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コント集  作者: 河野吉田
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32/37

コント集32

コント集32



311・・・・〇〇美味い

312・・・・お願い

323・・・駅から〇〇分

324・・・食べ尽くし

315・・・あやふや

316・・・間違い

317・・・かけっこ

318・・・背伸びの運動

319・・・脅し

320・・・〇美



『〇〇美味い』



・登場人物


 北島

 藤原



・舞台


 北島宅






明転。


 北島宅。卓袱台一つに座布団二つ。

 藤原、板付き。北島、料理を以って舞台下手から登場。


北島「お待たせ~」

藤原「待ってました」

北島「俺の創作料理に付き合ってくれてありがとな」

藤原「いつも週末の楽しみにしております」

北島「サンキューな。じゃあこれ食べてみてくれ」

藤原「何これ?」

北島「海老と茸のカボスソース和風クリームスパゲッティ」

藤原「じゃあ頂きまーす」

北島「召し上がれー」

藤原「……うん、うん!美味い!」

北島「マジ?どう美味い?」

藤原「馬鹿美味い!」

北島「馬鹿美味いって、具体的にどう美味いの?」

藤原「馬鹿が入ってても美味い!」

北島「もっと良い例えを出してくれ」

藤原「糞美味い!」

北島「糞が入ってても美味いって事?」

藤原「そう!」

北島「糞は嫌だなぁ」

藤原「じゃあ、ゲロ美味い!」

北島「ゲロが入ってても美味いって事?」

藤原「そう!」

北島「ゲロはもっと嫌だなぁ……」

藤原「えー?じゃあ、絶望的に美味い!」

北島「絶望されたくないなぁ……」

藤原「あー……じゃあ、死ぬ程、美味い!」

北島「死んでほしくないんだけど……」

藤原「まぁそれくらい美味いって事だよ。うぅっ……!(倒れる)」

北島「藤原!?藤原!?どうした!?」

藤原「言ったろ……?死ぬ程、美味い、って……!うっ……!」

北島「藤原ー!」


 暗転。


 明転。


北島「で?実際のところ、どれくらい美味かった?」

藤原「海老の風味が効いていて、茸の香りも良く、クリームが和風に味付けされていて、とても濃厚でありながら、さっぱりしたカボスの清涼感で、見事にマッチしていて、とても美味でありました」

北島「最初からそう言え」

―――終わり

『お願い』



・登場人物


 北島

 藤原



・舞台


喫茶店






 明転。


 喫茶店。テーブル一つに椅子二つ。テーブルには珈琲二つ。

 北島、藤原、板付き。


北島「何だよ?急に呼び出したりして」

藤原「あのさぁ、申し訳ないんだけど、この一ヶ月分の大学のノート写させてくれない?」

北島「何か最近、見掛けないなと思ってたけど、何してたの?」

藤原「ちょっとネットゲームにハマっちゃって……」

北島「引き籠りか。ちゃんと講義に出ろよな」

藤原「今となっては後悔してる」

北島「真面目な理由ならともかく、遊んでて講義出なかったは通用しないだろ?」

藤原「頼むよ~!この通り!」

北島「嫌だね。留年しな」

藤原「本当この通り!」

北島「嫌だ」

藤原「マジでこの通り!普通のお願い!」

北島「そこは一生のお願いにしろよ」

藤原「ここで一生のお願いは使えないよ~」

北島「お前、マジで反省してるのか?」

藤原「してる、してる!もうあのゲームはアカウントも消したし、アプリも消した!だからもうこんなミスはしない!」

北島「……ったく、しょうがねぇなぁ。ほらよ」

藤原「ありがとう!」

北島「ってか試験、来週からだろ?どうにかなるのか?」

藤原「一夜漬けは得意だから大丈夫」

北島「あっそ。それでこの一ヶ月分のノートを覚えきれるとは思えんがな」

藤原「大丈夫、大丈夫。俺、一度、見たら忘れないから」

北島「その能力を別の事で活かせよ」

藤原「それもそうだな」

北島「で?話は終わり?」

藤原「あ、それとね、彼女の事なんだけど……」

北島「あぁ、小川さん?彼女がどうした?」

藤原「二股がバレそうなんだ。アリバイ作りに協力してくれないか?」

北島「それは嫌だな。自分で何とかしろ」

藤原「ちょっとだけで良いんだよ!その日、一緒にいたって言ってくれれば良いからさ!」

北島「小川さんってあの小川財閥のご令嬢だろ?就職先も、結婚も決まってるのに、よくまぁ浮気なんて出来たな?」

藤原「いや、もう浮気相手とは別れるから!その話を明日してくるから、そのアリバイだけでも良いんだ!頼む!」

北島「いくら友達でもそれは気が引ける」

藤原「お願い!」

北島「小川さんに悪いよ」

藤原「本当にお願い!」

北島「俺にとばっちり来るかもしれないじゃないか。嫌だよ」

藤原「普通のお願い!」

北島「だから一生のお願いにしろよ」

藤原「まだここで使う訳にはいかない!」

北島「じゃあ就職、お前の所の会社、小川さんの所に置いてくれるように頼んでくれたら考えてやるよ」

藤原「お安い御用です!」

北島「言ったな?言質、取ったからな?」

藤原「美幸にはちゃんと言っておく!」

北島「今ここで言え」

藤原「分かった!(スマートフォンを取り出す)あ、もしもし?美幸?ちょっと良い?うん、うん……あぁ、その事なんだけど、北島と一緒に居たんだって。今、代わるから。はい」

北島「もしもし?小川さん?北島です。うん、あの日ね?あの日は確かに俺と一緒に居たよ。レシートあるから今度、見せるよ。うん。うん。はーい。じゃあ藤原に代わりますね。はい」

藤原「もしもし?美幸?そういう事だから。分かってくれたなら良いんだ。こっちこそ疑わしい事してごめん。で、お願いがあるんだけど……あ、うん。そう。北島の事。アイツをそっちで雇ってくれないかな?力がどれくらいあるかは美幸にも分かるだろ?うん、うん……そこを何とか!お願い!普通のお願い!」

北島「だから一生のお願いにしろよ……」

藤原「うん、うん……あ、そう?分かった!ありがとう!じゃあまた明日ね!はーい!大好きだよ!ふぅ……」

北島「どうだって?」

藤原「いきなり本店は無理だけど、地方で勤務してもらって、実力が認められたら本店で働けるって!」

北島「あぁ、そう。ありがとな」

藤原「いや、お前の協力があってこそだったから!」

北島「そうかい。で?話は終わり?」

藤原「うん」

北島「じゃあそろそろ会計するか」

藤原「そうだな……あっ!?」

北島「どうした?」

藤原「財布、家に忘れた……」

北島「はぁ?お前、ワザとじゃねぇだろうな?」

藤原「違う、違う!本当に忘れたんだって!明日、絶対に払うからここは立て替えてくれ!」

北島「えー……?この後、俺、買い物しようと思ってたんだけど……」

藤原「緊急の買い物?」

北島「いや、晩飯の買い出し」

藤原「じゃあ今日のところは俺がどこかの飯屋で奢るから!それで何とか!」

北島「一旦、家に帰るって事?」

藤原「そう!」

北島「でもお前ん家、遠いじゃん」

藤原「すぐ帰ってすぐお前ん家、行くから!」

北島「でもなぁ……」

藤原「お願い!普通のお願い!」

北島「だから一生のお願いにしろよ!」

藤原「まだ使えないよ~」

北島「全く、お前って奴は!分ぁったよ!ここは奢ってやるよ!」

藤原「ありがとう!恩に着るよ!」

北島「そう思うなら一生のお願いをしろよな……」

藤原「(くしゃみをし、鼻を手で隠す)」

北島「大丈夫か?」

藤原「大丈夫じゃない……」

北島「鼻血?」

藤原「いや、鼻水……」

北島「ペーパーは……無いな」

藤原「ティッシュある?」

北島「あるよ?」

藤原「このままじゃ人間の尊厳を失っちゃう」

北島「そこまでか?」

藤原「ティッシュ貸して?一生のお願い!」

北島「ここで使うなよ!」














―――終わり

『駅から〇〇分』



・登場人物


 北島

 藤原



・舞台


 不動産屋






 明転。


 不動産屋。カウンター一つに椅子二つ。カウンターにはノートPC。

 藤原、板付き。北島、舞台上手から登場。


北島「あのー」

藤原「はい。いらっしゃいませ」

北島「アパートを探してるんですけど」

藤原「そうですか。どうぞこちらにお掛け下さい」

北島「失礼します」

藤原「どういった物件をご要望ですか?」

北島「そうですねー、家賃八万以下で、そこまで広くなくて良いので、駅から近い所が良いですね」

藤原「畏まりました。それでは……こちらなんか如何でしょうか?家賃七万円、1LDK、駅から競歩で十分です」

北島「……ん?」

藤原「内見に行きますか?」

北島「ちょっと待って?競歩で十分なの?」

藤原「はい。競歩です」

北島「何でそんなややこしい事を……?」

藤原「あ、別の表現に変えますか?」

北島「お願いします」

藤原「えーっと、走って五分です」

北島「そうじゃなくて……」

藤原「スキップで七分です」

北島「だから……」

藤原「匍匐前進で四十五分です」

北島「歩いて何分かって聞いてんだよ!」

藤原「ですから競歩で十分だと……」

北島「もっとゆっくり歩けよ!」

藤原「あ、ムーンウォークで三十分です!」

北島「だから普通に歩けって!普通に歩いて何分だよ!?」

藤原「それはですね……書いてないです」

北島「はぁ!?何で書いてないの!?」

藤原「当社の規定、としか言いようがないですね」

北島「どういう規定だよ……?じゃあまぁ競歩で十分だっけ?普通に歩いて二十分くらい?」

藤原「いえ、世界記録を基準にしてますので……おそらく三十分以上は掛かるかと」

北島「駅から近い所が良いって言ってんの。無いの?」

藤原「えーっと……家賃が少し高くなりますが、駅から競歩で二分の所にあります」

北島「えーっと?じゃあ普通に歩いて十分弱くらい?」

藤原「おそらくそうですね」

北島「家賃はいくら?」

藤原「十~十五万円くらいですね」

北島「十万か……まぁ仕方ないな」

藤原「いえ、十円から十五万円ですね」

北島「は?」

藤原「ですから、十円からですね」

北島「じゅ、十円……?事故物件か何か?」

藤原「まぁ、有体に言えば」

北島「敷金と礼金は?」

藤原「それ込みですね」

北島「えぇ……?人、死んでるんですか……?」

藤原「住んだ人は百歳になったら必ず死にますね」

北島「普通の事じゃないか」

藤原「でも百歳ピッタリで死ぬんですよ?」

北島「逆に言えば百歳までは確実に生きられるんでしょ?」

藤原「……その発想は無かったです!」

北島「馬鹿かな?」

藤原「じゃあそこにします?」

北島「何か心霊現象とかあるんですか?」

藤原「『生きろ~!生きろ~!』って声が夜な夜な聞こえてくるみたいです」

北島「良い霊だな……」

藤原「死にたくても死ねないのも一つの地獄と言われています」

北島「それはそれで嫌だな……」

藤原「でも病気とか怪我とかは起こらないらしいですよ?」

北島「じゃあ何でそんなに安いんですか?」

藤原「『生きろ~!』って声が終始、聞こえてきて五月蠅いから夜、眠れないらしいです」

北島「寝不足になるって事ですか?」

藤原「それが不思議な事に、先程も申し上げたように、怪我にも病気にもならず暮らせるようです」

北島「ショートスリーパーになるって事ですか?」

藤原「そのようです」

北島「願ったり叶ったりじゃないですか」

藤原「その分、仕事を家でも任されたりして大変な目に遭うらしいですよ?」

北島「あー……そういう曰く付きなんですねぇ……」

藤原「どうされます?」

北島「ちなみに十五万円の家ってどんなのですか?」

藤原「築三百年のボロ屋です」

北島「それはそれで歴史的価値があるんじゃ……?」

藤原「……その発想は無かったです!」

北島「馬鹿かな?」

藤原「どうされます?」

北島「中間は無いんですか?中間は」

藤原「それですとー……五万円のアパートがあります」

北島「広さは?」

藤原「3LDKです」

北島「環境は?」

藤原「風呂トイレ別、エアコン、洗濯機、完備です」

北島「おぉ、良いじゃないですか。」

藤原「ただ一つ欠点がございまして……」

北島「何です?」

藤原「右隣はギター、左隣はキーボード、上はドラマーで防音対策がありません」

北島「絶対に五月蠅いじゃないですか……」

藤原「そうなんです……」

北島「他は無いんですか?」

藤原「八万円のマンションがございます」

北島「広さは?」

藤原「3LDKです」

北島「環境は?」

藤原「風呂トイレ別、ベッド、テレビ、エアコン、洗濯機、完備、防音、最上階の十五階です」

北島「おぉ、良いじゃないですか。あ、でも何か問題がありますか?」

藤原「ありますね……」

北島「また心霊現象が出るとか、競歩で十五分とか?」

藤原「いえ、エレベーターが無いんです」

北島「は?」

藤原「エレベーターが無いので階段で上がるしか無いんです」

北島「死んじゃう……」

藤原「足腰は鍛えられます」

北島「その前に膝と腰が限界が来そうですね」

藤原「後はー……あ、丁度お客様のご要望の八万円で、広い物件がございます」

北島「どんな感じですか?」

藤原「駅から競歩で五分です」

北島「じゃあ普通に歩いたら二十分掛かるか掛からないかって感じか……」

藤原「そうですね」

北島「広さは?」

藤原「100LDKです」

北島「百個も部屋、要りませんよ!」

藤原「キッチンが百個あります!」

北島「お料理教室じゃないんですから!普通の広さで普通の値段で普通の距離の物件は無いんですか!?」

藤原「皇室宮内庁布巾でそんな警備の少ない土地がある訳無いでしょう!?」

北島「それもそうか!ごめんなさい!別の所にします!」



















―――終わり

『食べ尽くし』



・登場人物


 北島

 松本デブ



・舞台


 高級料理店






 明転。


 高級料理店。テーブル一つに座布団二つ。テーブルには料理が並べられている。

 北島、松本、板付き。松本、料理をガッツイている。


北島「おい、松本。そんなに焦って喰うなよ」

松本「あ、これは、すみません!」

北島「いつも思うけど、お前、いつも食べ尽くすよな」

松本「えぇ、まぁ……」

北島「残しても良いんだぞ?別に金に困ってる訳でもないんだし」

松本「残したら、この店に申し訳ないのと同時に、北島様の名誉に傷が付いてしまします」

北島「そこまで尽くさなくて良いよ」

松本「いえ、我が松本家は代々、貴方様方、北島家に遣えてきました。その忠誠心を示す為に食べているのです」

北島「食べる事が忠誠心?どういう事?」

松本「食べて尽くす。食べ尽くしとはそういう事では?」

北島「全然、違うからね?見境無く食べ物を全部、食べてしまうのが食べ尽くしだからね?」

松本「そうなんですか?てっきり尽くす事の一つだと思ってました」

北島「どうしてそうなる?」

松本「家訓で『出された物は全部食べろ』と言われてきたので」

北島「あぁ、それで……お前の体調の事もあるし、もうそんな腹いっぱい食べなくて良いぞ?」

松本「普通にお腹減ってるんですけど……?」

北島「そうなの?少しダイエットしたら?」

松本「明日からそうします」

北島「そうしろ」

松本「(再び食べ始める)」

北島「お、おい。もう食べなくて良いんだぞ……?」

松本「ですから、お腹、空いてるんです」

北島「そう言って明日もダイエットしないんだろ?」

松本「そんな訳…………無いじゃないですか……」

北島「その間は何だ?その間は」

松本「いえ、何も?」

北島「そういえばこの前の健康診断はどうだった?」

松本「あー……忘れました」

北島「俺のタブレットにあったな。どれ……」

松本「あー!北島様!この活け造りとっても美味しいですよ!」

北島「話を逸らすな。えーっと、何々……?痛風と糖尿病と、狭心症、腎臓病、睡眠時無呼吸症候群、非アルコール性脂肪性肝疾患と、脳梗塞、心筋梗塞の疑い、膝、股関節、背骨、手指等の関節の障害の疑い、か……死ぬやんけ、お前」

松本「あー……えーっと……う、疑いですよね!?疑い!」

北島「痛風、糖尿病、狭心症、腎臓病、睡眠時無呼吸症候群、非アルコール性脂肪性疾患は確定じゃねぇか」

松本「あぁ、その……」

北島「松本家が短命なのは大食いが原因だったのか……」

松本「……はい」

北島「今からでも遅くは無い。ダイエットしろ」

松本「……はい」

北島「これから一年間、休暇をやるからダイエットに励め」

松本「そんなに長い間ですか……!?」

北島「何、仕事の一環だと思ってくれれば良い。給料は出すし、ダイエット費用もこっちで何とかするから」

松本「……申し訳ありせん!」

北島「良いんだ。我が一族が悪いんだから」

松本「ありがとうございます……!」

北島「じゃあ明日から会社に来ず、体調第一で過ごしてくれ」

松本「はい!」


 暗転。


 明転。


 高級料理店。テーブル一つに座布団二つ。

 北島、板付き。


北島「あれから一年かー。松本の奴、ちゃんとダイエットしたかなー?」

松本「失礼します」

北島「はいよー」

松本「(舞台上手から登場)お久し振りです。北島様」

北島「おまっ……!?全然、変わってないじゃないか!?」

松本「健康診断の結果はご覧になりましたか?」

北島「あぁ、そういえば見てなかった……えっ!?オールA!?」

松本「健康体になりました!」

北島「で、でも全然、見た目が変わってないじゃないか……?」

松本「健康的なデブになりました!」

北島「え、あ、え?じゃあそれって脂肪じゃないの……?」

松本「筋肉です!」

北島「もう相撲取りになったら?」

松本「いいえ!もう年齢的に無理です!」

北島「あっそう……で、今はどうしてるの?」

松本「筋肉を着ける為に食べ続けてます!」

北島「食べるには食べるんかい」












―――終わり

『あやふや』



・登場人物


 北島

 藤原



・舞台


ファミレス






 明転。


 ファミレス。テーブル一つに椅子二つ。

 北島、藤原、板付き。


北島「さっきの映画、面白かったよな~!?」

藤原「分かる!めっちゃ良かった!」

北島「でも後半しか覚えてないや。クライマックスのところは痺れたな~!」

藤原「分かる!俺も序盤はあやふやなんだけど、確か各国のヒーローが集まって、巨大な宇宙からの敵に立ち向かうんだけど、最初に全員、倒されちゃうんだよな?そして宇宙船に連れていかれて改造手術を受けるんだけど、隠し武器でそれを突っ撥ねて脱出するところから始まったんだよな!」

北島「あぁ、そうだったなぁ~!」

藤原「後うろ覚えなんだけど、その後、宇宙人の精神世界に連れていかれて、そこで地球人が電脳ネットワークを駆使して地球の軍人達が戦いに向かうんだよな!」

北島「あぁ、うん、そうだったな!」

藤原「後、これはうろ覚えなんだけど、確かその後に現実世界でも侵攻が来て、各国の軍隊や自衛隊が対処して、迎撃して、その後に宇宙船が突っ込んでくるんだよな!」

北島「あぁ、そうだったな……」

藤原「何て言ったら良いのかなぁ~!?何と言うか、もう言葉に出来ないくらい面白かった!」

北島「本当!それな!」

藤原「まずCGが最新の技術で実写かと思えるくらいにリアルで、4Dだったってのもあるけど臨場感もあって、ワクワクした気持ちが出ると同時に、本当に勝てるのか!?って不安もあった!」

北島「あぁ、まぁ、うん……」

藤原「どう表現したら良いのか分からないんだけど、何て言うか……もう少し展開が裏切りがあればもっと面白かったけど、でも逆にアッサリしてる方が原作を読んでない人からするとそれくらいで十分過ぎるくらいに面白い、お勧め出来る作品だと思う!原作を読んでないお前からしてどうだった!?」

北島「あぁ、うん……面白かったよ……?」

藤原「原作を無視しているかと言うと、そこまで外してないけど、そこを深掘りしないの~!?みたいなツッコミ所もあった!でもあの原作を二時間の映画に収めるとなるとそこは仕方ないよね~!みたいな感じ!」

北島「あぁ……はい……」

藤原「ん?どうした?」

北島「いや、嫌に具体的だなって」

藤原「具体的とは?」

北島「あやふやだ~とか、うろ覚えなんだけど~、って言う割には全部ハッキリ覚えてるなと思って」

藤原「原作を知ってるんだから当たり前だろ?」

北島「何回、読んだ?その原作」

藤原「一回だけど?」

北島「一回だけでよくそんなに覚えてられるね?」

藤原「俺、記憶力、良いからね~」

北島「凄いな……それで何か世間に役立てる事あるんじゃない?」

藤原「無いよ?だって興味ある事しか覚えられないし」

北島「勿体無いなぁ」

藤原「逆に聞くけど、お前はどこを覚えてるんだ?」

北島「え?えー……最後の宇宙人をサイバーと現実の両方から一気に倒す瞬間?かな?」

藤原「それ以外、覚えてないの?」

北島「あー、まぁ、うん……面白かったって記憶はあるんだけど、最後以外、殆ど覚えてない……」

藤原「本当に面白かったと言えるのか?それって」

北島「いや、面白かったよ?」

藤原「本当に?」

北島「うん、面白かった……」

藤原「嘘、吐いてない?」

北島「……いや、今、思い出したら、最後以外、全然、面白くなかった!」

藤原「だろ?」

北島「そもそもキャラクターの設定や世界観が原作を読んでないと分からないものばかりで、勢いだけで観てた!」

藤原「だろ?だろ?」

北島「自分を誤魔化してた!面白い所を見付けようと躍起になってた!あれ、全然、面白くなかった!」

藤原「そうだよな?そうだよな!?」

北島「今度、原作、貸してくれ!」

藤原「良いよ。二十巻以上あるけど大丈夫か?」

北島「休日の二日もあれば全部、読めるだろ!?貸してくれ!」

藤原「はいよー」

北島「あー!何かイライラしてきた!何か別の映画を観て気分を晴らそう!」

藤原「今、『未来へ帰ろうPart.1』やってるよ?」

北島「その昔、話題になったやつか!よし!それを観て落ち着こう!」

藤原「口直しならぬ、目直し、耳直しってやつだな!」

北島「行くぞ!!」

藤原「おう!(意気揚々と舞台上手に北島と退場)」

北島藤原「つまんねー!」
























―――終わり

『間違い』



・登場人物


 北島

 藤原



・舞台


 北島宅






 明転。


 北島宅。卓袱台一つに座布団二つ。

 北島、藤原、板付き。


北島「あ、お前、白髪、生えてんぞ?」

藤原「え?マジ?どこ?」

北島「(鏡を取り出す)ここ」

藤原「あ、本当だー」

北島「若白髪ってやつだな」

藤原「若いっつってももう三十代だぞ?もういっその事、白髪染めしようかなー?」

北島「まだ二、三本だろ?そこまでする必要無いと思うぞ?」

藤原「いや、今の内に全部、白くしちゃえば将来、気にならなくなると思うんだ」

北島「……ん?」

藤原「あ、寧ろ逆に薄毛治療しようかな?そうすれば髪の毛を気にせずにいられるし、常にスキンヘッドでいられるし」

北島「んん?」

藤原「でもどうしようかな……会社にいきなり白髪で行ったりスキンヘッドで行ったりしたら皆、俺だって気付かないかもしれないな。頭痛薬を飲んで病院に行った事にして、その治療の副作用としてそうなったって言うか?」

北島「ちょっと待って?お前、白髪染めってどういうものだと思ってる?」

藤原「え?髪の毛を全部、白髪にする事じゃないの?」

北島「違うぞ?白髪を無くすために染める事だぞ?黒とか茶色とかに」

藤原「あ、そうなの?」

北島「薄毛治療は何だと思ってた?」

藤原「薄毛にする治療」

北島「逆だよ。薄毛を治す治療だよ」

藤原「あ、そうなの?」

北島「頭痛薬は何だと思ってたの?」

藤原「頭痛を発症させる薬」

北島「全く違うぞ?頭痛を抑える薬だよ」

藤原「あ、そうなの?間違えてた」

北島「虫歯治療はそれを治す為の手術だろ?」

藤原「え?虫歯治療って虫歯になる為の手術じゃないの?」

北島「そんな訳あるか」

藤原「あれは?癌手術。あれは癌になる為の手術だろ?」

北島「何?そのディストピア。癌を治す為の手術だよ」

藤原「風邪薬は風邪になる為の薬だよな?」

北島「風邪を治す為の薬だよ」

藤原「介護職は?介護されるのが仕事だよな?」

北島「介護を必要とする人を助ける仕事だよ」

藤原「建築作業は?建築する為の作業だよな?」

北島「それは……合ってる」

藤原「あぁ、良かった……」

北島「全然、良くない。お前、間違え過ぎ」

藤原「じゃあ今まで仮病の為に飲んでた風邪薬って……?」

北島「プラシーボ効果だな」

藤原「マジか……」

北島「よくそれで今まで生きてこれたな?」

藤原「何とかなってきたんだけどなぁ……」

北島「他に何か間違えてる事は無いか?」

藤原「うーん……整形手術は整形する為の手術だよな?」

北島「うん。合ってる」

藤原「視力検査は視力を検査する為のものだよな?」

北島「そう」

藤原「筋力トレーニングは筋力を上げる為のトレーニングだよな?」

北島「何でそういうのだけ分かってるんだよ?」

藤原「何でかなぁ……?」

北島「普通に考えてれば分かるだろ?」

藤原「普通のつもりだったんだけど?」

北島「全然、普通じゃない」

藤原「そっかぁ……」

北島「一回、調べて来い。自分が思ってた事を」

藤原「分かった」


 暗転。


 明転。


 北島宅。

 北島、藤原、板付き。


北島「どうだった?お前の間違い探しは」

藤原「殆ど間違ってた」

北島「一番の間違いは何だった?」

藤原「包茎手術」

北島「何だと思ってた?」

藤原「包茎になる為の手術」

北島「包茎の人を亀頭を出す為にする手術だよ」

藤原「そうだった」

北島「他は?」

藤原「土木作業」

北島「何だと思ってた?」

藤原「土や木になる為の作業だと思ってた」

北島「土木葬かな?」

藤原「ずっとそうだと思ってた」

北島「もう解決はした?」

藤原「多分」

北島「じゃあ良いか。飯は食った?」

藤原「あぁ、ちょっと今ダイエット中で食事は控えてる」

北島「何で?スリムなのに」

藤原「ちょっと食中毒でな」

北島「は?」

藤原「食べる事が止められない中毒状況で」

北島「食中毒は食べる事が止められない状態じゃなくて、食べた物に毒性があってそれで体調を崩す事だよ」

藤原「あ、そうなの?」

北島「もう、お前は一度、日本語学校に行ってこい」


















―――終わり

『かけっこ』



・登場人物


 北島

 藤原

 西岡

 佐藤

 加藤

 須藤

 高橋

 大島

 藤縄

 孝臣

 拓



・舞台


 小学校の運動会会場




 明転。


 小学校の運動会会場。椅子一つ。

 北島、板付き。


北島「あー、拓ももう小学校、三年生かー。子供の成長は早いなぁ。去年と一昨年は仕事で行けなかったから今年こそはちゃんと見届けなきゃな」

藤原「それでは只今より、三年生による騎馬の賭けっこです」

北島「おっ、始まるな。騎馬戦の要領で走るらしいからな。ちゃんと動画に残さなきゃ」

藤原「生字幕放送でお伝えします。今年の渋井大学附属小学校の総決算第五十二回有人ありびと記念」

北島「ありびと……?有馬記念みたいだな」

藤原「毎年三千人余りの保護者が集まるビッグイベントです。渋井大学附属小学校、晴れています。十時二十五分のスタートに向けて出走する六組、既にパドックに集まっています」

北島「……ん?」

藤原「まもなくジョッキーが跨がろうかというところ。既に馬体重の増減も発表になっています。三年一組第一馬、前走休み明け四百グラム増えてましたが、今日はマイナス二百グラム八番です。人気もご紹介しましょう。一番人気は駆けっこワングランプリ三勝保護者投票も一位でした、一年三組二.六倍。人気を集めて一番人気の三年二組に迫ってきました三年三組。一番人気の三年一組です」

北島「運動会……だよな……?」

藤原「一昨年の運動会に勝って昨年の運動会にも勝ちました。西岡さん、雰囲気いかがでしょうか?」

西岡「とても力強く歩いていると思います」

藤原「北島拓騎手が跨りました。北島拓騎手の騎馬駆けっこというと雰囲気どうでしょうか?」

西岡「拓君が乗りまして背中にハリが出て非常に力強く歩き出しました。良い雰囲気です」

藤原「ご存じ、小川さんのお家の将司君。そして二番人気に迫ってきたのが儀間さんのお家の孝弘君。一昨年の運動会で三着、昨年は二着でとうとうタイトルを手にしました。どうでしょうか?清騎手が跨っております。ゆっくり歩いてる感じを受けます。雰囲気的に緊張感が無いような気がしますが、これで返し馬をして気合いを入れる事によって馬がぐっと盛り上がってくると思います」

北島「……え?これ金を賭けなきゃいけないの?」

藤原「返し馬ウォーミングアップの様子は後ほど、ゆっくりご覧になって頂きます。この二組が人気を集めてます。そして去年のチャンピオン三年一組が二番に入りました。昨年の運動会で一組が勝っています。こちらは如何でしょうか?」

西岡「ご覧になってる会場なんですが、少し五月蠅いように思いますね」

藤原「しかし、去年の運動会で遥かに馬は落ち着いてると思いますね。やはり、この馬、落ち着いて歩けるのでしょうか?」

西岡「とても良いですね。それぞれの馬によって通常の落ち着きのレベルが違うわけですね」

藤原「違いますね。既に人気の二組、三年一組と三年二組は沢山の保護者が待つ本馬場へと向かって地下の通路に入っていきました」

北島「え?地下があるの?」

藤原「二倍台で三年一組と三年三組。その後、三年二組までご紹介しました。去年の二着、KI二着が多い三年四組が四番人気です。三年三組と藤縄道人君が地下の通路へと向かっていきます。ちなみに馬の体高はここから地面までおろしたところで馬の体高も測るんですが非常に馬にとっては体の中心で大事なところなんです。それが非常に大人になってきたというところが印象深いです。その三年一組がまもなく本馬場へと姿を見せようというところです。地下馬道なんですけど三年一組は非常に落ち着いていました。拓ジョッキーも余裕の表情をされているのが印象的でした。それでは三年一組の当日情報をお伝えします。高橋先生に九時半ごろに話を聞きました。まず、初めに一言『何も心配が無い』と話していました。それまでの練習疲れはすぐに取れて、良い状態で今日を迎えられた保護者投票一位に感謝して期待に応えますと力強く答えました。続いて、二番人気の三年二組の当日情報についてもお伝えします。まもなく地下馬道も通る予定です。米山先生に九時四十五分に話を聞きました。普段通り今日も落ち着いていて力を出せる状態だと話しています。『常に良い状態を一定にキープしている馬だけど順調に今日を迎えられた』と話してくれました。後の二頭についても話を聞きまして、八番の三年五組に関しては一回、使って良くなってきている。そして七番の三年四組については出来に波は無い馬なので安定していると話してくれました。そして、地下馬道三年六組も本馬場へと向かっていきます。

上位人気二頭は順調のようです。本馬場入場は大島アナウンサーです。大観衆の前に八組が姿を見せます。保護者にも支持を受けたこの八組が今年の頂点に挑みます。三年一組、一番人気です。上位人気馬についてはウォーミングアップ返し馬の様子もご覧頂きますが西岡さん、三年一組の入り方如何ですか?」

西岡「後ろからになるので見辛いんですが、非常に落ち着いてゆったりと返し馬しておりますね。ハミの取り方も力強く取っております」

藤原「確かに非常にゆったりとした印象があります三年一組です。第五十二回渋井大学付属小学校騎馬駆けっこ、スタートは十時五十分です。解説、放送席は元教師の西岡聖弘さんです。西岡さん、今年も始まりましたが、この一年は如何だったでしょうか?」

西岡「非常に盛り上がったと思いますね。総決算が、今日の運動会という訳ですが、非常に保護者の数が凄い事になっています。十時四十五分現在で六百二十三人を超えました。例年、五百人を超える保護者が集まる運動会ですが、それでもびっしりですね」

西岡「凄い保護者ですね。有り難い事です」

藤原「この運動会は保護者投票で出走馬が決まります。保護者投票上位の馬が走ることが出来ますが藤縄さんが保護者に話を聞いてくれています。会場、凄い熱気ですよ。午前十時四十五分、現在の気温が二十.一度なんですけども、皆さん各馬に声援を送っていました。保護者の皆さんに応援する馬。そして、運動会に期待する事等を聞いてきました。今日の登校は八時半。開門前に既に六百人を超える保護者さんが詰めかけていました」

藤縄「応援しているクラスは?」

島田「三年三組です」

藤縄「どのクラスを応援されてますか?」

佐藤「私は三年二組で」

加藤「三年一組で」

伊藤「三年四組です。メジャーなクラスじゃないのでそういったところで頑張ってるクラスを応援したいなと思ってそれで応援してます」

須藤「三年五組は何回も勝ったりしてて格好良いからです」

近藤「頑張れ!」

関谷「三年一組ですかね。一枠、引いたのも、凄いですし」

藤原「運動会は保護者の思い、保護者の夢が走るというのもよく言われますが、様々な保護者の声がありました。という駆けっこの中でも、今年、保護者の支持を集めているのが三年一組です。保護者投票一位。三年一組の前走の駆けっこをご覧頂きましょう。スタートのところです。西岡さん、他の馬が競り掛けてくることも予想されましたが三年一組が逃げていく形になりました。

西岡「とても良いスタートで出ましたね。他の馬がハナを主張してこなかったものですから最初のコーナーもゆったりと自分のペースで入ることが出来ました」

藤原「三コーナーへと向かっていくところです。内側の荒れたところも避けていいところを取ってますね。丁度、馬場の走りやすいところを選んで走ってきました。最後の直線です。三年一組と言いますと、これまでは勝っても負けても大接戦という駆けっこが多かったんですが二馬身半、千切りました。非常に接戦を制してきたんですがこのレースに限っては離しましたね。二馬身半になりましたか。強さが本格化してきたという事なんでしょうか?」

西岡「一つの、そういう取り方をして良いかなと思います」

藤原「跨っている北島拓君の声も聞きましょう」

拓「保護者投票一位という事でその馬に乗れるというのは非常にジョッキーとしてね、光栄ですね。今年から、このメンバーとチームを組ませてもらってるんですけど一戦毎にというか、乗る度にこのクラスの強さを感じるというか改めて感じることが続いてますからね。本当にどんどん強くなっていってると思いますね。この馬の年にしたいなとは思いますからね。ラスト、本当に責任、感じて乗りたいなと思います。思い切って乗りたいですね」

藤原「この馬の年、良いですね。今年は三年一組の年ですね。多くのクラスを知る北島拓君も成長していると、一戦毎に強くなっているという話をしていました。校長先生の山崎孝臣さんの姿も見えています。この風景も、すっかりお馴染みになってきましたよね。ジョッキー、そして担任教師達の思いもお聞き頂きましたけども先生にとっては運動会というのはどういうものでしょうか?」

米山「文化祭と違った意味の今年、最初のお祭りという事で非常に盛り上がる大会ですね。先生にとっても非常に重要な試合です」

藤原「一方、二番人気の三年二組です。昨年の駆けっこをご覧いただきましょう。一昨年、三着、昨年、二着ときて悲願の三冠タイトルへ。中団から抜け出していきます。強かったですね」

西岡「非常に長い間、良い脚を使ってますよね。すばらしい駆けっこが出来たんじゃないでしょうか?」

藤原「高橋君のインタビューも聞いてみましょう」

高橋「レースの最初でリラックス、馬が凄く大切です。その後は四コーナーはちょっときついです。直線が短いですから四コーナーで良いポジションを取りたいです。今年は三年一組は多分、一番のライバルですけど三年二組のポテンシャルがとても高いです。だから、楽しみ。多分、マッチレースになるから応援お願いします。宜しくお願いします」

藤原「ありがとうございます。高橋君からは三年一組とマッチレースになるだろうという話がありましたが、西岡さんはこの二クラス、或いは、その他のクラスでも今日、パドックであまり聞けていませんので如何でしょうか?」

西岡「まずは三年二組は三年一組を見ていけると思いますから非常にすぐ動きに反応できると思います。後、三年五組ですね。今日は去年よりも落ち着いてると僕、見ましたものですから。丁度一枠二番を引きましたし、駆けっこの前に壁を作って流れに乗りやすいところにポジション取ると思います。奥で分かりにくいんですが目のところにつけていた網目状のものを外しているんですね」

藤原「外してますね」

西岡「地下馬道で外したんでしょうか。これはジャパンカップと同じルーチンと見て良いでしょうか?」

藤原「それでは第五十二回渋井大学附属小学校運動会、三年生クラス対抗、駆けっこ、いよいよスタートです。八クラスは既にスタート地点で輪乗りです。三年一組と三年二組。二強の争いとなるのかそれとも他のクラスが頂点に立つのか。実況席に佐藤孝臣校長先生に座って頂きました。展開ですが、三年一組は逃げる事が出来るかどうかですが。これはどうですか?」

佐藤「逃げたいでしょうけど四枠七番の三年六組が非常に速いものですからこれがハナ、いくと思いますね。その後に三年一組が二番手について最初のコーナー一周目の三コーナー、四コーナーを回っていくんじゃないでしょうか?」

藤原「とすると三年二組は先程の西岡さんのお話では三年一組を見ながらレースはしやすいかというところかと思いますがどうでしょうか?」

佐藤「その通りだと思います。中団ぐらいで三年一組を見ながらレースをしていくと思います。三年一組が動けば三年二組も長い間良い脚を使えますから一緒に動いていくと思いますね」

藤原「三年一組の拓君としてはどうでしょう?四コーナーでもう先頭に立つぐらいの形でくるのかどうか?」

佐藤「三年一組が瞬発力という意味では少し劣ると思うんですね。スタミナの平均ペースで走るものですからそのようなレースをする後ろからくるクラスにも所謂なし崩しに脚を使わすということでスローペースならば早めにハナに立つ可能性があります」

藤原「直線をそのまま突き抜けることが出来るかどうかですが、他の、去年の優勝クラスの三年五組ですが、状態はかなり良くなったと見ていいんですね?」

佐藤「やはり落ち着いて前走より落ち着いているというところが非常にいいポイントだと思います。内、内で我慢しながら突き抜けてくることが出来るか。或いは三年四組等にもチャンスは十分」

藤原「スターターが上がりました」


SE、ファンファーレ。

音声、大歓声。


藤原「およそ七百人の大観衆。その大歓声が鳴り響きます。スタート地点は三コーナーの奥です。八クラス、いよいよゲートに収まっていきます。第五十二回のグランプリ、運動会、騎馬、駆けっこを刺す空気は一段と暑さを増しています。奇数番号がゲートに向かいます。

三年一組、拓君、収まりました。外のほうで三年三組も向かいます。三年五組。一騎打ちになるのかどうか。三年七組が少しゲート入りを嫌っています。なんとか収まりました。そして偶数番号。去年の優勝馬三年四組。向こうで三年六組も収まりました。順調です。五分後に結論が出ます。三年二組、そして三年六組。残るは三年八組今年も三年六組が大外、八番、山崎英寿。八クラスが収まりました。大歓声の中ゲートが開きました。ちょっと三番の三年三組が立ち遅れました。三年一組、二番手。やはり予想どおり。三年四組が行きました。速い逃げです。二馬身から三馬身リードを広げます。二番手、三年一組。三年四組も三年一組を見ながら行きます。そして、三年二組が中団の外を回っています。赤の帽子が見えています。前から二~三組にいます。正面スタンド前、一周目の四コーナーを回ってきました。三年五組から五馬身リードを広げてその後ろが三年一組です。拓君は帽子を押さえています。三年二組、七百人の大観衆、大歓声の前を八クラスが突き抜けていきます。まもなく五十メートルですが少し早いペースでしょうか三年三組が先頭で五十メートルを通過。ほぼ平均ペースです。一分少々過ぎた頃。六十一秒で三年三組が先頭。五〜六馬身のリード。これを見ながら三年一組がどこで動いていくか。二番手、三年一組。そして、外から三年四組の外から……もう早くも三年二組上がっていって三年一組の外に馬体を並べようとしています。動いていった三年五組。三コーナーから、これから四コーナーに向かっていきます。少しペースが上がった。まだ三年四組がリードしている。早めに三年二組が先行馬を捉えにいっています。内に二番の三年五組。大歓声の中まもなく四コーナー手前。まだ粘っている三年四組。ここで先頭に立ったのが三年一組!三年一組!外に三年四組!」


音声、大歓声。


藤原「並んだところがゴール!二クラスが並んでゴールです!殆ど並んでのゴールです!そして三年二組も三年五組も追い上げて並んでゴールです!遅れて三年三組と六組が順にゴール!遅れて三年八組がゴール!最後に三年七組がゴールです!」

西岡「各馬、とっても良く頑張りました」

藤原「ちょっと脚色が鈍ったところで三年一組と外の三年二組この二クラス。西岡さん、どうですかね?」

西岡「際どいですね。少しでも三年二組が先に出てますかね。映像ではゴール前で差したように見えますがどうでしょうか?」

藤原「大熱戦の最高の舞台での運動会、騎馬駆けっこ。素晴らしい内容のレースでした。三年四組が勝負を掛けていきました。最後、大接戦。三年一組を躱しているように見えます。三年四組が先。三年一組、二着か。そして、去年のチャンピオン三年五組が三着かというところです。この映像ですと一番、三年四組、二番、三年一組という順番に見えます。放送席に西岡さんに戻って頂きましたが、良いレースになりました」

西岡「良いレースですね。やっぱり、三年一組をマークしてきましたね。かなり早めに三年五組が動いてきましたね。やはり、長い間、良い脚を使えるということこれがまず三年五組の頭の中にあったと思いますね。瞬発力では劣るので早めに三年一組を追っかけていきましたね。最後は我慢しあうようなレースになったんですけども。着順掲示板は一着、三年四組。二着、三年一組。そして三着に三年五組。四着、三年二組、健闘しました。五着、三年三組と挙がっています。小川君のガッツポーズがありました。このまま確定しますと三年四組は2024年に続いて二勝目になります。駆けっこワングランプリは丁度、三勝目。運動会を制した三年生。この世代が昨年の時にはレベルが高いといわれていた中で今年はどうなんだろうと疑問視する声も出ていました。それを三年四組が払拭しました。直線に入るところ三年一組が先頭に立ちます。すぐぴったり横にマークしているのが二番の三年五組。そして、その外から三年二組です。三年一組とのマッチレースになるだろうと予想していましたけれども今回の騎乗ぶりを見ていかがでしたか。向こう流しで思い切って三年二組が三年一組の外に並びかけるような勢いでいきましたね」

西岡「ここからスパートしなきゃ間に合わない。これで負けたんならしかたないんだという乗り方をしたんじゃないかと思います。まさに負かしにいっての勝利となりました」

藤原「まだ確定はしていませんが先着は三年四組です。一つ、拳を握っていましたね。レースが確定しています。一着三年四組。二着、向こう側の三年一組。三着、三年五組というところで上位人気の馬が三着までにきました今年の運動会です。人気クラス同士の決着です。今年の運動会です。全ての保護者の皆様お待たせいたしました!今年の有人記念を制した三年四組です。おめでとうございます!ありがとうございます!今のお気持ちを教えてください」

孝臣「あまり喋れないね。すいません……今のテンションが凄く高いと凄く嬉しいですけど騎馬駆けっこは時々難しいけど……今日は素晴らしいです」

藤原「レースを振り返ります。三年一組をマークするように早めに動きました。あの辺りのレースプラン如何でしたか?」

孝臣「三年一組は一番、ライバルでした。最初、良いポジションだった。でも、スタンド前、大外だった。だから、ポジションを上げました。三年一組の隣ポジションを取りました。その後は馬が引きがありました。もう一回、リラックスしました。だから、直線で伸びた。ゴールまで頑張った。凄く頑張ったと思う。今年は三年二組は人気馬だった。いっぱい自信があったけど最初から騎馬駆けっこから彼に乗りました。今日、騎馬駆けっこを勝てた……だから、凄く嬉しいです」藤原「皆は三年生です。来年以降の夢が大きく広がりますが如何でしょう?」

孝臣「勿論、楽しみです。三年生で騎馬駆けっこ、勝った為にちょっと難しいです。けど、三年二組は能力が凄い高いです。ポテンシャルが凄い高いです。スーパーホースになりましたね」

藤原「来年もやるという話もありますが、その辺りは如何でしょう?」

孝臣「いけると思います。みんな分かりますね。三年二組がスタミナがある乗りやすい馬です。頭が良い。だから、チャンスあると思います」

藤原「最後にここにいる保護者の皆さんにメッセージをお願いします」

孝臣「皆様、応援してくれてどうもありがとうございました。今日は、素晴らしい日です。来年、三年二組は四年二組になってもう一回、応援お願いします。よろしくお願いします。ありがとうございました!」

藤原「騎馬駆けっこを制しました三年二組でした。西岡さん、どんなふうにお聞きになりましたか?」

西岡「この学校の運動会の命運を賭けた勝負ですからね。前回、取った騎馬駆けっことまた感覚が違うと思いますね。非常に嬉しそうです。勝ったのは三年四組です。素晴らしい騎馬駆けっこをしましたね。この後の競技の予定ですが、西岡さんはどんな風に期待されますか?」

西岡「今年の騎馬駆けっこは三年四組が勝ちました。これから一皮も二皮も剥けた騎馬駆けっこを見せてくれると思います。楽しみです」

藤原「解説は元教師の西岡聖弘さんでした。一年間ありがとうございました2025年、総決算渋井大学附属小学校運動会騎馬駆けっこを制したのは三年四組です。ありがとうございました!それでは次の競技は綱引きです。引き続きご覧下さい!」


 音声、大歓声。


北島「これ来年どこに投票するかなぁ……!」

―――終わり

『背伸びの運動』



・登場人物


 北島

 藤原(声のみ)



・舞台


 公園






 明転。


 公園。ラジオカセット一つ。

 北島、板付き。北島、ラジオカセットを起動する。

 SE、音楽。


藤原「それでは大きく両手を広げて、背伸びの運動~。一、二、三、四、五、六、七、八。それでは大きく胸を反らせて背伸びの運動~。一、二、三、四、五、六、七、八。それでは体を前後に曲げて背伸びの運動~。一、二、三、四、五、六、七、八。次は臍を曲げて背伸びの運動~」

北島「嫌だ、そんな、事は、やりたく、ない、絶対、に、嫌だ」

藤原「次は旋毛を曲げて背伸びの運動~」

北島「やだよ、嫌だ、何で、そんな、事を、しなきゃ、いけない、んだよ」

藤原「次は口を曲げて背伸びの運動~」

北島「お前は、本当に、使えない、奴だ、本当に、駄目だ、全く、邪魔だ」

藤原「次は冠を曲げて背伸びの運動~」

北島「もう、本当に、イライラ、する、マジで、何も、かもが、嫌だ」

藤原「次は節を曲げて背伸びの運動~」

北島「貴方の、言う、通り、です、はい、それで、行きま、しょう」

藤原「次は話の腰を折って背伸びの運動~」

北島「ところで、さぁ、話が、変わるん、だけど、何て、言うか、さぁ」

次は「骨を折って背伸びの運動~」

北島「あぁ、疲れた、もう、終わり、だ、やっと、終わる、ぞ」

藤原「それでは皆さん、良い一日を~」

北島「……背伸びの運動しかしてないんだよなぁ……」
























―――終わり

『脅し』



・登場人物


 北島

 藤原正将

 藤原美幸

 藤原淳太デブ




・舞台


 藤原宅






 明転。


 藤原宅。テーブル一つに椅子四つ。

正将、美幸、板付き。

SE、インターホンのチャイムの音。正将、舞台下手に退場し、北島と共に舞台下手から登場。


北島「お邪魔します」

美幸「あぁ、どうも……」

北島「今回、我々、引き出し屋をご利用頂きありがとうございます」

正将「この度は宜しくお願い致します……」

美幸「今、お茶を淹れますね……(舞台上手に退場)」

北島「あぁ、お構いなく。それで、息子さんは?」

正将「この一年で、大分、変ったんです……」

北島「何があったんですか?」

正将「息子の淳太が……なぁ?」

美幸「(舞台上手からお茶を持って登場)」えぇ……」

淳太「(舞台下手から登場)ババァ!飯はまだか!?」

美幸「ヒッ……!もうちょっと待ってて……?すぐ持って行くから……!」

淳太「早くしろよな!あん?誰だ、お前?」

北島「正将さんの友人です。えーっと、淳太君、かな?」

淳太「何だよ?人様の家にズケズケと入って来やがって。警察呼ぶぞ?」

正将「おい、お客様に失礼だろ」

淳太「あ?何でも良いから早く飯持って来いよな!」

美幸「わ、分かったから、落ち着いて……?」

淳太「この鈍間!(舞台下手に退場)」

北島「……お父さん、お母さん。一体、息子さんに何があったんですか?」

正将「大学を中退したんです……」

美幸「ニートなのんです……」

北島「何か理由があったのか?」

美幸「好きな子に振られたらしいんです」

正将「……それでストレスで暴飲暴食して、あんな姿に……」

北島「そうですか……まぁ退学してしまったのなら仕方ない。何も大学卒業して就職して、結婚するだけが人生じゃないですよ。フリーターでもクリエイターでも何でも仕事はあります。今回は我々に任せて下さい」

美幸「でもあんなに太っちゃって……」

北島「何。今だけですよ。時間が解決してくれますよ」

美幸「それなら良いんですけど……」

正将「でも一つ問題がありまして……」

北島「何です?」

美幸「脅しをしてくるんです……」

北島「脅し?」

正将美幸「はい……」

北島「どんな脅しですか?自殺するぞ、みたいな感じですか?」

正将「それに近いですね……」

北島「成程……分かりました。メンタルケアも含めて、我々がどうにかします」

正将美幸「宜しくお願いします……!」

淳太「おい!ババァ!飯はまだか!?」

美幸「(立とうとするが、北島に止められる)」

北島「ここは私に……淳太君!ちょっと今、手が離せるかい!?」

淳太「何だよ!?俺に何の用だよ!?」

北島「少しオジサンとお話ししようじゃないか!」

淳太「ウッゼーな!さっさと帰れ!」

北島「お母さん、彼の部屋のブレーカーを落としてきて下さい」

美幸「え?そんな事したら……」

北島「後の事はこちらでどうにかします。ささ、早く」

美幸「は、はい……(舞台上手に退場し、戻ってくる)」

淳太「あぁ!?電気が落ちた!?(舞台下手から登場)ババァ!何しやがった!?」

美幸「ヒッ……!ご、ごめんなさ……!」

北島「待って下さい。ここで謝ったら、いつものように癇癪を起しますよ?」

美幸「は、はい……」

北島「淳太君。とりあえず私とお話ししよう?」

淳太「何でそんな事しなきゃいけねぇんだよ?」

北島「君、大学で好きな子に振られたんだって?」

淳太「何でその事を?」

北島「そして振られたショックで大学を辞めた、と」

淳太「……あぁ、そうだよ!悪いか!?」

北島「いや、悪くない。誰にだって挫折はある。それが今、来たってだけだ」

淳太「知ったような口を……!ジジィ!ババァ!また脅してやろうか!?」

正将「止めてくれ!」

美幸「私達が悪かったから!」

北島「お父さん、お母さん。落ち着いて下さい。どう脅すと言うんだい?」

淳太「太るぞ!?」

正将美幸「あっ!?」

北島「え?」

淳太「太ってやろうか!?」

正将「そ、それ以上、太るのは止めてくれ!」

美幸「そうよ!もう止めて!」

北島「え?え……?」

正将「これ以上、太ったら食費が嵩んでしまう!」

北島「え、あの……?」

美幸「それに糖尿病になって透析治療でお金が掛かっちゃう!」

北島「えっと……?」

正将「痛風も発症して医療費が嵩んでしまう!」

北島「えーっと……?」

美幸「アルコールの取り過ぎで肝硬変も起こしてお金が掛かっちゃう!」

北島「……あ、息子さんの心配というよりは、お金の心配なんですね?」

正将美幸「それ以外に何がありますか!?」

淳太「酷い親だろう!?」

北島「まぁ、でもニートしてる息子よりは人間味あると思いますけどね」

淳太「で?オッサン?何の用だよ」

北島「あー……単刀直入に言うね?私は引き出し屋です」

淳太「引き出し屋?あのニートとか引き籠りを社会復帰させる為に施設に連れて行こうとする団体の事?」

北島「あ、そうです、そうです」

淳太「高卒、大学中退、ニート歴五年、バイト経験無し、資格無し。この役満が揃って、てまともに働ける訳無いだろ?」

北島「それなりの所から順々にやっていけばどうにかなるさ」

淳太「五月蠅い!もっと太るぞ!?」

正将「止めてくれ!これ以上、太ったら床が抜けてしまう!」

美幸「それでリフォーム代が嵩んじゃう!」

淳太「分かったらこれ以上、俺を怒らせるな!」

北島「淳太君。君はそうやってずっと逃げ続けるのかい?」

淳太「何だと?」

北島「少しは立ち向かったらどうなんだい?現実に」

淳太「何でお前にそんな事を言われなきゃいけないんだよ?」

北島「私は君を応援しに来たんだ。君は、もっと視野を広げた方が良い。そうすれば、きっと良い人に出会えるよ」

淳太「黙れ!俺はなぁ……!あの子に……!あの子に……!」

北島「女性は星の数ほどいる。出会いなんていくらでもあるさ」

淳太「でも星に手は届かないだろ!?」

北島「でも光は届く。その光を手掛かりに、星を目指してみないかい?」

淳太「俺は……!俺は……!」

北島「無理に連れて行こうとは思わない。でも、少しでも勇気が出たなら、その勇気を社会に向けて発信していったらどうかな?」

淳太「オッサン……!」

北島「北島です。じゃあ、また来月に来るから、その時までに何もしていないようなら、ここから連れ出すからね?」

淳太「北島さん……!分かった!俺、もう一度、頑張ってみる!」

北島「その意気だ。じゃあお父さん、お母さん、私はこれで」

正将美幸「はい!ありがとうございました!」

 暗転。


 明転。


 藤原宅。

正将、美幸、板付き。

SE、インターホンのチャイムの音。


美幸「はーい(舞台下手に退場)。どうぞー(北島と共に舞台下手から登場)」

北島「お邪魔します。その後、どうですか?淳太君の様子は?」

美幸「それがですね……」

淳太「おーい!母さん!ご飯はまだー!?」

北島「……相変わらず、ですか……」

正将「いや、そうでもないんですよ」

北島「え?」

淳太「母さーん!?」

北島「あぁ、何だか言い方が柔らかくなりましたね」

正将「それだけじゃないんです」

北島「と、仰いますと?」

淳太「母さーん?(舞台下手から登場)あ、北島さん。いらしてたんですか?」

北島「淳太君。その後はどうだい?」

淳太「えぇ。今は家族系ユーチューバーとして活動してます」

北島「家族系ユーチューバー?」

淳太「家族との生活を配信するユーチューバーです。ガーデニングしたり、ちょっと遠出で散歩したり、今みたいに母や父の食事を紹介したり」

北島「成程……考えましたね」

淳太「後はまぁ筋トレですね。ダイエット動画も上げてます。これでもこの一ヶ月で五キロは痩せたんですよ?」

北島「そうかい。じゃあもうニートは辞めたんだね?」

淳太「ニートみたいなものですけどね。まだまだ収益が足りないので」

北島「そうか。でも地道に頑張ってね?」

淳太「はい!じゃあ母さん。ご飯出来たら呼んでね?配信するから」

美幸「はいはい」

淳太「じゃあ今、撮影の準備するから。北島さん、失礼します(舞台下手に退場)」

北島「更生してくれて何よりじゃないですか」

正将「まぁ前向きになってくれたのは良いんですけどね……」

北島「何か問題が?」

正将美幸「機材代が嵩んじゃって……」

北島「結局、ご両親に負担が掛かってる事に変わりが無いって事ですか……」


―――終わり

『〇美』



・登場人物


 妬美ねたみ

嫉美そねみ

 僻美ひがみ

 憎美にくしみ

 恨美うらみ

 蔑美さげすみ

 悲美かなしみ

 苦美くるしみ

 渋美しぶみ

 痛美いたみ

 弱美よわみ

 憐美あわれみ



・舞台


 屋敷



 明転。


 屋敷。長テーブル一つに椅子十二個。

 妬美、嫉美、僻美、憎美、恨美、蔑美、悲美、苦美、渋美、痛美、弱美、憐美、板付き。


嫉美「何よ?妬美姉さん。突然、私達を呼び出したりして?」

妬美「嫉美、僻美、憎美、恨美、蔑美、悲美、苦美、渋美、痛美、弱美、憐美、今日、集まってもらってのは他でもないわ。先日、父さんと母さんが亡くなったわよね?」

僻美「それが?」

憎美「馬鹿ね、僻美姉さん。後継者を決めるって事でしょ?」

恨美「憎美姉さん、乗り気なの?」

憎美「そんな訳無いでしょ。恨美」

蔑美「悲美ちゃんはどうなの?」

悲美「嫌よ。私はやりたくないわ。蔑美姉さんがやったら?」

蔑美「はっ。誰がやるもんですか」

苦美「渋美ちゃんはどう?やる気は無い?」

渋美「苦美姉さん、冗談はよしてよ。それだったら若手の痛美と弱美に任せたら?」

痛美「嫌よ渋美姉さん。私達、大学を出たばっかりなんだから」

弱美「そうよ。痛美と私はもう内定が出てるのよ?わざわざこの会社に入りたくないわ」

妬美「じゃあ憐美、やる?」

憐美「勘弁してよ妬美姉さん。私まだ高校生だよ?来年から春の大学生なんだからまだ遊ばせてよ」

妬美「だよねぇ……皆、やりたくないよねぇ……」

嫉美「それもこれも……」

妬美嫉美僻美憎美恨美蔑美悲美苦美渋美痛美弱美憐美「この名前のせいだ!」

妬美「私がねたみで」

嫉美「私がそねみ」

僻美「私はひがみで」

憎美「私がにくしみ」

恨美「私がうらみで」

蔑美「私がさげすみ」

悲美「私はかなしみで」

苦美「私がにがみ」

渋美「私はしぶみで」

痛美「私がいたみ」

弱美「私がよわみで」

憐美「最後は私があわれみ」

妬美嫉美僻美憎美恨美蔑美悲美苦美渋美痛美弱美憐美「何でこの名前にしたかなぁ~!?」

妬美「もっとあったろうに……名前らしい名前……」

嫉美「本当にそうよね……」

僻美「どこで統一を図ってるんだか……」

憎美「こんなマイナスイメージの名前、本当に嫌い……」

恨美「この名前のせいで学校でどれだけ弄られてきた事か……」

蔑美「私なんか勝手に虐めの主犯格にさせられた事あるよ……」

悲美「私は常に悲しんでないといけないみたいな感じにされたよ……」

苦美「ピーマンを家庭科の料理実習で使うたびに弄られたよ……」

渋美「私も柿の話が出たら真っ先にクスクス笑われてきたよ……」

痛美「渋美姉さんはまだ渋いと思われるところがあるだけマシだよ。私なんか痛風扱いされてきたんだから……」

弱美「私なんか弱い者扱いされて虐められてきたんだからね……」

憐美「私は今でもお菓子貰ってるけど、憐みの目で見られてから全然、嬉しくなかった……」

妬美「この名前じゃなければもっと前向きに会社を継いだんだけどなぁ……」

嫉美「しかも生まれてくる子供、皆、女っていうね」

僻美「まぁ父さんも母さんもそれなりに悩んではいたみたいだけどね」

憎美「何で?」

恨美「本当は息子に跡を継いでほしかったんでしょ」

蔑美「女は出産が挟むからね」

悲美「男に育児させれば良いのよ」

苦美「本当それ。仕事と育児を両立出来ないから女は出世が出来ないって言うけどさー」

渋美「男が仕事と育児を両立出来てないのが一番、問題だよねー」

痛美「ってか、そもそも、この名前のせいで男が出来た試しが無い」

弱美「名前が悪い」

憐美「どういう統一感を出したかったんだか」

妬美「で、誰が会社を継ぐ?」

嫉美「部下に継がせればいいでしょ」

僻美「それが一番よね」

憎美「こんな会社、誰も継ぎたくなんか無いわよ」

恨美「そもそも大した会社じゃないし」

蔑美「ファミレスとかにある斜めに切ったプラスチックの筒を作る会社なんてね」

悲美「小さいバインダーで十分だからね」

苦美「これで良く『会社』なんて言えたわよね」

渋美「それ以外もやってるんならまだしも」

痛美「それ専門会社だもんね」

弱美「金が無いのによくこんなに子供を作ったわよね」

憐美「ってか今の時代、タブレットで注文するからこの筒いらないし」

妬美「そもそも部下だってバイトしかいないじゃないね」

嫉美「しかもやる気のない奴」

僻美「家族経営だしね」

憎美「家族経営で回ってるなら、この会社に社員を雇う必要無いし」

恨美「こんだけ子供がいればね」

蔑美「バイトで済む仕事の会社を誰が継ぎたいのか」

悲美「まぁそれだけ楽な社長になれるとは言える」

苦美「でも収入がねぇ……」

渋美「名ばかり社長」

痛美「仕事も徐々に減ってきてるしね」

弱美「需要と供給よ」

憐美「私はまだ高校生だからよく分かんないけど、そこまで酷いの?」

妬美「そらそうよ」

嫉美「だって今はレシート直置きの所が主流よ?」

僻美「それかさっきも悲美が言ったけど、小さいバインダーで事足りるし」

憎美「ってかそっちの方が安くて、しっかりした感あるし」

恨美「あの筒だと飛んできた汚れが着く事もあるけどね」

蔑美「バインダーなら食べ物を倒して汚れが伝って行かない限り汚れる事も無いし」

悲美「そうそう」

苦美「あの伝票立て、安くて三百円強だけど、バインダーなら百円かそれ以下で買えるしね」

渋美「そうだ。伝票立てだ。商品名を忘れてた」

痛美弱美「それは流石に酷い」

憐美「そうだったの。知らなかった」

妬美「で、誰が継ぐ?」

嫉美「普通は長女の妬美姉さんじゃない?」

僻美「でも今、この会社で働いてる現状トップは嫉美姉さんじゃない」

憎美「だけど一番、勤務歴が長いのは僻美姉さんじゃない」

恨美「いや、ここは一番、頭の良い大学を出てる憎美姉さんが」

蔑美「いやいや、経営学部卒の恨美姉さんが」

悲美「じゃあ私は一番頭悪い大学卒だからパスで」

苦美「あ、悲美姉さんズルっ。じゃあ私は高卒だからパス」

渋美「苦美姉さんも大概じゃない。私だって高卒だからパス~」

痛美「私はもう就職先が決まってるからパスで~」

弱美「右に同じく」

憐美「私はこれから大学生だからパス」

妬美「もー!話が進まなーい!」

嫉美「ってかそもそもさぁ、この会社を潰すって発想は無いの?」

僻美「それ私も思った」

憎美「無くても困らないよね」

恨美「続けてたら経費が嵩むだけだし」

蔑美「でも父さんと母さんの思いもあるしなぁ」

悲美「それだけの熱量、父さんと母さんにあった?」

苦美「無いねぇ」

渋美「無かったねぇ」

痛美「何で固執してたんだろ?」

弱美「さぁ?」

憐美「じゃあ今日を以って倒産と言う事で」

妬美嫉美僻美憎美恨美蔑美悲美苦美渋美痛美弱美「異議無し」

妬美「じゃあ明日からは小さいバインダー製造会社に移行する。良いわね?」

嫉美僻美憎美恨美蔑美悲美苦美渋美痛美弱美憐美「異議無し」



 暗転。


 明転。


妬美「新しい事業を起こして一年、分かった事がある」

嫉美「何?」

妬美「結局バインダーすらいらないペーパーレス時代になった」

嫉美僻美憎美恨美蔑美悲美苦美渋美痛美弱美憐美「それな」





―――終わり


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