↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コント集  作者: 河野吉田
PR
39/40

コント集39

『コント集39』



・目次


381・・・物は言いよう

382・・・気付いているフリ

383・・・罪状

384・・・最後まで言え

385・・・手をあげる

386・・・静かなライブ

387・・・〇〇の多い料理店

388・・・ごたえ

389・・・酒

390・・・元気




『物は言いよう』



・登場人物


 北島(レポーター)

 藤原(亡くなった社長の会社の社員)



・舞台


 斎場





 明転。


 斎場。鯨幕がある。

 北島、板付き。藤原、舞台下手から登場。


北島「すみません」

藤原「はい?」

北島「つかぬ事をお伺いしますが、枝村流通センターの副社長、藤原さんではありませんか?」

藤原「そうですが?貴方は?」

北島「毎朝新聞の北島と申します。こちら名刺です」

藤原「これはこれはご丁寧に……こちらも名刺を……あ、ジャーナリストの方?」

北島「この度はご愁傷様です……」

藤原「ありがとうございます」

北島「『日本で一番、心優しい社長』と言われた枝村社長がお亡くなりになったという事で、取材をさせて頂きたいのですが……」

藤原「あー。そういう事ですか。良いですよ」

北島「ありがとうございます。一応、録音もさせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか……?」

藤原「勿論です。但し、駄目なところはカットしてもらいますけど」

北島「畏まりました。じゃあもう録音しますね?」

藤原「はい!」

北島「えー、それでは改めまして。この度はご愁傷様です」

藤原「ありがとうございます!」

北島「枝村拓実社長は生前『日本で一番、心優しい社長』と謳われていらっしゃいましたが……」

藤原「えぇ!えぇ!そうですねぇ!」

北島「故人の事を一番、近くで見ていた副社長さんからしても、やはり心優しいという印象でしたでしょうか?」

藤原「そうですね!えーっと!時に厳しく、時に優しくと言った感じでしょうかね!?」

北島「……あのー……」

藤原「はい!?何でしょうか!?」

北島「ずっとそのテンションでお答えになる感じですか?」

藤原「泣いて送り出さないでほしいというのが社長の意思だったので!」

北島「一応、お葬式ですので、もう少し抑えめでいて頂けると……」

藤原「あ、そうですか?分っかりましたー……」

北島「改めまして……優しいという事ですが、それでも厳しい時もあったのでしょうか?」

藤原「そうですね。社員を甘やかす事が優しいって事じゃなくて、叱る時はちゃんと叱る、といった感じでしょうか」

北島「普段はどんなご様子でしたか?」

藤原「そうですね……いっつもヘラヘラしていて……」

北島「ニコニコ」

藤原「え?」

北島「『ニコニコ』にしましょう。表現がね?ホラ……」

藤原「あ、そうですね……すみません」

北島「いえいえ。で、常にニコニコしていらっしゃった方ですが、その中に厳しい一面もあったと?」

藤原「はい。常にやかましい感じの人でした」

北島「エネルギッシュにしましょうかね?」

藤原「あ、そうそう。それです」

北島「成程……昔からそんな方だったんですか?」

藤原「そうですね。でも私は知りませんでしたが、あの方はガキンチョの頃は……」

北島「子供の頃」

藤原「あ、子供の頃。子供の頃は陰キャだったみたいで……」

北島「内気な性格」

藤原「あ、内気な性格。内気な性格で、でも中学、高校と進むに連れて生徒会長に立候補して学校を良くしようとしていた出しゃばりなところがあったり……」

北島「一所懸命なところ」

藤原「あ、一所懸命なところ。があったりで、仕事に対しては馬鹿正直でしたね」

北島「真面目だった」

藤原「あ、真面目でしたね」

北島「……あ、これ良いかも。藤原さんは枝村さんとどういった関係で?噂によると、親戚だとか?」

藤原「はい。枝村は私から見て大叔父に当たります」

北島「そこにどういった形で入社されたんですか?」

藤原「はい。身内贔屓のコネ入社です」

北島「それから順調に上り詰めていった感じですか?」

藤原「そうですね。周りにチヤホヤされて育ってきました」

北島「成程ー。では今回、ご親族が亡くなった事は非常に悲しいのでは?」

藤原「それが……自然と悲しくないんです……」

北島「それはどうしてですか?」

藤原「いや、大叔父には非常に感謝しているんですよ?でもね、こう、何というか……心にポッカリ穴が空いた、みたいな感じじゃないんですよ」

北島「ご心境としてはどうなんですか?」

藤原「『やったー!これで社長の座は俺のモンだー!会社は俺のモンだー!好き勝手やってやるぜぇー!』……って感じですね」

北島「そうですか……お忙しい中、お付き合い下さり誠にありがとうございました」

藤原「いえいえ」

北島「では私はこれで……この度は誠にお悔やみ申し上げます」

藤原「あざッス!(舞台上手に退場)」

北島「(スマートフォンを取り出す)……あ、もしもし?編集長ですか?はい、はい……えぇ、そうなんですよ。これじゃあ記事は書けないッスね。編集長が仰った通りでした。えぇ、えぇ……はい。フェイクだらけの良い感じの記事にしますねー」


―――終わり


『気付いているフリ』



・登場人物


 北島

 藤原(後にホクロを着けた「藤縄」になる)

 警察官



・舞台


 公園





 明転。


 公園。木が一本にベンチ一つ。

 藤原、イヤホンをしながら舞台上手から登場し、ベンチに座る。北島、舞台上手から登場し、木の陰に隠れる。


藤原「……そこにいるんだろ?」

北島「…………」

藤原「今更、隠れなくて良い。姿を現せ」

北島「……俺の姿を人に見せる訳にはいかないんでね」

藤原「そうかい。ま、俺は良いんだけどよ。枝村から頼まれたのか?」

北島「……察しが良いな。そうだ。枝村さんからの依頼だ」

藤原「そうか。アイツはいつも先回りをするが……今回ばかりは俺の方が先に気付いたみたいだな」

北島「流石、世界を駆け巡るスナイパーだな。洞察力が凄い」

藤原「それで、どうする?俺を殺すか?」

北島「いいや。俺は今回、様子を見に来るというだけの依頼だ。何も危害を加えようとは思っていない」

藤原「アレが欲しいんだろ?」

北島「そうだ」

藤原「この封筒に例のブツが入ってる。これをどう使おうが、お前達の自由だ」

北島「良いのか?下手したらお前、殺されるぞ?」

藤原「別に構わないさ。その時はその時。運命だったってだけさ」

北島「……その潔さ、見習いたいね」

藤原「大した事じゃない。誰にでも出来る事さ」

北島「お前はそう言うが、普通は出来ないぜ?」

藤原「お前も一度、こっちに来ると良い。俺はいつでも大歓迎だ」

北島「……考えておこう」

藤原「良い返事を待ってるぜ。(封筒をベンチに置いて一旦舞台下手に退場)じゃあな。後は好きにしろ」

北島「……あぁ。ありがとな(封筒を持って舞台上手に退場)」

藤原「(舞台下手から登場し、イヤホンを外し、スマートフォンで電話を掛ける動作をする)いやー、次の舞台の練習付き合ってくれてありがとうございますー。はい。はい。えぇ。丁度良い公園があったんでそれなりにそれっぽい練習は出来ました。はい、はい……あ、音声ですか?周りには聞こえてませんよ。イヤホンしてたんで。なので周りに誰かいたとしてもネタバレはしてません。してない筈……してないと思われます。んで、えーっと……あれ?あれ!?あ、いや、小道具の封筒が無くなってて……まぁ白紙のコピー用紙が入ってるだけなんで別に良いんですけどね。じゃあまた明日、稽古お願いしまーす。はーい。お休みなさーい(電話を切る)。風で飛ばされたのかな?」

北島「(舞台上手から登場)おい!何だコレ!?全く違うどころか何も書いてないじゃないか!」

藤原「えっ?誰?」

北島「分かってるだろ!?お前を追ってた北島だよ!」

藤原「俺を追ってた?北島?どういう事ですか?」

北島「しらばっくれるな!お前、藤縄だろ!?」

藤原「藤縄?俺は藤原ですけど?」

北島「えぇっ!?だってこの写真……!」

藤原「……よく似てますけど、ここ、よく見て下さい?この人はココとココにホクロがありますけど、俺には無いでしょう?」

北島「……本当だ!」

藤原「で、何で俺の小道具を持って行ったんですか?」

北島「こ、小道具……?」

藤原「今度の舞台の練習で使ってるんですよ。返して頂けます?」

北島「あ、はい……スンマセンデシタ」

藤原「で、貴方、誰なんですか?」

北島「……俺の事は、どうかご内密にお願いします!」

藤原「え?あの、いや……」

北島「金なら出す!十万!いや、五十万ならどうだ!?」

藤原「いや、その……?」

北島「えぇい!こうなりゃやけっぱちだ!百万出す!これでどうにか!」

藤原「え、いや、怖くて受け取れないんですけど……?」

北島「分かった!一千万の小切手だ!(藤原の手に小切手を握らせる)これでお願いしまーす!(舞台上手に走って退場)」

藤原「……何か怖いから警察に行こう」

警察官「(舞台上手から登場)」

藤原「あ、丁度良い所に。すみませーん」

警察官「はーい……あっ!藤縄だ!」

藤原「有名なんですか?その人」

警察官「何をしらばっくれているんだ!?お前がその藤縄だろうが!」

藤原「いや、俺は藤原で……」

警察官「あっ!今、自分で『藤縄』って言ったな!?応援要請!応援要請!特別指名手配犯の藤縄孝生(たかいき)を公園にて発見しました!」

藤原「いや、俺は藤原正将(たかゆき)で……」

警察官「今ハッキリと言いました!『俺は藤縄孝生』だと!」

藤原「いや、だから話を最後まで……」


 SE、サイレンの音。

 照明、赤い色がピカピカと光る。


藤原「何?何?何?」

警察官「確保ー!」

藤原「俺は!俺は藤原正将だー!」

警察官「藤縄ー!覚悟ー!」


 暗転。


 明転。


 公園。

 藤縄(藤原にホクロを着けた状態)、舞台上手から登場。


藤縄「……枝村が俺に尾行を着けさせてたみたいだけど、いないなぁ……?いないよなぁ……?」

北島「(舞台上手から登場し、木の陰に隠れる)」

藤縄「……いるんだろ?」

北島「…………」

藤縄「分かってるんだ。出て来いよ」

北島「……流石、一流のスナイパーだな。洞察力が凄い……」

藤縄「うおっ。吃驚した。本当にいたんだ」

北島「え?」

藤縄「いや、カマかけたかっただけだったんだけど、本当にいるとは思わなんだ」

北島「……また気付いているフリをされた……!」


―――終わり


『罪状』



・登場人物


 北島(一般人)

 藤原(警察官)



・舞台


 道端





藤原「またお前か!」

北島「何だよ!?離せよ!」


 明転。


 道端。

 北島、藤原、板付き。


藤原「またお前は罪を犯しやがって!」

北島「前にも言ったけど、俺が何の罪を犯したって言うんだよ!?」

藤原「良いから署まで来い!」

北島「逮捕状はあんのかよ!?」

藤原「それは無い!」

北島「じゃあ任意だろ!?離せよ!(藤原を突き放す)」

藤原「あっ!公務執行妨害だ!逮捕する!」

北島「公務執行妨害は悪かったよ!で?俺は何の罪で捕まるんだよ?」

藤原「冤罪だ!」

北島「は?」

藤原「冤罪という罪だ!」

北島「意味が分からん!何の罪でもないじゃねぇか!」

藤原「毎度、毎度、手古摺らせやがって……!この罪は重いぞ!?」

北島「何が重いんだよ!?」

藤原「いつも、いつも、通報があるんだよ!お前が冤罪で迷惑してるって!」

北島「そいつを捕まえろよ!?そっちの方がよっぽど悪意があるじゃねぇか!」

藤原「悪意がある人が通報なんかするか!?」

北島「事実してるだろ!」

藤原「ああ言えばこう言う……!無実の罪に問いても良いんだぞ!?」

北島「益々、意味が分からん!無実なんだろう!?」

藤原「無実の罪だ!」

北島「濡れ衣って言うんだよ!そういうのは!俺は帰るからな!?」

藤原「あっ!待て!こちら藤原!こちら藤原!本部、応援を求めます!」

北島「おいおい!大事にすんな!」

藤原「小太り、後を濁さず!」

北島「飛ぶ鳥だよ!何?そこまで俺を逮捕したいの?」

藤原「ノルマがあるからな!」

北島「営業じゃねぇんだから!」

藤原「じゃあ兎に角、署まで同行してもらおうか!?」

北島「だから任意だろ!?行かねぇよ!」

藤原「本当に心当たりが無いのか!?」

北島「無ぇよ!」

藤原「本当か!?本当にそう言い切れるのか!?」

北島「だから無ぇよ!」

藤原「間違えてスーパーのビニール袋を一枚のところを二枚取ってしまったとか!」

北島「まぁ、あるけども!」

藤原「コンビニのトイレを無断で使ったとか!」

北島「まぁ……あるけども……!」

藤原「視力検査を適当に答えて合ってたとか!」

北島「……俺が、やりました……!」

藤原「そうだろう?さ、署までご同行願おうか」

北島「はい……!すみませんでした……!(藤原と共に舞台上手に退場)」


 暗転。


北島「いや、俺、何も悪くねぇー!」


―――終わり


『最後まで言え』



・登場人物


 北島

 藤原

 枝村(店員)



・舞台


 喫茶店





 明転。


 喫茶店。テーブル一つに椅子二つ。テーブルの上には空いた食器が一枚と珈琲。

 藤原、板付き。北島、舞台上手から登場。枝村、舞台下手から登場。


枝村「いらっしゃいませ。お一人様です?」

北島「いえ。待ち合わせでして」

藤原「あ、おーい、こっち、こっち」

北島「あ、あそこなんで」

枝村「畏まりましー」

北島「アイス珈琲一つお願いします」

枝村「承知しましー(舞台下手に退場)」

北島「悪いな。待った?」

藤原「待ったっちゃ待ったけど、俺が勝手に早く着いた」

北島「そうか。あ、何かもう喰っちゃった感じ?」

藤原「うん。ナポリタ食べた」

北島「ナポリタって何?」

藤原「ナポリタはナポリタだよ」

北島「うん?」

枝村「(舞台下手からアイス珈琲と伝票を持って登場)お待たせしましー。こちらご注文の商品でー」

北島「ありがとうございます」

枝村「こちらデンピョです。開いたお皿、片付けまー」

藤原「お願いします」

枝村「ごゆっくりどうぞー(皿を持って舞台下手に退場)」

北島「(伝票を見る)何だ。ナポリタってナポリタンの事だったのか」

藤原「そうだよ?」

藤原「そうかな?あ、そうだ。すみませーん」

枝村「はーい(舞台下手から登場)。お待たせしましー」

藤原「これ一つお願いします」

枝村「畏まりましー(舞台下手に退場)」

北島「何を頼んだの?」

藤原「トマトとベーコンのサンドイッ」

北島「……あ、サンドイッチね?」

藤原「そう」

北島「だから最後まで言えよ。気持ちの悪い」

藤原「俺流の略し方なんだよ」

北島「それ略してるって言わないよ」

枝村「(舞台下手からサンドイッチを持って登場)お待たせしましたー。ご注文の商品でー」

藤原「どうもー」

北島「俺も何か喰おうかな……すみませーん」

枝村「はーい(舞台下手から登場)」

北島「コレ一つお願いします」

枝村「畏まりましー(舞台下手に退場)」

藤原「何を頼んだの?」

北島「オムライス」

藤原「オムライス……?そんな商品あったっけ……?」

北島「あるだろ。ほれ」

藤原「……あー!オムライね!」

北島「だから変な略し方するなよ……」

藤原「いや、そこに書いてあるだろ?」

北島「何が?」

藤原「商品名がちゃんと」

北島「……あ、本当だ!オムライって書いてある!」

藤原「だろ?」

北島「何でこんな名前に……?」

藤原「この喫茶店の名前、ちゃんと見た?」

北島「喫茶ダチョウじゃないの?」

藤原「よく見てみ」

北島「……あ、ダチョウじゃなくてダチョになってる!」

藤原「そうなんだよ」

北島「何でこんな名前に……?」

藤原「何かオーナーが物忘れが激しいからいっその事、全部、名前を中途半端にしようと思ったらしい」

北島「そこまで行ったら全部、言おうよ……」

枝村「(舞台下手からオムライスを持って登場)お待たせしましー。ご注文の商品でー」

北島「あ、ども……」

枝村「デンピョ、交換したしまー。ごゆっくりどうぞー(舞台下手に退場)」

北島「今、気付いたけど、あの店員さんも伝票の事をデンピョって略してる?」

藤原「うん」

北島「後『お待たせしました』とか『致しますと』かも『しましー』とか『しまー』って言ってる?」

藤原「とことん教育してるみたいだからな」

北島「どこを教育してるんだ?この店は……」

藤原「……あ、やべっ。そろそろ映画が始まるわ」

北島「マジか。あ、本当だ。じゃあテイクアウトしようか」

藤原「そうだな。すみませーん」

枝村「はーい(舞台下手から登場)。御用でしょうか?」

藤原「テイクアウお願いします」

北島「そこも略すんだ……」

枝村「畏まりましー(サンドイッチとオムライスを持って舞台下手に退場)」

北島「えーっと……二千五百円か。じゃあ俺、千円出すね」

藤原「おう。じゃあ出ようか」

北島「おう」

藤原「すみませーん。オカイケお願いしまーす」

北島「お前まで略すなよな……」

枝村「畏まりましー(舞台下手からパックに入れたサンドイッチとオムライスをビニール袋に入れて登場)。オカイケで?」

藤原「はい」

枝村「えー……しめて二千五百エになりまー」

藤原「はーい。じゃあ三千エで」

北島「あー……頭がおかしくなりそう……」

枝村「三千エお預かりしまー。五百エのお返しでー。こちらテイクアウの物でー」

藤原「あざー」

北島「ども……」

枝村「またのお越しをお待ちしておりまー」

北島「(藤原と共に舞台上手側に出る)何でこの店の名前が『ダチョ』こと『ダチョウ』なんだ?」

藤原「物忘れが激しいかららしいぞ」

北島「いちいち店員にそういう指導するくらいならちゃんと教えといた方が良いと思うけどな」

藤原「さっきのあれ、オーナーだよ?」

北島「あ、もう手遅れなんだ?」


―――終わり


『手をあげる』



・登場人物


 北島(DV相談所の職員)

 藤原美幸(正将の母親)

 藤原拓実(正将の父親)

 藤原正将(息子)



・舞台


 藤原宅





 明転。


 藤原宅。テーブル一つに椅子二つ。舞台後ろにモニター。

 北島、正将、板付き。


北島「DV相談所の北島康介と申します。本日は宜しくお願い致します」

美幸「宜しくお願いします」

北島「今回、お父様のDVの相談という事で宜しいですか?」

美幸「はい」

北島「具体的にどういった事をするんですか?」

美幸「気に入らない事があるとすぐに手を挙げるんです」

北島「成程……その動画とかはありますか?」

美幸「はい(スマートフォンを取り出す)」


 モニター、ある日の夕食の光景を映す。


美幸「お父さーん。ご飯よー」

拓実「おう」

美幸「今日は鯖の味噌煮よ」

拓実「(手を挙げる)」

美幸「何?また?」

拓実「(手を挙げ続ける)」

美幸「はい、お父さん。何ですか?」

拓実「俺、今日の昼ご飯に鯖の味噌煮食べたって言ったよね?それなのにわざわざ鯖の味噌煮を出すのは嫌がらせですか?」

美幸「鯖が傷んじゃうから仕方なく味噌煮にしたのよ」

正将「ただいま~」

美幸「おかえり」

拓実「(手を挙げる)」

美幸「またぁ?何ですか?お父さん」

拓実「今日は部活は休みで塾も無いのにこんな時間に帰ってくるとはどういう事ですか?」

正将「ちょっと友達と遊んで帰って来たんだよ」

拓実「(手を挙げる)」

美幸「まだ何かあるの?はい。お父さん」

拓実「もしかして不良とツルんでるんじゃないでしょうね?」

正将「違うよ。隣の家の幼馴染とゲーセンに寄っただけだよ」

拓実「(手を挙げる)」

美幸「もういい加減にして下さい。これで最後ですよ?お父さん。どうぞ」

拓実「お小遣いをどう使おうが正将の勝手ですが、こんな時間までゲームをやるのは如何なものかと思います」

美幸「そうね。正将。今度からは気を付けなさいね?」

正将「はーい」


 モニター、切れる。


美幸「こんな感じなんですけど」

北島「……別に手を上げてる様子は無かったですけど……あ、『手をあげる』って『挙手する』って事ですか?」

美幸「そうです」

北島「まぁ、その……至って平和だと思うんですけど……」

美幸「でも実際ウザいんですよ。いちいち手を挙げて文句を言うのに」

北島「まぁ、その……行った事を聞いてあげるのも家族の愛じゃないですか?」

美幸「困るんですよね~。結構、気を遣わなきゃいけないし」

北島「この程度で済んで良かったと思った方が良いのでは……?」

美幸「本当に面倒なんですよ。挙げた手を指さないとずっと後ろを着いてくるし」

北島「答えてあげれば良いじゃないですか」

美幸「北島さんはご結婚はされてますか?」

北島「はい。一応」

美幸「奥さんが毎日、毎日、その時に嫌だった事を挙手されて、指さなかったらずっと付き纏ってくるって考えてみて下さい」

北島「……あー、まぁ、ウザいですね……」

美幸「でしょう?そういう事なんですよ」

北島「でも文句を言うだけなんでしょう?だったらそれを解決させに行った方が今後、より良い家庭を作れそうな気がしますけど…・…」

美幸「でもねぇ……細かい事まで言ってくるんですよ。こう、ご飯が硬いとか、柔軟剤が臭いとか……」

北島「それについて奥様はどう思われてるんですか?」

美幸「それについて、とは?」

北島「実際にお米が硬いなぁ、とか、この柔軟剤、臭いが強いなぁ、とか」

美幸「思いますよ?」

北島「じゃあそれを止めて改善したら良いじゃないですか」

美幸「ご飯は私と息子が硬めが好きだし、柔軟剤は勿体無いじゃないですか」

北島「まぁ、そう、ですね……じゃあせめて分けてあげるとか」

美幸「あの人の為だけに炊飯器をもう一個と、洗濯を二回に分けなきゃいけないんですか?」

北島「そこはほら、旦那様のお小遣いから差し引くとか、自分で洗濯してもらうとか」

美幸「成程……検討してみます」


 暗転。


 モニター、藤原宅の映像。


正将「母さん。この米柔らかすぎるよ」

美幸「それはお父さんがやったからよ」

正将「父さん。自分の分の釜と俺達の釜を間違えないでくれよ」

美幸「それと柔軟剤なんだけど、そっちの方が臭って嫌なんだけど」

正将「父さん。もうその柔軟剤、止めてくれる?頭が痛くなるから」

拓実「(両手を挙げる)」


 明転。


 藤原宅。

 北島、美幸、板付き。


美幸「こんな感じなんですけど」

北島「もうお手上げなんですね」


―――終わり


『静かなライブ』



・登場人物


 北島

 スタッフ(声のみ)

 観客(数人。声のみ)



舞台


 ライブ会場





 明転。


 ライブ会場。

 北島、舞台上手から登場。


北島「よーし!今年も始まったぜ!北島歌謡祭!皆盛り上がってるかー!?」


 沈黙。


北島「盛り上がってるかー!?」


 沈黙。


北島「えーっと!?今日は席は……満員だなー!?皆!盛り上がって行こうぜー!」


 沈黙。


北島「えーっと……ちょっと待っててくれるかー!?」

観客「うぉー!」

北島「ここで盛り上がるんかい!ちょっとスタッフー!?どうなってんのー!?(舞台上手に退場)」

スタッフ「今日は逆の盛り上がり方をしようという企画です!」

北島「あ、そういう感じ!?分かったー!はーい!(舞台上手から登場)よーし皆!盛り上がってくれー!」


 沈黙。


北島「行くぜ!メドレーだぁー!」


 沈黙。


 暗転。


 明転。


 SE、「ジャーン!ドコドン!」というギターとドラムの音。


北島「よーし!歌い切ったぜー!ちょっと休憩なー!(舞台上手に退場)」

観客「うぉー!」

北島「皆ー!トイレ行くなら今の内だぞー!?」

観客「うぉー!」

北島「……プハッ。水が美味いなぁ」

観客「うぉー!」

北島「よーし!水分補給は出来たぞー!皆―スタンディングしてくれー!」


 沈黙。


北島「スタンディングしてくれー!?」


 沈黙。


北島「まぁ、足に調子が悪い時もあるからなぁー!?無理はしないでくれよなー!?続いてまたメドレーだぁー!盛り上がって行くぜぇー!?」


 沈黙。


 暗転。


 明転。


 SE、「ジャーン!ドコドン!」というギターとドラムの音。


北島「会場!盛り上がってるかーい!?」


 沈黙。


北島「……盛り上がってるという事で!じゃあ名残惜しいが最後の曲だ!聴いてくれ!新曲!『爆発!』だぁー!」


 沈黙。


 暗転。


 明転。


 SE、「ジャーン!ドコドン!」というギターとドラムの音。


北島「ありがとーう!皆ー!これからも応援、宜しくなぁー!?」


 沈黙。


北島「じゃあなぁー!またなぁー!?(舞台上手に退場)」


 沈黙。


北島「アンコール、してくれても良いんだぜぇー!?」


 沈黙。


北島「……アンコール、しないかぁー!?」


 沈黙。


北島「そうかぁー!じゃあこの後の物販、宜しくなぁー!?」


 沈黙。


北島「……買ってくれよなー!?」


 沈黙。


北島「皆ー!気を付けて帰れよなー!?」

観客「うぉー!」

北島「雨にも気を付けてくれよなー!?」

観客「うぉー!」

北島「遠征してくれた人は本当に気を付けて帰ってくれよなー!?それか無理せずホテルに泊まって行けよなー!?」

観客「うぉー!」

北島「慣れねぇー!何だこのノリー!慣れねぇなー!?」

観客「うぉー!」

北島「皆ー!早く帰りたかったかぁー!?」

観客「うぉー!」

北島「そうかー!じゃあ何で今日ここに来たんだー!?」

観客「暇だったからー!」

北島「そうかー!じゃあまた来てくれるかなー!?」


 沈黙。


北島「……来てくれるという事でー!じゃあな皆ー!」

観客「うぉー!」

北島「戸締りはしっかりとー!」

観客「うぉー!」

北島「明日の為に晩御飯をしっかりとー!」

観客「うぉー!」

北島「睡眠をしっかりと取ってくれよなー!?」

観客「うぉー!」

北島「皆ぁー!愛してるぜぇー!」


 沈黙。


北島「クソォー!」


―――終わり


『〇〇の多い料理店』



・登場人物


 北島(客)

 藤原(客)

 枝村(店長)



・舞台


 料理店





 明転。


 舞台上手側、山道。舞台中央から下手に掛けて料理屋。テーブル一つに椅子二つ、立て看板がいくつか。

 北島、藤原、舞台上手から登場。


北島「遭難しちまったなぁ」

藤原「腹も減ったし」

北島「あ、でも何か店があるぞ?」

藤原「一旦、飯でも喰って落ち着こうか」

北島「そうだな。(藤原と共に店の中に入る)すみませーん」

藤原「何か書いてあるぞ?」

北島「ん?えーっと……靴を脱いで下さい?」

藤原「土足厳禁って事か?」

北島「みたいだな。で?ベルトを脱げ?」

藤原「腹いっぱいになるからじゃないか?」

北島「成程?で?クリームを塗れ……?」

藤原「おい、これって……」

北島「あぁ。マズいかも……」

藤原「え?美味しそうじゃない?」

北島「え?」

藤原「これ保湿クリームじゃん?」

北島「……うん。まぁ、そうだけど……」

藤原「サービスが良いなぁ!」

北島「まぁ、今、冬だしな……」

藤原「席に着こうぜ」

北島「お、おう……」

藤原「すみませーん!」

枝村「何ですか!?」

北島「あ、すみません。ちょっと遭難してしまいまして。ここから麓の町までってどれくらいですかね?」

枝村「後三時間くらい掛りますよ!?だったらここで一泊していくと良いですよ!」

北島「そ、そうですか?じゃあお言葉に甘えて……」

枝村「食事はしますか!?」

藤原「お願いしまーす」

枝村「今メニュー持ってくるから適当に座って待ってて下さいね!?(舞台下手に退場)」

藤原「はーい」

北島「は、はい……」

藤原「何屋さんなんだろうなー?」

北島「な、なぁ……?この店、出ない?」

藤原「何で?」

北島「ここアレじゃね?注文の多い料理店……」

枝村「(舞台下手から登場)お待たせしました!何が食べたいですか!?」

藤原「それよりまずここは何屋さんですか?」

枝村「定食屋ですよ!基本的に何でも作ります!」

藤原「そっかー。じゃあ俺、肉で何か」

枝村「何肉が良いですか!?」

藤原「うーん……豚かなぁ」

枝村「脂っこいのは平気ですか!?」

藤原「そうですねぇ……まぁ大丈夫なんで豚カツとかお願い出来ますか?」

枝村「何で豚カツが良いんですか!?」

藤原「え?」

枝村「豚テキとか生姜焼きとかあるのに何でわざわざ豚カツを選んだんですか!?」

藤原「えーっと……まぁ、今は脂っこいものが食べたかったからですかね?」

枝村「そうですか!分かりました!じゃあ飲み物は何が良いですか!?コーラ、ジンジャーエール、オレンジジュース、ホット珈琲、アイス珈琲、ビール、赤ワイン、白ワインがありますが!?」

藤原「じゃあジンジャーエールで」

枝村「何でジンジャーエールにしたんですか!?」

藤原「え?」

枝村「今は冬ですよ!?冷たい飲み物より温かいホット珈琲とか体を温めるお酒にしておいた方が良くないですか!?」

藤原「あーっと……一応、ジンジャーも生姜なんで温かくなるかなって……」

枝村「だったら豚カツじゃなくて生姜焼きにした方が良くないですか!?」

藤原「……一理あるな」

枝村「どうしますか!?」

藤原「じゃあ折角なんで生姜焼きを……」

枝村「何で変えたんですか!?」

藤原「え?」

枝村「何で変えたんですか!?自分の意見は持ってないんですか!?」

藤原「いや、貴方の意見を聞いて『一理あるな』って思ったから……」

枝村「そうですか!ありがとうございます!そっちのお兄さんは!?何にしますか!?」

北島「あ、じゃあコイツと同じのを……」

枝村「何でですか!?」

北島「え?」

枝村「私は他にも料理を作れますが、どうして違う物を頼まないんですか!?」

北島「あー……面倒だったんで」

枝村「面倒!?面倒って何がですか!?」

北島「あ、いや、忘れて下さい……」

枝村「忘れる!?何かやましい事でもあるんですか!?」

北島「いえ、特には……取り敢えずコイツのと同じので良いんでお願いします」

枝村「畏まりました!では復唱させて頂きますね!?生姜焼き定食がお二つにジンジャーエールをお二つで宜しかったですか!?」

北島「はい……」

藤原「はーい」

枝村「本当ですか!?」

北島藤原「え?」

枝村「本当に間違っていませんか!?」

北島「合ってるよな?」

藤原「うん」

枝村「一応もう一度、聞きますね!?生姜焼き『定食』がお二つに、ジンジャーエールお二つで宜しかったですか!?」

藤原「……あ、定食じゃないわ。すみませんが生姜焼きのみでお願いします」

枝村「ボロが出ましたね!?」

藤原「へ?」

枝村「貴方は一つ大きなミスを犯しました!」

藤原「何が?」

枝村「人の話を聞かないというミスをね!」


 SE「ジャーン!」という音。


北島「何?今の音」

枝村「じゃあ今から創りますので少々お待ちを!」

北島藤原「は、はーい……?」

枝村「あ、水はセルフサービスですからね!(舞台下手に退場)」

北島「……悪い人では無さそうだけど……」

藤原「ちょっとやかましかったな」

北島「まぁ注文の多い料理店じゃなくて良かったよ」

藤原「尋問の多い料理店だったな」


―――終わり


『ごたえ』



・登場人物


 北島

 藤原



・舞台


 北島宅





 明転。


 北島宅。テーブル一つに椅子二つ。

 北島、藤原、舞台下手から登場。


北島「まぁ上がれよ」

藤原「おう」

北島「今、茶でも淹れるから」

藤原「すまねぇな」

北島「いやいや。俺のメンタルのケアをしてくれるだけで嬉しいからさ(舞台上手に退場し、お茶を持って舞台上手から登場)はい。お茶」

藤原「サンキュ。で?この前の料理大会の一次審査だけど、どうなの?」

北島「うーん……通るかどうか微妙だな……」

藤原「手応えはあったのか?」

北島「無かったといえば嘘になる。審査員の人達、そこそこ良い感じのリアクションだったし」

藤原「そうか。歯応えはあったのか?」

北島「あー、割と硬めの料理だったかな?」

藤原「そうか。噛み応えはあったのか?」

北島「歯応えがあったくらいだし、そこそこ硬いかも……あー、そう言われると審査員の人達、高齢者が多かったからちょっと不安かも……ところでさぁ?」

藤原「何?」

北島「何で『ごたえ』ばっかり聞いてくるの?」

藤原「『ごたえ』?」

北島「手応えだの歯応えだの噛み応えだの……そんなに俺を不安にしたいのか?」

藤原「そんな訳無いだろ。心配して聞いてるんじゃないか」

北島「心配してくれるのは有難いけど、もっとこう、前向きな聞き方してくれない?」

藤原「えー?そうだなぁ……やり応えはあった?」

北島「うん……まぁ、全力を出し切るだけの事はやれた気がする」

藤原「そうか。じゃあ聞き応えはあったのか?」

北島「聞き応え?」

藤原「歯応えがあったんだろ?気持ちの良い音が聞こえたのかなって」

北島「まぁ、そうだな。コリコリとした食感がこっちにも聞こえてきたからそこそこ良い音はしてたと思う」

藤原「そうか」


 SE、北島のスマートフォンの音。


北島「あ、メールだ……えっ!?マジで!?」

藤原「どうした?読み応えのあるメールだったか?」

北島「読み応えどころじゃねぇよ!一次審査、通ったよ!」

藤原「おぉ。良かったな」

北島「よーし!今日はパーッと寿司でも喰おう!」

藤原「ここはお前の料理を振る舞うべきじゃないのか?」

北島「口答えするな!デリバリーで頼むからな!」

藤原「好きにしてくれ~。ってか、お前も『ごたえ』を使ったな」

北島「……あっ!?」

藤原「『ごたえ』を求めてたのはお前の方だったんじゃないか?」

北島「成程……考え応えがあるな……」

藤原「あ」

北島「あ」

北島藤原「『ごたえ』!」


―――終わり


『酒』



・登場人物


 北島

 藤原



・舞台


 藤原宅





 明転。


 藤原宅。卓袱台一つに座布団二つ。

 藤原、板付き。

 SE、チャイムの音。


藤原「はいはーい。(舞台上手に退場し、つまみの入った袋を持った北島と共に舞台上手から登場)いらっしゃい」

北島「お邪魔します」

藤原「まぁ座れよ」

北島「おう」

藤原「今、冷蔵庫から持ってくるから」

北島「いくらだった?」

藤原「あぁ、いいの、いいの。俺の奢りだから」

北島「そうか?じゃあお言葉に甘えて。その代わり、つまみは俺が出すって事で」

藤原「そうか?悪いな」

北島「大した物じゃないけどな」

藤原「じゃあちょっと待っててくれ(舞台下手に退場)」

北島「おう(袋からつまみを出して並べる)」

藤原「(飲み物を持って舞台下手から登場)お待たせー」

北島「よし。じゃあ飲もうぜ」

藤原「そうだな。じゃあ今週も仕事、お疲れさーん」

北島「お疲れ様ー」

北島藤原「(缶をプシュッと開け、グビグビと飲む)」

北島「……っあー!この為に生きてる!」

藤原「生き返るわー」

北島「この酒、美味いな。凄く飲みやすい」

藤原「お気に召してくれて何より」

北島「お前のは何?」

藤原「飲んでみる?」

北島「じゃあ一口……おっ、良い日本酒だねぇ。スルッと飲める」

藤原「日本酒じゃないよ?」

北島「え?じゃあカクテル?」

藤原「水素水」

北島「は?」

藤原「さーて、二本目も開けちゃうぞー」

北島「ちょちょちょ……え?これ酒じゃないの?」

藤原「違うよ?」

北島「え?何で今の時代に水素水?」

藤原「健康に気を遣って」

北島「お前……そんなスピリチュアルだったっけ?」

藤原「いいや?」

北島「じゃあ何で水素水なんだ?」

藤原「安かったから」

北島「健康に気を遣ってるって言うのは?」

藤原「要するに水だろ?」

北島「あ、そこは現実的なんだ……?」

藤原「つまみ、何があんの?」

北島「え?あ、あぁ。サキイカとアタリメと烏賊の燻製」

藤原「烏賊ばっかだな」

北島「酒と言ったら烏賊だろ?」

藤原「まぁ水でふやかしながら喰うか」

北島「合うの?」

藤原「何が?」

北島「いや、ただの水につまみって」

藤原「慣れだな。お前もチェイサー代わりに水素水飲んで良いからな?」

北島「お気遣いどうも」

藤原「いいえ。それにしても何で烏賊?ハマってるの?」

北島「ハマってる……そういう意識は無かったな」

藤原「如何に烏賊にいかんと思ってるんだ?」

北島「止めろ。悪酔いするから」

藤原「大丈夫か?もう酔ったか?」

北島「お前のせいでそうなりそう」

藤原「大丈夫か?本当に大丈夫か?」

北島「揺らすな。揺らすな。余計に悪酔いするから」

藤原「大丈夫じゃなさそうだな……この水素水を飲め」

北島「おう……あ、何かスーッとした」

藤原「そうだろう、そうだろう?この水素水はお清めの力があるんだよ」

北島「へー。ありがてー」

藤原「これを機会にもっと飲んでいけ。酒より圧倒的に体に良いから」

北島「まぁ要は水だしな。それにしても何か体が軽くなったな」

藤原「これにはデトックスの効果のある成分も含んであるからな」

北島「へー。凄いな。ただの水素水って訳じゃあないんだな?」

藤原「そうそう。でも無理に飲まなくて良いからな?気分が悪くなったらすぐに飲むのを止めろよ?」

北島「普通はここで勧めてくるんだけどな」

藤原「何を?」

北島「こういうスピリチュアルなやつの勧誘」

藤原「俺はスピリチュアルじゃあないから。あくまでチェイサーとして、常飲水として俺自身が飲んでるだけだから」

北島「へー。そういえば、お前って何か最近、血色が良いよな?疲れとかも前より出てないし、肌艶も良いし」

藤原「あぁ。多分この水素水のお陰かな?これを飲んでから体の調子が良いんだよ」

北島「酒よりストレス発散になる?」

藤原「慣れればね。最初の頃は『やっぱり酒!』ってなるけど、飲み続けていく内に『この水素水が良い!』って感じになる」

北島「へー。俺も始めてみようかな……?」

藤原「え?でもこれ高いよ?あんまりお勧めしないよ?」

北島「でもお前は飲んでるんだろ?」

藤原「俺のは趣味だから」

北島「なら尚更、信用出来る。押し付けないあたり変な団体とかと関わってる感じじゃなさそうだし」

藤原「まぁ、お前が良いって言うなら俺は止めないよ。これ、一応渡しておくな?」

北島「何これ?」

藤原「この水素水の販売元の会社のチラシ。気になったら俺の紹介って言えば少しは割安になるから」

北島「そうか。サンキュ」

藤原「スマホからでも行けるから」

北島「そうか。じゃあちょっとトイレ借りるな?ついでに定期購買の予約してくるから」

藤原「おう。何か分かんない事があったら気軽に俺に言えよ?」

北島「分かった。じゃあトイレ借りるなー(舞台上手に退場)」

藤原「おーう……また一人、信者ゲット、と……」


―――終わり


『元気』



・登場人物


 北島(店長)

 藤原(新人店員)



・舞台


 飲食店





 明転。


 飲食店。デスク一つにレジ一つ。

 北島、藤原、板付き。


北島「今日からこのフロアに入る藤原君だ。皆、仲良くしてやってくれ」

藤原「藤原です!宜しくお願いします!」

北島「仕事は昨日から今日まで教えた事だからね」

藤原「はい!」

北島「じゃあそれぞれ配置について。今日も頑張って行きましょー」

藤原「はい!」

北島「じゃあ開店ねー」


 音声「ドヤドヤ」と人が入ってくる声。


藤原「いらっしゃいませー!」

北島「おいおい。藤原君。そんなにトバしてると後半、持たないぞ?」

藤原「大丈夫です!俺、元気だけが取り柄なんで!」

北島「ははは。そうかい。まぁ疲れない程度にね?」

藤原「はい!」


 暗転。


藤原「いらっしゃいませー!ありがとうございましたー!」

音声「一時間後」

藤原「いらっしゃーせー!ありあとやっしたー!」

音声「三時間後」

藤原「いらっ!しゃー!せー!あざっ!したぁー!」

音声「閉店間際」


 明転。


藤原「ふぅうううううううううううううううううううううううう!いらっしゃいませぇええええええええええええええええええええ!あざっしたぁああああああああああああああああああああああ!」

北島「藤原君……」

藤原「どうしましたか?店長」

北島「君、疲れないの……?」

藤原「……何がですか?」

北島「あ、いや、元気なら良いんだ。うん……」

藤原「はぁ?あ、いらっしゃーせぇええええええええええええ!」

北島「藤原君」

藤原「はい?どうしました?店長」

北島「もう少し静かに出来ないかな?」

藤原「あ、五月蠅かったですか……?」

北島「いや、まぁ、その……元気があるのは良い事なんだ。ただね?ここまで一生懸命働き過ぎてる君の姿を見てると他の店員がどう思うのかなって思ってさ……」

藤原「つまり五月蠅いって事ですよね?」

北島「いや、こう、何て言うか……元気過ぎると他の店員さん達のテンションが合わせられないというかね……?」

藤原「つまりは五月蠅いって事ですよね?そういう話ですよね?そういう事を言いたいんですよね!?」

北島「そうだよ!やかましいんだよ!」

藤原「なぁんだ。五月蠅いんじゃないのかぁ」

北島「は?」

藤原「やかましいだけなら大丈夫ですね!」

北島「は?は?は?」

藤原「あ、お客様お会計ですね!?こちらへどうぞー!お会計三千二百円になります!はい!丁度お預かりです!こちらレシート……あ、じゃあこちらで破棄しておきますね!お客様ご退店でーす!あざっしたぁあああああああああああああああああああああああ!」

北島「…………」

藤原「あ、もうお店閉める時間ですね。看板下ろて来まぁあああああああああああああああああああああああああああああああす!(舞台下手に退場)」

北島「あ、うん。宜しく……」

藤原「(幟を持って豚下手から登場)今日も一日、お疲れ様でしたぁあああああああああああああああああああああああああああ!」

北島「あ、うん。お疲れ様……皆、今日も一日お疲れ様でした。また明日の人はまた明日。明日休みの人はまた次回。で、藤原君はちょっと残ってね?」

藤原「はい!」

北島「じゃあカイサーン」


 間。


北島「藤原君」

藤原「はぁああああああああああああああああああああああい!」

北島「五月蠅ぇよ!」

藤原「え?」

北島「純粋に五月蠅ぇよ!」

藤原「え?でもさっきはやかましいって……?」

北島「意味合い的には同じだよ!やかましいし五月蠅ぇんだよ!」

藤原「でも元気な方がお店に活気付いて良くないですか?」

北島「その時間のテンションってものがあるだろ!今、何時だよ!?」

藤原「えーっと……午後九時っすね」

北島「微妙な時間なんだよ!この時間帯はもっと静かにしたい人が来るんだよ!仕事終わりとか、学校帰りとか、塾帰りとかで!」

藤原「でも長く居座られたら回転率悪くないですか?」

北島「……あ、自分が五月蠅いって事は自覚してんの!?」

藤原「はい!」

北島「元気よく答えるな!全く……困った新人だよ……」

藤原「元気になれる薬がありますけど!?」

北島「元気になれる薬?」

藤原「はい!これを打ったら疲れなんか吹き飛びますよ!?この液体なんですけど……」

北島「……ちょっとここで待っててくれる?」

藤原「はい!」


 暗転。


 SE、パトカーのサイレンの音。


 明転。


 飲食店。

 北島、板付き。


北島「えー。皆さん。おはようございます。昨日の新人の藤原君ね。危ない薬の所持の疑いで連行されていきました。ですが、単純にビタミン剤だったので今日も元気に出勤です。それでは藤原くーん。改めて来て下さーい」

藤原「おはようございまぁあああああああああああああああす!」

北島「昨日はよく眠れた?」

藤原「いいえ!昨日は初めてのバイトと事情聴取で緊張してたので眠れませんでした!」

北島「じゃあまたビタミン剤を打ってきたの?」

藤原「打ちましたが、それだけでこのテンションではありません!」

北島「じゃあ何で?」

藤原「ナチュラルハイテンションです!」


―――終わり


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。