ってるみたいだし、一旦電話掛けるぞ」
康介「良いよ」
西岡「(スマートフォンを耳に当てる)……もしもし?私、神奈川県警の西岡と申します。そちらに北島康介という社員はいますか?はい、はい……あ、はい、システムエンジニアの。えぇ、えぇ……そうですか、分かりました。夜分に失礼しました。(スマートフォンをしまう)裏が取れた。お前は確かに在宅で仕事をしてるみたいだな。アリバイは成立だ」
康介「アリバイって言うのか、コレ……?」
西岡「長時間、迷惑を掛けたな。もう帰っても良いぞ」
康介「はぁ……こんなくだらない事するくらいならもっと凶悪な事件を取り締まった方が良いぞ」
西岡「返す言葉も御座いません」
康介「そこは理解してるんかい」
西岡「ご両親にはこっちから説明しておくから、気にしないで帰ると良い」
康介「あぁ。じゃあな。カツ丼、美味かったよ」
西岡「またのご利用お待ちしておりまーす!」
康介「お前、何屋だよ!二度と来るか!」 ―――終わり
『顎で使う』
・登場人物
北島(新人社員)
枝村(先輩社員)
藤原(課長)
・舞台
会社のオフィス
明転。
会社のオフィス。机が三つに、椅子が二つ。机の上にはPC。
枝村、藤原、板付き。PC作業をしている。北島、舞台上手から登場。
北島「おはようございます」
枝村「おう、おはよう」
藤原「おはよう」
枝村「研修も終わって、ようやくこのオフィスで働ける事になったな」
北島「はい。ビシバシ鍛えて下さい」
枝村「おう。あ、始業時間だ。朝礼だぞ(席を立つ)」
北島「はい(席を立つ)」
藤原「(席を立つ)皆、おはよう。今日も一日頑張ってくれ。新人の北島君は、早く仕事に慣れるように頑張ってね」
北島「はい!」
藤原「じゃあ仕事、開始!」
北島枝村「はい!(席に着く)」
北島「枝村先輩、俺、何をすれば良いですか?」
枝村「じゃあこの資料に目を通してくれ(資料を渡す)」
北島「はい」
沈黙。
北島、キーボードをカチャカチャと打っている。
藤原「(席を立ち、資料を持って枝村の側に行く)北島くぅん、今忙しい~?」
北島「あ、はい。ちょっと次のプロジェクトで進めなきゃいけない資料を作ってます」
藤原「ちょっとの時間で良いから、コレ、やってくれなぁい?」
北島「急ぎですか?」
藤原「うん~」
北島「でもこっちも急ぎで作らなきゃいけなくて……」
藤原「(顎で北島の肩を撫でる)お願~い!すぐ終わるから~!」
北島「わ、分かりました……」
藤原「宜しく~!(資料を渡し、自分のデスクに戻る)」
北島「せ、先輩」
枝村「何だ?」
北島「今の藤原課長のやつ、何ですか?」
枝村「あぁ、今回が初めてだもんな。アレは課長の『顎で使う』手法だよ」
北島「顎で使うって、物理的に撫でてお願いするんですか!?」
枝村「そうだよ」
北島「気持ち悪ぅ……」
枝村「いずれ慣れるさ」
北島「慣れたくない……」
藤原「(USBメモリを持って北島の席に行く)北島くぅん(北島の後ろ髪を引く)」
北島「うわっ!?吃驚した……な、何ですか?課長?」
藤原「ワードは出来るぅ?」
北島「え、えぇ、一応……」
藤原「じゃあこのUSBメモリに入ってる資料をワードで添削してくれなぁい?」
北島「は、はぁ。良いですけど……」
藤原「悪いねぇ~。じゃ、お願いね~(USBメモリを渡し、自分のデスクに戻る)」
北島「先輩」
枝村「何だ?」
北島「今のは何ですか?」
枝村「今のって、何?」
北島「いきなり髪を引っ張られたんですけど」
枝村「あぁ、『後ろ髪を引かれる』ってやつだよ」
北島「意味変わってるんですけど?」
枝村「俺に言われても……(資料を纏め、藤原のデスクに向かう)課長、先程の資料、纏めておきました」
藤原「おっ、流石、枝村君。仕事が早いね」
枝村「ありがとうございます」
藤原「ん?(枝村に近付き、鼻息を聞く)お前、鼻炎持ちか?」
枝村「え、えぇ。そうですが」
藤原「良く効く薬あるからやるよ(デスクから薬を出して北島に渡す)」
枝村「ありがとうございます。では(自分のデスクに戻る)」
北島「先輩」
枝村「今度は何だ?」
北島「今、先輩の鼻に近寄ってましたよね?アレ何ですか?」
枝村「あぁ、『鼻息を窺う』ってやつだよ」
北島「また意味が違う……(USBメモリを持って藤原のデスクに向かう)課長」
藤原「どうした?」
北島「先程のワード、添削出来ました(USBメモリを藤原に渡す)」
藤原「あぁ、ありがとう。早いね」
北島「学生時代、物書きしてたので」
藤原「そうか。期待の新人だな」
北島「いやぁ、それほどでも……あ、課長。ちょっと宜しいですか?」
藤原「何だ?」
北島「(藤原の肩を払い、埃を落とす)ちょっとゴミが付いてましたので」
藤原「あぁ、ありがとう。汗の結晶だと思う」
北島「だから意味が……いや、そのままの意味だと本当に気持ち悪いぞ……!?」
藤原「何だ?」
北島「いえ、何でもありません」
SE、チャイム。
藤原「おっ、もう昼か。北島君、枝村君、お前達は弁当か?」
枝村「はい。愛妻弁当です」
藤原「俺もだ。北島君は?」
北島「彼女に作ってもらいました」
藤原「良いねぇ。大事にしなよ?将来の奥さんになるかもしれないからね」
北島「はい」
枝村「まぁ込み入った話は飯を食いながらにしましょう」
藤原「そうだな」
北島「(自分の席に着く)どこで食べます?会議室にします?」
藤原「いや、いつもので良いよな?枝村?(椅子を転がして枝村、北島の席に行く)」
枝村「そうですね。北島、ここで食べよう」
北島「はい」
北島、枝村、藤原、包みを開け、弁当と箸を取り出す。枝村、藤原、顔をくっ付け合わせ、食べ始める。
北島「えっ、何してんスか……?」
枝村「顔を合わせて食べてるだよ。こうした方が仲が良くなるだろうという課長の配慮なんだよ」
北島「気持ち悪ッ!そしてまた意味が違う!」
藤原「良いから!ほれ!顔を合わせて食え!(北島の肩を掴んで無理矢理顔を合わさせる)」
それぞれ黙々と弁当を食べる。
藤原「そっちのプロジェクト、順調か?」
枝村「まだ始めたばかりですからチームワークも何もないですね。これからって感じです」
藤原「そうか。まぁまだ時間はある。焦らずゆっくりじっくりやると良い」
枝村「はい。頑張ります」
それぞれ黙々と弁当を食べる。
藤原「そういえば枝村君、奥さんの体調はどうだ?」
枝村「あぁ、もう今、妊娠八ヶ月ですよ」
藤原「あら、もうそんなに。そろそろだな。健康には気を付けろよ?」
枝村「はい。とりあえず今は母子共に健康ですよ。課長のところはおいくつでしたっけ?」
藤原「上が五歳で下が三歳の男の子だよ」
枝村「おぉ~、今が一番可愛い時期なんじゃないですか~?」
藤原「そうなんだよ~。もう毎日早く帰りたくて仕方ないんだよ」
それぞれ黙々と弁当を食べる。
藤原「そういえば……」
北島「あー!もう気持ち悪ーい!」
枝村「……どうした、北島?」
北島「先輩は気持ち悪くないんですか!?こんな顎を擦り付けてきたり、顔をくっつけ合わせたりして飯を食ったり!距離感おかしいと思わないんですか!?」
藤原「俺は昔からこうだけど?」
枝村「俺は入社三年目で諦めた」
北島「何で諦めるんですか!いつでも指摘出来たでしょう!?」
枝村「だって先輩だぞ?上司だぞ?そんな反抗的な事言えるかよ」
藤原「お前、ずっとそういう風に俺の事思ってたの?」
枝村「思ってましたよ?でも揉めたら昇進に響くかなと思って耐えてました」
藤原「今ので評価、下がったわ」
北島「とにかく俺はもう無理です!今後、仕事以外のプライベートな事には関わって来ないで下さい!それと、仕事中の距離感も!」
藤原「わ、分かったよ……」
暗転。
明転。
オフィス。北島、枝村、藤原、板付き。
SE、チャイム。
藤原「おっ、もう昼かぁ。枝村君、北島君、ご飯どうだい?」
北島枝村「はい!」
藤原「(椅子を引いて北島と枝村のデスクの方へ向かう)」
北島、枝村、藤原、顔を合わせて弁当を食べ始める。
藤原「しかし北島君もここに慣れたな。三年経って、こうやって一緒に仲良く食べられる仲になれて」
北島「郷に入っては郷に従えってやつですよ!慣れれば何の問題も無いですね!」
枝村「課長、そろそろ昇進するんですよね?」
藤原「あぁ。部長補佐になる」
北島枝村「おめでとうございます!」
藤原「ありがとう。そこでだ。私の後釜なんだが、枝村君、君にしようと思う」
枝村「本当ですか!?ありがとうございます!」
北島「おめでとうございます!」
藤原「で、主任に北島君、君を指名しておいたよ」
北島「本当ですか!?ありがとうございます!」
枝村「おめでとう、北島」
北島「はい!」
藤原「あー、それにしても胸が痛むなぁ……」
北島「何か都合が悪い事でも?」
枝村「いや、課長は最近人間ドッグで引っ掛かって心臓が悪いんだよ」
北島「またそのままの意味か!コレだけは未だに慣れないんだよなぁ!」
―――終わり
『泣き落とし刑事』
・登場人物
藤原(警部)
西岡(刑事)
北島(犯人)
枝村(警部・最後だけ出てくる)
・舞台
取調室
明転。
取調室。テーブル一つに椅子が二つ。テーブルの上にはスタンドライト。
藤原、西岡、北島、板付き。
西岡「どうしても吐かないんだな?」
北島「俺はやってねぇからな」
西岡「証拠は十分に揃ってるんだよ!いい加減、諦めろ!」
北島「でも俺が自白しない限り、俺に掛けられてる罪は立証出来ないって事だろ?って事は立件にならない程、役に立たない証拠なんじゃないか?」
西岡「(北島の胸倉を掴む)良いから吐け!そして罪を償え!」
北島「だから俺はやってねぇ!知らねぇよ!」
西岡「貴様!まだ言うか!」
藤原「止めろ、西岡」
西岡「藤原警部……」
藤原「ここからは俺がやる」
西岡「すみません!お願いします!おい、北島。この人が出るとおっかねぇぞぉ?」
北島「誰が来ようと俺は絶対に吐かないからな」
西岡「この人は『泣き落としの藤原』と呼ばれてる警部だ。この人に掛かれば、お前だってきっと落ちるだろうよ」
北島「泣き落としぃ?未だにそういうのあるのかよ」
藤原「西岡、そこまでにしておけ。まぁ、俺に掛かれば、100%落ちるだろうな」
北島「俺はそんなのに屈しねぇ」
藤原「お前、両親がいるだろう?」
北島「それがどうした?」
藤原「親に申し訳ないと思わないのか?」
北島「別に?」
藤原「俺はさぁ、お前の立場になって考えた時、悲しくなってくるよ……親御さんへ申し訳ないとか、被害に遭った人達に申し訳ないとかさ……」
北島「思わねぇな」
北島「俺はさぁ……親御さんの気持ちになった時、悲しいよ……(泣き始める)」
北島「は?」
藤原「俺はさぁ!今、お前くらいの歳の息子がいるんだよ!生まれてから毎日大切に育てて、この前、結婚したんだよ!」
北島「はぁ」
藤原「それが突然、こんな犯罪に手を染めたと聞いたら、俺はもう気が気じゃないよ!」
北島「は、はぁ……」
藤原「もし俺がこんな事をして、親がそんな俺を見たら、絶対悲しむ!そんな姿、親には見せたくない!そう思わないか!?」
北島「お、おう……まぁ……」
藤原「もういい加減認めてくれよぉ……!もう誰も悲しませたくないんだよぉ……!(泣き崩れる)」
北島「ちょ……落ち着けよ……おい、お前」
西岡「何だ?」
北島「これ、何?」
西岡「これが『泣き落としの藤原』だよ」
北島「コイツが泣くの!?」
西岡「これが藤原さんだ」
北島「えぇ……おっかねぇってそういう意味……?」
藤原「今なら減刑も考えてやるからさぁ!認めてくれよ!頼むよ!北島さん!」
北島「ちょ、お前はとりあえず落ち着けよ。ほら(ハンカチを取り出して藤原に渡す)」
藤原「人を労わる気持ちがまだあるんだな!(受け取ったハンカチで涙を拭き、鼻を嚙む)はい、返す。ありがとう」
北島「いらない。あげる」
藤原「お前にとって敵である俺にも優しさを……!?」
北島「モノは捉えようだな!?」
藤原「これなら更生の余地ありで減刑も考えてやる!」
北島「良いから落ち着け!お茶でも飲んで!」
藤原「(西岡からペットボトルのお茶を貰い、飲む)あぁ、少し取り乱してしまったな。申し訳ない」
北島「少しどころじゃ無かったけどな」
藤原「で、どうする?ここで自白すれば、お前の事は、水には流せない、が、(再び泣き始める)刑は軽くなるって先方も言ってる……どするんだ?」
北島「改めて聞きたいんだけど、俺って何で捕まったんだっけ?」
西岡「万引きだな」
北島「だよなぁ?それでここまでする?」
藤原「あっ!今、万引きって認めたな!?お前なら、きっと真実を告げてくれると信じていたよ!」
北島「あっ、やべっ」
藤原「俺は嬉しいよ!お前なら、きっと心を開いてくれるって思っていたよ!」
北島「いや、むしろ心はドンドン離れて行ってるけど」
藤原「そんな事言うなよぉ~!俺とお前の仲だろぉ~!?」
北島「ついさっき初めて会ったばかりで何が『仲』だよ」
藤原「時間なんて関係ないだろぉ~!心の距離は縮まっただろぉ~!?だから白状してくれたんだろぉ~!?」
北島「いや、それはうっかり口が滑っただけで……」
藤原「北島ぁ!俺はなぁ!お前をただの犯罪者としてじゃなく、一人の友人として接したいんだよ!俺を信じてくれ!」
北島「友人じゃねぇだろ……信じるって、何を信じるんだよ」
藤原「刑期は短くしてやる!だから、だから……!」
北島「えっ?罰金刑でどうにかならないの?」
西岡「出来るけど、今回の場合、常習性が見られるとして二十万円ってところだろうな」
北島「それに応じなければ?」
西岡「十年以下の懲役刑だな」
北島「それは困るな……」
藤原「北島ぁ~!お前、何でこんな事したんだよぉ~!」
北島「俺はやってねぇ!」
西岡「ここに防犯カメラの証拠があるんだ!これでも白を切るつもりか!」
北島「だから俺じゃねぇって!ほら、この写真。ここ、防犯カメラの死角じゃないか。そこに俺がたまたま居ただけで、俺がやったとは限らないだろ?」
西岡「この死角になってる商品棚にお前が来店した時だけ、万引きに遭っているんだよ!」
北島「だから俺はやってねぇ!いい加減うぜぇぞ!」
西岡「何だとぉ!?じゃあレシートはどうなんだ!?レシートを見せて見ろ!」
北島「…………」
西岡「どうなんだ!」
藤原「待て、西岡。北島、そろそろ腹が空かねぇか?」
北島「あ?あぁ、まぁ……」
藤原「西岡」
西岡「はい(一旦舞台上手に消え、すぐにカツ丼を持ってやってきて机に置く)」
藤原「カツ丼だ。喰え」
北島「マジで出るんだな。取り調べでカツ丼」
藤原「まぁ喰って一旦落ち着け」
北島「落ち着いてほしいのはお前なんだけどな……でもこれ自腹でしょ?」
西岡「1680円ね」
北島「そこそこ良いカツ丼だな」
西岡「今払うか?」
北島「あ?あぁ、そうだな(財布を取り出して金を西岡に渡す)じゃあ、いただきます」
藤原「どうぞ、召し上がれ」
北島「(カツ丼を掻っ込む)」
藤原「どうだ?美味いか?」
北島「あぁ、美味いよ。てかこれ、親父の店……カツ丼屋の味に凄ぇ似てるんだけど」
藤原「よく分かったな!?そうだ!お前の親父さんが、お袋さんが、お前が更生する為に真剣に作ってくれたんだ!」
北島「親父……お袋……俺の為に……」
藤原「もう観念しろよぉ……!お前のご両親の為にもさぁ……!」
北島「……あぁ、そうだよ!やったよ!万引き!」
藤原「やっと自白してくれたな!ありがとう、北島!お前は心まで腐ってはいなかったんだな!」
北島「腐ってなければ万引きなんてしないけどな」
藤原「今回は特別に刑期を短くするよう上に掛け合って来る!安心してくれ!すぐにシャバに出られるからな!」
北島「金さえ払えば釈放だろ?二十万だっけか?払うよ。それで良いだろ?」
藤原「金が無いから万引きしたんだろぉ!?大人しくムショ暮らしをしろよ!」
北島「金ならあるよ!」
藤原「そうなのか?じゃあ何でこんな事をしたんだよ?」
北島「ストレス発散でやったんだって。何となくだよ」
藤原「何となくで犯罪に手を染める奴があるかよぉ!何でだよぉ!?」
北島「仕事が上手くいかなくてよ。ムシャクシャしてたんだ。憂さ晴らしに万引きしてみたんだよ」
藤原「そんな事で……!?お前、お父さんとお母さんにどういう教育を受けてきたんだ?」
北島「まぁ、厳しく育てられてきたけど……」
藤原「その背景があったから、反動でこんな事をしてしまったんだろう!?お父さんお母さんにも責任はあるよなぁ!?」
北島「親父とお袋は関係無い!」
藤原「両親を庇うなんて、何て良い息子なんだ!俺は感動したぞ!その家族愛に!さぁ、罪を償う為に刑務所に行こう!」
北島「だから示談金は払うから、家に帰してくれ」
藤原「お前には悪いが、向こうは刑務所行きを希望されてる」
北島「反省するから、金は払うから事を穏便にだな……」
藤原「北島ぁ!」
北島「何だよ?」
藤原「全て金で解決できると思うなよ!?お前がやった事は重罪だ!刑期は短くしてやるって言ってるんだ!何故それを受け入れない!?」
北島「逆に聞くけど、何でそんなにムショ入りさせたいの?」
藤原「ノルマがあってぇ……」
北島「ノルマぁ!?何の!?検挙率とかなら分かるけど!?」
藤原「何人ムショ送り出来るかっていうノルマがあるんだよぉ……」
北島「何それ!?税金の無駄遣いじゃん!」
藤原「こっちにはこっちの事情があるんだよぉ……」
西岡「で、どうする?こっちは出るとこ出ても良いんだけど?」
北島「裁判は避けたい。金は払うから、謝罪文も書くから、ここは……」
藤原「お前、本当は良い奴なんだな!?感激した!よし!じゃあ示談金で解決にしよう!二十万だ!」
北島「ノルマは良いのか?」
藤原「俺はお前の誠意に感銘を受けた!だからもうノルマなんてどうでも良い!俺が求めてるのは感動だ!うわあああああああああ!!!」
北島「なぁ、何でこんな奴が警部になってんの?」
西岡「この泣き落としで何人もの犯罪者を落としてきたからな」
北島「よくこれで検挙出来てきたな……」
西岡「『もういっかぁ……不憫に思えてきた』って皆、口を揃えて言ってきたよ」
北島「だろうな。正直ウザいし」
西岡「今の言葉、名誉棄損で訴えても良いんだぞ?」
北島「それは勘弁願いたいね。で?俺は釈放?」
西岡「あぁ、一時的にな。後日、通知書を送る。その期間内に支払いを済ませば良い」
北島「分かった。じゃあこれで俺は帰れるんだな?」
西岡「あぁ、良いよ」
北島「じゃあもう良いのね?帰るわ」
西岡「あぁ」
北島、舞台上手に退場。
西岡「もう良いですよ、藤原警部」
藤原「……うん……!(泣き止む)」
西岡「毎回こうでは身が持ちませんよ?」
藤原「でもこれで検挙率上がってるだろ?」
西岡「まぁ、そうですけど」
藤原「俺はこれからも泣き落とし刑事でやっていく。着いて来てくれるか?」
西岡「あ、俺、今度異動になったんで、担当が変わります」
藤原「そうなの?じゃあまた一から説明しなきゃならんのか……」
西岡「藤原警部の事、もう皆知ってますよ。やり口が怖いって」
藤原「えっ?そうなの?何で?」
西岡「毎回大声で泣き叫ぶんですもん。そりゃ誰でも怖がりますよ」
藤原「じゃあお前が異動になったのって……」
西岡「自分の意思ですよ?異動願が受理されたんで」
藤原「何で突然そんな……!?」
西岡「もう藤原さんには着いて行けないんで」
藤原「そんなぁ!俺を見捨てる気かよぉ!?(泣き出す)」
西岡「ここでも泣くんですか?情緒どうなってるんですか?一度病院に行って診てもらった方が良いですよ」
藤原「俺は至って健康だ!」
西岡「情緒不安定な人は皆そう言うんですよ。じゃあ今月いっぱいで俺は部署異動なんで、今までお世話になりました」
藤原「そんなぁ……」
暗転。
明転。
枝村、板付き。
西岡、舞台上手から登場。
西岡「おはようございまーす……ってあれ?枝村警部?」
枝村「あぁ、西岡か。おはよう」
西岡「何で枝村警部が?まだ一週間、藤原警部とタッグを組む予定だった筈ですが?」
枝村「あぁ、強制入院したよ、アイツ」
西岡「えっ?何でですか?」
枝村「前々から取り調べの時、情緒不安定だったから、上から一旦、病院で診てもらおうって話になったんだ。結果、不安障害って診断されて、心療内科の病院に強制入院する運びになった」
西岡「へー。大丈夫なんですか?藤原警部」
枝村「今でも自分の不運に泣く日々を送ってるらしい」
西岡「だったらお得意の泣き落としですぐ退院出来るんじゃありませんか?」
枝村「それがな?向こうにも『泣き落としの高橋先生』って医者がいて、二人して退院するのしないので毎日バトってるんだと」
西岡「似た者同士かぁ……ちょっと見てみたいかも……」
枝村「今の所高橋先生が勝ってるっぽいから、このまま入院は続行だろうな」
西岡「てか退院出来てない時点で藤原警部、負け続けてるじゃないですか」
枝村「だな」
―――終わり
『舌打ち』
・登場人物
小川美幸(OL)
北島(主任・男)
藤原(課長・男)
儀間(部長・女)
小川拓(社長)
・舞台
オフィス
・衣装
美幸・・・スーツ。マスク。
北島・・・スーツ。
藤原・・・スーツ。
儀間・・・スーツ
拓・・・・スーツ
明転。
オフィス。デスクが二つ離れて並んでおり、それぞれに椅子が一つずつ。
美幸、北島、板付き。PCでキーボードを打ってる。
北島「小川君」
美幸「はい。何ですか?北島主任?」
北島「お茶淹れてもらえる?」
美幸「チュッ。はい」
美幸、舞台上手に退場し、すぐにお茶を持って登場。
美幸「どうぞ」
北島「あぁ、ありがとう。あ、立ってるついでに良いかな?」
美幸「チュッ。何ですか?」
北島「この資料、誤植とか無いか確認しておいてくれないかな?(USBメモリを渡す)」
美幸「チュッ。分かりました」
美幸、自分のデスクに向かい、暫くPCを操作する。その後、北島の下へ行く。
美幸「確認しました。一部、誤字脱字があったので修正しておきました」
北島「ありがとう。流石、小川君だ。早いね。この資料、二十部コピーしといてくれるかな?この後の会議で使うんだ」
美幸「チュッ。分かりました(資料を受け取り、舞台下手に退場。すぐに二十部分の資料を持って登場)コピーしてきました」
北島「ありがとう。あ、悪いんだけど、これ、ホッチキスで留めてくれる?」
美幸「チュッ。はい(資料を持って自分のデスクに向かう)」
しばし各々作業する。
北島「小川君。ちょっと良いかい?」
美幸「チュッ。何ですか?まだホッチキス留めは終わってませんが」
北島「あ、いや、その、何だ……ちょっと君のその態度、感じ悪いよ?と思ってね」
美幸「態度?どこがですか?」
北島「舌打ちだよ、舌打ち」
美幸「舌打ち?してませんよ?」
北島「してるじゃん。さっきもお茶淹れてもらった時と資料のコピーとホッチキス留め頼んだ時と今呼んだ時に『チッ』って」
美幸「あぁ、それですか?すみません。つい癖で」
北島「だからって舌打ちは気分悪いよ?」
美幸「舌打ちじゃないですよ?」
北島「え?じゃあ何それ?」
美幸「(マスクを外して投げキッスをする)投げキッスです。それの省略形です」
北島「何で投げキッスを?」
美幸「信頼出来る、尊敬する人にしかしないようにしてるんです」
北島「いや、だから何で投げキッスを?」
美幸「愛情表現です(マスクを着け直す)」
北島「あ、そう、なんだ……え、愛情?」
美幸「はい」
北島「それって、俺の気持ちと一緒って事……?」
藤原、舞台上手から登場。
藤原「おいーっす」
美幸北島「お疲れ様です、藤原課長」
藤原、美幸の肩を揉みに行く。
藤原「美幸ちゃ~ん、最近肩凝り過ぎじゃな~い?やっぱりおっぱいが大きいから~?」
美幸「チッ……あはは、そうかもしれませんねぇ」
藤原「あ、北島君、例の資料は?」
北島「あぁ、今、小川君にホッチキス留めしてもらってます」
藤原「自分の仕事を他人にやらせるなよ~。美幸ちゃん、俺が代わりにやったげる。報酬は一緒に食事でも。なんちゃって」
美幸「チッ……私一人で大丈夫です。それに、頼られるの好きなんで」
藤原「そんな事言ってると、頼られるから当てにされるに変わっちゃうよ?」
美幸「チッ……それくらいの区別取れるんで大丈夫です」
藤原「そう~?ま、良いけどさ。じゃあ資料、宜しくね~」
藤原、舞台下手に退場。
北島「……小川君」
美幸「はい?何でしょう?」
北島「今のも投げキッスだったの?」
美幸「いいえ?普通に舌打ちしてました」
北島「相手が気分悪くなるからなるべく止めた方が良いよ?」
美幸「でも相手が先にこちらを不快にさせてますよね?だったらこっちも行動で示すしかないじゃないですか」
北島「じゃあ直接言うなり、上の役所の部長に言うなりすれば良いじゃないか。下手したら悪い方向に目を付けられちゃうよ?」
美幸「大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます。主任。チュッ」
北島「今のはどういう意味で?」
美幸「好意を持ってるって事ですよ」
北島「えっ?それってやっぱり……」
儀間、舞台上手から登場。
儀間「お疲れ様です」
美幸北島「お疲れ様です、儀間部長」
儀間「なぁに~?二人で仲良くしちゃって~」
北島「別にそんなんじゃないですよ……」
美幸「チュッ」
北島「なぁ、小川君。課長の事何か言っといた方が良いんじゃないか?」
美幸「チュッ。お気遣いどうもありがとうございます。でも私は大丈夫ですから」
儀間「何、何?何の話?」
美幸「何でもありません」
北島「何でもあるだろう。部長、美幸君は課長にセクハラされてるんです。日常的に」
儀間「えっ……それ本当なの?」
美幸「主任……」
儀間「美幸ちゃん、お父様にこの事は……?」
美幸「既に言ってあります」
儀間「そ、そう……でも限界が来たらいつでも私に言ってね?すぐ社長の所に行くから」
美幸「チュッ。ありがとうございます」
儀間「あら、また投げキッス?嬉しいわ」
北島「えっ?」
儀間「どうしたの?北島君」
北島「その舌打ちに聞こえる音が、何で投げキッスだって気付いたんですか?」
儀間「あぁ、それは入社面接の時に社長から聞いてたのよ」
北島「え?どういう事ですか?」
儀間「だから~……」
藤原、舞台上手から登場。
藤原「あっ、儀間部長、お疲れ様です」
儀間「お疲れ様」
藤原「ねぇ美幸ちゃ~ん。今日の夜空いてたりしてな~い?」
美幸「今日は残業です」
藤原「何よそれ~?そんなの北島君に任せて一緒に食事でも行こうよ~」
儀間「藤原君、もうその辺にしときなって」
藤原「えぇ?何でですか?」
儀間「後々に絶対後悔する事になるだろうから。良いね?忠告はしたからね?じゃあ私、ちょっと資料室で仕事してくるから(舞台下手に退場)」
藤原「何、何?まさかこんな事でセクハラ、パワハラって言うんじゃないでしょうね~?そんな事しないよね~?そんな事したら、会社に居辛くなるだろうからね~」
藤原、舞台下手に退場。拓、舞台上手から登場。
拓「お疲れさん」
美幸北島「お疲れ様です、小川社長」
拓「そろそろ会議が始まるが、資料の方はどうなってる?」
北島「あ、それは小川君が」
美幸「出来てます」
拓「流石、美幸だ」
美幸「社長。ここでは苗字で呼んで下さい」
拓「私と同じ苗字なんだから名前で呼んだ方が良いだろう?何か問題でもあるのか?」
美幸「あるわよ。家族だって知れ渡っちゃうじゃない」
北島「えっ?社長と小川君って親族なんですか?」
拓「あれ?言ってなかったっけ?私と美幸は親子なんだよ」
北島「へー!そうだったんですか!知りませんでした!」
美幸「あぁ……主任には知られたくなかったのに……」
北島「何で?」
美幸「フェアじゃなくなるからです」
北島「何の?」
美幸「それは……」
儀間、舞台下手から登場。
儀間「北島君。そこは察しなよ」
北島「えっ……?」
儀間「小川社長、お疲れ様です」
拓「あぁ、儀間君。お疲れ様」
藤原、舞台下手から登場。
藤原「ねぇ~美幸ちゃ~ん。俺のコーヒーどこ行ったか知らな~い?ってか淹れてくれな~い?あっ、社長!お疲れ様です!」
拓「藤原君。何だね、その態度は?」
藤原「は?」
拓「美幸君に対するその態度だよ」
藤原「あ、あぁ、これはですね、フレンドリーさを出そうと思って……」
拓「フレンドリー?君の言うフレンドリーとは、あんな甘ったるい声で若手の女子社員にコーヒーを無理矢理、所望するのかね?」
藤原「あ、いや、その……」
儀間「社長、藤原君は日頃から美幸さんにセクハラをしているみたいです」
拓「何?それは本当か?」
美幸「はい」
藤原「しょ、証拠は?証拠はあるのか?」
美幸「(懐からボイスレコーダーを取り出し、『美幸ちゃ~ん、最近肩凝り過ぎじゃな~い?やっぱりおっぱいが大きいから~?』という音声を流す)こういった事が頻繁に起こっています」
藤原「に、偽物だ!私の声を真似たか音声ソフトで作ったやつだ!」
北島「私はその場にいました。確かに、これは言ってました」
藤原「北島君!君まで何を馬鹿な事を……!」
拓「馬鹿な事をしているのはどこの誰だね?私の娘に無理矢理手を出そうとしていたのは?」
藤原「えっ!?美幸ちゃんって社長の娘さんだったの!?」
儀間「そうだよ。だから止めとけって言ったじゃない」
拓「あぁ、もう会議が始まる。美幸、資料を」
美幸「はい(資料を一部渡す)」
拓「これからの会議は新商品開発のものだが、ついでに藤原君の処遇についても議題に入れようか」
藤原「そ、そんな……!私、知らなかったんです!美幸さんが社長の娘さんだったなんて!」
拓「私の娘じゃなければ遠慮無くやってたと言うのか?」
藤原「そ、それは……!」
拓「さぁ、来給え。会議を始めようじゃないか」
藤原「う、うぅ……」
儀間「(残りの資料を持つ)覚悟を決めな」
藤原、儀間、拓、舞台上手に退場。
北島「嵐のようだったな……」
美幸「そうですね」
北島「じゃ、じゃあ俺達も仕事に戻ろうか」
美幸「チュッ。そうですね」
北島「なぁ、それってどういう意味なんだ?」
美幸「だから言ったじゃないですか。好意を持ってるって」
北島「それって、そういう事で良いんだよね?」
美幸「将来、この会社を継ぐ気はありますか?」
北島「(頷く)」
美幸「それは、結婚を前提に真剣にお付き合いするって事でOK、って事で良いんですよね?」
北島「(頷く)」
美幸「相手に好意を向ける時は?」
北島「(頷き、投げキッスをする)チュッ」
美幸「(投げキッスをする)チュッ」
―――終わり
『入れ替わってない』
・登場人物
小川美幸
儀間愛真
藤原正将
北島康介
枝村拓
桜井琴音
山田瑠奈
藤縄迪人
高橋和志
西岡聖弘(医者)
・舞台
道端
病院の診察室
明転。
道端。
小川、舞台上手から、儀間、舞台下手から走って登場。二人、頭をぶつけ、倒れる。
儀間「あ痛たたた……もう!気を着けなさいよね!……って、えぇっ!?あれぇっ!?」
小川「そっちがぶつかってきたんでしょ……!もう少し周りを見なさいよね!全く、早く大学行かなくちゃ」
儀間「ちょ、ちょっと待って!?」
小川「は?何?」
儀間「私が目の前にいる……!?」
小川「は?何?」
儀間「私!小川美幸!」
小川「……はぁ?」
儀間「自分でおかしいと思わない!?貴方は誰!?」
小川「私は小川美幸だけど?」
儀間「そうだよね!?私達、入れ替わって……!?ん?あ、あれ……?」
藤原、舞台上手から登場。小川とぶつかり、二人共尻もちを着く。
小川「もう、何なの?」
藤原「あっ、すみません……え、あれ?わ、私がいる……!?」
小川「はぁ?何?」
藤原「貴方、私の姿見て何も思わないの!?」
小川「何なの?何も思わないわよ」
藤原「嘘でしょ!?私は小川美幸!貴方は!?」
小川「小川美幸は私よ!」
藤原「私達、入れ替わって、無い……!?」
北島、舞台下手から登場。
北島「大丈夫ですか?お嬢さん?(手を差し伸べる)」
小川「あぁ、ありがとうございます」
北島「あ、意外と重い……」
小川「失礼な!(勢いよく立ち上がり、北島の頭に頭突きする形になる)」
北島「あ痛っ!」
小川「あっ、すみません……」
北島「いえいえ……あ、あれ?目の前に私がいる……?」
小川「はぁ?さっきからアンタ達何なの?フラッシュモブ?カルト宗教?」
儀間藤原北島「私は、小川美幸よ!」
小川「はぁ?」
暗転。
明転。
診察室。診察台一つに、椅子が四個。全員座っている。
小川儀間藤原北島「先生、どうなんですか……?」
西岡「えー……結論から申し上げます」
一同沈黙。
西岡「頭部衝撃性人格交換症候群の一つですが、これは稀に見る非常に珍しい症状になっています」
小川儀間藤原北島「と言うと……?」
西岡「頭部をぶつけた者同士の魂が入れ替わるのが普通の症状ですが、今回は小川美幸さんの魂だけが無限に分け与えられて、他三人の魂を追い出した状況になっています」
小川儀間藤原北島「一体どうすれば!?」
西岡「大抵、一度離れた魂はもう一度同じ事をすれば、元に戻るはずなんですが……」
小川儀間藤原北島「じゃあ早速頭突き合いを……!」
西岡「但し、魂が入れ替わらず、今回みたいに入れ替わりの器となる人間に入らなかった場合、その魂が離れた場所に留まる性質があります。なので、その場に行ってもう一度頭部をぶつけ合ってみて下さい」
小川儀間藤原北島「分かりました……」
暗転。
明転。
道端。
小川「ちなみに、私がオリジナルで良いのよね?」
儀間「そうなるわね」
小川「まずは貴方からやりましょうか」
儀間「えぇ、良いわよ」
小川「行くわよぉ~……せーの!(頭突きをする)」
小川儀間「ぐわっ!(蹲る)」
藤原「ど、どう……?」
儀間「……いや、小川美幸のままね」
枝村、舞台上手から登場。
小川「もっと強くやらなきゃ駄目かしら(立ち上がり、枝村に頭突きする)」
枝村「ぐあっ!?」
小川「あっ!?ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
枝村「え、えぇ……あ、え?私がいる……!?」
小川「また患者増やしちゃった!」
北島「何してんのよ!」
枝村「どういう事ですか?」
儀間「離せば長くなるんだけど……この小川美幸という人物の魂が他の人間に移るのよ」
枝村「えぇ!?じゃあここに居るのって全員……?」
北島「考えてる通り、全員小川美幸よ」
小川「ちなみに私がオリジナルね」
枝村「じゃあ元の魂に戻らないと結構ヤバいんじゃないの!?」
儀間「そうね。だからこうして頭をぶつけあっているのよ」
桜井、舞台下手から走って登場。
桜井「退いて退いて退いて~!」
儀間「えっ?あっ、ちょ!?(桜井とぶつかり、一緒に倒れる)」
桜井「あ痛たたたたたたた……もう、何~?」
儀間「こっちの台詞よ!」
桜井「(小川を見て)えっ……!?私が、いる……!?」
儀間「また患者増やしちゃった!」
藤原「私達、オリジナルじゃないのに魂を分け合う事が出来るの!?」
北島「みたいね」
小川「もうどうすんのよ~!?」
暗転。
明転。
診察室。小川、儀間、藤原、北島、枝村、桜井、山田、藤縄、高橋、西岡、椅子に座っている。
西岡「どうしてこうなったんですか?」
小川儀間藤原北島枝村桜井山田藤縄高橋「気付いたらこうなってて……」
西岡「オリジナルの小川さん、どこでこうなったか覚えていますか?」
小川「すぐそこの十字路です」
西岡「そうですか……うーん、困りましたねぇ……」
小川「どういう事ですか?」
西岡「その十字路ですが、ここまで大量の魂が浮遊しているのであれば、きっと上手く元の体に入らない事が多く出てきそうなんですよね」
小川「と言うと?」
西岡「魂は近くにいる心が空っぽの体にランダムに入ってくるんですよ。だから必ずしも元の魂が元の体に戻るとは限らないんですよ」
小川「じゃあ、どうすれば?」
西岡「地道に頭突き合いしていくしかないですねぇ」
小川「そんな……!?あれ結構痛いんですよ!?」
西岡「知ってますよ。でもそうするしか解決策が無いんです」
小川「だからって……!」
西岡「しかもあの十字路、都市開発で近い内に潰されるんですよね」
小川「えぇ!?じゃあ急がないと!」
儀間「あのー……」
西岡「何ですか?」
儀間「私達、別にこのままでも良いかなって思っててですね……」
小川「はっ!?な、何で……?」
藤原「性別の事は別に気にしないで受け入れれば良いだけの話ですし」
北島「トイレとか銭湯とかは意識的に男性を選べば良いだけですし」
枝村「そうそう。気を付ければ分かる事があるだろうし」
桜井「私は元々女性ですから、特に気にしないかなと」
山田「私も元々女性ですから、日常生活に支障は出ないかなと」
藤縄「仕事と勉学の面ではちょっと不満が出るかもしれませんが……」
高橋「まぁ、それも一つの経験かなって考えれば、それで良いかなって思いまして」
小川「いやいやいや!そんな簡単に受け入れないでよ!私なんだから分かるでしょ!?」
儀間「だから分かるのよ。面倒臭い事をやって、ここまで被害が拡大してるんだから、もうこれに関わるのは止めましょうよ」
小川「……うーん……」
藤原「もう時間も無いし、何度も頭突きしてたら怪我で入院してしまう可能性もある訳で」
小川「……うーん……」
北島「もう良いでしょ?私達自身が納得すれば」
小川「受け入れるのが早過ぎるような気がするんだけど……」
西岡「まぁ、後は当人達の問題ですし、塗り薬と湿布と痛み止めを人数分、一ヶ月分出しておきますので、ご自由にお過ごし下さい」
小川儀間藤原北島枝村桜井山田藤縄高橋「分かりました」
暗転。
NA「それからそう遠くない未来……世界の人口は全て小川美幸になり、統率の取れた、争いが無い平和な世界が訪れたのだった」
―――終わり
『不良生徒』
・登場人物
藤原(不良)
西岡(不良)
枝村(不良)
北島(敵校不良)
敵校不良A~I(九人程)
警察官A~J(十人程)
・舞台
学校の校舎裏
河川敷
明転。
学校の校舎裏。
藤原、西岡、板付き。枝村、負傷し、果たし状を持って舞台下手から登場。
枝村「藤原さん……!西岡さん……!」
藤原「どうした、枝村!?そんなボロボロで!」
枝村「北高の奴らから果たし状を渡されてきたんです……!」
西岡「何っ!?貸せ!(果たし状を奪うように取り、中を広げて読む)『この前はよくもうちの仲間を病院送りにしてくれたな。明後日の土曜日、午後一時から決闘を申し込む』だとさ。どうする?藤原?」
藤原「立ち向かうまでだ。全勢力を持ってな」
西岡「お前ならそう言うと思っていたよ」
枝村「俺も行きます……!」
西岡「そんな怪我じゃ無理だ。お前は休んでろ」
枝村「こんな事されて黙ってられないですよ……!お願いです、行かせて下さい……!」
西岡「でも……」
藤原「枝村」
枝村「藤原さん……」
藤原「一緒に行こう」
西岡「良いのか?藤原」
藤原「あぁ。コイツがここまで言うんだ。連れて行こう」
枝村「藤原さん、ありがとうございます……!」
西岡「全く、お前って奴は……」
藤原「西岡、皆に声を掛けてくれ」
西岡「分かった」
暗転。
明転。
河川敷。
北島、敵校不良A~I、板付き。
藤原、西岡、枝村、舞台上手から登場。
北島「おう、藤原御一行様。ようやくお着きか」
藤原「北高の北島。お前には枝村が随分お世話になったな」
北島「ちょっとした挨拶代わりだ。お気に召したかな?」
藤原「あぁ、お前達の本気、受け取ったよ」
北島「それにしても、俺達は十人。お前達はたったの三人。それも一人は怪我を負っている。舐められたものだな」
藤原「俺達だけで充分だからな」
北島「そうかい。じゃあおっ始めようぜ!」
藤原「あぁ……!」
北島「行くぞお前らぁ!」
敵校不良A~I「おぉ~!」
藤原「警察の皆さ~ん!こっちで~す!」
北島「はっ!?」
警察官A~J、舞台上手から登場し、笛を吹く。北島、敵校不良A~I、「逃げろ!」と言って舞台下手に退場。警察官A~J、一同を追っていく。北島、暫くして戻ってくる。
北島「どういう事だ!?」
藤原「何が?」
北島「何で警察がここに居る!?」
藤原「決闘罪と傷害罪でお前らを補導させる為だけど?」
北島「お前ら、卑怯だぞ!不良の風上にも置けない!」
西岡「お前ら、何か勘違いしてるみたいだけど、俺達は不良じゃないぞ?」
北島「えっ?どういう事?」
枝村「俺達は別に不良じゃない。抗争とかに夢を追って喧嘩したいとかじゃない」
北島「はぁ!?じゃあ何でそんな格好してんの!?」
藤原「こういう恰好が好きだからしてるだけ」
北島「じゃあ普段何してんの!?」
藤原「勉強かなぁ」
北島「何それ!?不良に憧れてるとかじゃないの!?」
西岡「不良のファッションに憧れてるだけで、普段は大人しいよ」
北島「じゃあ今までの喧嘩は何だったんだよ!?」
枝村「お前達が言い掛かりを付けて絡んできたから殴り返してやっただけだよ。正当防衛って事で、警察からも理解してもらってるし」
北島「ファッション不良だったって事!?じゃあ勉強以外普段何してんの!?」
藤原「ゴミ拾いのボランティアとか」
西岡「ホームヘルパーのバイトとか」
枝村「それで得た給料を募金に回したりとか」
北島「めっちゃ社会貢献してる!全然不良じゃない!」
藤原「だから言ってるじゃん。俺達は不良じゃないって」
北島「原チャリは!?無免許だろ!?」
西岡「あれは誕生日迎えたと同時に免許取りに行ったよ」
北島「真面目!」
枝村「大体、俺達がいつお前らに喧嘩売ったよ?」
北島「……思い返してみれば、確かにお前達から喧嘩売られた事は無かったな……いつもこっちから行ってたな」
藤原「最初は肩がぶつかったって因縁付けられたのが始まりだったな」
北島「あぁ、そういえばそうだったか……じゃ、じゃあ将来の事とかどう考えてんの?」
藤原「普通に大学進学して」
西岡「普通に就職して」
枝村「これから付き合うであろう彼女と結婚して、子供を作って幸せな家庭を築く」
北島「結構、真剣に考えてんだな!?」
藤原「そりゃあ一度しかない人生なんだから、自分の好きなように生きたいじゃないか」
西岡「お前は将来の事を考えずに生きているのか?」
枝村「そんなんじゃあどうせ反社会的な組織に飼い殺しにされて捨てられるだけだぞ?」
北島「説教をするな!俺は好きなように生きていく!」
藤原「はぁ……まぁお前がそれで良いなら良いけどさ。でも親御さんの事とか考えたらどうなの?」
北島「知らねぇよ!親父とお袋の事なんか!」
西岡「あー……よく聞くわぁ、そう言う奴」
北島「何がだよ?」
枝村「親御さんを悲しませたら駄目だよ。きっと親御さんの死に際に『もっと親孝行しておけば良かった』って後悔するよ?」
北島「五月蠅ぇ!そんな事知った事か!」
藤原「親は大事にしておきなぁ?いや、マジで。冗談抜きで」
北島「親なんか俺には関係無ぇんだよ!」
西岡「馬鹿野郎!今、高校に通えてるのは誰のおかげだ!?」
枝村「飯だって風呂だって洗濯だって誰のおかげで成り立ってると思ってるんだ!?」
北島「そっ、それは……!」
藤原「な?もう良いだろ?これからは反省して真っ当に生きろよ?」
北島「……クソッ!」
警察官A、舞台下手から登場。
警察官A「こっちにいたのか!来い!」
北島「止めろ!離せ!」
警察官A「大人しくしろ!(北島に手錠を掛ける)」
北島「あっ!クソッ!」
警察官A、北島を舞台下手に連れて去って行く。
藤原西岡枝村「真面目になれよー!」
北島「五月蠅ぇ!」
暗転。
北島、暗転中NA。
北島「拝啓、父上様、母上様。お元気でしょうか?私は更生施設に入れられてから心改め、元気に暮らしております。近々、実家に帰れると思います。その時は、腹を割って話し合いましょう。今までご迷惑をお掛けしました。お詫びします。これからは仲間と共に、社会貢献出来るよう努めますので、どうぞ安心して下さい」
明転。
河川敷。
藤原、西岡、枝村、北島、敵校不良A~I、板付き。
藤原「またこんな所に呼び出して……今度は何だ?」
北島「お礼参りって所だな」
西岡「懲りないなぁ、お前も」
北島「今回は決闘とは書かなかっただろう?」
枝村「確かに。何の用だ?」
北島「だから言ったろう?お礼参りだと……おい」
敵校不良A「はい(紙袋を渡す)」
北島「これ、つまらない物だけど……(紙袋を藤原に渡す)」
藤原「……何コレ?」
北島「カステラ。嫌いだった?」
藤原「いや、好きだけど……えっ?何?どういう事?」
北島「だから言ったろう。お礼参りだと。お前達の願掛けのおかげで俺達は更生出来た。ありがとう」
藤原西岡枝村「えっ?あ、おう……」
北島「ほんのお礼だ。受け取ってくれ」
西岡「じゃあ遠慮なく……あ、お前らもどうだ?」
北島「良いのか?」
枝村「俺達だけじゃ喰いきれねぇよ。一緒に喰おうぜ(自分と藤原と西岡の分のカステラを取り、残りを袋ごと北島に渡す)」
北島「ありがとう!お前らもお礼言えよ!」
敵校不良A~I「ご馳走様です!(北島からカステラを受け取る)」
藤原「じゃあ皆の快気?祝い?に、カステラで乾杯!」
一同「カンパ~イ!」
―――終わり
『万引き』
・登場人物
北島
藤原
枝村
・舞台
スーパーの事務所
・衣装
北島・・・スーパーのジャケット、スーツのズボン
藤原・・・コート、長靴、ポケットの多い服・ズボン、バッグ
明転。
スーパーの事務所。テーブル1つに椅子が2つ。
北島、板付き。
枝村「はい、じゃあ中に入って」
枝村、藤原、舞台上手から登場。
枝村「店長さん、失礼します」
北島「枝村さん。万引きですか?」
枝村「はい」
北島「また万引きか……」
枝村「はい、じゃあ座って(座る)」
藤原「(座る)」
北島「君、自分が何したか分かってるね?」
藤原「はい……」
北島「じゃあ盗んだ物全部出して」
藤原「はい……(シャーペンを出す)」
北島「まだあるでしょ?」
藤原「はい……(消しゴムを出す)」
北島「まだあるでしょ?」
藤原「はい……(ミニスケッチブックを出す)」
北島「何コレ?写生でもするつもりだったの?」
藤原「……はい」
枝村「まだありますよ」
北島「本当?全部出しなさい」
藤原「はい……(レトルトカレーを出す)」
北島「腹が減っては絵は描けぬってか?」
藤原「(お茶を出す)」
北島「ピクニックついでに絵を描くつもりだったのか?」
藤原「(マシュマロを出す)」
北島「おやつも持ってくつもりだったのか?」
藤原「(長靴からBBQグリルフォークを出す)」
北島「写生しながらBBQもするつもりだったのか?」
藤原「(バッグから色んなBBQ用品を出す)」
北島「ちょっと待て!どんだけ盗ってんだ!?」
藤原「すみません……」
北島「枝村さんも何でこうなるまで放っておいたんですか!?」
枝村「だって店から出ないと万引きとして捕らえられないんですもの」
北島「だとしても私に一報くらい出来るでしょ!?」
枝村「すみません……」
北島「大体さ、君も何でこんな事したの?」
藤原「一人キャンプに憧れてまして……」
北島「自分の金で買わないと楽しめないでしょ」
藤原「そうでもないです」
北島「何ぃ?」
藤原「ほら、他人の金で喰う飯は旨い、って言うじゃないですか。それと同じですよ」
北島「あーあー、分かったよ。反省の色無しだね。警察に通報するから」
藤原「それだけはご勘弁を!」
北島「駄目だよ。反省してる様に見えないし」
藤原「反省はしてます!この店ではもう万引きしませんから!」
枝村「この店ではもう?」
藤原「あっ、やべっ」
北島「君、この店だけじゃなくて、他の店でもやってるんだな?」
藤原「あの、その……」
枝村「しかも常習犯だな?」
藤原「…………」
北島「もう言い逃れは出来ないぞ。これは警察に通報だな」
藤原「それだけは本当に勘弁して下さい!警察だけは!」
北島「じゃあ警察に通報しない代わりに、君の家族に連絡するってのはどう?」
藤原「家族にバレるのは……!」
枝村「自分で蒔いた種だろう」
藤原「それはそうですが、しかし……!」
北島「もう駄目だよ。じゃあ警察に通報だな」
藤原「……家族に言うだけで、警察だけは……」
北島「分かった。今回の事は警察には通報せずに、家族に連絡だけさせてもらうよ。良いね?」
藤原「はい……」
北島「電話番号は?」
藤原「(スマートフォンを取り出し、画面を見せる)」
北島「はいはい。これね?っていうか君、働いてるの?」
藤原「はい、サラリーマンです」
北島「どこの会社なの?」
藤原「はい、株式会社キャンプハイヤー、です」
北島「株式会社キャンプハイヤー?あぁ、最近人気があるキャンプ用品の会社だねぇ」
枝村「店長さん、その会社、コイツが盗んだ商品を作っている会社ですよ」
北島「えぇ?じゃあ何?君、自分の会社の商品盗んだの?」
藤原「はい……」
北島「何でこんな事したの?」
藤原「今の会社に不満があって……」
北島「一人キャンプに憧れてたんじゃないの?」
藤原「うちの会社、キャンプ、特に一人キャンプの商品に力を入れてるんですが、営業部の社員も、開発部の社員も、誰一人として一人キャンプに行けるだけの休暇を取らせてくれなくて……」
枝村「ブラック企業だったのか」
藤原「はい……」
北島「で、その会社に反抗しつつ、一人キャンプを楽しもうとしていたって訳か」
藤原「……はい……」
北島「あっそー。でも犯罪は犯罪だからね。家族には連絡させてもらうよ」
藤原「はい……」
北島「名前は?」
藤原「藤原正将です……」
北島「藤原正将さんね。枝村さん」
枝村「はい。(スマホを取り出し、舞台下手に退場)」
北島「ってかさ、自分の会社の商品なら試供品で貰えたり、安く買えたり出来ないの?」
藤原「それが出来なかったんですよ……無理矢理、市場価格で買わされるし、それが続いて頭に来たので、あの会社に復讐しようと思って、大量に万引きしようと思いました……」
北島「何で私の店に来たの?」
藤原「単純に家から近いからです。徒歩で十分ですし」
北島「もし捕まったら、とか考えなかったの?」
藤原「考えてませんでした。逃げ切る自信がありました」
北島「どうやって逃げようと?」
藤原「親から貰ったこの脚です」
北島「馬鹿なのかな?捕まったらもうこの店で普通に買い物出来なくなるよ?ここらで他に買い物するとなるとここから車で一時間掛けて別のショッピングモールに行かなきゃいけなくなるよ?」
藤原「あっ……!言われてみれば確かに……!」
北島「それに本当に自分の勤める会社に復讐したいなら万引きじゃあ意味無いよ?」
藤原「へ?」
北島「だって直販じゃなくて卸売りだからここで万引きしてもメーカーは一切ダメージないよ。万引きされたら私の店が危機に瀕するだけ」
藤原「あぁ……!そういえばそうだった……!」
北島「アホなのかな?」
藤原「アホでした……」
北島「(お茶を淹れる)それだけ疲弊し切ってたって事か。まぁ、お前も大変だったんだな。お茶でも飲めよ」
藤原「ありがとうございます……(お茶を飲む)あっ……」
北島「気付いたか?コレ、お前の勤めてる会社のお茶なんだよ」
藤原「どうしてコレを……?」
北島「お前が作ったんだろ?ほら、考案者の写真が載ってる(お茶のパッケージを見せる)コレ、お前だろ?」
藤原「……!」
北島「初心に戻って、一からまた頑張れよ。きっと、報われるだろうからさ」
藤原「店長さん……!」
枝村、舞台下手から登場。
枝村「店長さん、話が付きました」
北島「おう。どうでした?」
枝村「今、奥さんが引き取りに来るって言ってました」
北島「そうか。藤原さん、これからは真っ当に生きなよ?」
藤原「……はい!」
北島「今回は厳重注意で終わらせるし、出禁にはしないから、またこのショッピングモールに買い物に来なね?」
藤原「はい!」
暗転。
モニター「数ヶ月後」
明転。
北島、デスクで作業している。
SE、ノックの音。
北島「どうぞー」
枝村「(舞台上手から登場)失礼します」
北島「枝村さん。また万引きですか?」
枝村「はい」
北島「通して下さい」
枝村「はい。おい」
藤原、舞台上手から登場。
北島「藤原さん?え?何で?」
藤原「実はあの後、離婚して子供も妻に引き取られる形になりまして……」
北島「そうか……大変だったな……でも、犯罪は犯罪だから」
藤原「はい……」
北島「盗んだ物出して」
藤原「はい……(あらゆるポケットから商品を出し、バッグからも大量の商品を出す)」
北島「おいおいおい!またかよ!?何でそんなに盗むんだ!?」
藤原「離婚の原因になったこの店に一矢報いんと思って……後、純粋に人の金で一人キャンプしたくて……」
北島「枝村さんも!何でこんなになるまで何も私に連絡しなかったんだ!?」
枝村「だって店を出ないと万引きとして連れてこれませんし……」
北島「お前ら少しは限度ってものを知れ!」
―――終わり
『留学生のバイト』
・登場人物
北島(店長)
ケビン(留学生アルバイター)
・舞台
ラーメン屋
明転。
ラーメン屋。カウンター席に椅子が四つ。テーブル席一つに椅子四つ。舞台上手にレジカウンター。
北島、ケビン、舞台上手から登場。
北島「今のが休憩室と着替え用のロッカーで、ここがフロアになるよ」
ケビン「アー、ハイ。分カリマシタ。店長サン」
北島「分からない事があればメモを必ず取るようにね」
ケビン「ハイ」
北島「何か分からない事や、不安な点はあるかな?」
ケビン「アー、私、日本語詳シクナイデス。接客出来ルカ不安デス」
北島「じゃあまだ開店前だし、ちょっと練習してみよう」
ケビン「トテモ不安デス……」
北島「何、最初は誰でも失敗はあるさ。徐々に慣れていけば良いから」
ケビン「ハイ……」
北島「まぁメモを取りながらで良いから、俺が言った事を復唱してみて」
ケビン「ハイ」
北島「まずお客様がいらっしゃった時は『いらっしゃいませ』。言ってごらん」
ケビン「イ、イラッシャイクダサイマセ」
北島「違う。よく聞いて?いらっしゃいませ」
ケビン「イ、イラッシャイマセ」
北島「そう。次に『何名様ですか?』。はい」
ケビン「ナ、何様デスカ?」
北島「違う違う。そんな無礼な言葉使っちゃ駄目よ。『何名様ですか?』。はい」
ケビン「何名様、デス、カ……?」
北島「そうそう。で、お席に案内するの。『こちらのお席へどうぞ』。はい」
ケビン「コチラデ籍ヲオ入レ下サイ」
北島「違う違う。ラーメン屋でプロポーズする人そうそういないよ。『こちらのお席をどうぞ』。はい」
ケビン「コ、チラ、ノオ席ヘ、ドウゾ……」
北島「そうそう。で、お客様が注文されるまで時間があるから、『ご注文がお決まりになりましたら、お呼び下さい』って言うんだよ。はい」
ケビン「ゴ、ゴ注文ガオ決マリニナリマシタラ、汚シテ下サイ」
北島「何を汚すの?『ご注文がお決まりになりましたら、お呼び下さい』ね。はい」
ケビン「ゴ、ゴ注文ガオ決マリニナリマシタラ、オ呼ビ下サイ……」
北島「そうそう。で、注文を受けたら、復唱するの」
ケビン「分カリマシタ」
北島「後、注文取った後、この店で使う専門用語があるんだけど、それがこれね(懐から一枚の紙をケビンに渡す)」
ケビン「何デスカ?コレ?」
北島「ここではラーメンの硬さや油の量、味の濃さを選べるんだ。名前が長かったり、追加トッピングがあったりすると更に長くなったりするから、厨房に言う時はこの専門用語、まぁ略称に近いね」
ケビン「オー……コレ全部覚エルンデスカ……?」
北島「まぁそうだね。でもいきなりは無理だろうから、それ見ながらで良いから、徐々に覚えていって」
ケビン「オー……ハァイ……」
北島「で、ご注文を聞いた後は、『畏まりました』ね」
ケビン「畏マリマシタ……」
北島「そう。何か質問はある?」
ケビン「私、ココデヤッテイケルデショウカ……?」
北島「そんな緊張しなくても良いよ。日本人でも失敗する事あるんだから」
ケビン「ハァ……」
北島「まぁ頑張りな!(ケビンの背を叩く)」
ケビン「ハイ!頑張リマス!」
北島「じゃあまだ開店まで時間あるし、俺で練習してみよう。俺が客ね。ケビン君が店員ね」
ケビン「俺ガ客」
北島「いや、俺が客ね」
ケビン「ア、オ前ガ客」
北島「誰に向かってお前って言ってんだ」
ケビン「ア、私ガ客?」
北島「違う。君が店員」
ケビン「ア、私ガ店員。オ前ガ客」
北島「だから誰に向かってお前って言ってんだ。まぁいいや。俺が店に入ってくるから、対応してみて」
ケビン「ハァイ……」
北島、一旦舞台上手に退場。
SE、扉の開閉音。もう一度開閉音。
北島、舞台上手から登場。
ケビン「イ、イラッシャイクダサイマセ!」
北島「違う」
ケビン「イラッシャイマセ!」
北島「そう」
ケビン「ナ、何様デスカ?」
北島「違う」
ケビン「ナ、何名、様、デス、カ?」
北島「そう。一人ね」
ケビン「コ、チラ、ノ、オ席、ニ、ドウ、ゾ!(北島を席に案内する)」
北島「もっとリラックスして(席に座る)」
ケビン「ハイ……」
北島「で?次のセリフは?」
ケビン「アッ!ゴ注文ガオ決マリニナリマシタラ、オ呼ビ下サイ」
北島「そうそう。じゃあ店員さん、良いですか?」
ケビン「ハイ!」
北島「塩ラーメンで」
ケビン「塩ラーメンデスネ!畏マリマシタ!」
北島「まだまだ。まだ聞く事あるでしょ?」
ケビン「アッ!ソウデシタ!麺ノ硬サト味ト油ハドウシマスカ?」
北島「硬め、濃いめ、多めで」
ケビン「スミマセン、モウ一度ユックリ言ッテモライマスカ?」
北島「ちゃんと注文取れるようになるまでは仕方ないな。良いか?もう一回言うぞ?硬め、濃いめ、多め、で」
ケビン「硬メ、濃イメ、多メ、デスネ!畏マリマシタ!」
北島「そうそう」
ケビン、カウンターの方に行く。
ケビン「塩ラーメン、硬メ、濃イメ、多メ、デス!(北島の下へ行く)」
北島「(立ち上がる)まぁ、まだ最初だし、徐々に慣れていけば良いさ。とりあえずは合格」
ケビン「アリガトウゴザイマス!」
北島「さ、もう開店時間だ。お客様がいらっしゃるぞ」
ケビン「エッ!?モウデスカ!?」
北島「腹括れ」
ケビン「腹括レ、トハ何デスカ?」
北島「頑張れって事!」
ケビン「ハイ!アァ!緊張シマス!」
北島「あー、もうほら、外、お客様が待ってるよ。ほれ、接客頼むよ」
ケビン「アー!ハイ!」
北島「俺が後ろで見守っててやるから」
ケビン「宜シクオ願イシマス!」
SE、扉の開閉音。
北島、やや舞台下手寄りで見守る。
ケビン「いらっしゃーせー!何名様ですか?二名様ですね!こちらのお席へどうぞー!(客を席に案内する)二名様ご来店でーす!ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さーい!あ、もうお決まりで?はい、塩ラーメンMAX、ですね!お好みは御座いますか?硬め、濃いめ、少なめ、ですね!そちらの方は?醤油ラーメン、セットに餃子三個ですね!お好みは?柔らかめ、薄め、少なめですね!畏まりました!少々お待ち下さい!(カウンターの方へ行く)四番テーブル、塩MAX硬濃少、醤油柔薄少、餃子三で!」
沈黙。二人で見詰め合う。北島、ツカツカツカ!とケビンに近寄る。
北島「凄いじゃないか!ケビン君!」
ケビン「アー……トテモ緊張シマシタ……チャント接客出来テマシタカ?」
北島「100点だよ!やれば出来るじゃないか!」
ケビン「アー……記憶ガ無イデス……」
北島「そんなに緊張した?スラスラと接客出来てたよ?」
ケビン「本当デスカ?良カッタデス」
北島「この調子で頑張ってね!」
ケビン「ハイ!」
SE、扉の開閉音。
北島「あ、またお客様だよ」
ケビン「ハイ!」
北島、やや舞台下手寄りで見守る。
ケビン「いらっしゃーせー!何名様ですか?一名様ですね!カウンターでも宜しいですか?はい!ではこちらへどうぞー!(席に案内する)一名様ご来店でーす!ご注文がお決まり次第お呼び下さい!あ、もうお決まりで?味噌ラーメン大に、海苔と卵のトッピングですね!お好みはありますか?硬め、濃いめ、多めですね!畏まりました!少々お待ち下さい!(カウンターの奥の方に向かって)カウンター一番、味噌大海苔玉、硬濃多です!(北島と共に舞台中央へ行く)」
北島「凄いじゃないか!接客は完璧だよ!」
ケビン「アリガトウゴザイマス!」
北島「あ、そろそろラーメン出来るよ。運んで」
北島、やや舞台下手寄りで見守る。
ケビン「ハイ!(カウンターの方へ行き、器を三つ受け取り、テーブル席に持って行く)お待たせしました!塩ラーメンMAX、麺硬め、味濃いめ、油少なめ、それと醤油ラーメン、麺柔かめ、味薄め、油少なめに、餃子です!ごゆっくりどうぞ~!(再びカウンターに行き、器を一つ取りに行き、カウンタ―に持って行く)お待たせしました!味噌ラーメン大、麺硬め、味濃いめ、油多め、海苔、味玉トッピングです!ごゆっくりどうぞ~!(北島と共に舞台中央に行く)ド、ドウデシタカ……?」
北島「パーフェクトだよ!こんな初日から即戦力になるなんて思ってもいなかったよ!」
ケビン「アリガトウゴザイマス!」
北島「じゃあ次は会計だな!さっき裏で教えた切りだけど、大丈夫かな?」
ケビン「アー……心配デス……」
北島「また俺が後ろで見ててやるから、安心してやってごらん」
ケビン「ハイ!アリガトウゴザイマス!」
北島「あ、さっきのお二人がお帰りになるよ」
ケビン「オー……ハァイ……(北島と共にレジに向かう)ご利用ありがとうございまーす!塩ラーメンMAX、醤油ラーメン、餃子セットで、お会計、合計で2310円になります!3000円のお預かりで、おつり690円です!こちら、次回から使えるクーポンになります!あざっしたー!(北島と共に舞台中央に向かい、見つめ合う)」
北島「凄いじゃないか!まだちょっとしか教えてないのに完璧だよ!」
ケビン「オー、アリガトウゴザイマス」
北島「実は別の所でバイトしてたとか?」
ケビン「母国デ、カフェデバイトシテマシタ」
北島「あー、だからレジ打ちが出来るのか」
ケビン「ハイ」
ケビン、突然倒れる。
北島「おい!どうした!?」
ケビン「緊張ガ解ケタラ急ニ力ガ……」
北島「急に限界が来たのか!分かった!もう今日は良いから休憩室で休め!」
ケビン「アリガトウゴザイマス……」
暗転。
明転。
北島、テーブルを拭いている。
ケビン、舞台下手から登場。
北島「おう、ケビン君。もう大丈夫なのか?」
ケビン「ハイ。終業時間マデ休マセテモラッテスミマセン……」
北島「まぁ日本に来て間もないんだ。頑張ってる証拠だよ。気にするな」
ケビン「アリガトウゴザイマス……」
北島「今、学生だっけ?」
ケビン「ハイ。大学一年生デス」
北島「何で日本に留学してきたの?」
ケビン「生マレ故郷ニ興味ヲ持チマシテ」
北島「えっ?ケビン君、日本生まれなの?」
ケビン「ソウデスヨ?」
北島「いつからいつまで日本で暮らしてたの?」
ケビン「義務教育ガ終ワルマデ暮ラシテマシタ」
北島「はぁ!?じゃあ日本語分かるんじゃん!ほぼ日本人じゃん!」
ケビン「私、脳ミソガ揮発性メモリーナノデ、コノ七年デ日本語全テ忘レマシタ」
北島「えぇ……それでよく今まで勉強出来てたね……」
ケビン「一生懸命頑張リマシタ」
北島「ちなみに英語は話せるの?」
ケビン「モウ話セマセン」
北島「揮発性が高過ぎる」
―――終わり
『銀行強盗訓練』
・登場人物
西岡(店長)
須藤
村野
近藤
松本
関谷(強盗。最後だけ出てくる)
・舞台
銀行
明転。
銀行。長机が一つ。長机の中には猟銃と黒電話。上にはぬいぐるみ。
村野、須藤、板付き。
須藤「暇だねぇ」
村野「地方の銀行員なんてこんなもんだろ」
須藤「にしてもだよ。何でこんな所で突っ立ってるだけで給料が発生するのかねぇ」
村野「そうだなぁ。あ、そろそろ昼休憩の時間だな」
須藤「あ、本当だ。お腹空いたなー」
村野「この前見付けたラーメン屋が美味かったから、そこ行かね?」
須藤「何系?」
村野「家系」
須藤「良いじゃん。そこ行こう」
村野「店長、誘わね?」
須藤「良いよー」
西岡、サングラス、マスク、帽子を着用。包丁を持って舞台下手から登場。
須藤「あ、お客様だ。いらっしゃいませー」
村野「いらっしゃいませ」
西岡「おい!俺は強盗だ!金を出せ!」
沈黙。
西岡「おい!聞いてんのか!?銀行強盗だぞ!(包丁を突き付ける)」
村野「危ないっすよ(包丁を弾く)」
西岡「うおっ!危ねっ!?何すんだよ!?」
村野「それはこっちの台詞だよ。何ダサい恰好でダサい事してんの?」
西岡「えっ、だ、ダサい?コレ……?」
須藤村野「うん」
村野「どこの誰かは知らないけど、もうこんなダサい事せずに真っ当に働いて金を稼ぎな」
西岡「ふざけんな!ぶっ刺してやる!」
村野「だから危ないっすよ(再び包丁を手で払う)」
西岡「うおっ!?だから危ねぇって!もういいから金を出せ!」
村野「(長机から猟銃を取り出して西岡に向ける)」
西岡「ひぇっ……」
SE、チャイム。
須藤「あ、昼休憩の時間だよ。行こうか」
村野「あぁ、そうだな(須藤と一緒に舞台上手に退場しようとする)」
西岡「おい!待て!まだ話は終わってな……!」
村野「(西岡をビンタし、舌打ちし、須藤と一緒に舞台上手に退場)」
西岡「(サングラスとマスクと帽子を取り、上着を脱いで鞄に入れる)……今日、銀行強盗の訓練って言ってなかった筈なんだけどな……何であんなに冷静に対処出来たんだ?」
須藤、村野、舞台上手から登場。
須藤「あ、店長?やっと見付けた」
西岡「あぁ、二人共……」
村野「何してんすか?店長室にもいないし探しましたよ?」
西岡「え?あぁ、うん。ちょっと自分の口座の確認をね」
村野「そうですか。あ、俺達これからラーメン喰いに行くんですけど、一緒に行きません?」
西岡「あぁ。うん。良いよ」
暗転。
明転。
銀行。
近藤、板付き。西岡、舞台下手から上着を着ている状態で登場。
西岡「よーし、今度こそ……(マスクとサングラス、帽子を身に付ける。その後、包丁を取り出して受付の方へ行こうとする)」
近藤「(長机から黒電話を取り出して電話をする)もしもし?警察ですか?今銀行強盗が来まして……」
西岡「(慌てて黒電話の受話器を奪い、電話を切る)早いんだよね、ちょっと!?」
近藤「何ですか?」
西岡「何ですかって何ですか!?何でいきなり警察に電話したんだよ!?」
近藤「さっき先輩達から昼前にダサい恰好をした銀行強盗が来たから、もしまた来たら警察に通報しろと言われてまして」
西岡「えぇ……?この格好、そんなにダサい……?」
近藤「はい。じゃあ、電話返してもらっても良いですか?」
西岡「え、あ、はい……」
近藤「で、何しに来たんですか?」
西岡「だから銀行強盗だってば。知ってるんだろ?」
黄道「もうスマホでいつでも通報する準備は出来てますけど、それでもします?」
西岡「そんな事したら、この包丁でお前を刺し殺してやる!」
近藤「オラァ!(長机の上にあるぬいぐるみを投げ付ける)」
西岡「うわっ!?何をする!?」
近藤「そっちがその気なら、こっちは刺し違えてでもお前を殺してやる!包丁だけにな!」
西岡「やかましいわ!もう俺、帰る……」
近藤「金、要らないの?」
西岡「ここのセキュリティーがしっかりしてるって分かったからもう良いわ」
近藤「セキュリティー?何でここのセキュリティーが気になるんですか?」
西岡「いや、こっちの話。じゃあ帰るわ」
近藤「今度はお客様としていらして下さいねー」
西岡「……社員としてくるかもよ」
近藤「え?今何て?」
西岡「いや、こっちの話。じゃあな(舞台下手に退場)」
暗転。
明転。
松本、板付き。
西岡、舞台下手から登場。
西岡「はぁ……もうこれで最後な……(マスクとサングラス、帽子を身に付ける)」
松本「いらっしゃいませー」
西岡「(包丁を出す)」
松本「ヒィッ!な、何ですかぁ!?」
西岡「おい!俺は銀行強盗だ!金を出せ!」
松本「嫌あああああああああああああ!!!殺されるううううううううううううううう!!!」
西岡「よしよし、上手く狼狽えてくれてる。殺されたくなかったら金をこの鞄に詰めろ!」
松本「怖いいいいいいいいいいいいい!!!お願いいいいいいいいいいいいいいいいい!!!殺さないでええええええええええええええええええええ!!!」
西岡「いや、だからこれに金を詰め―――」
松本「神様ああああああああああああ!!!私を助けて下さいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!誰でも良いから助けてええええええええええええええええええええ!!!」
西岡「落ち着いて!落ち着け!な!?」
松本「こんな状況で落ち着いていられるかああああああああああああああああああああああああああ!!!うわあああああああああああああああああああああああああ!!!」
西岡「(サングラスとマスクを取る)ちょっと!本当に落ち着いて!俺の顔を見て!俺だよ、俺!」
沈黙。
松本「知らない人だああああああああああああああああああああああ!!!うわあああああああああああああああああ!!!」
西岡「あー!もう!どうすりゃいいんだ!」
松本「離れてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!怖いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
西岡「分かった分かった!離れるから!落ち着いて!なっ!?(舞台下手に寄る)これだけ離れれば大丈夫だろう!?」
松本「まだ居るううううううううううううううううううううううううううううう!」
西岡「あぁ!もう!どうしたら良いの!(舞台下手側に向かって頭を抱える)」
須藤、村野、近藤、騒ぎを聞き付け、舞台上手から登場。
村野「何?何の騒ぎ?」
須藤「松本さん、大丈夫?」
近藤「ねぇ、あれって……」
須藤村野近藤「あっ!私服がめっちゃダサい銀行強盗!」
西岡「五月蠅ぇ!」
須藤村野近藤「あれ?店長?」
須藤「何してるんすか?そんな格好して?」
西岡「銀行強盗が来た時の対処法がちゃんと出来てるか抜き打ちチェックをしてたんだよ!それよりお前ら、そこに並べぇ!」
一同、並ぶ。
西岡「よーし、じゃあチェックしていこうか!まず須藤君!」
須藤「はい」
西岡「全く関わって来なかったね!空気みたいだった!自分と勤め先の銀行の危機に対して何も感じてないみたいだった!」
須藤「距離はあったからいつでも全速力で走って逃げられるので」
西岡「この銀行はどうなっても良いのか!」
須藤「はい!(食い気味に)」
西岡「判断が早過ぎる!お願いだから少しだけでもこの銀行に愛を注いで!」
須藤「努力します!」
西岡「はい。じゃあ、次、村野君!」
村野「はい」
西岡「猟銃はやり過ぎ!銃刀法違反!」
村野「マタギの免許持ってるんで大丈夫です」
西岡「そういう問題じゃない!普段からそこに置いてたら誰かに悪用されるでしょ!」
村野「指紋認証で開くタイプの箱に入れてるんで、セキュリティーは万全です」
西岡「だからそういう問題じゃない!素直に警察に通報するようにしろって言ってんの!」
村野「はぁい……」
西岡「気を付けるように。じゃ、次、近藤君!」
近藤「はい!俺、ちゃんと電話で通報をしましたよね!?」
西岡「あぁ、した。だけどな、来た瞬間に電話する馬鹿がどこにいるんだよ!」
近藤「未然に防いだって事で良いじゃないですか!」
西岡「確実に証拠を掴んでからやりなさい!」
近藤「ダサい恰好って聞いてたんですからそれで充分でしょう!?」
西岡「ダサい恰好ってだけで判断したら他のお客様にも御迷惑をお掛けしてしまうかもしれないだろ!」
近藤「あんなダサい恰好は他にはいません!」
西岡「いるかもしれないじゃん!」
近藤「じゃあ次は脅されたら通報します!」
西岡「それが普通!最後に松本君!」
松本「は、はい……」
西岡「店長の顔くらい覚えといて!?かなりショックだったんだからね!?」
松本「ご、ごめんなさい……」
西岡「後、君かなり五月蠅い!もう少し落ち着いて物事を対処してくれ!」
松本「は、はいぃ……」
西岡「君達はこれから緊急事態マニュアルを持って会議室に集合!再研修!」
須藤村野近藤松本「はぁい……」
暗転。
明転。
銀行。西岡、須藤、村野、近藤、松本、板付き。
西岡「じゃあこれから俺が犯人役やるから、適切に対処してね」
須藤村野近藤松本「はい!」
西岡「じゃあやるか(一旦舞台下手に退場し、再び登場)。強盗だ!金を出せ!」
須藤、大人しく金をバッグに詰め、渡す。
西岡「あばよ!(舞台下手に退場)」
村野、近藤、カラーボールを大量に持って舞台下手に退場。
須藤「松本さん、電話」
松本「えぇと、振りで良いですよね?」
須藤「えぇ」
松本「もしもし?警察ですか?北島銀行青森県十和田支店ですが、強盗に入られました」
須藤「犯人の特徴は?」
松本「あ、犯人の特徴は私服がダサいです!」
村野「待てゴルァ!(声のみ)」
近藤「このクソ野郎!(声のみ)」
村野「これでも喰らえ!(声のみ)」
近藤「日頃の恨みだ!(声のみ)」
西岡「ちょっ!お前ら!やり過ぎ!うわっぷ!?もう!もう良いだろ!ストップ!ストーップ!痛ってぇよ!止めろ!もう良いだろ!何でそんな恨みを込めた投げ方を!?痛い痛い痛い!(声のみ)」
西岡、カラーボールで汚れた状態で舞台下手から登場。村野、近藤、続いて登場。
西岡「松本君、電話は?」
松本「はい!多分大丈夫です!」
須藤「犯人の特徴を言い忘れてたので指摘しました」
西岡「おぉ、そうか。で、何て言ったの?」
松本「私服がダサいって言いました!」
西岡「ねぇ!もー!皆さぁ、俺の服ってそんなにダサい!?」
須藤村野近藤松本「はい!」
西岡「あぁそうかよ!分かったよ!もう良いよこの話は!でさぁ、この状況は何?」
村野近藤「カラーボールです」
西岡「あのエイム力何?百発百中で当てに来たじゃん」
村野「すみません。つい感情の昂りが」
近藤「右に同じく」
西岡「目に入りそうになった時はマジで失明を覚悟したぞ」
村野近藤「すみません」
西岡「もっと加減を知れ!二十七発当たったんだぞ!」
村野「二十九発ですよ」
西岡「大して変わらんわ!あとデリカシーが無い事はなるべくオブラートに包んで話せ!」
須藤村野近藤松本「これでもオブラートに包んで言ってるんですけど……」
西岡「じゃあさっきの服は実際どう思ってたの?」
須藤「ゴミ」
村野「カス」
近藤「クソ」
松本「クズ」
西岡「聞かなきゃ良かった!」
須藤「ね?ちゃんとオブラートに包んでいたでしょう?」
西岡「包み方が下手過ぎて零れてる!皆再研修!」
須藤村野近藤松本「嫌です!」
西岡「『嫌です!』じゃない!これ以上誰かを心身共に傷付けない社会人になりなさい!」
須藤村野近藤松本「嫌です!」
西岡「だから『嫌です!』じゃない!少しは愛社精神ってものが無いのか!」
須藤村野近藤松本「はい!」
西岡「ショック!じゃあ何の為に働いているの!?」
須藤村野近藤松本「金の為です!」
西岡「正直!でも嫌いじゃない!大切だもんね!お金!」
須藤村野近藤松本「はい!」
須藤「出来る事なら何もしないでお金が欲しいです!」
村野「宝くじでも当たらないかなと日々思っております!」
近藤「空からお金が降って来ないかなと出勤中いつも考えています!」
松本「競馬とか競輪とかで一発何か当たらないかなと来週のレースに賭けております!」
西岡「夢があるけど現実的じゃない!そこら辺含めて精神を鍛え直す!再研修!」
須藤村野近藤松本「嫌です!」
西岡「その団結力は認める!でも駄目なものは駄目!」
須藤村野近藤松本「え~……」
西岡「『え~……』じゃない!やるの!」
須藤村野近藤松本「はぁ~い……」
暗転。
明転。
須藤、村野、近藤、松本、板付き。皆、猟銃を持っている。
西岡、舞台下手から登場。
西岡「強盗だ!金を出せ!」
須藤村野近藤松本「(猟銃を西岡に付き付ける)」
西岡「(伏せる)……はい、これで終了!」
須藤村野近藤松本「お疲れ様でした~」
西岡「何て言うかね、その、もうこれが我が店舗の味って事で良いんじゃないかなって思えてきた」
須藤「集客率も上がるんじゃないですかね?」
西岡「そもそも人口が少ない所だから集客は微妙かもだけどね」
関谷、舞台上手から銃とバッグを持って登場。銃で天井を撃つ。
SE、銃撃音。
関谷「強盗だ!皆伏せろ!今のは挨拶代わりの発砲だ!逆らったら殺す!」
村野「店長、これも訓練ですか?」
西岡「いいや!本物だ!」
村野「そうですか……(猟銃を天井に向けて撃つ)今のは挨拶代わりの一発だ。大人しく警察に捕まらなければ、命の保証は無い」
関谷「んだとテメェ!」
須藤、村野、近藤、松本、猟銃を持って関谷を取り囲む。
関谷「へっ!そんなおもちゃでこの俺を騙せるとでも……!」
村野「(猟銃で関谷の足を撃つ)」
関谷「イッテェ!マジの銃!?」
須藤「ここにいる四人は全員マタギの免許を持ってる」
近藤「この距離ならお前の体に風穴を空ける事なんか容易いぞ」
松本「大人しくお縄に付け!」
関谷「うぅ……クソッ……!」
暗転。
明転。
SE、サイレンの音。フェードインからのフェードアウト。
西岡須藤村野近藤松本「(舞台下手を眺めている)」
村野「俺達の撃退法、どうでした?」
西岡「銃で撃つのはやりすぎ」
須藤村野近藤松本「ですよね」
村野「でも流れとしては?」
西岡「合格」
須藤村野近藤松本「ですよね」
―――終わり




