コント集6
コント集6
51・・・クレーム
52・・・・ゾンビ
53・・・メリーさん
54・・・記憶喪失
55・・・競馬
56・・・幸運と不運
57・・・取り調べ
58・・・通報
59・・・爆弾処理班
60・・・裏切者
『クレーム』
・登場人物
小川
藤原
・舞台
お客様相談室
藤原宅
明転。
舞台上手側、お客様相談室。電話と椅子とテーブルが一つずつ。舞台下手側、藤原宅。椅子とテーブルが一つずつ。
小川、舞台上手に板付き。藤原、舞台下手に板付き。かっぱえびせんを食べている。藤原、電話を掛ける。
SE、小川の電話が鳴る。
小川「はい、こちらお客様相談室です。担当の小川と申します。どのようなご用件でしょうか?」
藤原「俺、藤原ってもんですけどね」
小川「藤原様ですね。どのようなご用件でしょうか?」
藤原「ご用件も何も無ぇよ!クレームだクレーム!」
小川「それは大変申し訳ございません。どの商品のクレームでしょうか?」
藤原「かっぱえびせんだ」
小川「ご購入下さり誠にありがとうございます」
藤原「ありがとうございますじゃないんだよ!俺は怒ってるんだ!」
小川「申し訳ございません。何か不備がありましたでしょうか?」
藤原「……美味すぎるんだよ」
小川「はい?」
藤原「食べても食べてもやめられない、とまらないんだよ」
小川「はぁ……」
藤原「ふと店で何気無く手に取って買って家で食べてみたらさぁ、最初どこが美味いんだと思って食べていたんだよ」
小川「はい」
藤原「だけど食べ進めていると、自然と次のかっぱえびせん、その次その次その次と、手が止まらないんだよ!」
小川「それはありがとうございます」
藤原「ありがとうございますじゃないんだよ!気付いたらもうでっかい袋、一袋を平らげていたんだよ!」
小川「それはそれは」
藤原「一気にこんなに食べちゃあいけないと思って小分けされたやつに変えてみたんだよ。四袋入りのやつな。でも食べる手を止められずに気付けば四袋全部食べちゃってたんだよ!」
小川「はい」
藤原「割高だけど小分けされてる奴の方が健康に良いかと思って食べてみたら、結局大きい袋を一袋食べた方が安いし多かったんだよ!」
小川「はぁ」
藤原「それにこの値段設定も絶妙だよ!小分けされてるやつは48gで101円、一袋77gのやつは129円!安い!安い上にこの美味さは犯罪だよ!」
小川「犯罪とは穏やかじゃありませんね」
藤原「味のバリエーションも豊富でさぁ!さくらえびチップスが入ってるやつとか、コンソメ味とか、のりしお味とか!どんだけ俺の舌を喜ばせてくれるんだよ!」
小川「そう言って頂けて嬉しいです」
藤原「赤ちゃん用のも味が薄めで美味いしさぁ!子供の健康も気遣えるとかどこまで考えてるんだ!」
小川「ありがとうございます」
藤原「ところでこれ聞きたかったんだけどさ」
小川「何でしょう?」
藤原「これさぁ、何かヤバい薬でも入ってるんじゃないの?」
小川「えっ?」
藤原「だっておかしいだろ。これだけ『やめられない!とまらない!凄い!ヤバい!半端無ぇ!』を宣伝文句にしてんだからさ」
小川「『やめられない とまらない!』です」
藤原「こんだけ手を休める暇無く喰わせ続けるんだから、何かヤバい薬でも入ってないと、この中毒症状は説明がつかない」
小川「入っておりません。ご安心下さい」
藤原「じゃあこの中毒症状はどう説明するんだ!」
小川「素朴で美味しい味を追求しておりますので、それがお客様のお好みに合っているのかと……」
藤原「はぁ?それで納得出来るかよ!」
小川「と、仰いましても、こちらではそれ以上の説明が出来ませんので……」
藤原「もういい!俺は出るとこ出るからな!覚悟しておけ!」
藤原、電話を切る。
小川「お客様?お客様!?はぁ……変なお客様もいるもんだぁ……」
藤原、電話を掛ける。
SE、小川の電話が鳴る。
小川「はい、こちらお客様相談室です。担当の小川と申します。どのようなご用件でしょうか?」
藤原「俺、藤原ってもんですけどね」
小川「あ、先程の!」
藤原「あぁ、アンタか。またクレームだよ」
小川「は、はぁ……どのようなクレームでしょうか?」
藤原「お宅のじゃがりこが余りにも美味すぎるんだよ!どうしてくれる!」
小川「面倒臭ぇ、コイツ!」
―――終わり
『ゾンビ』
・登場人物
藤原
西岡
自衛隊員
・舞台
廃墟
明転。
藤原、西岡、バッグを持って舞台上手から駆け込んで、扉に鍵を掛ける。
藤原「はぁ……はぁ……ここなら少しは時間を稼げるか……」
西岡「はぁ……はぁ……あぁ、だがゾンビ達が来るのも、時間の問題だな……」
藤原「あぁ……」
西岡、ポケットから煙草を取り出す。
藤原「それは……?」
西岡「煙草。さっきコンビニに寄った時に搔っ攫ってきたんだよ。一度は吸ってみたかったんだ……」
藤原「止めろー!」
西岡「何すんだよ!」
藤原「煙草なんか吸ったら肺癌になるぞ!?」
西岡「そんな即効性無ぇよ!じゃあこれだ……」
西岡、バッグからビールを取り出す。
藤原「それは?」
西岡「ビールだ。実は昨日、二十歳の誕生日でな。一度は飲んでみたかったんだ」
藤原「止めろー!」
西岡「今度は何だよ!?」
藤原「酒なんか飲んだら肝硬変になるぞ!?」
西岡「だからそんな即効性無ぇよ!チッ、喉が渇いたな。コーラでも飲むか……」
西岡、バッグからコーラを取り出す。
藤原「止めろー!」
西岡「だから何だよ!?」
藤原「コーラなんか飲んだら糖尿病になるぞ!?」
西岡「さっきから何だよお前!健康志向か!」
藤原「お前の未来の事を思って言ってんだろうが!」
西岡「そんな先の未来より、すぐそこの未来の方がピンチだろ!」
藤原「きっと助けは来る!そんな死に急ぐな!」
西岡「死に急いでは無ぇよ。お前が勝手に騒いでるだけだろ」
藤原「最後まで希望は捨てるな!きっと助かるさ!」
西岡「分かったよ……」
西岡、舞台下手(窓)に向かう。
西岡「チッ……奴らここに気付いたか」
藤原「もうそこまで来てるのか?」
西岡「あぁ……うじゃうじゃ集まって来てる」
藤原「少しでも飯を食って体力を付けておこう」
西岡「あぁ、そうだな。俺は飲み物しか持ってきてないが、飯はどうだった?」
藤原「あぁ、バッチリだ(バッグから食べ物を取り出す)」
藤原「サラダチキンだろ?低糖質パスタだろ?ダイエットフードだろ?それに……」
西岡「待て待て待て。何コレ?」
藤原「食べ物だけど?」
西岡「何で全部健康志向の食べ物なんだよ!?これじゃあ精が付かないだろ!」
藤原「俺、今ダイエット中だから」
西岡「この期に及んで何健康になろうとしてんの!?カロリーがある物食べないと生き抜けないぞ!?」
藤原「この世が平和になった先の未来を考えてるから」
西岡「目先の危機を考えろよ!」
藤原「目先の幸せの積み重ねが体を不健康にするんだぞ!」
西岡「何その逆ギレ!?新しい!」
藤原「とにかく喰っとこうぜ」
西岡「まぁこれしか無いなら仕方が無いか(藤原の側に座る)」これで全部?」
藤原「いや、まだあるよ。ポテチとか」
西岡「何だ。ジャンキーな物もあるじゃないか。スポドリでも飲むか」
藤原「俺はビール飲もうかな(煙草に火を点け、ビールを開ける)」
西岡「おいおい、俺は駄目で、お前は良いのか?」
藤原「ご褒美デーを決めないとストレスで逆に太るからな」
西岡、ポテチに手を伸ばす。
藤原「お前は駄目だ」
西岡「何で?」
藤原「ポテチなんて食べたら高血圧になる」
西岡「何でそんな健康志向なん……?」
藤原「俺の親父とオフクロはゾンビになっちまってな。ブクブク太ってたからか、食欲が異常に強いゾンビになった。だからその時、誓ったんだ。もし俺がゾンビになったら、少しでも食の細いゾンビになろうってな」
西岡「そんな事があったのか……悪いな、怒鳴ったりして」
藤原「まぁ後はシェルターに居る女の子達が細身のマッチョが好きって言ってたから、その為にダイエットしてる」
西岡「俺の感動を返せ」
藤原「こんなピンチの状況でも愛に生きる。これ感動しない?」
西岡「しない。只の不純にしか感じない」
藤原「そうか」
SE、扉を叩く音。
西岡「ゾンビ共、来たか!?」
藤原「あぁ!嗅ぎつけるのが早い!」
西岡「どうする!?」
藤原「外は……駄目だ!囲まれてる!」
西岡「煙草の一本でも吸っておくんだった!」
藤原「だから肺癌になるって言ってんだろ!」
西岡「んな事言ってる場合か!」
SE、ヘリコプターの音。そして銃撃音。
西岡「何だ!?」
自衛隊員、舞台上手から登場。
自衛隊員「君達、無事か!?」
西岡「貴方は、自衛隊員……?」
自衛隊員「シェルターから通報があったんだ。食料を探しに君達が外に出たと」
藤原「助けに来てくれたんですか!?」
自衛隊員「あぁ。ここからはヘリコプターを使ってシェルターまで送る。よく頑張ったな」
藤原「やったー!今日は祭りだー!」
藤原、コーラを開け、ビールと交互に飲む。
西岡「おいおい、落ち着けよ」
藤原、腹を抱え、咳き込んでその場に倒れる。
自衛隊員「おい!どうした!」
西岡「藤原!」
藤原「持病の肺癌と肝硬変と糖尿病と高血圧が……!」
西岡「お前健康志向の癖に体ズタボロじゃねぇか!」
―――終わり
『メリーさん』
・登場人物
メリーさん
藤原
・舞台
藤原宅
・やるにあたって(役者)
途中で藤原役の人がメリーさんに対して何度かしつこくどこにいるか聞き返す事。(噛ませる。噛むまで粘る)アドリブで伸ばしてくれても構わない。または噛んだらそこを膨らませてくれても構わない。
明転。
。
藤原「(舞台上手から登場)あー、今日も仕事疲れたーっと……」
SE、藤原のスマートフォンが鳴る。
藤原「非通知?(電話に出る)はい、もしもし?どなたですか?」
メリー「私メリーさん。今、マサチューセッツ州にいるの(電話が切れる)」
藤原「何だ?一体?」
SE、スマートフォンが鳴る。
藤原「もしもし?」
メリー「私メリーさん。今、OPEC輸出国機構に参加しているの(電話が切れる)」
藤原「どこ?」
SE、スマートフォンが鳴る。
藤原「もしもし?」
メリー「私メリーさん。今、六カ国協議に参加しているの(電話が切れる)」
藤原「だからどこ?」
SE、スマートフォンが鳴る。
藤原「もしもし?」
メリー「私メリーさん。今、貨客船万景峰号の中にいるの(電話が切れる)」
藤原「海を渡ったか」
SE、スマートフォンが鳴る。
藤原「もしもし?」
メリー「私メリーさん。今、九州空港の究極高級航空機の中にいるの(電話が切れる)」
藤原「空も飛んだか」
SE、スマートフォンが鳴る。
藤原「もしもし?」
メリー「私メリーさん。基本情報技術者試験会場にいるの(電話が切れる)」
藤原「免許を取りに行ったか」
SE、スマートフォンが鳴る。
藤原「もしもし?」
メリー「私メリーさん。中小商工業振興会議に出ているの(電話が切れる)」
藤原「無事試験は受かったようだな。てかさっきから早口言葉ばかりだな」
SE、スマートフォンが鳴る。
藤原「もしもし?」
メリー「私メリーさん。今、東京特許許可局にいるの(電話が切れる)」
藤原「上京したか」
SE、スマートフォンが鳴る。
藤原「もしもし?」
メリー「私メリーさん。今、国家戦略局にいるの(電話が切れる)」
藤原「東京巡りしてるな」
SE、スマートフォンが鳴る。
藤原「もしもし?」
メリー「私メリーさん。今、上高畑にいるの(電話が切れる)」
藤原「俺の住む地域に来たな」
SE、スマートフォンが鳴る。
藤原「もしもし?」
メリー「私メリーさん。今、新人歌手新春シャンソンショーにいるの(電話が切れる)」
藤原「近くでやってたな、そのショー」
SE、スマートフォンが鳴る。
藤原「もしもし?」
メリー「私メリーさん。今、高架橋橋脚にいるの(電話が切れる)」
藤原「急に近付いてきたな」
SE、スマートフォンが鳴る。
藤原「もしもし?」
メリー「私メリーさん。今、高所作業車にいるの(電話が切れる)」
藤原「ちょっと寄り道してる」
SE、スマートフォンが鳴る。
藤原「もしもし?」
メリー「私メリーさん。今、新設診察室視察にいるの(電話が切れる)」
藤原「すぐそこの病院まで来てるな」
SE、スマートフォンが鳴る。
藤原「もしもし?」
メリー「私メリーさん。今、放射線照射装置室にいるの(電話が切れる)」
藤原「レントゲン撮ってる。どこか体悪いのかな?」
SE、スマートフォンが鳴る。
藤原「もしもし?」
メリー「私メリーさん。今、派出所の前にいるの(電話が切れる)」
藤原「もう、すぐそこじゃないか」
SE、スマートフォンが鳴る。
藤原「もしもし?」
メリー「私メリーさん。今、貴方の住むアパートの前にいるの(電話が切れる)」
藤原「早口言葉じゃなくなった」
SE、スマートフォン鳴る。
メリー、舞台上手から登場。
藤原「……もしもし?」
メリー「私メリーさん。今、貴方の後ろにいるの……!」
藤原「あ、早口言葉先輩、お疲れ様です」
メリー「あ、はい、どうも」
藤原「随分、遠回りしてきましたね。わざわざアメリカから」
メリー「まぁ、これが仕事みたいなものなんで、全力でやらせて頂きました」
藤原「しかし何故、早口言葉を?」
メリー「たまたまです。噛んだらどうしようかと思ったけど、何とか乗り切れました」
藤原「ガッツリ噛んでましたよ」
メリー「エー、ナンノコトカナー?」
藤原「で、メリーさん。この後どうするんですか?」
メリー「特に何も。じゃあ帰りますね」
藤原「あっ、はい」
メリー、舞台上手に退場。
藤原「初めてメリーさんに会ったけど、大変なんだなぁ。早口言葉もスラスラ言えないと怪談は務まらないのか」
―――終わり
『記憶喪失』
・登場人物
北島
藤原
西岡
枝村
・舞台
病室。
・衣装
西岡、藤原、スーツ姿。
明転。
病室。ベッドが一つに椅子が二つ。
北島、ベッドの上で入院患者用の入院着を着て横になっている。
西岡、椅子に座っている。
西岡「じゃあ、何も覚えてないのか……」
北島「すみません……」
西岡「いや、良いんだ。思い出なんてものは、これからだって作れる。また皆で作っていこう」
北島「はい……でもすみません、僕が記憶喪失になったばっかりに、皆さんにご迷惑をお掛けして……」
西岡「気にすんな。そりゃ、事故に巻き込まれたって聞いた時は心配したけど、こうして命だけでも助かって一安心だよ」
北島「ありがとうございます」
西岡「入院は長くなりそうなのか?」
北島「はい。あと三ヶ月は入院だそうです」
西岡「そかそか。まぁ、ゆっくり治して行けよ。その内、記憶も取り戻せるかもしれないしな」
北島「そうなると良いのですが……」
西岡「あ、そうだ。この事だけどな、藤原にも伝えといたから」
北島「フジワラ……?」
西岡「あぁ、そうだった。記憶が無いんだったな。俺達は俺とお前と藤原の三人でいつもつるんでたんだ。友達だよ」
北島「そうですか……その人に会えばまた記憶が取り戻せるかもしれませんね」
西岡「そうだな。また前みたいに三人で馬鹿やろうぜ」
北島「はいっ。あ、そうだ。ちょっとこのスマホ持ってて貰えますか?」
西岡「何で?」
北島「この病院のリハビリの一環で、ある程度歩かなきゃならないんですけど、自分で歩くのまだ辛くって……歩数計の歩数稼ぎに協力してほしいんです」
西岡「へー。まぁ良いよ」
北島「ありがとうございます」
藤原、舞台上手から登場。
藤原「北島……!」
西岡「おぉ、藤原、よく来た。北島、紹介するよ。藤原だ」
北島「は、初めまして……じゃなかった。よ、よう」
藤原「西岡、北島は……」
西岡「電話で話した通りだ。記憶喪失だよ」
藤原「本当か?本当に記憶喪失なのか……?」
北島「はい……すみません……」
西岡「藤原、辛いのは分かるが、一番辛いのは北島―――」
藤原「良かった~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
西岡「は?」
北島「良かった……?」
藤原「あ、いやいやいや!何でもない!しかし意外と元気そうだなぁ、オイ!何か欲しい物でもあるか?売店で買って来てやるよ!なっ?」
北島「いえ、西岡さんにさっき買ってきてもらいましたので……」
藤原「おぉ、遠慮すんじゃねぇぞぉ?俺とお前の仲なんだからよ!なぁ、西岡!」
西岡「あ?お、おぉ」
藤原「それにしても記憶喪失ってどこまで覚えてないんだ?」
西岡「家族や友人はおろか、自分の事も思い出せないでいるんだよ」
藤原「じゃあ事故が遭ったあの日の事は?」
北島「それが覚えてないんですよね……」
西岡「だから警察が犯人を必死で探しているんだよ」
藤原「そっかそっか……良かった……」
西岡「え?」
藤原「え?あ、いやいやいや……でも大学の事くらいは覚えてるだろ?俺達いつもつるんで遊んでたじゃないか」
北島「それがさっぱり……」
藤原「何だって!?じゃあ講義の実験で深夜まで居残りさせられた事も、サークルでお前が彼女にフラれてヤケ酒した事も、夏休みに三人でバーベキューした事も、俺がお前を車で轢いた事も全部忘れちまったのかよ!?」
西岡「藤原、藤原、藤原!?ちょっとこっち来い……」
西岡、藤原、少し北島から離れる。
西岡「えっ、お前、犯人?」
藤原「ななな何が?」
西岡「お前、北島を轢いた犯人だろ」
藤原「ちちちが、ちが、違いますよ」
西岡「いや絶対そうじゃん」
藤原「何を根拠に!?」
西岡「いや、だって、記憶が無い事に露骨に喜んでたり、妙に気を遣ってたし」
藤原「そんな、たまたまだよ……」
西岡「後、俺がお前を車で轢いたって決定的な事言ってた」
藤原「それは昔の話だよ」
西岡「昔ってどれくらい?」
藤原「二週間前とかだよ」
西岡「丁度事故があった時期じゃねぇか!やっぱりお前が犯人か!」
藤原「仕方なかったんだよ!夜道だったけど、いつも通ってる道だからスピード出して早く帰ろうとしたらさぁ!細い道に入った所で突然アイツが見えてそのまま撥ねちゃったんだよ!」
西岡「だったら先に救急車呼んで警察に通報だろ!何やってんだよ!」
藤原「怖かったんだよ!撥ねたの友達だぞ!?気まずいどころか、死にでもしたらもうこっちの心が潰れそうだよ!」
西岡「だから早く救急と警察に通報しときゃ良かったろ!その方が仮にアイツが死んでも最善は尽くしたって言えただろ!」
藤原「そんな事、短時間で考えられるかよ!」
西岡「結局自分の事ばかり考えてるじゃないか!もういい!」
藤原「西岡ぁ!」
西岡「何だよ!」
藤原「この事、北島に言う?」
西岡「当たり前ぇだろ!」
藤原「それだけは勘弁してくれないか?」
西岡「は、はぁ!?」
藤原「この通りだ!頼む!」
西岡「そんな事して何になるって言うんだよ?」
藤原「俺は今、金が無い。それにこの事を知らなければお互いの関係は変わらない。そう、この事を黙っていてくれれば、いつもの三人の関係が続くんだ!お前だってこの関係が崩れるの嫌だろう!?」
西岡「いや、別に構わないけど……」
藤原「何で!?」
西岡「友達を轢き逃げするような奴と友達なんかやってられない」
藤原「そんな事言わずにさぁ~!今日だけでも良いから俺に付き合ってよ~!」
西岡「んー、まぁいきなりショックが強い事を話しても頭がパンクして余計に記憶が戻らなくなるかもしれないな」
藤原「だろ!?だから頼む!」
西岡「……分かったよ。今日だけだからな」
藤原「ありがとう!」
西岡、藤原、席に戻る。
西岡「すまんな、北島。ちょっと話し込んじゃって」
北島「良いんですよ。それより西岡さん、藤原さん、さっき話しててふと思い出しそうになった事があるんです」
藤原「え?どんな事?」
北島「事故の事です」
西岡「詳しく聞かせてくれよ」
北島「人通りの少ない夜道を歩いてて、買い物袋を持っていた気がします……そして車のランプが光って、振り返ってみたら……そうだ、思い出したぞ!藤原!お前、俺の事を―――」
藤原「うわああああああああああああああああああああああ!!!」
藤原、北島の頭を殴る。北島、気絶する。
西岡「おいおいおい!?何してんだよ!?」
藤原「記憶が戻っちゃうだろ!」
西岡「だからって頭殴んなくっても良いだろ!頭が一番怪我してるんだから!」
藤原「だって、だって~!!!」
北島「(起き上がる)う、う~ん……」
西岡「北島!大丈夫か!?」
北島「はい……あれ?何か話していたような気がするけど、何でしたっけ?」
西岡「事故の話だよ。振り返ったら―――」
藤原「いきなり記憶を取り戻そうとしたら体に悪い。今は寝ておけ」
西岡「藤原?」
北島「はい……今日はもう記憶を取り戻す事は諦めます」
藤原「そうしとけ。今は体を治す事を優先して休め」
北島「はい……」
藤原「何か話してたら小腹空いて来たな。ちょっと売店行って何か食い物、買ってくるわ」
西岡「おう」
藤原「じゃ」
藤原、舞台上手に退場。
北島「……行った?」
西岡「え?」
北島「藤原」
西岡「あ、うん。行った」
北島「そっかそっか。はぁ、これはもう許されないな……西岡、スマホ返して」
西岡「え?あ、あぁ。はい」
北島「ありがとう」
西岡「歩数計はもう良いの?」
北島「大丈夫。もう必要無い」
北島、スマートフォンで電話する。
北島「もしもし、枝村さんですか?北島ですけど。あの件、思い出したんですぐに来て下さい。はい。はい、その人も今この病院にいますんで。はーい。じゃあ(電話を切る)」
西岡「どこに電話したの?」
北島「あぁ、警察。今回の事故の事を全部話そうと思って」
西岡「えっ!?じゃあ、記憶が!?」
北島「記憶喪失も何も、そんなもの無かったんだよ」
西岡「えっ!?嘘っ!?」
北島「嘘」
西岡「何でこんな事したんだよ?」
北島「これでも一応アイツは結構な付き合いだし、友達のよしみで最後のチャンスをあげたんだよ」
西岡「最後のチャンスって?」
北島「人を撥ねた上に通報しなかったというだけでも大分、罪は重いけど、それでも自首するか俺に謝罪するって言うなら今回の事は水に流してやろうと思った」
西岡「はぁ~……お前優しいな」
北島「これでも友達思いですから」
西岡「で?アイツは?」
北島「逮捕」
西岡「ですよね」
北島「ちなみにさっき俺から離れて何か話し合ってたのって?」
西岡「あぁ、アイツの犯行の一部始終」
北島「そうか。じゃあそれは録音出来ただろうな」
西岡「お前、最初からアイツがボロを出す事を見越して……?」
北島「うん。西岡になら全部話すだろうと思って」
西岡「って事はその為にスマホを俺に持たせてたのか……」
北島「そういう事」
西岡「怖ぁ、お前……」
藤原、舞台上手から登場。
藤原「ただいま~」
北島「おかえり、藤原」
藤原「おう。お前も何か食うか?色々買ってきたぞ」
北島「いや、俺は良いよ。西岡」
西岡「ん?」
北島「確保ー!」
西岡「え?あ、あぁ!おう!(藤原を取り押さえる)」
藤原「うおっ!?何!?何なの!?」
北島「記憶喪失なんて真っ赤な嘘。お前の犯行の証言、取ったからな」
藤原「何だってー!?じゃあ今までの俺の苦労は!?」
西岡「全部水の泡だよ」
藤原「そんなぁ……」
北島「観念しな」
藤原「なぁ!俺達友達だろ!?見逃してくれよ!」
北島「その友達を先に裏切ったのは誰だよ」
西岡「そうだそうだ」
藤原「ほんの出来心だって!」
北島「その出来心で友人が一人、死にかけたんだぞ」
西岡「そうだそうだ」
藤原「本当に申し訳なかった!許してくれ!」
北島「残念ながらもう遅い。次期に警察が来る。さよならだ、藤原」
藤原「そんな~……」
枝村、舞台上手から登場。
枝村「神奈川県警の枝村です。犯人は?」
北島「コイツです」
枝村「そうですか」
枝村、藤原に手錠を掛ける。
枝村「来い」
藤原「はい……」
枝村、藤原、舞台上手に退場。
西岡「一件落着、か?」
北島「いや、まだ終わりじゃない」
西岡「え?」
北島「俺の部屋から盗み出した貴金属、大学時代の卒論の丸写し、彼女の寝取り、その他諸々アイツのやってきた所業は全て罪滅ぼしさせないと気が済まない」
西岡「アイツどんだけ罪深い男なんだ」
北島「だろう?」
西岡「そしてお前は聖人君子か」
北島「仏の顔も三度までってね」
西岡「一度の顔が広過ぎる」
―――終わり
『競馬』
・登場人物
西岡
藤原
・舞台
焼肉屋
・衣装
二人共スーツ。
明転。
焼肉屋。テーブル一つに長椅子が二つ。
西岡、藤原、板付き。二人共ビールジョッキを持っている。
西岡「じゃあ、カンパーイ!」
藤原「カンパーイ」
西岡「いやぁ、まさか突然、藤原から焼肉奢ってくれるなんて思わなかったなぁ。どういう風の吹き回し?」
藤原「実は競馬で勝ったんだよ」
西岡「そうなんだ。いくら勝ったの?」
藤原「五千万」
西岡「ご、五千万!?凄ぇ勝ったな!?大穴馬券でも買ったのか?」
藤原「いいや、本命」
西岡「いやいやいや、本命でそんななる訳無いじゃん。万馬券に大金ぶち込んだんだろ?」
藤原「俺そんなにギャンブラーじゃないよ。勝つ確率が高い方にしかベットしないから」
西岡「レート何倍だったの?」
藤原「2倍」
西岡「……は?」
藤原「ほら、もうこの話は終わり。肉喰おうぜ、肉」
西岡「ちょっと待てちょっと待て。2倍って、事はさ、お前二千五百万注ぎ込んだの?」
藤原「そうだよ?」
西岡「はぁ!?どこからそんな金手に入れたんだよ!?闇金か!?」
藤原「違うよ」
西岡「じゃあどこから?」
藤原「宝くじで二等の二千五百万当てた」
西岡「マジで!?運が良いね!?」
藤原「物量作戦で勝ち取ったみたいなもんだよ」
西岡「物量作戦、って言うと?」
藤原「一千万円分、宝くじを買って、当てた」
西岡「その一千万円はどこから?」
藤原「競輪で当てた」
西岡「それこそ大穴当てたんだろ?」
藤原「いいや?本命レート二倍」
西岡「じゃあその五百万はどこから?」
藤原「競輪で当てた」
西岡「……大穴じゃないんだろ?」
藤原「うん。本命レート二倍」
西岡「その二百五十万はどこから?」
藤原「競艇で当てた」
西岡「また本命レート二倍か?」
藤原「うん」
西岡「その百二十五万はどこから?」
藤原「オートレースで勝った」
西岡「また本命レート二倍?」
藤原「うん」
西岡「その六十万ちょいはどこから?」
藤原「元手十万でパチスロやって勝った」
西岡「まぁ流石にその十万は普通に働いて貯めたか」
藤原「うん」
西岡「へー、あっそー」
藤原「普通だろ?」
西岡「いや、全然普通じゃない。よく勝ち続けたな」
藤原「運が俺に味方している」
西岡「羨ましい……てかよくそんな毎回全額賭けられるな」
藤原「やるならパーッとやりたいじゃん」
西岡「だとしたら普通大穴に賭けない?元手がそれなら巨万の富が得られるじゃん」
藤原「確実性が無いなら賭けたくない」
西岡「理想的なんだか現実的なんだか分からん……」
藤原「大きく負けたくないってだけ」
西岡「小さく勝って満足してるだけまだそこらのギャンブラーよりはマシか……」
藤原「塵も積もれば山となる。これが俺のモットーだ」
西岡「ご立派ご立派。で?この後どうするんだ?」
藤原「どうするって?」
西岡「またギャンブルで勝ちに行くのか?」
藤原「いいや、ここらで止めておく」
西岡「何で?波に乗ってるじゃん」
藤原「ここらで止めておかないと、神様が見ていて、大負けになりそうだから」
西岡「引き際を知っているな……でも何か勿体無い気もする」
藤原「ギャンブルにのめり込み過ぎると痛い目に会いそうだからさ」
西岡「偉い。偉いなぁ……俺も万馬券当たんないかなぁ」
藤原「俺は別に万馬券を当てた訳じゃないんだけど」
西岡「あぁ、そうだったな」
暗転。
明転。
西岡「カンパーイ!」
藤原「カンパーイ」
西岡「また焼肉奢ってくれるなんて、また馬券でも当てたか?」
藤原「いいや、今度はカジノ」
西岡「お前……まさか裏カジノに……?」
藤原「違う違う。ラスベガスに旅行行ってきたの」
西岡「あぁ、何か前に有給使って行ってきたな。あれ?ギャンブルは止めたんじゃなかったの?」
藤原「大学時代の友達と行ってきたんだけど、その場のノリでやっちゃった」
西岡「勝ったの?」
藤原「まぁね」
西岡「そうか。いくら勝ったんだ?」
藤原「一千万」
西岡「一千万?」
藤原「ビギナーズラックってやつだな」
西岡「へー」
藤原「前みたいに驚かないんだな」
西岡「前に五千万勝ったって話聞いちゃあ、そんなもんだよ」
藤原「あ、そー」
西岡「元手は?」
藤原「十万」
西岡「へー。今回は大勝ちしたね。また地味に賭けて行ったんだろ?」
藤原「まぁ、地道にコツコツと、ね」
西岡「で?その一千万円の使い道はどうすんの?」
藤原「円じゃないよ?」
西岡「は?」
藤原「ドル」
西岡「一千万ドル!?え?日本円でいくら……?」
藤原「大体十億円かな」
西岡「マジで!?ど、どうすんのそれ……?」
藤原「とりあえず貯金」
西岡「堅実的だな。仕事はどうすんの?」
藤原「続けるよ?」
西岡「何で?もう働かなくて良いじゃん」
藤原「いつデフレの波が襲ってくるかも分からんから、稼げる内に稼いどこうと思って」
西岡「現実的~」
藤原「それまではまたギャンブルでチマチマと稼いでいくよ」
西岡「どこがチマチマだよ。大きく賭けてるじゃないか」
藤原「でもレートは低いよ」
西岡「そういう問題じゃない。どうして毎回、全額、賭けるんだよ」
藤原「倍にして勝ちたいじゃん」
西岡「もっと欲は出ないのか?」
藤原「欲が無けりゃギャンブルなんてやらんよ」
西岡「無欲なのか欲張りなのか、ハッキリしてくれ」
藤原「小さな欲張りだよ」
西岡「成程ね。今分かった。お前、変にケチなギャンブラーだよ」
藤原「さて、金は手に入ったし、そろそろ結婚でもするかな」
西岡「人生最大のギャンブルは結婚って言うしな。アイドルでも捕まえれば?」
藤原「いや、価値観があった年相応の娘を嫁にする」
西岡「そこはギャンブルじゃないんかい」
―――終わり
『幸運と不運』
・登場人物
藤原
北島
・舞台
大学構内
明転。
大学構内。食堂。テーブル一つに椅子が二つ。
北島、板付き。
藤原「(舞台上手)から登場うぃーっす」
北島「うぃーっす。お疲れー」
藤原「いやー、あの教授の講義、怠いわー」
北島「そうなん?どんな感じ?」
藤原「とにかく眠いんだよ。長々と喋ってるだけで全然、内容が頭に入って来ない」
北島「へー。その点俺の学科は割と楽しいな。全部の授業が集中して聞いてられる」
藤原「羨ましいー。あーあ、俺もそっちの学科に入っときゃ良かったなー」
北島「まぁそう言うなって。こっちはこっちで大変なんだし。それに講義がつまらないなんて今の内だけだろ?あと一年だろ。来年にはもう卒論、卒論で忙しくなるんだからさ」
藤原「あー、そっかー。卒論かー。それに加えて就活かー」
北島「な?そっちの方が怠いだろ?」
藤原「確かになー。働きたくねー。宝くじでも当たんないかなー」
北島「そんな簡単には当たらんだろ」
藤原「だよなー。あ、今日この前買った宝くじの抽選日だった」
北島「おぉ、当たったらいくらか奢ってくれよな」
藤原「当たったらな。えーっと……(スマホで調べる)」
北島、お茶を飲む。
藤原「うおっ!?マジか!?」
北島「どうした?当たったか?」
藤原「一等当たった……!」
北島「マジか!?やったな!いくら?」
藤原「五億」
北島「うおおおお……億万長者じゃん……!」
藤原「これはヤバい!今日の講義終わったら即、替えに行くわ!」
北島「そうしろそうしろ!はぁ~……当たる奴って本当に居るんだ……」
藤原「もうニヤニヤが止まらん……」
SE、藤原のスマートフォンが鳴る。
藤原「あ、母さんからだ。(電話に出る)はい、もしもし?うん、うん。えっ!?マジで!?うん、うん……分かった。はーい、じゃあ……(電話を切る)へへへ~……」
北島「どうした?何かまたあったか?」
藤原「あ?あぁ、うん。へへへ……」
北島「何だよ、教えろよ~」
藤原「大した話じゃないよ~」
北島「気になるじゃんか~」
藤原「え~?本当大した話じゃないよ?お祖母ちゃんが階段から落ちて入院した」
北島「……は?」
藤原「な?大した事無かったろ?へへへ……」
北島「いやいや、何笑ってんの!?おばあちゃん入院したんだろ!?見舞いに行ってやれよ!?」
藤原「いや、行くけどさ~。今は講義があるし~」
北島「すぐに行ってやれよ!」
藤原「命に別状は無いらしいから大丈夫だよ~。あっはっは」
北島「だから何で笑ってんの!?家族が一大事なんでしょ!?」
藤原「いやぁ、今の俺には宝くじがあるからねぇ。多少の不幸は気にならないよ」
北島「多少の不幸!?家族が大変な事になってるのに!?」
藤原「宝くじの方が一大事だろーーーーーーーー!!!!!!!!」
北島「……何で怒ってんのコイツ……」
SE、藤原のスマートフォンが鳴る。
藤原「あ、また母さんからだ。(電話に出る)はい、もしもし?うん、うん。あ、そう~。マジかぁ……うん、元気出してって伝えといて?うん。はーい、じゃあね~(電話を切る)」
北島「今度は何だよ?」
藤原「あぁ、父さんが会社クビになった」
北島「マジで!?一大事じゃん!」
藤原「大丈夫大丈夫。今は俺が金を持ってるから、家族の一人や二人、養ってやれる」
北島「そういう問題じゃ無くない?」
藤原「恩返しだよ」
北島「お父さんのプライド、ズタボロよ?」
藤原「ドンマイ父さん」
北島「しかしまぁ、動じないな」
藤原「何が?」
北島「身内の不幸に」
藤原「そんな事より嬉しい事があったからね」
北島「そんな事……まぁ、お前が良いなら良いけどよ」
藤原「それにしても五億かぁ……何に使おうかな……」
北島「まぁ、少なくとも一生働かなくて済むよな」
藤原「それな!俺、人生の勝ち組だー!」
北島「はいはい、良かったね」
藤原「まず年収一千万円で生活したとしても五十年は遊んで暮らせるな。月々で換算すると月収八十三万円くらいか。食費が五万だとして、水道光熱費スマホ料金が十万、年金二万円、保険料一万円だとして、遊んで使える金は大体六十五万円か。大分使えるな」
北島「結構しっかりしてんだな。まぁ遊ぶ金に費やせよ」
藤原「いや、ここで株に手を出すのもアリかなと思ってる」
北島「真面目!もっと気楽に考えてけよ」
藤原「俺の金を俺がどう使おうが俺の勝手だろーーーーー!!!!」
北島「……だから何で怒ってんのコイツ……」
SE、藤原のスマホが鳴る。
藤原「おっ、また母さんからだ。(電話に出る)はい、もしもし?うん、うん。えっ!?嘘っ!?それ本当!?……うん、うん。あ、分かった。うん。じゃあ……(電話を切る)」
北島「何だって?」
藤原「アイドルの小川美幸、結婚で活動引退だって……」
北島「あ、そー。お前が推してたアイドルね。結婚しちゃったんだ?」
藤原「超ショックなんですけど……」
北島「でもお前には金があるじゃないか」
藤原「金では買えないものがそこにあるんだーーーーーー!!!!」
北島「……もう、情緒がもう……」
藤原「小川美幸ー!どうしてだああああああああああああ!!!!」
北島「そんなにショックかね?」
藤原「当たり前だろー!いくら注ぎ込んだと思ってるんだー!」
北島「知らんがな」
藤原「三年前から三百六十万だぞ三百六十万!バイト代全部注ぎ込んで応援してたのに、こんなのってあるかよーーーー!!!!!!!!」
北島「まぁもう結婚しちゃったんだし、仕方無いよ」
藤原「いや、待て!金なら俺の方がある!今から結婚を申し込んで俺に振り向いてもらう事は出来る筈だ!」
北島「お、おい、藤原……?」
藤原「こうしちゃいられない!今すぐコレを金に換えて来なくては!」
藤原、舞台上手に去ろうとする。
北島「おいおいおい、講義はどうするんだ?」
藤原「そんな事知った事か!俺はやらなきゃならない事をする!」
北島「おい!藤原!」
藤原、舞台上手に去る。
北島「金では買えないものがそこにある、ねぇ……」
藤原、足早に帰ってくる。
北島「うおっ、どしたどしたどした?」
藤原「お前に祝い金渡すの忘れてた」
北島「祝い金って使い方間違えてるだろ」
藤原「はい、十万」
北島「こんなに良いの?」
藤原「はした金さ」
北島「良いなぁ。一度は言ってみてぇ~」
藤原「じゃ、俺は行く!」
北島「お、おう……」
暗転。
明転。
大学構内。食堂。
北島、板付き。
北島「藤原、どうしたかな?」
藤原「(舞台上手から登場)うぃーっす」
北島「うぃーっす。大学来たんだ」
藤原「何で?」
北島「もう辞めるのかと思って」
藤原「いや、大学は出るよ」
北島「何で?」
藤原「最終学歴は大学出の方が良いのかなって」
北島「あ、そー。で?藤原、昨日どうだった?」
藤原「警察に通報されかけた」
北島「おう……そ、そうか」
藤原「代わりに良いのを見付けたよ!」
北島「何?」
藤原「この娘、可愛くね!?新人アイドルなんだけど!」
北島「お、おう、可愛いな……?」
藤原「お金では買えない掛け替えの無いもの、見付けたぜ!」
北島「お前、それで良いのか……?」
藤原「これからはこの娘に貢ぐわ!」
北島「お前のお金で買えないものって軽っ」
藤原「生きる糧よ……」
北島「しかし大金が手に入ったんだ。もう好きなだけその娘にその金を貢げるな」
藤原「いや、それは駄目だよ」
北島「何が?」
藤原「ちゃんと就職して、それで稼いだ金をこの娘に貢ぐ」
北島「変なとこ真面目だな」
藤原「女の子はそこに痺れると思うんだ」
北島「気持ち悪っ」
―――終わり
『取り調べ』
・登場人物
西岡
藤原
北島
・舞台
警察の取調室
明転。
警察の取調室。机が一つに椅子が二つ。机の上には電話とデスクライトが一つずつ。
藤原、北島、板付き。
西岡「(舞台上手から登場)待たせたな。担当の西岡だ。お前が山田だな?」
北島「…………」
西岡「昨夜十一時過ぎ、お前の姿を見たっていう目撃者がいるんだよ」
北島「…………」
西岡「この凶器に見覚えがあるよな?」
北島「…………」
西岡「この服にも覚えがあるだろう?」
北島「…………」
西岡「この脱ぎ捨てられた服からは2種類の髪の毛が付着していてな」
北島「…………」
西岡「一つは被害者の、もう一つはお前のDNAが検出された」
北島「…………」
西岡「なぁ、そろそろ吐いたらどうなんだ?」
北島「……俺じゃねぇよ……」
西岡「まだしらばっくれるか……でもなぁ、この凶器には、お前の指紋がベッタリ着いてんだよ!」
北島「だから俺じゃねぇよ……」
西岡「まだ言うか!お前の事はもう調べが着いてるんだよ!山田吾郎!いや!石川孝弘!」
北島「北島康介だよ!」
西岡「え?」
北島「俺は北島康介!下着泥棒だよ!」
西岡「え?え?え?どゆ事?」
藤原「西岡さん、その事件は隣です」
西岡「え?え?え?マジで?俺、部屋間違えた?」
藤原「間違えました」
西岡「マジか……これは恥ずかしい。ちょっと待ってて(電話を掛ける)あ、もしもし、西岡だけど。部屋間違えた。そう。下着ドロの部屋。うん、うん。え?そっちも担当?わっかりました。はい。はーい(電話を切る)」
西岡「こっちも担当になる事になった。お前を取り調べする」
北島「もう全部喋っちゃったよ」
西岡「マジで?名前は?」
北島「だから北島康介」
西岡「下着泥棒したんだって?」
北島「さっきブツは押収されたよ」
西岡「昨日どこにいた?」
北島「だから昨日の夜十二時頃、すぐそこのアパートで下着泥棒したよ」
西岡「動機は?」
北島「彼女にフラれてムシャクシャしてたんだよ」
西岡「前科は?」
藤原「無いです」
西岡「押収された下着の数は?」
藤原「パンティー一枚だけです」
西岡「他は?」
藤原「特に無いです」
西岡「そっかぁ……」
沈黙。
SE、電話の音。
西岡「もしもし、西岡だ。何?石川が吐いた?俺が行く前に?じゃあ俺、出番無いの?あ、そう……はい。はーい……(電話を切る)」
西岡「あのー、ちょっと良いですか?」
北島「何?」
西岡「今から俺が言う事に対して、ちょっとこれ読み上げてくれる?(一枚の紙を北島に渡す)」
北島「何コレ?」
西岡「まぁまぁ。行くよ?お前の事はもう調べが着いてるんだよ!山田吾郎!いや!石川孝弘!」
北島「『な、何でその名前を!?』」
西岡「知らないとでも思ったか!お前が裏でやってきた事は全てお見通しだ!」
北島「『ぐ、ぐぬぬ……』」
西岡「田舎のオフクロさん、悲しんでたぞ」
北島「『ま、まさかオフクロに会ったのか!?』」
西岡「あぁ。最後まで、お前が犯人じゃないって信じてた。そんな母親を裏切ったんだよ、お前は」
北島「『オフクロ……!』」
西岡「なぁ、もう楽になろうぜ……」
北島「『俺が……やりました……!』。何だコレ(紙を西岡に投げる)」
西岡「あっ……」
北島「何コレ?」
西岡「あのー、本来隣の部屋でやるはずだったやり取りです……」
北島「はぁ?」
西岡「いや、だって、折角自分で台本作って覚えたのに、披露出来ないって悲しいじゃないですか……」
北島「は?コレ自分で作ったの?」
西岡「そうです……」
北島「何でこんなの作ったの?」
西岡「いつも取り調べする時は台本を作ってその通りにやるんです……」
北島「こんなんで落とせるような相手なの?」
西岡「まぁ、この台本通りにやったら大抵は案外すんなり……」
北島「あっそー。で?もう気は済んだ?」
西岡「まぁ、その、はい」
北島「じゃあもう俺をブタ箱に突っ込んでくれよ。あとは裁判だけだからさ」
西岡「あ、はい。藤原」
藤原「はい」
藤原、北島を連れて舞台上手に退場。そしてすぐ戻ってくる。
西岡「何で先に言わなかったの?」
藤原「いや、私がいる時点で気付くと思いまして」
西岡「途中で止めたら良かったじゃん!」
藤原「ちょっと面白くて」
西岡「はぁ!?面白半分で赤っ恥を掻いたんだぞ!」
藤原「自業自得でしょう」
西岡「何だとお前!」
SE、電話の音。
西岡「もしもし、西岡だ。何?それは本当か!?分かった(電話を切る)」
藤原「どうしたんですか?」
西岡「石川が癇癪を起こして警官から銃を奪い取って警官を人質に立て籠もってるらしい!」
藤原「何ですって!?」
西岡「よし!早速、交渉の為の台本を作るぞ!」
藤原「はい!」
西岡、藤原、舞台上手に退場。
―――終わり
『通報』
・登場人物
西岡
藤原
北島
枝村
・舞台
道端
・衣装
西岡・・・アロハシャツ、金のブレスレット、金のネックレス、サングラス。→スーツ、アルミケース、サングラス。一貫してロン毛、髭。
藤原・・・スーツ。
北島・・・警官の制服。
枝村・・・私服。普通の恰好。
明転。
西岡、藤原、板付き。西岡、ポケットに女性物下着を入れている。そして煙草を吸っている。北島、舞台上手から登場。
北島「(無線に)いました。これから事情を聞きます。(無線を切る)お待たせしました。下着泥棒で通報された方ですね?」
西岡藤原「はい」
北島「じゃあ、その下着をまず私に渡して下さい」
西岡、下着を北島に渡す。
北島「(手錠を取り出す)じゃあ、八月十一日、午後十一時三十二分、現行犯逮捕(西岡に手錠を掛ける)」
西岡「えっ?」
北島「じゃあパトカーに乗って。何でこんな事したの?」
西岡「ちょちょちょ……私じゃないですよ?」
北島「は?」
西岡「下着泥棒は私じゃなくて、あっちです」
北島「え?え?え?貴方じゃなくて?」
藤原「私です……」
北島「えぇ?だってこんなに怪しいのに……」
西岡「見た目で判断しないで下さい!私は善良な一般市民です!」
北島「こ、これは失礼しました……(西岡の手錠を外す)えーっと、貴方が下着泥棒で?」
藤原「はい」
北島「じゃあ、改めて、現行犯逮捕で(藤原に手錠を掛ける。そして藤原を連れて舞台上手に退場。すぐに戻ってくる)」
西岡「全く、警察ってのはいつも見た目で判断するんだから」
北島「だって明らかに犯罪を犯しそうな見た目してるんですもの。何故そのような恰好を?」
西岡「趣味です」
北島「あ、そうですか……では何故髪を伸ばしているのですか?」
西岡「仕事の関係で」
北島「お仕事は何を?」
西岡「カットモデルです」
北島「あっ、ふーん……でも紛らわしい恰好しない方が良いですよ?またこうやって誤解を招く可能性がありますから」
西岡「だから見た目で判断しないで下さい。前にも何度か職質に会いましたが、全部見た目で判断されてこっちだって困ってるんです」
北島「ぶっちゃけた話、職質は見た目で判断してるんですよ。怪しい人物って見た目でほぼ決まりますからね」
西岡「そうなんですか……どうにかならないもんですかね?」
北島「こればっかりはどうしようも……見た目を怪しくないようにする、としか。貴方自身、今のその恰好を『怪しい人物』だと思わないんですか?」
西岡「別にそうは思いませんねぇ。自分に似合った格好だとしか」
北島「あぁ、もう感覚が麻痺してるんですね」
西岡「何ですって?」
北島「いえ、何でもありません。それで一応状況を聞きたいのですが、お名前は?」
西岡「西岡聖弘です」
北島「どういう経緯であの人を捕まえたんですか?」
西岡「はい。コンビニの帰りにいつもの帰路に着いた時、たまたまそこのアパートで怪しい人影を見て……」
北島「怪しいのは貴方ですけどね」
西岡「何ですか?」
北島「いえ。続けて下さい」
西岡「で、何だろうなと思って見たら、あの人が干してある下着を外から取っていたので、声を掛けました。そしたらあっさり下着泥棒だと自白したので、説得して、警察が来るまでここの公園で待ってました」
北島「そうでしたか。おそらくあの人も怖くて動けなかったでしょうね」
西岡「さっきから何なんですか!?どうしても私を犯人にしたいんですか!?」
北島「そういう訳ではありませんが……違和感が凄くて……」
西岡「私は真っ当な人間ですよ!?」
北島「いや、真っ当な人間なのは分かりましたが、職業が特殊で尚且つ見た目がそれだとどうしても誤解されてしまうかと……」
西岡「……分かりました。髪型は変えられませんが、服だけでも変えてみます」
北島「そうした方が良いでしょう。ではご協力ありがとうございました」
西岡「はい」
暗転。
明転。
北島、板付き。枝村、舞台下手から登場。
北島「あ、すみません、ちょっと宜しいですか?」
枝村「はい?警察の方?」
北島「はい。ちょっと職務質問にご協力頂けませんか?」
枝村「良いですよ」
北島「身分を証明出来る物はありますか?」
枝村「免許証なら(免許証を北島に渡す)」
北島「ありがとうございます(枝村に免許証を返す)最近ここらで怪しい取引が多発してるんですが、何か見かけたりしませんでしたか?」
枝村「いえ、知りませんねぇ」
北島「そうですか」
枝村「あ、今、後ろを歩いていた男の人が怪しさプンプンでしたよ」
北島「なるほど。では後になにか分かり次第、すぐにこちらにご連絡下さい(枝村に名刺程の大きさの紙を渡す)」
枝村「分かりました」
北島「ご協力感謝します。お時間を取らせて申し訳ありませんでした」
枝村「いえいえ。いつもご苦労様です(舞台上手に退場)」
北島「怪しい人物って言っても、この辺じゃそもそも人が通らないんだよなぁ」
西岡、スーツ姿でサングラスを掛け、アルミケースを持って舞台下手から登場。
北島「いた……怪しい奴……あの、ちょっと宜しいですか?」
西岡「はい?あ、この前の警官さん」
北島「は?」
西岡「私ですよ。西岡です」
北島「西岡……?あぁ、この前の下着泥棒を捕まえた、あの西岡さん?」
西岡「そうですそうです。で、今回はどうしたんですか?」
北島「いや、ここらで怪しい取引が多発しているので、怪しい人物がいないかと職務質問をしているのですが……」
西岡「もしかしてまた私が疑われたんですか?」
北島「まぁ、そういう事です」
西岡「酷いですね。今回はちゃんとキチッとした恰好をしているのに」
北島「キチッとしたらしたで逆に怪しさが増したと言いますか……」
西岡「えぇ?ちゃんとスーツで仕事用のケース持っているのに?」
北島「いやいやいや、完全にブツの取引してる人にしか見えませんよ」
西岡「じゃあ正解は何なんですか!?もう手の施しようがありませんよ!」
北島「やっぱり髪型ですかね?」
西岡「そればっかりは変えられません!仕事ですから!」
北島「うーん。もっとカジュアルな服とかに……」
西岡「じゃあこの前みたいな服になりますけど?」
北島「何でそう極端なんですか。まぁ、服装はあまり怪しまれない恰好でお願いします」
西岡「分かりました」
北島「まぁ、一応、職務質問しますが、宜しいですか?」
西岡「良いですよ」
北島「ここらで怪しい人物を見掛けたりしませんでしたか?」
西岡「さっき前に歩いていた男の人がなんかスーツを着た人と真夜中に喋って何かを受け渡ししてるのを見ました」
北島「何ですって?じゃあ後で聞きに行かなきゃ。では一応、そのケースの中を確認しても良いですか?」
西岡「良いですよ」
西岡、アルミケースを北島に渡す。北島、アルミケースを開ける。そこにはギッシリ詰まった白い粉。
北島「こ、これはっ!?」
西岡「どうかしましたか?」
北島「これは一体何ですか!?」
西岡「見たまんまですけど」
北島「これはヤクじゃないですか!やっぱり貴方、見た目のまんまじゃないですか!(無線に)こちら北島!犯人を発見しました!応援を求めます!」
西岡「ちょちょちょ!何でそうなるんですか!?」
北島「だってこれは明らかにヤバい物でしょう!?」
西岡「何と勘違いしてるんですか!?臭いを嗅いでみて下さい!」
北島「臭い?(粉の臭いを嗅ぐ)甘い臭い?」
西岡「ケーキミックスですよ」
北島「何故こんな物をみっちりと……?」
西岡「この後、友人達とパンケーキ作るんです。その為に沢山買いました」
北島「どこまでいっても怪しさが止まらないですね!?」
西岡「いっそ裸で歩いた方が怪しくないですかね?」
北島「だからどうしてそう極端なんですか!?」
西岡「じゃあどうしろと!?」
北島「カットモデルなんだからファッション誌読んで!」
―――終わり
『爆弾処理班』
・登場人物
藤原
北島(終盤以外声のみ)
西岡(声のみ)
・舞台
ビルの一室
明転。
ビルの一室。大きい爆弾が床に仕掛けられいる。
藤原、板付き。
藤原「こちら藤原!爆弾を発見しました!」
北島「こちら北島!十分注意して解体せよ!」
藤原「はい!(蓋を開ける)こちら藤原!コードが3本!どれを切れば良いか指示を願います!」
北島「まず赤いコードを切れ!」
藤原「はい!(コードを切る)切りました!」
北島「次に青いコードを切れ!」
藤原「はい!(コードを切る)切りました!」
北島「タイマーは止まったか!」
藤原「……いえ!止まってません!」
北島「何だと!?」
西岡「北島隊長!新たに見付かった解体図です!」
北島「何だって!?……藤原、二重底だ!黄色のコードを切って下の段を開けろ!」
藤原「はい!(コードを切り、一段目の底を開ける)コードが四本あります!」
北島「よし!赤、青、黄色の順番で切れ!」
藤原「赤、青、黄色ですね!」
北島「そうだ!」
藤原「(コードを切る)切りました!」
北島「タイマーは止まったか!」
藤原「……いいえ!まだ動いてます!」
北島「何ィ!?」
西岡「北島隊長!」
北島「何だ!?」
西岡「新たに見付かった解体図です!」
北島「何だと!?……藤原!聞こえるか!」
藤原「聞こえます!」
北島「緑のコードを切って、底を開けろ!三重底だ!」
藤原「何重になってんだ!開けました!うわっ!」
北島「どうした!」
藤原「コードが百本くらいあります!」
北島「分かってる!タイマーは後どれくらいだ!」
藤原「えーっと、十分二十秒です!」
北島「分かった!まず赤いコードを切れ!」
藤原「はい!(コードを切る)切りました!」
北島「よし!次は朱色のコードを切れ!」
藤原「しゅ、朱色……?あ、これかな……?(コードを切る)切りました!」
北島「次は紅色を切るんだ!」
藤原「べ、紅色……?あ、これか(コードを切る)ちょっとさっきから色が似てるな。一歩間違えたら死んでたぞ……」
北島「切ったか!」
藤原「切りました!」
北島「よし!じゃあ次は藍色のコードを切るんだ!」
藤原「あ、藍色?」
北島「紺色と間違えるんじゃないぞ!」
藤原「二本あるけど、どっちがどっちか分からん……」
北島「どうした、藤原!」
藤原「あ、いえ!切ります!ええい、一か八かだ!(コードを切る)……合ってた……切りました!」
北島「次は藍鉄色、深藍、鉄紺の順で切るんだ!」
藤原「な、何!?何色!?」
北島「そしたら次は黄色、タンポポ色、レモン色の順で切るんだ!」
藤原「ちょ、ちょっと待って下さい!そんな色知りません!」
北島「考えるな!感じろ!」
藤原「無茶言わないで下さい!」
北島「早くしろ!時間が無いぞ!」
藤原「それはそうですが、しかしあまりにも無茶過ぎます!」
北島「落ち着いてやれば大丈夫だ!」
藤原「隊長、代わりにやって下さいよ!」
北島「無理だ!俺達はもう避難した!」
藤原「裏切者ー!ん?『俺達』?」
北島「お前以外の爆弾処理班は全員避難した!」
藤原「薄情者ー!」
北島「健闘を祈る!」
藤原「えーっと、先に紺色?あれ?深藍?何だったっけ……?あーもういいや!適当に切っちゃえ!(コードを全部切る)あぁ!緊張して全部、切っちゃった!」
北島「どうした、藤原!」
藤原「間違ってコード全部切っちゃいました!」
北島「馬鹿野郎!タイマーはどうなってる!」
藤原「えーっと……凄い勢いでカウントダウンが始まってます!」
北島「早くそこから逃げろー!」
藤原「もう無理ですー!」
暗転。
藤原「うわー!」
SE、爆発音。
明転。
藤原「……あれ?生きてる……」
北島、舞台下手から登場。
北島「おーい、無事かー」
藤原「隊長!これってどういう……?」
北島「爆弾処理班の訓練で本物使う訳無いだろ。全て演技だよ」
藤原「……良かった~!」
北島「安心してどうする。これが本番だったらとっくにあの世逝きだぞ」
藤原「それにしても酷いですよ隊長。あれだけ緊張感持ってやられたら真剣になるに決まってるじゃないですか」
北島「真剣になって当然!ちゃらんぽらんな気持ちで爆弾処理されちゃあ敵わん」
藤原「それはそうですがー」
北島「俺の台本通りやっていればキチンと爆弾処理が出来た筈だ」
藤原「はい、申し訳ありません……ん?台本通り?」
北島「どうした?」
藤原「じゃああの朱色だとか藍色だとかレモン色だとか言ってたのって……」
北島「俺の台本だが?」
藤原「あんなので分かる訳無いでしょう!」
北島「どんな状況にも柔軟に、そして冷静に対応出来るようにする。それが爆弾処理の最も重要な事だ」
藤原「ああ言えばこう言う!」
北島「何だ?何か文句あるのか?」
藤原「あるに決まってる!」
北島「文句が出るのもまた成長した証だ。しかと胸に―――」
藤原「あんな複雑な台本があるか!お前の頭も解体してやる!」
北島「ぎゃあ!殺人犯!」
北島、舞台下手に退場。続いて藤原も舞台下手に退場。
藤原「待てー!この愉快犯ー!」
――終わり
『裏切者』
・登場人物
北島
藤原
西岡
枝村
・舞台
組織のアジト
明転。
北島、藤原、西岡、板付き。
北島、縛られている。
藤原「北島ぁ……よくも組織を裏切ったなぁ」
北島「…………」
西岡「たっぷりとお礼してやるからなぁ」
藤原「北島ぁ……組織を裏切った奴がどうなるか、知ってるか?」
北島「……どうなるんだ?」
藤原「へっへっへ……西岡、ちょっと来い」
西岡「あぁ……」
藤原、西岡、少し離れる。
藤原「組織を裏切ったら、どうなるんだ?」
西岡「知らない」
北島「えっ?」
西岡「お礼してやるって言ったけど、どうお礼すんの?何もメリットのある事されてないんだけど」
藤原「知らない」
北島「えぇっ?」
藤原「とりあえず向こう戻るか」
西岡「アイツなら知ってるかもしれないしな」
藤原、西岡、北島の所へ戻る。
北島「知らないよ?」
藤原西岡「えっ?」
北島「どうなるか知らないよ?」
藤原西岡「えぇっ?」
藤原「お前も知らないの?」
北島「詳しくは知らないけど、大抵は殺すとかじゃないの?」
藤原「え?え?え?マジで?何で殺すの?」
西岡「知らない……」
北島「大体は拷問して、最終的に殺すとかが一般的じゃないの?」
西岡「何その一般知識……俺、初めて聞いたよ……」
藤原「組織は俺達にそんな酷い事させる気なの?」
西岡「分かんない……怖い……」
北島「え?じゃあこの後、俺をどうするつもりだったの?」
西岡「お礼って言うくらいだから、こう、菓子折りでも持って行こうかと……」
北島「何でそうなるの!?俺、お前達を裏切ったんだよ!?なのに何で本当にお礼しようとしてるの!?」
藤原「組織を正しい道へ導こうとしてくれたから?」
北島「絶対違う!俺はお前達を破滅に導こうとしたんだぞ!?」
西岡「それはそうだけど、それは組織の為を思っての事なのかなって」
北島「ピュアか!そんな訳無いだろ!」
藤原西岡「えぇっ!?じゃあ何で!?」
北島「金になるからやったんだよ!それ以外に理由があるかい!」
藤原「じゃあ裏切者なんだ……」
北島「だからそう言ってるだろ!」
西岡「で、話し戻すけど、何で裏切者は殺さなきゃならないの?」
北島「それは、見せしめというか……」
藤原西岡「ミセシメ……?」
北島「おいおいおい、嘘だろ!?『見せしめ』を知らない!?」
藤原「お前、知ってる?」
西岡「知らない」
北島「懲らしめるって意味だよ!」
藤原西岡「コラシメル……?」
北島「本人あるいは他の人が同じような悪いことをしないように厳しく罰して見せる事だよ!」
藤原「おぉ~」
西岡「辞書みた~い」
北島「五月蠅ぇ!」
西岡「で、どうする?殺す?」
藤原「俺、人を殺した事無いから躊躇いがある」
西岡「それは俺もだよ……」
藤原西岡「う~ん……」
北島「なぁ、殺さないなら、俺を解放してくれよ」
藤原「えぇ?」
北島「お前達は俺を殺したくない。俺も殺されたくない。だったら解放してくれても良いんじゃないか?」
西岡「それは駄目だよ。ボスから捕まえておくようにって言われてるんだから」
北島「でもな……」
藤原「あぁ!そういえばボスから北島を『可愛がってやれ』って言われてた!」
西岡「あぁ!そういえば確かに!」
北島「えっ?」
藤原「へへへ……じゃあたっぷりと可愛がってやろうじゃないか」
西岡「あぁ……」
北島「可愛がるって、どんな?」
藤原「そりゃあ決まってるだろ……!よ~しよしよしよし!」
西岡「可愛いでちゅね~!」
北島「違う違う違う!そうじゃない!可愛がってやれって、この場合、痛めつけてやれって意味だよ!」
西岡「えぇ?だから何でそんな人を傷付ける事ばかり言うの?」
藤原「意味分かんない」
北島「意味分かんないのはこっちの方だよ!何でそんな緩い認識でこの組織に入ってたの!?」
藤原「だってこの組織に入るのに特に試験とか無かったし……」
西岡「そういう基礎知識、誰も教えてくれなかったし……」
北島「この組織大丈夫!?」
枝村「(菓子折りを持って、舞台上手から登場)おう」
藤原西岡「ボス!」
枝村「おう。どうだ?可愛がってやったか?」
西岡「それが……」
枝村「何だ?」
藤原「どうしても痛めつけられて殺されたいらしくて……俺達、そんな事したくないのに……」
枝村「馬鹿野郎!そんな事をしてどうなる!?」
北島「は?」
枝村「まずは、はい。これお礼ね」
枝村、菓子折りを北島の側に置く。
北島「何コレ?」
枝村「お菓子。この組織を正しい道に導いてくれてありがとう」
北島「はぁ?」
枝村「そして思う存分可愛がってやろう。よ~しよしよしよし!」
北島「ちょ、ま、やめっ……!」
枝村「さぁ、お前達も!」
藤原西岡「はいっ!」
藤原「よ~しよしよしよし!」
西岡「可愛いでちゅね~!」
北島「トップからしてこんな組織なのかよ!もう嫌だー!解放してくれー!」
藤原西岡枝村「よ~しよしよしよし!」
―――終わり




