表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コント集  作者: 河野吉田
PR
29/37

コント集29

コント集29



281・・・はきそう

282・・・・新聞勧誘

283・・・だけ

284・・・無断欠勤

285・・・要は

286・・・不満

287・・・浮気の疑い

288・・・全部覚えてる

289・・・フードファイター

290・・・採血と予防接種と点滴と



『はきそう』



・登場人物


 北島

 藤原



・舞台


 北島宅






 明転。


 北島宅。卓袱台一つに座布団二つ。

 北島、藤原、板付き。


藤原「う~……」

北島「大丈夫か?」

藤原「ちょっと気持ち悪い……」

北島「そんなんだったら無理して俺ん家まで来なくても良かったのに」

藤原「だって新作のゲームがあるって言うから……」

北島「別にゲームは逃げはしねぇのに」

藤原「あ、駄目だ。掃きそう」

北島「マジで大丈夫か?」

藤原「ちょっと掃いてくる(舞台上手に退場)」

北島「おい。トイレはあっちだぞ?おーい。外で吐いてくるんじゃないだろうな……?」

藤原「(舞台上手から登場)ふー。スッキリした」

北島「おい。外で吐いてきたのか?」

藤原「うん」

北島「止めろよ。汚いだろ」

藤原「汚いから掃いてきたんだけど?」

北島「は?」

藤原「外で掃いてきたって言うか、外を掃いてきた」

北島「どういう事?」

藤原「あ、また気持ち悪くなってきた」

北島「本当に大丈夫か?」

藤原「もうこの場で掃くわ」

北島「待て、待て、待て!せめて台所まで待て!」

藤原「今すぐ掃く」

北島「今、洗面器を持ってくるからもう少し我慢してくれ!」

藤原「いや、洗面器よりも箒と塵取り持って来てくれ」

北島「後始末の事は俺がやるから少しだけ待ってろ!」

藤原「いや、この部屋を掃除するから箒と塵取りを持って来てくれ」

北島「は?」

藤原「あー、掃きそう」

北島「え?あの『はきそう』ってゲロを吐く事じゃないの?」

藤原「違う、違う。掃除する方の『掃く』」

北島「じゃあ気持ち悪いってのは?」

藤原「汚れてて気分が悪かった」

北島「何それ?」

藤原「俺、潔癖症だから」

北島「そんな汚れてないと思うんだけど……」

藤原「部屋の隅に埃が溜まってる」

北島「え?あぁ、本当だ」

藤原「俺、こういうの嫌なんだよね」

北島「人の家に文句付けるタイプ?」

藤原「心から許した相手じゃないとこんな事、言えないよ」

北島「そりゃ、どうも。じゃあちょっと片付けるか」

藤原「そうだな(北島と共に掃除を始める)」

北島「こんなもんか?」

藤原「うん。あー、スッキリした」

北島「お前の家、どんだけ綺麗なんだ?」

藤原「ゴキブリのゴの字も無い」

北島「ゴキブリって綺麗な家の方が逆に住むって聞くけどな」

藤原「そうなの?」

北島「いや、知らんけど」

藤原「(スマートフォンを取り出す)……あ、ゴキブリって綺麗好きなんだって」

北島「そうなの?」

藤原「うん。どんな不潔な場所でも生きていけるけど、本体は触角を毛繕い?してて、脳の分泌物でどんな雑菌にも勝つんだって」

北島「へー」

藤原「だけど体に雑菌が着いた個体もいるから、全部のゴキブリが綺麗とは言えないとも言ってる」

北島「何か勉強になったけど、気持ち悪い事に変わりは無いな」

藤原「まぁゴキブリが家にいても、そこまで心配しなくても良いって事らしい」

北島「じゃあお前もそこまで掃除しなくても良いんじゃね?」

藤原「いや、さっきも言ったように、必ずしも清潔とは限らないからこれからも掃除は続ける」

北島「真面目~」

藤原「お前も掃除はちゃんとしろよな?」

北島「まぁ、それなりに気を付けるよ」


 暗転。


 明転。


 北島宅。

 北島、藤原、板付き。


北島「あ~……気持ち悪い……」

藤原「俺も……」

北島「あ、掃きそう」

藤原「俺もそう思ってた」

北島「よし、掃こう」

藤原「そうだな。(北島と掃除をする)ふぅ。これで良いだろう」

北島「いや、まだ気になる」

藤原「真面目~」

北島「誰のお陰だと思ってるんだ?」

藤原「『お陰』とは思ってくれてるんだな」

北島「一応な。ま、こんなもんか」

藤原「今度は俺ん家に来て掃いてくれよ」

北島「何?汚れてんの?」

藤原「最近、忙しくてなかなか掃除出来てなくてな」

北島「ゴキブリは?」

藤原「この前、一匹、見付けた」

北島「そうか。じゃあ今度、行ったら掃くわ」

藤原「頼んだ」

北島「ゴキブリは一匹、見付けたら三十匹はいるって言うもんな」

藤原「あー、言うねぇ……じゃあ来週末、頼めるか?」

北島「オッケー。それにしてもゴキブリが出たのかぁ……」

北島藤原「考えただけで掃きそう……」

















―――終わり

『新聞勧誘』



・登場人物


 北島

 藤原



・舞台


 北島宅






 明転。


 北島宅。玄関一つ。玄関にはドア一つ。

 藤原、舞台上手から登場し、インターホンを鳴らす。


 SE、インターホンのチャイムの音。


北島「はーい(舞台下手から登場)。どなた?」

藤原「あ、ニュースペーパー新聞の者です」

北島「新聞勧誘の方?」

藤原「そうです」

北島「今時、珍しいですね」

藤原「地道にやってます」

北島「でも、すみません。間に合ってます」

藤原「待って下さい。洗剤お付けしますよ?」

北島「間に合ってます」

藤原「トイレットペーパーはどうですか?」

北島「結構です」

藤原「スマホはどうですか?」

北島「え?」

藤原「タブレットはどうですか?」

北島「は?」

藤原「あ、パソコンはどうですか?」

北島「ちょっと、ちょっと」

藤原「このドアも新しいのにしましょうか?」

北島「あのねぇ」

藤原「窓も新しいのに替えましょうか?」

北島「本当にちょっと」

藤原「フローリングも替えましょうか?」

北島「ちょっと話を聞いて」

藤原「絨毯も替えましょうか?」

北島「マジでちょっと」

藤原「掃除機も替えましょうか?」

北島「何を言ってんの?」

藤原「キッチンも新しくして、テーブルと椅子も替えて、ソファも替えましょう」

北島「まずはこっちの話を」

藤原「あ、トイレの便器も替えて、ウォッシュレットを着けましょう」

北島「ちょっと待て!」

藤原「何ですか?購読して下さるんですか?」

北島「いや、これどこまで行くの?」

藤原「何がですか?」

北島「何か一軒家でも建てそうな勢いだったんで」

藤原「まぁ、そうですね。いつもそうです」

北島「いつも!?いつもこんな事やってんの!?」

藤原「最終的には土地を渡します」

北島「それ何人にやってんの?」

藤原「四万人程ですかね」

北島「日本の人口の約三分の一じゃないですか」

藤原「海外にも支店はありますので」

北島「海外にまで進出してるのか……」

藤原「今、最も伸びている新聞社なので」

北島「土地ってそんなに余ってるですか?」

藤原「さっきも申し上げた通り海外にも土地はありますので」

北島「あっそう。っていうか金あるんですね」

藤原「あります」

北島「じゃあその金で悠々自適に暮らしたら良いじゃないですか。何で古いやり方の新聞勧誘で働こうとしてるんですか?」

藤原「さぁ……?社主のお考えは平の我々にはよく分からないので」

北島「あっそう。でも間に合ってますので」

藤原「そこを何とか……!」

北島「ノルマとかあるの?」

藤原「いえ?特には」

北島「完全歩合制とか?」

藤原「いいえ?」

北島「会社をこれ以上、大きくする為の活動とか?」

藤原「そんな話は聞いた事がありませんね」

北島「じゃあ何でそんなに熱心に勧誘するんですか?」

藤原「……何でですかね?」

北島「俺に聞かないで下さいよ」

藤原「何でだろう……?何の為にこんな事してるんだろう……?」

北島「愛社精神とか?」

藤原「そんなの無いです」

北島「『こんな事』と言い『そんなの』と言い、増々、何でそんな頑張ってるんですか?」

藤原「分かりません……無理して働かなくても定期的にお金が入ってくる……頑張ったからって給料が上がる訳でも無い……何で、働いてるんだろう……?何の為に働いてるんだろう……?」

北島「ちなみにお給料はそこそこ貰ってるんですか?」

藤原「年収一千万円くらいです」

北島「金、あるなぁ……」

藤原「そうだ……!思い出した……!」

北島「何です?」

藤原「私、新聞が好きだったんだ……!」

北島「良い理由じゃないですか」

藤原「窓掃除に便利だし、簡易的な加湿器に出来る!それを社割で買えるからこの会社に入ったんだ!」

北島「記事を読みましょうよ……」

藤原「私は記事を書けないし、楽だと思ってこの部署に配属させてもらったんだ!」

北島「邪だなぁ……」

藤原「ありがとうございます!私に本当の目的を思い出させてくれて!」

北島「え?あぁ、はい。どう致しまして?」

藤原「お礼にウチの新聞を受け取って下さい!」

北島「え?タダで?」

藤原「はい!」

北島「それは悪いよ……契約します」

藤原「えっ!?宜しいんですか!?」

北島「タダで読めるのは何か気が引けますし……」

藤原「ありがとうございます!ではこちらにサインをお願いします!」

北島「はいはい……じゃあ、明日から宜しくお願いします」

藤原「はい!では失礼します!」

北島「……あれ?何で俺は契約を……?」

藤原「よっしゃ!これでまた契約成立!ノルマ達成!」
















―――終わり

『だけ』



・登場人物


 小川

 儀間



・舞台


 喫茶店






 明転。


 喫茶店。テーブル一つに椅子二つ。テーブルの上には珈琲二つ。


小川「あ、儀間ちゃーん。ここ、ここ~」

儀間「小川ちゃん。ごめん。遅れちゃって。やっと半休取れてさ」

小川「大変だねぇ。バリバリの会社員は」

儀間「今日、息子君と娘ちゃんは?」

小川「夫のご両親に預けてきた」

儀間「はぁ~。夫は朝から晩までサビ残の仕事。帰ってきたら食事と風呂と寝るだけで、義理のお父さんとお母さんに息子と娘を預けて昼から友人と喫茶店で珈琲ですか。良い御身分ですねぇ」

小川「そんな事無いよ。それなりに頑張ってるんだから」

儀間「だって専業主婦ってずっと家にいるんでしょ?」

小川「そんな事無いよ。買い物とか行くし、娘の保育園とか息子の塾の送迎とかあるし」

儀間「出掛けるのってそれだけなんでしょ?」

小川「まぁ……そうだねぇ……」

儀間「家では料理朝と夜に家族分を作るだけなんでしょ?」

小川「まぁお昼の娘の分のお弁当も作るけど、お昼は適当だね」

儀間「掃除も各部屋を隅々までやって、お風呂、トイレも毎日して、毎日のように洗濯するだけなんでしょ?」

小川「まぁ……」

儀間「娘ちゃんが帰ってきたらお世話をして、息子君が帰って来たら宿題を見てあげて、晩御飯作ってあげてそれをしつつお風呂を沸かして、食事が終わったらお皿を洗って、子供達を寝かし付けてその後にようやく寝るだけなんでしょ?」

小川「間違っては無いけど……」

儀間「義理の両親と同居だから気を遣い続けておべっかしてるだけなんでしょ?」

小川「それはそうだけど……?」

儀間「旦那さんが休みの日も家事をして、ついでに息子君と娘ちゃんに加えて旦那さんのお世話もするだけなんでしょ?」

小川「あの……?」

儀間「たまの休みと言っても私とこうやって数時間だけお喋りするだけなんでしょ?」

小川「そうですけど……?」

儀間「で、これが終わったらまた同じ生活に戻るだけなんでしょ?」

小川「はい……」

儀間「大変だね!専業主婦って!」

小川「えっ!?」

儀間「私には出来ないなぁ~!尊敬しちゃう!」

小川「え?あ、あの……?」

儀間「何?」

小川「今の流れって絶対『専業主婦って気楽で良いよね~!』みたいな話になるんじゃなかったの……?」

儀間「そんな訳無いじゃ~ん!」

小川「じゃあ何で『何々するだけなんでしょ?』って言ってきたの?」

儀間「最初は馬鹿にしてた。でも言い続けている内に『あ、これ私には無理だ』って思うようになった」

小川「あ、そうですか……でも私からしたら会社勤めの方が無理だなぁ」

儀間「何で?」

小川「働くって大変じゃない?」

儀間「そんな事無いよ?毎朝、ご飯を食べずに始発で会社に行って、サビ残で終電で帰って来て家でも仕事して二時間くらい寝てまた会社に行ってるだけだよ?」

小川「それが辛い」

儀間「土日も出勤して百連勤とか普通なだけだよ?」

小川「そうなんだ」

儀間「上司におべっかして、部下の尻拭いをして毎日、誰かにペコペコ頭を下げてるだけだよ?」

小川「え?」

儀間「古いタイプの会社だから接待やら飲み会やらで給料は飛ぶし、その時にセクハラされるだけだよ?」

小川「は?」

儀間「ノルマが達成出来なかったら自費で自社製品を買わなきゃいけないだけだよ?」

小川「ちょ……?」

儀間「ボーナスの代わりに蜜柑が送られる時があるだけだよ?」

小川「それはちょっと……?」

儀間「日々、追い詰められて鬱になって辞めてく同僚を見てこっちも病んで心療内科の病院に通ってるだけだよ?」

小川「えぇ……?」

儀間「薬の副作用で手足は震えて車は運転出来ないし、眠かったりボーッとしたりして仕事休んじゃったりして支障が出てきてて、いつも上司に怒られるだけだよ?」

小川「怖ぁ……」

儀間「たったそれだけの事だよ?あー!仕事、辞めてぇなぁ!」

小川「えっ!?」

儀間「早く結婚して仕事、寿退社してぇなぁ!」

小川「えぇ!?」

儀間「どした?」

小川「今の流れって『それでも仕事にやりがいがある!』みたいな感じじゃなかった!?」

儀間「やりがいなんて無いよ!ただお金を稼ぐ為だけに惰性で適当な会社に入って日々、心身、金、全部が擦り減っていくのに疲れてるよ!」

小川「でも専業主婦も辛いとは思うんでしょ?」

儀間「だから早く結婚してパートになって責任を負わない生活がしたい!」

小川「でも子供出来たら責任は一層、重くなるよ?」

儀間「今は子供がいない家庭もある!それで良い!」

小川「まぁ、そこは自由か」

儀間「あぁ~!結婚するか宝くじでも当たんないかなぁ~!?」

小川「結婚はともかく宝くじは無理でしょ」

儀間「何でよ?」

小川「だって隕石が自分に衝突するより確率、低いんだよ?無理だって」

儀間「夢は持っていたいじゃない!」

小川「隕石に当たったら考えなさい」

儀間「分かった!」


 暗転。


 明転。


 喫茶店。

 小川、儀間、板付き。儀間、頭に包帯を巻いている。


儀間「あ痛たた……」

小川「まさか本当に隕石に当たるとはね。怪我は大丈夫なの?」

儀間「何とかね……でもこれで運は向いてきたと思う」

小川「当たって怪我したんじゃ運は着いてないと思うけど?」

儀間「それがねぇ……」

小川「何?宝くじ当たったの?」

儀間「うん!」

小川「凄っ。いくら?」

儀間「十万円!」

小川「隕石による治療費は?」

儀間「十二万円!」

小川「損してるじゃない」

儀間「でも隕石に当たった人って事でテレビや雑誌に引っ張りだこでまともに働くより数十倍、儲かってます!」

小川「年収も上がった?」

儀間「うん!」

小川「仕事は辞めた?」

儀間「うん!」

小川「貯金はしてる?」

儀間「ううん!」

小川「どうせ、すぐに飽きられちゃうんだから貯金はしなさいね?」

儀間「分かりました!」

小川「素直~」

儀間「自分に嘘を吐いて生きたくないので!」

小川「嘘かぁ……本当の事だけを話して生きていく人なんていないと思うけどねぇ」

儀間「これからは真実のみ話して生きていきます!」

小川「じゃあ本当のところ、今の生活はどうなの?」

儀間「休みが欲しいです!」

小川「休みだけ?」

儀間「だけ!」













―――終わり

『無断欠勤』



・登場人物


 北島

 藤原



・舞台


 会社のオフィス






 明転。


 会社のオフィス。デスク二つに椅子二つ。デスクの上にはノートPC。

 北島、板付き。藤原、舞台上手から登場。


藤原「おはようございます。北島課長」

北島「あぁ、藤原か。おはよう」

藤原「課長。ちょっとお時間を頂いても宜しいですか?」

北島「何だ?改まって」

藤原「実は僕、明日から無断欠勤しようと思ってまして」

北島「……え?」

藤原「ですから、僕、無断欠勤しようと思ってるんです」

北島「無断欠勤って無断で欠勤するもんだろ?報告したら意味無くないか?」

藤原「でも有給申請してませんし、明日、出勤しなかったら無断欠勤になりませんか?」

北島「いやいや、自己申告してるし」

藤原「でも明日、来なかったら欠勤になりますよね?」

北島「だけど無断ではないぞ?」

藤原「じゃあどうすれば良いんですか?」

北島「知らないよ。ってか何で無断欠勤したいと思ったの?」

藤原「僕、前々から無断欠勤してみたいなって思って」

北島「だから何で?」

藤原「何ででしょうね……?多分、家でゴロゴロしたいんだと思います」

北島「じゃあ普通に有休使えば良いじゃないか」

藤原「そうしたら無断欠勤にならないじゃないですか」

北島「どうしてそう無断欠勤に拘るの?」

藤原「おそらく遅れてきた反抗期だと思います」

北島「実家でやってくれ」

藤原「今更、両親に迷惑掛けたくないです」

北島「こっちの迷惑は考えないのか?」

藤原「会社だって僕にストレスを与えて迷惑掛けてるじゃないですか」

北島「あー……分かった。じゃあ明日は有給休暇にしておくから、じっくり無断欠勤について考えて来い」

藤原「だから無断欠勤したいって言ってるじゃないですか」

北島「許可を取りに来てる時点で無断じゃないだろ」

藤原「許可を取りに来たんじゃなくて、宣言しに来たんです」

北島「……頭痛くなってきた」

藤原「大丈夫ですか?どこか具合が悪いんですか?」

北島「ある意味でな」

藤原「ストレスが溜まってるんじゃないですか?」

北島「今まさに溜まってるよ」

藤原「何でですか?悩みがあるなら僕で良ければ聞きますよ?」

北島「お前についての悩みだよ」

藤原「僕が何をしたって言うんですか?」

北島「無断欠勤したいって許可を取る事だよ」

藤原「宣言です」

北島「大して変わらんよ」

藤原「いいえ。全然、違います。許可を取ったら無断じゃなくなるじゃないですか」

北島「え?何?じゃあ受理しなければ良いの?」

藤原「そうですね」

北島「あぁ、分かった。じゃあ明日は欠勤して良いよ」

藤原「ありがとうございます」

北島「無断じゃないけどな」

藤原「何でですか?」

北島「だって俺に宣言したじゃん」

藤原「そこを何とか無断に出来ませんか?」

北島「明日以降に勝手にやったら良いよ」

藤原「分かりました」


 暗転。


 明転。


 会社のオフィス。

 北島、板付き。藤原、舞台上手から登場。


藤原「おはようございます。課長」

北島「おはよう……あれ?お前、欠勤するんじゃなかったの?」

藤原「無断欠勤にならないなら意味無いと思って出勤しました」

北島「何でそこまで無断欠勤に拘るんだ……?」

藤原「だから遅れてきた反抗期です」

北島「何か切っ掛けでもあったのか?」

藤原「何でしょうね……?この会社で働いている内に、鬱憤が溜まってきたって言うか……?」

北島「いっそ退職するか?」

藤原「それは生活がありますから……」

北島「まぁ本当に無断欠勤したらクビになるかもしれんけどな」

藤原「そうなんですか?」

北島「重要な会議とか取り引きとかほっぽり出したらそうなるな」

藤原「じゃあその日にならないように調整します」

北島「だからって無断欠勤して良い訳じゃないけどな」

藤原「それくらい分かってますよ」

北島「じゃあ、やんなよ」

藤原「一度くらい大目に見てくれても良いじゃないですか」

北島「まぁ一度くらいないら……とは、いかん」

藤原「何でですか?」

北島「純粋に迷惑だろ」

藤原「じゃあ引き継ぎをしつつバックアップも取った上でなら良いんですか?」

北島「辞める時にやるんだよ。それは」

藤原「じゃあ辞めます。今までお世話になりました」

北島「え?引き継ぎとかは?」

藤原「これから、やります」

北島「あっそう……じゃあ辞表、書いてきてね?」

藤原「はい」


 暗転。


 明転。


 会社のオフィス。

 北島、板付き。藤原、舞台上手から登場。


藤原「おはようございます」

北島「おはよう。辞表、書いてきた?」

藤原「いえ。このまま仕事を続けます」

北島「え?」

藤原「反抗期が終わりました」

北島「どういう心境の変化?」

藤原「分かりません。朝、起きたら、もう無断欠勤なんて止めようと思いました」

北島「そんなコロコロ意見を変えられても困るんだけど……」

藤原「でも俺がいないと仕事が進まないんじゃありませんか?」

北島「いや?そんな事も無いぞ?」

藤原「え?あ、そうですか……でも仕事は辞めません」

北島「分かった。じゃあこのまま仕事を続けてくれ」

藤原「はい」

北島「とりあえずこの資料、纏めておいてくれる?」

藤原「はい」

北島「……反抗期か……反骨精神の間違いじゃないのかな?」
























―――終わり

『要は』



・登場人物


 北島

 藤原

 枝村

 西岡



・舞台


 病院喫茶



・衣装


 藤原・・・スーツ

 枝村・・・白衣

 西岡・・・看護服




 明転。


 病院喫茶。テーブル一つに椅子一つ、後ろにカウンター一つ。

 北島、藤原、板付き。


北島「へー。ここが藤原が作ったコンセプトカフェかぁ」

藤原「おう。題して病院喫茶」

北島「病院風なのは分かった。いつからオープンするんだ?」

藤原「来月頭から。だからその試作を北島に食べてもらいたいんだよ」

北島「分かった。メニューは?」

藤原「あぁ。そうだったな。ドクター?」

枝村「はーい。只今ー。(舞台下手から登場)こちら問診表になります」

北島「問診表?」

藤原「その人の体調によって出す食事を変えるんだ」

北島「へー。じゃあとりあえず書くわ……はい。書いたよ」

枝村「ありがとうございます。では少々お待ち下さい」

北島「本当にその人に合わせてメニューを変えるのか?」

藤原「簡単に言えば日替わりメニューみたいなもんだよ。別にその人に合わせてる訳じゃない」

北島「雰囲気を楽しむ的な?」

藤原「そうそう」

枝村「(舞台下手から登場)お待たせしましたー。こちらA定職になりまーす(舞台下手に退場)」

北島「……何これ?」

藤原「病院食風料理」

北島「それは良いよ。何で屎尿瓶があんの?」

藤原「お茶」

北島「は?」

藤原「お茶を入れてる」

北島「よりによって何でこの色のお茶を……?」

藤原「雰囲気あるだろ?」

北島「食欲が失せる」

藤原「そうか?要は液体を入れる物だろ?」

北島「もっとマシなのあっただろ。しかもよく見たら何これ?コップも検尿用のコップじゃないか」

藤原「雰囲気が出るかなと思って」

北島「何か嫌だよ」

藤原「そうか?要はコップだろ?」

北島「何か嫌だって言ってんの。ちょっと待って?これトーストなのは良いけど、何で注射器があんの?」

藤原「苺ジャムが入ってる」

北島「何でこの色にしたんだよ……?」

藤原「雰囲気が出るかなって思って」

北島「何か嫌だよ」

藤原「そうか?要は液体を出し入れする為の物だろ?」

北島「だから何か嫌だって言ってんの。あれ?何でメスと鉗子があんの?」

藤原「ステーキ用のやつ」

北島「何でこれなの?」

藤原「要はナイフとフォークだろ?」

北島「違うだろ。あれ?ちょっと待って?このトレーもよく見たら手術で使うような金属のやつじゃない?」

藤原「そうだよ?」

北島「また肉もレバーだし内臓感あって嫌だ」

藤原「だって要は物を乗せる為の物だろ?」

北島「合ってるけど違うだろ。これじゃあ売れないよ」

藤原「そうかなぁ?要は飯を喰う所だろ?」

北島「その認識は合ってるけどいまいち食欲が湧かない。やり直し」

藤原「えー?ここまでやったのに……」

北島「最初からやり直せ。ってか従業員から何も言われなかったのか?」

藤原「『気持ち悪い』とは言われた」

北島「ほらー。言われてるじゃん。もう一度、考え直せ。おかしいから」

藤原「そっかー……もう一度、考えてみる」


 暗転。


 明転。


 病院喫茶。

 北島、藤原、板付き。藤原、手術着。


北島「病院喫茶だよな?」

藤原「コンセプトを変えた」

北島「何に?」

藤原「手術室喫茶」

北島「売れんのか?」

藤原「やってみないと分からない」

北島「何でもそうだけども」

藤原「とりあえず食ってみてくれ。お願いしまーす」

枝村「はーい(舞台下手から登場)。お待たせしましたー」

北島「何これ?」

藤原「この前と同じ食事だよ」

北島「またこれか……」

藤原「コンセプトを変えれば良いと思ったんだけど……」

北島「良くない。まず美味しそうじゃないし」

藤原「前回もそう言ってたけど、食べてなかったじゃないか。味を見てくれ」

北島「分かったよ……うん。うん!美味い!」

藤原「だろ!?」

北島「目を瞑れば美味い!」

藤原「目を開けて食べると?」

北島「不味い!」

藤原「どうすれば良い?」

北島「普通の食器で喫茶店開けば良いと思う!」



―――終わり

『不満』



・登場人物


 儀間

 小川



・舞台


 喫茶店






 明転。


 喫茶店。テーブル一つに椅子二つ。テーブルの上にはコーヒー二つ。

 儀間、小川、板付き。


儀間「最近どうですか?正将君は」

小川「普通ですよ?」

儀間「そうですかー。ウチの康介なんか就職して一人暮らししてからここ数年、帰ってきてくれないし、メールも既読無視だし、冷たいんですよー」

小川「不満が溜まってるんですねぇ」

儀間「正将君はそういうの無いんですか?」

小川「んー……まぁ無い事も無いですけど」

儀間「へー。あの真面目な正将君もそういうのあるんですね」

小川「聞いてくれます?愚痴」

儀間「良いですよ」

小川「あの子ねぇ、就職してから帰ってくる頻度が……」

儀間「やっぱり就職で一人暮らしするとなかなか帰ってこないもんですか?」

小川「いえ、ゴールデンウィークとシルバーウィークとお盆と年末年始に帰ってくるんですよ」

儀間「ん?うん」

小川「メールも仕事中以外はすぐに返してくれるだけじゃなくて休日はいつも電話してきてくれるし」

儀間「はぁ」

小川「母の日と父の日と誕生日にプレゼント送ってくれるし」

儀間「はぁ」

小川「学生時代も勉強も受験も自分で塾を探していつも通ってたし、生活費もバイトでどうにかするって言って何とかしてたし」

儀間「はぁ」

小川「就職してからは毎月、私達に仕送り送ってくれるし」

儀間「はぁ」

小川「もう本当、困っちゃって……」

儀間「何が困るんですか?」

小川「もう非の打ち所が無い息子なんですよ。それが悩みで……」

儀間「良い息子さんじゃないですか」

小川「私もね?どこの家庭にもある不満を抱えた生活を送りたいんですよ……」

儀間「不満が無いのが不満って矛盾してません?」

小川「ほら、儀間さんの所はあまりメールを返してくれないって仰ってたじゃないですか。便りが無いのは良い便りって言うし、それくらい冷たくしてくれても良いんじゃないかなって思ってて」

儀間「優しい息子さんで良いじゃないですか。ウチなんかもう家族の事なんか忘れてるんじゃないかってくらい音沙汰無いんですよ?」

小川「家族を大切にし過ぎるのも困りものでして……」

儀間「あぁ、恋人を作らないとか?」

小川「いえ、今度、今、働いてる会社の社長の娘さんと結婚して会社の跡を継ぐって言ってました」

儀間「凄いじゃないですか。逆玉の輿ですよ?」

小川「そうなんですよ……もう将来の事も安心出来て不安で……」

儀間「安心なのか不安なのか……」

小川「ここまで親孝行だと逆に不安なんですよ……どこかで爆発するんじゃないかって……」

儀間「あぁ、遅れてきた反抗期的な?」

小川「それも心配無いんです……あの子、昔から真面目で大人しい性格なので……もう不安で不安で……」

儀間「何が不安なんですか?」

小川「その内、結婚して、孫も生まれて、会社を継いで、安定な暮らしをするのが……」

儀間「何が不安なのか分かりません」

小川「無理してるんじゃないかって思ってるんです。必死にお利巧な息子を演じてるんじゃないかって」

儀間「老後に面倒、見てもらえないみたいな?」

小川「もうその手配も終わってます」

儀間「もう、いよいよ何が不安なのか分かりません」

小川「そうですね……何が不安なのかが分からないのが不安なんです……」

儀間「第六感的なのが働いてるんですか?」

小川「そんなシックスセンス持ってません」

儀間「じゃあ何が不満なんですか?」

小川「不満が無いのが不満なんです」

儀間「ますます意味が分からない……」

小川「私も普通の生活がしたいんです。普通の家庭で、普通の日々を」

儀間「今は普通じゃないですか?」

小川「これが普通だと思うようになったら終わりだと思ってます」

儀間「有り難いとは思ってるんですか?」

小川「その安心感による不満以外は有り難いと思ってます」

儀間「じゃあ何でそこまで不満を持ちたがるんですか?」

小川「だって自慢してるみたいに見えるじゃないですか」

儀間「何が?」

小川「ウチの子は良く出来た息子でね~!不満の不の字も無いんですよ~!とか言ったらどこかから殺される気がして……」

儀間「考え過ぎです」

小川「儀間さんには分からないでしょうね……この苦悩は……」

儀間「苦しんでる様子も無いのに苦しんでるって意味が分かりません」

小川「どうすれば儀間さんの所みたいに不安な子が育つんですか?」

儀間「喧嘩、売ってます?」

小川「まさか。良い息子を持つと苦労するって話です」

儀間「本当にもう……もうこの話は止めましょう」

小川「そうですね……不毛ですよね……」

儀間「全く持ってその通りです。それより旦那さんはどうしてますか?」

小川「あ、そこはとっても良い夫でですね~!」

儀間「あぁ、そっちは満足してるんだ……どんな方でしたっけ?」

小川「定職にも着かず、毎日、昼間から酒を飲んではパチンコや競馬に行って金を溶かして、朝帰りが当たり前で、ご飯がマズいと暴力を振るってくるんですよ~!」

儀間「そこに不満を持ちましょうよ」







―――終わり

『浮気の疑い』



・登場人物


 康介(息子)

 美幸(母)

 正将(父)



・舞台


 自宅






 明転。


 自宅。テーブル一つに椅子四つ。康介、板付き。美幸、舞台上手から登場。


美幸「康介ー?お風呂の用意出来たわよー?」

康介「あいよー」

美幸「お父さん帰ってきた?」

康介「いや?今日もまだ帰ってきてない」

美幸「もう二ヶ月も日付を跨いで帰ってくるのね」

康介「あぁ、その事なんだけど……」

美幸「何?」

康介「父さん、浮気してるんじゃないか?」

美幸「あの人が?まっさか~!」

康介「だって前々から疑わしかったじゃん。次第に帰ってくる時間が遅くなってるし、体臭だって何かホテルみたいな香りがするし、食事も外で済ませるようになってきたし」

美幸「考え過ぎよ。あの人に限ってそんな事無いから」

康介「でも気になるよ」

美幸「じゃあ今日帰ってきたら聞いてみるわよ」

康介「大丈夫?」

美幸「大丈夫、大丈夫。心配いらないって」

正将「(舞台下手から登場)ただいま~」

美幸「あ、おかえんなさい」

康介「おかえり」

正将「今日も外で食事してきたから、もう寝る」

美幸「分かった。ところでアナタ?」

正将「何?」

美幸「貴方、浮気してる?」

正将「うっ……!し、し、し……!してないよっ……!?」

美幸「ほら、してないって」

康介「えっ!?」

正将「な、な、な……!?何でそんな事、聞くの……!?」

美幸「康介が疑ってんのよ。最近、帰りが遅いし、ホテルの香りがするから、浮気してるんじゃないかって」

正将「ま、ま、ま……!まさかぁ!そ、そ、そ……!そん、な事、無い、よ……!?」

美幸「そうだよねぇ?本当、おかしな事を言う子だわ」

正将「や、や、や……!やっぱり、お風呂、入、ろう、カナ……!?入って、来る、ネ……!?(舞台下手に退場)」

美幸「ごゆっくり~。ほらね?浮気してないって言ってたでしょ?」

康介「いや、いや、いや!明らかに挙動不審だったじゃん!あれ、絶対に浮気してるって!」

美幸「でも本人が浮気してないって言ってるし……」

康介「嘘だろ!絶対に!」

美幸「じゃあ何で嘘を吐くのよ?」

康介「普通に考えて離婚案件だからだろ!」

美幸「えぇ?特に散財してる訳でもないんだし、私はそれくらいで怒ったりしないわよ?」

康介「そういう問題じゃないって!倫理的にどうなのって事!」

美幸「あ~……まぁ私はここまでの年齢になったら、もう逆に尊敬するけどね。よく隠せてこれたなって」

康介「夫婦ってそんなもんなの?」

美幸「私はね?」

康介「でもいつか裏切られた時にはショック受けるかもよ?」

美幸「じゃあお風呂から上がったらもっと深く聞いてみようかしらね」

正将「(舞台下手から登場)あ、あ、あ~……サッパリした、ナァ~!」

美幸「ねぇ、アナタ?」

正将「え、え、え!?な、な、な、何……!?」

美幸「最近、帰りが遅いけど、普段、何してるの?」

正将「あ、え、あ~……!残業ダヨ~!」

美幸「じゃあ本当に仕事してるのか今から上司の方に電話してみましょう」

正将「あ、あ、あ~!もう夜も遅いし、迷惑だよ!」

美幸「その上司さんは一緒に残業してたんじゃないの?」

正将「い、い、いやぁ~……!?ドウダッタカナ~……!?」

美幸「先に帰ったの?一緒に帰ったの?」

正将「えっとぉ……えっとぉ……そのぉ……」

美幸「先に帰ったの?一緒に帰ったの?どっち?」

正将「ざ、残業は残業なんだけど、接待で~……!」

美幸「貴方、事務でしょ?裏方が接待とかするの?」

正将「ま、あ、の……!そ、そう!人が!人が足りてなかったの!うん!そうだ!人手不足で事務ですら出なきゃいけなかったんだぁ~!いやぁ~!大変ダッタナ~!」

美幸「……って言ってるけど?」

康介「疑ってる?」

美幸「全然?」

康介「怪し過ぎるって!」

正将「な、何……?どういう事……?」

美幸「康介が疑ってんのよ。絶対に浮気してるって」

正将「な、ちょっ、ば、馬鹿!お、お、お、お前、ちょっとこっちに来い!」

康介「何だよ?」

正将「お前か!?母さんに要らん事を吹き込んだのは!?」

康介「一般的に見て絶対、怪しいと思っただけだよ」

正将「金か!?金ならいくらでもやる!だからこの事は黙っててくれ!」

康介「お前、人として最低だな!」

正将「その血がお前にも流れてるんだぞ!?」

康介「反面教師にしてやるよ!」

美幸「ねぇ?何の話?」

康介「浮気を確信してる話」

正将「馬鹿野郎!変な言い掛かりは止めろ!」

美幸「ねぇ?本当は浮気してるんじゃないの?」

正将「あ、え、あ、え……!?し、し、し、してないよ……!?」

美幸「なら良かった。じゃあ私もお風呂入ってくるね(舞台上手に退場)」

正将「ごゆっくり~……!」


 間。


正将「お前なぁ!勝手な事を言うなよ!?」

康介「やっぱり浮気してるんじゃん」

正将「してないわ!ちょっと別件でとある人と会ってるだけだよ!」

康介「女の人?」

正将「う、が、ぐ……!ち、ち、ち、違うわ!」

康介「女の人なんだな」

正将「違うって言ってるだろ!?」

康介「あからさま過ぎるって」

正将「逆に聞くけど、こんなあからさまで逆に怪しくないとは思わないのか?」

康介「別に。あ、道理で。としか思わないよ」

正将「とにかく、この事は母さんには内緒にしておいてくれ!」

康介「無理」

正将「三万でどうだ!?」

康介「……もう一声」

正将「じゃあ五万でどうだ!?」

康介「……もう一声」

正将「じゃあ毎月、五万!」

康介「……分かった」

正将「よし!これで契約成立だな!」

康介「先に金、頂戴?」

正将「分かったよ……ほれ」

康介「じゃあこの事はもう話題に出さない」

正将「ありがとう!」

美幸「(舞台上手から登場)じゃあ寝るね?」

康介正将「おやすみ!」

美幸「何?二人してそんなニヤニヤして」

康介「別に?」

正将「男同士の会話をしてただけだよ!」

美幸「ふーん?分かった」


 暗転。


 明転。


 自宅。

 康介、板付き。美幸、舞台上手から登場。


美幸「康介ー?お風呂上がったよー?」

康介「おーう。じゃあ俺も入ろうかな」

美幸「ねぇ。最近、お父さん、泊りで帰ってくる事、多くない?」

康介「そうだねぇ」

美幸「あら?心配じゃないの?」

康介「何が?」

美幸「この前は『浮気してるんじゃないか?』って疑ってたのに」

康介「あぁ、何か仕事かなんかじゃない?」

美幸「そうなのかなぁ……?」

康介「何?疑ってるの?」

美幸「泊りで帰ってくるとなると流石にね」

康介「出張か何かじゃないの?」

美幸「でも突然、帰ってこない日があるって明らかにおかしいわよ?」

康介「まぁまぁ。離婚するなら離婚するで考えたら良いじゃない」

美幸「その時、アンタはどっちに着くの?」

康介「母さんに決まってるでしょ」

美幸「そう。じゃあ今日は流石に問い詰めてみましょうかね」

正将「(舞台下手から登場)ただいま~」

美幸「おかえんなさい」

康介「おかえり」

正将「さて、母さん。ちょっと良いか?」

美幸「あら?貴方も何か話があるの?」

正将「『も』って何?」

美幸「いえ。別に?」

正将「大事な話がある」

美幸「……分かった」

正将「俺、最近、帰りが遅かったよな?」

美幸「そうね」

正将「食事も外だし、泊りも多いし、流石に気付いているよな?」

美幸「……やっぱり……」

正将「あぁ、そうだ。これを受け取ってほしい(鞄から小箱を取り出す)」

美幸「私も、これを……(離婚届を取り出す)」

正将美幸「え?何これ?」

正将「離婚届!?」

美幸「指輪!?」

康介「えっ!?」

康介正将美幸「どういう事!?」

正将「まず俺から聞かせてくれる!?何で離婚!?」

美幸「だってアナタ、浮気してるでしょ!?」

正将「違うよ!?本当に仕事してたんだよ!」

美幸「だってアナタ事務でしょ!?」

正将「この前から営業に回されたんだよ!だから本当に接待やら出張やらで忙しかったんだよ!」

美幸「じゃあこの指輪は何!?」

正将「先々月で結婚して二十年だっただろ!?その記念だよ!」

美幸「……あ、そうか!そういえばそうだった!」

正将「で、この離婚届は何!?」

美幸「貴方が浮気してるって確信したから離婚しようと思ったのよ!」

正将「全然、違うわ!一生懸命、働いてたんだよ!」

美幸「じゃあ何で先々月にこれをくれなかったのよ!?」

正将「金が無かったんだよ!」

美幸「何で!?」

康介「あー……多分、俺のせいだ」

美幸「どういう事!?」

康介「父さんから口止めされてたんだよ。浮気を隠す代わりにお小遣いを貰ってた」

美幸「そうなの!?」

正将「そうだよ!」

美幸「だったら最初からそう言えば良かったでしょ!?」

正将「息子にそんな一生懸命な所、見られたくなかったんだよ!何かアッサリ渡す方が格好良いと思って!」

美幸「あっそう!じゃあ今夜は寝かさないからね!?」

正将「分かった!」

康介「あ、じゃあ俺、友達の所に泊まりに行ってきまーす」

正将美幸「行ってらっしゃい!」

康介「お幸せに!」
















―――終わり

『全部覚えてる』



・登場人物


 北島

 藤原

 枝村(刑事)

 西岡(医者)



・舞台


 病院の一室






 明転。


 病院の一室。ベッド一つに椅子二つ。

 北島、藤原、板付き。藤原、ベッドの上で横になっている。


藤原「うっ……!?」

北島「藤原!?目が覚めたか!?」

藤原「ここは……?」

北島「病院だ!ちょっと待ってろ!(ナースコールをする)」

西岡「(舞台上手から登場)目が覚めましたか?」

北島「はい!」

西岡「……うん。大丈夫そうですね。詳しい話はまた後でお話ししますので、今日は安静にしていて下さい」

北島「分かりました!」

西岡「ではまた何かありましたらいつでもお呼び下さい(舞台上手に退場)」

北島「ありがとうございます!大丈夫か!?藤原!?」

藤原「声がデケェよ……頭が痛い……」

北島「あ、すまん、すまん……」


 SE、ノックの音。


北島「どうぞー」

枝村「(舞台上手から登場)失礼します」

藤原「どなたですか?」

北島「刑事さんだ。事故の事を聞きに来たんだよ」

枝村「枝村です。早速ですが、お話、伺えますか?」

藤原「俺、事故に遭ったんですか……?」

枝村「そうです。犯人は自首しましたのでご安心を」

藤原「俺、あんまり覚えてなくて……」

枝村「覚えてる範囲で大丈夫です」

藤原「えーっと……ここにいる北島と七月十六日の午後六時二十八分にスーパーから買い物して出てきて、家に帰る道中に曲がり角からトラックがやって来て、スピードを落とさずに真っ直ぐ俺達の所に来たんで俺は北島を守らなきゃって思って突き飛ばして俺がぶつかって、北島が救急車を呼んでくれて、その間に運転手が酒気帯び運転してる事が分かって、警察に通報して、運転手は捕まって、俺は救急車に乗せられて頭を強く打ったみたいで頭が痛いって言って、二十分程でこの病院に着いて、頭を十針、縫って、その間、麻酔は無くて痛くて、疲れたなぁと思って寝て起きたらこの状態でした……そこまでしか思い出せません……」

枝村「そうですか……ではまた何か思い出したらご連絡下さい」

北島「えっ!?」

枝村「では私はこれで」

藤原「力になれず申し訳ありません……」

枝村「いえいえ。まずは治療に専念して下さい。それでは(舞台上手に退場)」

藤原「駄目だ……事故の事を全然、思い出せない……」

北島「いや、いや、いや!全部、鮮明に覚えてるよ!?」

藤原「そうか?」

北島「今、言った事、全部、合ってるよ!?」

藤原「でも記憶が曖昧で……」

北島「全然、曖昧じゃないよ!?凄くハッキリ覚えてたよ!?」

藤原「そうなのか?」

北島「そうだよ!?」

藤原「でも俺、そこまでしか覚えてないから……」

北島「十分過ぎる!これで運転手は裁判に掛けられるぞ!?」

藤原「こんな適当な記憶で訴えられるかな……?」

北島「適当は適当だよ!適して当たってる!」

藤原「そうか……とりあえず今日は疲れた……寝る……」

北島「あ、あぁ。おやすみ」


 暗転。


 明転。


 病院の一室。

 藤原、板付き。

SE、ノックの音。


藤原「どうぞー」

北島「(舞台上手から登場)よう。具合はどうだ?」

藤原「俺、何でここにいるの?」

北島「は?何を言っているんだ?」

藤原「いや、さっき刑事さんが来て事情聴取されたんだけど、俺、事故に遭ったとからしいんだけど、お前、何か知ってる?」

北島「はっ!?おいおい!昨日はハッキリと覚えてたじゃないか!」

藤原「曖昧な記憶なんだよなー……何か頭を打った事は覚えてるんだけど……」

北島「ショックによる記憶の混乱か……とりあえず覚えてる事を教えてくれ」

藤原「分かった。えーっと……北島と七月十六日の午後六時二十八分にスーパーから買い物して出てきて、家に帰る道中に曲がり角からトラックがやって来て、スピードを落とさずに真っ直ぐ俺達の所に来たんで俺は北島を守らなきゃって思って突き飛ばして俺がぶつかって、北島が救急車を呼んでくれて、その間に運転手が酒気帯び運転してる事が分かって、警察に通報して、運転手は捕まって、俺は救急車に乗せられて頭を強く打ったみたいで頭が痛いって言って、二十分程でこの病院に着いて、頭を十針、縫って、その間、麻酔は無くて痛くて、疲れたなぁと思って寝て起きたらこの状態で、昨日、刑事さんが来て事情聴取されてお前に『全部、覚えてるよ!?』みたいな事を言われて取り敢えず寝て起きたらここに居た」

北島「……合ってるよ!?」

藤原「え?合ってんの?」

北島「そうだよ!?逆に何を覚えてないの!?」

藤原「……この世の真理?」

北島「それは覚えてないんじゃなくて、分からないだけ!」

藤原「後、一歩ってところまでは覚えてるんだけどなぁ~……!そこだけ覚えてない」

北島「そんなの覚えてなくても生きていけるから安心しろ」

藤原「あれさえ覚えていれば、本が書けたのになぁ~!」

北島「胡散臭いから止めとけ」

藤原「じゃあこれから裁判?」

北島「お前、次第」

藤原「示談でも良いけどな」

北島「じゃあそうしたら?」

藤原「そうだな」


 SE、ノックの音。


藤原「どうぞー」

枝村「(舞台上手から登場)失礼します。昨日の警察の者です」

藤原「あぁ、そうでしたっけ?」

枝村「覚えてらっしゃらない?」

藤原「えーっと……ここにいる北島と七月十六日の午後六時二十八分にスーパーから買い物して出てきて、家に帰る道中に曲がり角からトラックがやって来て……」

北島「あぁ、全部、覚えてるんで大丈夫です」

枝村「あぁ、そうですか。向こうは『示談でどうにか』と申しておりましたが、どうされますか?」

藤原「じゃあそれで」

枝村「分かりました。ではこの入院費用と慰謝料の請求を弁護士を通して話し合って下さい」

藤原「分かりました」

北島「良いのか?裁判にしなくて」

藤原「時間掛かるし体力も使うし、精神的にも辛そうで面倒だから」

北島「まぁ、お前がそれで良いなら良いけど」

枝村「ちなみに入院費用と慰謝料は合わせてこれくらいの額です」

藤原「……えっ!?こんなに!?」

枝村「相場より少し高いくらいです」

藤原「こんなに頂いて良いんですか!?」

枝村「それだけ向こうも大事にしたくないって事です」

藤原「そ、そうですか……じゃ、じゃあこれで……」

枝村「分かりました。では運転手と会社には示談成立と伝えます」

藤原「宜しくお願い致します」

枝村「では私はこれで(舞台上手に退場)」

北島「どんくらい貰ったんだ?」

藤原「暫く遊んで暮らせるくらい」

北島「凄いな……」

藤原「俺、当たり屋として食ってくわ!」

北島「犯罪だから止めろ!」












―――終わり

『フードファイター』



・登場人物


 北島

 藤原

 小川

 儀間

 枝村(司会者:実況者)

 西岡(料理を運ぶ係)

 高橋(AD)



・舞台


 フードファイト会場






 明転。


 フードファイト会場。テーブル一つに椅子四つ。テーブルには積み重なった皿とステーキやハンバーグやライス。

 北島、藤原、小川、儀間、枝村、板付き。北島、藤原、小川、儀間、食べている。


枝村「さぁ!テレビキャンピヨン大食いチャレンジャーバトル!いよいよ大詰めです!この番組のレギュラーの座を賭けて戦うこのフードファイトを制するのはどちらのチームか!只今、ステーキハウスエダムラの店長さん全面協力の下、スタジオで公開収録をしております!」

北島「くっそ~!あんな細身の女の子のどこにこれらが入ってるんだ!?」

藤原「もう限界か!?」

北島「実は結構、来てる!」

藤原「俺も!」

小川「すいませーん!お水、下さーい!」

儀間「こっちもお願いしまーす!」

枝村「ラスト五分!現レギュラーの小川、儀間ペアはラストスパートを掛けるつもりだ!」

西岡「(舞台上手から水を持って来て小川と儀間の所に置き、舞台上手に退場)」

藤原「俺達も負けてられないな!」

北島「あぁ!」

藤原「すいませーん!ギブアップで!」

北島「えっ!?」

枝村「おぉっと!?ここでチャレンジャーの藤原選手、ギブアップ宣言だ!」

藤原「後は任せた!」

北島「何でだよ!?そこはこっちも水を頼んで流し込むって流れじゃなかったのかよ!?」

藤原「もう無理。これ以上、喰ったら吐いちゃう」

北島「吐いてでも喰えよ!」

藤原「司会者さーん?吐いて喰っても続行ですかー?」

枝村「その時点で失格でーす!」

藤原「な?後は任せた」

北島「『な?』じゃねぇわ!後、俺、一人であの二人に勝つのは無理だよ!」

藤原「じゃあギブアップしたら?」

北島「それは嫌だ!負けたらこれまで喰った飯の代金俺達の分だけじゃなくて相手の分を払わなきゃいけないんだぞ!?」

藤原「でもなぁ……」

北島「デモもゲバもあるか!少しでも良いから喰え!」

藤原「ゲバって何?」

北島「そこに疑問を持つな!」

藤原「だって気になるもん」

北島「学生運動でデモや闘争の際に武器として使用される角材の事だよ!ゲバルト、ドイツ語で暴力って意味!」

藤原「へー。また一つ賢くなりました」

小川「すいませーん!ハンバーグ追加でー!」

儀間「こっちはステーキ追加でー!」

北島「マズい!」

藤原「これを不味いと思うようになったならもう食べるの止めようぜ?」

西岡「(舞台上手からハンバーグとステーキを持って来て小川と儀間の前に置いて舞台上手に退場)」

北島「そういうことじゃねぇ!向こうは追加注文してるぞ!」

藤原「だから?」

北島「こっちもペースアップしないと!」

藤原「もうお腹いっぱい」

北島「このまま負けても良いのか!?」

藤原「これだけ美味しい思いしたし、もういいや」

北島「金はどうする!?」

藤原「スマホ決済で」

枝村「あ、この企画、現金のみの受け付けです」

藤原「あら。どうしましょ?」

北島「お前、今、手元にいくらある?」

藤原「俺、現金は持ち歩かない主義なんだよね。お前は?」

北島「五万円くらい」

藤原「すいませーん。今って会計いくらですか?」

西岡「五万と三千円になりますー」

北島「じゃあちょっくら金、降ろしてこい」

藤原「給料日前」

北島「俺もだよ」

藤原「じゃあどうする?」

北島「喰うしか無いだろ」

藤原「もう入んないよ?」

北島「入れるしか無いんだよ!」

藤原「無理ー」

北島「『無理ー』じゃないんだよ!喰うの!」

枝村「さぁ残り二十分を切りました!勝負は未だほぼ互角!どちらが勝つか!?」

藤原「すいませーん!珈琲、一つ!」

北島「お前、食後の珈琲、飲むつもりだろ」

藤原「丁度良い腹具合なんだよね」

北島「腹何分目?」

藤原「八分」

北島「じゃあまだ喰えるだろ!」

藤原「美味しく食べ終えるのが俺の主義でね」

北島「お前から言ってきたんだろ!?この勝負を受けようって!」

藤原「いやぁ~。まさかこんな腹に来ると思ってなかったんだよね。肉だけならいくらでも喰えると思ってたんだけど、ライスが来ちゃあもう無理よ。満腹中枢を刺激された」

北島「四十分もすれば胃門が開いてまた腹が減り出すんだけどな。俺も、もうまた腹が減ってきたから頑張れるぞ?」

藤原「人それぞれだろ?俺はもう無理」

北島「金が無くても飯が喰えて、その上、懸賞金が貰えるって言ったのはお前なんだぞ!?」

藤原「侮ってたわ~。テレビだと『案外、行けんじゃね?』と思ってたから応募したんだけど、まさかこんな早くに終わりを迎えるとはね」

北島「マジでどうすんだよ……?ってかどうしてお前、手ぶらで来たんだよ?」

藤原「絶対に勝てると思ってたから財布は持って来なかった」

北島「おいおい……!?このままだと無銭飲食だぞ!?」

藤原「その時はその時で、お前の有り金で一部は払って、残りは一緒に皿洗いでもしよう。その方がテレビ的にも美味しいかもしれんし」

北島「美味しいかどうかは今、これらを喰ってから言ってくれ!」

藤原「美味しいよ?でも美味しいで終わらせたい」

北島「お前マジでふざけんなよ……!?」

枝村「さぁラスト十秒を切りました!十!九!八!七!」

北島「最後の頼みだ!喰ってくれ!」

藤原「無理」

枝村「六!五!四!三!二!一!終了~!さぁ、結果は!?北島、藤原チーム、五.八キロ!小川、儀間チーム、六.二キロ!よってチャレンジ失敗!小川と儀間、今回も二人の勢いは止まらなかった~!今回食べたステーキ、ハンバーグ、ライスを合わせて五万六千円です!支払い、お願い致しま~す!」

高橋「(舞台上手から登場)はい、カットー!お疲れ様でしたー!最後、支払いのシーンの撮影に入りますので三十分、休憩でーす!」

藤原「さぁて、どうするかね?」

北島「あのー……」

高橋「何でしょうか?」

北島「俺達、その、手持ちが無くて……」

藤原「皿洗いの場でも撮りましょうか?」

高橋「あぁ、じゃあこのギャランティから払ったらどうですか?」

北島「あ、そうか。ギャランティ……」

藤原「それを忘れてた」

高橋「お二人合わせて六万円なので、今回は五万六千円なので、それを差し引いた四千円を後でお渡ししますね」

北島藤原「ご馳走様でした!」

高橋「いえいえ!こういう事はよくありますので!」

北島藤原「はい!」

枝村「じゃあ次のシーンではこちらの封筒に六万円入っていますので、店長さんにそのまま渡して下さい?(封筒を渡す)お釣りは収録終了後にお渡ししますので」

北島藤原「あざーっす!」

枝村「ではまたのチャレンジをお待ちしておりまーす!(舞台上手に退場)」

北島「ふぅ。何とかなったな」

藤原「撮影の後、食後の珈琲、行かね?」

北島「そうだな。この近くに喫茶店あったっけ?」

藤原「コメダ行こうぜ」















―――終わり『

採血と予防接種と点滴と』



・登場人物


 小川

 藤原



・舞台


 病院の採血室






 明転。


 病院の採血室。テーブル一つに椅子二つ、ソファ一つ、ベッド一つ。テーブルの上には採血道具一式。

 小川、藤原、板付き。


小川「藤原さーん?採血と予防接種でーす」

藤原「はーい」

小川「本日、注射を担当致します、小川です。藤原正将さんでお間違いありませんか?」

藤原「はい」

小川「まず健康診断の為の採血をします」

藤原「はい」

小川「アルコール消毒しますね。アルコールでカブレたりした事はありませんか?」

藤原「大丈夫です」

尾川「注射後に貧血を起こしたりした事もありませんか?」

藤原「前に何回か貧血で倒れた事がありました」

小川「そうですか。ではその時は仰って下さい」

藤原「はい」

小川「ではアルコール消毒しますね。はい、では採血します。痛過ぎたり具合が悪くなったら仰って下さい」

藤原「はい」

小川「じゃあちょっとチクッとしますねー」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「えっ!?そんなに痛かったですか!?」

藤原「いや、俺、注射、苦手なんですよ。だから力を抜く為に叫ぶ事にしたんです」

小川「あ、そうですか……じゃあ血を抜きますね」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「今度もそうなんですか!?」

藤原「はい」

小川「気が紛れるんですか?」

藤原「大分」

小川「あ、そう、ですか……じゃあ抜きますねー」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「これも!?」

藤原「あー、怖かったぁ……」

小川「こっちが怖いんですけど……」

藤原「インフルエンザの予防接種もお願いします」

小川「あぁ、そうでしたね。今年はインフルエンザのAが流行っているので、そちらの予防接種になります」

藤原「はい」

小川「じゃあまたチクッとしますねー」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「あの、他の患者さんもいらっしゃるのでお静かにお願いします」

藤原「無理です」

小川「まぁ、すぐですしね。じゃあ注入しますねー」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「だから怖いですって!」

藤原「はぁ……!はぁ……!」

小川「じゃあ抜きますねー」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「うるっさいなぁ……」

藤原「後コロナの方もありますよね?」

小川「……あ、そうですね。またやるのか……」

藤原「お願いします」

小川「じゃあチクッとしますねー」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「注入しますねー」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「抜きますねー」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「慣れてきた」

藤原「はぁ……!はぁ……!」

小川「もう終わりですよー」

藤原「(フラフラと立ち上がる)」

小川「大丈夫ですか?」

藤原「貧血です……!」

小川「大丈夫ですか!?点滴しますね!?(舞台下手に退場し、点滴を持ってくる)こちらに横になって下さい!」

藤原「はい……!」

小川「じゃあまたチクッとしますね!」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「一時間程で」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「落ち着くと思うので」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」小川「その間」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「安静に」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「してて下さい」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「もう痛くないでしょ!?」

藤原「ずっと刺さってるって思ったら意識的に痛いんです!ああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「一時間、叫び続けるつもりですか!?」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「今日はもう休診!休診ー!先生ー!休診にして下さーい!」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」


 暗転。


藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」


 明転。


 病院の採血室。

 藤原、板付き。


藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「(舞台下手から登場)……あ、もう点滴終わってますね」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「じゃあ抜きますねー」

藤原「ああああああああああああああああああああああああああ!」

小川「終わりましたよー」

藤原「はぁ……!はぁ……!」

小川「お疲れ様でした」

藤原「はい……!看護師さんもお疲れ様でした……!」

小川「もう耳が遠くなりそうでした」

藤原「(フラフラと立ち上がる)……あ、駄目だ。まだ眩暈がする……」

小川「寝っぱなしでしたからね。少ししたら落ち着くと思いますよ?」

藤原「ビタミン剤を注射して下さい!」

小川「飲み薬で勘弁して下さい!」





―――終わり


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ