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コント集  作者: 河野吉田
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33/37

コント集33

コント集33



321・・・想

322・・・マジでそう言う奴いるんだ

323・・・怒らないで聞いて

324・・・一時はどうなるかと思ったよ

325・・・カツ丼屋

326・・・前の車を追ってくれ

327・・・お寺のクリスマス

328・・・部下の失敗は上司の責任

329・・・勧誘

330・・・アブストラクトゲーム



『想』



・登場人物


 北島

 藤原



・舞台


 居酒屋






 明転。


 居酒屋。テーブル一つに椅子二つ。テーブルの上には酒とつまみ。

 北島、藤原、板付き。


北島「全く……枝村には困ったもんだ……」

藤原「本当だよ。あんなカルト宗教にハマっちゃってさ」

北島「何が『この世の真理に辿り着く』だよ。金ヅルにされてるだけじゃねぇか」

藤原「そうだよなー。適当な事をペラペラ喋って……あんな事、本当に信じてるんかね?」

北島「なんじゃねぇの?馬鹿だよ。ハッキリ言って」

藤原「全く……あんな薄っぺらい事を信じるなんて……どこからが空想でどこまでが想像か分からんのにな」

北島「本当だよなー。自分達だけでやってれば良いのに、こっちまで巻き込もうとするのは止めてほしいよな」

藤原「マジでそう。どこからが妄想でどこまでが幻想か分かんないのにな」

北島「え?あ、うん」

藤原「全く以て夢想だよ。修行で黙想して冥想する為に瞑想してんじゃねぇの?」

北島「かもしれんな」

藤原「そういう思想を持つ事は別に否定しないけど、感想を求めてくんなよって話だよな」

北島「そうだなー」

藤原「いかにもインチキって想定を想起出来ないもんかね?」

北島「うん、うん。そうだよな」

藤原「理想を持つ事は大切だけど、危ない団体だって予想と連想出来ないもんかね?」

北島「うん。そうだな。ところでさぁ」

藤原「何?」

北島「『想』って多過ぎじゃない?」

藤原「何が?」

北島「いや、想うって言葉をよくそんなに出せるなと思って」

藤原「そう?たまたまだよ。あ、今の『そう』は想うじゃないからね?」

北島「んな事ぁ分かるよ。ワザとやってたって訳じゃないの?」

藤原「無意識的に出ちゃってただけだよ」

北島「そうなのか」

藤原「その『そうなのか』の『そう』は想うの『そう』?」

北島「んな訳無ぇだろ」

藤原「そうだよな。あ、今の『そうだよな』の『そう』は……」

北島「違う事くらい分かるわ。そうそう出てこないんだよ。そういうのは」

藤原「その『そうそう』と『そういうのは』の『そう』は……」

北島「想うじゃねぇよ!何だよ!?お前『想』に憑り付かれでもされてんのか!?」

藤原「実はそうなんだけど……あ、今の『そうなんだけど』の『そう』は……」

北島「違うって事くらい分かるっての!もう良いよ!この話!」

藤原「何、怒ってんだよ……?あ、そうそう、そういえばこの前、医者から思想膿漏だって言われたよ」

北島「何?その若さでもう歯ぁガタガタなの?」

藤原「いや、考え方が、脳に膿が溜まってるが如く、もう『想』にグチャグチャに支配されてるらしいんだ」

北島「……あ、思想が膿漏されてるの?」

藤原「そういう事」

北島「今も『そうそう』と『そういえば』と『そういう事』って『そう』を連発してたもんな」

藤原「あ、そうだった?そうは思ってなかったんだけどそうそうそういう事は出ないように考えていたんだけどな」

北島「今も『そう』をめっちゃ言ってたよ?」

藤原「あ、マジかぁ……こういうのって何て言うんだろうな?」

北島「思想膿漏じゃないの?」

藤原「いや、一般的な言い方で」

北島「……奇想天外?」

藤原「やっぱり『そう』に囚われてるんだ!俺!」

北島「薄々、気付いてたんじゃないの?」

藤原「想定外だった!」

北島「また『そう』が出てる!」











―――終わり

『マジでそう言う奴いるんだ』



・登場人物


 北島

 藤原

 枝村



・舞台


ルームシェアハウス






 明転。


 ルームシェアハウス。卓袱台一つに座布団三つ。

 北島、枝村、板付き。


北島「藤原の奴、帰りが遅いな~」

枝村「そうだねぇ。まぁ帰ぇりは遅くなるってアイツは言ってたからねぇ」

北島「にしてもだよ。もう日付、変わるぞ?」

枝村「何だったらアンさん、電話してやったらどうだい?」

北島「そうだな。ちょっと心配だし電話してみるか」

藤原「(舞台上手から登場)たらいま~!」

北島「おかえりー……うーわ。酒、臭っ」

枝村「藤原のダンナ、お帰ぇり」

藤原「いや~、飲んだ、飲んだ!はい、お土産!」

北島「マジで酔っ払って寿司を包んでもらって帰ってくる奴っているんだ……」

藤原「水くれぇ!」

北島「分ぁった、分ぁった。大きい声出すな。ご近所さんに迷惑だろ?」

藤原「てやんでぇ!こちとら飲まなきゃやってらんねんだ!」

北島「マジで『てやんでぇ』って言う奴いるんだ……」

藤原「うぃ~、ヒック!(ちゃんと『うぃ~、ヒック』と言う)」

北島「マジで『うぃ~、ヒック』って言う奴いるんだ……」

枝村「するってぇとお前さん、何かい?今までこういうのにあった事無ぇんか?」

北島「『するってぇとお前さん、何かい?』……?」

藤原「俺はただのバイトであるからして、そこまで責任を背負わすなよな~!?」

北島「『であるからして』……?」

藤原「水ぅ……!」

北島「おいおい。玄関で寝るなよ。せめて靴を脱いで布団に行け」

藤原「その前に水ぅ……」

北島「分ぁった、分ぁった。枝村、俺はコイツを運ぶから水を持って来てくれないか?」

枝村「……ったく、しょーがねぇーな」

北島「『ったく、しょーがねぇーな』……?」

枝村「あ、ニンニク臭ぇや。坊や、ママのミルクでも飲んでな(牛乳を取り出し、藤原に渡す)」

北島「『ママのミルクでも飲んでな』……?」

藤原「(鼾を掻いて寝始める)」

北島「おい、藤原?藤原ー?ここで寝るなー?風邪引くぞー?枝村が牛乳、持ってきたぞー?」

藤原「むにゃむにゃ……もう食べられないよ……」

北島「『むにゃむにゃ、もう食べられないよ』……?」

枝村「起きそうにねぇでげすな」

北島「『ねぇでげすな』……?」

枝村「藤原の旦那!風邪引きやすぜ!喜多嶋の旦那、手ぇ貸しておくれやす!」

北島「『おくれやす』……?はいよ」

枝村「せーの!そらっ!」

北島「『そらっ!』……?」

枝村「よし、ベッドの上に寝かせたぜい」

藤原「むにゃむにゃ……(一升瓶を抱き締める)」

北島「マジで一升瓶を抱いて寝る奴っているんだ……」

枝村「ほら、牛乳、飲んで下せぇよ」

藤原「……あぁ?何だ?この色男は?」

枝村「え?俺っちの事ですかい?」

北島「『事ですかい?』……?」

枝村「まだ酔ってらっしゃいますね。牛乳飲んで落ち着いて下せぇ」

藤原「ありがとう!いよっ!この色男!」

北島「『いよっ!この色男!』……?」

枝村「へへっ!よせやい!」

北島「『へへっ!よせやい!』……?」

枝村「よしんば福山雅治のようってか!?」

北島「『よしんば』……?」

藤原「やかましいわ!」

北島「マジでこういう状況で『やかましいわ!』って言う奴いるんだ……」

枝村「いかんせん、俺っちはイケメンですぇね!」

北島「『いかんせん』……?」

藤原「(寝返りを打つ)いって!何だこれ?ホワット・イズ・ディス?」

枝村「ディス・イズ・ア・ペン」

北島「マジで『ディス・イズ・ア・ペン』って言う奴いるんだ……」

藤原「ガビーン!血ぃ出ちゃった」

北島「『ガビーン!』……?」

藤原「絆創膏ある?」

枝村「ありやすよ。ほい」

藤原「サンキュー」

枝村「さて、ここらで終わりにしやしょうかね」

藤原「そうだな。寝るか」

北島「電気消すぞー」

藤原枝村「はーい」

北島藤原枝村「おやすみー」

北島「『おやすみ』……?あ、言うか」


















―――終わり

『怒らないで聞いて』



・登場人物


 康介(夫)

 美幸(妻)



・舞台


 自宅






 明転。


 自宅。テーブル一つに椅子二つ。

 康介、舞台下手から登場。


康介「ただいま~。あれ?美幸、いないのか?」

美幸「(舞台上手から登場)アナタ!おかえりなさい!」

康介「おう。な、何?どうした?」

美幸「アナタ!?怒らないで聞いてね!?」

康介「な、何が……?」

美幸「絶対!ぜーったいに怒らないで聞いてね!?」

康介「わ、分かったよ……何?」

美幸「今日、パチンコで十万スッちゃった!」

康介「はぁ!?お前そんな事してたのかよ!?何を考えて……!」

美幸「怒らないで聞いてって言ったでしょ!?何を考えてんのよ!?」

康介「ご、ごめんなさい……」

美幸「後もう一つあるんだけど、これも怒らないで聞いてね!?」

康介「な、何……?」

美幸「そのパチンコでスッたお金を取り戻そうとして、二人の貯金百万を切り崩しちゃった!しかも負けた!」

康介「はぁ!?お前、あの金を貯めるのにどれだけ苦労したか分かってんのか……!?」

美幸「だから怒らないで聞いてって言ったでしょ!?何を考えてんのよ!?」

康介「ご、ごめんなさい……」

美幸「まだあと一つあるんだけど!?」

康介「ま、まだあるの……?」

美幸「これも怒らないで聞いてね!?」

康介「な、何だよ……?」

美幸「絶対!絶対に!ぜーったいに怒らないで聞いてね!?」

康介「だから何さ……?」

美幸「その負けも取り戻そうとして消費者金融から一千万円を借りて、競馬で負けちゃった!」

康介「はぁ!?じゃあ借金したって事!?マジで何を考えて……!?」

美幸「だから再三、怒らないで聞いてって言ってるでしょ!?何を考えてんのよ!?」

康介「ご、ごめんなさい……」


 沈黙。


康介「で?終わり?」

美幸「うん!」

康介「どうやって金を返すつもり?」

美幸「何とかなるかもしれない!」

康介「あ、そう……ちょっとお話があります」

美幸「怒らないでね!?」

康介「いや、流石に怒るって……」

美幸「私の言う事が聞けないの!?」

康介「そういう問題じゃないだろ?怒られるって分かってて俺に打ち明けたんだろ?」

美幸「だから『怒らないで聞いて』って散々、言ってきたでしょ!?」

康介「それでまかり通る世の中な訳無いだろ!お前マジで何を考えて……!?」

美幸「だから怒らないでって言ったじゃない!何で怒るの!?」

康介「限度ってものがあるだろ!?これじゃあ離婚一択だよ!?」

美幸「だから私が『怒らないで』って言って、それをアナタが快諾したんじゃない!?」

康介「快諾ではないだろ!?他に言う事があるだろ!?」

美幸「じゃあ何!?これも怒らないで聞いてくれるなら言うけど!?」

康介「まだ何かあんのかよ!?」

美幸「パチンコ前にオートレースで五万、負けた!」

康介「はぁ!?お前、マジで……!」

美幸「その前は競輪で三万、負けた!」

康介「その段階で!?」

美幸「更にその前は協定で二万、負けた!」

康介「あのなぁ、俺が言いたいは……!」

美幸「怒らないでって言ったでしょ!?何を考えてのよ!?」

康介「謝れって言いてぇんだよ!」

美幸「え?」

康介「『え?』じゃねぇよ!一言くらい謝罪の言葉は無いのか!?」

美幸「じゃあ謝ったら許してくれたの!?」

康介「いや、許せないけど……?」

美幸「じゃあ勢いで許諾を貰いに行くしか無いじゃない!何が悪いって言うのよ!?」

康介「それは許諾じゃねぇ!一種の脅迫だよ!」

美幸「刑法上、他人に恐怖心を生じさせる目的で害を加えることを通告する事だから、害は与えてないでしょ!?」

康介「与えてるだろ!?一種の経済DVだよ!」

美幸「お金による支配や、お金の自由を奪うことなどにより、配偶者等に苦痛を与えて追い詰めることを言うから、これはギリ経済DVには当たらないんじゃないかな!?」

康介「だから実害が出てるし、家計が圧迫されてるしで、散々な目に遭ってるんだよ!こっちは!」

美幸「じゃあどうしろって言うのよ!?」

康介「だから謝ればとりあえずは俺の怒りのボルテージは少し下がるだろ!?」

美幸「下がるだけで、無くなる訳じゃないでしょ!?」

康介「そら、そうだけども!」

美幸「だったら逆に押せ押せドンドンでこっちのペースに合わせてもらった方が効率的じゃない!?」

康介「悪いって本当に思ってるのか!?」

美幸「思ってるわよ!だから打ち明けたんじゃない!」

康介「だったら最初に『ごめんなさい』が出てくる筈だろ!?普通!」

美幸「謝ったところで借金が消える訳じゃないし!」

康介「あー!ここまで話が通じない奴だとは思わなかった!離婚だ離婚!」

美幸「後、最後にこれだけ聞いて!」

康介「何だよ!?まだ何かあるのかよ!?」

美幸「さっき宝くじで一億円、当たった!」

康介「えっ!?じゃあ借金はチャラになる上に、貯金も減らないどころかプラスになるんじゃん!?」

美幸「そうだよ!」

康介「最初に言えよ!?何で今、言うの!?」

美幸「先に言った後に借金の事を言ったら落胆すると思って!」

康介「一応そこまで考えてはいたんだな!?」

美幸「許してくれる!?」

康介「今回だけね!?結果オーライとして!」

美幸「ありがとう!」

康介「ところでご飯とお風呂は!?」

美幸「お詫びを兼ねて美味しいご飯を出前した!お風呂もやった!」

康介「分かった!じゃあ先にお風呂入るね!?」

美幸「あいよ!」

康介「んじゃ!(舞台上手に退場)」

美幸「ゴネ得……!」
















―――終わり

『一時はどうなる事かと思ったよ』



・登場人物


 北島

 藤原



・舞台


 居酒屋






 明転。


 居酒屋。テーブル一つに椅子二つ。テーブルの上には酒とつまみ。

 北島、藤原、板付き。


北島「お疲れ!」

藤原「お疲れ~」

北島「全く、枝村の奴、面倒なトラブル起こしやがって……」

藤原「バックアップ大変だったねぇ。本当に気付けて良かったよ」

北島「取引先に早く謝れて良かったよ。向こうもこっちの事情を察してくれて、何とか穏便に終わったけど、内心、冷や冷やしたよ……」

藤原「たまたま運が良かっただけだよね。あの会社さんじゃなかったらもうウチの会社の存続が危うかったね」

北島「あぁ……一時はどうなる事かと思ったよ……」

藤原「二時になったらどうなったの?」

北島「え?」

藤原「今、夜の十二時でしょ?一時に大変な事になってたとしたら、二時にはどうなってたの?」

北島「え?えっと……?」

藤原「二時にはもっと酷い事になってたとしたら、三時は更に酷い状況だったって事?」

北島「えーっと……別にそういう意味じゃあないんだけど……?」

藤原「え?そういう事じゃないの?」

北島「違うわ。状況が悪化したり、解決策が見つからなかったりした時に今後の展開に対する不安や恐れを抱いていたことを示す事だよ」

藤原「分かり易く言うと?」

北島「えーっと……まぁ、その時はどうなる事かと思った、と不安な気持ちになったって事」

藤原「へー。じゃあ今まで『一時なったら』ってのはマジで焦ってるって意味だったのか」

北島「そんな呑気に考えてる場合じゃなかったろ?」

藤原「それもそうか。何であんな大事件でそんなに楽観的に言えるんだろうって思った」

北島「本当にそうだよ。お前、あの時どう思ってたの?」

藤原「いや、ヤバいな~、とは思ってた」

北島「お前の方こそ楽観的じゃねぇか」

藤原「これでも焦ってたんだぞ?」

北島「本当に焦ってたら、そんな簡単な言葉に出来ないもんだぞ?」

藤原「なったんだから仕方ないじゃん」

北島「まぁ、そうなんだけど……」

藤原「まぁ大事は大事だけど、穏便に済ませられて良かったじゃん?」

北島「まぁなー。本当、いざという時の為にバックアップ取れてて良かったわ」

藤原「余事にならなくて良かったな。サービス残業とかやってられないしな。フレックスで良かったと心から思ったのはこれが初めてだよ」

北島「あぁ、まぁ、うん……」

藤原「それにしても枝村の奴、誤字が多過ぎたんだよな。一から書類作成する羽目になって大変だったからな」

北島「そうだな」

藤原「六児の親としては朝は忙しいから夜にしか働けないしな」

北島「大変だな。お前も」

藤原「あぁ。最近だと学校で俳句やら川柳やらの授業があるらしくて七字の単語を探すのに大変なんだ。俺達の時代みたいに楽にはいかないらしい」

北島「そ、そうか……」

藤原「野次を飛ばすクラスメイトもいるらしいからちゃんと調べないといけないんだと」

北島「お、おう……」

藤原「クジで発表する順番決めるらしいから、もう大喜利大会になってて大変らしい」

北島「そうなんか……」

藤原「今は従事に関する川柳が流行ってるらしいからマジで大変なんだと」

北島「まさかとは思うけど……」

藤原「十一時には寝るようにしてるけど、最近の小学生は勉強が厳しいらしい。本当は八時くらいには寝かせてやりたいんだけどな」

北島「まさか……だよな?」

藤原「例示してる言葉を選ばないといけないらしいから本当、今の小学生は

北島「やっぱり……お前、ワザとだろ?」

藤原「何が?」

北島「レイジからジュウイチまで全部、言いやがって……」

藤原「あ、バレた?」

北島「分かってやってたんか?」

藤原「途中からね」

北島「お前なぁ……少しは危機感を持てよ?」

藤原「だって俺のミスじゃないし」

北島「食い扶持がなくなるところだったんだぞ?」

藤原「その時は失業保険でどうにかするよ」

北島「六人も子供がいるのにそんな悠長な……」

藤原「そのくらい余裕が無いと子供を六人も養えないさ」

北島「お前、四六時中そんなくだらない事、考えてんの?」

藤原「まぁ、寝てる二時間は確実に考えてるな」

北島「寝てる二時間?」

藤原「夢を見ている間は家族以外の事を考えてる」

北島「……あ、もしかして四六時中って四十八時間の事だと思ってる?」

藤原「え?違うの?」

北島「四六?」

藤原「四六?四六……あ、二十四か!」

北島「お前なぁ……ちなみになんだけど、二六時中って言葉知ってる?」

藤原「……あ、あれはニ六、十二だから十二時間って事?」

北島「半分は合ってる。昔は今の二時間を一刻として数えてたから、それが十二刻で一日を表してたんだよ」

藤原「へー。勉強になりました」

北島「ゼロから十二まで全部、言ったな」

藤原「照れる」

北島「別に褒めてない」

藤原「まぁまぁ。そんなカリカリしなさんな。今日はもう飲んで明日はゆっくり休もうぜ?」

北島「そうだな……じゃあ、カンパーイ」

藤原「カンパーイ。いやー、それにしてもマジで大変だったな」

北島「本当にな。一時は大惨事になるところだったな」

藤原「一時なの?三時なの?どっち?」

北島「あー、もう……面倒臭っ」                         ―――終わり

『カツ丼屋』



・登場人物


 北島(強盗)

 藤原(強盗)

 枝村(カツ丼屋店長)

 西岡(カツ丼屋従業員:声のみ)

 高橋(カツ丼屋従業員:声のみ)

 大島(刑事)


・舞台


 カツ丼屋

 取調室





 明転。


 カツ丼屋。舞台上手側カツ丼屋入口。舞台中央から下手側カツ丼屋。カウンター席一つと椅子二つ。

 枝村、板付き。北島、藤原、舞台上手から登場。


藤原「ここか。最近、都内で一番、売れているというカツ丼屋は」

北島「はい。何でも原価、百円で一万円のカツ丼を提供して、一日に最低でも百杯は売るとかで」

藤原「許せんな……まぁ良い。絶好のカモだ。襲うぞ」

北島「はい!(藤原と共にカツ丼屋に入る)」

枝村「らっしゃーい」

北島「強盗だ!金を出せ!」

枝村「何だって?」

北島「強盗だって言ってんだ!金を出せ!」

枝村「それは出来ねぇ相談だな」

北島「何っ!?」

枝村「ウチはなぁ……カツ丼しか出さねぇんだ!」

北島「……はぁ?」

枝村「注文する気が無いなら帰ってくれ!」

北島「何、訳分かんない事言ってんだ!?殺されてぇのか!?」

枝村「この店で死ねるなら本望だ!」

北島「ふざけやがって……!ぶっ殺してやる!」

藤原「まぁ待て」

北島「先輩……?」

藤原「大将。アンタ、カツ丼しか出さねぇと言ったな?」

枝村「あぁ。言ったが?」

藤原「その心意気、嫌いじゃねぇ。注文してやるよ」

北島「先輩!?」

藤原「ここの大将はカツ丼しか出さねぇと言っている。だったら俺達は金を出すしかねぇんだ」

北島「いや、金を盗りに来たんすよね……?」

枝村「良いか?若いの。漢にはなぁ、曲げちゃいけねぇ事が三つある」

北島「曲げちゃいけない事……?」

枝村「一つ、臍。二つ、自分の信念。三つ、カツ丼の衣だ」

北島「……二つ目までは何となく分るけど、三つ目は意味が分からない」

藤原「じゃあこの店のお勧めを頼もう。大将!温蕎麦一つ!」

北島「カツ丼じゃないんかい!?」

枝村「畏まりぃ!」

北島「通るんかい!?」

枝村「西岡さん!温蕎麦、一つ、お願いしまーす!」

北島「アンタが作るんじゃないの!?」

枝村「俺は店長の仕事は指示を出す事だ!」

北島「あ、そう……」

藤原「後輩。お前も注文しろ」

北島「え?何でですか?」

藤原「店に来て何も注文しないと只の迷惑客だろ!」

北島「俺達、強盗ですよね!?」

藤原「今は漢と漢の勝負だ!」

北島「強盗なのか客なのか漢なのかどれかハッキリして下さいよ!?」

枝村「お客さん。後がつっかえてるんだ。注文しないなら帰ってくんな?」

北島「えぇ……?じゃあ、カツ丼一つ」

枝村「畏まりぃ!高橋さん!カツ丼一丁!」

北島「やっぱりアンタは作らないんだな……」

枝村「さっきも言ったが俺の仕事は指示を出す事だ!」

北島「あ、はい……」

西岡「枝村くーん!温蕎麦、上がったよー!?」

高橋「こっちもカツ丼、出来たよー!?」

枝村「あ、すみませーん!(舞台下手に捌ける)」

北島「一体どういう上下関係なんだ……?」

枝村「(温蕎麦を持って舞台下手から登場)はい、お待ちぃ!まず温蕎麦ね!(舞台下手に退場)」

藤原「ありがとう」

枝村「(カツ丼を持って舞台下手から登場)はい、カツ丼お待ちぃ!」

北島「あ、はい。じゃあ……(食べようとする)」

藤原「馬鹿野郎!」

北島「え?え?え?何スか?」

藤原「ちゃんと手を合わせて『頂きます』って言え!学校で習わなかったのか!?」

北島「何でこんな事で怒られなきゃいけなんだ……すんません。頂きます」

枝村「よく味わえよ!?」

北島藤原「(食す)」

藤原「何これ!?うんま!」

北島「吃驚するくらい美味い……一万円の価値があるのが分かる……」

枝村「ありがとよ!」

北島「先輩、俺、間違ってたと思います……」

藤原「あぁ……世の中にこんなに美味い、心の籠った料理を作る店があるなんて……」

北島「先輩。俺、自首します」

藤原「……俺もそれを考えていた。大将。ありがとう」

枝村「良いって事よ。さ、今回は特別に無料にしといてやる。しっかり反省して、次は金を払ってくれよ?」

北島藤原「はい!」


 照明、薄暗く。


 場転。取調室。テーブル一つに椅子二つ。


 明転。


 北島、大島、板付き。


大島「えーっと、じゃあ未遂だったんだな?」

北島「はい……」

大島「んー……まぁ向こうも大事にしたくないらしいし、反省してるなら示談金も無く終わらせて良いって言ってるから、今回は厳重注意って事で」

北島「真に申し訳ありませんでした……!」

大島「まぁ、相手方が許してくれてるから。そんな気にすんな。あ、もうこんな時間か。腹減らねぇか?」

北島「そうですね。もう日付変わりましたもんね」

大島「出前でも取るか。カツ丼は好きか?」

北島「こういう取り調べでマジでカツ丼って出るんですね?」

大島「普通はゴネてる相手に心のホツレを見付ける為なんだけどな」

北島「まぁ、そうですよね」

大島「(スマートフォンを取り出して電話する)あ、もしもし?いつもお世話になってます。大島です。カツ丼三つお願いします。ふぅ。じゃあちょっと待つか」

北島「はい」

枝村「こんばんはー。出前のカツ丼でーす」

大島「どうぞー」

枝村「(舞台下手から登場)こんばんはー。あれ?さっきの?」

北島「あ、大将!?」

枝村「何々?本当に自首したのか?」

北島「はい!」

枝村「そうか、そうか。真面目だな」

北島「真面目だったら強盗なんて考えませんよ」

枝村「ははは。それもそうだな。まぁさっきも喰ったばっかりだが、また喰ってくれ」

北島「はい……あぁ、美味い……」

枝村「それにしてもアンタ等、何で強盗なんてしようと思ったんだい?」

北島「会社をクビにされて、途方に暮れてたんです……」

枝村「そうか……じゃあいっその事、ウチで働かないか?」

北島「えっ!?」

枝村「今度、二号店を出す事になってな。人手が足りねぇんだ。どうだ?やってみないか?」

北島「良いんですか!?俺達なんかが……!?」

枝村「良いも悪いも、これも何かの縁ってやつだよ」

北島「大将……!お世話になります!」

枝村「じゃあアンタの強盗未遂仲間にも聞いてくるから(舞台下手に退場)」

北島「はい!」

大島「良かったな」

北島「はい!これからは全うに生きていきます!」

枝村「(舞台下手から登場)おいおいおい。ちょっと聞いてくれよ?」

北島「どうしたんですか?」

枝村「アンタの連れ、ウチで働かないってよ?」

北島「え?何でですか?」

枝村「『ウチの店に強盗しようとした癖に』って言って給料を減らされるんじゃないかって不安だってよ」

北島「あの人、恩知らずだなぁ……」

枝村「ちなみにさっきいた二人の従業員はムショ帰りで預かってるんだ。ウチ、そういうの拘らない店だから」

北島「あー……怖い人達の下で働けないッスね。俺も止めときます」

枝村「給料、弾むからそこを何とか……」

北島「えー?でも虐められるかもしれないしなー」

枝村「給料、三割増しにしてあげるから!」

北島「えー?でもイビられるかもしれないしなー」

枝村「賄い、無料で良いですから!」

北島「えー?でも住む所すら今無いしなー」

枝村「ウチの二階を好きに使って良いのでどうか!どうか!」

北島「しょうがないな~。じゃあ働いてあげますよ」

枝村「ありがとうございます!じゃあ早速、二階を片付けておくから、明日また来て下さい!」

北島「はーい」

枝村「じゃあ明日から宜しくお願いします!では!(舞台下手に退場)」

北島「じゃあもう帰って良いッスか?」

大島「あ?あぁ、はい。さようなら」

北島「はーい(舞台下手に退場)」

大島「……こうやって店長なのに地位が下がっていってるんだよなぁ……」















―――終わり

『前の車を追ってくれ』



・登場人物


 北島(タクシー運転手)

 藤原(客)



・舞台


 道端(タクシーの中)






 道端タクシー。椅子三つ。

 北島、板付き。


北島「あー、何か面白い事無いかなー」

藤原「(舞台上手から登場し、タクシーをノックする)」

北島「あ、どうぞ?」

藤原「前の車を追ってくれ!」

北島「マジでそういうのあるんだ!分かりました!任せて下さい!出発しますよ!?」

藤原「頼む!」

北島「どの車ですか!?」

藤原「あの赤い車だ!」

北島「分かりました!本当は駄目なんですけどね!こういうの!でも面白そうなので協力しますよ!」

藤原「ありがとう!」

北島「お客さん、探偵さん?それとも刑事さん?」

藤原「いや、フリーターだ」

北島「じゃあ何かお仕事の都合で?」

藤原「いや、私用だ」

北島「何か事情があるんですね?」

藤原「あぁ。大事な事情だ」

北島「これは只の興味なんですが、何故あの車を追ってるんですか?」

藤原「何、簡単な事だ」

北島「何ですか?」

藤原「俺はあの人のストーカーだ」

北島「えっ!?」

藤原「さぁ!前の車を追ってくれ!」

北島「いやぁ~!それはちょっと!」

藤原「何だ!?何か問題があるのか!?」

北島「大ありですよ!」

藤原「何でだ!?」

北島「犯罪の片棒を担がされるのは御免です!」

藤原「追ってくれたら運賃の二倍は出すぞ!?」

北島「…………」

藤原「駄目か!?なら三倍でどうだ!?」

北島「…………」

藤原「四倍!どうだ!?」

北島「……もう一声」

藤原「じゃあ五倍!どうだ!?」

北島「……仕方ないなぁ~!飛ばしますよぉ!?」

藤原「すまんな!」

北島「何であの車の人の事をストーキングしてるんですか?」

藤原「俺、この前まで怪我で入院してたんだ。そこであの看護師さんが俺の事を診てくれて、それで好きになった」

北島「へー。ベタですねぇ」

藤原「悪いか?」

北島「いや。別に。意外と面白みが無いなぁと思って」

藤原「面白くなくて悪かったな」

北島「あ、いや……あ、看護師さん出てきましたよ?」

藤原「え?どこ?」

北島「ほら、あの女性。あのマンションに入っていきましたよ?」

藤原「あぁ、違う、違う。あの男の方」

北島「えぇ!?」

藤原「ほら!車がまた動き出したぞ!?」

北島「あ、そっち……?」

藤原「早く!信号が変わっちまう!」

北島「あぁ、はいはい!」

藤原「しかしあの人に彼女がいたのかぁ……ショック……」

北島「ショックでしょうよ。そりゃあ」

藤原「あの人、妻帯者じゃないって聞いてたんだけどなぁ……」

北島「彼女さんくらいはいるんじゃないですか?」

藤原「何でそんなに冷たいんだ?」

北島「だってゲイセクシャルの恋なんて興味無いし」

藤原「ゲイセクシャル?誰が?」

北島「お客さん」

藤原「あ、アタシ?アタシは女よ?」

北島「えっ!?」

藤原「男だと思ってたの?」

北島「いや、どっからどう見ても男だとばかり……」

藤原「シッツレイしちゃう!偏見よ!?」

北島「すみません!でも声とか完全に男だし……」

藤原「そういう声を出してるからな!」

北島「紛らわしい……」

藤原「何か言った!?」

北島「いいえ。何も」

藤原「あ!あのマンションか!」

北島「あのマンションは……私の住むマンションですね」

藤原「えっ!?凄い偶然!」

北島「あ、あれは枝村だ」

藤原「そう!枝村さん!知ってるのか!?」

北島「えぇ。大学時代からの友人です」

藤原「なら手っ取り早い!枝村さんを紹介してくれ!」

北島「えー?」

藤原「六倍の金を出す!」

北島「どうしようかなー?」

藤原「七倍の金を出す!」

北島「でもアイツは彼女さん一筋だしなー」

藤原「八倍の金を出す!」

北島「結婚まで考えてるらしいしなー」

藤原「九倍の金を出す!」

北島「後、一押しなんだけどなー?」

藤原「十倍の金を出す!」

北島「分かりました!良いでしょう!」

藤原「本当か!?」

北島「アイツに話着けてきます!一週間、時間を下さい!」

藤原「恩に着るよ!」


 暗転。


 明転。


 道端。タクシー。

 北島、板付き。


北島「あの人、枝村とちゃんと結ばれたかなー?」

藤原「(枝村と共に舞台上手から登場)あ、運転手さーん!」

北島「あ、この前のお客さん?それに枝村?」

藤原「運転手さーん!この前はありがとうございましたー!」

北島「結ばれたんですね」

藤原「お陰様で!」

北島「良かったですね」

藤原「はい!あ、枝村さん。私ちょっと私トイレに行ってくるね?(舞台下手に退場)」

枝村「はいよー」

北島「枝村。良かったのか?前の彼女さんと結婚まで考えてたんだろ?」

枝村「元カノは俺の事、遊んでるだけだったらしいから逃げられた」

北島「そうか。大変だったんだな」

枝村「でも今回の彼女は違う。俺と本気で付き合ってくれてるからな」

北島「でもお前をストーキングしてたんだぞ?その事は知ってるのか?」

枝村「あぁ、聞いたよ?」

北島「それでも愛せるのか?」

枝村「ちょっと束縛が強いだけの女性だろ?気にしないよ」

北島「あっそう。見た目とか気になんない?」

枝村「あの人、女性でしょ?」

北島「らしいけど?」

枝村「だったら良いよ。女性なら誰でも良い」

北島「お前、最低なんだか最高なんだか分かんねぇよ」















―――終わり

『お寺のクリスマス』



・登場人物


 康介(息子)

 正将(父)

 美幸(母)



・舞台


 お寺の家



・衣装


 正将・・・住職らしい格好に坊主頭

 康介、美幸・・・クリスマスやパーティらしい格好






 明転。


 お寺の家。卓袱台一つに座布団四つ。卓袱台の上には精進料理と水。背景にはクリスマスパーティーらしい装飾。舞台上手側に鐘と木魚と座布団。

 康介、正将、美幸、板付き。


正将「(木魚や鐘を鳴らしながら)はしれそりよ。かぜのように。ゆきのなかをかるくはやく。わらごえをゆきにまけば、あかるいひかりのはなになるよ。ジングル・ベル、ジングル・ベル。すずがなる。すずのリズムにひかりのわがまう。ジングル・ベル、ジングル・ベル、、すずがなる。もりにはやしにひびきながら……(チーンと鐘を鳴らす)さて、頂きましょうか」

康介美幸「はい」


 沈黙の中、三人は黙々とご飯を食べる。


正将「何でウチのクリスマスはこう、他のご家庭みたいに盛り上がらないのかねぇ?」

美幸「お寺だからじゃない?」

康介「そういう問題じゃないと思う」

正将「と言うと?」

康介「楽器がね……」

正将「楽器?」

康介「鐘と木魚じゃ盛り上がろうとしても盛り上がれないでしょ?」

正将「じゃあどうすれば良い?」

康介「もっとこう……派手な感じにやらないと」

美幸「じゃあもっと大きな声で歌ってもらいましょうか?」

康介「だからそういう問題じゃないって。こんなシンミリと歌われても盛り上がれないでしょって言ってんの」

正将「成程……じゃあちょっと待っておくれ?母さん、ちょっと手伝って下さいな?」

美幸「はい(正将と一緒に舞台上手に退場し、魚版ときんを持って舞台上手から登場)」

正将美幸「よいしょっと」

康介「何それ?」

康介「あぁ、後あれがあれば良いか(舞台上手に退場し、錫杖を持って舞台上手から登場)。よし。(錫杖と木魚を鳴らしながらジングル・ベルを歌う。そして鐘を鳴らして終わる)……どうです?」

康介「まぁ、錫杖によってそれっぽくはなった部分はあるけど……」

正将「あるけど?何です?」

康介「締めが鐘なのがねぇ……」

正将「じゃあちょっと待ってて下さいな。お母さん?」

美幸「はい?」

正将「(美幸に耳打ちをする)」

美幸「はい……はい。分かりました(正将と共に舞台上手に退場し、魚版と鏧を持って舞台上手から登場)」

正将「じゃあお母さん。魚版と鏧を鳴らして下さい」

美幸「はい」

正将「(先程のようにジングル・ベルを歌う)」

美幸「(魚版と鏧を良いタイミングで鳴らす)」

正将「どうです?」

康介「いまいち盛り上がりに欠ける」

正将「じゃあこうしましょう。お母さん(美幸に耳打ちをする)」

美幸「はいはい(舞台上手に退場)」

正将「康介。魚版と鏧を鳴らして下さい」

康介「え?あぁ、はい」

正将「じゃあ行きますよー?(先程のようにジングル・ベル、を歌う)」

康介「(良いタイミングで魚版と鏧を鳴らす)」


 SE、ジングル・ベルが歌い終わるタイミングで大きな鐘の音が鳴る。


美幸「(舞台上手から登場)」

正将美幸「どうです?」

康介「もっとこう……派手にしようよ」

正将「そうですか。じゃあお母さん(美幸に耳打ちする)」

美幸「はいはい(舞台上手に退場)」

正将「じゃあ康介。また魚版と鏧を鳴らして下さい」

康介「あぁ、はい」

正将「行きますよー?(先程のようにジングル・ベルを歌う)」

康介「(良いタイミングで魚版と鏧を鳴らす)」


 SE、大きな鐘の連打。


美幸「(舞台上手から登場)」

正将美幸「どうです?」

康介「……除夜の鐘感が強い」

正将「年越しですしね。丁度良いじゃないですか」

康介「まだ早いよ、父さん……」

正将「じゃあどうすれば良いんです?」

康介「もっとこう……彩とか……?」

正将「彩……あ、じゃあちょっと待ってて下さい?(舞台上手に退場し、仏花を持って舞台上手から登場)。これでどうです?」

康介「仏花じゃあなぁ……」

正将「後は?」

康介「チキンとかケーキがあると良いと思う……」

正将「誰がチキンだ!?」

美幸「この不景気に景気があるだなんてとんでもない!」

康介「何それ?」

正将「チキンと」

美幸「景気ケーキ

康介「そんなこじ付け方があるかね……」

正将「その家なりのクリスマスで良いんじゃないですかね?」

美幸「和風クリスマスって事で」

康介「そんなパスタみたいな……」

美幸「ナポリタンみたいなものでしょ?」

康介「いやー……どうだろう……?」

正将「そもそも仏教徒がキリスト教の祝い事をやる時点でおかしいでしょ?」

康介「確かにそうだけど……」

正将「ハロウィンだってイースターだって今じゃあ只のコスプレパーティみたいになってますし、日本に持ち込まれた時点でもう原型は無いんですよ」

康介「そっかぁ……」

美幸「ささやかながらケーキは買って来てますよ?」

康介「あ、そうなの?じゃあそれ食べようよ」

美幸「ちょっと待っててね(舞台上手に退場)」


 照明、薄暗く。


康介「え?何?」

正将「(先程のようにジングル・ベルを歌う)」

美幸「(線香を刺したクリスマスケーキを持って舞台上手から登場し、舞台上手に退場)」


 SE、正将が歌い終わると同時に大きな鐘の音。

 照明、明るく。


美幸「(舞台上手から登場)」

正将美幸「どうです?」

康介「もうこういう形の忘年会で良いんじゃないかな」





―――終わり

『部下の失敗は上司の責任』



・登場人物


 北島(課長)

 藤原(平社員)

 枝村(部長)



・舞台


 会社のオフィス






枝村「馬鹿野郎!大事なクライアントに失礼な態度を取りやがって!さっさと謝ってこい!」

北島藤原「すみません!」


 明転。


 会社のオフィス。デスク二つに椅子二つ。デスクの上にはノートPC。

 北島、藤原、舞台下手から登場。


藤原「すみません、北島課長……俺、耐震工事のプレゼンで失敗をするなんて……」

北島「何。謙譲語と尊敬語を間違える事なんて俺にだってあったさ。そこまで気にするな」

藤原「でも取引先に怒られちゃったし……」

北島「俺も謝りに行くから心配するな。それにあそことは古い付き合いだし、お前の為にワザと怒ったんだろう」

藤原「そうなんですかね……?」

北島「そうだよ。俺もあの取引先様には怒られた事がある。さっきも言ったが、気にするな」

藤原「でも課長まで怒られちゃったし……」

北島「部下の失敗は上司の責任!気にするなって!」

藤原「そうですか……!じゃあ……!」

北島「じゃあ?」

藤原「次から気を付けろよ?お前、マジで」

北島「は?」

藤原「さーて、菓子折りでも買ってくるかぁ」

北島「ちょっと待て。藤原。今、何て言った?」

藤原「え?何てって?」

北島「今なんて言ったんだよ?」

藤原「さーて、菓子折りでも買ってくるかぁ、ですか?」

北島「その前だよ!」

藤原「次から気を付けろよ?お前、マジで、ですか?」

北島「そう!それ!何でそんな事を言った!?」

藤原「だって上司の責任なんでしょ?部下の失敗って」

北島「確かにそう言ったけども!悪いのはお前なんだからな!?」

藤原「何でですか!?」

北島「何でですかって何でですか!?お前が失敗したんだろ!?」

藤原「その失敗は課長の責任なんですよね!?じゃあ俺、悪くないじゃないですか!」

北島「悪いのはお前だよ!尻拭いをさせられてんだよ!俺は!」

藤原「じゃあ俺が悪いって言いたいんですか!?」

北島「そうだよ!」

藤原「じゃあこの責任は全て俺だって事ですか!?」

北島「立場上、課長である俺の責任だけど!」

藤原「じゃあ課長が悪いんじゃないですか!」

北島「元凶はお前だろ!」

藤原「課長の監督不行き届きでこうなったんでしょう!?」

北島「そう言われると何も言えねぇよ!」

藤原「じゃあこれは課長、一人の責任として処理して下さい!」

北島「お前が行かなかったら意味無いだろ!」

藤原「何でですか!?」

北島「だから何でですかって何でですか!?」

藤原「結論、責任があるのは課長ですよね!?」

北島「責任はな!?」

藤原「じゃあ悪いのは課長、一人じゃないですか!」

北島「いや、いや、いや!悪いのはお前だよ!?」

藤原「だって責任があるって言うのはそういう事ですよね!?」

北島「責任はな!?でも元はと言えばお前が招いた失敗なんだからな!?」

藤原「でも……!」

枝村「うるせー!(舞台下手から登場)」

北島藤原「部長!?」

枝村「さっさと菓子折り買って謝って来いよ!?何でずっと訳分かんない喧嘩してんだ!?」

藤原「でも悪いのは課長だって……」

枝村「部下の失敗は上司の責任!それ以上でもそれ以下でもない!」

藤原「じゃあ部長が行ってきて下さいよ!?」

北島「はっ!?」

藤原「部下の責任は上司の責任という事は、俺の責任は課長の責任。つまり課長の失敗という事ですよね?って事は課長の責任は部長の責任。更に言えば最終的に一番の責任は社長か会長になりますよね!?」

北島「何を言ってんだ!?お前!」

枝村「一理ある」

北島「部長!?」

枝村「ちょっと社長と会長に直談判してくる!(舞台下手に退場)」

北島「部長ー!?」

藤原「これで丸く収まりますね!」

北島「絶対やり過ぎって言われるぞ!?」

藤原「大丈夫ですって!じゃあお菓子折りを買いに行きましょう!?」

北島「大丈夫かな……?」

枝村「(舞台下手から登場)二人共ー?」

北島「あ、部長?どうでした?」

枝村「怒られちゃったよ」

北島「でしょうね」

枝村「何でそんな大事な事を言わなかったんだって」

北島「あ、そっちの方向で!?」

枝村「これから社員全員で菓子折り持って謝りに行くぞ!」

北島「やり過ぎの域を越してます!止めましょう!?」

枝村「確かに……もしもの時の為に辞表を書いておこう」

北島「そっちの『辞める』じゃありませんよ!?決行を止めましょうって言ってるんですよ!?」

枝村「決行は決まった!行くぞ!?」

藤原「おー!」

藤原枝村「うおー!(舞台上手に退場)」


 音声「うおー!」という大勢の人間の声。


北島「ちょっとー!?皆ー!?(舞台上手に退場)」


 暗転。


 明転。


 会社のオフィス。

 北島、藤原、枝村、板付き。


枝村「怒られちゃったよ」

北島「怒られましたね」

枝村「まさか取引先のフロアに穴が空くとはな……」

北島「耐震設計が悪い会社だったので、丁度ウチの会社に頼むと言ってくれたのが救いですね」

藤原「結果オーライですね!」

北島「結果だけな!」












―――終わり

『勧誘』



・登場人物


 北島

 小川



・舞台


 玄関






 明転。


 玄関。舞台中央、扉とインターホン。

 小川、舞台上手から登場。インターホンを鳴らす。

 SE、インターホンの音。

 北島、舞台下手から登場。


北島「はいはーい。どちら様?」

小川「貴方は神を信じますか?」

北島「あぁ、宗教勧誘ですか?俺は仏教なんで」

小川「最後まで話を聞いて下さい」

北島「何ですか?」

小川「貴方は神を信じますか?」

北島「いいえ」

小川「奇遇ですね。私もです」

北島「……え?」

小川「私も神を信じていません」

北島「あ、そう、ですか……」

小川「はい」


 沈黙。


北島「え?で?」

小川「終わりです」

北島「は、はぁ……?じゃあ、帰ってもらえますか?」

小川「いえ。ちょっとこれを……(バインダーを出す)」

北島「え?終わりでは?」

小川「アンケートです」

北島「あ、そうなんですね?今、忙しいんで」

小川「ご協力して頂けたら一万円お渡ししますが?」

北島「……しょうがないなぁ。十分くらいなら良いですよ?」

小川「ありがとうございます」

北島「で?何てアンケートですか?」

小川「宗教勧誘に関するアンケートです」

北島「また特定過ぎるアンケートですね?」

小川「まぁ仕事なんで」

北島「で?何ですか?」

小川「貴方は神を信じますか?」

北島「いいえ」

小川「『いいえ』と答えた方にお聞きします。仏は信じますか?」

北島「はい」

小川「『はい』と答えた方にお聞きします。お正月はお寺に行かれますか?」

北島「いいえ。近所の神社です」

小川「では神を信じているのでは?」

北島「いや、近所にお寺さんが無いので適当にそこに行ってるだけです」

小川「そうですか。ありがとうございました(舞台上手に去ろうとする)」

北島「ちょっと、ちょっと?一万円は?」

小川「貴方は仏を信じるんでしょう?人を信じちゃあいけませんよ(舞台上手に退場)」

北島「……神も仏もいねぇな」






















―――終わり

『アブストラクトゲーム』


・登場人物


 北島(実況)

 藤原プロ

 枝村オセロ

 西岡チェス

 高橋(将棋)

 大島(囲碁)



・舞台


 アブストラクトゲーム総合会場






 明転。


 アブストラクトゲーム総合会場。テーブル四つに椅子四つ。

 北島、藤原、枝村、西岡、高橋、大島、板付き。


北島「さぁ始まりました!オセロ、チェス、将棋、囲碁の四つのアブストラクトゲームプロ、藤原正将さんの公開収録です!同時に四種類のアブストラクトゲームを藤原さんがそれぞれのプロと対戦して頂きます!藤原さん!今日は宜しくお願いします!」

藤原「宜しくお願いします」

北島「それではチャレンジャーの紹介です!オセロ、枝村拓五段!」

枝村「宜しくお願いします」

北島「チェス、西岡聖弘三段!」

西岡「宜しくお願いします」

北島「将棋、高橋和志四段!」

高橋「宜しくお願いします」

北島「囲碁。大島健九段!」

大島「宜しくお願いします」

北島「藤原さんは圧倒的威圧感で相手を倒していく事で有名です!通称『盤面叩きの藤原』!しかし公式戦では何故か出場を許されていません!しかも、一度、戦った相手からは『二度と戦いたくない』と言わせる程に圧倒的勝利を持ってくると言います!しかし!今、ここで!遂にそのベールを脱ぎます!藤原さん、どうでしょうか!?」

藤原「絶対に勝ちます」

北島「分かりました!全員に勝てば賞金、百万円!それでは対戦開始です!」


 SE、銅鑼の音。

 枝村、西岡、高橋、大島、パチパチと打っていく。藤原、一目見て次々と力強く駒や石を叩き付ける。


北島「えっ!?」


 枝村、西岡、高橋、大島、ビビりながらまたパチパチと打っていく。藤原、また力強く打っていく。


北島「ちょちょちょ!藤原さん!?」

藤原「何ですか?」

北島「勢いがあり過ぎです!盤が壊れちゃいますよ!?」

藤原「通常運転なのですが?」

北島「通常運転……?あの、威圧感ってまさか……?」

藤原「盤面叩きの藤原とはこの事です」

北島「……あ、マジで叩いてるんですか!?」

藤原「そうです」

北島「そう、なんですか……あの、もう少し優しくやって頂く事は……?」

藤原「無理です」

北島「えぇ……?」

藤原「持ち時間が無くなっちゃうんで続けても良いですか?」

北島「え、あぁ、はい……」


 枝村、西岡、高橋、大島、ビビりながらまたパチパチと打っていく。藤原、また力強く打っていく。


藤原「チェックメイトぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

西岡「……参りました」

藤原「王手ぇえええええええええええええええええええええええ!」

高橋「……参りました」

藤原「全部、白ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

枝村「……参りました」

藤原「次はありますかぁあああああああああああああああああ!?」

大島「……ありません。参りました」

藤原「よっしゃぁあああああああああああああああああああああ!」

北島「あの、藤原さん……?」

藤原「ふぅうううううううううううううううううううううううう!」

北島「もう少し、お静かに……」

藤原「百万だぁああああああああああああああああああああああ!」

北島「あの、司会を……」

藤原「パチンコ行くぞぉオおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

北島「あの、本当に……」

藤原「競馬にするかぁああああああああああああああああああ!?それとも競輪んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!?いや、オートレースぅうううううううううううううううううう!?それか競艇かぁあああああああああああああああああああああ!?」

北島「あの、ちょっと、少しはこっちの話を……」

藤原「いっそラスベガスでカジノだぁああああああああああああ!」

北島「藤原さん……!」

藤原「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

北島「五月蠅ぇー!」

藤原「…………」

北島「うおっ!?いきなり静かにならないで下さいよ!?」

藤原「だって五月蠅いって言うから……」

北島「確かに言いましたけれども!何ですか!?情緒が不安定なんですか!?」

藤原「病院からこう診断されています(懐から診断書を取り出す)」

北島「……あ、心の病にお罹りになっていらっしゃる!?」

藤原「そうです」

北島「あ、そうですか……あの、公式戦に出ていらっしゃらなかったのはもしかして……?」

藤原「五月蠅いからです」

北島「じゃあ静かに打てば良いじゃないですか」

藤原「どうしても自分を抑えられないんです」

北島「中二病かな?」

藤原「診断書にそう書いてあるでしょう?」

北島「あ、本当だ。じゃ、じゃあ、まぁ、勝ち切ったって事で百万円、贈呈します」

藤原「やったぁああああああああああああああああああああああ!ふぅううううううううううううううううううううううううううう!」

北島「次回は麻雀対決!藤原正将さんでお届けします!」

藤原「次も勝つぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

北島「次回までに静かに打てるよう訓練してきて下さいね!?」

藤原「分かりましたぁあああああああああああああああああああ!」

北島「これは放送出来ないかもしれません!それではまた来週~!」

藤原「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
























―――終わり


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