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コント集  作者: 河野吉田
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7/37

コント集7

コント集7



61・・・・くしゃみ

62・・・マジシャン

63・・・最期の一服

64・・・悪魔の契約

65・・・先輩後輩

66・・・致命傷

67・・・内見

68・・・溜め息

69・・・あちらのお客様からです

70・・・暴走族



『くしゃみ』



・登場人物


 西岡

 藤原

 北島



・舞台


 公園






 明転。


 公園。ベンチ一つ。

 西岡、藤原、北島、舞台上手から登場。


西岡「でさー、その時、藤原がさー」

藤原「おいおい、それを言うなよー」

北島「何があったんだよ?」

西岡「それがさー、あ、はっ……はっ……!」

北島「ん?どうした?」

西岡「はっ……はっ……はっ……はっくしょん!」

北島「おー、盛大に出たねぇ」

西岡「こう、暗い所から日が強い所に出るとくしゃみする事って無い?」

北島「あるある」

藤原「何だっけ?光くしゃみ反射って言うんだっけ?」

西岡「そのまんまだな」

藤原「俺は無いけど、実際その人にとっては……ばっくしゃい!」

西岡「吃驚したぁ!」

藤原「悪い悪い」

北島「ノーモーションで出すなよ」

藤原「俺は突然出るタイプなんだよな」

西岡「怖いわ」

藤原「そういえば北島がくしゃみしてるところって見た事無いな」

北島「えー、そう?」

西岡「確かに。くしゃみとかあまり出ないタイプ?」

北島「そんな事無いよ?この季節だと花粉がさー」

西岡「あー、俺も花粉症だわ。春と秋に花粉が良く出るんだっけ?俺はヒノキもブタクサもあるからよくくしゃみ出るわー」

北島「俺もヒノキとブタクサよ。だからくしゃみよく出してるよ?」

藤原「そうかぁ?してるところ見た事無いぞ?」

北島「そんな事……あ、出る」

西岡「おっ、出るか?」

北島「……くちっ!っあー……」

藤原「…………」

西岡「…………」

北島「ん?どうした?」

藤原「え?くしゃみは?」

北島「え?今出したじゃん」

西岡「あの、くちっ、ってやつ?」

北島「うん」

藤原「えー、何それー」

北島「何だよ?」

西岡「気持ち悪ーい」

北島「気持ち悪いって何だよ、気持ち悪いって」

西岡「あぁ、ごめんごめん。お前が気持ち悪いんじゃなくて、くしゃみが気持ち悪い」

北島「それって遠回しに俺をディスってない?」

藤原「そうじゃないよ。なぁ?」

西岡「うん」

北島「じゃあどういう事よ」

藤原「何て言うかさー、それ、出した気になる?」

北島「なるよ」

西岡「昔からそうなの?」

北島「そうだよ?ってか、家族は皆こうだよ?」

藤原「凄ぇな。家族でこのくしゃみなのか」

北島「どういう意味?」

西岡「普通くしゃみって『はっくしょん』とかじゃない?それ体の中のウィルス外に出せてなくない?」

藤原「そうそう。本来ウィルスを外に出すのが目的なんだから、それじゃあ内に籠って体悪くならない?」

北島「そう言われてもな……もう二十数年このくしゃみだけど、一度も風邪らしいものには掛かってないな」

西岡「へー。凄いなぁ」

北島「それにお前らみたいなくしゃみの仕方だと、周りの人にウィルスを撒き散らす事になるから、俺みたいなくしゃみの仕方の方が被害は少ないんじゃないか?」

藤原「一理あるな。よし、俺もくしゃみする時はそういう……ばっくしゃい!」

西岡「だからいきなり出すなよ!吃驚するだろうが!」

藤原「あー、俺には無理だ。西岡なら出来るんじゃね?」

北島「予備動作あるもんな」

西岡「えー、俺?俺はでもさぁ……はっ……はっ……」

藤原「おっ、出るぞ」

北島「俺のやり方をやってみろ」

西岡「はっ……はっ……はっ……はっ……はっ……!あー!出ない!」

藤原「何でだよ!」

北島「今出そうな流れだったろ」

西岡「結構あるんだよ。光があってもなかなか出なくて困るやつ」

藤原「すっげぇムシャクシャする」

西岡「お前ら以上に俺自身が一番ムシャクシャしてる」

藤原「気持ち悪い」

西岡「何だよ?」

藤原「前々から言おうとは思ってたけどさ、お前、長いんだよ」

西岡「長い?」

北島「うん、長い」

西岡「何?何が長いの?」

藤原「予備動作」

西岡「予備動作ぁ?」

北島「あの、ほら。はっ……はっ……ってやつ」

西岡「それは仕方ないだろ。こっちだって調整してるんだから」

藤原「何の調整だよ。出すならすぐに出せよ、俺みたいに……ばっくしゃい!」

西岡「だからノーモーションで出すな!怖いんだよ!」

北島「気持ち悪いなぁ」

藤原「今度は俺かよ?」

北島「お前だよ。お前の何の予備動作も無く突然くしゃみするのにはもう呆れに近い感情があるよ」

藤原「何でだよ。お前らよりはマシだろう」

西岡「マシなもんか。何回心臓止まりそうになった事か」

藤原「それは言い過ぎだろう」

北島「いや、あながち言い過ぎでもない。そのボリュームにも恐怖を感じる」

藤原「ボリューム?」

西岡「お前のくしゃみ、デカいんだよ。五月蠅い」

藤原「そんな事無いだろ。西岡と同じくらいだろ」

北島「いいや、全然違う。西岡のが平均位だと思う。お前のは明らかにデカい」

藤原「それはしょうがないだろ!誰だってくしゃみすりゃデカい声は出る!」

西岡「だとしてもデカいよ。大阪のおっさんかよ」

藤原「何だとこの野郎!」

北島「だーっ!こんなつまらん事で喧嘩してどうする!」

西岡藤原「じゃあどうする!」

北島「それぞれ課題を持ち帰って、改善できる所は改善して、次回に備えようじゃないか」

西岡「そうか。俺は予備動作を無くす」

藤原「俺は五月蠅いのを止める」

北島「俺は静か過ぎるのを止める。これで行こう」

西岡藤原「おう」


 暗転。


 明転。


 公園。

 西岡、藤原、北島、板付き。


西岡「それでさー、ばっくしゃい!」

藤原「……くちっ!」

北島「はっ……はっ……はっ……はっ……はっ……はっくしょん!」

西岡藤原北島「…………気持ち悪ぃな」

西岡「元のに戻そう」

藤原「そうだな」

北島「違和感が凄い」

西岡藤原北島「ははははははは……」

西岡「はっ……はっ……はっ……はっくしょん!」

藤原「ばっくしゃい!」

北島「くちっ!」

西岡藤原北島「あー、これだなぁ」









―――終わり

『マジシャン』



・登場人物


 藤原マジシャン

 北島



・舞台


 藤原の部屋






 明転。


 藤原宅。卓袱台一つに座布団二つ。卓袱台の上にはトランプが二束、缶ビール。下には木箱。

 藤原、北島、板付き。


北島「まさかお前がマジックの王子様、なんて呼ばれるようになるなんてな」

藤原「たまたまだよ」

北島「たまたまなもんか。実力だよ。誇って良いと思うよ」

藤原「ありがとう」

北島「『たまたまです』。これが人気フレーズになるなんてな」

藤原「だってたまたまなんだもん」

北島「まぁまぁ、営業努力は認めるよ。たまたま王子」

藤原「ははは」

北島「今日は久し振りに飲みに来たんだし、折角だから何かマジックやってよ」

藤原「簡単なのしか出来ないぞ?」

北島「良いよ。何でも」

藤原「じゃあオーソドックスなやつね。お前の引いたカードを当てるってやつな」

北島「おう。頼むわ」

藤原「(トランプをケースから取り出し、山札を切る)じゃあこの中から好きなやつ選んで」

北島「おう。じゃあ、コレ(カードを選んで抜く)」

藤原「じゃあそれを見て覚えて、この中の好きな所に戻して」

北島「うん、覚えた(カードを山札に戻す)」

藤原「(山札を切る)じゃあこの中から選ぶぞ。お前の選んだカードは~……コレだ(山札から一枚選んで北島に見せる)」

北島「凄ぇ。当たってる。何で分かったの?」

藤原「たまたまです」

北島「出た、そのフレーズ。他には何が出来る?」

藤原「お前の引くカードを予言するよ」

北島「おぉ、凄そう。やってみて」

藤原「良いよ。じゃあ、お前の目を見せて」

北島「はいよ」

藤原「お前の瞳を通して、未来が見える。分かった。コレだ(もう一つのトランプの山札から一枚選び、木箱に隠す)」

北島「それが未来予知?」

藤原「そう。この山札から一枚選んで」

北島「はい、じゃあコレ(選ぶ)」

藤原「じゃあ木箱の中身を見せよう。コレだ」

北島「おぉ!凄ぇ!当たってる!何で!?」

藤原「たまたまです」

北島「かぁ~!程良くムカつくね~!他は!?他!」

藤原「じゃあトランプを綺麗に並べようか。この山札を見て。バラバラだよね?」

北島「あぁ」

藤原「これをよく混ざるように切って」

北島「分かった。(山札を切る)はいよ(渡す)」

藤原「じゃあ俺も切るね(山札を切る)。じゃあこれを一三枚ずつ分けていくね(山札を分ける)。じゃあ、これを上から順に見ていって」

北島「おう……おっ、おぉ!?凄ぇ!全部一から一三まで順に揃ってる!何で!?」

藤原「たまたまです」

北島「凄ぇ~!調べたら種が分かるんだろうけど、知らないとマジで分からんわ」

藤原「実は種も仕掛けも無いんだな、これが」

北島「またまた~。企業秘密ってやつだろ?」

藤原「マジで種も仕掛けも無いんだよ。たまたまなんだ」

北島「まさか、ただ当てずっぽうでやってただけってオチじゃないだろうな~?」

藤原「いや、本当、それなんだよ」

北島「……マジ?」

藤原「マジ」

北島「はっ!?まさか本当に適当にやってただけなの!?」

藤原「だからそうだって言ってんじゃん」

北島「運だけで今までやってきたの!?」

藤原「そうだよ」

北島「何それ!?マジックでも何でもないじゃん!」

藤原「だから俺は早いとこ引退したい」

北島「それ、師匠とか知ってんの?」

藤原「言ったんだけど信じてもらえてない」

北島「テレビ局とかマジシャン協会は?」

藤原「以下同文」

北島「どうすんのコレ?」

藤原「まだ金になるから続けろ、と言い張って、俺の気持ちを考えてくれないんだ」

北島「はー……大変なんだな、お前も」

藤原「大変どころじゃないよ。いつボロが出るか怖くて夜も眠れない」

北島「もうテレビで言っちゃったら?俺はエセマジシャンですって」

藤原「言おう言おうと思ってるんだが……」

北島「どうした?」

藤原「金になるのは事実で、借金もあるからなかなかね……」

北島「そうか~……何か力になれたら良いんだけどな」

藤原「その気持ちだけで充分だよ。それに、これはあくまで俺自身の問題だし」

北島「そうか……頑張れよ。何か俺に出来る事があれば力になるから」

藤原「ありがとう」


 暗転。


 明転。


 藤原宅。

 藤原、北島、板付き。


北島「まさかこの前のマジック番組で突然の引退宣言とはな」

藤原「借金も返し終わったし、もうここらが潮時だろうと思ってさ」

北島「でもまた一からマジックを勉強して出直すって事も出来たんじゃないか?」

藤原「いやぁ、もうマジックはコリゴリだ。やる気が起きないよ」

北島「で、これからどうするんだ?」

藤原「実はさ……」

北島「どうした?」

藤原「今度、心理学者としてデビューする事になったんだ……」

北島「何で?」

藤原「とある番組で、ゲストの過去を言い当てるって企画をやったんだけど、それもたまたま全部、言い当てちゃって……」

北島「えっ、それじゃあまだそのたまたまを続けるの?」

藤原「そうなんだ……」

北島「でもそれって心理学の範疇だろ?すぐにボロが出るんじゃないか?」

藤原「それが……適当に言った事が全部言い当てちゃったもんだから、心理学の有名な先生達もビビっちゃって……」

北島「マジか……これからは心理学者藤原でやってくのか……」

藤原「嫌だ!もうテレビに出たくない!」

北島「いっそ干されればもう呼ばれる事も無いだろ。次出た時は何も聞かずに喋ってみろよ。そうすれば悩み解決だろ?」

藤原「干されるのはちょっと嫌だけど……そうするしかないか……」

北島「あぁ。マジシャンを辞めた時の勇気をもう一度出してみろよ」

藤原「分かった」


 暗転。


 明転。


 藤原宅。

 藤原、北島、板付き。


藤原「今度は天才霊能力者としてデビューする事になった……」

北島「そりゃあ、ノーヒントでゲストの過去やら趣味やら性癖やらを言い当てたらそうなるわな」

藤原「俺の勘が外れる事は無いのだろうか……」

北島「天才故の苦悩だな」

藤原「俺は天才でも何でも無い!助けて!」

北島「楽して金が稼げる間はそれを続けたら?潮時になったら自然と勘も外れるようになるだろうし」

藤原「なるほど……今は稼ぎ時か……」

北島「折角の神様からのプレゼントなんだ。有効に使えよ」

藤原「そうだな……」


 暗転。


 明転。


藤原宅。

藤原、北島、板付き。


藤原「宗教開く事になっちゃった……」

北島「もう諦めろ」

――終わり

『最期の一服』



・登場人物


 藤原

 北島

 救護班A

 救護班B



・舞台


 敵のアジト



・衣装


 藤原、北島、スーツにコート。




 明転。


 敵のアジト。

 藤原、北島、板付き。藤原、壁にもたれかかっている。北島、無線を掛けている。


北島「犯人は窓から逃走!すぐに追跡してくれ!」


 北島、無線を切る。


北島「藤原さん!しっかりして下さい!」

藤原「北島ぁ……俺はもう駄目だぁ……」

北島「俺なんかを庇って……どうして!」

藤原「お前は可愛い部下だ。死なせるわけにはいかなかった……」

北島「藤原さん!」

藤原「北島……煙草、持ってるか?」

北島「はい!(煙草を取り出す)」

藤原「吸わせてくれ……」

北島「藤原さん……!(藤原に煙草を渡し、火を点ける)」

藤原「スゥー……フゥー……最期の一服って、こんな味なんだな……」

北島「藤原さーん!」


 暗転。


 明転。


 敵のアジト。藤原の回りに煙草が大量に散らばっている。

 藤原、北島、板付き。


藤原「最期の一服、美味ぇなぁ……」

北島「一服、長いッスねぇ」

藤原「そうか?」

北島「ヘビースモーカーなのは知ってましたけど、まさかここまでとは」

藤原「この一本を吸い終わったら、きっと死ぬんだろうな……」

北島「そう言ってもう六十本目じゃないですか。どんだけ引っ張るんです?」

藤原「そう言われてもな……」

北島「あの、俺もう行っても良いですか?」

藤原「何で?」

北島「何か大丈夫そうなんで」

藤原「いや、大丈夫じゃないよ?ほら、こんなに血が出てるし」

北島「致死量って程じゃないんじゃないですか?ピンピンしてるし」

藤原「ピンピンなもんか。痛くて立てないんだぞ」

北島「でもその様子なら死ぬ気配が無いので、俺は行きますね。この件の結果が気になりますし」

藤原「電話で聞いたら良いじゃないか」

北島「まだ本部からの連絡が無いので現場に行くしか無いです。じゃあ行きますね」

藤原「おいおい、俺、置き去りかよ?」

北島「もうすぐ救護班が来ます。それまで大丈夫ですよね?」

藤原「いやいや、それまで持つかどうか分らんぞ?急にポックリ逝くかもしれんぞ?」

北島「あぁ、それはあるかもしれませんね」

藤原「何でそんな達観してんの?俺、大怪我してるんだよ?瀕死だよ?」

北島「瀕死の人は長らく煙草を吸い続けません」

藤原「それはほら、案外、大丈夫だったってだけで……」

北島「やっぱり大丈夫なんじゃないですか」

藤原「あー!俺の体は俺自身が一番分かってる!もう持たんわ!死ぬわ!」

北島「大丈夫って言ったり、死ぬって言ったり、どっちなんですか」

藤原「死ぬ!このままじゃ死ぬ!この煙草吸い終わったら死ぬ!」

北島「じゃあ吸わなきゃ良いでしょ。煙草に火が点いてる限り死なないんでしょ」

藤原「冷たい!怪我人にはもっと優しくして!」

北島「優しくしたでしょ、最初は」

藤原「ずっと優しくして!」

北島「何なんですかさっきから。寂しいんですか?」

藤原「寂しいんだよー!」

北島「はぁ?」

藤原「ずっと傷口痛いし、そのせいで煙草もそんな味、分からんし、ここで一人残されたらマジで寂しい!寂しくて死んじゃう!」

北島「兎ですか、貴方は」

藤原「良いの?俺の最期を看取らなくて?お前が去った後に死んだら本当に後悔するよ?」

北島「看取るの大分先になりそうな気がしますけどね」

藤原「本当酷い!上司を思いやる気持ちは無いのか!」

北島「最初は思いやってたじゃないですか」

藤原「それを続けて!お前と話してるから生き続けてる可能性もあるんだから」

北島「なるほど。じゃあしりとりでもします?」

藤原「そういう事じゃない! もっと労わって!」

北島「でも、もう『大丈夫ですよ!』とか『救護班がもうすぐ来ますから、それまでの辛抱です!』とか『俺、藤原さんの事、尊敬してました!』とかそれっぽい事、全部、言っちゃいましたし」

藤原「それっぽいって何!?心の内ではそう思ってなかったの!?」

北島「言ってた時はそう思ってましたけど、今は何かそんな気分じゃ無いっていうか……」

藤原「嘘でも良いから続けてよ!そのノリを!」

北島「いやぁ、もう疲れました。なかなか死なないし、死にそうにも無い人にそんな言葉掛けるの疲れるんですよね」

藤原「お前、俺の事なんだと思ってるの……あっ、急に寒気が!」

北島「本当ですかぁ?」

藤原「マジマジ!うわっ、脚から感覚無くなってきた!(倒れる)」

北島「藤原さん!どうしたんですか!?」

藤原「本当にお迎えが来ちまったみてぇだ……」

北島「藤原さん!」

藤原「北島……お前には散々迷惑掛けたな……お前は誇れる部下だ……」

北島「藤原さん……」

藤原「北島、俺の後、頼んだぞ……!(目を瞑る)」

北島「藤原さーん!」


 暗転。


 明転。


 敵アジト。

 藤原、北島のコートとジャケットを掛けられている。


藤原「……うっ、暖けぇ……」

北島「やっぱり起きた」

藤原「どういう事?」

北島「いや、今日めっきり冷えるじゃないですか。単純に体が汗で冷えたんじゃないかなと思って」

藤原「あぁ……なるほど。俺はどれくらい寝てた?」

北島「一時間くらいですかね」

藤原「えっ?救護班は?」

北島「犯人追って行った仲間が撃たれて、そっちの方が重傷だからそっちに回させました」

藤原「えっ?俺は大丈夫なの?」

北島「先に来た救護班に、命に別状が無いって判断されました」

藤原「マジかぁ……良かったぁ……」

北島「もうすぐ犯人が捕まりますんで、それまでここで時間、潰してましょう」

藤原「あぁ、そうだな。北島、煙草あるか?」

北島「ありますよ」

藤原「お前煙草何箱持ってんの?」

北島「十箱ですかね」

藤原「何でワンカートンも持ってんの?どこに入れてんの?」

北島「こういう機会があった時の為に煙草は切らさないようにしてるんです」

藤原「俺が死ぬ事前提で用意してるってどうなの?」

北島「死ななくて残念です」

藤原「血も涙も無ぇな」

北島「血は藤原さんから流れてますし、さっき俺は藤原さんに涙を流しましたよ」

藤原「そういう事じゃなくてだな」

北島「まぁ生きてて良かったです。藤原さん」

藤原「本当にそう思ってる?」

北島「…………(そっぽを向く)」

藤原「おい!何か言え!」


 救護班AB、舞台上手から登場。


救護班A「お疲れ様です」

北島「お疲れ様です。じゃあ連れて行って下さい」

救護班A「はい」


 救護班AB、藤原を担架に乗せて退場。


藤原「おい!まだ話は終わってないぞ!おい!北島!おーい!」

北島「……まだ手術で失敗する可能性もあるからな。残りの涙は取っておこうー」





―――終わり

『悪魔の契約』



・登場人物


 北島

 悪魔

 宅配便(声のみ)



・舞台


 北島宅






 明転。


 北島宅。テーブル一つに椅子が二つ。床には生贄や供物、蝋燭が置かれ、魔法陣が書かれている。

 北島、魔法陣の前で板付き。


北島「準備は整った……現れよ、悪魔!」


 北島、魔法陣の前に手を置く。


 暗転。


 明転。


 悪魔、魔法陣の上に立っている。


北島「……本当に、現れた……!」

悪魔「我を呼んだのは貴様か?」

北島「あぁ、アンタが、本当の悪魔?」

悪魔「あぁ、そうだ」

北島「やった……!遂に成功した……!」

悪魔「一人で喜んでるところ悪いが、貴様の願い事は何だ?」

北島「あぁ、願い事ね」

悪魔「我は悪魔、ベリアル!貴様の願いを何でも叶えてやろう!貴様が払う代価はたった一つ!貴様の寿命だ!さぁ、何でも願いを言うが良い!」

北島「じゃ、じゃあ!俺を金持ちにしてくれ!」

悪魔「え?それで良いの?」

北島「え?」

悪魔「だってお前、もう億ション建てて全部屋満室じゃないか。働かずとも、もう金に困る事なんて無いじゃないか」

北島「人間てのは欲深い生き物でね。いくらあっても金は足りなくなるもんだ」

悪魔「あっそー。じゃあ、まぁ、金は後で届けさせるけど」

北島「今ここでくれないのか?」

悪魔「無から有は作り出せない。今、人間界にある金を集めて、後で届けさせる」

北島「まぁ、確かにいきなり無から有を作り出したら、いくら金があっても紙切れになってしまうものな」

悪魔「そういう事だ。少し時間をくれ」

北島「分かった」

悪魔「ところでこの悪魔の召喚方法は誰から聞いた?」

北島「あぁ、この前、悪魔を召喚して願い事を叶えてもらったって友人から聞いた」

悪魔「そうか。じゃあソイツから友達紹介券を貰わなかったか?」

北島「友達紹介券ぅ?」

悪魔「そうだ。それがあれば契約の寿命をいくらか割引出来る」

北島「何でそんな物あんの?」

悪魔「昔と違って悪魔召喚があまり行われなくなってな。少しでも顧客を増やす為に、地獄の悪魔達で話し合って決めたんだ」

北島「顧客て」

悪魔「まぁ、その券が無いなら、他に家族割とか割引券とか有効だがどうする?」

北島「そんな物、無ぇよ。そんな物、持ってるやついんの?」

悪魔「たまにな」

北島「そうか……悪魔も大変なんだな」

悪魔「まぁな。で、ポイントカードは持ってるか?」

北島「持ってるか、そんな物」

悪魔「じゃあ今回契約に基づき、ポイントカードを新しく発行すると言う事で宜しいか?」

北島「あぁ……そのポイントはどうやって貯まるの?」

悪魔「寿命一年に付き、一ポイント貯まる」

北島「貯まってどうすんの?」

悪魔「五ポイントでオリジナルステッカーかアクリルスタンド、十ポイントでオリジナルブロマイドかオリジナルタオル、五十ポイントでサイン入り色紙と交換出来ます」

北島「いらねぇ……」

悪魔「これでも一番人気の物ばかりなんですけどね」

北島「とりあえずポイントカードの件は置いとくとして、俺の願い事は叶えてくれるんだろうな?」

悪魔「えぇ、大丈夫です」

北島「じゃあ俺を金持ちにしてくれ!」

悪魔「具体的にいくらですか?」

北島「は?」

悪魔「金持ちと一言で言うのは簡単ですが、具体的いくらかによって、契約に必要な寿命が変わってきますので」

北島「意外とケチなんだな」

悪魔「こっちも手数料とか掛かりますので」

北島「そうだなぁ……じゃあドーンと百億円!これでどうだ?」

悪魔「それだと寿命が足りませんね」

北島「え?」

悪魔「貴方の寿命からして、その金額は見合いません。一年に付き一億円位が相場ですね」

北島「マジでケチだな。じゃあ俺の寿命はどれくらいなんだ?」

悪魔「それは言えませんが、遊んで暮らせる事を考えたら、最高で五十億円位が妥当ですね」

北島「って事は、五十年か。意外と長生きするんだな」

悪魔「どうします?」

北島「じゃあ五十年支払うよ」

悪魔「お金はどこから調達します?」

北島「そんなん適当で良いよ」

悪魔「そうもいきません。どこから、という指定が無いとこちらも動けませんので」

北島「えぇ?じゃあ……銀行の巨大金庫からで良いんじゃない?」

悪魔「その場合ポイントは付きませんが宜しいですか?」

北島「何で?」

悪魔「経済を回す為の機関からお金を盗み出すという事は、デフレの波に飲まれる事になります。それに番号を控えてあると思われるので、貴方が逮捕される可能性があります」

北島「そんなところまで考えなきゃいけないのかよ」

悪魔「それでも良いならポイントは付けずに、逮捕される可能性に怯える日々を過ごして一生を終えてもらう事になります」

北島「えー?じゃあ……ヤーさんとかマフィアとかから金を盗んで来れば良いんじゃない?それなら社会貢献にもなるし」

悪魔「畏まりました。ではそのように致します(テーブルの席に着き、契約書を取り出す)ではこちらが契約書になります。一度確認を」

北島「あぁ。マジで会社か何かだな(テーブルの席に着く)えーっと……うん、携帯電話会社の契約書みたいだな」

悪魔「あまり変わりはないですね」

北島「まぁ読んだところでよく分からん。さっきの説明と大して変わらないんでしょ?」

悪魔「概ねそうですね」

北島「じゃあ契約する」

悪魔「分かりました。ではこちらに印を」

北島「はいはい。母印で良い?」

悪魔「そちらの方が助かります。少し痛いですが、血判でお願いします(ナイフを取り出し、北島に渡す)」

北島「急に悪魔っぽくなったな。イテッ(母印を押す)」

悪魔「はい、ありがとうございます。これで契約は完了です」

北島「こんな回りくどい事になるとは思わなかったな」

悪魔「では後日お金は郵送致します。着払いになりますがその点は大丈夫でしょうか?」

北島「五十億手に入るんでしょ?そんなら安いもんだ」

悪魔「ありがとうございます。ではこちらデビルポイントカードです(ポイントカードを北島に渡す)」

北島「あぁ、はい」

悪魔「今回の契約で五十ポイント貯まっておりますが、景品と交換しますか?」

北島「いや、別に良い」

悪魔「そうですか。でもここでお使いにならないと一生、使う機会は無いと思いますけど」

北島「別にいらん。あってもゴミになるだけだし」

悪魔「左様ですか……残念です。あ、こちらお客様控えです」

北島「はいはい」

悪魔「(席を立ち、魔法陣の元へ行く)では私はこれで」

北島「ありがとう」

悪魔「最後に一つだけ。あのポイントカードで景品と交換しなかったお客様には、この契約の記憶を消させてもらう事になってます」

北島「何だって?」

悪魔「あの景品にはこの契約の記憶を残す機能が備わっております。なので、お客様はこの契約に関する記憶が全て無くなります」

北島「でも金は手に入るんだろ?あんまり関係無いんじゃないか?」

悪魔「そう思えるかどうかはお客様次第。それではさようなら」


 暗転。


 SE、インターホンの音。


宅配便「北島さんですか?」

北島「はいそうです」

宅配便「お届け物です」

北島「はい、ありがとうございます」


 明転。


 北島宅。大きい段ボールが何個かある。


北島「何だろうコレ?差出人不明?(段ボールを開ける)うわっ!?何だコレ!?金だ!?(全ての段ボールを開ける)コレも、コレも金だ!何だコレ!?け、警察!警察に電話だ!(スマホを取り出し、舞台下手に退場)もしもし!警察ですか!?差出人不明の荷物から大量のお金が届けられまして!」

悪魔「(舞台上手から登場)人間は欲深い生き物だが、どんな人間にも良心というものがある。大金が手に入ったとしても、大抵はビクついて手を出せやしない。だって、悪魔を呼び出そうとする人間は、大抵、良心が強い者が多いのだから」


















―――終わり

『先輩後輩』



・登場人物


 藤原

 枝村

 北島

 西岡



・舞台


 バイト先のコンビニの休憩室。

 劇団の会議室





 明転。


 バイト先のコンビニの休憩室。

 藤原、北島、板付き。


北島「へー、藤原さんって前はここで働いてたんですか」

藤原「そうなんですよ。前はバイトリーダーやってました」

北島「何で辞めちゃったんですか?」

藤原「役者やってるんですけど、そこが忙しくなって辞めざるを得ない状況になって」

北島「役者さんなんですか!凄い!」

藤原「いやぁ、まだまだ駆け出しのペーペーです。で、そこが落ち着いて暇になっちゃって、改めてバイトを始める事になったんです」

北島「そうだったんですか」

藤原「前の仕事と変わった所が無いようなので、研修ですが、普通のバイトと変わりなく業務に携わる事が出来ると思います」

北島「そうですか。心強いです」

藤原「で、バイトリーダーさんは?」

北島「もうすぐ来ると思います」


 枝村、舞台上手から登場。


枝村「おはよー」

北島「あっ、バイトリーダーです。おはようございます!」

藤原「おはようございます!……あっ、枝村!」

枝村「えっ?あ、藤原さん?」

藤原「久し振りだな!お前まだここで働いてたのか!」

枝村「何で藤原さんがここに?」

北島「ほら、店長が言ってたじゃないですか。新人バイトの人ですよ」

枝村「あ、そうなの?」

藤原「あの頃はまだ右も左も分からない新人だったお前がバイトリーダーとはな」

枝村「は、はぁ……」

藤原「あの頃と何か変わった所はあるか?」

枝村「いえ、特には……」

藤原「そっかそっか!じゃあ前みたいに仲良くやろうや!」

枝村「はぁ……」

北島「お知り合いだったんですね。じゃあ気軽に働いて下さい」

藤原「はい!宜しくな、枝村!いや、バイトリーダーさん!」


 藤原、枝村に握手を求める。


枝村「あのー……」

藤原「どうした?」

枝村「俺達、昔は先輩後輩でしたよね?」

藤原「あぁ、そうだな」

枝村「でも今じゃ、俺達、先輩後輩が逆転してますよね?」

藤原「あ?あぁ、まぁ……」

枝村「タメ口止めてもらって良いですか?今じゃ俺が上司なので」

北島「えっ」

藤原「あ、あぁ……そうか……すみません……」

枝村「いえ、分かってくれたなら良いんですけど……」

藤原「はい……」


 沈黙。


北島「あの、気まずくて見てられないんですけど」

枝村「えっ?」

北島「枝村さん、藤原さんは元上司なんですよね?」

枝村「そうだけど?」

北島「じゃあ以前みたいに接すれば良いじゃないですか。何で上下関係を重視するんですか?」

枝村「だって今は立場逆転してるし、ケジメはつけないと……」

北島「そうですけど!でも前は仲良かったんでしょう?」

枝村「いや、そんな仲良く無かったよ」

藤原北島「えぇっ!?」

枝村「俺、陰キャだし、陽キャの藤原さんにはうんざりしてたし」

藤原「えぇ?じゃあ丁寧に業務を教えた事は?」

枝村「丁寧かなぁ。普通、分かるでしょ?って体で教わったから正直、辛かったです」

藤原「休憩時間よく、くっちゃべってたじゃないか」

枝村「一方的に話し掛けてきただけでしょ?俺の休憩時間削られて正直迷惑でした。愛想笑いだったの気付かなかったんですか?」

藤原「そんな……」

枝村「敬語、忘れてます」

藤原「あっ……すいません……」

北島「枝村さん、言い過ぎですよ」

枝村「でも事実だし」

北島「仲良くやりましょうよ。これから仲間になるんですから」

枝村「でもここで復讐しとかないと、あの頃の屈辱が晴れない」

北島「そんな事言わずに、仲間なんですから。ね?」

枝村「まぁ仲間になる事自体は受け入れてるよ。ただあの頃のようにはいかないぞって事を予め伝えておかないと、上下関係が破綻する」

北島「真面目過ぎる!もっと気楽に行きましょうよ」

枝村「気楽に何て考えられるかよ。ようやく消えたかに思えた、あの頃の記憶が蘇って不快な気持ちになってるんだから」

北島「えぇ……?」

枝村「それに今となっちゃ、元々俺の方が年上だし、キャリアも上だし、上から目線でこちらに接してくるのはおかしいと思う」

北島「止めろー!も~!これじゃあ明日から上手くやっていけるか不安でなりませんよ……」

枝村「基本的にお前と藤原さんで回すから。後宜しく」


 枝村、舞台下手に退場。


北島「あっ!枝村さん!ったくもう、真面目なんだから……ねぇ、藤原さん?」

藤原「アイツは前からあんな奴でしたよ……真面目で、一生懸命で」

北島「辞めますか?」

藤原「まさか。続けますよ」

北島「それは良かったです。これから宜しくお願いします」

藤原「宜しくお願いします。先輩」


 暗転。


 明転。


 バイト先のコンビニの休憩室。

 北島、板付き。


枝村「(舞台下手から登場)お疲れー」

北島「お疲れ様です。今日は早いんですね」

枝村「あぁ。この前所属した劇団の顔合わせがあるんだ」

北島「そうですか」

枝村「あれ?藤原さんは?」

北島「劇団の仕事があるって、今日は休んでますよ」

枝村「あぁ、そういえばそんな事言ってたっけな。まだ役者やってんんだ」

北島「みたいですよ」


 暗転。


 明転。


 劇団の会議室。テーブル一つに、椅子が三つ。

 枝村、西岡、板付き。


西岡「……以上がウチの劇団の方針です。何か質問は?」

枝村「いえ、ありません」

西岡「では今回の新人公演のサポートをしてくれる座員を紹介します。藤原」


 藤原、舞台上手から登場。


藤原「失礼します。今回君達の新人公演のサポートをする事になった藤原です。宜しくお願いします」

枝村「あっ!藤原さん!?」

藤原「えっ?あっ!枝村!?」


 暗転。


 明転。


 コンビニのバイト先の休憩室。

 藤原、枝村、板付き。


藤原「この前の良かったろ?」

枝村「良かった良かった!また連れてって!」

藤原「おう!任せておけ!」

北島「(舞台下手から登場)おはようございまーす。あれ?お二人共いつの間にか仲良くなってたんですね」

藤原「おう!大丈夫って言ったでしょう!」

枝村「もうわだかまりが無くなって、すっかり仲良しよ!」

北島「それは良かったです」

枝村「あ、商品の発注しなきゃ。じゃあまた後でな!」

藤原「おう!」


 枝村、舞台上手に退場。


北島「どんな魔法を使ったんですか?」

藤原「何も。歓迎会しただけですよ」

北島「へー。よっぽど楽しかったんですねぇ。陰キャの枝村さんが楽しめたってよっぽどですよ。どんな歓迎会だったんですか?」

藤原「えぇ。キャバクラに行きました」

北島「キャバクラ?陰キャにはちと厳し過ぎませんか?」

藤原「それがですねぇ、キャバクラで働いてるウチの美人女優達集めて、いっぱいサービスしてもらったんですよ。もう俺もアイツも大盛り上がりで!」

北島「あっ、童貞には楽し過ぎる出来事ですね。現金な人だ」





―――終わり

『致命傷』



・登場人物


 西岡

 北島

 救護班(声のみ)



・舞台


 犯人が立て籠もってる現場






 暗転中。


西岡「北島!危ない!」


 SE、銃声、六発。


 明転。


 犯人が立て籠もってる現場。

 西岡、北島、板付き。


西岡「……ぐはっ……!(その場に倒れる)」

北島「西岡さん!(無線で)犯人は窓から逃走!追跡して下さい!そして西岡さんが負傷!至急救護班を!」

西岡「北島……無事か……?」

北島「西岡さん!俺は平気です!それよりも、西岡さんが!」

西岡「あぁ……心臓を撃たれちまった……」

北島「あれ?でも血が出てない……?」

西岡「何……?そういえば、そんなに痛くない……(胸をまさぐる)あぁ、コレか……」

北島「何ですか?」

西岡「これは、アメリカに行った時に買った、お守りのコインだ。これが、銃弾を止めてくれたんだ」

北島「奇跡ですね」

西岡「あぁ」

北島「あっ!右胸が!」

西岡「えっ?あっ!これは!(胸をまさぐる)」

北島「何ですか?」

西岡「両親から貰ったお守りだ。これが銃弾を止めてくれたんだ」

北島「お守りの力、絶大ですね」

西岡「あぁ、親に、そして神様に感謝だな」

北島「西岡さん、腹も撃たれてます!」

西岡「何?あぁ、これはきっと……(腹をまさぐる)やっぱり。これは兄から貰ったアニメのキーホルダーだ。コイツが銃弾を止めてくれたんだ」

北島「何でそんな物腹に入れておいたんですか」

西岡「刑事になった時、二人で好きだったアニメのこれをお守り代わりに貰った」

北島「そうじゃなくて、何で腹に入れてたんですか」

西岡「他に入れる場所が無かった」

北島「そうですか。あ、西岡さん」

西岡「まだ何かあるのか?」

北島「右膝、撃たれてます」

西岡「何だと?あぁ、これか」

北島「今度は何ですか?」

西岡「膝にこれを入れておいたんだ。祖父からのお守り。これが銃弾を止めてくれたんだ」

北島「何でそれを膝に入れておいたんですか」

西岡「祖父は膝が悪かったから、膝に入れておけって言われてて」

北島「はぁ。あ、左脚、撃たれてます」

西岡「えっ?あぁ、これは……」

北島「またお守りですか?」

西岡「あぁ。祖母から貰った、サンリオのキーホルダーだ。これが銃弾を止めてくれたんだ」

北島「何故サンリオ……?」

西岡「祖母が好きでな。お守り代わりにここに入れておいたんだ」

北島「何故太腿に?」

西岡「俺が昔肉離れした時にくれたんだ。それ以来、太腿にこれを入れておくようにしていたんだ」

北島「はぁ。凄いですね、お守りって」

西岡「何か残念そうだな」

北島「いや、助かった事は嬉しいんですけど、何か釈然としないというか」

西岡「良いじゃん。助かったんだから」

北島「まぁ、その、はい」

西岡「何だよそのリアクションは……(立ち上がろうとする)あいでででででで!」

北島「どうしました?」

西岡「右腕が痛い……!」

北島「どうせまたお守りがあるんでしょう?」

西岡「あぁ、例の如くな。これは妹から貰ったお守りだ。これが銃弾を止めてくれたんだ」

北島「その服の中に何個お守り入ってるんですか?」

西岡「うーん、百二十個くらい?」

北島「百二十っ……!?な、何故そんなにお守りが……?」

西岡「親戚中から応援されてな。それに友人や妻や娘からも貰ってな」

北島「へぇ……愛されてるんですね……」

西岡「照れる」

北島「皮肉を言ってるんですけどね」

西岡「何か言った?」

北島「いえ、別に。それにしてもそんなにお守り身に着けてたら鎖帷子みたいですね」

西岡「ジャラジャラはするよね」

北島「動きにくそうですけど、大丈夫なんですか?」

西岡「慣れだよね、慣れ」

北島「重く無いんですか?」

西岡「それも慣れだよね」

北島「そうですか。まぁ怪我もしてないんですし、行きましょうか」

西岡「いや、怪我はしてるよ?」

北島「何でですか?銃弾は全部止められたんですよね?」

西岡「いやいや、銃弾を止めただけで、衝撃はあるからね?普通に痛いからね?」

北島「そうですか」

西岡「何?そうですかって。労わる気持ちは無い訳?」

北島「無い訳じゃないですけど、感動的なシーンをぶち壊されて複雑な気分です」

西岡「感動的だろ。家族から貰ったお守りが俺を守ってくれたんだぞ?」

北島「量の問題ですよ。そんだけジャラジャラ着けてりゃ、銃弾は何かしらに当たって防いでくれるでしょうよ」

西岡「そりゃそうかもしれんけど、お守りが銃弾を防ぐなんて奇跡だろ」

北島「そうですけど、有難味が無いじゃないですか。色んな神様に頼り過ぎなんですよ」

西岡「別に良いだろ。色んな神様が味方してくれた結果だろ(北島に背を向けて立ち上がる)」

北島「それはそうですけど……あっ」

西岡「今度は何だよ?」

北島「西岡さん、背中に穴が空いてます。弾が貫通してるんじゃないですか?」

西岡「マジで!?えっ!?どこどこ!?」

北島「ここです、ここ」

西岡「いでででででででで!?うわっ!?マジか!?」

北島「お守りは?」

西岡「丁度間をすり抜けたっぽい!ヤベェ!突然具合が悪くなってきた……!」

北島「大丈夫ですよ」

西岡「何で!?」

北島「はいコレ」

西岡「何コレ?」

北島「俺が普段持ってるお守りです。神様が味方してくれるんでしょ?(耳を穿りながら)」

西岡「そんなご無体な……」

救護班「救護班です!怪我人はどこですか!?」

北島「ここでーす!ほら行きましょう。西岡さん」

西岡「なぁ、俺大丈夫かなぁ!?」

北島「大丈夫大丈夫。何とかなりますから」

西岡「見捨てないでー!」


 暗転。


 明転。


病院の出入り口。

西岡、舞台下手から登場。北島、舞台上手から登場。


北島「退院おめでとうございます」

西岡「北島か。あぁ、ありがとう」

北島「何とかなったでしょ?」

西岡「あぁ。お前のお守りのおかげだよ」

北島「それは良かったです」

西岡「やっぱりお守りはあってナンボだよな」

北島「そうですねー」

西岡「じゃあコレ返すよ。商売繁盛のお守り」

北島「あっ、中身見たんですか?何て罰当たりな!」

西岡「五月蠅ぇ!適当な物持たせやがって!」

北島「でも効果はあったでしょ?」

西岡「何の」

北島「商売繁盛、つまり体が資本の刑事にとっては、これ以上無いご利益でしたでしょ?」

西岡「阿呆か!刑事が商売繁盛って、つまり犯罪だらけの世の中って事じゃねぇか!」

北島「あっ、やべっ(舞台上手に退場)」

西岡「待てゴラ!(追い掛ける。が、右脚を押さえてその場に倒れる)痛ぇ!」

北島「(舞台上手から登場)どうしました?」

西岡「古傷の肉離れが……!」

北島「あぁ、もう。退院直後に急に動いたりするから」

西岡「五月蠅ぇ……!誰のせいだと……!」

北島「それにしても、今回はお守りの効果が無かったですね。あっ、ピンチにならないと効果が発揮されないんですかね?」

西岡「お前、ちょっと来い……!ぶん殴ってやる……!」

北島「わざわざぶん殴られに行く程、阿呆じゃないです」

西岡「糞が……!」

北島「で、どうします?もう一度病院行きます?」

西岡「当たり前だろうが」

北島「殴らないって約束してくれるなら、手伝いますけど?」

西岡「……分かったよ。手伝え」

北島「はい(西岡を起こす)」

西岡「全く……酷い目に遭った……」

北島「じゃあ行きますか。今度は、はい、このお守り」

西岡「何だよコレは?また商売繁盛か?」

北島「違いますよ。無病息災のお守りです。これで病気や怪我の心配はありませんね」

西岡「もう既に怪我してるんですけど!?」

北島「はいはい。良いから行きましょう。これ以上怪我が増える前にね」

西岡「何か納得いかないなぁ」

北島「医療ミスから守ってくれるかもしれませんよ」

西岡「縁起悪い事言うな!」

北島「まぁまぁ、後でお守り買ってきてあげますから」

西岡「ちゃんとしたやつ買って来いよ?」

北島「分かってますって。合格祈願で良いですよね?」

西岡「何でだよ」

北島「ここ大学病院ですし、医学部の学生が実習に来るじゃないですか。その子達が合格して医者になれば西岡さんの怪我も治るんじゃないですか?」

西岡「いつまで待たなきゃいけないんだ。素直に怪我に効くお守り買って来い」   ―――終わり

『内見』



・登場人物


 北島

 藤原



・舞台


 内見先






 明転。


 内見先。テーブル一つに椅子が二つ。テレビ、クローゼットが置いてある。

 北島、藤原、舞台下手から登場。


藤原「こちらが例の物件となっております」

北島「へー、広いですねぇ。それに家具が揃ってる」

藤原「前の住人が置いていった物です。こちらを引き継ぐ形になりますね」

北島「何DKでしたっけ?」

藤原「8DKになります」

北島「で、家賃が?」

藤原「7万円です」

北島「安いっすねぇ!」

藤原「それに新宿駅から徒歩5分!敷金礼金無し!」

北島「これは優良物件ですよ!」

藤原「そうでしょう、そうでしょう!今、断然お求め安くなっておりますので、是非、如何でしょう?」

北島「あっ!ちょっと待って下さいよ!これ、もしかして事故物件なんじゃないですか?」

藤原「いいえ、事故物件ではありません」

北島「本当ですかぁ?事故物件じゃなかったら何でこんなに安いんですかぁ?」

藤原「それは大家さんのお心遣いでして」

北島「本当ですかぁ?どんなお心遣いで?」

藤原「少しでも負担なく快適に過ごしてもらいたくて、ですかね」

北島「そうですか。でももう少し安く出来ませんかね?予算が5万円なんで。せめて6万円になりませんか?」

藤原「それはちょっと難しいですねー」

北島「そうですかー。でも良い物件ですよね。ここに決めちゃおうかなぁ……」

藤原「善は急げって言いますしね!」

北島「もうちょっと見ても良いですか?」

藤原「どうぞ、どうぞ」

北島「ふーん?テレビ付いてんだもんなぁ。ん?何だこのシミ?」

藤原「あっ」

北島「赤いシミ……もしかしてこれ血なんじゃ?」

藤原「北島さん、ここ、六万円でどうですか?」

北島「何で急に安くなったんですか?」

藤原「いえ、さっき電話で大家さんとの交渉があった事を思い出しまして」

北島「そうですか。もうちょっと見て回りますね」

藤原「あまり細かく見ないで下さいね」

北島「何ですって?」

藤原「いえ、何も」


 北島、舞台上手に退場。すぐに戻ってくる。


北島「ちょっとちょっと!あっちの部屋、何か縄が括り付けられてるんですけど!」

藤原「あっ」

北島「どういう事ですか?」

藤原「北島さん、五万でどうですか?」

北島「何で更に安くなったんですか?」


 SE、壁ドンの音。


北島「あ!すいません!」

藤原「どうしたんですか?」

北島「五月蠅くしたからか、隣の部屋から壁ドンされまして」

藤原「隣に人はいませんよ?」

北島「え?じゃあ今の音って、ラップ音?怖っ」

藤原「北島さん、四万でどうですか?」

北島「だから何で下げるんですか?」

藤原「三万」

北島「ちょっと」

藤原「二万」

北島「だから」

藤原「一万」

北島「何で」

藤原「五千円」

北島「どうして」

藤原「千円!」

北島「待て待て待て!何だその痺れる金額設定は!?」

藤原「五百円!」

北島「本当にそれで良いの!?やっぱりここ事故物件なんじゃないの!?」

藤原「正確には、事故物件ではないんですが、前の住人が住んでいた時は事故物件でした」

北島「あぁ、一度、事故物件の部屋に住まわせて無事に退去したら事故物件じゃなくなるってやつか」

藤原「そうです」

北島「じゃあ前の前に住んでた人って……」

藤原「はい、亡くなりました……」

北島「まぁ、一人亡くなったくらいなら、この安さで住んでも問題無いんですけど……」

藤原「それが……」

北島「何ですか?」

藤原「一人じゃないんです」

北島「何だって?二人?三人?」

藤原「九十九人です」

北島「九十九!?何でそんなに亡くなってるの!?」

藤原「最初は十年前、一人が自殺しまして。それからここに入る住人は次々に怪現象に遭って体調を崩したり、精神を蝕まれて亡くなっていったんです」

北島「呪いじゃん!怖いわ!」

藤原「この怪現象が起こってから、前の住人が初めて死なずに済んだのです」

北島「退去した理由は……?」

藤原「髪の長い女が鏡に映ったとか、ラップ音が終始聞こえて夜眠れなかったり、等の怪現象が相次いで、精神的に参ったので引っ越されました」

北島「その人、運が良かったなぁ」

藤原「記念すべき死亡者、百人目が断たれたので、北島様がここにお住まいになれば、記念すべき百人目になれるかもしれません」

北島「死ねって言ってんの!?」

藤原「有名霊媒師によれば、この呪いは百人目で丁度終わるらしいのです。その為にも、是非ご協力を」

北島「嫌だよ!何でわざわざ苦しい思いしながら死ななきゃならないんだよ!」

藤原「でも五百円ですよ!?それでこんなに広い部屋に住めて、駅からも近い。優良物件である事に変わりはないじゃないですか!」

北島「他が怖すぎるわ!鏡に人が出るんでしょ!?」

藤原「今流行りのルームシェアだと思えば」

北島「嫌だよ!夜中にラップ音も聞こえるんでしょ!?」

藤原「深い眠りに着く為のヒーリングソングだと思えば」

北島「永遠の眠りになるわ!俺、ここに済まない!他の物件にして!」

藤原「後はもう事故物件でここより高い所しかありませんが」

北島「どういう不動産!?何で事故物件しかないの!?」

藤原「事故物件専門不動産、西岡不動産です」

北島「入る店間違えた!」











―――終わり

『溜め息』



・登場人物


 西岡

 北島

 藤原

 店長(声のみ)



・舞台


 バイト先の休憩室






 明転。


 バイト先の休憩室。椅子が三つにテーブル一つ。

 西岡、北島、板付き。


西岡「あのさぁ、藤原ってウザくね?」

北島「どういうところが?」

西岡「溜め息だよ、溜め息」

北島「溜め息?」

西岡「そう。アイツさぁ、何かあるとすぐ溜め息吐くじゃん」

北島「あー、そうかもね」

西岡「でさぁ、大抵ロクな事じゃねぇんだよ。雨の日に洗濯物干しちゃったとか、番組録画忘れたとか」

北島「だねぇ。そんな事でそんな落ち込む?みたいなね」

西岡「しかもさ、溜め息でいかにも『話、聞いてくれ』って感じ出すじゃん?」

北島「出すねぇ。あの、聞いてくれるまで待ってる感じね」

西岡「そうそう。もうさぁ、アイツの話、聞くの止めない?」

北島「何で?」

西岡「大抵ロクな話じゃないし、聞くだけ損だよ。それにアイツを甘やかしてる感じがして、アイツの為にならないと思う」

北島「成程ね。まぁ良いよ。無視しよう」

西岡「よし。アイツがいくら溜め息を吐こうが、無視だ」

藤原「(舞台上手から登場)お疲れー」

西岡「おう、お疲れー」

北島「お疲れー」

藤原「(席に着く)……はぁ~……」

西岡「おい、早速始まったぞ」

北島「無視だよね、無視」


 西岡、北島、席に着く。


藤原「はぁ~……」


 沈黙。


藤原「っはぁ~……!」


 沈黙。


藤原「っはぁ~!」

北島「なぁ、聞いた方が良いんじゃないか?」

西岡「無視だ無視。耐えろ」

北島「でも何があったか気になるよ」

西岡「どうせ大した事じゃない」

北島「でも……」

西岡「良いから」


 沈黙。


藤原「はぁ~……(顔を伏せる)」


 沈黙。


藤原「はぁ~……!(体を西岡に擦り付ける)」


 沈黙。


藤原「はぁ~!(体を西岡に預ける)」

西岡「あぁ!もう鬱陶しいな!何だよ!?」

藤原「え?」

北島「おい西岡。無視はどうしたんだよ?」

西岡「もう気になるもん!こればかりは仕方ない!何だよ、何があった?」

藤原「いや、別に大丈夫」

西岡「大丈夫じゃねぇだろ。何があった?」

藤原「いや、本当に何でもない。大丈夫だから……」

西岡「腹立つわー!」

北島「西岡、落ち着けって」

西岡「だってムカつかない?あんだけ聞いてくれって感じ出しといて、いざ聞いたら大丈夫って。余計聞いてくれ感出しまくりじゃねぇか!」

北島「そりゃそうだけど、とにかく落ち着けって」

藤原「どうしたの?何かあった?」

西岡「お前だよー!」

北島「西岡!」

西岡「何かあったんだろ?言えよ!」

藤原「だから何でも無いって」

西岡「嘘吐け!何かあったろ!何でも聞いてやるから言え!」

藤原「そ、そう?じゃあ言うけどさ……」

西岡「おう、何だ!」

藤原「実は今朝、燃えるゴミ捨てるの忘れちゃってさぁ……」

西岡「おう、それで?」

藤原「それで?って?」

北島「それでどうしたの?」

藤原「いや、それだけだけど」

西岡「何だそれ!?そんなの次に出す日に出せば良いだろ!」

藤原「いや、明日彼女が家に来るんだけど、その時にゴミ出してないと、ゴミを溜め込む奴だとか思われたり、ゴキブリが出たりしたらもう嫌われるんじゃないかって思う訳よ」

西岡「だったらそこまで言えよ!だとしてもくだらねぇけど!」

藤原「くだらねぇとは何だよ!こっちは真剣なんだぞ!」

北島「でも本当くだらないよ。そんな事でいちいちあんな溜め息吐いてたの?」

藤原「あんな溜め息?」

北島「やたら『はぁ~』って溜め息吐いてたじゃん」

藤原「え?吐いてた?気付かなかった」

西岡「腹立つわー!無意識な訳ないじゃん!」

藤原「だって意識して出してた訳じゃ無いもん」

西岡「腹立つわー!」

北島「で、ゴミだっけ?何か布か何か掛けて隠しておけば良いじゃない」

藤原「成程!その手があったか!」

北島「ちょっと考えれば分かる話だと思うけどね」

藤原「いやぁ、ありがとう。悩みが消えたわ」

北島「はいはい」


 SE、藤原のスマートフォンが鳴る。


藤原「はい、もしもし?あぁ、母さん?どしたの?うん、うん。えっ、それ本当!?うん、うん。分かった。じゃあ……(電話を切る)……はぁ~……」

北島「今度は何?」

藤原「いや、大丈夫。何でもない」

西岡「どうせくだらない話だろ?聞くだけ無駄」

藤原「聞きもしない癖に無駄とか言うな!」

西岡「じゃあ何だよ!」

藤原「だから何でも無いって言ってんだろ!」

西岡「何でも無くないんだろ!言ってみろ!」

藤原「あぁ!じゃあ言ってやるよ!」

西岡「何だ!」

藤原「妹が大学受験で落ちた」

西岡「それは……」

北島「何というか……」

西岡「すまなかった」

藤原「おう」

北島「残念だったね」

藤原「あぁ……」

西岡「第二志望とかは?」

藤原「落ちた」

北島「第二志望も落ちたのか……それは妹さん、酷く落ち込んでるだろうね」

藤原「いや、第二志望が落ちた」

西岡「は?」

北島「どゆこと?」

藤原「第一志望が受かって、第二志望が落ちた」

西岡「何だそれ?おめでとうで良いのか?」

藤原「あぁ、一応」

北島「何だ、めでたい報告だったのか。悩み以外でも溜め息吐くんだな、お前」

藤原「悩み以外でもって何だよ。嬉しい溜め息くらい誰でも吐くだろ。はぁ~、良かったって」

北島「そりゃまぁそうだけど」

店長「藤原くーん。ちょっとー」

藤原「あ、はーい、店長!ちょっと行ってくるわ」

北島「おう」

西岡「おう」


 藤原、舞台下手に退場。


西岡「まぁ、おめでたい報告で良かったな」

北島「これからもそういう溜め息であってほしいよね」

西岡「それはそれで面倒臭いけどな」

北島「じゃあどうすれば良いのさ?」

西岡「普通に世間話をしに来れば良いんだ。ちょっと聞いてよ~、ってな」

北島「そりゃそうだ」


 藤原、舞台下手から登場。


藤原「……はぁ~……」

西岡「また始まったよ」

北島「藤原、今度はどうした?」

藤原「あぁ、大丈夫―――」

西岡「そういうの良いから。何があった?」

藤原「えーっと……」

北島「残念な溜め息?それとも嬉しい溜め息?」

藤原「残念な方です……」

西岡「クビ?」

藤原「うん……」

北島「マジか。何で?」

藤原「仕事中、溜め息が五月蠅いって客からクレームが入ったって」

北島「それくらい大目に見てくれれば良いのに」

藤原「毎日、レジでずっと溜め息してたのが駄目だったみたい……」

西岡「お前、レジでも溜め息吐いてたのか……」

藤原「客に不満があるのか、ってクレームが相次いだみたいで……」

北島「そりゃお前が悪い」

藤原「はぁ~……どうすっかなぁ……」

西岡「まずはその溜め息をどうにかしないとな」

北島「溜め息ばっかりしてると、幸せが逃げちゃうよ」

藤原「確かに、今、不幸だ。溜め息はもうなるべく吐かないようにするよ」

西岡「それが良い。もう溜め息で人に迷惑掛けるなよ」

藤原「あぁ。じゃあ、お世話になりました」

西岡「おう」

北島「元気でね」

藤原「はぁ~……(舞台下手に退場)」

西岡「また溜め息吐いてら」

北島「これからもああやって溜め息を吐く人生を送っていくんだろうね」

西岡「何それ、悲しい」

藤原(声のみ)「はぁ~……!」

西岡「五月蠅ぇな」

北島「でももうこれで最後だし」


 藤原、舞台下手から登場。


藤原「じゃあ、お世話になりましたー」

西岡「おう」

北島「おう」

藤原「はぁ~!(舞台上手に退場)」


 沈黙。


西岡「なんか、溜め息が無いと、寂しいな」

北島「だね」


 暗転。


 明転。


 コンビニのレジ。

 西岡、北島、板付き。藤原、舞台上手から登場。


藤原「はぁ~……」

北島「いらっしゃいませー」

西岡「いらっしゃいませー。あ、藤原」

北島「元気だった?」

藤原「あ?あぁ、まぁ……はぁ~……」

西岡「五番だっけ?」

藤原「あぁ……はぁ~……」

西岡「四百八十円になります」

藤原「はい……はぁ~……」

西岡「五百円のお預かりで、二十円のお返しです」

藤原「はい……はぁ~……(舞台上手に退場)」

西岡「ありがとうございましたー」

北島「ありがとうございましたー」


 沈黙。


西岡「やっぱ鬱陶しいな」

北島「だね」
















―――終わり

『あちらのお客様からです』



・登場人物


 藤原

 西岡マスター

 小川



・舞台


 バーのカウンター






 明転。


 バーのカウンター。カウンターテーブル一つに椅子が六つ。

 西岡、板付き。藤原、舞台上手(入口)から登場。入口に近い席に座る。


西岡「いらっしゃいませ」

藤原「また来たよ」

西岡「いつもありがとうございます。いつもので宜しいですか?」

藤原「あぁ、頼むよ」

西岡「畏まりました(カクテルを作り、ナッツと一緒にカクテルを藤原に渡す)お待たせしました」

藤原「ありがとう」


 小川、舞台上手から登場。舞台下手側の席に座る。


西岡「いらっしゃいませ」

小川「マティーニ。後ナッツ」

西岡「畏まりました(カクテルを作り、ナッツと一緒にカクテルを小川に渡す)お待たせしました」

小川「ありがとう」

藤原「マスター」

西岡「はい。何か?」

藤原「あの人、あまり見かけないね」

西岡「最近ここに来られるようになったんです」

藤原「へぇ。美人だねぇ」

西岡「そうですね」

藤原「マスター」

西岡「はい」


 藤原、西岡に耳打ち。


西岡「畏まりました」


 西岡、カクテルを作り、小川に渡す。


西岡「お客様」

小川「はい?」

西岡「あちらのお客様からです」

小川「え?」

藤原「ふふふ……(手を振る)」

小川「マスター」

西岡「はい」


 小川、西岡に耳打ち。


西岡「畏まりました。(カクテルを持って藤原の方へ行く)断られました」

藤原「えっ!?」

西岡「いらないそうです」

藤原「え、いらないの……?」

西岡「はい」

藤原「あ、そう……」

西岡「こちら、どうされますか?」

藤原「あ、じゃあ、飲むわ……」

西岡「畏まりました」

藤原「……失敗するもんなんだな」

西岡「はい?」

藤原「いや、あちらのお客様からです、ってやって失敗する事ってあるんだなと思って」

西岡「私も初めてです」

藤原「大抵、失敗するにしても、飲むよな?」

西岡「まぁ、そうですかね」

藤原「飲んで、口に合わなかったら、何かアクション起こして来させないようにするとかあるだろ」

西岡「私に言われましても……」

藤原「マスターも何か言ってから戻って来いよ」

西岡「と、仰いましても……」

藤原「じゃあ、せめて彼女のお会計は俺が立て替えてやるから、それ伝えてきて」

西岡「畏まりました。(小川の方へ行く)お客様」

小川「はい?」


西岡、小川に耳打ち。小川、藤原の方を見る。藤原、手を振る。小川、西岡に耳打ち。


西岡「(藤原の方へ行く)断られました」

藤原「またぁ!?」

西岡「はい」

藤原「何で?」

西岡「金なら持ってる。関わってくんなカス。だそうです」

藤原「何だとお前!」

西岡「私じゃありません!あちらのお客様です!」

藤原「クッソォ……じゃあ何だったら良いんだ……」

西岡「諦めたらどうですか?」

藤原「は?」

西岡「二度も断られてますし諦めた方が宜しいのでは?」

藤原「諦めないぞ、俺は。あんな面白い女は初めてだからな」

西岡「左様で御座いますか」

藤原「マスター、この店で一番高いカクテルを彼女に」

西岡「えっ、よ、宜しいのですか?」

藤原「ん?あぁ、頼むよ」

西岡「本当に宜しいのですか?」

藤原「あぁ、うん。何で?」

西岡「あ、いえ……お客様がそうしたいのなら止めはしませんが……でも最初と変わらないと思いますが」

藤原「そこはマスターのトーク力でカバーして」

西岡「そんな無茶な……」

藤原「ここは俺の恋心を助けると思って」

西岡「はぁ……ここまでやって断られているのですから、無理なのでは?」

藤原「三度目の正直だ」

西岡「はぁ……まぁ、やれるだけやってみます」


 西岡、カクテルを作り、小川の方へ行く。


西岡「あちらのお客様からです」

小川「は?」

西岡「どうぞ」

小川「いや、いらないけど」

西岡「あちらのお客様、貴方に一目惚れしたらしいのです。お気持ちだけでも受け取って頂けませんか?」

小川「いや、いらない。捨てて」

西岡「ここまでして全て拒否するのは流石に失礼かと……」

小川「何?あの男の肩を持つの?」

西岡「あ、いや、あの、まぁ……」

小川「客の嫌がる事をするのがこの店のルールなの?」

西岡「そんなつもりは……ですが、一杯だけでも飲んで頂けませんか?このカクテルはこの店で一番高い物となっておりますので」

小川「あら、そうなの?」

西岡「はい。それだけ、あちらのお客様は貴方を想っておいでです」

小川「そう……じゃあ、マスター」

西岡「はい」


 小川、西岡に耳打ち。


西岡「畏まりました(小川にバケツを渡し、藤原の方へ行く)とっとと失せやがれ、豚野郎。だそうです」


 小川、バケツにカクテルを捨て、中指を立てる。


藤原「何でそこまで……!俺の何がいけないって言うんだ!(小川の方へ行く)」

西岡「お客様!」

藤原「アンタ、何でそんなに俺の事を毛嫌いするんだ?俺が何かしたか?」

小川「何もしてないわよ」

藤原「じゃあ何で?」

小川「何もしてないから嫌ってるんでしょうが。藤原正将さん?」

藤原「えっ、何で俺の名前を……?」

小川「南北新聞社の文化部、藤原正将さんでしょう?」

藤原「何でそんな事まで……!?」

小川「私のお祖父ちゃん、儀間商業の社主なのよ」

藤原「えっ!?あの小川社主のお孫さん!?」

小川「アンタとお見合いをセッティングされそうになったから、私の目で見定める為にアンタの事調べて回ってたのよ」

藤原「そ、そうだったんですか……」

小川「アンタ、この新聞社の中でも一番の怠け癖があって、度々サボってるみたいね」

藤原「そんな事ありません!今日も外回りで一生懸命、仕事をしてたんですから!」

小川「外回りと言って競馬場に行ってたわよね。百十万円、勝ってたわね」

藤原「げっ!そんな事まで……」

小川「もう競馬だけで暮らしていこうかな、なんてほざいてたわね」

藤原「うっ、そ、それは……」

小川「私と結婚したら時期社長になる訳だけど、そんな生活をしているなら、とてもじゃないけどこの新聞社の未来を背負わせられないわ」

藤原「お嬢さん……」

小川「アンタみたいなのは、お見合いさせられる前にお断りよ。お祖父ちゃんに言っとくわ」

藤原「待って下さい!お嬢さん!」

小川「(藤原にビンタ)今からでも遅くはないわ。今の生活を改めるなら考え直してあげる。一ヶ月、猶予を与えるわ」

藤原「お嬢さん……」

小川「それまでにその怠け癖、直しておきなさい。そしたらお見合いだけならしてあげても良いわ。じゃ、マスター。また来るわね(カウンターにお金を置いて舞台上手に去る)」

西岡「は、はい……小川様……」

藤原「マスター、知ってたの?」

西岡「はい」

藤原「最初から言えよ……」

西岡「お客様のプライバシーに関わりますので」

藤原「クッソォ……もう帰るわ」

西岡「畏まりました。こちらお会計です(伝票を渡す)」

藤原「あぁ……えっ!?何この会計!?一一0万!?」

西岡「はい」

藤原「何でこんな掛かってんの!?」

西岡「お客様が一番高いカクテルをご所望されたので」

藤原「あれってそんなに高かったの!?」

西岡「はい。ですから確認取ったじゃないですか。本当に宜しいのですか?と……」

藤原「そんなするなんて思わないじゃん!」

西岡「お支払いにならないと?」

藤原「うっ、く、クッソォ……払えば良いんだろ、払えば!(札束を渡す)」

西岡「ありがとうございます」

藤原「今日の競馬が飛んだ……」

西岡「お気持ちお察しします」

藤原「あの女……今に見てろ……(舞台上手に退場)」

西岡「またのお越しをお待ちしております」


 暗転。


 明転。


 西岡、板付き。

 藤原、小川、腕を組んで舞台上手から登場。


西岡「いらっしゃいませ……あ、藤原様、小川様」

藤原「やぁ、また来たよ、マスター(小川と共に、席に着く)」

西岡「お久し振りです。そのご様子だと、真面目に働いたのですか?」

藤原「まぁね。人事異動があったんだ。競馬欄の部に異動になってね」

小川「そこで競馬の特集を組む事になって、それが元で業績が急上昇したのよ」

西岡「それはそれは」

藤原「それから競馬部の副部長に就任して、業績を上げ続けたって訳」

小川「それがキッカケでお見合いして、これだけ真面目に働いて、その若さで副部長に就任するならそれだけ実力と愛社心があるって事でお付き合いを始めたのよ」

西岡「成程。藤原様、頑張りましたね」

藤原「ありがとう、マスター」

西岡「いつもので宜しかったですか?」

藤原「いや、前にここで注文した、一番高いカクテルを二つ」

西岡「畏まりました。(カクテルを二つ作り、二人に渡す)お待たせしました」

藤原「この前は捨てられたけど、今度は受け取ってくれるね?」

小川「勿論」


藤原、小川、乾杯する。


西岡「適材適所はあるもんだなぁ」










―――終わり

『暴走族』



・登場人物


 北島

 藤原

 枝村



・舞台


 族のアジト






 明転。


 族のアジト。段ボール箱一つ。中にはランニングウェアが入っている。舞台手前にテレビがある。

 藤原、枝村、板付き。

 北島、舞台下手から登場。


北島「失礼します!」

藤原「誰だ!」

北島「俺は北島康介と言います!ここのゾクに入りたくて来ました!」

枝村「志願者か。ウチは厳しいぞ」

北島「分かっています!」

藤原「生半可な気持ちじゃ続かないぞ。それでも良いのか?」

北島「俺もヤンキーの端くれです!忍耐力はあります!」

枝村「ここを誰から聞いた?」

北島「友達から聞きました!」

藤原「何故、走りたい?」

北島「走る時の気持ち良さを感じたいからです!」

藤原「爽快感か……分かってるじゃないか。走っている時の風は気持ち良いもんな」

北島「はい!」

枝村「どうする?」

藤原「分かって来ているなら問題無かろう。良いだろう、このゾクに入る事を認めよう」

北島「ありがとうございます!」

藤原「じゃあこのゾクの掟を説明しよう。まず、クスリ、シンナーは禁止だ」

枝村「ラリッて走ったら危険だからな」

北島「はい!」

藤原「酒も禁止だ」

枝村「酔っぱらって走ったらこれも危険だからな」

北島「はい!」

藤原「次に煙草の禁止だ」

北島「えっ?」

枝村「健康を害するからな。俺達のゾクは肺が大事だからな」

北島「は、はい!」

藤原「そして俺達のゾクは走る前に筋トレ、ストレッチを入念に行う事」

北島「筋トレとストレッチ……?」

枝村「体が資本だからな。鍛えてもらうぞ」

北島「は、はぁ……」

藤原「そして走った後は、プロテインやチキン等でたんぱく質を取り、緑黄色野菜を取る事」

枝村「筋肉を付けなきゃならんからな」

北島「はぁ……」

藤原「後、糖分、脂質は取らない」

枝村「筋肉の増進を妨げるからな」

北島「はぁ……」

藤原「そして走る時は列にならない。歩行者優先だ」

北島「歩行者……?」

枝村「常に邪魔にならないように配慮するんだ」

北島「はぁ……」

藤原「そして俺達は早朝と夜中の二回、合計二0km程走る」

枝村「あまり走ると健康に悪いからな」

北島「意外とそんなに走らないんですね」

藤原「まぁな。で最後に、ウチのゾクに入るなら、これに着替えてもらう。おい」

枝村「あぁ」


 枝村、段ボールの中からランニングウェアを取り出し、北島に渡す。


北島「これは、ランニングウェア?」

藤原「これを着て、俺達と一緒に走るんだ。良いな?」

北島「あのー……」

枝村「どうした?まさかダサいとか思ってないだろうな?」

北島「いや、思ってますけど」

枝村「何っ!?」

藤原「まぁ待て。何でそう思う?」

北島「いや、これ、ランクとかあって、最終的には今、二人が着てる特攻服で走れるようになるとかなんですか?」

藤原「いや?これを着ては走らないぞ?」

北島「えっ?」

枝村「ランクが一番高い、走る時の服はコレだぞ(特攻服の前を開けて、紅色のランニングウェアを見せる)」

北島「何それ、ダサっ……」

枝村「何だと貴様!」

藤原「落ち着け、枝村」

枝村「でも藤原!」

藤原「良いから」

枝村「……分かったよ」

北島「あの、一応確認なんですけど、バイク見せてもらって良いですか?」

藤原「何で?」

北島「どういうバイクから乗れるのか気になって」

藤原「ここにバイクは無いからなぁ……」

北島「えっ?ゾクなのに?あぁ、バイクは別の所に置いてあるんですか?」

枝村「個人で持ってる奴はいると思うけど、ここには無いな」

北島「……あの、一応また確認なんですけど、ここってバイクで走るんですよね……?」

藤原「は?バイクなんて乗らないけど?」

北島「じゃあ何で走るんですか?」

枝村「そんなの決まってるだろう」

藤原「親から貰った脚だよ」

北島「じゃあ走るって、ライディングじゃなくてランニングって事ですか!?」

藤原「そうだよ?」

北島「えー!?ここ暴走族じゃないんですか!?」

枝村「俺達は健康族だよ?」

北島「健康族!?何それ!?」

藤原「俺達は身体と精神を鍛える、健康的な生活を送る為に設立されたゾクだ」

枝村「ここってクレナイ族じゃないんですか?」

藤原「それはすぐそこの角を曲がった所にある暴走族さんだね。ウチはベニ族だよ」

北島「字、一緒じゃん!」

枝村「読み方は違うから、時々間違って来る子が多いんだよね」

北島「じゃあその特攻服は!?」

藤原枝村「ただの趣味」

北島「じゃあここに入るのは止めるわ。間違えた」

藤原「クレナイ族に入るつもりなの?」

北島「当たり前じゃん」

枝村「止めといた方が良いよ~?」

北島「何で?」

藤原「結構厳しいよ?上下関係とか」

北島「そんなの分かってるよ」

藤原「分かってないよ。あそこ、シンナーもクスリも未成年飲酒、喫煙もやるよ?健康に悪いだけじゃなくて、犯罪にも手を染めるよ?」

北島「だからそれをやる為に入るんだろうが」

枝村「そんな事したら、将来、経歴に傷が付くよ?まともな人生歩めないよ?君まだ中学生でしょ?それでも良いの?」

北島「そんなの関係無ぇよ」

藤原「中学生なら、グレたいお年頃なのかもしれんが、止めときな。両親が悲しむぞ」

北島「親なんて関係無ぇ!俺は走ってやるんだ!」

枝村「おぉ!一緒に走るか!」

北島「んな訳無ぇだろ!何で自分の脚で走らなきゃならないんだ!」

藤原「でも脚は楽だよ?バイクに乗るといちいちメンテナンスしなきゃならないし。その知識はあるの?」

北島「それは……」

枝村「ガソリン代も馬鹿にならないよ?お金あるの?」

北島「うっ、そ、それは……」

藤原「車検とかもあるし。大変だよ?バイク乗るのは」

北島「ぐぬぬ……」

藤原「ねぇ、バイク乗るなんて止めちゃおうよ……俺達と一緒に走ろうよ……」

枝村「お金掛からないよぉ……健康になれるよぉ……」

北島「止めろ……!」

藤原「一緒に陸上世界一目指そうよぉ……楽しいよぉ……」

枝村「陸上で頂点目指さなくても将来に傷は付かないよぉ……」

北島「止めろ!」

藤原「一緒にインターハイ目指そう……」

枝村「栄光を掴み取ろう……」

北島「止めろ止めろ止めろぉ!」

藤原枝村「走ろう走ろう走ろう走ろう走ろう走ろう……」

北島「うわあああああああああああああああああああああああああ」


 暗転。


 明転。


 族のアジト。

 藤原、テレビを観ている。


枝村「(舞台下手から登場)何観てんの?」

藤原「北島君の特集」

枝村「彼、頑張ってるよね」

藤原「まさか高校生になってインターハイに出られるとは思わなかったな」

枝村「俺達のお陰かな?」

藤原「そうだろうな。と、思いたい」


 北島、弓を入れた袋を持って、舞台下手から登場。


北島「失礼します!」

藤原「おう、北島君。久し振り」

枝村「元気そうだね」

藤原「はい。お陰様で」

藤原「次の大会、いつだっけ?」

北島「来週の日曜日です」

枝村「今日も部活の練習だったの?」

北島「はい。来週に向けて最終調整です」

藤原「そうか。頑張れよ」

北島「はい!」

枝村「それで?今日は何の用?」

北島「はい!ここで鍛えた腕を見せに来ました!」

藤原「そうか。見せてくれ」

北島「はい!」


 北島、弓を取り出す。そして弓を弾く。


藤原枝村「おー」

北島「矢を放てないのが残念です(弓をしまう)」

藤原「いやいや、立派立派」

枝村「その調子で頑張んなよ」

北島「はい!では俺はこれで!」

藤原「またいつでも遊びにおいで」

枝村「待ってるよ」

北島「はい!では!」


 北島、舞台下手に退場。


藤原「……一緒に走って、更生してくれたのは良いんだけどさぁ」

枝村「それな。思うよ。俺も」

藤原「なっ。走ってたんだよ?なのにさぁ」

藤原枝村「何で弓道でインターハイ行くかなぁ……」






―――終わり


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