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コント集  作者: 河野吉田
PR
11/37

コント集11




コント集11 



101・・・・情報屋

102・・・・ナイフ

103・・・・風俗

104・・・・励まし

105・・・・金持ちとカツアゲ

106・・・・自己分析

107・・・・失恋と恋心

108・・・・血の繋がりの無い親子

109・・・・マジック

110・・・・手術費



『情報屋』



・登場人物


 北島(警部)

 藤原(刑事)

 枝村(情報屋)

 西岡(情報屋の仲介人)

 高橋(最後の方だけ登場する情報屋の見習い)

 山田(最後だけ登場する情報屋の見習い)


・舞台


 路地裏

 情報屋のねぐら

 取調室






 明転。


 舞台前方は路地裏。舞台後方は情報屋のねぐら。机一つに椅子が一つ。

 西岡、舞台上手でサングラスを掛け、腕を組んで立っている。北島、藤原、舞台下手から登場。


北島「本当にソイツは確かな情報を持っているんだろうな?藤原?」

藤原「勿論ですよ。北島警部。奴にはいつも助けられてますから。あっ、居た居た。アイツですよ。よう、西岡」

西岡「あ、藤原さ~ん!何すか?また何か事件すか?」

藤原「五月蠅ぇよ。でもまた世話んなるぜ。ちょっと情報が知りてぇんだ」

西岡「どんな事件すか?」

藤原「昨夜この付近のマンションで女性一人が殺害され、男性一人が行方不明になってな。まず被害者の事を知りてぇんだ」

西岡「なぁるほどぉ。どんな人っすか?」

藤原「(二枚の写真を取り出す)小川美幸と菅原裕次と言うんだが」

西岡「あぁ、その二人なら知ってますよ。たまにウチの店で買い物していってますからね。分っかりました。じゃあいつものように情報屋に取り次ぎますね(舞台上手に退場)」

藤原「さ、行きますよ(舞台上手に退場しようとする)」

北島「何だ。アイツが情報屋じゃないのか?」

藤原「アイツは間を取り次ぐ、まぁ仲介人です」

北島「胡散臭ぇ……(藤原と共に舞台上手に退場しようとする)」

西岡「(舞台上手から登場)」

北島「うおっ」

西岡「あの人は何でも知ってる情報屋です。情報は確かですよぉ?(舞台上手に退場)」

北島「本当かよ……(藤原と共に舞台上手に退場)」


 暗転。


 明転。


 情報屋のねぐら。枝村、席に着いている。

 SE、ノックの音。


枝村「誰だ……」

西岡「西岡です。それと、警察官が二人」

枝村「入れ……」


 北島、藤原、西岡、舞台上手から登場。


枝村「何の用だ……」

藤原「昨夜、この付近のマンションで女性が一人殺され、男性が一人行方不明になってな。この写真の女性と男性に見覚えは無いか?小川美幸と菅原裕次と言うんだが」

枝村「……知らねぇなぁ……」

藤原「よく見てくれ。この二人だ」

枝村「さぁ……」

藤原「頼む。お前しか頼れないんだ」

枝村「何度聞かれても知らねぇもんは知らねぇよ……」

北島「おい、藤原。本当にコイツら信用出来るのか?」

藤原「ここの情報は確かです。何か思い出してくれれば一発です」

西岡「枝村さん、この女は前に銀座のキャバクラでホステスとして働いてた奴ですよ。ねぇ?」

藤原「本当か!西岡!?枝村!?」

枝村「さぁてね……」

西岡「確か歌舞伎町のホストに貢ぐ為に闇金に借金したんですよ。ねぇ、枝村さん」

枝村「さぁねぇ……」

西岡「借金が返せなくなって、でもそのホストには貢ぎたくてキャバクラで働くようになったんですよ」

枝村「そうだったかねぇ……」

西岡「でも結局、金が足りなくてソープに落ちたんですよね」

枝村「そうだったかもしれんねぇ……」

西岡「後この写真の男がそのホストで、コイツも闇金から借金してたんですよね」

枝村「そうかもしれないねぇ……」

西岡「で、二人共借金まみれになって、闇バイトで生計を立てるようになったんですよ」

枝村「だったけねぇ……」

西岡「そして闇バイト仲間からも騙されて更に別の闇金から借金して、よく言い合いをしてたみたいですよ」

枝村「かもねぇ……」

西岡「ある日、いつもの言い合いがあった夜、突如女の声が消えたらしいんです。で、その後、菅原らしき男がマンションから出て逃げたんですよ」

枝村「みたいだねぇ……」

西岡「そしたら闇金のヤクザさんに捕まって、確か品川ナンバー400、『あ』の点点々0だったかな。連れ去られたんですよね」

枝村「そうみたいだねぇ……」

西岡「それから男は行方不明扱いだけど、多分東京湾に沈められただろうね。その車ごと消えてるから。ですよね?枝村さん?」

枝村「なのかなぁ……」

西岡「サッスガ枝村さんだぜ!何でもよく知ってるなぁ!」

藤原「成程、そうか。ありがとう。流石情報屋だ。何でも知ってる」

西岡「そりゃあそうさ。枝村さんは何でも知ってる情報屋だからな。俺もこんな風に色々な事を知って刑事さん達の役に立ちたいっすよ~」

藤原「じゃあな。事件が解決したらまた来るよ(北島と共に舞台上手側に寄る)かなり良い情報が得られましたね、北島警部」

北島「あれさぁ、あの枝村だっけ?本当に情報屋?」

藤原「何でそんな事聞くんですか?」

北島「だってさっきの情報、仲介人が全部話してたじゃん」

藤原「そうでしたっけ?」

北島「そうだよ。全部仲介人のアイツが喋ってたよ。事細かく」

藤原「枝村も喋ってませんでした?」

北島「喋ってたけど、『どうだかねぇ……』とか『そうだったかねぇ……』とか全く会話にすらなってなかったぞ。それに最後の方は『みたいだねぇ……』とか『なのかなぁ……』とか完全に分からないって言い方してたぞ」

藤原「気のせいですよ~。事実、否定はしなかったじゃないですか~」

北島「そらそうだけども……」

藤原「さ、捜査に戻りましょう(北島と共に舞台上手へ退場)」


 暗転。


 明転。


 情報屋のねぐら。

 枝村、板付き。

 SE、ノックの音。


枝村「誰だ……」

西岡「西岡です。それとこの前の警察官二人」

枝村「入れ……」


 北島、藤原、西岡、舞台上手から登場。


西岡「失礼します」

藤原「よう、情報屋。この前は世話になったな」

枝村「何、どうって事無いよ……」

北島「本当にどうって事無かったな」

枝村「照れるぜ……」

北島「褒めてない」

西岡「警部さんと刑事さんの二人がここに来たって事は、事件、解決したんスよね?」

藤原「あぁ。枝村のおかげだ。助かった」

枝村「あぁ……」

北島「殆ど西岡のおかげだけどな」

西岡「俺は何もしてないッスよ?」

北島「本人に自覚無いんだよなぁ……」

藤原「これ、少ないが受け取ってくれ(懐から封筒を取り出し、枝村の机に置く)」

枝村「あぁ……いつもご苦労さん……」

藤原「いやいや。そっちもいつもご苦労さん」

西岡「あのー……俺にはー……?」

藤原「バーカ。仲介人のお前には出さねーよ」

西岡「ですよねー」

北島「西岡、だっけか。ちょっと……(西岡を少し離れた所に連れて行き、封筒を渡す)これ、少ないけど取っといてくれ」

西岡「えぇ!?良いんですかぁ!?」

北島「声がデケェよ。内緒だぞ」

西岡「あざーす!」

藤原「結果報告ついでにもう一つ。(一枚の写真を取り出す)この女性の事を知らないか?儀間愛真さんと言うんだが」

西岡「事件っスか?」

藤原「あぁ。先週の木曜から行方が分からなくなってる。枝村、何か知らないか?」

枝村「さぁねぇ……」

西岡「あぁ、この人、ウチの裏でやってる喫茶店をよく利用してた人っすよね?ねぇ、枝村さん?」

枝村「どうだかねぇ……」

北島「おい、藤原。一旦止めよう」

藤原「え?何でですか?」

北島「西岡、詳しい話は署で聞こう」

西岡「えっ?な、何で俺が……?」

北島「お前の方が詳しい話を聞けそうだからな」

西岡「俺はあくまで仲介人ですよ?俺は何も知らないッス」

北島「良いから。行くぞ」

西岡「は、はぁ……」

藤原「北島さん、何を考えてるんですか?」

北島「そりゃこの人に情報を提供してもらうんだよ」

藤原「コイツで良いんですか?大した情報得られないと思いますよ?」

北島「良いから署までコイツを連れて行くぞ」

藤原「は、はぁ……」


 北島、藤原、西岡、舞台上手に退場。


 暗転。


 明転。


 取調室。テーブル一つに椅子二つ。

 北島、西岡、席に着いている。藤原、北島の後ろに立っている。


北島「これから情報を提供してもらう。時間を貰うぞ?」

西岡「は、はぁ……まぁ良いですけど、俺、枝村さん程、情報、持ってませんよ?」

北島「お前の知ってる範囲で良い。教えてくれ」

西岡「分かりました……えーっと、儀間愛真さん。三十七歳、弁護士。今から十年前に独立して事務所を建てて、様々な裁判を担当してきました。かなりの腕利きで、何人もの被告人を無罪にしてきました。しかし今から三年程前、テレビでも報道された連続殺人事件を担当して案の定、無罪にしました。すると遺族から非難の嵐を受け、度々嫌がらせを受けてきました。被害者の会が設けられる程でしたからね。そして先週の木曜日にいつものモーニングルーティンであの喫茶店で朝食を摂って事務所へ行こうとすると、あの犯人の被害者遺族から襲撃を受けて車に乗せられて隣町の廃工場に連れてかれたんすよ。あ、被害者の会のメンバーの名前はこのメモに書かれてます。詳しく聞きたいならいつもの枝村さんの所に行けばメンバーの写真と家族から毛の本数まで数えられてるくらい事細かに資料として纏めてありますよ。車は横浜ナンバー121、『あ』の点点々1だった筈です。これくらいしか分からないですよ?」


 沈黙。


藤原「……ね?言ったでしょ?北島さん。こいつじゃあ情報はこれくらいしか持ってないんですよ」

北島「いやいやいや!十分過ぎるって!やっぱりお前が情報屋だろ!」

西岡「違いますよ~……俺はあくまで仲介人です~……」

北島「自信を持て!お前が何故そこまで情報を持っているのかは敢えて聞かないが、お前は優秀な情報屋だよ!」

西岡「そ、そうかなぁ……?」

北島「そうだとも!藤原!今の情報ですぐに捜査だ!」

藤原「はい!」


 暗転。


 明転。


 情報屋のねぐら。

 枝村、舞台上手に、西岡、席に板付き。

 SE、ノックの音。


枝村「どちら様で……」

北島「北島と藤原だ」

西岡「入れろ」

枝村「はっ……どうぞ……」


 北島、藤原、舞台上手から登場。


北島「よう、西岡。すっかり情報屋が板に付いて来たみたいだな」

西岡「北島さんのおかげっスよ。俺、あれから自信付いて、本格的に情報屋やってみたんすよ」

藤原「あの枝村が今じゃあお前の秘書だもんなぁ」

西岡「枝村さんには世話になってた恩がありますからね。俺の右腕にしてるんスよ」

枝村「西岡さんには良くしてもらってます……」

藤原「慈悲深いねぇ」

西岡「借りは返さないと、ですよ。で?例の事件はどうなったんですか?」

北島「あぁ、無事解決したよ。ありがとうな」

西岡「何言ってるんすかぁ。俺と北島さんの仲じゃないっスか」

北島「ハハハ。ありがとよ」

西岡「で、今回も何か事件が?」

北島「あぁ。この男なんだが……(一枚の写真を取り出す)」

西岡「んー……俺には分かりませんねぇ……すみません」

北島「むっ……そうか……」

枝村「あぁ、この男なら知ってますよ。竹内涼でしょう?」

北島「あぁ、そうだが?」

枝村「裏稼業で有名な闇医者でしょう?西岡さん?」

西岡「そうだったかなぁ……」

枝村「裏では有名ですよ。ここ数日見掛けませんでしたけど。ねぇ、西岡さん?」

西岡「だったかねぇ……」

枝村「噂ではヤーさんに攫われたとか。あの、ほら、山田組に」

西岡「そうかもねぇ……」

北島「ちょっと待って?これ、前の西岡と枝村のやり取りじゃない?」

枝村西岡「そうですかね?」

北島「もしかして、この席に座ると記憶が曖昧になっていくの?」

枝村西岡「さぁ……」

北島「思ったんだけど、お前達の立ち場って、コロコロ変わってる?」

枝村西岡「よくお分かりで」

北島「面倒臭ぇ情報屋!」

藤原「でも有益な情報を手に入れられるから感謝しているよ」

枝村「(デスクからファイルを取り出す)コレ、細かい情報なんで、読んでみて下さい」

北島「あぁ、分かった。だが一つ忠告しておこう。その席捨てて二人で仲良く情報屋をやってた方が良いよ」

枝村西岡「ですかねぇ……」

北島「あぁ。じゃあ俺達はこれで(藤原と共に舞台上手に退場)」

西岡「……どうする?」

枝村「やろうか。二人で!」

西岡「あぁ!」


 暗転。


 明転。


 情報屋のねぐら。

 枝村、西岡、板付き。

 SE、ノックの音。


西岡「どうぞー」


 北島、藤原、舞台上手から登場。


北島「よう、情報屋。景気はどうだい?」

西岡「ボチボチっスね。この前の事件はどうなりました?」

藤原「おかげさまで解決したよ」

西岡「そうですか。それは良かった」

枝村「で、また事件ですか……?」

北島「あぁ。今回も頼むよ」

西岡「分かりました。何でも聞いて下さい。なぁ?枝村」

枝村「あぁ……」

北島「何だ?改めて二人仲良く情報屋を始めたのか?」

枝村西岡「えぇ、まぁ」

北島「そうか。じゃあ新しい仕事だ」

枝村西岡「何でも聞いて下さい」

藤原「おぉ、張り切ってるな。じゃあこの男だ(写真を取り出す)」

枝村西岡「……分かりませんねぇ」

藤原「マジか……ここでも駄目じゃあ、もう頼るところが無いですね、北島さん」

北島「一から捜査か……」

高橋「(舞台上手から段ボールを持って登場)チーッス、枝村さん、西岡さん」

西岡「高橋、部屋に入る時はノックしろとあれ程……」

高橋「まぁまぁ良いじゃないっスか。あれ?これ、大島健瑠じゃないっスか?枝村さん?西岡さん?」

枝村西岡「そうだっけねぇ……」

藤原「お前、知ってるのか?」

高橋「俺というか、二人が知ってるんスよ。先日、抗争事件があって、殺されたんですよね?」

藤原「おぉ!そうだ!」

枝村西岡「だったっけねぇ……」

北島「前にも見たなこのパターン。何?ボスはポンコツになるシステムでもあるの?それともこの部屋の空気?何かクスリでもヤッてるの?」

枝村西岡「かもねぇ……」

北島「あ、もう駄目だ。この二人は役に立たない」

高橋「(一旦舞台下手に退場し、ファイルを持ってすぐに登場する)コレにその男の情報載ってるんで、どうぞ」

北島「高橋、と言ったな?お前はこうにだけはなるなよ?」

高橋「こうに、とは?」

北島「この二人みたいにポンコツになるなって事!」

高橋「ポンコツだなんて、そんな事言わないで下さい!この二人は立派な情報屋です!」

北島「嗚呼……確かな情報屋はもうここにはいない……」

藤原「こうして順々にボスが入れ替わってるんですよ」

北島「確かな情報屋って、個人の事じゃなくて店そのもの事言ってたの?」

藤原「えぇ、そうですよ?」

北島「普通そうは言わねぇよ。普通情報屋ってのは個人の事を言うんだよ」

藤原「屋って言ってるんだからお店でしょ?八百屋とか魚屋みたいに。それに、確かな情報は毎回貰えてる訳だし、信用はあるでしょ?」

北島「納得いかない……」

藤原「まぁ後はこのファイルで事件解決って事で」

北島「分かったよ。でもこれからは他にももっと信用出来る所から情報を得よう」


 暗転。


 明転。


 枝村、西岡、高橋、板付き。

 SE、ノックの音。


高橋「誰だ?」

山田「山田です。後いつもの刑事二人です」

高橋「通せ」


 北島、藤原、山田、舞台上手から登場。


北島「本当にコロコロ変わるんだな、情報屋の長ってのは」

高橋「死人が出てないだけマシでしょう?」

北島「まぁな。で、あの二人は秘書か何かとして働いてるのか?」

高橋「そんなようなもんです。で?話は?いつもの情報を貰いに来たんでしょう?」

北島「あぁ。この男なんだが、見覚えあるか?」

高橋「……さぁ?知りませんねぇ……枝村さん、西岡さん、知ってますか?」

枝村西岡「さぁ……」

山田「あぁ、これこの男知ってますよ。確か去年麻薬取締法違反で捕まった黄島薫ですよね?」

枝村西岡高橋「だったかなぁ……」

北島「またこのパターンか!もう疲れる本当!」





―――終わり

『ナイフ』



・登場人物


 北島(不良)

 藤原(不良)

 枝村(不良)



・舞台


 学校の校舎裏






 明転。


 学校の校舎裏。

 北島、藤原、板付き。

 枝村、舞台下手から登場。


枝村「北島さん、藤原さん、西高の奴らから果たし状ッスよ(果たし状を北島に渡す)」

北島「果たし状ぉ?何、何……?明日午後一時に河川敷にて待つ。果たし合いを申し込む。か」

藤原「ヒャッハー!皆殺しにしてやるぜー!(ナイフを取り出して舐める)」

北島「おいおい、藤原、今から殺気立ってどうするんだ」

藤原「だって向こうから喧嘩売ってきたんだぜぇ!?返り討ちにしなきゃ相手に失礼ってもんだろ!(ナイフを舐める)」

枝村「流石藤原さんだぜ!俺も今からワクワクが止まらねぇッスよ!」

藤原「分かってるじゃん!枝村!もう興奮して今夜は眠れねぇかもしれねぇぜ!(ナイフを舐める)」

北島「藤原」

藤原「何だ?北島?」

北島「お前のその癖、何なの?」

藤原「癖って?」

北島「その、ナイフ、ペローってするやつ」

藤原「あぁ、コレ?鉄分摂取」

北島「鉄分摂取!?」

藤原「うん。俺、貧血気味だから鉄分をよく摂らないと倒れちゃうんだよね」

北島「いつも学校の集会とか俺達とサボってたのって、まさか?」

藤原「うん。立ってると貧血で倒れちゃうから適度な運動と休憩を取らないと体調崩しちゃうんだよね」

北島「マジか……じゃあ不良になったのって……?」

藤原「結果論だね」

北島「あ、そう……」

枝村「あ、藤原さん。これ、いつもの(袋を藤原に渡す)」

藤原「あぁ、ありがとう。(袋を受け取り、スーハ―スーハーする)あぁ、気持ち良い~!」

北島「お、おい。それアンパンじゃないのか……?流石にそこまですると体に悪いぜ……?」

枝村「あぁ、大丈夫ですよ。あれ、ウチの猫の毛ですから」

北島「け、毛……?」

枝村「はい」

北島「な、何故……?」

藤原「気持ちが落ち着くんだよ……アニマルセラピーってやつだな」

北島「あ、そう……」

藤原「あ、そろそろ時間だな(懐から粉薬を取り出し、舌の先に乗せて水で飲む)」

北島「おいおい、それは流石に怪し過ぎるって。それはマズいクスリだろう?」

藤原「まぁ、不味いっちゃあ不味いな。苦い」

北島「苦い?クスリってそんなもんなのか?」

枝村「藤原さんは鼻炎持ちだからいつもアレルギー用の薬を定期的に飲まなきゃならないんですよ」

北島「えっ、それって風邪薬的なやつだったの?」

枝村「はい」

北島「その飲み方は一体……?」

藤原「ベロが苦みを感じる所は奥の所だから、前の部分に乗せて飲めば苦みを感じる事無く飲めるんだよね」

北島「あ、そう、なんだ……」

枝村「あ、藤原さん。この前頼まれたやつ、届いたんで持って来ました(懐から薬を取り出して藤原に渡す)」

藤原「サンキュ(薬を受け取り、中身を取り出して水で飲む)」

北島「それは?」

枝村「ナイフだけじゃ鉄分が摂取しきれないからサプリで補ってるんですよ」

藤原「本当は生の鉄を摂取した方が健康的なんだけど、仕方ないよね(ナイフをジュポジュポ舐める)」

北島「お、おい、刃が当たって口の中切れるぞ……?」

藤原「大丈夫大丈夫。刃は削って切れないようにしてあるから」

北島「えっ?じゃあ何の為にナイフ持ち歩いてるの?闘う為じゃないの?」

藤原「いいや?鉄分補給の為。後おまけで相手をビビらす為」

北島「そっちがおまけなのか……しかも実戦で使う訳じゃないんだ……」

枝村「藤原さんが喧嘩する時ナイフ使ってるところ見た事あります?」

北島「言われてみれば確かに無いな。ステゴロだな」

枝村「でしょう?」

藤原「凶器を使ったら危ないからな。さて、明日に向けて今日はもう帰るかぁ」

北島「そうだな」


 暗転。


 明転。


 学校の校舎裏。

 北島、藤原、枝村、舞台下手から登場。


北島「相手の学校の奴ら、呆気なかったな」

藤原「(メリケンサックをペロペロしながら)人数に一瞬ビビったけど、弱かったな」

枝村「俺達が強過ぎただけでしょう」

北島「枝村。そうやって過信してるといつか足をすくわれるぞ」

藤原「(メリケンサックをペロペロしながら)そうだぞ枝村。俺達より強い学校なんて沢山あるんだ」

枝村「はい!すんません!」

藤原「(メリケンサックをペロペロしながら)いついかなる時も油断してはならない。それが不良の鉄則だ」

枝村「はい!あ、ちょっと待ってて下さい」

藤原「(メリケンサックをペロペロしながら)どうした?」

枝村「この前のやつッス!(舞台下手に退場)」

藤原「(メリケンサックをペロペロしながら)おっ、あれかぁ~!サンキューな!」

北島「…………(藤原を見詰める)」

藤原「あ?何か俺の顔に着いてるか?」

北島「いや、そのメリケンサック、どうしたのかなって」

藤原「ネットで買った」

北島「いや、そうじゃなくて、何で舐めてるのかなって」

藤原「鉄分補給」

北島「いつものナイフは?」

藤原「昨日で舐め切った」

北島「はぁ!?そりゃ嘘だろ!?」

藤原「嘘じゃねぇよ。ほら(懐から柄だけになったナイフを取り出す)」

北島「早くね!?飴じゃあないんだから!」

藤原「俺に掛かればこんなもんよ」

北島「何の自慢にもならないけど。でも何で今回はメリケンサックなん?」

藤原「たまには味変しないとね」

北島「あ、味変……?てか今回もそれを武器にして闘わなかったな」

藤原「死んだりしたら少年院に入れられちゃうじゃん」

北島「不良が何言ってんだか」

藤原「人殺しちゃったらお前達とツルめなくなるじゃん」

北島「あぁ、良かった。そこの常識はちゃんとあるんだ」

枝村「(舞台下手から荷物を持って登場)藤原さん、この前頼まれてたやつです(石が入った瓶を取り出して藤原に渡す)」

藤原「サンキューな!(瓶から飴玉のような石を取り出して口に入れる)あぁ~、コレコレ!」

北島「何それ?飴?」

枝村「石です」

北島「い、石……?」

枝村「何で石を食べてんの……?」

藤原「食べてんじゃなくて舐めてんの」

北島「何故……?」

藤原「石には天然のミネラルが含まれてるからな。健康に良いんだ」

枝村「藤原さんは健康志向なんですよ」

北島「これは健康志向なのか……?」

藤原「枝村が選んでくれたこの石、美味いわぁ~」

枝村「アザッス!」

北島「な、なぁ、藤原?その、石って美味いとか不味いとかあるのか……?」

藤原「あるよー。川のはアッサリしてて、海のはショッパイけど芳醇な香りと薄っすら甘みがある。山のは岩塩なんかはショッパイな。後、場所によっては泥臭かったりするけど、爽やかな味がする」

北島「ふぅん……?で、その今舐めてる石はどんな味がするの?」

藤原「うーん……石!って味がする!」

北島「コイツ、うわべしか分かってねぇ!」

藤原「ちょっと語彙力が足りなかったな。ザ・ミネラルって感じだよ!」

北島「言い方変えても変わらんよ!結局、石は石なんだろ!?」

藤原「……はい……見栄張ってました……ぶっちゃけ石は石って味しかしないです……ごめんなさい……」

北島「いや、謝らなくてもいいけど……てか謝られても困る」

枝村「不味かったですか……?」

藤原「あ、いや、美味しいよ!?ただ、石は石だなってだけ!」

枝村「そうでしたか……残念です」

北島「何が?」

枝村「これ、ウチで販売してるお土産のインテリアの小石なんです。普通の石と違って拘りがあったんですが……」

藤原「そうだったのか……すまない……」

枝村「いえ。良いんです。素直な感想が欲しかったですから。俺の家族も喜ぶと思います」

北島「……そうか?使い方間違ってない?」

枝村「石の使い道って他に何があるんですか?」

北島「えっ?あ、いや、分からんけど、なんかスノードームに入れたり、模型に使ったりとかじゃね?」

藤原枝村「その発想は無かった……!」

北島「ポンコツかな?」


 暗転。


 明転。


 学校の校舎裏。

 北島、新聞を読んでいる。

 藤原、枝村、舞台下手から登場。


藤原「よう北島」

枝村「ハヨザッス!北島先輩!」

北島「おう、はよう。藤原、枝村」

藤原「何新聞なんか読んでんだ?」

北島「いやね、駅でコレ見付けてつい買っちゃってな(新聞を渡す)」

藤原「何々?あっ、コレこの間枝村ん家の店でやった宝石関係の編集者の取材な!この間写真撮ったんだよな!」

枝村「そうッスね!本当に載るとは……!」

北島藤原枝村「『舐める宝石 ジュエリーショップ・エダムラ』ね!」

枝村「藤原先輩のおかげでこれから売れていくかもしれないんで、高校卒業したら専属モデルとして来てほしいッス!」

藤原「マジで?良いの?」

北島「仕事先見付かって良かったな」

枝村「俺も高校卒業したら実家の宝石店に勤めるんで将来安定ッス!」

北島「後は俺だけか~……何か二人共、遠くに行っちゃったなぁ……」

藤原「何言ってんだよ!俺達ぁずっとダチだろ!」

枝村「そうッスよ!」

北島「藤原……!枝村……!」

枝村「北島先輩もウチの石を舐めればずっと一緒ッスよ!」

北島「あ、それはいいや」













―――終わり

『風俗』


・登場人物


 北島(客)

 小川(教師)

 枝村(北島の同僚。最後だけ出る)



・舞台


 風俗が学べる教室・店(略して風俗店)

 道端。



・衣装


 北島・・・最初はパンツ一丁。後に学生服(夏服)。

 小川・・・いかにも女教師っぽい恰好。赤い眼鏡。



・季節


 夏

 明転。


 風俗が学べる教室・店(略して風俗店)。ベッド一つにホワイトボード一つ。ベッドの上の隣に机と椅子。机の上には筆記用具とノート、そして学生服(夏服)。

 小川、板付き。

 北島、パンツ一丁に頭をタオルで拭きながら舞台上手から登場。


小川「北島さん、スッキリしました?」

北島「はい。こういう店、初めてなんで緊張してたら汗が止まらなくて……」

小川「まだ暑中ですからねー。仕方ないですよー」

北島「このパンツと、この替えの服は……?」

小川「そういうお店ですからねー。教師と生徒をお望み、でしょう?」

北島「は、はい……」

小川「じゃあ焦らなくて良いんでゆっくりと着替えて下さい」

北島「はい(着替える)あの、着替え終わりました……この替えのパンツ、どうしたら良いですか?」

小川「差し上げます。この時期はサービスでお客様にあげてるんです」

北島「そ、そうなんですか……」

小川「じゃあ今からタイマーを始めますね。九十分コースで良いんですよね?」

北島「は、はい……あ、あの!」

小川「何ですか?」

北島「こういうお店も初めてなんですが、女性とこういう事するのも初めてなので、その、優しくお願いします……!」

小川「ふぅん……初めてなんですかぁ……じゃあ貴方の初めて、先生が奪ってあ・げ・ま・す」

北島「もう始まってるんですか?」

小川「はい」

北島「(ゴクリ)」

小川「まずは席に着いてくれますか?」

北島「は、はい!(席に着く)」

小川「(ホワイトボードの前に立ち、水性ペンを手に取る)じゃあ大人の授業を始めます。風俗の授業です」

北島「ふ、風俗の授業……!」

小川「あぁん、暑ぅい……(上着を脱ぐ)さて、授業を始めます。風俗の定義、意味は主として次から成ります。ある時代や社会、ある地域や階層に特徴的にみられる、衣食住など日常生活のしきたりや習わし、風習のことです。広く、世相や生活文化の特色をいう場合もありますね。類似語に世俗や習俗、習慣と世俗の事ですね。用例としては『明治時代の風俗』『下町の風俗』等があります」

北島「……ん?」

小川「日常生活上の風俗を絵画にしたものを風俗画と呼びます。特定の階層、特に一般市民の日常の様子を主題としたものが多いですね。西欧においては、ルネサンス期以降、市民社会の発達に伴って一ジャンルを築くようになっていきました。風俗画を残した代表的な画家には……」

北島「ちょ、ちょっと止めて良いですか?」

小川「何ですか?」

北島「コレ、何?」

小川「何って、授業ですけど?」

北島「コレ、いつエロい雰囲気になるの?」

小川「ちょっと!ここはそういうお店じゃないですよ!そういうのはちゃんとしたお店に行って済ませて来て下さい!」

北島「ここはそういうお店じゃないんですか!?」

小川「違いますよ!失礼な!」

北島「だって『風俗 ハイスク~ル』って表の看板には書いてあったじゃないですか!」

小川「だから風俗について学ぶ学校ですよ?高校をイメージした、大人の、風俗を学ぶ学校と言う名の塾です」

北島「ガチの風俗専門授業塾だったの!?」

小川「はい。じゃあ授業を続けますね?風俗画を残した代表的な画家にはピーテル・ブリューゲルやヨハネス・フェルメールなどがいます。日本においてもジャンルとして広まったのは……」

北島「待て待て待て!普通に続けるな!」

小川「何ですか?さっきから水を差して?」

北島「俺はエロい店だと思って来たの!何でシャワーを浴びさせた!?」

小川「暑い日が続いているので講師と生徒の方はシャワーを自由に使って良い事になってるんです」

北島「この着替えは!?」

小川「汗ばんでる服で授業受けたくない生徒の方もいらっしゃるだろうし、何よりここに来るのは大半が成人の方なので、学生気分で事業を受けたいという方が多いので」

北島「このベッドは!?」

小川「仮眠用です。時折三時間コースや五時間コースなんかを所望される生徒の方もいらっしゃるので、その為に仮眠用のベッドを設けました」

北島「何故脱いだ!?」

小川「純粋に暑かったからです」

北島「全てに意味があった!」

小川「もう良いですか?授業続けますよ?」

北島「いいよ。もう帰る」

小川「えっ、でも料金は変わりませんよ?」

北島「良い。帰る」

小川「でもまだ服が乾いてませんよ?」

北島「スーツが?何で?」

小川「夏の間はサービスで服一式をクリーニングしてるんです。乾くまでまだあと一時間は掛りますよ?」

北島「何勝手な事してんの!?」

小川「それが売りでもあるんですけどねぇ……」

北島「はぁ……もういいよ。どちらにせよスーツが乾くまで帰れないんだろ?聞くよ、授業」

小川「そうですか。では続きを……日本においてもジャンルとして広まったのは近世以降です。江戸時代には、市民の風俗を題材にした浮世絵が多数残されています」

北島「へー日本にもそういう風俗が江戸時代からあったのかー」

小川「そうなんです!少しは興味が出ましたか?」

北島「まぁ、ちょっとは」

小川「世相や風俗を社会的な広がりでとらえて描いた小説を風俗小説と呼びます。同様に、庶民の世相や風俗を描いた喜劇を風俗劇といい、ヨーロッパでは十七世紀にフランスのモリエールやイギリスのコングリーブらに始まっています」

北島「ほうほう。そんな歴史があるのか」

小川「雅楽の一種でもあり、くにぶりとも言います。日本の各地、主に東国で流行した歌舞を宮廷用に選集・編曲したものですね。大嘗会などの朝廷の儀式の際に演じられました。舞を風俗舞、歌謡を風俗歌と呼びます」

北島「へー、日本文化って奥が深いんだなぁ」

小川「性的な習慣や嗜好も風俗と言いますね。本来、そのような分野は『性風俗』と呼びます。性的サービスを提供する業種の動向を指して『性風俗』、またその産業、風俗店そのものを指して『性風俗』や『風俗』と称する事があります」

北島「あぁ、俺が本来求めてたやつね。授業が面白くて忘れてたわ」

小川「それは何よりです。元来の『風俗』の意味は、一般市民の日常生活の特色や世相などを表すものです。しかし、現在では単に『風俗』というと『性風俗』を意味することが多く『風営法』や『風俗嬢』という言葉もありますね……(フェードアウト)」


 暗転。


 明転。


北島「先生!終生アントウェルペンで活動し、イタリアに赴いたり古代やルネサンスの美術を熱心に学習することはなかったけど、宗教画、神話画、肖像画など様々な主題の絵を力強く表現し、もっともその才能を発揮したのは、風俗画の分野で、賑やかに飲み食いする老若男女を描いて当時大いにもてはやされた、この画家は誰ですか!?」

小川「それはアントウェルペンがヒントですね。ブリューゲルです」

北島「成程ー!」


 SE、アラームが鳴る。


小川「あっ、もう時間ですね。お疲れ様でしたー」

北島「お疲れ様でした!あの、延長って出来ますか?」

小川「三十分毎に五千円掛かりますが」

北島「じゃあもう九十分延長で!」

小川「承りました。(スマートフォンを取り出して電話する)あ、八番部屋、九十分延長で。はい。では続きをやりましょうか!」

北島「はい!風俗の歴史がこんなに奥深いなんて思いませんでしたよ!もっともっと教えて下さい!」

小川「良いですよー!もう何でも教えちゃうし、何でも答えてあげますよー!」

北島「風俗最高ー!」


 暗転。


 明転。


 道端。


枝村「で?お前の行きつけの風俗店は何処よ?」

北島「あぁ、ここ、ここ。枝村、風俗は良いぞー!?」

枝村「ちょっと、声がデカいって!まだ街中だぞ!」

北島「あぁ、悪い悪い。でもこの店本当良いから!」

枝村「『風俗 ハイスク~ル』か。学校モノ?」

北島「まぁそんなもんだ。とりあえず九十分コースから始めると良い」

枝村「あっそー。九十分いくら?」

北島「一万八千円」

枝村「随分リーズナブルだな」

北島「それが売りなんだよ」

枝村「へー」


 暗転。


 明転。


 道端。


北島枝村「風俗最高ー!」

















―――終わり

『励まし』



・登場人物


 藤原(生徒)

 枝村(先生)

 北島(先生)



・舞台


 高等学校(進学校)の教室



・衣装


 藤原・・・学ランを上までキッチリと止めて着ている

 枝村・・・だらしない恰好で白衣を着ている

 北島・・・スーツのズボンにセーターを着ている





 明転。


 高等学校(進学校)の教室。机一つ椅子一つ、教卓が一つ。

 枝村、藤原、板付き。


藤原、「起立(立つ)。礼(礼をする)。着席(座る)」

枝村「えー、今からこの前やった小テストを返します。呼ばれたら取りに来てー。相沢ー、加藤ー、藤原ー」

藤原「はい(席を立ってテストを受け取りに行く)。んー……ん?48点!?」

枝村「山本ー、渡辺ー、はい全員に配り終えたな。何か間違いがあったら点数書き換えるから来るようにー」

藤原「先生、これ変ですよ!」

枝村「藤原か。あー、それなぁ、俺もなーんか変だなって思って見直したんだよ。そしたらさ、(解答用紙を取り出す)ほら。マークシート、途中から一個ずつズレてるんだよ」

藤原「嘘っ……!?あっ、本当だ……」


 NA、「馬鹿だねー」「マヌケー」等のクスクス笑う声。


枝村「ま、長い人生からしたら小さなミスだ。気にすんな」

藤原「そんな……」

枝村「じゃあ今日は怠いから、俺は保健室で寝てるから後は自習で。この後は昼休みになるから、このまま外行って弁当食ってきても良いから」


 NA、「やったー!」等の歓声の声。


藤原「先生!ちゃんと授業して下さい!」

枝村「勉強だけが学園生活じゃないから。じゃ、そういう事で(舞台上手に退場)」

藤原「先生……」


 暗転。


 SE、チャイムの音。


 明転。


 藤原、俯いている。枝村、HRを進めている。


枝村「えー、連絡事項は以上です。また来週会いましょう。さよならー」


 NA、「あ~、怠ぅ~」「この後どうする~?」等の生徒の声。

 藤原、便箋を取り出し、退学届けを書き始める。


枝村「おっ、藤原はまた勉強か?真面目だなぁ」

藤原「違いますよ……」

枝村「あ?それは便箋?何だ、お前、好きな子でもいるのか?おい。ラブレターなんて古風な事しちゃって~!」

藤原「だからそんなんじゃないですよ……」

枝村「まぁ何でも良いけどさ。たまには遊んで休めよな。じゃ、さいなら」

藤原「はい……(退学届けを書き終え、便箋に入れてそれをボーっと眺める)」


 照明、夕日の明かりに。


NA「間も無く下校時刻です。まだ校内に残っている生徒は、速やかに帰る準備をして下校して下さい」


 枝村、教室に入ってくる。


枝村「うおっ、吃驚した。藤原、何だ、お前まだ残ってたのか?お前、帰宅部だろう?塾はどうした?」

藤原「枝村先生、これ、預かって下さい(退学届けを渡す)」

枝村「退学届け……?お前……」

藤原「失礼します(帰ろうとし、荷物を手に取る)」

枝村「(枝村の腕を掴む)待て、藤原!お前、さっきのテストの事で思い詰めているのか?」

藤原「…………(頷く)」

枝村「そんなに落ち込まくても良いじゃないか。たかが一回のミスだろう?」

藤原「俺からしたら、たった一回のミスも許されないんですよ……」

枝村「どういう事だ?」

藤原「俺が青森から東京の高校に来たのって、実家の農家を継ぎたくないからなんですよ……中学卒業したら農家を継げと言われてたんです。でも大学卒業まで、成績が落ちたりしなければ、職業は何でも良いと両親から言われていたんです。俺は、将来、弁護士になりたいんです」

枝村「それで学校を辞めると決めたのか」

藤原「はい……」

枝村「たった一回の小テストだぞ?これから巻き返せるって」

藤原「簡単に言わないで下さい……」

枝村「何だったら先生から親御さんに連絡しようか?ちょっと勉強疲れが出てしまいましたって」

藤原「だから簡単に言わないで下さい……!」

枝村「後一年で卒業だろ?親御さんも大目に見てくれるって」

藤原「だから簡単に言わないで下さい!」


 沈黙。


藤原「すみません……」

枝村「まぁ、とりあえず座れ」

藤原「(席に着く)」

枝村「(窓の方に行く)……俺なんかなぁ、高校時代、中学の時と比べて、どんだけ勉強しても成績が上がらずにグレちまって、遊びに逃げてたんだよ。結果、大学五つも落ちて、もう終わりかと思ったよ。でも滑り止めの滑り止め、の大学になんとか受かってな。大学時代も何度も失敗を経験したさ。でもなぁ、長い人生の中で見たら、そんな失敗なんてのは凄くちっぽけな事なんだって、この歳になって気付かされたんだ」

藤原「俺は先生みたいに失敗したくないんです」

枝村「そうだな……出来るなら、それが一番良い。だがなぁ、失敗した人間だから言える事もある。(退学届けを藤原の机に返す)諦めない限り、勝負は負けじゃない」

藤原「先生……」

枝村「うん」

藤原「でも、俺は先生みたいに大学を妥協したくないんです」

枝村「……ん?あ、いや、だから滑り止めでも人生なんとかなるもんなんだよ」

藤原「それは結果論でしょう?」

枝村「だから失敗した人間だから言える事があるって言っただろ!」

藤原「何度も挫折したくないんです!」

枝村「強情だなお前!?じゃあ諦めるのか?大学行って、弁護士になりたいんじゃないのか?」

藤原「それは……」

枝村「それに高校を卒業して、仮に実家に戻る事になっても、勉強を続けて大学を目指して、それからでも遅くはないと思うがなぁ」

藤原「先生は農業の経験は?」

枝村「実家は農家だよ」

藤原「なら分かると思いますが、農家は大変です。一度、本業として農家をやったら、勉強なんてやってる暇なんかありません。俺の夢は、もう潰えたんです……」

枝村「言ったろ?諦めなければ、勝負は負けじゃない」

藤原「俺は負けが決まっている勝負になんか出たくないです」

枝村「俺はさっき言った滑り止めの滑り止め、の大学で猛勉強して、この高校教師って職業に就いたんだ」

藤原「その下のランクの大学で、その時になっていきなり勉強したって考えが遅いですよ」

枝村「挫折なんて誰にでもある。お前にとってはそれが今来たってだけだ」

藤原「俺は先生みたいに落ちこぼれの人生を歩みたくないんです!」

枝村「だから、諦めなければ夢はきっと叶うって事を言いたくてだな!」

藤原「とにかく、俺は先生みたいに穴だらけの人生を歩みたくないんです!」

枝村「もう俺の言葉じゃ通じないか!じゃあ北島先生に話を聞いてみたら良い!」

藤原「北島先生?あの凄腕の英語の先生ですよね?大学も超有名な所だし」

枝村「そうだ!北島先生なら、お前の意固地な考えを変えてくれるだろう!」


 北島、舞台上手から登場。


北島「おーい、もう学校締めるぞー。生徒は早く帰れよー……ってあれ?枝村先生?」

枝村「あぁ、北島先生。良い所に。ちょっと話してって下さいよ」

北島「何かあったんですか?」

枝村「北島先生は、学生時代、勉強で挫折した事ありましたか?」

北島「ありますよ、そりゃあ。寧ろ落ちこぼれだったんですから」

藤原「えっ?北島先生が落ちこぼれ……?」

北島「別に普通の小学校、中学校は普通だったけど、受験は頑張ったから高い偏差値の高校に受かったけどな。分不相応の所だったから殆ど勉強なんて追い付けなくて、途中から友人とつるんでゲームの毎日だったなぁ。テストなんて赤点だらけだったよ」

藤原「北島先生みたいに頭も良くて授業の進め方も上手な人でも失敗なんてあるんですね」

北島「あるある。普通にあるよ」

藤原「どうしてそんなだったのに、あの大学まで行けたんですか?」

北島「必死になっただけだよ。高校の時に出会った友人の言葉に救われたんだよ」

藤原「何て言われたんですか?」

北島「諦めない限り、勝負は負けじゃない。ってな」

藤原「えっ……?それって……?」

枝村「改めて言われると恥ずかしいな……北島先生とは高校時代の友人だったんだよ」

北島「お前が居なければ真面目に勉強してたんだろうけど、お前が居たからずっとゲーセンだの家でゲームだのしてたな」

枝村「学園生活は勉強だけじゃないって教えてあげたんじゃないか」

北島「勉強が本分だって改めて実感してるよ、今は」

枝村「そうかい。な?藤原?」

藤原「何ですか?」

枝村「この北島先生ですら失敗と挫折を繰り返してたんだ。お前もあまり落ち込むな」

藤原「俺は先生達みたいに堕落を極めたくないんです!」

枝村「どうしてもこっちの意見は取り入れてくれないんだな!?」

北島「何?何なの?」

枝村「実はコイツ、この前の小テストでミスして低い点数取っちゃったんだよ」

北島「マークシート?」

枝村「そう。それ途中で一個ズレて解答しちゃってたの」

北島「よくある話じゃん」

枝村「だろぉ?で、成績に響くから学校辞めて実家帰って農業継ぐんだって頑なに言っててさぁ」

北島「えぇ!?たったそれだけの事でぇ!?」

藤原「俺にとっては一大事です」

北島「おいおい、藤原、お前は学年トップの成績なんだぞ?これだけで成績が下がる事は無い。あくまで参考になるだけだ」

藤原「参考になるなら下がる可能性もあるでしょう?」

枝村「普段のお前を知ってるから、成績を下げるなんて事しないよ」

藤原「何でですか?」

枝村「点数が低い理由がこっちには分かってるからな。解答を一個前にズラして点数点けてみた結果がコレだ(解答の結果が書いた紙を藤原に渡す)」

藤原「これは……98点!?」

枝村「分かったろ?お前は今回たまたまちょっとしたミスをしただけなんだ」

藤原「2点も落としてる……!?」

枝村「ソコ!?」

藤原「ドコですか!?ドコ落したんですか!?」

枝村「最後の問題の正解は1なんだが、お前は2と書いた」

藤原「うわぁー!もう終わりだぁー!」

枝村「そんな落ち込む!?」

北島「藤原は入学してからテストは小テストも含めて満点しか取らなかったもんな」

枝村「そうなの?」

北島「うん」

藤原「うわぁー!もう大学も行けないー!」

枝村「そこまで絶望しなくても良いじゃん!大丈夫だよ!お前頭良いから!」

藤原「こんな落ちこぼれを拾ってくれる大学なんてどこもある訳無いー!」

枝村「面倒臭ぇコイツー!大丈夫だって!お前はきっと行きたい大学に行けるから!」

藤原「本当ですか……?」

枝村「あぁ。自信を持て!失敗の一つや二つ気にするな!」

藤原「先生……!」


 暗転。


 明転。


 高等学校(進学校)の教室。卒業式後。

 枝村、教室の窓から外を眺めている。


藤原「(舞台上手から登場)枝村先生」

枝村「あぁ、藤原か。どうした?」

藤原「いえ、先生にお礼を言いたくて」

枝村「礼?」

藤原「はい。一回や二回の失敗でへこたれるなって、あの時仰って頂いたから、俺は最後まで頑張れました!ありがとうございました!」

枝村「おう、そうか。あれ?でもお前、大学どこ行ったっけ?」

藤原「落ちました!」

枝村「えっ、あんなに勉強してたのに?何個受けたの?」

藤原「八校受けました!」

枝村「全部落ちたの!?」

藤原「はい!」

枝村「な、何で……?お前程の頭ならどこの大学も受かってたろ……?」

藤原「受験日間違えてました!」

枝村「全部!?共通テストも!?」

藤原「はい!全部です!」

枝村「馬鹿か!」

藤原「成績トップを三年間維持しました!」

枝村「そういう意味じゃない!じゃ、じゃあ実家帰るのか……?」

藤原「いえ、浪人してここ東京に留まります!」

枝村「そうなの?よく親御さん許してくれたね」

藤原「姉が結婚して婿養子に継がせるって事で俺は自由にして良いと言われました!」

枝村「あ、そう……じゃあ、まぁ、良かったの、かな?これから予備校にでも通うのか?」

藤原「はい!お金の援助を親がしてくれるんですが、それでもギリギリなので俺もバイトしながら浪人生活をするつもりです!」

枝村「そうか。弁護士目指して頑張れよ!」

藤原「いえ!俺の将来の夢は変わりました!」

枝村「そうなの?何を目指すの?」

藤原「教師です!俺も、先生みたいな先生になりたいんです!」

枝村「どうしてそうなった?」

藤原「『失敗した人間だから言える事もある』『諦めない限り、勝負は負けじゃない』これをモットーに生徒達に伝え残して生きたいです!」

枝村「それ、色んな時に色んな人達に言ったりするなよ?」

藤原「えっ?何でですか?」

枝村「あんまり言うとダサいから!」

藤原「皆にこの言葉を広めて、勇気を与えていきたいのでバンバン言ってこうと思ってたんですけど!?」

枝村「あれはここぞという時に使うから格好良いのであって、言えば言う程価値が低くなっていくんだよ!うわっ!自分で言ってて恥ずかしくなってきた!」

藤原「そんな事無いです!この言葉を胸に秘めてやって生きます!」

枝村「秘めたままにしといて!」

藤原「ところで先生、浪人経験は?」

枝村「無いよ」

藤原「じゃあ浪人という経験は俺だけが持てるという事になりますね!浪人生活をする生徒を励ませるような先生に俺はなります!そしてこの学校に戻ってきます!」

枝村「浪人生を励ましたいなら予備校とか塾講師の方が良いんでないか?そっちの方が浪人生いっぱいいるだろうし、下手したらここより給料良いぞ?」

藤原「そうなんですか?でも俺はきっとここに帰ってきます!浪人は怖くないよって伝えてあげたいです!」

枝村「浪人を推奨するような学校を目指すんじゃない!現役合格をさせるように目指せ!」

















―――終わり

『金持ちとカツアゲ』


・登場人物


 北島(不良)

 藤原正将(金持ちの坊ちゃん。裏社会の人の跡取り)

 枝村(不良)

 西岡(不良)

 藤原源勝(正将の父。裏社会の人の組長)

 裏社会の人ABC

 不良ABC(最後だけ登場)


・舞台


 学校の校舎裏

 藤原組事務所


・衣装


 北島、枝村、西岡・・・詰襟。

 藤原正将・・・詰襟。その中に半袖シャツにネクタイ

藤原源勝、裏社会の人ABC・・・スーツ

 不良ABC・・・半袖のシャツにネクタイ


 明転。


 学校の校舎裏。

 正将、北島に首根っこを掴まれて舞台下手から登場。枝村、西岡、続いて登場。


正将「いてててて!何ですか!?」

北島「へっへっへっ……なぁ転校生。お前相当なお坊ちゃんらしいなぁ」

正将「まぁ、実家は財閥ですけど……」

北島「へへへ……金、持ってんだろ?」

正将「お金なんて持ってませんよ……」

北島「んな事ぁ無ぇだろ!ちょっと跳んでみろや!」

正将「(跳ぶ。SE、チャリンチャリンと小銭の音)あっ、さっき自動販売機とか言うやつで買った飲み物のお釣り……」

北島「やっぱり持ってるじゃねぇか。おい、財布、出せ」

正将「何でですか?」

北島「俺に少~し金、貸してくれって言ってんだよ!」

正将「あぁ!何だ、そんな事ですか!良いですよ!貸します貸します!」

北島「えっ?」

正将「いくら欲しいんですか?」

北島「えっ、あっ、い、いくら……?い、一万円で良いだろ!」

正将「え~?それだけしか借りないんですか~?何か拍子抜けだなぁ~」

北島「な、何だと?じゃ、じゃあ十万円だ!」

正将「もう一声!」

北島「何ィ!?な、なら百万円だ!」

正将「流石、不良!漢を魅せますねぇ!」

北島「五月蠅ぇ!それよりもあんのか!?百万円!持ってなかったらタダじゃ……」

正将「(バッグから札束でパンパンになった財布を取り出し、札束を北島に渡す)はい」

北島「うおっ!?マジで!?」

正将「じゃあお貸ししますね」

北島「こ、これが百万円……初めて見た……どう使おう……(舞台下手に去ろうとする)」

正将「あ、ちょっと待って下さい!(借用書を取り出す)」

北島「何?」

正将「貸してあげるんで、借用書、書いて下さい!」

北島「しゃ、借用書……?」

正将「個人間でお金の貸し借りをしたときに作成する文書の事です!」

北島「小難しい事言ってるけど、それくらいの大体の意味は分かるわ!ってか書く訳無くない!?」

正将「何でですか!?」

北島「何でですかって何でですか!?こういうのは借りるって体で奪うんだよ!」

正将「だったら最初から『百万円、下さい!』って言えば良いじゃないですか!」

北島「それじゃ何かみっともないじゃん!恰好が付かないじゃん!」

正将「人に金をせびってる時点で大分ダサいですよ!?」

北島「五月蠅ぇ!おい、枝村、西岡、行くぞ」

正将「待って下さい!ちゃんと借用書、書いて行って下さい!」

北島「描く訳無いだろ!行くぞ、枝村、西岡」


 枝村、西岡、北島を捕まえて正将の下へ連れていく。


北島「えっ?えっ?何?」

枝村「悪いな北島。俺達は藤原さんの配下にあるんだ」

北島「は?配下?」

西岡「百万円あげるから藤原さんのボディガードしてくれって契約をしたんだ」

北島「何それ!?俺を裏切るの!?」

枝村「世の中金なんだよ!」

西岡「さぁ、借用書にサインするんだ!」

北島「裏切者ぉー!」

正将「(バッグから一万円を取り出し、西岡のポケットに入れ、地面を指差す)」

西岡「(椅子になり、正将が座る)」

北島「えっ、西岡、何してんの……?」

西岡「椅子だけど?」

正将「椅子だけど?じゃない!お前、プライドってものが無いのか!?」

西岡「男には、プライドを捨ててでも、守るものがある」

北島「それはそこまでするだけの価値があるのか!?」

正将「ん(枝村に一万円を渡す)」

枝村「は(煙草を取り出し、正将、吹かす。その後、一旦舞台上手に退場し、仰々しい団扇を持って来て扇ぐ)」

北島「お前も!?」

枝村「男には、プライドを捨ててでも、守るものがある」

北島「お前は何を犠牲にしたらそうなるんだ!?」

正将「茶番はさておき、書いて下さい」

北島「茶番、言うな!分ぁったよ!書けば良いんだろ!書けば!(正将から借用書を奪う)」

枝村「北島ぁ!このお方を誰だと思ってる!このお方はなぁ……!」

正将「(手で枝村を阻止しつつ)枝村」

枝村「はい……」

北島「何があんのか知らんが、書けば良いんだな?」

正将「ちゃんと内容を読んでからにした方が良いですよ」

北島「こんなもんスマホの契約書みたいなもんだろ!(借用書にサインし、正将に叩き返す)オラ!これで満足か!」

正将「北島さん、ちゃんと内容読みました?」

北島「あぁ?んなもん見てねぇよ」

正将「担保として百万円相当の何かを差し押さえなければならないんですよ」

北島「はぁ?そんな金になるもん持ってねぇよ」

正将「だから借用書はちゃんと読まなきゃなんですよ。ココ、読んでみて下さい?」

北島「……『物品で用意出来ない場合、その体で支払う事とする』ぅ?どういう事?」

正将「要は枝村さんと西岡さんの契約と同じですよ。僕が百万円を北島さんにあげる代わりに、北島さんは僕のボディガードになってもらうという事です」

北島「はぁ!?何それ!?絶対に嫌なんだけど!他の学校の奴らから絶対に馬鹿にされるだろ!」

正将「男には、プライドを捨ててでも、守るものがある」

北島「きっとそれは借金じゃないと思う!」

正将「どうしても納得がいかないと?」

北島「いかない!」

正将「じゃあ僕の家に来てもらいましょう」

北島「はぁ?何で?」

正将「その方が手っ取り早いと思います。ねぇ?枝村さん、西岡さん?」

枝村西岡「はい!」

正将「(立ち上がる)さ、行きましょうか」


 枝村、西岡、北島の腕を掴み、引き摺って舞台下手に去っていく。正将も着いていく。


北島「おい!お前ら何をする!離せ!離せー!」


 暗転。


 明転。


 藤原組事務所。ソファ一つにテーブル一つ、組長用のデスクが一つ、組長用の椅子が一つ。

 正将、ソファに座って煙草を吸っている。北島、枝村、西岡、側で正座。裏社会の人AB、舞台下手にドアボーイのように立っている。裏社会の人C、舞台上手で立っている。


北島「おい、藤原って財閥の坊ちゃんじゃなかったのかよ……!?」

枝村「財閥は財閥だよ。但し、裏の人間でもあるって事だ」

西岡「ここ等、一帯を仕切ってる裏じゃ有名な藤原組だよ。聞いた事あるだろ?」

北島「あの藤原組か……!?」


 源勝、舞台上手から登場。


枝村西岡裏社会の人ABC「お疲れ様です!」

北島「お、お疲れ様です……」

源勝「(席に着く)正将、また新しいお友達か?」

正将「はい、父上。そこの両端の二人は前に紹介した枝村君と西岡君です。今回はそこの真ん中の男子が新しいお友達の北島君です」

源勝「北島君か。私は藤原組組長藤原源勝だ。宜しくね」

北島「は、はい!」

源勝「ウチの息子は体が弱い子だ。だが頭が切れる子だ。どうか守ってやってほしい」

北島「はい!是非とも!守らせて!頂きます!」

源勝「宜しくね。じゃあ三人共、帰って良いよ」

北島枝村西岡「はい!失礼します!(舞台下手に退場)」

源勝「今回の学校はあの三人だけか?」

正将「はい。特に悪い不良はあの三人だけです」

源勝「そうか。じゃあお前はまた転校だな」

正将「はい」

源勝「ふふっ。それにしても考えたな。ウチのシマにいる不良生徒やチンピラを金で買収し、新入生の不良後輩達も管理する」

正将「使える奴はウチで働いてもらって、他は犯罪に手を染めないように管理する」

源勝「我々は必要悪として君臨する、か。我が息子ながら末恐ろしいな」

正将「いつか父上に下剋上を申し入れるかもしれませんよ?」

源勝「いくら頭が良くても、人情を捨てたら誰も着いて来てくれなくなるぞ」

正将「そうですか。気を付けます。では転校手続きをしてきます」


 暗転。


 明転。


 別の学校の校舎裏。

 不良A、椅子になっている。その上に正将。不良B、正将に煙草を渡して火を点ける。不良C、大きい団扇で正将を扇いでいる。


正将「これでこの学校も支配下に置けた、と」

不良ABC「藤原さぁ~ん!」

正将「(財布から一万円札を数枚地面にばら撒く)ほ~れ、拾え拾え」

不良ABC「うぉ~!」

正将「金と頭と暴力は使いようだぁ!はーっはっはっは!」












―――終わり

『自己分析』



・登場人物


 北島

 藤原



・舞台


 北島宅






 明転。


 北島宅。卓袱台一つに座布団二つ。

 北島、藤原、板付き。


北島「で?相談って何よ?」

藤原「結構深刻な悩みでさ……」

北島「それは聞いたよ。で、何?」

藤原「結構、真剣に悩んでてさ……」

北島「だから何だよ?」

藤原「バイト先の女の子なんだけどな……」

北島「おう」

藤原「多分、彼氏とかいないと思うんだけど……」

北島「何で分かんの?」

藤原「いつも『彼氏欲しい』『スパダリ憧れる』って言ってるから」

北島「そう。で?」

藤原「その子がこの前、友達と旅行に行ってきた時のお土産を貰ったんだけど、俺にだけお菓子が一個多かったんだよ」

北島「うん、それで?」

藤原「俺が話し掛けると、いつもニコニコしてたのが、最近では真剣な目付きで聞いてくるようになったし」

北島「うん」

藤原「『私も当たり前の事で褒められたい』って他の女の子と話してたから、休憩時間に二人きりになった時、頭ポンポンして褒めてあげたら俺をジッと見詰めてきて黙って休憩室から出て行ったんだ」

北島「ん?うん」

藤原「『誕生日にはサプライズしてもらいたいな』って言ってたから、彼女の誕生日当日、サプライズで彼女宅まで行って花束を渡したんだ」

北島「何で住所知ってんの?」

藤原「バイト後に後を着けた」

北島「……ん?うん。で?」

藤原「そしたら目をウルウルして部屋に閉じ籠ったんだ」

北島「……うん」

藤原「極め付けに、男のモテる仕草ってやつが雑誌に載ってて、その通りやったんだ」

北島「何やったの?」

藤原「相手の目をジッと見詰めて、ウィンクするってやつ」

北島「あ、そう……で?効果は?」

藤原「そしたらその子、顔を赤くして休憩室に入っていったんだ」

北島「バイト中にやったの?」

藤原「うん。いつも君の事を考えてるよって伝えたくて」

北島「あ、そう……で?」

藤原「ある時を境に、俺が話し掛ける度、顔を赤くするか、そっぽ向くかしかしなくなったんだ。これってさぁ、俺の事さぁ……自惚れかもしれないんだけどさぁ……」

北島「うん、自惚れだと思う」

藤原「だよな……これってさぁ、絶対俺の事、嫌ってるよな……?」

北島「……うん?えっ、もう一回、言って?」

藤原「だからあの子、俺の事、絶対、嫌ってるよな……?」

北島「あっ、合ってたわ。うん、嫌ってると思うよ」

藤原「だよなぁ……絶対、嫌ってるよな……」

北島「ちゃんと自己分析出来てるのに吃驚だよ」

藤原「俺、これからどうしたら良いと思う?」

北島「まぁ、もうその子に構うの止めたら?」

藤原「だよな……だからもう退職届出してきた」

北島「判断が早過ぎる」

藤原「一刻も早くあの子の恐怖心を払う為だよ」

北島「何もそこまでしなくても……」

藤原「あの子の事を思えばこその行動だよ」

北島「まぁ、そう、なるの、かな……?」

藤原「あーあ、あの子、可愛かったのになぁ……」

北島「まぁそのうちまた出会いがあるだろ。気にすんな」

藤原「だと良いんだけどなぁ……」


 暗転。


 明転。


 北島宅。

 北島、藤原、板付き。


北島「新しいバイトには慣れたか?」

藤原「二ヶ月も経つと大分ね」

北島「新しい出会いはあったか?」

藤原「何も俺は女の子と出会いたくてバイトをしてる訳じゃないんだけど?」

北島「えっ?違うの?」

藤原「違うわ。金の為だよ」

北島「そうか。で、実際は?」

藤原「可愛い子、見付けた」

北島「やっぱり女の子目当てじゃないか」

藤原「そりゃ健全男子ですもの。女の子を求めるわいや」

北島「ははは、そうか。で、どうなの?その子とは?」

藤原「その事でまた相談があってさ……」

北島「何々?」

藤原「休憩中に漫画を読んでたら、その漫画がその子も読んでるってやつで、休憩時間中、よく話すようになったんだよ」

北島「うん」

藤原「で、その日を皮切りにその子が俺によく絡んでくるようになったんだよ」

北島「うんうん」

藤原「一緒に食事行きませんか?とかその漫画のコンカフェ行きませんか?とか」

北島「おうおう。実際に行ったの?」

藤原「うん。話も弾んで楽しい一日だったよ」

北島「良かったじゃん」

藤原「それからも何回かデートするようになって、ある日テーマパークに行ったんだよ」

北島「あの最近、有名になった所の?」

藤原「そう」

北島「あそこチケットが毎日、完売でなかなか入れない所だろう?よく行けたな」

藤原「その子が福引で当てたらしいんだよ。で、その日は楽しい一日だったんだけど……」

北島「何?何があった?」

藤原「閉園、間際に、最後に観覧車に乗ったんだよ」

北島「おぉ!ロマンチック!それでそれで?」

藤原「頂上に辿り着く寸前で丁度、花火が上がってな。もうムードも最高潮って感じだったんだよ」

北島「うんうん!それで!?どうなった!?」

藤原「彼女、震えてたから高所恐怖症なのに観覧車乗っちゃったのかな?とか寒いのかな?と思って隣に座って抱き締めてあげた」

北島「分析がいまいち合ってないのに結果が合ってるな」

藤原「で、彼女、そっと目を閉じたんだよ」

北島「おぉ!これは……!?」

藤原「うん。花火が眩しいのかなと思って目を手で塞いであげた」

北島「……ん?」

藤原「で、何事も無く観覧車を降りて、そのまま解散した」

北島「……はぁ?」

藤原「それ以来、彼女、俺の事を避けるようになってきたんだ」

北島「まぁ、うん。そこまでいってそれじゃあな……」

藤原「これってさぁ、絶対あの観覧車の時キスするべきだったよな?」

北島「そうだな」

藤原「これさぁ、俺の考えが間違ってなければの話なんだけど……」

北島「何?」

藤原「あの子、絶対、俺に気が合ったよな?」

北島「……あ、前にもこんな事あった気がする。うん。絶対、脈アリだったと思うよ」

藤原「だよなぁ~!何でもう一歩踏み出せなかったのかなぁ~!」

北島「それ以前の問題だと思うよ。自己分析出来てる割に、結果が伴ってないんだから」

藤原「だってその場じゃ分かんないんだもん。後になって自己分析したら分かるって話なんだもん」

北島「あぁ、そういう……でもその時、直感で感じる事はあっただろう?それに従えば良かったのに」

藤原「前回の女の子に嫌われた事例があるからなかなかその一歩を踏み出せなくてな……」

北島「あー……それは仕方ないなぁ」

藤原「何か気まずいし今のバイト辞めるわ」

北島「待てよ。まだ挽回出来るかもしれないだろ?辞めるのはもうちょっと待ってみろよ」

藤原「もう退職届、提出して来た」

北島「だから判断が早過ぎる。勿体無いなぁ」

藤原「もう辞めちゃったもんは仕方ないだろ」

北島「だけどな?ちゃんと自己分析出来るんだから、後は即時、判断出来るように訓練すれば良いだろ」

藤原「そうかぁ……頑張る」


 暗転。


 明転。


 北島宅。

 北島、藤原、舞台上手から登場。


北島「まぁ上がれよ」

藤原「悪いな」

北島「俺とお前の仲だろ?気にすんな」

藤原「ありがとう(座る)」

北島「ちょっと待っててな(舞台下手に退場。缶ビール二つ持ってやってくる)ビールで良かったよな?」

藤原「何でも良いよ」

北島「そうか(藤原に缶ビールを渡し、自分の分を開ける)」

藤原「(缶ビールを開ける)」

北島「じゃあ、裁判お疲れ、藤原!乾杯!」

藤原「ありがとう!乾杯!」

北島「しかしお前、闇バイトなんかに手を出すなよ」

藤原「やってる最中は気付かなかったんだよ。気付いた時には警察に向かってた」

北島「相変わらず自己分析は出来てんだな」

藤原「相変わらず遅れてやってくるんだがな」

北島「分かってるなら即時、判断出来るように訓練しろ」

藤原「それが出来たら苦労しない」

北島「何で闇バイトなんてやっちゃったの?」

藤原「ネットで割の良いバイトないかなって思って探してたら、あのバイトを見付けてな。農家からトウモロコシとジャガイモを盗むって仕事な」

北島「そこには『盗む』って書いてあったのか?」

藤原「いいや。業者として『受け取る』って書いてあった。『○○会社でーす!』って嘘吐いて。歩合制だったから、要は盗めば盗んだだけ金が入るって話だったんだよ」

北島「実際どれくらい貰ったの?」

藤原「日払いで30万円くらいだったな」

北島「30万っ……!いつ気付いたの?違法だって」

藤原「その時点で気付いたね。これは自首しなきゃって」

北島「まぁ、やっちゃった後にしては、ちゃんと自首してる辺り真面目で誠実か」

藤原「だから俺だけ執行猶予が付いたんだよ」

北島「ふーん。お前さ、もうフリーター辞めたら?」

藤原「そしたらどうやって生活してくんだよ?」

北島「就職しろって事だよ。そっちの方が将来、安泰だろ?」

藤原「どこに就職しろってんだよ?只でさえ前科持ちなのに。どこも拾ってくれねぇよ」

北島「俺の会社に来れば良いだろ」

藤原「お前の会社……?」

北島「お前が拘留中、会社を起ち上げたんだよ。そこのアドバイザーになってほしいんだ」

藤原「こんな俺でも良いのか……?」

北島「お前だから良いんだよ。物事を完璧に客観視出来る、お前に頼みたいんだ」

藤原「ありがとう……!」

北島「これから宜しくな、藤原!」

藤原「あぁ!宜しく!北島!」


 暗転。


 明転。


 北島宅。

 北島、藤原、板付き。


北島「倒産した……!何でだ……!?」

藤原「あの株式会社儀間商事との取引を打ち切ったのが運命の分かれ目だったと思うよ。あそこは大手取引になってくる予感はしてたから」

北島「何でその時に言わなかった!?」

藤原「今になって分かったんだよ。小川商事との取引も、西岡漁業との取引も、枝村農業との取引も全部、失敗だったんだ。実験にされてたんだよ」

北島「その時に言えよ!」

藤原「だから今になって分かったんだって。分析の結果、こうやって報告してるんじゃないか」

北島「遅いって!相変わらず自己分析が遅いな!」

藤原「いいや?自己分析はとっくに出来てるよ?」

北島「へ?」

藤原「今、言ってるのは、お前の会社の分析。自己分析はとっくに終わって転職活動に成功した」

北島「そんな……!?俺を捨てるって言うのか!?」

藤原「捨てないよ?」

北島「へ?」

藤原「お前込みで就職が決まった(就職先の案内状を取り出して北島に渡す)」

北島「コレ……!?」

藤原「勝手な事して悪い」

北島「ありがとう!藤原!やっぱりお前を雇って良かったよ!ここ、最近有名になった米山産業じゃないか!」

藤原「ただコレさぁ……」

北島「何?自己分析したの?」

藤原「自己分析って言うか、まぁ大体そうなんだけど……」

北島「ハッキリしないなぁ。何だよ?」

藤原「あんまり評判の良い会社じゃないんだよね。裏と繋がりがあるって噂があるんだよ」

北島「マジか……でも働けるだけマシじゃないか?」

藤原「なのかなぁ……有名企業ではあるんだけど、先が見えないんだよな……」

北島「その時はその時だ。とりあえず働こう」


 暗転。


 明転。


 北島宅。

 北島、藤原、板付き。


北島「新しく就職した会社が倒産してもう一年か」

藤原「俺の言った通りだったろ?先が見えないって」

北島「その通りだったな。もう暫くは責任を背負って仕事したくない」

藤原「フリーターは楽だぞ」

北島「含蓄のある言葉だな」

藤原「それ程でも」


 暗転。


 明転。


 北島宅。

 北島、藤原、板付き。


北島「バイト先に可愛い女の子いた?」

藤原「いた。デートしてきた」

北島「おぉ、どうだった?」

藤原「三回目のデートの時に少し休みたいっていうから、ホテルに行った」

北島「おぉ、それでそれで?」

藤原「休んだ」

北島「うん。だから休みに行ってどうした?」

藤原「寝た」

北島「おぉ、寝たか。どうだった?」

藤原「目覚めは最高だった」

北島「その前の段階を聞いてるんだよ」

藤原「それがさぁ、今になって考えるとさぁ……あの時、絶対エッチの流れだったんだなって思った」

北島「えぇっ?本当に何もせずに休んだだけなの?」

藤原「うん」

北島「何だよそれー!その女の子に申し訳無いとか思わないのか!?」

藤原「思ってるよ。自己分析して、『あぁ、間違えた……』って後悔してるんだから」

北島「少しは状況判断出来るようになれ!」

藤原「経験値が足りない!」

北島「そんだけ自己分析出来るのに経験値が足りないと申すか!?」

藤原「知識と経験は違うだろ!」

北島「単なる耳年増か!いい加減にしろ!」



















―――終わり

『失恋と恋心』



・登場人物


 北島康介

 藤原正将

 枝村拓

 小川美幸

 儀間愛真

 西岡聖弘



・舞台


 高校の教室






 明転。


 高校の教室。教卓一つに黒板一つ。机が五個に椅子が五個。

 北島、枝村、藤原、儀間、板付き。

 小川、舞台上手から登場。


小川「おはよ……」

北島枝村藤原儀間「おは……!?」

儀間「美幸!どうしたの!?その髪!?」

小川「うん、ちょっとね……」

藤原「失恋でもしたか?」

北島「藤原君。そういう事は女の子に言っちゃ駄目だよ」

儀間「で、どうなの?」

小川「まぁ、正解、かな……」

北島枝村藤原儀間「そっか……」

枝村「ちょっとトイレ行ってくる。まだHRまで時間あるよな?」

北島「あぁ」

藤原「うんこ?」

北島「藤原君。女の子の前で恥をかかせるような事はしちゃ駄目だよ」

儀間「で、どうなの?」

枝村「うんこ(舞台上手に退場)」

北島「合ってるんかい」

儀間「美幸、あの高橋先輩にフラれたの?」

美幸「フラれたっていうか、もう彼女さんが隣に居てね……」

藤原「本当に彼女だったのか?妹さんとかお姉さんとかじゃないのか?」

美幸「高橋先輩は一人っ子だから……それに、キスしてるところ、見ちゃったし……」

北島「あー……」

儀間「それは……」

藤原「ご愁傷様です」

小川「うん……」


 SE、チャイムの音。

 枝村、舞台上手から登場。髪の毛が伸びている。


枝村「危ねっ!まだ先生来てないよな!?」

北島「あぁ、まだ来てない……って……」

北島藤原小川儀間「うわっ!?」

北島「枝村、どうしたんだ、その髪!?」

枝村「まぁ、アレだな。失恋したら髪の毛が短くなる反対だな」

北島「は?」

儀間「もしかして、恋したから髪の毛が伸びたと?」

枝村「うん」

藤原儀間「へー」

北島「おいおい、納得するな」

藤原「もしかして小川さんが失恋したのがキッカケとか?」

小川「えっ……?」

北島「藤原君。男の尊厳を傷つけるような事はしちゃ駄目だよ」

儀間「で、どうなの?」

枝村「……そんなんじゃねぇよ……」

藤原「あれあれ~?枝村、お前、顔が赤いぞ~?」

北島「藤原君」

西岡「皆おはよー。あれ?小川さんイメチェンした?良いじゃんサッパリして」

小川「ありがとうございます、西岡先生」

西岡「で、お前はー……枝村、か……?」

枝村「はい」

西岡「あのー、まぁイメチェンも良いが、ロン毛は風紀を乱すかもしれないって生徒会から苦情が来るかもしれないから注意するように」

枝村「はい」

西岡「じゃあ今日の伝達事項です。まず一つ目。最近、変質者がこの辺にー……」


 暗転。


 SE、チャイムの音。


 明転。


 高校の教室。五人は机を合わせて弁当を広げている。


藤原「やっと待ちに待った昼休みだー!」

北島「お前ずっと寝てただろ」

藤原「まぁ何でも良いじゃん。それよりパパッと喰ってお前のノート写させろよ」

北島「一ページ百円な」

藤原「高っ!じゃあ儀間さん、写させて」

儀間「一ページ五百円ね」

藤原「高っ!ケチな守銭奴共め!もう良いよ!小川さん、写させて~」

小川「良いよ」

北島「小川さん。嫌なら嫌って言った方が良いよ?」

小川「別に良いよ。今は何がどうだって良い気分だし……」

儀間「美幸……」

枝村「小川さん。そんなに高橋先輩が良かったのか?」

小川「えっ……?何で……?」

枝村「俺だったら、小川さんに寂しい思いをさせないぞ」

藤原「ヒュー!やるねぇ枝村!この失恋して落ち込んでるところを狙って付け入るなんて!」

北島「藤原君。そういう戦略はバラさないであげるのが友情だよ」

儀間「で、どうなの?」

小川「いや、無いね」

枝村「え?」

小川「枝村君、全然タイプじゃないから」

枝村「え、あ、そう……あ、俺ちょっとトイレ……」

藤原「うんこ?」

北島「藤原君。食事中に汚い話は止めようね」

儀間「で、どうなの?」

北島「聞かなくて良いよ」

藤原「おしっこ(舞台上手に退場)」

北島「答えなくて良いよ」

儀間「まぁあの高橋先輩はバスケ部のエースだったもんねぇ……マネージャーやってたらあわよくば、とか考えてたでしょ」

小川「中学の頃からずっと見てたからね……正直、もう食事も喉を通らないって感じ……」

藤原「相手は誰なん?」

小川「先輩の幼馴染だって。同学年の女の先輩」

北島「そっかー、幼馴染かぁ……普通、幼馴染との恋愛は成り立たないとか言うけどなぁ」

儀間「今回はたまたま運が悪かっただけだよ」

枝村「そうだよ、気にしなくて良いよ(舞台上手から登場。髪の毛が短くなっている)」

北島「えだむ……!?」

北島藤原小川儀間「うわっ!?」

北島「枝村、どうしたんだ、その髪!?」

枝村「どうって?」

儀間「髪が短くなってる……」

枝村「まぁ、あれだな。失恋したら髪が短くなるってやつだな」

北島「そんなすぐに髪って切れるもんなん?」

枝村「切ってないよ?」

藤原「は?」

枝村「トイレ行ってる間に短くなった」

北島「意味が違うだろ。小川さん。小川さんは自分で切ったか美容院で切ってもらったんだろ?」

小川「いいえ?自然と短くなったわ?」

北島「えぇ……どうなってんの君らの体……」

枝村小川「まぁ、あれだよ。生理現象」

藤原儀間「成程ねぇ」

北島「いやいや、納得すんな。おかしいって。何かの病気じゃないの?」

枝村藤原儀間小川「恋の病ってやつ?」

北島「それは精神的な状態の事を指してるのであって病気じゃない」

枝村藤原儀間小川「精神病の一種じゃない?」

北島「そう言われるとそうかもしれないと一瞬思っちゃったじゃないか」

西岡「(舞台上手から登場)枝村ー?小川ー?いるかー?」

枝村小川「はーい」

西岡「うおっ!?枝村!?髪が短くなってる!?どうした!?」

枝村「失恋しました」

西岡「そ、そうか……誰かに切ってもらったのか?」

枝村「まぁ良いじゃないですか。その話は」

小川「先生、用は何ですか?」

西岡「あぁ、お前ら文化祭実行委員だろ?後で話あるから放課後、残ってくれ」

枝村小川「分かりました」

西岡「んじゃ(舞台上手に退場)」

藤原「……っていうか枝村、小川さんの事好きだったんだねぇ」

枝村「…………」

北島「藤原君。そういう恋愛的な発言は気付いても黙っているのが友情だよ」

儀間「で、どうなの?」

枝村「……好きです」

北島藤原儀間「だろうな」

小川「ごめんね、枝村君。私、貴方の事タイプじゃないの」

枝村「うん。さっきも聞いた」

小川「でも、こんな私の事を好きでいてくれてありがとう。まだ友達だけど、これからは少し、枝村君の事を見ようと思う」

枝村「小川さん……!」

小川「枝村君」

藤原「ヒュー!良い感じじゃないか、枝村!希望は見えたぞ!」

枝村「あぁ……ちょっとトイレ……」

藤原「またかよ。うんこ?」

北島「藤原君。察しなさい」

儀間「で、どうなの?」

北島「聞くなよ」

枝村「おしっこ」

北島「答えるな」

藤原「またおしっこ?お前、頻尿過ぎじゃない?どこか悪いんじゃないか?」

北島「藤原君、だから察しなさい」

儀間「で、どうなの?」

北島「だから聞くなって」

枝村「休憩時間だ(舞台上手に退場)」

藤原「休憩時間って、今、昼休みだぞ?どういう事だ?」

北島「心の整理の時間って事だよ」

藤原「分からん」

北島「いずれ分かるさ」

小川「私もちょっとお手洗いに……」

藤原「小川さんも?うんこ?」

北島「藤原君、女の子にそんな事聞くもんじゃないよ。それにまだお弁当を食べてるでしょ」

儀間「で、どうなの?」

小川「おしっこ(舞台上手に退場)」

北島「だから小川さんも律儀に答えなくて良いよ」

藤原「あの二人、くっつくかな?」

儀間「そうねぇ……まぁ、まだ始まったばかりだし、様子見ってところじゃない?」

北島「俺達は見守るだけだ。例えあの二人がくっつかなくても、俺達の友情は変わらない」

儀間「良い事言うじゃ~ん!」

北島「恥ずかしいからやめてくれ」

藤原「自分から言った癖に」

北島「五月蠅い」


 暗転。


 SE、チャイムの音。


 明転。


 高校の教室。

 北島、藤原、枝村、小川、儀間、席に着いている。枝村、小川、べらぼうに髪が伸びている。西岡、舞台上手から登場。


西岡「帰りのHR始めるぞー……って、うおっ!?枝村、小川、どうしたその髪の毛!?」

北島藤原枝村小川儀間「恋の病です」

西岡「そ、そうか……?まぁ、何だ。風紀の乱れだけは避けてくれよ?」

枝村小川「はい」

西岡「えー、今日は特に連絡事項はありません。また来週。枝村と小川はこの後2のA教室に来るように」

枝村小川「はい」


 各々、帰る準備をする。


北島藤原儀間「じゃあお二人さん、また来週~」

枝村小川「じゃあねー(舞台上手に退場)」

藤原「なぁ、あの二人、大丈夫かな?」

儀間「大丈夫でしょ。これから文化祭もあるし、文化祭マジックでより仲が良くなるでしょ」

北島「別れたら俺達の間でもギスギスしちゃうのかなぁ」

儀間「別れる事を前提で事を話さないでよ!きっと上手くいくって!」

藤原「それに北島も言ってたじゃないか。『俺達の友情は変わらない』って」

北島「……あぁ、そうだな!」

儀間「今は祈りましょ!二人の仲を!」


 暗転。


NA「渋井大学附属高等学校の文化祭は終了しました。生徒の皆さんは速やかに自分のクラスに戻って下さい」


 明転。


 北島、藤原、枝村、小川、儀間、席に着いている。

 枝村、小川、スキンヘッドになっている。


北島「どうしてそうなった?」

儀間「この短期間で何があったの?」

藤原「ソリが合わなかったとか?」

枝村小川「まぁ、性格の不一致ってやつ」

西岡「(舞台上手から登場)皆、文化祭お疲れさ~ん……って、うおっ!?枝村、小川、どうした!?その髪の毛!?」

枝村小川「失恋しました」

西岡「それにしたってお前ら……潔過ぎるだろ……」

枝村小川「まぁ、先生、HRを始めて下さい」

西岡「あ、あぁ。まぁ、お前らがそれで良いなら良いけど……えー、皆、文化祭お疲れさんでした。解体作業は明日行うので、今日はこの後の後夜祭に参加する人は残って、帰りたい人は帰って大丈夫です。じゃ、お疲れさんでした(舞台上手に退場)」

北島「何?お前ら別れたの?」

枝村小川「うん」

儀間「何でまた……」

枝村「言ったろ?性格の不一致だって」

藤原「キスが下手だったとか?」

枝村小川「…………」

北島「藤原君。そういう事はあんまり軽々しく聞くもんじゃないよ」

枝村小川「下手でした」

北島「えっ?」

枝村小川「凄く下手でした」

北島「え、あ、ま、マジで?」

枝村小川「(頷く)」

北島「えぇ……そんだけで……?」

儀間「ま、まぁ、性格の不一致ではないのでは……?キスくらいヤッてくうちに上手くなっていくでしょ」

小川「いや、それが全てを物語ってた。自分勝手なキスだったもの」

枝村「何だって?それは小川さんも同じだろう。身を委ね過ぎ」

小川「あんなの自慰行為と同じだわ。何が『俺だったら、小川さんに寂しい思いをさせないぞ』よ。全然、燃えなかった」

枝村「小川さんこそ酷いじゃないか。身を委ね過ぎて何もしてこなかったじゃないか。俺ばっかりギブしてそっちからのギブは無かったじゃないか」

小川「何よ」

枝村「何だよ」

北島「落ち着けよ、二人共!何だよ、たったそれだけで別れるもんなのか?」

枝村小川「性行為はそれだけで人物を表すものだよ」

北島「まぁ、俺は童貞だからそういうの分からんけど……でも決め付けるの早過ぎないか?」

枝村「もう無理!」

小川「ガッカリ!」

北島「あ、そう……」

NA「間も無く運動場で後夜祭を行います。参加される生徒は運動場に集まって下さい」

北島「あぁ言ってるけど、二人は行く?」

枝村小川「行くよ!」

北島「その勢いで行っちゃうんだ……」

枝村「このムシャクシャした気持ちを晴らしたい!(舞台上手に退場)」

小川「それはこっちの台詞よ!(舞台上手に退場)」

北島「……俺達も行くか」

藤原儀間「……うん」


 暗転。


 SE、チャイムの音。


 明転。


 高校の教室。

 北島、藤原、儀間、板付き。枝村、小川、舞台上手から手を繋いで登場。髪の毛がべらぼうに伸びている。


枝村小川「おはよー」

北島藤原儀間「おは……うえぇ!?」

枝村「どうした?」

北島「どうしたってどうした!?お前らその髪、その手繋ぎ!」

小川「あぁ、ヨリを戻したのよ、私達」

枝村小川「ねー」

北島「あの喧嘩の後で!?」

枝村「うん。時期尚早って事でな」

小川「お互い、もっと時間をかけてゆっくりとお付き合いしましょうって昨夜、後夜祭の後、仲直りしたの」

北島「その……大変じゃないか?そんな急に髪の毛伸びたり消えたりして体力が削られたりとか……」

枝村小川「お互いに努力し合えるようになった!」

北島「あ、そう……」

枝村小川「愛の力だね」

北島「にしてもだよ!」

西岡「(舞台上手から登場)おはよーさん。HR始めるぞー……ってうわっ!?枝村、小川!?どうしたその髪の毛!?」

枝村小川「愛の病です!」









―――終わり

『血のつながりの無い親子』



・登場人物


 北島康介(息子・大学生)

 北島拓海(父親)

 北島美幸(母親)



・舞台


 北島家






 明転。


 北島家。ロングソファ一つにシングルソファ一つにテーブル一つ。

 拓海、板付き。ロングソファで新聞を読んでいる。

 康介、舞台上手から登場。


康介「ただいまー」

拓海「おう、お帰り、康介」

康介「うん」

拓海「康介、ちょっと良いか?」

康介「何?父さん。俺この後、大学のレポート書かなきゃいけないんだけど」

拓海「すぐ済む話だから」

康介「早くしてよ?(シングルソファに座る)」

拓海「康介、今日は誕生日だろう。おめでとう」

康介「あぁ、そうだね。ありがとう」

拓海「それでな、もう二十歳だから、この話をしておこうと思ってな」

康介「何?誕生日プレゼント?」

拓海「いや、違うんだ」

康介「じゃあ何?」

拓海「あのな?お前は、俺達の実の子じゃないんだ」

康介「……は?」

拓海「ほら、レポート書いて来い」

康介「えっ、ちょっ、ちょっと待ってよ!えっ!?俺達、本当の親子じゃないの!?」

拓海「そうだよ?」

康介「何普通に言ってんの!?重大発表だよ!?もっと深刻に話してよ!」

拓海「まぁ些細な事だから父さんと母さんは気にしてないんだけど」

康介「些細な事!?どういう事!?」

美幸「(舞台下手から登場)あら、康介、おかえりなさい」

康介「母さん!俺達って本当の親子じゃないの!?」

美幸「そうよー?お父さん、お茶でも飲む?」

拓海「うん」

康介「待て待て待て!普通に受け流すな!俺達って本当の親子じゃないの!?」

美幸「そうよ?お腹痛めて産んでない、れっきとした他人よ?」

康介「救いは無いのか!?だって血液型とか!俺O型でしょ!?父さんはA型、母さんはB型でしょ!?」

拓海「それが?」

康介「確率は低いけど、O型の俺が生まれてもおかしくないでしょ!?」

拓海「俺はAA型」

美幸「私はBB型」

拓海「どう足掻いても絶対AB型しか生まれないんだよ。だからお前が生まれることはあり得ない」

康介「そげな馬鹿な!?」

拓海「だからお前とは本当は血の繋がりが無い。以上だ」

康介「『以上だ』じゃない!何も問題は解決してない!」

拓海「何が?」

康介「『何が?』って何が!?いきなりこんな事言われて、俺どうすりゃ良いの!?」

美幸「あぁ、居辛いならここ出て一人暮らしする?不動産屋さんやってる友達に近所にどこかアパートとか無いか口きいてあげようか?」

康介「潔過ぎ!」

拓海「この時の為に貯金はしてるし、もうこの家、出てくか?」

康介「『この時の為に』って最初から予測は付いていたって事じゃないか!もっと配慮しても良かったろ!」

拓海「こっちだって色々、考えてたんだよ。いつ言おうか。どう言おうかって」

康介「もっと早いタイミングで聞きたかった!それこそ高校卒業と同時にとか!」

拓海「折角、新たなる旅立ちの門出に水を差すのもなぁと思って」

康介「それは気遣いありがとう!でも先に聞いてたらもうとっくに一人暮らししてたよ!」

拓海「まぁまぁ。もうこの話はお終いだ。レポート書いてきなさい」

康介「レポートなんか書いてる場合じゃないだろ!家族会議だ!家族会議!」

美幸「何よ?改まって」

康介「改まるもクソもあるか!こんな軽い感じのカミングアウト、許される筈無いだろ!」

美幸「(拓海の隣に座る)何?何が不満なの?」

康介「全部だよ!俺達が血が繋がってない家族だった事も、今まで隠してた事も、こんな軽いカミングアウトの仕方も!」

拓海「そんな事言ったら父さんと母さんも血は繋がってないし、皆、血が繋がってないチグハグな家族で良いじゃないか」

美幸「今まで隠してたのも学業に響いたら困るから黙ってただけだし」

康介「確かに今、響いてるよ!このカミングアウト方法は無いでしょ!」

拓海「じゃあ重苦しくやった方が良かったか?気まずいぞ~?」

康介「そりゃ気まずいだろうけど、真面目な話としてやってほしかった!」

美幸「康介!(康介をビンタする)」

康介「母さん……?」

美幸「そりゃ私達は血は繋がってないわよ!でもそれが何なの!?そりゃお父さんの言った通りチグハグな家族よ!でもそれでも私達は家族よ!?それに間違いは無いわ!」

康介「母さん……えっ、何で今ビンタしたの?」

美幸「ビンタでもしないとこの話、早く終わらないかなと思って」

康介「そんな理由でビンタしないで!?」

拓海「さ、レポートを書いてくると良い」

康介「何で父さんはそんなにレポートを勧めてくるの?」

拓海「早くこの話を終わらせたくて」

康介「終わらせねぇよ!?」

美幸「今晩、サバの味噌煮にするけど、レポート何時頃終わりそう?それに合わせるから」

康介「母さんも早く終わらせようとしないで!?まだビンタの件、許してないからね!?」

美幸「康介。いつまでもネチネチと根に持つ男は女の子から嫌われるわよ」

康介「そうさせたのは誰だ!」

拓海「康介。良いから大人しくレポートを書いてきなさい」

康介「こんな心理状態でレポートなんか書けるか!」

拓海「今日の実験のレポートは今日中に書き上げないと進級に関わるだろう?早くやってきなさい」

康介「うぐっ……!わ、分かったよ!レポート書き終わったらちゃんと説明してもらうからな!」

拓海「面倒臭ぇー」

康介「『面倒臭ぇ』って何だよ!」

美幸「面倒臭ぇー!」

康介「だから『面倒臭ぇ』って何だ!とにかくレポート書いたらまた聞きに来るからな!(舞台下手に退場)」

康介「誰に似たんだか……」

美幸「本当の両親にでしょ?」

康介「だな」


 暗転。


 明転。


 北島家。

 康介、拓海、美幸、ソファに座って板付き。


康介「さて、レポートも書いた。夕食も食べた。後は、分かってるな?」

拓海「うん。なぁ、母さん?」

美幸「はい。お父さん」

拓海美幸「康介君、お誕生日、おめでと~!」

康介「ありがと~!ってなるかい!それ夕食時でも聞いたわ!」

拓海「俺からのプレゼントはこれだ!(DNA鑑定書を渡す)」

康介「何コレ?」

拓海「さっき血液型の話になったろ?その続きだよ」

康介「稀に血液型が通常じゃあり得ない子供が生まれる事だってあるだろ?」

拓海「それDNA検査の結果ね。これで俺達の身の潔白は証明される筈だ」

康介「何だよ『身の潔白』って……えーっと、何々……?『北島拓海は北島康介の生物学的な父親ではない。また北島美幸は北島康介の生物学的な母親ではない』ぃ!?マジで!?」

拓海「これで分かったろ?俺達には血の繋がりは無い」

康介「マジかよ……じゃ、じゃあ何で俺はこの家に居るんだ……?」

美幸「私達が結婚して間もない頃、当時住んでたマンションの部屋の前に籠に入れられた康介が居たのよ」

康介「嘘だ!俺は父さんと母さんの子だよ!」

拓海「嘘じゃない。さっきのDNA鑑定書も見ただろう。それに、コレも籠の中に入ってた(手紙を康介に渡す)」

康介「何だよコレ……『この子は私が遊んで作ってしまった子です。名前は裕太と言います。どうかこの子を育てて下さい』?本当だったんだ……!」

拓海「分かってくれたか?」

康介「あぁ、そうですか!俺はこの家の子じゃないんだね!裕太って言うんだね!分かったよ!出てくよこんな家!」

拓海「馬鹿野郎!(康介が喋ってる最中に康介を殴る)」

康介「(床に倒れる)父さん……?」

拓海「お前は確かに康介じゃない!裕太だ!俺達は本当の家族じゃない!でもお前は俺達の子だ!掛け替えの無いたった一人の、自慢の息子だ!」

康介「父さん……!正直何でこのタイミングで殴りに来たのか分からなかったけど……」

拓海「早くこの話終わらせたくて!」

康介「あぁそうかい!でも、俺は、俺は……!」

拓海「後な、康介!もう一つ大事な話があるんだ!」

康介「えっ、まだ何かあるの?何?」

拓海「実は父さんはな、父さんじゃないんだ」

康介「さっきの続き?実の父親じゃない事は分かったよ」

拓海「いや、そうじゃなくてな?父さんは、母さんなんだ」

康介「……は?」

美幸「お母さんは、お父さんなの」

康介「……え?え?えっ?何て?」

拓海「だから、本当は俺が母さんで」

美幸「私がお父さんなの」

康介「……ちょっと理解が追い付かない……どういう事……?」

拓海「見た方が早いかちょっとこっち来い(席を立ってソファの後ろに行く)」

美幸「(拓海に着いていく)」

康介「(二人に着いていく)」

拓海「ほれ(ズボンを脱ぐ)」

美幸「はい(スカートを捲る)」

康介「うわっ!?本当だ!?父さんが母さんで母さんが父さんだった!?」


 三人、ソファに座る。


康介「父さんが母さんで母さんが父さん……」

拓海「理解してくれたか?」

康介「うん……言われてみれば、温泉とか銭湯に行った時、母さんとばかり入ってた記憶がある……」

美幸「男だからね」

康介「何で二人はそんな格好をしてるの?」

拓海美幸「趣味」

康介「そ、そう、なんだ……?」

拓海「俺はボーイッシュに憧れてて」

美幸「私は男のムスメの方の男の娘に憧れてたの」

康介「あ、そう……あ、でもそうするとこのDNA鑑定書って正式には父親と母親逆だから鑑定間違ってるんじゃ……?」

美幸「私からの誕生日プレゼントはコレ(正式なDNA鑑定書を康介に渡す)」

康介「(受け取り、読む)……あ、正しい結果ね。どちらにせよ血の繋がりは無い、と……」

拓海「って事で、これから宜しく」

康介「あっ、ハイ。ちょっと色々頭の中整理したいから、一人暮らしして良い?」

拓海「良いとも。なぁ、父さん?」

美幸「はい、お母さん」

康介「まだ頭がゴチャゴチャしてる……とりあえず今更だけど、キャパシティオーバーだから頭冷やす為にも一人暮らしするわ」


 暗転。


 明転。


 北島家。

 拓海、新聞を読んでいる。美幸、お茶を飲んでいる。


美幸「あれから半年経つけど、あの子、元気かしら……」

拓海「大丈夫だろ」

美幸「そうかしらねぇ……」

康介「ただいまー(舞台上手から登場)」

美幸「あら、康介?どうしたの急に?何の連絡も無しに帰ってくるなんて」

康介「ごめん。近くを寄ったから」

美幸「近く?」

康介「大学は暫くサボってた」

拓海「何っ?サボっただと?」

康介「まぁ、ある事をしてたから」

美幸「何をしてたの?」

康介「本当のお父さんとお母さんを探しに行ってた」

拓海「何だって!?」

美幸「それで!?見付かったの!?」

康介「二人共、今はそれぞれ新しい家庭を築いてるってさ。探偵事務所にも頼んでたから確かな情報だよ」

美幸「そ、そう……」

拓海「で、会ったりしたか?」

康介「いいや。もうそれを聞いた時点で完全に割り切ったよ。もう本当の両親は死んだ事にした。俺にとって、本当の両親は、二人だから……」

拓海美幸「康介……(康介に歩み寄り、ビンタする)」

康介「ぶぇっ!?」

拓海「馬鹿野郎!何で一言、暴言を吐いてやらねぇんだ!?」

美幸「突然食費が一人分増えた上に、知りもしない女に騙されるかのように貴方を育てた私達の気持ちを考えた事があるの!?」

康介「えぇ……!?俺が怒られるの……!?」

拓海「何の為にお前を介護の大学まで行かせたと思ってるんだ!?」

康介「それは……将来、就職する時に有利にする為?」

拓海「違う!将来、俺達の世話をさせる為だ!」

康介「えぇ!?そうなの、母さん!?」

美幸「今まで親身になって育ててきたんだもの!それくらいしてくれても良いでしょう!?」

康介「父さんまで!?俺の将来はどうなるの!?」

拓海美幸「俺達の将来の専属介護士だ!」

康介「この前の『本当の家族』の件はどうした!?」

拓海「本当の家族なら愛でもって最期まで面倒見てくれよ!」

美幸「そうよそうよ!」

康介「最悪の家族だよ!すぐに暴力振るうし!」

拓海美幸「暴力を振るわせるような事をしてるからだろ!」

康介「こりゃ血の繋がりがあっても嫌になるわ!」











―――終わり

『マジック』



・登場人物


 藤原マジシャン

 北島(刑事)

 小川(刑事)

 枝村(藤原の助手)



・舞台


 マジック会場

 取調室






 明転。


 マジック会場。縦に長いマジック用の箱が一つに長い剣が何本かある。

 藤原、枝村、板付き。


藤原「ミスター藤原のスーパーイリュージョンショーにお集まり頂き誠にありがとうございました!いよいよ次で最後のイリュージョンになります!ミスター藤原の名物、串刺しマジックです!(箱を開いて中を見せる)この通り、いたって普通の箱です!(箱を回転させて見せる)では今回この中に入ってくれる助手を紹介しましょう!枝村君です!」

枝村「(舞台上手から登場。手を振る)」

藤原「さぁ枝村君、中に」

枝村「(箱の中に入る)」

藤原「(箱を閉める)さぁ準備は整いました!それではこの剣を一本ずつ刺していきます!合計十本です!果たして彼の運命や如何に!?ではいきます!(剣を一本首の方に刺し、残り九本を適当に刺し、グルリと箱を回す)さぁ、剣を抜いていきますよ~!(剣を全て抜く)さぁ、運命の時です!果たして彼は無事なのか!ボックス、オープン!(扉を開ける)」

枝村「(倒れる。息はしている)」

藤原「……えっ?」


 NA「キャー!」「死んでるー!」等の声。


 暗転。


 明転。


 マジック会場。現場検証されている。

 藤原、枝村、北島、板付き。


北島「で、マジックの途中で刺してる感覚は無かったんですか?」

藤原「はい……何かいつもより抵抗感があるなって感じはあったんですが、誤差かなと思いまして……」

北島「でもマジック用の剣なんて只の鉄の塊でしょう?抵抗感があったらすぐ分かるでしょう?」

藤原「いや、それがですね……」

小川「(舞台下手から登場)北島警部、あの剣ですが、どれも殺傷能力がある程鋭い物でした」

北島「何っ?全て鑑定に回せ」

小川「はい!(舞台上手へ退場)

北島「どういう事ですか?ダミーじゃないんですか?」

藤原「リアルを求めると本物を使う事は多々あります」

北島「成程……」

藤原「あの、警部さん……?」

北島「何ですか?」

藤原「これって、殺人事件になるんでしょうか……?」

北島「今は何とも言えませんが、病院に着くまで息はしていたのでおそらく助かるでしょう。なので傷害事件か事故として処理されるでしょう」

藤原「そうですか……よっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

北島「五月蠅っ!何?何ですか?」

藤原「いえ!何でもありません!ちょっと胸の昂りが出てしまっただけです!」

北島「……貴方、本当に殺そうとしてないんですよね?」

藤原「え?枝村を?そんな事しようとしてませんよ!事故です!事故!」

北島「だったら良いんですけど……」

小川「(舞台上手から登場)北島警部、事故原因が判明しました」

北島「何だ?」

小川「首の右頸動脈の切創による大量出血による気絶でした。後少し遅れて救急車が来なければ亡くなっていたでしょう」

藤原「マジで!?畜生おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

小川「五月蠅っ!何?何ですか?『畜生』って言いました?」

北島「怪しいよな?」

小川「はい」

藤原「何も怪しくはありませんよ!?大事な助手が入院してテンションがおかしくなってるだけです!」

北島小川「本当ですかぁ……?」

藤原「本当です!信じて下さい!俺は何もしていません!」


SE、小川のスマートフォンが鳴る。


小川「はい、もしもし?はい、はい。えっ!?あっ!?そうですか!?分かりました!北島警部、あの箱の構造上、マジックのタネとして脱出するのは不可能だったそうです」

北島「何っ!?藤原さん、どういう事ですか?」

藤原「これは今回初めて使う物でして、事故が起きても仕方ないのかもしれません……」

北島「リハーサルでは問題は無かったんですか?」

藤原「はい。構造上、実は後ろにも扉があって、そこから脱出出来るんですけど、首の所が固定される誤作動もありました。しかし稽古とリハーサルでは問題が無かったんで続行しました」

北島「そうか……じゃあ事故か。傷害罪の線で考えていたが、事故死の方面で考える方が無難か」

小川「ですね」

藤原「あのー、傷害の場合、どれくらいの刑罰になりますかね……?」

北島「あ?あぁ、軽くて三年の懲役刑だな」

小川「三年以下の判決が出たら罰金刑五十万円で済みますね。但し、前科は付きますよ」

藤原「そうですか!よっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

北島小川「だから五月蠅っ!」

藤原「コレは事故ですよね!?ねっ!?」

北島「まぁこればっかりは裁判が始まらないと分からないですね」

藤原「そうですか~……チェッ!どこまでも俺の足を引っ張る男だよ!畜生おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

北島「どういう事ですか?」

藤原「前々からアイツ、ウザかったんですよ!俺の女を寝取るし、マジックのネタは盗むし、財布から金盗むし。死んでくれた方がマジで良かったです!」

北島「死んでくれた方が良かった?それに殺害する理由がある上に、道具の誤作動を認識していたというなら、これは事故じゃなくて傷害になる可能性がありますよ?」

藤原「あっ、しまった……!」

小川「詳しくは署で聞きましょうか」


 暗転。


 明転。


 取調室。テーブル一つに椅子が二つ。テーブルの上にはデスクライト。

藤原、北島、板付き。


北島「もう一度聞くが、お前は殺害の意思は無かったのか?」

藤原「はい……」

北島「本当だな?殺意は無かったんだな?」

藤原「殺意が無かった訳では無かったですが、まさかこんな事になるとは思ってもいませんでした」

北島「殺意を認めたな?じゃあこれは傷害罪だ」

藤原「ちょっと待って下さい!確かに殺意は常に持ってました!でも殺人を実行しようとは思っていませんでした!」

北島「だが少しでも、ちょっとした機会でもあればあわよくば、とか考えてたんじゃないか?事故として片付けられるなら、それに乗っかろうとか」

藤原「それは誰にでもある事でしょう?じゃあ警部さんは人を殺したいと思った事は無いんですか?」

北島「それは……」

藤原「人を殺したいと思う事は犯罪ですか?殺意を持つ事は犯罪ですか?人を憎む事は犯罪ですか?」

北島「…………」

小川「(舞台上手から登場)北島警部。これが枝村さんの住んでるアパートの部屋から出てきました(遺書を渡す)」

北島「どれ……(遺書を受け取る)遺書?(中を読む)……藤原、お前の罪は無くなった」

藤原「どういう事ですか?」

北島「枝村の遺書が見付かった。お前の女を奪った事、マジックのネタを盗んだ事、金を盗んだ事……その謝罪の言葉を書き連ねた遺書が見付かった(遺書を藤原に渡す)」

藤原「(遺書を受け取り、中を読む)……アイツ……!」

北島「贖罪の気持ちが書かれてたよ。自殺を謀ったんだ」

藤原「…………」

北島「お前の事をずっと考えてたんだろうな。色々悪事は働いていたけど、師匠として尊敬してたんだろうな。自責の念に耐え兼ねて、自殺したかったが、お前の手で終わらせてもらいたかったんだろうな……」

藤原「…………っしゃ……」

北島「ん?何だ?」

藤原「よっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

北島小川「だから五月蠅ぇっての!」

北島「何だよ!?」

藤原「これで俺は殺人罪でも傷害罪でも無いですよね!?無罪ですよね!?」

北島「ま、まぁ、そうだな……」

藤原「やっと俺の役に立ったな枝村!良くやったぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!よっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

小川「少しは枝村さんの気持ちも汲んであげて下さいよ……」

藤原「そんなもの知るか!やっとアイツから解放されたんだぞ!これ程嬉しい事は無い!よっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

北島「だから五月蠅ぇ!少しは落ち着け!」

藤原「俺に全てが帰ってきたんだ!これを落ち着いてどうする!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!よっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

北島「もう、もう帰って良いから!」

藤原「お疲れっしたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!(舞台上手に退場)」


 沈黙。


※二人同時に

北島「五月蠅い奴だったな」

小川「五月蠅い奴でしたね」


 SE、ドカーン!という音。


北島小川「何だ!?」

藤原「痛ぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!事故ったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

小川「また別件で取り調べ!?」

北島「もう嫌だ、この騒がしい奴!」






―――終わり

『手術費』



・登場人物


 藤原(医者)

 北島(患者)



・舞台


 病室






 明転。


 病室。ベッドが一つに椅子が一つ。棚がベッドの隣にある。その上に北島のスマートフォンとバッグ。

 北島、板付き。ベッドに横になっている。


北島「うぅっ……ここは……?あ、荷物……」

藤原「(舞台上手から契約書を持って登場)目が覚めましたか?北島さん」

北島「貴方は……お医者さん……?」

藤原「はい。藤原と申します。今、電動ベッド起こしますね(機械を操作し、北島を起こす)」

北島「じゃあここは……」

藤原「藤原病院です。今回貴方の手術を担当しましたのは、当院の院長の私です」

北島「えっ……あの名医に、手術して頂けたのですか……!?」

藤原「ははは。名医とはよく言われますが、そんな大した者じゃありませんよ」

北島「私は一体どういう事でここで手術を?」

藤原「私を訪ねてきた貴方が診察中に倒れて緊急手術したんです。ご家族のサインを頂きました」

北島「そうですか……それで、手術の方は……?」

藤原「手術は無事成功です。おめでとうございます」

北島「嗚呼……そうですか……!ありがとうございます!流石、噂に違わぬ名医ですね!」

藤原「それ程でもありませんよ。しかし、この病気を完全に一発で治せるのは世界中を探しても私くらいのものでしょう」

北島「ははっ、そうですか。凄い自信ですね」

藤原「自信が無ければ外科医は務まりません」

北島「成程。仰る通りで」

藤原「それで、ですね……非常に言い辛い事なんですが……」

北島「何でしょう?」

藤原「手術費の事でして……」

北島「あぁ、その事でしたか。覚悟はしてました。おいくらなんですか?」

藤原「非常に言いにくいのですが……」

北島「お金の事は何とか工面します。言って下さい。おいくらなんですか?」

藤原「この金額は、びた一文負けられませんよ?」

北島「大丈夫です」

藤原「言ったら絶対驚きますよ?」

北島「法外な値段なのは覚悟の上です。それに緊急手術だったんですし、それなりに高く付くでしょう?」

藤原「絶対に、絶対に驚かないで下さいね?」

北島「命の恩人にこんな事言うのも失礼ですが、いい加減クドイですよ?」

藤原「じゃあ、言いますね?本当に良いんですね?心の準備は宜しいですね?」

北島「はい」

藤原「三十円です」

北島「……は?」

藤原「三十円です」

北島「は?え?は?三十……?万?だとしても安過ぎるな……億?」

藤原「いえ、三十円です」

北島「えっ!?はっ!?えぇっ!?な、何で三十円!?」

藤原「ほらー!やっぱりこういうリアクションになると思ったんですよー!」

北島「だって驚きですよ!?私の病気は世界でも稀に見る珍しい病気だったんですよ!?それを治療法を見付けたご本人様が治療したんですよ!?それがまさかの三十円ってどういう計算方法なんですか!?」

藤原「いや、この病気を治す方法は本当にたまたまだったんですよ。金になるならないを考えて医者をやってきた訳ではないのもありますが、本業片手間に適当にパソコンをカタカタやってたら治療法を見付けたんです」

北島「いやいやいや!だとしても!だとしてもですよ!?三十円ってのは無いでしょう!?もっと特許料とか取って良いんじゃないですか!?」

藤原「いや、取ってますよ?特許料。五円」

北島「安過ぎるって!残りの二十五円はどういう内訳で!?」

藤原「クスリの原価十五円、技術料五円、設備費四円、考案料一円です」

北島「だから安過ぎるって!もっと自分に誇りを持とう!?」

藤原「別に誇りを持ってる訳じゃないですよ。安いから皆が悩まずに使ってくれるように特許を取ったんですから」

北島「だとしてもだよ!考案料もっと取ろう!?」

藤原「だってそんなに考えてなかったから……」

北島「儲けようとは思わなかったんですか!?」

藤原「世界中でこの病気に悩んで亡くなっていく方が多いので、なるべくコストを抑えて安心して皆に使ってもらえる技法と薬を提供しようと思いまして」

北島「真面目~!」

藤原「医者は真面目じゃないと大成しませんから」

北島「じゃ、じゃあ手術費は三十円で良いんですよね……?」

藤原「はい」

北島「じゃあ、はい。まぁ、分かりました。で、入院はどれくらいになりそうですか?」

藤原「三十年です」

北島「え?あ?ん?三十円?入院費も三十円なんですか?」

藤原「いいえ。入院期間はリハビリ期間含めて三十年です」

北島「はぁ!?何でそんなに掛かるんですか!?」

藤原「何分、厳しい病気で特効薬と手術内容のデータが足りないので研究の為にといった意味でも検査を含めて三十年掛かります」

北島「研究の為?じゃあそれは患者本人の意思で決められますよね?」

藤原「まぁ、そうですね」

北島「じゃあ研究の為の入院と検査はしません。早く退院させて下さい」

藤原「分かりました。では研究の方は諦めます。北島さんのお気持ちを尊重します」

北島「そうして下さい。で、そうするとどれくらいの入院期間になりますか?」

藤原「二十五年です」

北島「それでも二十五年!?何でそんなに入院しなきゃいけないの!?」

藤原「先程も申し上げましたが、何分、最近現れた特殊な病気なので慎重に術後の経過を診ていきたいのです。多くの内臓や骨、筋肉、そして脳にもダメージが激しいのでリハビリの為の栄養摂取をしてからリハビリを行います」

北島「あっ!?そうか!そういう病気で藤原病院に訪れたんだった!」

藤原「なので二十五年間入院して頂きます」

北島「四半世紀ここで過ごすの辛いんですけど!」

藤原「安心して下さい。五年毎に病院は変わります。転院します。飽きは来ません」

北島「そういう問題じゃない!仕事とか家族の事とか色々あるんですよ!」

藤原「ご家族はそれを受け入れて手術にサインしました」

北島「どういう事!?私、邪魔なの!?」

藤原「さぁ……ただ奥様は『死ぬのは財産分与の事とか遺品整理の事とか色々手続きとかもあるからそれが終わってから死んでほしい』とは仰ってましたね」

北島「愛は無いのかアイツー!」

藤原「お子さん達も『生き残るなら、まぁ、生き残ってくれても構わない』と仰ってましたよ」

北島「アイツらぁー!許さんぞぉー!」

藤原「で、入院費なんですけど……」

北島「今言う!?このタイミングで!?」

藤原「いつまでも家族への怒りが続くかと思うと聞いてられないので」

北島「アンタも慈悲は無いのか!」

藤原「仕事はドライなんで」

北島「あぁそうですか!で?入院費でしたっけ?普通退院後に請求が来るんじゃないの?」

藤原「ウチではある程度目安をつけて先に報告しています」

北島「そうなんですか。で?いくらんですか?」

藤原「四千六百万円です」

北島「高っ!内訳は?(スマートフォンを手に取る)」

藤原「一日五千円×三百六十五日×二十五年ですね」

北島「(スマートフォンをポチポチする)……あ、本当だ。まぁ二十五年も入院生活してりゃそうなるか……家族に迷惑掛けるな……離婚かな……」

藤原「北島さん。そこで一つ提案があります」

北島「何ですか?」

藤原「もし三十年間この病気の検査と研究の為に入院してくれると言うなら、入院費は減額致します」

北島「本当ですか!?」

藤原「はい。三十年検査や研究の為の実験を行う事になるとは思いますが、一日外出する日や泊まりで出掛ける事も一ヶ月に何度か設けます」

北島「本当ですか!?」

藤原「ただ、お仕事は出来なくなりますが……」

北島「そ、そう、ですよね……で、ど、どれくらい減額されるんですか……?」

藤原「三十円です」

北島「たったの三十円!?五年プラスで入院して減額が三十円!?四千五百万九千九百七十円になるだけなの!?」

藤原「北島さん。落ち着いて下さい」

北島「落ち着いてられるか!」

藤原「良いから落ち着いて下さい。誤解してます」

北島「誤解?」

藤原「はい。三十円引きじゃなくて、三十円になるんです」

北島「は?一日三十円って事ですか?」

藤原「いえ、三十年で三十円です。一年一円計算です」

北島「最初に推理した通りだった!?何でそんなに安くなるの!?」

藤原「この病気は最近現れた珍しいもののです。研究の為の検査の日々は辛い事になるとは思いますが、これから現れるであろうこの病気の患者に対処する為に協力して頂けるなら、それだけ安く致します」

北島「他の私と同じ病気の患者にもこの事は話してあるんですか?」

藤原「三百人の患者さんがこれを受け入れて入院してます」

北島「ここの病床の数は?」

藤原「五百人ですね」

北島「半分以上がこの病気の患者で埋まってるの!?」

藤原「はい。ちなみに入院費も三十年で三十円です」

北島「この病院大丈夫!?やっていけてるの!?」

藤原「国からガッポガッポ貰ってます」

北島「取るところから取ってるのね!?」

藤原「税金払ってるんだから還元してもらわないとね、という精神でやっております」

北島「そこだけ素晴らしい程の商売魂!あの、家族には普通に会いに行っても良いんですよね……?」

藤原「はい。午前中は検査で、昼は外出、最終的に夕方には病院に戻ってきてもらう形になりますね。大体一日五時間くらいですかね?時折、泊まりで一日外出も可能です」

北島「あー……そうですか……じゃあ検査と研究の為に三十年入院します」

藤原「ありがとうございます。ではこちらの契約書にサインをお願いします。印鑑が無ければ母印でも構いません」

北島「印鑑は持ってます(サインをし、印鑑を押す)はい(藤原に契約書を渡す)」

藤原「じゃあ契約完了という事で、これから宜しくお願い致します」

北島「お願いします」


 暗転。


 明転。


 病室。

 北島、ベッドの上でスマートフォンを弄っている。

 SE、ノックの音。


北島「どうぞー」

藤原「(舞台上手から登場)失礼します。北島さん、手術してから一ヶ月が経ちましたが、調子は如何ですか?」

北島「至って健康です。ただ運動してないので太りましたね」

藤原「そうですか。まぁガリガリになるよりはマシですね」

北島「筋力も落ちてるかなぁと思いますね。で、あれから特に研究の為の検査とかされてないですけど、良いんですか?」

藤原「はい。実はあの病気のメカニズムが分かったのでもう研究は終了したんですよ」

北島「えっ?じゃあ私はどうすれば?」

藤原「退院ですね」

北島「リハビリは?」

藤原「家でも出来るので」

北島「入院費はどうしますか?特に私は研究に貢献出来てないですが」

藤原「いえ、そこは契約通り三十円で結構です」

北島「あ、良いんだ……」

藤原「手術の傷口は塞がってます。薬を処方するので、それは退院しても飲み続けて下さい」

北島「は、はぁ……で、薬は一日にどれくらい飲むんですか?今まで点滴でしたから、薬は殆ど飲んでなかったと思うんですが」

藤原「一日に三十錠を朝昼晩飲んで下さい」

北島「そんなに!?」

藤原「食前食後食間に三十錠ずつなんで一日二百七十錠飲んで下さい」

北島「それだけでお腹いっぱいになっちゃいますよ!?」

藤原「厳しいようなら粉薬にも代えられますが」

北島「粉で腹を満たしたくないんですけど!?」

藤原「頑張って下さい」

北島「ちなみに薬代はいくらですか?」

藤原「まだ国に認められて間もない薬なので法外な値段です」

北島「おいくらですか?」

藤原「三十日分で三十円です」

北島「その三十に拘る理由は何なの!?」

藤原「偶然です」

北島「あー……どうしてもその量の薬飲まなきゃいけないんですか……?」

藤原「飲まないと死にます」

北島「マジかぁ……キッツ……」

藤原「そういう人の為にスーパーサプリメントがあります」

北島「スーパーサプリメント?」

藤原「(ポケットからビンを取り出し、中から一つのカプセルを取り出す)これを一粒飲めば、一食分の栄養素を補う事が出来ます」

北島「それの値段はやっぱり……?」

藤原「三十円です」

北島「ですよね!で?一瓶いくらですか?」

藤原「一粒一円で一瓶三十粒入りで三十円です」

北島「段々慣れてきたぞ……」

藤原「お買いになりますか?」

北島「じゃあ、買います」

藤原「分かりました。では手術費、入院費、薬代、サプリメント代を合計しまして、百二十円です」

北島「安っ。まぁ、そうか……」

藤原「分割でも構いませんが」

北島「いや、今すぐにでも現金で払えるんで」

藤原「そうですか。では定期的に検診に来て下さい」

北島「どれくらいの頻度で?まさか……」

藤原「はい。三十日毎に来て下さい」

北島「やっぱりな」

藤原「薬とサプリメントが切れる頃に来て下さい」

北島「分かりました。ところで私は治ったんじゃないんですか?」

藤原「最後の仕上げって感じですね。これから処方する薬を三十日間ちゃんと飲めば完全に治りますし、後遺症も残りません」

北島「そうですか。じゃあ飲み切るしかないのかぁ……」

藤原「頑張って下さい」

北島「三十日の我慢ですもんね」

藤原「三十の呪い、頑張って下さい」

北島「絶対狙ってるだろ、三十という数字を」







―――終わり


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