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コント集  作者: 河野吉田
PR
5/37

コント集5

コント集5




41・・・・クイズ番組

42・・・それっぽい塾

43・・・デート

44・・・ドナー

45・・・喰って良いよ

46・・・駄菓子屋

47・・・迷子センター

48・・・鈍い男

49・・・未遂

50・・・旅館



『クイズ番組』



・登場人物


 西岡

 藤原

 北島

 小川(声のみ)


・舞台


 クイズ番組のスタジオ






 明転。


 クイズ番組のスタジオ。椅子が二つに解答席二つ、司会の席一つ。

 西岡、藤原、北島、板付き。


北島「さぁ始まりました!答えてナンボ!今日も様々なクイズに挑戦して頂きます。栄えある優勝賞金、百万円を掴み取るのはどっちか!それでは今日の挑戦者を紹介します。理系なら任せろ!ミスター理系、西岡聖弘さん!」

西岡「宜しくお願い致します」

北島「対するもう一人の挑戦者は、クイズ一筋、二十年!ミスタークイズ王、藤原正将さん!」

藤原「絶対優勝するぞ!」

北島「早押しクイズです。正解すれば一ポイント!不正解ならお手付きで一回休みです。問題は全部で十問!それでは参りましょう!答えてナンボ!第一問!」


 SE、「デデン!」。


小川「英語で、原子が規則的に配列された『結晶』を」


 西岡、解答席のボタンを押す。


北島「西岡さん早い!それではお答え下さい!」

西岡「クリスタル」


 SE、「ブー!」


北島「西岡さん、この問題には続きがありました。それでは続きをお願いします」

小川「英語で、原子が規則的に配列された『結晶』をクリスタルというのに対し、ガラスやゴムのように原子が不規則に配列された『非晶質』のことを何というでしょう?」

北島「という事で、正解はアモルファスでした。西岡さん、お手付きで次の問題はお休みです。さぁ続いて行ってみましょう!」


 SE、「デデン!」


小川「質量の大きい恒星が崩壊する時に発生する爆発現象を」


 藤原、ボタンを押す。


北島「藤原さん、解答をどうぞ!」

藤原「超新星!」


 SE、「ブー!」。


北島「藤原さん、これも続きがありました。続きを聞いてみましょう」

小川「質量の大きい恒星が崩壊する時に発生する爆発現象を超新星と言いますが、それを英語で何というでしょう?」

北島「藤原さん、勿体無いですね。早押しにする必要が無かったのでゆっくり答えれば良かったのに。答えはスーパーノヴァでした!さぁ、ここで西岡さんお手付きから復活です。藤原さんはお手付きで一回休みです。続いて行ってみましょう!」


 SE、「デデン!」。


小川「急激に雪を融かすことから『スノーイーター』とも呼ばれる」


 西岡、ボタンを押す。


北島「はい、西岡さん!早い!どうぞ!」

西岡「フェーン風」


 SE、「ブブー!」。


北島「残念、西岡さん。これまた続きを聞いてみましょう」

小川「急激に雪を融かすことから『スノーイーター』とも呼ばれる、北アメリカのロッキー山脈東側に吹き降ろすフェーン風のことを一般に何というでしょう?」

北島「でした~。答えはチヌークでした。西岡さん、お手付きで一回休みです。それでは藤原さん頑張って下さい。続いての問題です!」


 SE、「デデン!」。


小川「昆布のうま味成分」


 藤原、ボタンを押す。


北島「おぉっと!藤原さん、これまた自信あり気だ!解答どうぞ!」

藤原「グルタミン酸ナトリウム!」


 SE、「ブブー!」。


北島「あぁ~!これにも続きがあります!聞いてみましょう!」

小川「昆布のうま味成分『グルタミン酸ナトリウム』を発見したことで知られる化学者は誰でしょう?」

北島「でした~!答えは池田菊苗でした!それでは西岡さんお手付きから復活です!藤原さん、お手付きで一回休みです。続いての問題行ってみましょう!早押しの必要はありませんからゆっくり答えて下さい!続いての問題です!」


 SE、「デデン!」。


小川「世界最強の毒を有すといわれる植物で」


 藤原、ボタンを押す。


北島「だから早い!はい、西岡さん!」

西岡「ゲルセミウム・エレガンス」


 SE、「ブブー!」


北島「残念!問題の続きを聞いてみましょう!」

小川「世界最強の毒を有すといわれる植物はゲルセミウム・エレガンスですが、別名を何と言うでしょう?」

北島「西岡さん残念!問題は最後まで聞きましょう!答えは断腸草でした。西岡さんお手付きで一回休みです。さぁこれで問題が半分終わりました。途中経過を見てみましょう!西岡さん0ポイント、藤原さん0ポイントの同点です。問題は後5問ですので頑張って下さい。もし最後の問題が終わっても同点の場合は延長戦をしますのでご安心下さい!落ち着いて最後まで問題を聞いて下さい!さぁ、次の問題です!どうぞ!」


 SE、「デデン!」


小川「原題を『プトレマイオスとコペルニクスの二大世界体系についての対話』といい、サルビチア、シンプリチオ、サグレドの3人の対話形式で書かれている」


 藤原、ボタンを押す。


北島「だから早いって!良いんですか!?最後まで問題聞かなくても!?今ならまだ最後まで聞けますよ!?」

藤原「行けます!」

北島「そうですか!ではお答え、どうぞ!」

藤原「ガリレオ・ガリレイ!」


 SE、「ブブー!」。


北島「だから言ったのに!問題はこうでした!」

小川「原題を『プトレマイオスとコペルニクスの二大世界体系についての対話』といい、サルビチア、シンプリチオ、サグレドの三人の対話形式で書かれている、著者のガリレオ・ガリレイの宗教裁判の原因となった地動説の解説書を日本語で一般に何と呼ぶでしょう?」

北島「でした!答えは天文対話!もう早押しの意味無いのに何で早押しで答えちゃうかな!?藤原さん、お手付きで一回休みです!西岡さん、お手付きから復活です!良いですか!?最後まで問題聞いて下さいよ!?それでは七問目、どうぞ!」


SE、「デデン!」。


小川「1996年のフィールズ賞受賞者で、ドイツ出身の数学者」


 藤原、ボタンを押す。


北島「だから最後まで問題を聞いて下さい!良いんですか!?」

西岡「大丈夫です」

北島「はぁ……それでは解答どうぞ!」

西岡「アレクサンドル・グロタンディーク」


 SE、「ブブー!」。


北島「だから言ったでしょう!?問題はこうでした!」

小川「1966年のフィールズ賞受賞者で、ドイツ出身の数学者はあれクサンドル・グロタンディークですが、ある講演の際に素数の例として誤って述べてしまった数字は何でしょう?」

北島「でした!何べん言ったら分かるんですか!?問題を最後まで聞いて下さい!答えは五十七!西岡さん、お手付きで一回休み、藤原さん、お手付きから復活です!それでは第八問!」


 SE、「デデン!」。


小川「いて座にある六つの明るい星を総称して」


 藤原、ボタンを押す。


北島「だから最後まで問題を聞いて下さい!!!」

藤原「南斗六星!」


 SE、「ブブー!」。


北島「何遍言っても分かんないなぁこの人達!問題はこうでした!」

小川「いて座にある6つの明るい星を総称して南斗六星と言いますが、その形が赤子用の牛乳さじに似ているため、英語では何と言うでしょう?」

北島「でした!答えはミルク・ディッパー!藤原さん、お手付きで一回休みです!西岡さん、お手付きから復活です!残り2問!どうか落ち着いて最後までやり遂げて下さい!それでは行ってみましょう!」


 SE、「デデン!」。


小川「2007年に牛糞からの生成に成功したバニラの香りの主成分である有機化合物」


 藤原、ボタンを押す。


北島「もう何でも良いや!はい、藤原さん!」

西岡「バニリン」


 SE、「ブブー!」。


北島「いつものように問題の続きです!」

小川「2007年に牛糞からの生成に成功したバニラの香りの主成分である有機化合物はバニリンですが、これの発見にイグノーベル賞が授与された日本人研究者は誰でしょう?」

北島「でした!答えは澁澤栄!さぁ西岡さん、お手付きで一回休みです!さて藤原さん、お手付きから復活ですが、これに正解すれば栄えある優勝です!どうか、どうか落ち着いてお答え下さい!良いですね!?本当に良いですね!?それでは最後の問題に参りましょう!第十問目!ラスト問題です!どうぞ!」


 SE、「デデン!」。


小川「酸素の同素体で、空気中での放電や紫外線照射によって発生する」


 藤原、ボタンを押す。


北島「また早押ししちゃった!どうせ間違うんでしょうけど一応答えを聞いてみましょう!どうぞ!」

藤原「オゾン!」


 SE、「ブブー!」。


北島「やっぱりね!問題の続き聞いて下さい!」

小川「酸素の同素体で、空気中での放電や紫外線照射によって発生する物質はオゾンですが、化学式では何と表されるでしょう?」

北島「でした!答えはO3!さぁこれで全ての問題が終わりました!西岡さん、藤原さん、共に0ポイント!延長戦です!続いても早押しですが、お手付きはありません!ですが!お二人は最後まで問題を聞いて貰いたいです!先に二問正解した方が優勝です!準備は宜しいですか!?宜しいようで!では延長戦スタートです!」


 SE、「デデン!」。


小川「化石燃料の燃焼などから発生する」


 西岡、ボタンを押す。


西岡「窒素酸化物」


 SE、「ブブー!」。

 藤原、ボタンを押す。


藤原「酸化硫黄!」


 SE、「ブブー!」

 西岡、ボタンを押す。


西岡「P.H5.6」


 SE、「ブブー!」


北島「待て待て待て!お二人の場合、問題を最後まで聞いてから答えて下さい!良いですか!?ただ早く答えれば良いってもんじゃないんですからね!?それではどうぞ!」

小川「化石燃料の燃焼などから発生する窒素酸化物や二酸化硫黄を主な要因とし、生態系への悪影響や金属の腐食といった被害をもたらす、おおむねP.H5.6を基準としてそれ以下の値を示す雨のことを日本で一般に何というでしょう?」


 沈黙。


北島「……嘘でしょ!?さっきまでこの問題の答えに沿った解答をしてたのに!?まさかの分からない!?」


 沈黙。


北島「お二人共分からないと言う事で宜しいですか?宜しいと言う事で。答えは酸性雨でした!続いての問題です!」


 SE、「デデン!」。


小川「音波や電磁波などの発生源が観測者に近づくと周波数が高く、遠ざかると周波数が低くなるという、救急車が通り過ぎる時のサイレンの音の変化などに代表される現象を、これを提唱した物理学者の名から何効果というでしょう?」


 沈黙。


北島「……まさかの問題を最後まで聞いても分からないというアクシデントです!答えはドップラー効果でした!ちょっと問題の傾向を変えてみましょう!なぞなぞです!これなら分かるでしょう!」


 SE、「デデン!」。


小川「百円玉を四枚持っています。百三十円のジュースを買ったらお釣りはいくらでしょう?」

北島「これなら少し考えるだけで出来るでしょう!さぁ、どうぞ!」


 沈黙。


北島「嘘だろ!?普通の計算すら出来ない!?お二人共答えが分からないという事で?はい、分かりました。答えは二百七十円と見せかけて、実は七十円でした」

西岡「どゆ事?」

藤原「さぁ?」

北島「百円玉四枚を使う必要は無いという事です。使うのは二枚で充分という事です」

西岡「分かる?」

藤原「分からない」

北島「さぁ、雲行きが怪しくなってきたところで、続きの問題行ってみましょう!」


 SE、「デデン!」。

 照明、フェードアウト。

 照明、フェードイン。

 西岡、藤原、北島、項垂れている。


北島「もうクイズの在庫が切れました……次で終わりにしましょう……第五百問、1+1=?」


 西岡、項垂れたまま片手を上げて指を2本立てる。


北島「はい正解……優勝は西岡聖弘さんです……それで良いですね、藤原さん?」

藤原「はい……」

北島「もうこんな仕事はまっぴらです……それでは皆さん、次、私が司会をするかどうかは分かりませんが、また来週~……」

―――終わり

『それっぽい塾』



・登場人物


 藤原

 西岡

 北島


・舞台


 塾の教室







 明転。


 塾の教室。机一つに椅子一つ、教卓一つ、ホワイトボード一つ。

 藤原、北島、板付き。

 SE、予鈴。

 西岡、下手から登場。


西岡「はい、皆、着席ー。今日もこのSP塾が始まりました。今日はね、このクラスに入塾希望者が来ました。藤原君です」


 藤原、会釈。


西岡「じゃあ授業を始めるぞー。そうだな。そろそろ全国模試が始まるから、まずは数学から始めるか。テキスト45ページ開いてー。えーっと、まず次の方程式を解いていくぞー。えー、2a^2+3b^4=17cの時、アリスピギラムの法則を使って解くと、まず2a^2は3√4α−11となる。次に3b^4はアリスピギラムの法則の基礎から解いて、18となる。つまりこれは前にやったキリアムの第三法則と同じになる訳だ。すると答えはもう分かるな?フィボナビッチ論から推測された第一原則を用いていくと、これは解けないという結論になる」

北島「先生!それだと昨日のクルム定理と矛盾が発生するんで、フィボナビッチ論は否定されて、答えは3√17になるじゃないんですか?」

西岡「良い質問だ。しかし昨日同時にやったガルヴェス予想を思い出してほしい。これを基に作られたのがこのアリスピギラムの法則なんだ」

北島「なるほど!つまり第三定理を利用すればアリスピギラムの法則が立証されて今回はフィボナビッチ論が有効化される訳ですね?」

西岡「そういう事だ。他に質問はあるか?無いようだな。はい、以上を元に、テキスト46ページの問題を解いてみるように」

藤原「…………」

西岡「どうだ、藤原君?この塾の雰囲気は?」

藤原「いや、ちょっとレベル高すぎて着いて行けてないです……これ大学レベルなんじゃないですか?」

西岡「そんな事無いよ。これはあくまで高校1年生用の授業だから」

藤原「高校生にしても俺、場違いじゃないかな……正直、勉強、舐めてました」

西岡「まぁまぁ、それはこの塾に入れば自然と慣れていくよ。一緒に頑張ろう」

藤原「はい。ところでこの塾ってやっぱり凄いですね。スペシャルなだけあって、ここに居るだけで頭良くなったような気がします」

西岡「スペシャル?何が?」

藤原「いや、だってこの塾の名前、SP塾じゃないですか。スペシャルな塾って意味ですよね?」

西岡「いや?違うよ?」

藤原「え?じゃあ何て……?」

西岡「それっぽい塾だよ」

藤原「何それ?」

西岡「それっぽい事を言って、皆で頭が良くなったような雰囲気を作って、エリート気取りになる為の塾だよ」

藤原「ますます何それ?え、じゃあ、ここで勉強した事って……?」

西岡「全部、無駄だよ」

藤原「何それー!?じゃあさっきの授業、本当にそれっぽい事しか言ってないの!?」

西岡「だからそうだよ」

藤原「何て無駄な塾なんだ……」

西岡「無駄こそ人類に与えられた最大の娯楽だよ」

藤原「それっぽい事言ってんじゃないよ」

西岡「さ、授業を続けよう。皆ー、問題は解けたかー?後でノート回収するからなー。次は物理だ。テキスト13ページ開いてー。ガーナス構造についてだ。1キロフォービル辺り17モンディアナだった時、k^2+1^Sbの値を求めよ。これはバルバドス定理を用いると簡単だ。まずkはバルバドス定理の第1法則のカルナビン法則を用いれば3だと分かる。次にSbはバルバトス定理第4法則のシルバニック法則から17.175と分かる。これを元に計算すると、答えは10。これを1キロフォービル辺り17モンディアナだから、答えは、そう、1327ギックスとなる訳だ。あれ?解答と違うな……」

北島「先生!ティアナ公式忘れてます!」

西岡「あ、そうか。ティアナ公式を使うの忘れてた。バルバドス定理第四法則を用いた後にティアナ公式を用いると、3.17になる。そこでシルバニック法則を使うと19.187になるな。とするとkがそもそも違うな。あぁ、そうか。難波公式使わないといけないのか。するとカルナビン法則の後に難波公式を使わなきゃいけないから、答えは5だ。つまり最後の計算は26だから、3978ギックスになるな。これで解答とあってる」

北島「先生!難波公式ってこの前やった神田定理の応用ですか?」

西岡「そー。神田定理をカルバン定理とハプソン公式でアナライズしてバージョンアップしたものが難波公式だ」

北島「なるほど!つまりツバイン公式と同じって事ですね!」

西岡「それはちょっと違う。そもそも難波公式は1976年に提唱された熱力学をベースに提唱されたダイモン第三法則だが、ツバイン公式はダイモン第二法則を基に作られてるからそもそも考え方が違うんだ」

北島「へー」

西岡「では15ページの問題解くようにー」

藤原「これもそれっぽい事言ってるだけですか?」

西岡「そうだよ」

藤原「すみません、さっぱり分からないです」

西岡「一から説明してやろうか?」

藤原「いや、きっと意味が分からないのでいいです……」

西岡「人生、全ての事に意味を見出そうとしてたらキリが無いぞ」

藤原「またそれっぽい事言って……」

西岡「さて、授業はここまでだ。皆、ノートを提出したら帰って良いぞー」


 北島、ノートを提出して下手に退場。


藤原「何でこんな事してるんですか?」

西岡「世の中無駄な事って沢山あると思うんだ。でも人生から無駄を取り除いたら、人間は心が安らがない。無駄があるから心が豊かになる。俺達はそれを教えていきたいと思ってここで全力で取り組んでる」

藤原「先生……」

西岡「だからここでは思い切り馬鹿になって遊びに全力で取り組んでほしいと思ってる。本当に無駄だと思ったらここには入らなくて良い。ただ、それは、無駄だと分かったという実績になる。それを分からずにここを去りたいと思うのは間違ってると俺は思う。それっぽいっていうのは、決して無駄なんかじゃない」

藤原「それっぽい……」

西岡「さぁ、どうする?」

藤原「先生!俺……俺……!」

西岡「おっ!一緒にそれっぽいをやっていく気になったか!?」

藤原「俺、ここに入るの止めます!」

西岡「え?」

藤原「こんな大人になりたくないって実感させられました!だから俺はここに入るの止めます!」

西岡「そ、そうか……」

藤原「じゃあ俺、帰ります!楽しい授業でした!さようなら!」

西岡「ちょっと待って!」

藤原「はい?」

西岡「無駄に金を掛けられるだけの人生を歩めよ」

藤原「というと?」

西岡「趣味を見付けるんだ。趣味は大抵無駄な事だ。無駄こそ人生!無駄こそ人類の宝!それを見付ける為に俺達はこうして授業をやってる!それを忘れるな!」

藤原「……先生……またそれっぽい事。言って……はい!分かりました!」

西岡「じゃあこの塾に入らないのは考え直してくれる?」

藤原「あ、それはいいです」








―――終わり

『デート』



・登場人物


 藤原正将

 小川美幸



・舞台


公園







 明転。


 公園。ベンチ一つ。

 藤原、小川、上手から登場。


藤原「良い天気だなぁ」

小川「デート日和だねー」

藤原「そろそろお昼か。腹減ったな。どこか店、探そうか」

小川「そう言うと思って、今日は朝、早起きしてお弁当作って来たよ」

藤原「おっ、マジ?じゃあそこのベンチで食べようよ」

小川「うんっ」


 藤原、小川、ベンチに座る。そしてお弁当を出す。


小川「さ、召し上がれ」

藤原「うわぁ、美味そう。頂きます(お弁当を食べる)」

小川「どうかな?」

藤原「うわっ、このハンバーグ凄い!」

小川「本当!?」

藤原「うん、凄く不味い!」

小川「えっ」

藤原「うわぁ、この唐揚げ脂っこくて不味い!下味が最悪!」

小川「えぇっ」

藤原「この卵焼きも味がシッチャカメッチャカだ!」

小川「えぇっ!?」


 藤原、お弁当を半分だけ食べて小川に返す。


藤原「ふぅ、もうこれだけでいいや。ご馳走様でした。総合評価は二十点!」

小川「はぁっ!?」

藤原「次までに改善してきてね」

小川「ちょっとちょっと!彼女の手料理なんだよ!?褒めてよ!」

藤原「え?あぁ、朝、早起きして作ってきてくれてありがとう」

小川「そうじゃない!味を褒めてよ!」

藤原「味は褒められたもんじゃない」

小川「酷い!一生懸命作ったのに!」

藤原「一生懸命作ってくれてありがとう」

小川「だからそこじゃない!」

藤原「じゃあどうしろって言うんだよ?」

小川「彼女が作ってきてくれたんだよ!?嘘でも良いから味を褒めてよ!」

藤原「俺、味には五月蠅いから……」

小川「はぁ!?何それぇ!?」

藤原「俺の親父、京都の一流料亭で板前として働いていたから、飯はいつも親父が作ってくれていたんだ。だから自然と味には舌が肥えちゃって……」

小川「何それ?聞いてない」

藤原「言ってないからね」

小川「何で言わなかったの?」

藤原「言ったら自然な料理出してくれないでしょ?俺の嫁になる人は普段の料理が上手な人じゃないと両親が認めてくれないんだ」

小川「いやいや、恋人同士の間は少し気合の入れた料理を出すでしょ」

藤原「それは盲点だったな。アハハ」

小川「笑い事じゃない!てかそんなお父さんがいるんじゃ、お嫁さんになってくれる人殆どいないでしょ」

藤原「そうなんだよなぁ……困ったもんだ」

小川「そういうお店の料理と一般家庭の料理は別物なんだから分けて考えるべきじゃない?」

藤原「でも親父の料理なみに美味い物しか食えなくなっちゃってさ……」

小川「普段の料理とかどうしてるの?」

藤原「料亭行ったりしてる」

小川「はっ!?じゃあ食費とか凄く掛かってるんじゃないの!?」

藤原「そうだなぁ……大体月に三百万ちょいくらいかなぁ」

小川「毎日!?」

藤原「毎日だねぇ。というか毎晩」

小川「そのお金、どこから出てるの?」

藤原「親が出してくれてる」

小川「朝とお昼はどうしてるの?お昼、いつもお弁当だったよね?」

藤原「料亭で作ってもらって、それを詰めてもらって家に持ち帰ってる」

小川「じゃあお昼ご飯いつも豪華だったのは……」

藤原「そういう事」

小川「はぁ……じゃあ私達、別れましょ?」

藤原「何で?」

小川「私、藤原君の舌を喜ばせられる程の料理の腕を持ってないし……」

藤原「だから?」

小川「これ以上腕を上げられないと思う……」

藤原「それで?」

小川「お金も掛かるだろうし、金銭面でも支えてあげられないと思う……」

藤原「と言うと?」

小川「共働きでもギリギリな生活になると思うのに、料理までするのはフェアじゃないと思う……」

藤原「それはつまり?」

小川「だから私より献身的に支えてくれる相手を見付けた方が話が早いと思うの……」

藤原「なるほど……その話、詳しく聞かせてくれる?」

小川「……もう無いよ!」

藤原「え?」

小川「全部言ったよ!」

藤原「あ、全部言った?じゃあ纏めると、料理の腕を上げる気も無ければお金も無いし料理作ってくれる気も無いって事で良い?」

小川「そういう言い方はどうなの!?」

藤原「でもそういう事でしょ?」

小川「そりゃまぁそうだけども!」

藤原「でもそれだけで別れるってのは納得いかないな」

小川「え?」

藤原「何も料亭の料理レベルにまで腕を上げてくれと言ってる訳じゃない。純粋に不味いから直してって言ってるだけだから」

小川「彼女の料理に向かって『純粋に不味い』ってよく言えるね」

藤原「だってこれ自分で味見した?」

小川「え?してないよ?いつも作ってるから」

藤原「じゃあ普段の料理がそのレベルってことじゃん。それに味見してないなら、一旦これ食べてみなよ」

小川「え?あ、うん…………」


 小川、弁当の卵焼きを食べる。


小川「これは……」

藤原「な?不味いだろ?」

小川「いや、完璧な味付けでしょ。我ながら良い出来だと思う」

藤原「あ、元々の舌が駄目なタイプだったか」

小川「駄目って何よ。この味が分からないアンタの舌の方が駄目なんじゃない?」

藤原「毎晩高級料亭で食べてる俺にそれを言う?」

小川「あ、いや、まぁ……」

藤原「これから毎日君の舌を一流にしてってやるから、結婚を前提にこれからもお付き合いさせて下さい」

小川「どうやって一流にするの?」

藤原「毎日、高級料亭に連れてってあげる」

小川「……毎日?」

藤原「毎日」

小川「三食?」

藤原「朝と昼は折詰になるけど」

小川「割り勘?」

藤原「俺持ち」

小川「……(じゅるっ)分かった。改めて結婚を前提にお付き合いしましょ」

藤原「現金な奴っ」

小川「お金使いまくってるアンタに言われたくないわ!」

















―――終わり

『ドナー』



・登場人物


 小川

 西岡



・舞台


 闇金融





明転。


 テーブル一つに椅子が二つ。

 小川、西岡、板付き。


西岡「申し訳ありませんが、当社からはもう小川様に御融資をする事は出来ません」

小川「マジ?」

西岡「はい。もう返済期間も過ぎていますし、ここで返済されないとなると、我々としても最終手段を取らせて頂きます」

小川「……体で払えって言うんですか」

西岡「話が早くて助かります」

小川「下衆め……」

西岡「そういう状況を作ったのは貴方でしょう?小川様」

小川「遂にこの体の出番か……まぁ良いか、減るもんでもないし」

西岡「いいえ、減りますよ」

小川「面白い事言うじゃん。で?体を売るって、どこかソープにでも落とされるの?」

西岡「いいえ、そうではありません」

小川「じゃあ、臓器移植でもされるの?」

西岡「まぁ、それに近いですね。ドナーになってもらいます」

小川「そんなの嫌よ!」

西岡「体が減ると言っても、すぐ元通りになりますのでご安心を」

小川「何?肝臓の一部でも売るって言うの?」

西岡「臓器移植ではありません」

小川「じゃあ何を売るって言うのよ?」

西岡「爪です」

小川「……は?」

西岡「手の爪と足の爪です」

小川「え?何?剝がされるの?」

西岡「いいえ。普通に爪を切ってもらいます」

小川「それだけ?」

西岡「あと髪の毛を十センチ程頂いて、汗を五百ミリリットル程頂いて、それと尿を五百ミリリットル程頂いて、それから……」

小川「ちょちょちょ……これ何のドナー?」

西岡「地下アイドルのCDの付属特典です」

小川「はぁ!?どういう事!?」

西岡「地下アイドルって結構、競争が厳しくてですね。こういったエグイ事でもしないと食っていけないんですよ」

小川「はぁ……でも、だったら本人の物を使えば良いじゃない」

西岡「数千枚、数万枚の特典を付けるには限界があるんですよ。特に爪や髪の毛なんかは一気に切る訳にはいきませんし」

小川「てかファンは爪とか髪の毛とか何に使うの?」

西岡「一部ではコレクターとして保管する人がいるみたいですね」

小川「一部……?」

西岡「はい」

小川「他の人は何に使ってるの……?」

西岡「ご飯に掛けたりして食べたりしてるみたいです」

小川「おえー!!!キモッ!気持ち悪っ!」

西岡「それが地下アイドルの闇でもありますね」

小川「闇過ぎるでしょ!何その文化!?」

西岡「私にも理解出来ませんね」

小川「それをアンタ達が加担してるんでしょうが!」

西岡「まぁ、そうなりますね」

小川「てか爪とか髪の毛食べんの!?」

西岡「ですねぇ」

小川「どこからそんな発想が出てくんのよ……」

西岡「我々にも分かりません」

小川「さっき尿って言ったわね?もしかして……」

西岡「普通に飲む方もいらっしゃるみたいです」

小川「うわぁ、やっぱりか……」

西岡「一部では風呂に入れて入浴剤代わりにしたりとか」

小川「気持ち悪い……」

西岡「後はご飯に掛けてお茶漬けみたいにして食べるのが一番美味しいらしいですよ」

小川「おえー!!!だからなんですぐにご飯に掛けるのよ!?」

西岡「日本人だからじゃないですかね?」

小川「日本人を馬鹿にするな!」

西岡「まぁ、全ての地下アイドルファンがそういう方達とは限りませんが、今回我々がターゲットにしているのはそういう性癖の方達です」

小川「あくどい商売してんのね」

西岡「それほどでも」

小川「てかドナーって臓器移植の事でしょ?これ臓器移植にならないからドナーって言わないんじゃない?」

西岡「まぁ、心の臓器移植だと思えば」

小川「上手くないよ」

西岡「はぁ」

小川「で、おしっこはちょっと嫌なんだけど……」

西岡「そうすると借金の返済が少し……」

小川「そう。でも爪と髪の毛だけでもそんなに減るとは思えないし……とりあえず爪と髪の毛でどれくらい借金が減るの?」

西岡「ざっと計算して……」


 西岡、懐から電卓を取り出してポチポチ打つ。


西岡「一千と三百七十万円くらいですね」

小川「嘘!?そんなに減るの!?」

西岡「減るというか、利益ですね」

小川「は?」

西岡「小川様の借金二千百十四万円が完全に返済されて、その上で利益が一千三百七十万円出ます」

小川「嘘でしょ!?爪と髪の毛だけで三千万以上の価値があるの!?」

西岡「それ以上にこちらは儲けますので」

小川「じゃ、じゃあ、おしっこアリの場合は……?」

西岡「えーっと……」


 西岡、電卓でポチポチと計算する。


西岡「二億ですね」

小川「二億!?二億って、あの二億!?」

西岡「どの二億かは分かりませんが、二億円です」

小川「出す出す!いくらでも出す!仮に二倍の量出したら?」

西岡「こちらがお渡しする金額も倍になります」

小川「マジか!?凄い!これでどんだけ儲けてんの!?」

西岡「それはお教え出来ませんねぇ」

小川「世の中にこんなウマい商売があるとは思わなかった!じゃあちょっくらトイレでおしっこ出してくるわ!」

西岡「じゃあこの紙コップに入れて下さい」


 西岡、大きい紙コップを散り出して小川に渡す。


小川「はーい!じゃあ行ってきまーす!」

西岡「ごゆっくり」


 小川、上手に退場。


西岡「小川のストーカーからの依頼なんだよなぁ」








―――終わり

『喰って良いよ』



・登場人物


 西岡

 北島

 店員


・舞台


 居酒屋







 明転。


 居酒屋。テーブル一つに椅子二つ。テーブルの上には料理がいくつか並んでいる。

 西岡、北島、板付き。


北島「すいませーん!ナスの甘辛煮と揚げ鶏とチキン南蛮一つずつー!」

店員(声のみ)「はーい!畏まりましたー!」

西岡「よく喰うねぇ」

北島「酒が入ると喰うんだよな」

西岡「俺は気持ち悪くなるから逆に喰えないんだよな」

北島「そうなの?」

西岡「羨ましいよ」

北島「別に羨ましくなるもんでもないだろ。太っちゃうし」

西岡「いや、羨ましいよ。酒の席ですぐにノンアルドリンク飲む身にもなってみろ」

北島「そんなもんかねぇ?注文した料理、遅いなぁ」

西岡「今頼んだばかりだろ。そんなすぐには来ないよ」

北島「そうか……ん?それ、喰わないの?」

西岡「え?あぁ、コレ?喰う?」

北島「良いの?」

西岡「別に喰って良いよ」

北島「そうか。じゃあ遠慮なく。それにしても本当、酒に弱いんだな。もう喰えなくなってるのかよ」

西岡「別にそうじゃないよ?」

北島「へぇ?じゃあ何で……」

西岡「どした?」

北島「これ、あんまり美味くねぇな」

西岡「うん」

北島「口直しに何か別の喰いてぇな」

西岡「これ喰う?」

北島「何それ?」

西岡「ピーマンの肉詰め。喰って良いよ」

北島「お、美味そう。じゃあ貰うわ。……これもあんま美味くねぇな」

西岡「うん」

北島「その端のは何?」

西岡「あぁ、コレ?鱈の煮つけ。全部喰って良いよ」

北島「マジか。何か悪いな。……これ不味いな」

西岡「そうなんだよ」

北島「……お前さ、美味くない物全部俺に喰わせようとしてない?」

西岡「いいや?お前が喰いたいって言うから勧めてるだけ」

北島「いや、合ってんじゃん。お前、自分の不味い物を俺に喰わせて処分しようとしてんじゃねぇか」

西岡「お前も不味いと思ったんだろ?じゃあお互いに不味いと思った物をお前が処分してくれてる。そうだろ?」

北島「処分って言っちゃったよ。やっぱりお前、俺を良いように使ってるだけじゃねぇか」

西岡「だからお前から喰いたいって言ってきたんじゃん。責任もってそれ全部喰えよ?」

北島「いいよ。いらないよ。返す」

西岡「一度あげた物を返されても困る」

北島「面倒臭ぇ、お前」

西岡「何が?」

北島「人を良いように使ってる」

西岡「人聞きの悪い事言うなよ。全部お前から発信しただろ」

北島「不味いなら不味いって先に言えよ」

西岡「俺の主観だけじゃ、不味いって判断するのは難しいから」

北島「自分だけの感想でも良いじゃん。情報共有させろよ」

西岡「百聞は一見に如かずだと思って」

北島「うわ、本当に面倒臭ぇ。そして不味い」

西岡「じゃあ残せば?」

北島「一度手を付けたヤツは全部喰えってのが俺ん家の教えでね」

西岡「俺ん家もそうだよ」

北島「お前ん家もか」

西岡「じゃあ喰えよ」

北島「半分こしよう」

西岡「何で?」

北島「二人で喰えばストレスも半減出来てすぐに喰い終わるだろ?」

西岡「え、嫌だ」

北島「何でだよ」

西岡「俺これ喰いたくないもん」

北島「お前が頼んだ料理だろ?責任もって全部喰えよ」

西岡「だからその責任はお前に任せただろ」

北島「押し付けられたんだろ」

西岡「自分から喰いたいって言ったんじゃないか」

北島「いや、そうだけどっ」


 店員、下手から料理を持って登場。


店員「お待たせしましたー。こちらナスの甘辛煮と揚げ鶏とチキン南蛮です」

西岡「どうもー」

北島「あざっす」


 店員、下手に退場。

 北島、料理を食べる。


北島「……うわっ、このナス美味っ」

西岡「マジで?」

北島「この揚げ鶏もチキン南蛮も美味っ。お前も喰ってみない?」

西岡「じゃあ一口」

北島「一口と言わずもっと喰って良いぞ?」

西岡「いや、一口で良い」


 西岡、一口ずつ食べる。


西岡「……なんかどれも微妙だな」

北島「バレたか。じゃあ残りは全部お前が喰えよ?」

西岡「何でさ?」

北島「一度口付けた物は全部喰えって家で言われてんだろ?責任もって全部喰えよ?」

西岡「確かに口を付けたけど、俺は一口としか言ってないからそれで終わりだよ」

北島「あっ、ズルっ。流石の俺でもこれ全部喰うのは無理だぞ?」

西岡「俺ももうお腹いっぱいだから喰えないよ」

北島「だからそういうのも先に言えよ。言ってたらこんなに頼まなかったよ」

西岡「お前が全部喰ってくれると思ってたから」

北島「お前、俺を何だと思ってるの?」

西岡「バキュームカー」

北島「流石に失礼だぞ」

西岡「悪い」

北島「普通に謝るんならそんな事、言うんじゃないよ」

西岡「嘘は吐きたくないから」

北島「あっそ。で、どうする、コレら?」

西岡「折詰にしてもらおうか」

北島「そうだな。すいませーん!」

店員(声のみ)「はーい!」


 店員、下手から登場。


店員「何でしょうか?」

北島「これ折詰してもらう事って出来ます?」

店員「大丈夫ですよ」

北島「じゃあ半分ずつ分けて詰めて下さい」

店員「畏まりましたー」


 店員、料理を持って退場。


西岡「何で二つに分けたの?」

北島「俺とお前の、半分ずつ」

西岡「いやいや、全部お前のだろ」

北島「それはおかしいだろ。元はお前のもあるんだから」

西岡「だとしても後に頼んだのは全部お前のだろ」

北島「良いじゃんか、別に。それくらいは手伝えよ」

西岡「分かったよ。じゃあ会計頼むわ」

北島「おう」

西岡「会計やってる間に、俺トイレに行ってくるわ」

北島「おう、行ってらっしゃい」


 西岡、金を北島に渡し、上手に退場。

 店員、折詰を持って登場。


店員「お待たせしましたー」

北島「あぁ、どうも。ついでに会計お願いします」

店員「はい。一万五千三百四十円になります」

北島「じゃあ丁度」

店員「はい、丁度お預かりします」

北島「あの、トイレってあっち(上手を指す)ですか?」

店員「いえ、あちらですが?」

北島「あっ!あの野郎!俺に全部喰わす気だ!待てコラ!」


 北島、走って上手に退場。


店員「ありがとうございましたー」












―――終わり

『駄菓子屋』



・登場人物


 藤原

 儀間おばあちゃん

 小川

 西岡

 北島

 米山



・舞台


 駄菓子屋



 明転。


 駄菓子屋。商品棚が並べてあり、上手がレジ(座敷)、下手が入口。

 儀間、座敷に座っている。

小川、西岡、商品を選び、会計をしている。

藤原、下手から登場。


藤原「へぇ、こんな所に古き良き駄菓子屋があるとは」

西岡「おばちゃん、ありがとー」

小川「ありがとー」


 小川、藤原、下手に退場。


藤原「へぇ、意外に大人も来るんだな。すいませーん」

儀間「はいはい。あら、ここらじゃ見ない顔だねぇ」

藤原「最近ここに越してきたんです」

儀間「そうですか。これから宜しくお願いしますねぇ」

藤原「こんな所にも駄菓子屋なんてあるんですね」

儀間「ひっそりとやってます。私が生きている間はやっていこうかなと思っております」

藤原「じゃあ沢山長生きしていつまでもこのお店をやってって下さいよ。じゃあ折角なんで何か買おうかな」

儀間「お好きなだけ選んで下さい」

藤原「どれも懐かしい物ばかりだな……じゃあこれとこれと、あまり見た事が無いこれ。下さいな」

儀間「はいはい。えーっと、これがあれで、これがあれだから……全部で三百万円になります」

藤原「はははっ!三百万円ね!懐かしいなぁ、このノリ。じゃあ、はい、三百万円!」


 藤原、財布を取り出し、三百円を儀間に渡す。


藤原「じゃあまた来ますんで」


 藤原、去ろうとする。


儀間「あのー」

藤原「はい?」

儀間「足りませんけど」

藤原「え?三百円じゃないの?」

儀間「いえ、三百万円です」

藤原「だから三百円でしょ?払ったじゃないですか」

儀間「だから三百万円です。あと二百九十九万九千七百円足りません」

藤原「はっ!?マジで三百万円なの!?」

儀間「はい」

藤原「いや、こういうのってさ、普通ノリみたいなので何百万円って言うもんじゃないの?」

儀間「生憎冗談のセンスは無いもので」

藤原「え、分かんない?こういうノリって?」

儀間「分かりません」

藤原「いやいや、よくあるでしょ?大阪のおばちゃんとかやってるじゃん」

儀間「分かりません」

藤原「真面目だなっ。じゃあいいよこのお菓子」

儀間「よろしいですか?」

藤原「うん」


 藤原、お菓子を棚に戻す。

 北島、米山、下手から登場。


北島「おばちゃん、これ三つね」

米山「私はこれ二つ」

儀間「はいよー。そっちが六十円で、こっちは百円ね」


 北島、お金を払う。


北島「ありがとねー」

米山「どうもー」


 北島、米山、下手に退場。


藤原「さっきの人達、普通の値段で買っていったぞ?」

儀間「そういう商品を選んでましたので」

藤原「てかさ、これ内訳どうなってる訳?」

儀間「そちらが十円。そちらが百円。奥のが二百九十九万九千八百九十円になります」

藤原「何だその痺れる金額設定は。そんな高額商品ここに置くなよ。盗まれたらどうすんだよ」

儀間「今まで盗まれた事無かったもので」

藤原「大体さ、このお菓子どこの何で作られてんの?そんな高額なお菓子聞いた事無いよ」

儀間「そちらの商品は全て私の手作りとなっております」

藤原「自分で作ってんの?その内訳どうなってるんだよ」

儀間「材料費三十円。アイデア料約二百八十万円になります」

藤原「だから何だそのイカれた料金設定は。どうしてそんなにアイデア料が掛かるんだよ」

儀間「この道五十年の努力の結晶ですので」

藤原「限度ってものがあるでしょ。これそんなに美味いの?」

儀間「味には自信あります」

藤原「ちなみにコレ何?」

儀間「麩菓子です。麩菓子をチョコレートで覆って外はサクサク、中はふわふわで、甘くて美味しいですよ」

藤原「これお試しで食べさせて貰えない?」

儀間「駄目です」

藤原「試食させてよ。食べてみないと買うかどうか判断出来ないからさ」

儀間「駄目です」

藤原「真面目かっ。そんなんじゃ売れないでしょ、コレ。コレ買う人いるの?」

儀間「お陰様で毎日完売しております」

藤原「どれくらい売れんの?」

儀間「大体一日三百個売れます」

藤原「そんなに売れんの!?いやー、そう言われると何か気になって来ちゃったな」

儀間「お一つ如何ですか?」


 儀間、テーブルの上から麩菓子を取り出し、剥いて藤原に差し出す。


藤原「え?良いの?さっき駄目って言ってたのに」

儀間「まぁまぁ、どうぞ」

藤原「じゃあ頂きます」


 藤原、麩菓子を食べる。


儀間「では三百万円頂きます」

藤原「これ試食じゃないのかよ!?」

儀間「そんな事一言も言ってませんよ。お一つ如何ですか、としか言ってません」

藤原「こんな事で三百万をドブに捨てられるか!」

儀間「でもお味は如何ですか?」

藤原「味?……美味っ!?何だコレ!?めっちゃ美味い!?」

儀間「ありがとうございます」

藤原「何コレめっちゃ美味い……三百万円なのも頷ける……」

儀間「如何致しますか?」

藤原「払うよ……カードで良い?」

儀間「構いませんよ」

藤原「まさか駄菓子屋でカードを使う日が来るとは……」

儀間「何回にしますか?」

藤原「48回払いで」

儀間「ポイントカードお作りしますか?」

藤原「駄菓子屋でポイントカード?」

儀間「200円で1ポイント貯まりまして、1ポイントで1円の交換が出来ます」

藤原「って事は三百万使ったから……」

儀間「1万5000円分の交換が出来ますね」

藤原「燃費悪ぅ……でも仕方ないか」

儀間「お作りしますか?」

藤原「うん」

儀間「ではこちらポイントカードです」

藤原「うん」

儀間「他に何か買われますか?」

藤原「手作りの食べたいけど……でもまた三百万とかするんでしょ?」

儀間「そちらの棚は1万円から5万円の物がありますよ」

藤原「安っ!?折角だから買おうかな!」

儀間「はい」

藤原「じゃあ、これとこれとこれ!」

儀間「はい。では合計で4万円になります」

藤原「カードで!」

儀間「ありがとうございますー。何回払いにしますか?」

藤原「一回で!」

儀間「畏まりましたー。では一回で承りますー」

藤原「じゃあまた来ますんでー!」

儀間「はーい、お待ちしておりまーす」


 藤原、下手に退場。


儀間「初めに高い物に手を出したお客はこうやって捕まえるのさ……」












―――終わり

『迷子センター』



・登場人物


 北島(迷子センタースタッフ)

 枝村(迷子センタースタッフ)

 小川(迷子センタースタッフ)

 藤原正将(子供・迷子)

 藤原久恵(正将の母)・・・最後だけ登場。


・舞台


 迷子センター





・衣装


 正将・・・半袖のシャツ、短パン、NIKEの帽子、肩提げ鞄。

 久恵・・・赤い半そでのシャツ、ネックレス、青いデニム、黒のスニーカー。ヤンキーっぽい恰好で。





 明転。


 迷子センター。椅子が二つ。

 北島、枝村、小川、板付き。


北島「お母さんと会えて良かったねー。次からははぐれるんじゃないよ?元気でねー」

小川「迷子の子多いですねー」

枝村「このデパート広いからね。ちょっと目を離したら子供はすぐどこか行っちゃうしね」

北島「まぁ、こんな高級デパートに来るような子達だし、素直に親の特徴言ってくれて助かるよ」

枝村「あぁ。自ら迷子センターに来てくれるだけ、事件とか起きなくて良いよな」

正将「(オフで)うわーん!うわーん!」

小川「あ、また来ましたよ」

北島「よし、いつも通り行くぞ」

小川「はい」

枝村「おう」


 正将、舞台下手から登場。


正将「うわーん!うわーん!」

北島「僕、どうしたのかな?」

正将「うわーん!うわーん!」

北島「迷子になっちゃったのかな?」

正将「(頷く)」

北島「そっかそっか。じゃあまずお名前教えてくれるかな?」

正将「うわーん!うわーん!」

北島「お名前、教えてくれるかな?」

正将「うわーん!うわーん!」

北島「そうかそうか。じゃあ、今日は誰と来たのかな?」

正将「生みの親」

北島「生みの親……?育ての親は違うのかな?」

正将「同じ」

北島「何故そんな紛らわしい言い方を……?お母さんと来たのかな?」

正将「(頷く)」

北島「じゃあお母さんのお名前、教えてくれるかな?」

正将「うわーん!うわーん!」

北島「分かった分かった。じゃあ、お母さんの特徴を教えてくれるかな?」

正将「右利き」

北島「……どんな人かな?」

正将「日本人」

北島「どういう格好してる?」

正将「洋服」

北島「どういう服?」

正将「上はしまむら、下はユニクロ、靴はABCマート」

北島「……そうかそうか。分かった。とりあえず、ここに座って待っててくれるかな?」

正将「(頷き、椅子に座る)」

枝村「どうだった?」

北島「何も分からなかった……」

小川「えぇ?どうするんですか?」

北島「とりあえずアナウンスして」

枝村「何て?」

北島「半袖短パンのNIKEの帽子を被って、肩提げ鞄を身に着けている子を保護しています。お心当たりのあるお母さんは至急、迷子センターまでお越し下さい、って」

小川「分かりました」


 小川、舞台上手に退場。


北島「どうしようかな……」

枝村「俺が行ってみようか?」

北島「多分変わらないぞ」

枝村「やってみないと分からないぞ?」

北島「まぁ、任せるわ」

枝村「(正将の方へ行く)君、お名前は?」

正将「(首を横に振る)」

枝村「お母さんのお名前は?」

正将「(首を横に振る)」

枝村「そっかそっか。今何歳かな?」

正将「(指を3本立てる)4歳」

枝村「ど、どっち……?」

正将「(指を3本立てる)4歳!」

餌村「4歳ね……今日はどうやって来たの?」

正将「公共交通機関」

枝村「電車?バス?」

正将「銀座線旧1000型」

枝村「電車ね。どこから乗ってきたの?」

正将「最寄り駅」

枝村「その駅の名前は?」

正将「個人情報」

枝村「そっかー。じゃあちょっと待っててね(離れる)」

北島「どうだった?」

枝村「何も分からなかった……」

北島「やっぱりな。手強いぞあの子……」


 小川、舞台上手から登場。


小川「アナウンスしてきました」

北島「ご苦労様」

小川「何か追加で分かった事はありましたか?」

枝村「俺も行ったんだが、さっぱり」

小川「そうですか。じゃあ次は私が行ってみます」

北島「きっと意味無いぞ?」

小川「大人の男の人より、女の人の方が心を開いてくれるかもしれませんよ?」

枝村「一理あるな」

北島「頼むわ」

小川「はい(正将の方へ行く)こんにちは」

正将「(やや食い気味に)こんにちは!」

小川「お名前は?」

正将「藤原正将!」

小川「いくつ?」

正将「4歳!(指を4本立てる)」

小川「どこから来たの?」

正将「東銀座!」

小川「そっかー」

枝村「おぉ、流石。小川さん。女の人だと何でも答えるな」

北島「最初からこうすれば良かったな」

小川「今日は誰と来たの?」

正将「お母さん!」

小川「お母さんのお名前は?」

正将「久恵!旧姓山崎!」

小川「お母さんはどんな人?」

正将「32歳、既婚!髪は肩までのセミロング!身長165cm、体重58kg、スリーサイズは上から88、56、92!服は上が赤い半そでのシャツに、ネックレスを着けていて、下は青いデニムに黒のスニーカー!」

北島「おい、あの子、答え過ぎじゃないか?」

枝村「それだけリラックスしてるって事でしょ」

北島「そうかなぁ……」

小川「どこのフロアで迷子になったの?」

正将「おもちゃ売り場で物色してたら、気付いたら母が居なくなってて、一人、途方に暮れていたところに、迷子センターの存在を思い出してここに来ました!」

北島「おい、あの子、いくらなんでも酷くないか?俺達の時は全く反応しなかったのに」

枝村「まぁまぁ、落ち着けよ。これもあの子の母親を見付ける為の事なんだから」

小川「じゃあお母さんが来てくれるまでここで待っててね」

正将「はい!」

小川「(北島と枝村の所へ行く)じゃあアナウンスしてきますね」

枝村「おう」

北島「おう……」


 小川、舞台上手に退場。


北島「なぁ、もう一度俺達で行ってみないか?」

枝村「どうして?もう聞きたい事全部聞いたろ?」

北島「納得がいかねぇよ。アイツ、わざと俺達を避けてないか?」

枝村「まだ4歳児なんだししょうがないだろ」

北島「露骨過ぎるよ。ちょっと行ってくるわ」

枝村「怖がらせたりすんなよ?」

北島「当たり前だろ(正将の方へ行く)正将君、ちょっと良いかな?」

正将「…………」

北島「今、保育園に通ってるのかな?」

正将「(頷く)」

北島「そこではどんな遊びが流行ってるのかな?」

正将「…………」

北島「俺に教えてくれないかな?」

正将「…………」

北島「ポケモンとかどうかな?俺はね、一番最初のゲームからずっとやってるんだ。アニメも観てるし。どう?興味無い?」

正将「……おじさん」

北島「お兄さん」

正将「おじさん。僕は勉強ばっかりしてるから、そういう遊びをやった事もテレビを観た事も無いんだ……」

北島「そ、そっか……悪い事聞いたね」

正将「ううん」

北島「じゃあお母さん、もう少しで来るから待っててね」

正将「うん」

北島「(枝村の所へ戻る)無理だった」

枝村「だろうな」


 小川、舞台上手から登場。


小川「アナウンスしてきました」

枝村「ご苦労様」

小川「何かあったんですか?」

北島「なに、保育園で何か流行ってないか聞いたんだが、勉強ばかりしていて知らないんだとさ」

小川「そんな事あります?ちょっと私聞いて来ます」

北島「無駄だと思うぞー」

小川「(正将の所へ行く)正将君、今保育園で流行ってる事とか無いかな?あったら私に聞かせてくれる?」

正将「ポケモン!」

北島「何ィ!?」

枝村「あらら」

小川「そうなんだ~。最近新しいゲーム出たもんね~」

正将「そうそう!あれ毎日遊んでる!面白いよ!お姉ちゃんもやってるの?」

小川「やってるよ~。面白いよね~」


 小川、正将、ゲーム機を取り出して対戦する。


北島「あのガキ、何で俺はおじさんで小川はお姉ちゃんなんだ」

枝村「子供からすれば大人の男は皆おじさんなんだろ」

北島「それにしたって明らかに態度がおかしいだろ。何で俺達には何も話さないんだ」

枝村「女性の方が心を開きやすいって話、さっきしただろ」

北島「いや、あれは明らかに人によって態度を変えてる。女好きじゃねぇのか?」

枝村「まだ4歳だぞ?流石にその考えは早過ぎないか?」

北島「絶対そうだって。女にしか懐かないのはおかしいって。俺だって歩み寄ってんのに」

枝村「それはお前が怖いと思ったからだろ」

北島「だって今までの子達は俺に懐いたぞ?」

枝村「たまたまだって。たまたま」

小川「他に何か好きな事とかある?」

正将「人間観察!」

小川「へー。どんな事するの?」

正将「子供が無理難題を言って困惑する大人を観るのが好き!」

小川「へー、なんか大人だねー」

北島「ちょっと行ってくるわ(小川と正将の元へ行く)」

枝村「お、おい……」

北島「何してんの?」

小川「あぁ、ポケモンです。ねー」

正将「ねー」

北島「何かさっき、大人が困ってるところを見るのが好きとか聞こえてきたんだけど」

正将「そんな事言ったっけ?」

小川「ごめん、覚えてない」

北島「言ってたよ!お前、子供って事を利用して俺達大人を馬鹿にしてただろ!」

正将「何かこのおじさん怖いよ、お姉ちゃん……(小川の袖を掴む)」

小川「ごめんねぇ。北島さん、子供を怖がらせてどうするんですか」

北島「明らかにこのガキ、俺達を舐めてる。折檻しないとな」

正将「怖いよー!(小川に抱き着く)」

小川「止めて下さい!怯えてるじゃないですか!」

北島「五月蠅ぇ!一発、拳骨でも入れとかないと気が済まん!」

枝村「待て、北島!」

北島「止めるな、枝村!このガキャぁ、一発締めとかないと今後の教育に悪影響を及ぼす!」

枝村「待てって!」


 久恵、舞台下手から登場。


久恵「あのー、ここ迷子センターで宜しかったでしょうか……?」

小川「あっ、はい、そうです。もしかして、正将君のお母さんでしょうか?」

久恵「そうです。あの、正将は……?」

正将「お母さん!」

久恵「正将!もー、どこ行ってたのー?」

正将「お母さんこそどこ行ってたんだよー?」

久恵「お世話になりました」

小川「正将君、もう迷子にならないようにね」

正将「はい!またね、お姉ちゃん!」

小川「ばいばーい」


 正将、久恵、舞台下手に退場。


北島「納得いかねぇ!」

枝村「もう良いだろ。無事に母親の元へ帰っていったんだから」

小川「そうですよ。あんなに可愛い素直な子、なかなかいませんよ?」

北島「どこが素直だ!性格ひん曲がってたぞ!」

小川「それは北島さんが怖かったからですよ」

北島「納得いかねぇ!」


 正将、舞台下手から登場。


小川「あら、正将君、何か忘れ物?」


 正将、北島の尻に蹴りを入れ、すぐに舞台下手に走って逃げる。


北島「イテッ!このクソガキャぁ!」


 北島、舞台下手に走って追い掛ける。


枝村「おい!北島!……はぁ、アイツあんなにキレるキャラだったっけ?」

小川「さぁ……」


 北島、頬を押さえて舞台下手から登場。


小川「あ、帰ってきた」

枝村「どうした、ほっぺなんか押さえて?」

北島「母親に叩かれた……もう嫌だよ、あの親子……」

小川「まぁ、北島さんが悪いですよね」

枝村「うん、お前が悪い」

北島「……俺、絶対、泣かない」







―――終わり

『鈍い男』



・登場人物


 藤原

 北島

 西岡


・舞台



 会社の会議室






 明転。


 会社の会議室。テーブル2つに椅子が4つ。

 藤原、北島、板付き。


北島「今日だったよな?小川さんがフランスに行くの」

藤原「あぁ……」

北島「ちゃんと別れ、言えたか?」

藤原「…………」

北島「……そうか。良いのか?このままで」

藤原「……俺には、仕事があるから……」

北島「だけどよ……」

藤原「良いんだ。これで、良いんだ……」

北島「でもちゃんと別れを告げて、こっちに帰って来た時やり直せるようにしといた方が良いんじゃないか?その方がスッキリするし、何より、お前ら二人は別れた後でも仲良かったじゃないか」

藤原「それは……そうだけど……」

北島「後二時間で飛行機に搭乗する時間だ。今ならまだ間に合う。行って来いよ。部長には俺から言っておくから」

藤原「でも私情で皆に迷惑は掛けられないよ」

北島「真面目だな。でも、そこに彼女は惚れたんだろ?だったら尚更、真面目に、真摯に向き合って彼女を止めるつもりで会って来いよ」

藤原「それは出来ない。それに、あの堅物の西岡部長が許してくれる訳無いよ」

北島「ちゃんと頼めば聞いてくれるさ」

藤原「いや、駄目だよ、きっと」

北島「藤原、お前、本当にそれで良いのか?」

藤原「もういいんだ。とにかく、俺と美幸の事はもう放っておいてくれ」

北島「……分かったよ」


 西岡、下手から登場。


藤原北島「おはようございます」

西岡「あぁ、おはよう」

北島「西岡部長、今日の会議なんですが……」

西岡「どうした?」

北島「時間をズラしてもらう事は出来ませんか?」

藤原「おい、北島」

北島「いいから」

西岡「何でだ?」

北島「今日、小川さんのフランスへ出発の日なんです」

西岡「あぁ、総務課の小川君、今日だったか」

北島「はい。だから最後に、藤原の為に時間を……!」

藤原「北島……」

西岡「あぁ!?それだけの為に会議を遅らせろって言うのか!?」

藤原北島「…………」

西岡「お前の私情なんか知った事かよ!そんなつまらない事で会社が言う通りになると思ったら大間違いだ!」

藤原北島「…………」

西岡「だが今日は何だか腹の調子が悪くてなぁ。だから今日の会議は三時間遅らせる」

藤原北島「西岡部長……」

西岡「それまでには、帰って来いよ?(下手に退場)」

北島「やったな、藤原!」

藤原「はぁ……」

北島「どうした、藤原?」

藤原「私情で会社動かしてんのはどっちだよ……」

北島「何言ってんだ?」

藤原「だから言ったろ?西岡部長は聞いてくれないって」

北島「は?」

藤原「はぁ……仕事仕事。今の内にプレゼンの打ち合わせしとこうぜ」

北島「ちょちょちょ……お前、小川さんに会って来いよ」

藤原「はぁ?三時間後には会議だぞ?少しの時間も惜しいんだ。さっさと打ち合わせ終わらせてコーヒーでも飲んで緊張を和らげよう」

北島「いやいや、西岡部長が時間作ってくれたんだぞ?会いに行けよ」

藤原「時間を作ってくれた?何言ってんのお前?」

北島「だから、西岡部長が腹の調子が良くなるまでの間、小川さんに会って来いって言ってたじゃないか」

藤原「そんな事一言も言ってなかったじゃないか。腹の調子が悪いから会議を三時間遅らせるって言ってただけじゃないか」

北島「……お前、それマジで言ってんの?」

藤原「何が?」

北島「はぁ!?お前マジか!?」

藤原「だから何が?」

北島「あまりにも鈍過ぎるだろ!あの言葉の意味マジで分かってなかったのかよ!」

藤原「さっきから何なんだよ。一人で騒いじゃってさ」

北島「良いか!?西岡部長は、自分の腹の調子が悪いって嘘吐いて3時間の猶予を与えてくれたんだよ!その間に会いに行けと粋な計らいをしてくれたんじゃないか!」

藤原「え?そうなの?」

北島「そうだよ!?何で分かんないかなぁ!?」

藤原「でも嘘を吐くって悪い事だよ。そんな不真面目だとは思わなかったなぁ、西岡部長」

北島「そういう事じゃねぇだろ!ヒールを装ってお前に気を利かせてくれたんじゃないか!」

藤原「それでも嘘は駄目だよ、嘘は」

北島「面倒臭ぇ、お前!」

藤原「さて、プレゼンの準備しとこうかな」

北島「おいおいおい、行けよ!」

藤原「どこに?」

北島「小川さんに会いに!」

藤原「何でさ?」

北島「最後に会って来いよ!」

藤原「でも今は国が違ってもビデオ通話も出来るし、美幸とはいつでも会えるようなもんだから」

北島「そういうんじゃないじゃん。直接会うのとビデオ通話で話すのとじゃ違うじゃん」

藤原「そうかなぁ?」

北島「そうだよ。良いから行けって、ほら!」

藤原「でもちゃんと西岡部長に確認取ってからじゃないと」

北島「何でだよ」

藤原「思い違いだったら恥ずかしいじゃん」

北島「真面目か!」

藤原「真剣だ」

北島「このクソ真面目のどこに小川さんは惚れたんだ……」

西岡「(下手から登場)あれ?何で居るの?」

藤原「西岡部長」

西岡「何だ?」

藤原「さっきの西岡部長の言葉、厳しい言い方で嘘を吐いて、私に気を利かせて粋な計らいをしてくれたというのは本当ですか?」

北島「藤原ー!」

西岡「え、あ、その、まぁ、うん、はい」

藤原「先程の言葉を要約すると、時間を作ってあげるから最後に小川に会って来い、という事で間違いありませんか?」

北島「おい!もう!その辺で!」

藤原「どうなんですか?」

西岡「……はい」

藤原「そうですか。分かりました。折角の機会、無駄にはしません!ありがとうございます!」

西岡「お、おう……」

藤原「行ってきます!」

西岡「い、行ってらっしゃい……」


 藤原、下手に退場。


西岡「何なの?」

北島「真面目過ぎて人の優しさに気付けなかったんです」

西岡「ふーん?」


 藤原、下手から登場。


北島「うわ、何だ?忘れ物か?」

藤原「社用車、使って良いですか?」

北島「真面目だな!」

西岡「あぁ、良いけど」

藤原「じゃあ改めて行ってきます!」


 藤原、上手に退場。


西岡「あんな真面目だったっけ?」

北島「私も吃驚です。それにしても西岡部長、あんなお茶目な一面があるとは思いませんでしたよ」

西岡「皆、私の事は堅物だとかなんとか言ってるみたいだけど、冗談くらいは言うぞ?そこまで融通が利かない人間じゃない」

北島「ですね。藤原も頭柔らかくしてくれれば良いのに」

西岡「で?何話してたんだ?」

北島「さっきも言った通り、真面目過ぎて冗談や気の利かせに気付けずにいたんですよ」

西岡「何?じゃあ藤原、俺のあのジョークに気付かなかったの?」

北島「はい」

西岡「えぇ……鈍感過ぎない?」

北島「真面目過ぎるのも考え物ですね」


 藤原、上手から登場。


西岡「どうした藤原?」

北島「今度は何だ?」

藤原「乗っちゃってた……」

北島「は?」

藤原「美幸、もう飛行機乗っちゃってた……」

西岡「え?まだ時間あるんじゃないのか?」

藤原「時間間違えてて……二時間前に飛行機出発しちゃって……」

西岡「えー!?じゃあ俺のあのお芝居、無駄だったって事!?」

藤原「誠に申し訳ありません!」

西岡「まぁ、良いけどさぁ。いや、良くは無いんだけど……これじゃあただ俺が恥ずかしいだけじゃないか」

藤原「いや、私も恥ずかしいです……」

西岡「いやまぁそうだろうけども。でも私も巻き込み事故貰っちゃって恥ずかしい限りだよ」

藤原「本当にすみません……」

北島「何で時間、間違ってるって分かったんだ?」

藤原「美幸に連絡して、今から会いに行くから空港で待っててくれって送ったら、もう飛行機に乗ってフランスに向かってるよ、と返信が来た」

北島「真面目か!全然ムード無いな」

藤原「だってもうゲート潜ってたら行っても無駄足になっちゃうじゃないか」

北島「真面目だな!で、どうするんだよ?」

藤原「とりあえず向こう着いたら連絡するって」

西岡「あっそー。じゃあ、会議はもうこのまま進めても良いか?」

藤原「でもあと二時間半くらい時間ありますよ?」

西岡「そうだけど、何ももう時間を遅らせる理由も無いし、このまま始めちゃった方が早く帰れるぞ?」

藤原「でも一度決めた時間を無理矢理変えた後に、また無理矢理変えたら、部下からの信用が無くなりますよ?」

西岡「そりゃそうかもしれないけど……早く終わったらお前だけは早退にも出来るんだぞ?」

藤原「それはいけません。まだ仕事は残ってるのに私だけ早退なんて皆に迷惑が掛かります」

西岡「いや、まぁ、その……」

藤原「とにかく、これ以上私情で会社を動かしてはいけません。時間通りに進めましょう」

西岡「えぇ……」

北島「藤原!お前分かんないのか?西岡部長は、早く会議を終わらせて、お前を早退させて少しでも早く小川さんと話をさせてやろうって言ってるんじゃないか!」

藤原「え?そうなの?」

北島「そうだよ!ですよね?西岡部長?」

西岡「いや、まぁ、その、はい……」

北島「ほら見ろ!」

西岡「何?君達は私を辱めようとしてるの?」

藤原「お気遣い感謝します。でも西岡部長、どうしてそんな回りくどい言い方をするんですか?」

西岡「え?」

藤原「最初からそうしてくれるなら、キチンとそのまま言ってくれないと、相手には伝わりませんよ?」

北島「藤原ー!」

西岡「ご、ごめんなさい……」

藤原「ではご厚意に感謝して、会議を始めますか」

西岡「はい……」

北島「おい、藤原!この空気の中会議する気かよ!?」

藤原「何か問題が?」

北島「大ありだよ!上司である西岡部長にこんな辱めを受けさせて、部下に説教されて落ち込んでる中、会議やったって事が進む訳無いじゃないか!」

藤原「えぇ?何それ?仕事に私情を持ち込むのはいけない事だよ?」

北島「だから真面目か!私情を持ち込むなと言う割には、相手の厚意には乗っかっちゃってるじゃないか!」

藤原「相手の厚意を無下にしたら失礼じゃないか」

北島「真面目の方向性がおかしい!ラインが分からん!」

西岡「で?どうする?会議する?」

藤原「やりましょう」

北島「あー!もう!分かったよ!会議やれば良いんでしょ!」

藤原「何怒ってんの?」

北島「五月蠅ぇ!」


 暗転。


 明転。


 北島、西岡、板付き。


藤原「(下手から登場)おはようございまーす」

北島「おぉ、藤原、どうだった?電話出来たか?」

藤原「それが……」

西岡「どうした?まさか、あの後喧嘩したとかじゃないだろうな?」

藤原「いえ、喧嘩はしてません。というか喧嘩すらしてません」

北島「どういう事?」

藤原「日本とフランスじゃ時差が七時間あるから、疲れてて眠いって事で電話出来なかった……」

西岡「えぇー!?じゃあ何もかもが無駄だったって事じゃないか!」

藤原「すみません……」

北島「今日は?今日はどうなの?」

藤原「今日はすぐ仕事に行くから疲れて出来ないって断られた」

西岡「じゃあ明後日は?」

藤原「引っ越しの荷物が届くから無理だそうで」

北島「……それ、お前嫌われてるんじゃないか?」

藤原「そうなのかな?」

北島「そうだよ。じゃなかったら話したいって言ってんのに3回も断らないだろ」

藤原「なるほど……」

北島「鈍いんだよお前は」

西岡「大体別れた理由は何なんだ?」

藤原「俺が浮気した」

北島「そこは不真面目なんかい!」

















―――終わり

『未遂』



・登場人物


 飯島健太・・・暴行罪で逮捕された。1326番。両手には大きく巻かれた包帯。

 黒澤正美・・・殺人未遂犯。1006番。

 唐木隆二・・・強盗未遂犯。1138番。

 如月弘幸・・・万引き未遂犯。1198番。

 西田光男・・・下着泥棒未遂犯。1200番。

 板垣武志・・・痴漢未遂。1305番。

 刑務官A・・・刑務官。

 刑務官B・・・刑務官。



・舞台


 刑務所。

・衣装


 飯島、黒澤、唐木、如月、西田、板垣、白黒のボーダーの囚人服を着ている。
















 明転。


 舞台は刑務所の一角。牢屋。

 黒澤、唐木、如月、西田、板垣、牢屋の中にいる。飯島、刑務官A、上手から登場。刑務官A、牢屋の鍵を開ける。


刑務官A「入れ、1326番の飯島」

飯島「はいはい」

刑務官A「『はい』は一回!」

飯島「はいっ!」


 飯島、刑務官Aに手錠を外してもらい。牢屋の中に入る。刑務官A、施錠し、上手に退場。


黒澤「来たか、新入り」

飯島「アンタ達は?」

唐木「人に物を聞く前に、先に自分から言ったらどうだ?まずは自分から名乗りな」

飯島「飯島だ」

西田「バーカ。ここではまず番号を付けんだよ」

飯島「……1326番の飯島だ」

板垣「あら、アタシと番号が近いわね。仲良くしましょ」

飯島「……ウス」

黒澤「俺は1006番の黒澤だ。よろしくな」

唐木「俺は1138番の唐木だ」

如月「俺は1198番の如月だ」

西田「俺は1200番の西田だ」

板垣「アタシは1305番の板垣よ」

黒澤「で?お前は何をしてここに来たんだ?」

飯島「は?」

黒澤「だから、お前は何してここに来たんだ?」

飯島「人に物を聞く前に、先に自分から言ったらどうだ?」

如月「ははは。しっぺ返しを喰らったな」

黒澤「五月蠅ぇ。良いだろう。新入りが来た記念に、先に俺達の罪状を教えてやる。俺の罪状は、殺人……!(おもちゃのナイフを取り出す)……未遂(ナイフの刃をシャコッとしまう)」

飯島「え」

唐木「俺は強盗……!(拳銃を取り出す)……未遂(引き金を引き、銃口から花が出る。そしてレシートを取り出す)」

飯島「えっ」

如月「そして俺は万引き……!……未遂(大量のレシートを取り出す)」

飯島「えぇっ」

西田「そして俺は下着泥棒……!(女性用下着を取り出す)……未遂(レシートを取り出す)」

飯島「えぇ……」

板垣「最後はアタシね。アタシは痴漢……!……未遂(痴漢物のエロ本とエロDVDを取り出す)」

飯島「えぇ…………」

黒澤「どうだ、恐れ入ったか」

飯島「ある意味恐れ入ったわ。アンタとアンタの殺人未遂と強盗未遂はまだ分かるわ。アンタとアンタとアンタの万引き未遂と下着ドロ未遂と痴漢未遂って何?どう判断したら警察はアンタらを逮捕して刑務所に入れられんの?」

如月「じゃあ俺から説明してやろう。あれは今から三年前、万引きをしようかどうか迷っていたら気付いたらお金を払っていた」

飯島「普通やんけ」

如月「けどあまりにも不審者過ぎたのか、通報されて裏に連れてかれた。そこで素直に『万引きしようかどうか迷っていた』と伝えると厳重注意された」

飯島「何で素直に言っちゃうかな……」

如月「それを一年間、毎日繰り返している内に気付いたらここにいた」

飯島「一年間!?よく一年間も続けたね!?」

如月「根気勝ちさ」

飯島「負けてここにいるんだけどな……」

西田「次は俺だな。あれは二年前、下着泥棒をしようかどうか迷っていたら職務質問されて素直に『下着泥棒をしようかどうか迷ってた』と答えた」

飯島「だから何で素直に言っちゃうかな……」

西田「それを一年間、毎日繰り返してたら、気付いたらここにいた」

飯島「また一年かよ!?」

西田「で、結局女性用下着売り場で下着買ったらここにいた」

飯島「それは盗みはしなかったのか」

西田「それは人としてどうよって思ったから」


 如月、露骨に落ち込む。


飯島「おい、万引き未遂が落ち込んでるぞ」

西田「あっ!ごめんごめん!」

如月「いや、良いんだ……」

黒澤「でもお前は盗んでないし踏み止まれたんだ。偉いぞ」

如月「ありがとう……ありがとう……!」

飯島「豆腐メンタルかよ」

板垣「次はアタシね。あれは一年前、アタシは痴漢をしようかどうか迷っていたら逮捕されたわ」

飯島「迷っていたらってどういう事?」

板垣「手を女性のお尻の近くを行ったり来たりしてたら周りの人達から通報されて厳重注意されたわ」

飯島「その女性も吃驚したろうな」

板垣「それを一年間、毎日続けてたら気付いたらここにいたわ」

飯島「またかよ!?その根気はどこから来るの!?」

板垣「諦めない心かしらね」

飯島「格好良くないぞ!?」

黒澤「まぁそういう事だ。よろしくな」

飯島「待て待て。アンタらの事も聞いておきたい。何で未遂で終わらせたの?」

黒澤唐木「だって人としてヤったらイケナイかなって」

飯島「根性無し!?」

唐木「さて、これで全部かな?」

飯島「アンタらはどうして捕まったんだ?」

黒澤唐木「武器持ってウロウロして一年経ったらここにいた」

飯島「やっぱり一年間かよ!?どんだけ根性があるんだアンタら!?」

黒澤唐木如月西田板垣「照れるなぁ」

飯島「褒めてない!」

黒澤「それで?お前は何をしてここに来たんだ、新入り?」

飯島「お、俺?」

唐木「何を一年間やらかしたんだ?」

飯島「お前ら基準で話すんじゃねぇよ!俺は一年間もやってない!」

如月「え……?刑務所に来るのって一年間何かやらかした奴なんじゃないの……?」

飯島「んな訳無ぇだろ!」

西田「じゃあ何をやってここに来たんだ?」

飯島「俺は暴行罪だよ」

板垣「の、未遂か」

飯島「未遂じゃねぇ!れっきとした暴行罪だよ!」

黒澤「何人くらいやったんだ?」

飯島「十人くらいだな。全員病院送りにしてやった」

黒澤唐木如月西田板垣「えぇ……」

飯島「何だよ?」

唐木「お前、人としてそれはどうよ……」

如月「少しは常識ってモンを知らないのかよ……」

飯島「いやいやいや、お前らが言うなよ。お前らだって犯罪者だろうが」

黒澤唐木如月西田板垣「そこまで落ちぶれてない」

飯島「酷ぇ言い草!」

西田「てか何でそんな事になったんだよ?」

飯島「居酒屋でチンピラと口論になってな」

板垣「全員相手にしたの?」

飯島「あぁ。こう見えても、昔はチンピラボクサーだったんでな。軽く捻ってやったら全員倒してたよ」

板垣「痛い痛い痛い!」

飯島「どうした?」

板垣「完全にイキってるじゃない!アタシの苦手なタイプだわ!」

飯島「またもや酷ぇ言い草!」

刑務官A「おい!五月蠅いぞ!(声のみ)」

黒澤唐木如月西田板垣「申し訳ありません!」

飯島「突然、何!?」

黒澤「ここじゃあ刑務官さんは絶対だからな」

唐木「下手したら刑期、延びちゃうし」

飯島「従順だな!?」

如月「まぁ、その、何だ……人生はいくらでもやり直せるからな」

飯島「何、また突然?」

西田「ここでゆっくり時間を掛けて罪を償えば良いさ」

飯島「おい、宥めんな宥めんな」

板垣「償えない罪は無いわ。安心して」

飯島「だから宥めんな俺の事を!お前らに言われなくとも更生するわ!」

黒澤「偉い!偉いぞ!」

唐木「その調子で一緒にここから出て行こうな!」

飯島「五月蠅ぇ!何でお前らと一緒になんだよ!」

如月「え?だってこの部屋に来たら大体一緒の時期に出るもんじゃないの?」

飯島「学校じゃねぇんだぞ!?それぞれ刑期はバラバラだろ!」

黒澤唐木如月西田板垣「そうなの!?」

飯島「揃いも揃って馬鹿ばっかりかよ!?」


刑務官、舞台上手から登場。


刑務官A「おい!さっきも言っただろうが!五月蠅いぞ!」

黒澤唐木如月西田板垣「申し訳ありません!」

飯島「す、すいません……」

西田「おい!ちゃんと謝っとけって!」

板垣「そうよ!刑期延びちゃうわよ!?」

飯島「えぇ……」

刑務官「1326番の飯島、お前が主犯か?」

飯島「いや、まぁ、違うと言えば違うけど、そうと言えばそうかもしれないです……」

刑務官「そうか。じゃあお前は独居房入りだ。着いて来い」


 刑務官、鍵を開けて飯島を舞台上手に連れて行く。


黒澤唐木如月西田板垣「飯島!」

飯島「ここよりは安心して刑務所生活を送れそうな気がするよ。じゃあな」


 暗転。


 明転。


 刑務官A、刑務官B、舞台中央にスポット。そこに立っている。


刑務官B「何?1326番の飯島って暴行罪で捕まったんじゃないの?」

刑務官A「違う違う。暴行未遂。なんか酔って暴れて電柱に向かって喧嘩売ってたらしい」

刑務官B「えっ、じゃあそれを一年間続けてた奴って……」

刑務官A「そう、1326番の飯島」

刑務官B「不審人物何度も職質に会って迷惑になってた奴か。でも本人は今回が初めてだって言ってなかったっけ?」

刑務官A「酔ってベロンベロンになってから今までの事は記憶に無かったんだと」

刑務官B「あの手の包帯は?元ボクサーだったんだろ?」

刑務官A「あれは電柱殴りまくって骨折しただけ」

刑務官B「何それダサい」

刑務官A「そんな訳で、あまりにも自分は『何人もの人を病院送りにして来た』って言って聞かないから牢屋にぶち込んだって訳」

刑務官B「じゃああそこの連中と同じって事か」

刑務官A「そうそう」


 暗転。


 明転。


黒澤「独居房生活終了おめでとう」

飯島「どうも」

唐木「で?俺達と一緒の頃合いにここを出られるんだって?」

飯島「そうだな」

如月「俺は先を越されちまったな」

西田「いつ出るんだ?」

飯島「五年後」

板垣「まぁ良かったわね」

飯島「でも俺が暴行未遂で捕まってるなんてな……」

黒澤「まぁ良いじゃないか。誰も傷付けてないんだから」

飯島「それはそうだけど……」

黒澤「さて、祝杯を挙げよう」

唐木「水だけどな」


 黒澤、唐木、如月、西田、板垣、湯呑とヤカンを取り出し、水を湯呑に注ぐ。

西田、飯島に湯呑を渡す。


飯島「何の?」

如月「勿論、新たな同居人のお迎えだよ」

飯島「そりゃどうも」

黒澤「これで俺達はブラザーになった訳だ」

飯島「言い方よ」

黒澤「それじゃあ新たなメンバーに、そしてこの未遂ブラザーズに、乾杯!」

飯島「未遂ブラザーズって何だよ!?」

唐木如月西田板垣「カンパーイ!」














―――終わり

『旅館』



・キャスト


 西岡

 儀間



・舞台


 旅館







 明転。


 旅館の一室。西岡と儀間が上手から入ってくる。


西岡「おぉー、ここかぁ」

儀間「この度はお越し下さり誠にありがとうございます」

西岡「こちらこそ短い間ですが宜しくお願いします。すみませんね、突然予約も無しに来ちゃって」

儀間「いいえぇ。どうかされたんですか?」

西岡「いや、休日なんでね、一人で車飛ばしてたら道に迷っちゃって」

儀間「あらぁ、そうですか。お一人でこんな田舎の山に来るなんて自殺か何かですか?」

西岡「サラッとナイーブな事聞いてんじゃないよ!一人旅だ、一人旅!」

儀間「あぁ、そうで御座いましたか。いや、この辺り自殺者が最後に訪れるスポットとして有名なんですよ」

西岡「あっ、そうなの?へー」


 儀間、座椅子に座布団を置く。西岡、荷物を置いて座る。


西岡「怖いねぇ」

儀間「お陰様で儲かっております(マネーのジェスチャー)」

西岡「止めろ、不謹慎な」

儀間「申し訳ありません。あ、今お茶をお淹れ致しますね」

西岡「はいはい」


儀間、湯呑を取り出し、中にお茶のパックを入れて、ポットからお湯を注ぐ。


儀間「どうぞ」

西岡「どうも」

儀間「では本館の説明をさせて頂きますね」

西岡「意外と大きいもんね」

儀間「その前に、私、この旅館の若女将の儀間愛真と申します」

西岡「西岡です。宜しくお願いします」

儀間「宜しくお願い致します。では当旅館の説明をさせて頂きます」

西岡「はい」

儀間「まず当旅館は『柑橘の宿』という名前でして、三つの館に分かれております」

西岡「カンキツ?というと蜜柑とか?」

儀間「はい。受付等がある本館をミ館、宿泊等に利用される当館をポン館、お風呂の館をイヨ館と言っております」

西岡「え?え?え?何?本館がポン館?」

儀間「いえ、本館がミ館で、当館がポン館です」

西岡「分かり辛いねぇ」

儀間「よく言われます」

西岡「分かってるなら変えれば良いのに」

儀間「何分、お金が掛かりますので」

西岡「さっき儲かってるって言ってたじゃないか」

儀間「続いて本館の説明なんですけど」

西岡「何で無視すんの?まぁ良いけど」

儀間「本館はポンカンが食べ放題となっております」

西岡「やっぱりポン館じゃないか」

儀間「よく言われます。よく間違われるのでそこだけまずは変えさせて頂きました」

西岡「他に変える所があると思うんだけどね」

儀間「全部屋オートロックなのでお気を付け下さい」

西岡「はい」

儀間「で、本館のミ館なんですけど、ここではチェックインとチェックアウトを主にやっていますが、何か不都合や鍵の紛失等がありましたらお気軽にそこの内線か直接お声掛け下さい」

西岡「分かりました」

儀間「で、本館は伊代柑が食べ放題となっております」

西岡「そこは伊代柑なんかい」

儀間「その代わりイヨ館では蜜柑が食べ放題になっております」

西岡「訳分かんなくなってきた……」

儀間「よく言われます。ではお風呂の説明をさせて頂きますね。まず蜜柑が食べ放題の当館、ポン館から伊代柑が食べ放題の本館のミ館を通って蜜柑が食べ放題のイヨ館に行きますと」

西岡「もう何が何だか訳分かんねぇじゃん!一回整理させてくれ。何?ここがポン館で?」

儀間「本館がミ館で、大浴場がイヨ館で御座います」

西岡「て事は?ここポン館から本館のミ館を通ってイヨ館に行けば良いのね?」

儀間「そうで御座います」

西岡「最初からそう言えよ。いや、纏めても分かり辛ぇんだけどさ」

儀間「よく言われます」

西岡「さっきから『よく言われます』って言うの止めろ。よく言われるなら改善しろ」

儀間「よく言われます」

西岡「これもよく言われるのか……」

儀間「それもよく言われます」

西岡「だーっ!分かった。分かったから。もう止めろ」

儀間「はい。何かご質問等御座いますか?」

西岡「鍵貰ってない」

儀間「大変失礼しました。こちらです」

西岡「おう」


 儀間、ピッキング道具を差し出す。


西岡「何で鍵がピッキング道具なんだよ!」

儀間「セキュリティを追及していった結果、お客様の感性が一番なんじゃないかという結論になりまして」

西岡「絶対違うだろ!俺はピッキングした事無ぇから一回外に出たら二度とこの部屋に戻って来れねぇわ!」

儀間「大丈夫ですよ。ちょっと来て下さい」

西岡「え?あ、あぁ……」


 西岡、儀間、上手に退場。すぐに戻ってくる。


西岡「意外と簡単に開いたな」

儀間「大丈夫ですと申し上げたでしょう?」

西岡「これはこれでセキュリティ大丈夫なのか心配になる……」

儀間「それではご夕食なんですが、如何致しますか?」

西岡「飯?何時?」

儀間「午後六時からになります」

西岡「もうすぐだな」

儀間「こちらにお持ちしますか?それとも宴会場で?」

西岡「宴会場な訳無くない?誰が好き好んで一人広い会場で寂しく飯食わなきゃいけないの?」

儀間「寂しいようでしたら他のお客様とご一緒にしますか?」

西岡「誰がいんの?」

儀間「有楽製菓株式会社様が団体で社内旅行に来ています」

西岡「何だよ有楽製菓って。ブラックサンダーの会社じゃねぇか」

儀間「如何致しますか?」

西岡「嫌だよ。一人より余計寂しいよ」

儀間「ではこのお部屋で?」

西岡「そうだよ。持ってこい」

儀間「畏まりました。では後程お持ちします」

西岡「おう」

儀間「では失礼します」

西岡「早くどっか行け」

儀間「え?」

西岡「いや……」


 儀間、上手に退場。


西岡「変な旅館来たな……自殺者が最後に訪れるスポットねぇ。あながち間違いじゃないかも。暇だな。新聞でも読むか」


 西岡、部屋に置いてある新聞を手に取る。


西岡「吉川ひなの、IZAMと結婚……古ぅ!何年前の新聞だよコレ!?もういいや、テレビ観よ」


 西岡、テレビを点ける。砂嵐の音。どのチャンネルを点けても砂嵐。


西岡「ん?何だ?何だこりゃ?どこもやってねぇぞ?故障中か?何で有料チャンネルにしか繋がんないんだよ。もういいや、スマホ観よ……圏外かよ。マジで何もやる事無いな。風呂にでも入るか」


 西岡、タンスから浴衣を出す。変な柄の浴衣しか出てこない。


西岡「何だ?何だこれ?変なのしか無いぞ?いいや風呂は。有料チャンネル観るか。カード買うのかな?いやこれ小銭入れるタイプじゃん……古ぅ……」


 西岡、小銭をテレビに入れる。

 テレビに流れるのはどれもゲイビデオ。


西岡「何で男同士しか無いんだよ。俺にそのケは無いぞ」


 儀間、お膳を持って上手から入ってくる。お膳の上にはカロリーメイト(固形)。


西岡「お前何か言って入って来いよ!」

儀間「あ、すみません」


 西岡、テレビを消す。


西岡「何か有料チャンネル男同士のしか無いんだけど」

儀間「私の厳選チャンネルです」

西岡「お前が選んでんのか!?」

儀間「選ぶのに苦労しました」

西岡「努力の方向性」

儀間「お楽しみ頂けましたか?」

西岡「全然」

儀間「そうですか。残念です。お食事です」


 儀間、カロリーメイトを差し出す。


西岡「何で夜飯カロリーメイトなんだよ!?」

儀間「液体の方が宜しかったですか?」


 儀間、懐から缶のカロリーメイトを取り出す。


西岡「要らねぇよ!何で夜飯がカロリーメイトなんだって話だろ!」

儀間「すみません。今、板長のセンスが止まらないとの事で」

西岡「どういう事?」

儀間「自家製カロリーメイトの製造に熱中してまして」

西岡「これ自分で作ってんのか!」

儀間「これは新作のしらす味です」

西岡「不味そう!でも食べてみたいかもしれない!」

儀間「ではここに」

西岡「おう……でもこれだけじゃ足りないな」

儀間「栄養素的には補えてると思いますけど」

西岡「いや、腹的にな?何か売店とかで売ってないの?」

儀間「カロリーメイトなら当旅館のオリジナルが置いてあります」

西岡「またカロリーメイト。そんないらんと思うけどな」

儀間「120種類の味を揃えてあります」

西岡「めっちゃあるな!?もしかして板長さんの……?」

儀間「はい。オリジナルで、製造しております」

西岡「凄い創作意欲……とりあえず喰うわ」

儀間「畏まりました。お茶のお代わりお淹れ致しますね」

西岡「おう」


 儀間、お茶を淹れる。西岡、カロリーメイトを食べ始める。


西岡「なぁ、ここが自殺者が最後に訪れるスポットって本当?」

儀間「噂ですけどね。二度と戻って来ないです」

西岡「あ、そー。皆死にに行く感じ?」

儀間「皆さん普通に帰っていくみたいですよ」

西岡「何で?」

儀間「何かやる気が無くなったとか言ってるみたいですよ」

西岡「ふーん。何でだろうね」

儀間「さぁ……」

西岡「まぁ何となく分かるけどね。何かここの人のやる気が空回りしてるけど、頑張ってる感あるもん」

儀間「そうですか?」

西岡「うん。だから自分ももう少し頑張ってみようかなって気が湧いてきた」

儀間「えっ?それって……」


 暗転。


 明転。


西岡「じゃあこれで」

儀間「ご利用ありがとうございました。また機会が御座いましたら宜しくお願いします」

西岡「いや、もう二度と来ないよ」

儀間「え?」

西岡「俺、本当は自殺しようとしてここに来たんだよね」

儀間「そうだったんですか」

西岡「でもいざ森の中に来たら怖くなって一旦止めたんだよね」

儀間「はぁ」

西岡「そんでここで過ごしてたら、自殺が馬鹿馬鹿しくなってきたんだよ」

儀間「えぇ」

西岡「また辛くなったらここに来るけど、そうならないように頑張ってみるよ」

儀間「こう言ってはまた誤解が生まれてしまいますが、お待ちしております。頑張って下さい」

西岡「あぁ。じゃあ」


 西岡、上手に退場。


儀間「これで121人目。自殺を止める旅館も楽じゃないわ」








―――終わり


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