コント集40
コント集40
・目次
391・・・・元気
392・・・アルコール中毒
393・・・・魔王城
394・・・娘さんを
395・・・一汁三菜
396・・・沈黙
397・・・請求
398・・・光栄
398・・・ピッチャー
400・・・発電
『元気』
・登場人物
北島(店長)
藤原(新人店員)
・舞台
飲食店
明転。
飲食店。デスク一つにレジ一つ。
北島、藤原、板付き。
北島「今日からこのフロアに入る藤原君だ。皆、仲良くしてやってくれ」
藤原「藤原です!宜しくお願いします!」
北島「仕事は昨日から今日まで教えた事だからね」
藤原「はい!」
北島「じゃあそれぞれ配置について。今日も頑張って行きましょー」
藤原「はい!」
北島「じゃあ開店ねー」
音声「ドヤドヤ」と人が入ってくる声。
藤原「いらっしゃいませー!」
北島「おいおい。藤原君。そんなにトバしてると後半、持たないぞ?」
藤原「大丈夫です!俺、元気だけが取り柄なんで!」
北島「ははは。そうかい。まぁ疲れない程度にね?」
藤原「はい!」
暗転。
藤原「いらっしゃいませー!ありがとうございましたー!」
音声「一時間後」
藤原「いらっしゃーせー!ありあとやっしたー!」
音声「三時間後」
藤原「いらっ!しゃー!せー!あざっ!したぁー!」
音声「閉店間際」
明転。
藤原「ふぅうううううううううううううううううううううううう!いらっしゃいませぇええええええええええええええええええええ!あざっしたぁああああああああああああああああああああああ!」
北島「藤原君……」
藤原「どうしましたか?店長」
北島「君、疲れないの……?」
藤原「……何がですか?」
北島「あ、いや、元気なら良いんだ。うん……」
藤原「はぁ?あ、いらっしゃーせぇええええええええええええ!」
北島「藤原君」
藤原「はい?どうしました?店長」
北島「もう少し静かに出来ないかな?」
藤原「あ、五月蠅かったですか……?」
北島「いや、まぁ、その……元気があるのは良い事なんだ。ただね?ここまで一生懸命働き過ぎてる君の姿を見てると他の店員がどう思うのかなって思ってさ……」
藤原「つまり五月蠅いって事ですよね?」
北島「いや、こう、何て言うか……元気過ぎると他の店員さん達のテンションが合わせられないというかね……?」
藤原「つまりは五月蠅いって事ですよね?そういう話ですよね?そういう事を言いたいんですよね!?」
北島「そうだよ!やかましいんだよ!」
藤原「なぁんだ。五月蠅いんじゃないのかぁ」
北島「は?」
藤原「やかましいだけなら大丈夫ですね!」
北島「は?は?は?」
藤原「あ、お客様お会計ですね!?こちらへどうぞー!お会計三千二百円になります!はい!丁度お預かりです!こちらレシート……あ、じゃあこちらで破棄しておきますね!お客様ご退店でーす!あざっしたぁあああああああああああああああああああああああ!」
北島「…………」
藤原「あ、もうお店閉める時間ですね。看板下ろて来まぁあああああああああああああああああああああああああああああああす!(舞台下手に退場)」
北島「あ、うん。宜しく……」
藤原「(幟を持って豚下手から登場)今日も一日、お疲れ様でしたぁあああああああああああああああああああああああああああ!」
北島「あ、うん。お疲れ様……皆、今日も一日お疲れ様でした。また明日の人はまた明日。明日休みの人はまた次回。で、藤原君はちょっと残ってね?」
藤原「はい!」
北島「じゃあカイサーン」
間。
北島「藤原君」
藤原「はぁああああああああああああああああああああああい!」
北島「五月蠅ぇよ!」
藤原「え?」
北島「純粋に五月蠅ぇよ!」
藤原「え?でもさっきはやかましいって……?」
北島「意味合い的には同じだよ!やかましいし五月蠅ぇんだよ!」
藤原「でも元気な方がお店に活気付いて良くないですか?」
北島「その時間のテンションってものがあるだろ!今、何時だよ!?」
藤原「えーっと……午後九時っすね」
北島「微妙な時間なんだよ!この時間帯はもっと静かにしたい人が来るんだよ!仕事終わりとか、学校帰りとか、塾帰りとかで!」
藤原「でも長く居座られたら回転率悪くないですか?」
北島「……あ、自分が五月蠅いって事は自覚してんの!?」
藤原「はい!」
北島「元気よく答えるな!全く……困った新人だよ……」
藤原「元気になれる薬がありますけど!?」
北島「元気になれる薬?」
藤原「はい!これを打ったら疲れなんか吹き飛びますよ!?この液体なんですけど……」
北島「……ちょっとここで待っててくれる?」
藤原「はい!」
暗転。
SE、パトカーのサイレンの音。
明転。
飲食店。
北島、板付き。
北島「えー。皆さん。おはようございます。昨日の新人の藤原君ね。危ない薬の所持の疑いで連行されていきました。ですが、単純にビタミン剤だったので今日も元気に出勤です。それでは藤原くーん。改めて来て下さーい」
藤原「おはようございまぁあああああああああああああああす!」
北島「昨日はよく眠れた?」
藤原「いいえ!昨日は初めてのバイトと事情聴取で緊張してたので眠れませんでした!」
北島「じゃあまたビタミン剤を打ってきたの?」
藤原「打ちましたが、それだけでこのテンションではありません!」
北島「じゃあ何で?」
藤原「ナチュラルハイテンションです!」
―――終わり
『アルコール中毒』
・登場人物
北島(医者)
藤原正将(患者)
藤原美幸(正将の妻)
・舞台
病室
明転。
病室。ベッドが一つに椅子が二つ。
正将、ベッドの上で寝ている。美幸、椅子に座って板付き。北島、舞台上手から登場。
北島「失礼します。当病院の医師の北島です」
美幸「主人の様態は……?」
北島「今は安定してます」
美幸「そうですか……」
北島「担当医が今日は休みでして、代理として本日は私が担当致します」
美幸「宜しくお願い致します……」
北島「まだ詳しい事は知らされていないのですが、重度のアルコール中毒だとか……?」
美幸「はい……もうそれは酷くて……」
北島「暴力を振るったりとか?」
美幸「暴力は振るった事は無いのですが、不安が募って求めてしまうんです……」
北島「成程……重症ですね……勿論、党員の心療内科の受診はしてますよね?そこでは何と?」
美幸「要経過観察だと……」
北島「しかしそれで今回、緊急搬送されたのでしょう?その医師、どなたですか?」
美幸「枝村先生です……」
北島「あのベテランの枝村先生が……?」
正将「うっ……」
美幸「あ、アナタ!」
正将「ここは……?」
美幸「病院よ」
正将「病院……?俺は、あの時、アルコールで……?」
北島「そうです。アルコールのせいでここに緊急搬送されたんですよ」
正将「貴方は……?」
北島「枝村の代わりに本日担当致します、北島と申します」
正将「病院……医者……!じゃ、じゃあここならあるだろう!?くれよ!アルコール!」
美幸「アナタ!」
北島「いけません。ここはそういう場所じゃあないんですよ?」
正将「ここならあるだろう!?頼むよ!ちょっとで良いんだ!」
北島「これは相当、重症ですね……ちょっと宜しいですか?(注射器を取り出し、藤原に注入する)」
正将「……うぅ……(眠る)」
美幸「アナタ!」
北島「落ち着いて下さい。鎮静剤を打って、眠ってるだけですから」
美幸「そう、ですか……」
北島「一体どういう事があったんですか?詳しく聞かせて下さい」
美幸「……実は……最近、流行り病があったでしょう?」
北島「え?あぁ、はい?それが?」
美幸「それからおかしくなったんです……こう、アルコールに対して、過敏に反応するようになって……」
北島「アルコールで消毒、とか考えてた、とか?まさか……」
美幸「そうなんです」
北島「え?」
美幸「アルコールを摂取して、消毒しようとしてたんです……」
北島「そんな漫画やアニメのギャグじゃあるまいし……」
美幸「いえ。本当なんです……」
北島「……本当に言ってるんだとしたら、相当、精神に異常を来してますね……」
美幸「本当に繊細な心の持ち主になってしまって……アルコールが無いと耐えられない体になってしまったんです……」
北島「成程……まずはアルコール抜きの生活をしましょう。明日からでも入院しましょうか」
美幸「……はい」
北島「ちなみに旦那さんは普段どんなアルコールを?」
美幸「エタノールです」
北島「エタ……え?」
美幸「あとメチルアルコールと無水エタノールと……」
北島「ちょちょちょ……?あの、それ、飲むんですか?」
美幸「飲む訳無いじゃないですか。何を言ってるんですか?」
北島「で、ですよね……?え?あの、アルコール中毒って‥…?」
美幸「常に手と指をアルコール消毒してないと気が済まない体質になってしまったんです……」
北島「……あ、そっちのアルコール中毒!?ですか!?」
美幸「はい」
北島「それは、あの、所謂、潔癖症という事で……?」
美幸「潔癖症も立派な精神疾患です」
北島「あ、はい。ごもっともで……強迫性障害の恐れアリ、と……で、アルコールで何が問題で?」
美幸「だから不安がるんですよ」
北島「あ、そうでした……」
美幸「先生、ちゃんと聞いてるんですか?私の話を」
北島「ごめんなさい、ごめんなさい……えーっと、取り敢えず、アルコール抜きの治療を進める方向で宜しいですか……?」
美幸「今までもそれでやって来たんですけど、効果が無くて……」
北島「そうですよねぇ……あの枝村先生ですら解決出来ない病気なんですものねぇ……」
美幸「最近は少しずつアルコールの液を薄めて水に近付けていってるんですが、流石に度数が二十パーセントを切ると揮発率が低くなってバレちゃうんですよね……」
北島「じゃあ、まぁ……常にマスクをするとか、手袋をするとかで手を打って頂けませんかね?」
美幸「……その発想はありませんでした!」
北島「マジですか?」
美幸「マジです……本気と書いてマジです……じゃあ、主人にはそうしてもらうように頼んでみます」
北島「宜しくお願いします……?」
美幸「ちなみにこの病院の消毒液って買えたりしますか?」
北島「まぁ買えますけど?」
美幸「そうですか」
暗転。
明転。
病室。
正将、ガスマスクと皮手袋をして息を切らしている。北島、舞台上手から登場。
北島「失礼しまー……あっ!?」
美幸「あ、北島先生。先日はどうも……」
北島「あの、まだ枝村が復帰していないので私が引き続き担当しているのですが、その、えっと、何だ?何ですか?それは……?」
美幸「ガスマスクと皮手袋です」
北島「それは見れば分かるんですが……何故、それを……?」
美幸「空気感染と接触感染をしなければ良いという発想になったので、この形に落ち着きました」
北島「え、でも、それ食事とかは……?」
美幸「こうやってマスクの隙間から液状の物を流し込んで……」
正将「ゴボゴボゴボ!?」
美幸「こんな感じです」
北島「えぇ……?そ、それでご主人は納得を……?」
美幸「納得させました」
北島「ど、どうやって……?」
美幸「納得させました」
北島「だからどうやって……?」
美幸「納得させたんです」
北島「……深く聞いたらマズい気がしてきた……」
美幸「知らぬが仏、ですよ。先生」
北島「仏に一番、近い場所ですもんね。ここは」
美幸「上手い事を言いますね」
北島「狙ってないです。ところでアルコール依存症の方はどうですか……?」
美幸「納得させました」
北島「え?ど、どうやって……?」
美幸「納得させました」
北島「ですから、どうやって……?」
美幸「納得させたんです」
北島「……あ、理解しました」
美幸「仏の顔も三度までですよ?北島先生」
北島「承知しました……じゃあ何か辛そうなので、冷房を少し強めておきますね?」
美幸「何から何までありがとうございます」
北島「いえいえ。ではそろそろ面会時間が終わりますので……」
美幸「あ、そうですか。では私はこれで……」
北島「はい。ではまた」
美幸「はい~(舞台上手に退場)」
北島「怖い奥様ですねぇ……」
正将「シテ……」
北島「え?」
正将「ロ、シテ……」
北島「何?」
正将「コロ、シテ……」
北島「……あ、そんなに辛いんですか?」
正将「ハイ……!」
北島「……アルコール依存症のままの方が経済も回って良いかぁ。この病院のアルコール消毒液を格安でお売りしますよ?勿論、奥様には内緒で」
正将「アリガトウゴザイマス……!」
北島「では私はこれで……また後で来ますね?」
正将「ハイ……!」
北島「(舞台上手側に行く)」
美幸「(舞台上手から登場)どうでしたか?」
北島「あそこまでやってれば大丈夫でしょう。ミネラルウォーターを消毒液と言って渡せば気分が紛れるかと思われます」
美幸「そうですか。では購入手続きはまた後日、改めて……」
北島「はい」
美幸「では後の事はお任せします」
北島「はい。失礼します」
美幸「失礼します(舞台上手に退場)」
北島「……知らぬが仏だな。一生、尻に敷かれるぞ。あの旦那さん」
―――終わり
『魔王城』
・登場人物
魔王
勇者
・舞台
魔王城
明転。
魔王城。舞台下手側、魔王が出てくる扉と階段。
勇者、舞台上手から登場。
勇者「やっとここまで来れたなー。後は魔王を討伐するだけかぁ」
SE、「ゴゴゴゴゴゴゴ!」と扉が開く音。
SE、と同時に扉が開く。
魔王「よくここまで辿り着いたな。勇者よ。歓迎するぞ」
勇者「…………」
魔王「我を簡単に倒せると思うなよ?我は今までの魔物とは別格だからな」
SE、「ゴゴゴゴゴゴゴ!」と扉が閉まる音。
SEと同時に扉が閉まる。
勇者「…………」
魔王「どうした?我を目の前にして怖じ気付いたか?」
勇者「いや、あのさぁ……」
魔王「何だ?」
勇者「建付け、悪くない?」
魔王「は?」
勇者「いや、今の扉が開く時と閉まる時の扉の建付け、悪いなぁと思って……」
魔王「何?どういう事?
勇者「いや、この城、耐震構造とか大丈夫なのかなって……」
魔王「大丈夫、だと思うけど……?」
勇者「本当に?アンタと戦ってる間に衝撃でどこか崩れ落ちたりしない?」
魔王「まぁ、攻撃が外れればその衝撃で崩れる可能性はあるけど……」
勇者「でもそれ前提でこの城を作ってるんでしょ?」
魔王「まぁ、最初の頃はそこら辺、無視してたかも……」
勇者「何で?」
魔王「だってそもそも勇者がここまで辿り着く事を想定して無かったから……」
勇者「今からでも遅くない。これから地震とかあるかもだし、一度、建て直そう?」
魔王「……そうだな。崩れたら元も子もないもんな……」
勇者「だろう?俺に優秀な設計士がいるからソイツ紹介するよ」
魔王「すまない。手を借りる」
勇者「ちなみにこの城って築何年?」
魔王「えーっと……先代から受け継いでるから……築三百年くらいかな?」
勇者「そりゃあ古いなぁ。昔と今じゃ耐震構造とか以前の問題で定期的に建て替えなきゃいけない時代だよ?」
魔王「そういうモンか?」
勇者「そういうモンだよ。もし俺と闘ってアンタが勝ってこの城が跡形も無くなったらアンタ何処に住むんだよ?」
魔王「……確かに。仮に我が負けて何も残らなかったらそれこそ歴史に名を刻めないしな……」
勇者「だろ?じゃあここは一時休戦して、この城の建て直しを検討しないか?」
魔王「良かろう。じゃあその設計士を呼べ」
勇者「ちょっと待ってて?(スマートフォンを取り出す)あ、もしもし?俺だけど。魔王城に来れない?え?何で?あー……ちょっと待ってて?あのさぁ、流石に命を投げ捨てる覚悟でここまで来るのは嫌だって言ってんだけど」
魔王「それくらい保証はしてやる。どれ。魔法の契約書を出そう。(懐から一枚の紙とペンを出してペンで紙にサインを書く)これで我は城が完成するまでの間、人間達に危害を加えないと約束した。もし破れば我は死ぬ。これで良いか?」
勇者「良いだろう。じゃあ今から呼ぶから。もしもし?さっきの話だけど、絶対に大丈夫。契約を交わしたから。うん、うん……はーい。じゃあ待ってるねー(電話を切る)。これから来るって」
魔王「じゃあ迎えを寄越そう(スマートフォンを取り出す)もしもし?我だが。あぁ、ちょっと街に行って勇者が言っている設計士を連れてきてほしいんだ。あぁ、分かってる。でももう契約したから……うん、はい。はーい。じゃあ丁重に連れて来いよ?絶対にな。はーい。じゃあねー(電話を切る)。今、迎えを出した」
勇者「悪いな」
魔王「いやいや。お前の言う事が無ければこういう不安事項が浮かばなかったからな」
勇者「じゃあちょっと待ってようか」
魔王「その間食事でもしよう。酒は好きか?」
勇者「いやー、俺、下戸でさ」
魔王「そうか。じゃあノンアルワインを出そう」
勇者「悪いな」
魔王「我とお前の仲じゃないか。気にするな」
暗転。
明転。
魔王城。
SE、建築作業音。
勇者、板付き。魔王、舞台上手から登場。
魔王「建築具合どんな感じー?」
勇者「流石にこの広さを全部、改築するとなるとなー。少なく見積もっても、五年くらい掛かるかも」
魔王「そんなにかー。大変だなー。我の部下も寄越そうか?」
勇者「助かるよ」
魔王「でもこの建築、ずっと続いてくれないかなー……」
勇者「何で?」
魔王「お前と仲良くなって、人間達とも仲良くなって、良い事尽くしだからさ。契約書に書いてあった通り、この工事が終わらなければ、人間と魔族の争いも無くて平和だと思ってさ」
勇者「そうか……じゃあ、そうする?」
魔王「え?」
勇者「現場の皆さーん!どいて下さーい!」
魔王「どうした?」
勇者「これからはここをストレス発散場にするんだよ。物を壊す為のな」
魔王「するとどうなる?」
勇者「ここは一生、城が完成する事は無くなり、建築作業が一生続く」
魔王「しかし資金はどうする?我のポケットマネーにも限界があるぞ?」
勇者「分かってないなぁ。無料で物を壊す訳が無いじゃないか」
魔王「……成程。お前、頭、良いな?」
勇者「それ程でも」
魔王「じゃあこれからは魔族と人間が手を取り合って生きていこう(手を差し出す)」
勇者「ん(握手する)。これも契約か?」
魔王「約束だよ。親友とのな」
勇者「よせやい。照れるぜ」
魔王「へへへ……最初からそれが狙いだったんだろ?」
勇者「よく分かったな?」
魔王「分かるさ。だって剣も何も持って来ないで魔王城に訪れる勇者がいるかって」
勇者「あっはっは!バレたか!」
魔王「あっはっは!この間抜け!」
勇者魔王「あっはっはっはっはっは!」
―――終わり
『娘さんを』
・登場人物
北島康介
藤原美幸(北島の婚約者)
藤原正将(美幸の父親)
藤原愛真(美幸の母親)
・舞台
藤原家
明転。
藤原宅。舞台上手側に襖。舞台中央から下手に掛けて座敷。座敷には卓袱台一つに座布団四つ。
北島、美幸、板付き。
北島「あ~……緊張する……」
美幸「リラックス、リラックス!怖い顔してると悪い印象受けちゃうかもよ?」
北島「でもさぁ……一生一代の決心の日だぞ?そんなリラックスなんて出来るかよ……」
美幸「(北島の頭を撫でる)」
北島「美幸……」
美幸「一大決心の日にアタシがこうして頭を撫でて、失敗した事ある?」
北島「……そうだな!ありがとう!」
美幸「そうそう!その笑顔!」
北島、美幸、笑い合う。そこに愛真、お茶を持って舞台上手から登場。
愛真「(冷たい態度で)あらあら。お二人さんお熱いわね」
北島「あっ!す、すみません!」
美幸「康介、笑顔、笑顔!」
北島「あ、そう、だな……あの、今日は……!」
愛真「あ、待って?もうすぐお父さんが帰ってくるから」
北島「はい!」
SE、「ガラガラ」と扉が開いて閉まる音。
正将「(舞台上手から登場)ただいま……!」
愛真「あ、丁度、帰って来たみたい。おかえりなさい」
正将「何だって?今日は何か話しがあるって?」
愛真「そうみたい。こっちにいるから」
正将「……分かった。美幸。話があるって?」
美幸「あ、お父さん!お帰りなさい!今日はね、この人から大切なお話があるの!」
正将「……君は?」
北島「あ!は、はい!俺、じゃなくて僕!でもなくて!私は美幸さんとお付き合いをさせて頂いている者です!北島康介と申します!」
正将「お付き合い、ねぇ……」
愛真「お父さん。立ってるのも何です。座って待ってて下さい。今、お茶を淹れて来ますから(舞台上手に退場)」
正将「……あぁ……(座る)君、北島君、だったかな?」
北島「はい!お義父さん!」
正将「お義父さんぅ?」
北島「あ!す、すみません……!」
美幸「良いじゃない。お父さん。この人の事も『康介君』って呼んじゃってよ」
正将「……分かった。康介君」
北島「はい!お、お義父さん!」
正将「今日は何の話をしに来たんだ?」
愛真「(舞台上手からお茶を持って登場)お父さん。抜け駆けは許しませんよ?」
正将「あぁ、悪いな。母さん。(お茶を飲む)で?話は何だ?」
北島「あ、はい!先程も申し上げましたが、今、美幸さんとお付き合いをさせて頂いてる者です!結婚を、前提に……!」
正将愛真「結婚……?」
北島「それで挨拶に来させて頂きました!お願いします!娘さんを、僕に下……!」
正将愛真「(食い気味に)どうぞ、どうぞ!」
北島「えっ!?」
正将「こんな娘で良ければいくらでも!」
愛真「こんな料理の一つも出来ない娘で良ければいくらでも!」
正将「こんな洗濯機の回し方も知らない娘で良ければ!」
愛真「こんな掃除の一つも出来ない娘で良ければ!」
正将「ギャンブル三昧の娘で良ければ!」
正将愛真「いくらでもどうぞ!」
北島「えぇ!?料理っていつも美幸が作ってくれてたんじゃないの!?」
美幸「家事代行サービス使ってたよ?」
北島「洗濯は!?やってたよね!?」
美幸「家事代行サービス使ってたよ?」
北島「掃除は!?流石にやってたよね!?」
美幸「家事代行サービス使ってたよ?」
北島「その金はどこから出てたの!?」
美幸「ギャンブルで稼いでたよ?」
北島「何で今まで言わなかったんだよ!?」
美幸「聞かれなかったから」
北島「はぁ!?」
正将「で、康介君?こんな娘を引き取ってくれてありがとう!」
北島「あ、いや、ちょっと……」
愛真「康介さん、本っ当にありがとう!この子の世話はもう嫌なのよ!」
北島「ちょっと考える時間を……」
正将「たまに借金とか作ったりしちゃうけど!」
愛真「結構、金使い荒いけど!」
正将愛真「私達の幸せの為に犠牲になってくれてありがとう!」
北島「ちょっと待てぇい!話が違う!」
美幸正将愛真「何が?」
北島「美幸!君はちゃんとしてると思って結婚しようと思ったんだぞ!?これじゃあ話が違うじゃないか!」
美幸「『してると思った』だけ、でしょ?勝手に勘違いしてそれは無いんじゃない?」
北島「だからって、こんなの詐欺じゃないか!」
美幸「詐欺じゃないよー?だって聞かれなかったから答えなかっただけだしー」
正将「そういう腹黒さは母さん似だなぁ!」
愛真「いやいや!そのイヤらしさはお父さん似ですよぉ!」
正将愛真「あっはっはっはっは!」
北島「笑うなぁ!貴方達もそうですよ!?何で先に教えてくれなかったんですか!?」
正将「だって、これ言ったら……なぁ?」
愛真「えぇ。絶対に別れられると思ったから……」
北島「確信犯じゃないか!」
美幸「さっきから何なの?アタシ達を犯罪者みたいに言ってさ?」
北島「みたいなモンじゃないか!」
美幸「『みたいな』でしょ?じゃあ犯罪者じゃないじゃん」
北島「似たようなモンだろ!」
美幸「『似たようなもの』でしょ?やっぱり犯罪者じゃないじゃん」
北島「そう言われると、そうだけどもぉ!」
美幸「謝って」
北島「え?」
美幸「だから謝って」
北島「な、何で?」
美幸「アタシ達を犯罪者呼ばわりした事。ちゃんと誤って」
北島「でも、それは君達が俺に大事な事を言わなかったから……」
美幸「謝って」
北島「……ごめんなさい」
美幸「それだけでアタシ達が許すと思ってる?」
北島「じゃ、じゃあどうすれば……?」
美幸「そうだなぁ……アタシをお嫁さんにしてくれたら許してあげる。ねぇ?お父さん、お母さん」
正将「そうだな。それで手を打とうじゃないか」
愛真「そうね。それくらいしてくれないと、こっちの気が済まないわ」
美幸「じゃあ結婚しましょう?」
北島「……分かった。結婚しよう」
美幸「じゃあプロポーズと指輪はまた後で考えるとして、今日のところは帰りましょうか」
北島「……はい……」
美幸「じゃあ、お父さん、お母さん。結婚式まで待っててねー?(北島と共に舞台上手に向かう)」
正将愛真「はーい!」
北島「失礼します……(美幸と共に舞台上手に退場)」
暗転。
北島「やっぱり俺、騙されてるー!」
―――終わり
『一汁三菜』
・登場人物
美幸(妻)
正将(夫)
・舞台
自宅
明転。
自宅。テーブル一つに椅子二つ。
美幸、板付き。食事を並べている。正将、舞台下手から登場。
正将「ただいま。美幸」
美幸「お帰り。正将君。ご飯出来てるよ」
正将「今日のご飯は?」
美幸「ミートソーススパゲッティにコーンスープだよ」
正将「またか……」
美幸「あれ?スパゲッティ嫌いだった?」
正将「いいや……」
美幸「じゃあコーンスープ?」
正将「いや、そうじゃなくてさ……」
美幸「じゃあ何?」
正将「あの、その、何というかさ……」
美幸「もう。何でも言って?もう夫婦なんだから、隠し事とかは無しにしようって前に決めたじゃない」
正将「……そうだったな。うん。分かった。言うよ」
美幸「うん。で?何?」
正将「俺さ、夕飯は和食が食べたいんだ」
美幸「あ、そうだったんだ……ごめんね?」
正将「いや、言わなかった俺が悪い。ごめん」
美幸「謝らないで?で、具体的にどういうのが食べたいの?」
正将「そうだな……ちょっと考え方が古いって思われるかもしれないだけど、千載一遇にしてほしいな」
美幸「千載一遇……?」
正将「ご飯と魚と副菜と漬け物とみそ汁があってくれると嬉しいんだ」
美幸「……あ、それって千載一遇じゃなくて一汁三菜じゃない?」
正将「一汁三菜……?」
美幸「今、正将君が言ったように、ご飯と魚と副菜があって、漬物とお味噌汁があるのって一汁三菜って言うんだよ?」
正将「あ、でも、ちょっと贅沢はしたいっていうか……こう、毎日がエブリデイみたいな感じの」
美幸「毎日がエブリデイ……言わんとしてる事は分かった。けど、そんな贅沢な料理出来るかな……?」
正将「それはたまにで良い。兎に角、夕飯で洋食は食べたくないんだ」
美幸「何でそこまでして?」
正将「仕事の時に昼食は大体コンビニのホットドッグとか、ファストフードだし、朝は時短でトーストとミルクだし……健康に悪くてさ」
美幸「あ、そう……じゃあ、明日からは何かしら工夫するね?」
正将「ありがとう」
暗転。
明転。
自宅。
美幸、食事を並べている。正将、舞台下手から登場。
藤原「ただいまー」
美幸「お帰りなさい。ご飯出来てるよ」
正将「今日の献立は?」
美幸「鰈の煮付けにホウレン草の御浸しに、沢庵だよ」
正将「ご飯と汁物は?」
美幸「あ、それがね……?怒らないで聞いてほしいんだけど……」
正将「何?何かあった?」
美幸「実はね……?ご飯炊き忘れちゃってて……」
正将「レンジのやつも無い感じか?」
美幸「うん……だから代わりといっては何だけど、お蕎麦を用意したんだけど……」
正将「何だ!そんな事か!これは千載一遇のラッキーじゃないか!」
美幸「え?」
正将「俺が蕎麦を好きなの知ってたのか!?」
美幸「いや、初耳だけど……?」
正将「いやはや、これは正に千載一遇!有り難く頂きます!」
美幸「あ、まぁ、喜んでくれたなら何よりだけど……」
正将「じゃあ先にシャワー浴びてくるねー!(舞台上手に退場)」
美幸「あ、うん……私にとっても千載一遇のチャンスだったって事か……」
―――終わり
『沈黙』
・登場人物
北島(刑事)
藤原(刑事)
・舞台
警察署
明転。
警察署(喫煙所)。ベンチ一つに吸い殻入れ一つ。
北島、板付き。グッタリとベンチに座り、煙草を吹かしている。藤原、舞台下手から登場。
藤原「お疲れ様です。北島さん」
北島「あぁ、お疲れ。藤原」
藤原「煙草、辞めたんじゃなかったんですか?」
北島「今回のヤマで苛々してしちゃってな……で?どうだ?奴は何か話したか?」
藤原「えぇ……相変わらず沈黙を破ったままです……」
北島「そうか……ずっとか?」
藤原「はい。ずっと喋ってます」
北島藤原「五月蠅ぇなぁ~!マジで!」
藤原「何であんなに元気でいられるんですかね?」
北島「知らん。クスリでもキメてるからじゃないのか?」
藤原「でも、もう、かれこれ三日目ですよ?流石にクスリも切れてるんじゃないですかね?」
北島「それも知らん。俺、やった事無いから」
藤原「それは僕だって同じですよ」
北島「で?何を話してんの?」
藤原「僕が出てくるまではクスリの副作用についてを延々と語ってましたね。ずっと『あんなのはもう嫌だ』って言ってましたね」
北島「認めてはいるんだな?」
藤原「はい。ただ、今はもうやってなくて、今から二十年前に一度だけヤッたっ切りと証言してます」
北島「まぁ物証が出て来た訳じゃないしな」
藤原「ってかそもそも何でアイツ捕まったんですかね?」
北島「一応、所持していたって事があったからな。その場で拾って警察に届けたらしいが」
藤原「だからかぁ……」
北島「何が?」
藤原「いえね?ずっと『俺は拾っただけだ!無罪だ!冤罪だ!』って終始、言ってて……」
北島「それで三日間も寝ずに喋り続けられるか?明らかにおかしいだろ」
藤原「でもさっきも言ったように、実際に目の前で打ってるところは見れてないですし、やはり白じゃないかと……」
北島「何か飲んだりはしてなかったか?」
藤原「何か小さい小瓶を飲んでましたね。喉が渇いたって言って」
北島「それだ。それを鑑識に回せ」
藤原「もう回しました」
北島「ヤクの反応は?」
藤原「でませんでした。カフェイン飲料でした」
北島「じゃあもう寝たいのに寝られないから自棄になってるだけか?」
藤原「このままじゃあの人の体調はおろか、こっちの弁解録取書を書いてる刑事も交代でやってますが疲弊し切ってますからね。早いところ帰って頂かないとこっちの仕事にまで支障を来す可能性がありますよ」
北島「だよなぁ……そういえばあの拾った粉ってどのクスリだった?」
藤原「さっき鑑識から連絡が入りました。小麦粉だったそうです」
北島「何て傍迷惑な……じゃあもう帰してやれよ」
藤原「でも本人曰く『持っていたのは事実だ。早く罪滅ぼしをさせてくれ』って言って聞かないんですよ」
北島「公務執行妨害だ。捕まえろ」
藤原「だから捕まってますって」
北島「再逮捕だよ」
藤原「もうしてます」
北島「そうか。で?何を話してるって?」
藤原「ちょっと待ってて下さい(スマートフォンを取り出す)。もしもし?藤原です。そっちの状況は?えぇ、えぇ……あ、ふーん……?成程……?分っかりましたー。お疲れ様ですー。はーい(電話を切る)」
北島「どうだって?」
藤原「『あれは只の小麦粉で、貴方の覚醒剤使用については立件出来ないから帰っても良い』と言ったら、今度は『俺はこうして刑事さん達の仕事を邪魔している。これは立派な罪だ。逮捕してくれ』といった内容をずっと喋ってるらしいです」
北島「……薬で眠らせるか」
藤原「そのクスリって、お薬ですよね?」
北島「当たり前だろ。医者、連れてきてくれ」
藤原「分かりました(舞台下手に退場)」
北島「これであの人にとって良い薬になれば良いんだけどな……」
―――終わり
『請求』
・登場人物
北島(新人店員)
藤原(先輩店員)
・舞台
服屋
明転。
服屋。
北島、藤原、舞台上手から登場。
藤原「で、さっきのがフロアでここが事務所。朝礼はここでやるから。これから宜しく。北島君」
北島「宜しくお願いします。藤原先輩」
藤原「これから朝礼が始まるから、この紙を見ながらで良いから複唱してね?」
北島「社是ってやつですか?」
藤原「そうそう。今日は俺が社是を読み上げる担当だからいったん離れるね」
北島「分かりました」
音声「えー、それでは朝礼を始めます。今日は休みが二人なので一階はヘルプを求める事が多いかもしれませんのでお気を付け下さい。それでは藤原さん。社是を読み上げて下さい」
藤原「はい。えー、それでは行きます。人に寄り添う気持ちで行きましょう!」
北島「人に寄り添う気持ちで行きましょう!」
藤原「その人に合った服を選んであげましょう!」
北島「その人に合った服を選んであげましょう!」
藤原「お勧めの服は推し付けましょう!」
北島「え?あ、お勧めの服は推し付けましょう!」
藤原「急な雨で濡れた人には傘と合羽を1.5倍以上の値段で請求しましょう!」
北島「急な雨で濡れた人には傘と合羽を1.5倍以上の値段で請求しましょう!?」
藤原「汗で替えのシャツを求める人には2倍以上の値段を請求しましょう!」
北島「汗で替えのシャツを求める人には2倍以上の値段を請求しましょう!?」
藤原「冠婚葬祭で急にスーツを求めてきた人には5倍以上の値段で請求しましょう!」
北島「冠婚葬祭で急にスーツを求めてきた人には5倍以上の値段で請求しましょう!?」
藤原「それでは今日も一日、お客様の足元をよく見て請求しましょう!」
北島「は、はい!?」
藤原「じゃあ行きますかぁ~」
北島「ちょ、ちょっと先輩!?」
藤原「ん?何?」
北島「さっきの社是って何だったんですか!?」
藤原「だからお客様の足元をよく見て請求する為の掛け声だよ」
北島「そんな店があってたまるか!」
藤原「まぁ北島君はアルバイトなんだし、何か不祥事があっても会社が責任を負うから気にするな」
北島「そういう問題じゃない!良いんですか!?水増し請求するって事でしょう!?」
藤原「お客様も必死なんだ。これくらい払って当然だろう?」
北島「だからって何倍もする服を売るだなんて……!」
藤原「良いかい?北島君。君はもうこの会社の一員なんだよ。アルバイトであってもね。だから、もしこれを警察に言おうものなら、どうなるか、分かってるね?」
北島「でも俺は警察に行きますよ!?こんな会社怖くてやってられないと思うんで!」
藤原「良いのかい?ここは時給3,980円。破格だよ?そういえば君の家は今、お母さんと二人暮らしだそうじゃないか。家計をやり繰りするにはこれ程、良いアルバイトは無いんじゃないかな?」
北島「くっ……!足元、見やがって……!」
藤原「そう。それだ」
北島「え?」
藤原「この会社の本質はそこ。例え社員やアルバイト、パートの人であっても足元を見る。つまりはそういう切羽詰まった人がここで働くんだよ」
北島「で、でも……!水増し請求だなんて……!俺、こんな所、辞めてやります!そして警察に行きます!」
藤原「北島君。分かってないね。全然分かってない。さっきの説明と社是を読む時間で合計、二時間分、給料が発生してるんだ。それを受け取ったら、君も共犯になるんだよ?」
北島「そんなの受け取れませんよ!ってか受け取りません!」
藤原「悪いね。もう口座には今日の分を入れてある。普通はあり得ないが、この会社は先に給料を振り込むスタイルでね」
北島「……クッ……!」
藤原「なぁに。大丈夫、大丈夫。すぐに慣れるから……同じ穴の狢、同士、仲良くしようじゃないか?」
北島「クソォー!」
藤原「ちなみに水増し請求した分は歩合制で給料に加えられるからね」
北島「お母さーん!お母さーん!」
暗転。
音声「一ヶ月後」
明転。
服屋。
北島、藤原、舞台上手から登場。
藤原「休憩入りまーす!」
北島「入りまーす!」
藤原「ふぅ。どうだい?北島君。慣れたかい?」
北島「はい!」
藤原「良い目になったね。君ももうこの会社の一員だ」
北島「いいえ!違います!」
藤原「え?」
北島「もう調査は十分です!後は本部に連絡するだけです!」
藤原「何を言ってる……?」
北島「(ピンマイクに話し掛ける)今です!」
音声「ドヤドヤ」と警察が入ってくる声と音。
藤原「な、何だ!?何が起こっている!?」
北島「俺が書いた履歴書は真っ赤な嘘。以前からマークしていたこの店を調査する為に入った囮捜査だったのさ!」
藤原「な、何だと!?」
北島「これで終わりだ!この会社は!」
藤原「……責任は会社が追うので、俺はこれにてドロン……!」
北島「させる訳無いだろ!お前も豚箱、行きだ!」
藤原「そんなぁ~!会社の規則にあっただろ~?」
北島「とっくにそんなの嘘だって社長が吐いたよ!」
藤原「あの糞社長ー!」
北島「じゃあ君も捕まえるからね」
藤原「北島君。でも君も危ないんじゃないかな?」
北島「は?」
藤原「君はウチから金を受け取っていた。それだけでも十分、共犯になるんじゃないかな?」
北島「足元を見たようだが、無駄だ。あの金は全て、国が持って行った」
藤原「何だと!?」
北島「お前達は皮肉にも国に金を払って犯罪を犯してたんだ。残念だったな」
藤原「俺もここまで、か……!」
北島「そこで、だ。お前は俺を良くしてくれた奴だからな。最後の温情として、取引をしようじゃないか」
藤原「と、取引……?」
北島「お前は裁判で社長達の不利になる事実を全て曝け出せ。そうすればお前には執行猶予付きで外に出してやる」
藤原「……足元、見やがって……!」
北島「その言葉が聞きたくて一ヶ月、我慢してたんだよ!」
藤原「足元をよく見て請求した結果がこれかよー!」
北島「五月蠅い。連行するから早く行くぞ」
藤原「チクショー!」
北島「ん?(スマートフォンを取り出す)はい、北島。はい、はい……床下浸水?分かった。気を付ける」
藤原「何の電話だ?」
北島「この店が床下浸水で足元が不安定だから気を付けろってさ」
藤原「じゃあこの店の、靴の上から履く長靴を買ったらどうだ?」
北島「買わん。このまま連行する」
藤原「最後の仕事も出来ないだなんて……!」
北島「次は相手の足元より頭を見て請求するんだな」
―――終わり
『光栄』
・登場人物
北島
藤原(部下)
枝村(部下)
・舞台
ボスの部屋
明転。
ボスの部屋。机一つに椅子一つ。
北島、椅子に座って板付き。藤原、舞台下手から登場。
藤原「失礼します」
北島「藤原か」
藤原「はい」
北島「例の件はどうなってる?」
藤原「順調に事は進んでおります」
北島「流石、一流だ。褒めてやろう」
藤原「身に余る光栄で御座います」
北島「もう一つの方はどうだ?」
藤原「明日にでも報告書を纏めておきます」
北島「そうか。やはり一流だ。追加で褒めてやろう」
藤原「手に余る光栄です」
北島「……ん?」
藤原「それと追加で頼まれていたもう一件ですが、来週末までには報告書を纏めておきます」
北島「あ、お、おう……褒めて遣わす」
藤原「目に余る光栄です」
北島「え?え?え?」
藤原「では私はこれで……」
北島「ちょっと待って?え?何?手に余る光栄?目に余る光栄?」
藤原「はい。それがどうかされましたか?」
北島「『手に余る』って意味分かってる?」
藤原「自分の手では救えない程の栄誉を貰ったって意味じゃあないんですか?」
北島「違うぞ?自分じゃ手に負えないくらい大変な事だって意味だぞ?」
藤原「あ、そうだったんですか」
北島「後、何?目に余る光栄?」
藤原「それも違うんですか?」
北島「どういう意味だと思ってた?」
藤原「目では追い付けない程、早い処理で行った事へのお礼?」
北島「全然、違うからな?『目に余る』ってあまりにも酷い状況に見てられないくらい、注意背せずにはいられないって状況の事だからな?」
藤原「あ、そうだったんですか。まぁでも似たようなモンですし、あんまり変わらないですよ」
北島「『似たようなモン』?どういう意味?」
藤原「実際、部下の手助けが無かったら二つ目の事案は遂行出来ませんでしたし、三つ目に関しては、あまりにも内容が酷くて注意したくなる程でしたから」
北島「あ、そうだったの?そんなに大変だったんだ?」
藤原「えぇ。もっと褒めてくれないと物足りないくらい頑張りましたよ?私」
北島「そ、そうか……じゃあ今度の給料は色付けておこう」
藤原「もっと」
北島「え?」
藤原「もっとです」
北島「えーっと……じゃあボーナス付けとくから……」
藤原「もっと、もっとです」
北島「えぇ……?じゃあ、歩合制で更に給料を上乗せしておくから」
藤原「違うでしょ?そうじゃないでしょ?」
北島「えぇ……?じゃあどれくらいお金をあげれば気が済むの?」
藤原「お金じゃありません。はい(頭を差し出す)」
北島「は?」
藤原「『良い子、良い子』して下さい」
北島「え?何で?」
藤原「昔からこうしてもらった方が勉強を頑張れたんです。なので頭を撫でてくれた方が仕事も効率化出来ます」
北島「普通に嫌なんだけど……」
藤原「何でですか?」
北島「オッサンがオッサンの頭を二人きりの部屋で撫でるとかどんなBLだよ」
藤原「撫でてくれないなら、この情報をライバル会社に流します!」
北島「えぇ?それは困るよ」
藤原「だって撫で撫でしてくれないんでしょ!?じゃあもうこの会社には居たくないです!」
北島「お金でほら、そういうお店に行って撫でてもらえば良いじゃない」
藤原「そんな事したら情報が流れ出てしまうかもしれませんよ!?それでも良いんですか!?」
北島「……それは嫌だなぁ」
藤原「じゃあ、ほら!頭を撫でて下さい!『良い子、良い子』して下さい!」
北島「分かったよ……(藤原の頭を撫でる)これで良いか?」
藤原「ちゃんと『良く出来ました!良い子!良い子!』って言って下さい!」
北島「えぇ……?(頭を撫でながら)良く出来ました。良い子、良い子。これでどう?」
藤原「もっと!もっと心を込めて!」
北島「良く出来ました!良い子!良い子!これでどうだ!?」
藤原「顎とかも撫でたりしながら甘やかして下さい!」
北島「よ~しよしよしよしよし!良い子でちゅね~!」
藤原「わ~い!わふぅ!わふぅ!」
枝村「(舞台下手から登場)失礼しまーす。しゃちょ……」
北島藤原「……あ」
枝村「私は何も見てません。改めてまた後で来ますので。ごゆっくり(舞台下手に退場)」
北島「ちょっと待ってくれ!?俺達はそういう関係じゃない!おい!おーい!?(舞台下手に走って退場)」
藤原「十指に余る光栄を得られたぜ……!」
―――終わり
『ピッチャー』
・登場人物
北島(実況者)
藤原(解説)
小川(ウグイス嬢)
・舞台
野球場(実況席)
明転。
野球場(実況席)。長机一つに椅子二つ。机の上には「実況者」と「解説」と書かれた紙が置いてある(貼ってある)。
北島、藤原、板付き。
SE、「カキーン!」という音。
北島「おーっと!?西岡君、今日は絶不調か!?昨年の甲子園と比べて大分打たれているぞ!?」
藤原「それだけ向こうも対策してきたという事でしょう。今年は流れが変わるかもしれませんね」
北島「おっと!?西岡君、どうやら肩の負傷らしいぞー!?」
藤原「焦って力が入り過ぎたのでしょう。それで体力の消耗が激しいところに無理なピッチング……あれは肩が壊れてもおかしくありませんよ」
北島「西岡君、退場だー!」
小川「渋井大学附属高校、ピッチャー変わりまして、枝村君。枝村君」
北島「まだ枝村君がいたー!まだ勝敗は分からないぞー!?」
藤原「枝村君は最終兵器ですからね……南町高校も気合いを入れてやっていってほしいものです」
SE、「カキーン!ドンッ!」という音。
北島「おぉっとぉ!?ここでピッチャー返しだ!枝村君、負傷!枝村君、負傷です!」
藤原「ここで最終兵器の枝村君がいなくなるとは……もう勝負は着きましたね……」
小川「ピッチャー、変わり者でして、大島君。大島君です」
北島「……ん?今、変わり者って言いました?」
藤原「言いましたね。確かに変わり者ですね。大島君は高校五年生ですからね」
北島「二年留年してるんですか!?」
藤原「はい。資料にはそう書いてあります」
北島「何で!?」
藤原「高校野球を続けたくてわざと留年したみたいです」
北島「えぇ……?」
SE、「カキーン!バンッ!」という音。
北島「おぉっとぉ!?またピッチャー返しだぁー!渋井大付属、何という不幸!」
藤原「これはちょっと審議が入ってますね……意図的かどうかを確認中です」
北島「あ、結果が出ました!これはセーフです!セーフという判断になりました!」
藤原「しかしもう渋井大付属にピッチャーは……」
小川「ピッチャー、変わり種でして、藤縄君。藤縄君です」
北島「……今、変わり種でして?」
藤原「そう言ってましたね」
北島「何だあの身長は!?二メートルを超えているではないかと言う程の体格だ!」
藤原「あの長い腕でのピッチング……凄そうですね……」
SE、「カキーン!ドクッ!」という音。
北島「おぉっとぉ!?今度は自打球だぁ!南町高、ここで不幸が自分達に降り掛かったぁー!」
藤原「三回もピッチャー返しをしてますからね……まぁチームの因果応報という考え方も出来ますね」
北島「代打は誰だぁ!?」
小川「ピッチャー、季節の移り変わりでして、高橋君。高橋君です」
北島「季節の変わり目だから何だぁー!?」
藤原「これはもうウグイス嬢のボキャブラリーが試される試合になりますね……」
北島「野球の実況よりもウグイス嬢の方を実況する事にします!」
藤原「お互いに選手を潰し合っていくこの試合……延長戦は決定でしょうね」
―――終わり
『発電』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
会議室
明転。
会議室。テーブル一つに椅子一つ。舞台上手奥にプロジェクタースクリーンと、テーブルの上にはプロジェクター。
北島、藤原、板付き。
藤原「それではプレゼンを始めさせて頂きます」
北島「はい。宜しくお願いします」
藤原「我が社では新しい発電方法を編み出しました」
北島「ほう。それは凄いですね。風力や火力、太陽光や原子力とは違うのですか?」
藤原「はい。どれでもありません。しかも、天候に左右されず。環境汚染にもエコロジーな発電方法です」
北島「興味深いですね。ではどんな発電方法で?」
藤原「はい。それはですね……超能力発電です」
北島「……え?ちょ、超能力……?」
藤原「はい。超能力発電です」
北島「えーっと……超能力って、エスパーとかサイキックとかのやつですか?」
藤原「北島さん。何を仰いますか?」
北島「ですよね?」
藤原「他に何があるんですか?」
北島「あっ、合ってんだ……で、ではどうやって超能力を……?」
藤原「今や超能力、ESPは科学的に証明されています。人間が誰しも持っている秘密の力です。そこで我が社はサイコキネシスを利用して摩擦熱を起こし、それで電気に変えるのです」
北島「……そのサイコキネシスで直接、物を動かした方が効率的では?」
藤原「……その発想はありませんでした!」
北島「は、はぁ……?」
藤原「しかし、まだ他に活用法はあります!テレポーテーションです!」
北島「それはどんな?」
藤原「テレポーテーションの力を利用して摩擦を起こし、電力を発電させます!」
北島「そのテレポーテーションで直接、物を運んだ方が良いのでは?」
藤原「……その発想もありませんでした!」
北島「は、はぁ……?」
藤原「ま、まだあります!サイコメトリーです!」
北島「サイコメトリー?それがどう発電に繋がるんですか?」
藤原「読み取る力を利用して、それで体に熱を発生させてそれを電気に変えます!」
北島「別に読み取らせるだけで良いのでは?」
藤原「じゃあバイロキネシスはどうですか!?炎の力で電気を……!」
北島「その熱をそのまま料理とかに使えば良いのでは?」
藤原「で、ではエレキネシスはどうですか!?電気の力で電気を起こす電力発電……!」
北島「電力で電力を起こすっていうのは二度手間では?」
藤原「じゃあライトキネシスで光を起こすとか……!」
北島「それはもうそのまま光を届ければ良いだけの話では?」
藤原「クソー!何を言っても否定される!じゃあ一体どうしたら良いんだ!?」
北島「あのー……」
藤原「何ですか!?」
北島「その超能力を引き出す方法は分かっているんですか?」
藤原「え?えぇ。潜在能力を極限まで引き出す方法なので、我が社では臨床試験に成功しておりますが?」
北島「じゃあ人類の全員に超能力を授ければ全て片が着くのでは?」
藤原「……成程!それは良いお考えですね!早速、社に戻って検討してみます!(舞台上手に退場)」
北島「あ、ちょっ!?それはそれで戦争に……!繋がると、思ったんだけど、なぁ……」
暗転。
音声「その後、超能力が世界を支配し、飢えの改善が見られ、世界は逆に平和になったのだった」
―――終わり




