コント集28
コント集28
271・・・例え
272・・・うろ覚え
273・・・十分経ったら起こして
274・・・適当に泳がせておけ
275・・・中毒
276・・・何中
277・・・貴族のマッサージ店
278・・・奴は四天王の中でも最弱
279・・・人違い
280・・・相合傘
『例え』
・登場人物
北島
藤原
店員
・舞台
居酒屋
明転。
居酒屋。テーブル一つに椅子二つ
北島、藤原、板付き。
藤原「決まった?」
北島「うん」
藤原「オッケー。すみませーん」
店員「(舞台下手から登場)はーい。お決まりですか?」
藤原「はい。ビールと枝豆。お前は?」
北島「この店お勧めの日本酒とエイヒレ」
店員「以上で宜しかったですか?」
藤原「はい。良いよな?」
北島「うん」
藤原「じゃあそれで」
店員「畏まりました。少々お待ち下さいー(舞台下手に退場)」
藤原「何かお前の頼んだのいかにもおっさんっぽいな」
北島「そうか?」
藤原「うん。何か昭和の日曜日の大工のお父さんみたい」
北島「何だ?その、分かりにくい例えは」
藤原「分かりにくい例え?」
北島「うん。別に昭和のお父さんだけで良くね?」
藤原「言われてみれば確かに……まるでフェザー級ボクシング選手のナックルみたいな指摘だ」
北島「……鋭いって事?」
藤原「そう」
北島「だからそう言えよ。何だよ、わざわざ長ったらしく言い換えるの」
藤原「確かに、年寄りの過去の栄光や自慢話みたいな長さだったな……」
北島「だから長いって。伝わりにくいし」
藤原「何か昔からの癖なんだよな」
北島「何?親父さんとかお袋さんの影響?」
藤原「そうだなぁ。そう言われると親父の影響かも」
北島「親父さんが昔からそんなややこしい例えをしてたの?」
藤原「そうだな。よく例えをしてたよ」
北島「もう止めろよな。頭おかしくなる」
藤原「分かったもう止める。まるでマフィアのクスリでハイになってる状態みたいだからな」
北島「また言ってるよ?」
藤原「しまった。なかなか治らないんだよな」
北島「無意識なのか?」
藤原「うん。無意識」
北島「難儀だなぁ」
藤原「まるで……おっと」
北島「言い掛けたな」
藤原「危ない、危ない」
北島「親父さんはどういう例えをしてたんだ?」
藤原「俺の成績表を見て『まるで生まれたての小鹿のように危うい成績だな』みたいな」
北島「親父さんもなかなかだな」
藤原「俺も親父みたいになりたいってその時、思ったんだよな」
北島「それって仕事に憧れを持ったんじゃないの?」
藤原「いや、親父みたいに例えが上手い人になりたいって思った」
北島「上手いか?」
藤原「絶妙だと思った」
北島「まぁ、お前よりは上手い方だと思うな」
藤原「だろ?」
北島「でも分かりにくい」
藤原「俺の親父を悪く言うのか?」
北島「そんな事無い。まるで休日に家族サービスをしてくれるような素晴らしい親父さんだと思う」
藤原「あっ!上手い例えだ!」
北島「例えってのはこう言うんだよ」
藤原「これからはお前を見習うよ!」
北島「大した事言ってねぇよ」
―――終わり
『うろ覚え』
・登場人物
北島
藤原
枝村
・舞台
居酒屋
明転。
居酒屋。テーブル一つに椅子三つ。テーブルの上には酒やつまみ。
北島、藤原、枝村、板付き。
藤原「俺さぁ、思うんだよ」
北島「何さ?」
藤原「同じクラスの小川さん、めっちゃ可愛いなって」
枝村「あー、分かるわー。美人だよね」
藤原「頭脳明晰、スポーツ万能。ああ言うのを『さては芍薬、さすれば牡丹、あれは即ち百合の花』って言うんだろ?」
北島「何でそんなあやふやななんだよ」
枝村「『立てば芍薬、座れば牡丹、香る姿はラフレシア』じゃなかったっけ?」
北島「腋臭か何かなのか?『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』だよ」
藤原「あぁ、そうかそうか」
枝村「でも小川さんってああ見えて英語がめっちゃ苦手らしいぞ?」
北島「そうなん?」
枝村「うん。日本で生活している上で英語を使う機会なんてほぼ無いし、カタカナ語というか和製英語でどうにかなるから勉強する必要が無いって言ってて、テストの点数はかなり赤点ギリギリらしい」
藤原「いかんなぁ。もっと日本はグローバルにしていかなゃ」
北島「せやなぁ」
藤原「そんなんだから日本は孤立してるって世界的に言われてるんだよ。日本はパイオニアだって」
枝村「パラグアイだろ?」
北島「ガラパゴスだよ」
藤原「あぁ、そうかそうか。ガラパゴスか。あ、もしかしてガラケーのガラってガラパゴスのガラ?」
北島「そうだよ?今更?」
藤原「成程な。今、点と点が繋がって大きな点になったわ」
枝村「円だよ」
北島「極端過ぎるだろ。線だよ」
藤原「あぁ、そうかそうか。線か。いやー、北島、何でも知ってるなぁ」
北島「お前らがうろ覚え過ぎるんだよ」
枝村「俺達ずっと勘違いしてたみたいだな」
藤原「うん。そうみたい」
北島「よくそれで今までやってこれたな。他で言ってないだろうな?」
藤原「特に言ってないな」
枝村「俺も」
北島「なら良かった」
藤原「助かったよ。北島」
枝村「北島のお陰だよ。赤っ恥掻くところだった」
北島「本当だよ。恥ずかしいったらありゃしない」
藤原「これって義務教育の範囲?」
北島「違うと思うけど?」
枝村「じゃあ間違ってても仕方ないな」
北島「そうはならんやろ」
藤原「でも知らなくても今まで困ってなかったし」
枝村「そうそう。誰にも言ってないし」
北島「俺に言ったじゃん」
藤原「それは話の流れだろ?」
北島「俺に指摘されて恥ずかしいとは思わなかったのか?」
枝村「……確かに」
藤原「うわっ。今更になって恥ずかしくなってきた」
北島「二人共、顔、真っ赤だぞ」
枝村「めっちゃ恥ずかしい。なぁ?」
藤原「うん。これは恥ずかしい」
北島「良かったよ。羞恥心があって」
枝村「俺にこんな感情があったなんて……」
藤原「知らなかった……これが『恥ずかしい』という気持ち……」
北島「そこから?」
枝村「北島。ありがとう」
藤原「俺達に大切な気持ちを教えてくれて」
北島「そこまで?誰しもある感情だと思うんだけど?」
枝村「俺、知らなかった」
藤原「俺も」
北島「あっそう。まぁとりあえず飲もうや」
枝村「いや。ここで赤っ恥を搔いたから恥ずかしくて飲めない」
北島「え?」
藤原「そうだな。俺達、二人で反省会してくる」
北島「え?俺、一人で飲むの?」
枝村「飲んでも良いし、帰っても良い(財布から五千円札を取り出す)」
藤原「(財布から五千円札を取り出す)これはお礼だ。受け取ってくれ」
北島「受け取れないよ。こんなの」
枝村「俺達の気持ちだ。これで美味しい飯でも食ってくれ」
藤原「じゃあな(枝村と共に舞台上手に退場)」
北島「あっ。おーい?……これは恥ずかしくないのか……?」
―――終わり
『十分経ったら起こして』
・登場人物
康介(息子)
正将(父)
美幸(母)
・舞台
正将の部屋
明転。
正将の部屋。デスク一つに椅子一つ。
正将、板付き。
正将「母さーん?」
美幸「はーい(舞台下手から登場)。何?お父さん」
正将「徹夜で仕事してるんだけど終わらなくて。仮眠を取るから十分、経ったら起こしてくれない?」
美幸「分かった。じゃあ少しの間、寝てね?(舞台下手に退場)」
正将「うん(デスクに突っ伏して寝る)」
間。
SE、アラームの音。
美幸「お父さーん?十分、経ったわよー?(舞台下手から登場)お父さーん?起きないわね(舞台下手に退場し、ハリセンを持って来て登場)。お父さーん?(ハリセンで叩く)起きないわね(ハリセンで叩き続ける)お父さーん?起きてー?」
康介「(舞台下手から登場)何だよ。五月蠅いな」
美幸「あ、康介。ごめんね、五月蠅くして」
康介「何してんの?デケェ音してたけど」
美幸「お父さんが起きないのよ」
康介「寝かせてやったら?昨日から徹夜してんでしょ?」
美幸「まだ仕事あるから十分、経ったら起こしてって言われたのよ」
康介「えぇ?父さん?父さん?起きないな」
美幸「壊れちゃったのかしら?」
康介「そんなテレビみたいな」
美幸「ちょっと叩いて直そうかしらね(正将を叩く)。お父さーん?起きてー?(叩き続ける)」
康介「ちょっと、ちょっと。父さんが本当に壊れちゃうだろ」
美幸「起きないわね。じゃあ……(正将を殴る)お父さーん?起きてー?(殴り続ける)」
康介「ちょっと、ちょっと!?本当に壊れちゃうって!」
美幸「止めないで康介!お父さんを興す為よ!」
康介「死んじゃうって!」
美幸「えっ!?まさか本当に!?」
正将「……グー……」
美幸「寝てるわね」
康介「良かった。生きてる」
美幸「ちょっと刺激を与え過ぎたからくすぐってみましょうか(正将をくすぐる)。起きないわね」
康介「痛みに慣れちゃったのかもね」
正将「(床に倒れる)」
美幸「お父さん!?」
正将「大変だ!息してない!」
美幸「心臓マッサージ!(正将に心臓マッサージをする)康介!救急に通報!」
康介「分かった!(舞台下手に退場)」
美幸「これじゃあ足りないかもしれない!もっと刺激を与えないと!(正将の胸を殴る)起きて!お父さん!起きて!(胸を殴り続ける)」
康介「(舞台下手から登場)今、通報した!って、何してんの!?」
美幸「心臓マッサージよ!」
康介「止めろよ!本当に死んじゃうって!」
SE、救急車のサイレンの音。
美幸「あっ!救急車、来たみたい!ちょっと出てくるからお父さんの事、見ててね!?(舞台下手に退場)」
康介「分かった!……下手に刺激しないで安静にしてた方が良いよな……?(耳元で囁く)父さん?起きてくれー……」
正将「あっはっはっはっは!」
康介「あっ!息を吹き返した!」
正将「あー、良く寝たー」
康介「父さん!良かった!生きてた!」
正将「康介、止めろよなー。いきなり耳に息を吹き掛けるの」
康介「さっき母さんがくすぐった時は起きなかったのに」
正将「そうなの?俺、耳以外は大丈夫なんだよね」
康介「そうなんだ。それより!」
正将「何だよ?」
康介「父さん、さっきまで息してなかったんだよ!」
正将「あぁ。多分、俺、無呼吸症候群だからだと思うよ」
康介「え?」
正将「もう歳かなー。まだ生死に関わる程じゃないから大丈夫だけど」
康介「あ、そうなんだ……ところでさっき母さんがバシバシ叩いたりドンドン殴ってたけど大丈夫なの?頭とか胸とか痛くない?」
正将「あー……その点は大丈夫」
康介「何で?結構な勢いだったよ?」
正将「息子にこんな事を言うのもアレなんだが……父さんと母さんはそれなりに激しい愛し方をしてたから耐性があるんだ」
康介「……あっ、ふーん……」
正将「すまん。いらん心配掛けて」
康介「大丈夫だよ。この際だ。病院で無呼吸症候群について診てもらいなよ」
正将「でも仕事が……」
康介「仕事と命、どっちが大事?」
正将「命と金だったら金を選ぶんだけどな……」
康介「その病んだところも診てもらいな」
正将「分かった。暫く休むよ」
美幸「こっちでーす!(舞台下手から登場)あっ!お父さん!?気が付いたのね!?」
正将「心配掛けてすまない」
美幸「気が付いて良かった……!(正将の頬を叩く)この痛みが分かる?」
正将「あぁ、気持ち良いよ」
康介「気持ち悪っ」
正将「気持ち良いよ?お前も母さんに叩いてもらったら?」
康介「実の母にそんな事、頼める訳無いだろ!さっさと病院に行って頭、診てもらってこい!」
―――終わり
『適当に泳がせておけ』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
マフィアのボスの部屋
北島「奴は今どうしてる?」
藤原「普通の生活を送っています」
北島「そうか」
藤原「奴はどのように致しましょうか?」
北島「適当に泳がせておけ」
藤原「畏まりました」
明転。
マフィアのボスの部屋。デスク一つに椅子一つ。
北島、板付き。藤原、舞台上手から登場。
藤原「失礼します。ボス」
北島「藤原か。あれから一ヶ月が経ったな。その後、奴はどうしてる?」
藤原「奴は適当に泳がせています」
北島「今は何をしている?」
藤原「拉致して軟禁してます」
北島「おいおい。それじゃあ奴は自由じゃないじゃないか」
藤原「適当に泳がせておく事が出来ないと思ったので」
北島「逆に縛り付けてるだろ。まぁ良い。奴は今どうしてる?」
藤原「適当に泳いでいます」
北島「え?」
藤原「(スマートフォンを取り出す)あ、今はジュースを飲んでますね」
北島「は?え?何、言ってんの?」
藤原「あ、また泳ぎ出しましたね」
北島「え?本当に適当に泳がせてんの?」
藤原「ボスがそう仰ったんじゃないですか」
北島「馬鹿正直に拉致して適当に泳がせる奴がどこにいる!?」
藤原「奴はプールにいますけど?」
北島「お前の事だよ!この馬鹿!」
藤原「ボスの言う通りにしたのに」
北島「ってかプールって言った?俺のあの特注で業者に作らせたあのプール?」
藤原「そうです」
北島「あんな豪華な所で泳がせてどうすんだよ!?」
藤原「でもボスはあのプールをお作りになってから一度も泳いでないじゃないですか。丁度良い軟禁場所だと思いますけどね」
北島「有効活用だとでも思ってんのか!?」
藤原「そうです」
北島「『そうです』じゃあないんだよ!後ジュース飲んでるって言ってたな!?」
藤原「はい」
北島「何でそんな快適な生活を送らせてるんだよ!?」
藤原「軟禁なので」
北島「こんな過ごし易い軟禁があってたまるか!」
藤原「じゃあどうすれば良かったんですか?」
北島「適当に普通の生活を送らせて、見張れば良かったんだよ!」
藤原「そんな面倒な事、誰がするんですか?」
北島「お前がやれば良いだろ!」
藤原「労働基準法って知ってます?」
北島「マフィアの俺達にそんなのあるか!」
藤原「でも寝不足とかになって体調崩して見張りが出来なくなるくらいなら、いっそ捕まえて監視カメラで監視した方が楽じゃないですか?」
北島「一理あるな……」
藤原「どうせ捕まえてどうこうするくらいならもう今の内に捕まえて準備を整えた方が良くないですか?」
北島「でも奴が消えたとなると捜索願でも出されたら……」
藤原「結局、消すんですからあまり意味無いのでは?」
北島「だけど準備が……」
藤原「だから今の内に準備するんでしょ?」
北島「それもそうか」
藤原「じゃあ後の準備はこちらで進めておきますんで」
北島「不安だなぁ……」
藤原「大船に乗ったつもりで任せて下さい」
北島「アレを吐くまで痛めつけろよ?」
藤原「畏まりました」
暗転。
明転。
マフィアのボスの部屋。
北島、板付き。藤原、舞台上手から登場。
藤原「失礼します。ボス」
北島「藤原か。どうだ?奴の様子は?」
藤原「昨日、拷問しました」
北島「それで?」
藤原「奴は死にました」
北島「何をやってる?アレは吐いたのか?」
藤原「吐きました」
北島「そうか。よくやった」
藤原「ありがとうございます」
北島「で、奴は何て言った?」
藤原「『おえー!』だそうです」
北島「え?」
藤原「『うぐー!』とも言ってました」
北島「何、言ってんの?」
藤原「吐いた時の言葉です」
北島「いやいや。アレは吐いたのか?」
藤原「吐きましたよ?」
北島「だから何て?」
藤原「だから『おえー!』とか『うぐー!』ですよ?」
北島「もしかしてお前、本当に吐かせただけじゃないだろうな?」
藤原「『アレ』って吐瀉物の事じゃないんですか?」
北島「違うわ!政府の人間の弱みだよ!」
藤原「あ、そうだったんですか?てっきりそのままの意味で吐かせれば良いのかと思いました」
北島「『大船に乗ったつもりで』って言うから任せたものの……お前の処分、覚悟しておけよ?」
藤原「処分って事は、俺、殺されるんですか?」
北島「今回はそういう意味だな。やっと分かったか」
―――終わり
『中毒』
・登場人物
康介
正将
・舞台
康介の部屋
明転。
康介の部屋。康介、サプリを飲んでいる。
康介「くぅ~!キマる~!」
正将「(舞台下手から登場)康介!」
康介「親父!?」
正将「またそんなもの飲んでるのか!?お前はいつからそんな子に育ったんだ!?」
康介「五月蠅ぇ!親父に関係無ぇだろ!」
正将「何を飲んでた!?言え!」
康介「乳酸菌だよ!」
正将「何でそんなの飲んでるんだ!?」
康介「最近お腹の調子が悪いから飲んでんだよ!」
正将「これは何だ!?」
康介「亜鉛だよ!」
正将「何でこんなの飲むんだ!?」
康介「最近、亜鉛不足で味を感じにくいから飲んでるんだよ!」
正将「待て!これらを何で飲んでいた!?」
康介「青汁だよ!?文句あっか!?」
正将「お前はどこを目指してるんだ!?」
康介「健康になりたいんだよ!」
正将「健康になってどうするつもりだ!?」
康介「長生きする事だ!ギネス記録を塗り替える!」
正将「そんな長生きしても辛いだけだぞ!?」
康介「辛くても世界一になりたいんだ!」
正将「死んでから世界一になっても栄光は掴めないんだぞ!?」
康介「生きている内に塗り替えられるんだからその栄光は手に入れられる!」
正将「もう止めなさい!お父さんみたいに煙草を吸いなさい!」
康介「嫌だ!」
正将「お父さんみたいに酒を毎日、浴びる程、飲みなさい!」
康介「嫌だ!」
正将「パチンコ、競馬、競輪、オートレース、ボートレース。心も体もボロボロになりなさい!」
康介「絶対に嫌だ!病院の世話にだけはなりたくない!(青汁を飲む)」
正将「止めなさい!(青汁を奪い取る)」
康介「(青汁を取り出して飲む)」
正将「止めなさい!(青汁を奪い取る)」
康介「(青汁を取り出して飲む)」
正将「止めなさい!(青汁を奪い取る)も~!健康になっちゃう~!それ以上、健康になってどうするの~!?」
康介「親父に関係無いだろうが!」
正将「それ以上、健康になったら身を滅ぼしちゃう~!」
康介「身を保つの間違いだろ!」
正将「そんな言葉は無ぇ!」
康介「五月蠅ぇ!親父こそ、そんな不健康になってどうするんだ!?」
正将「早死にしたいんだよ!こんな社会、もう嫌なんだよ!」
康介「だったらさっさと自殺すれば良いだろ!」
正将「世間体的に自殺じゃ格好付かないだろ!」
康介「真実を知ったらその死に方も格好付かないだろ!」
正将「五月蠅い!この日本で長生きは若者に迷惑なんだよ!」
康介「老害にならない程度に金を稼ぐから良いんだよ!」
正将「あのブラック企業で働いてたらすぐに過労死するぞ!?」
康介「だからこそサプリと青汁で長生きするんだよ!」
正将「もう諦めなさい!健康になる事に誇示し過ぎてたら身を滅ぼすぞ!?」
康介「じゃあ親父にとって願ったり叶ったりじゃないか!」
正将「はっ!?それもそうか!」
康介「さっさと出ていけ!」
正将「分かったよ!お前とは絶縁だ!」
康介「あぁ!分かったよ!こんな家、出てってやるよ!」
正将「あぁ!出ていけ!お前なんかもう知らん!(舞台下手に退場)」
康介「……健康な生活を送りたいだけなんだ……!」
―――終わり
『何中』
・登場人物
北島
藤原
枝村
西岡
松本
村野
・舞台
道端
明転。
道端。
北島、藤原、枝村、舞台下手から登場。西岡、松本、村野、舞台上手から登場。北島、西岡、肩をぶつける。
北島「いってぇ!テメェ、何すんだ!?」
西岡「そっちからぶつかってきたんだろうが!」
藤原「何だ何だ?」
松本「大丈夫か?」
北島「テメェら何中だ!?コラァ!」
西岡「禁煙中だコラァ!」
北島「え?」
松本「ダイエット中だコラァ!」
北島「は?」
村野「通院中だコラァ!」
北島「何、言ってんの?」
藤原「こっちは禁酒中だコラァ!」
枝村「俺は別居中だコラァ!」
北島「お前らまで何を言ってんだ?」
西岡「何中だ?って聞かれたから答えたんだけど?」
北島「どこの中学出身だって聞いてんだよ」
西岡「俺達は東中出身だコラァ!」
藤原「マジ?俺達も東中出身だよ!」
村野「マジで?年齢は?」
枝村「二十五」
松本「マジ?俺らも二十五」
西岡「名前は?」
藤原「藤原」
枝村「枝村」
村野「マジか!俺、村野!」
藤原「マジか!じゃあお前もしかして松本?」
松本「そう!」
西岡「俺、西岡。お前はもしかして北島か?」
北島「あ、あぁ……」
西岡「マジか!久し振りだな!」
藤原「プチ同窓会しようぜ!」
枝村「良いな!お前ら予定はあるか?」
村野「特に無い!」
松本「俺達これから焼き肉屋行くんだ。一緒に行こうぜ。多分、席、空いてるからよ」
藤原「サンキュー!」
枝村「じゃあお言葉に甘えて!」
村野「じゃあ行こうぜ!(藤原、枝村、松本と共に舞台下手に退場)」
北島「何か悪かったな」
西岡「良いよ。別に気にしてないよ。それこそこっちこそ悪かったな」
北島「じゃあお互い様って事で」
西岡「そうだな」
北島「さっき禁煙中って聞いたけど?」
西岡「この前、会社の健康診断で肺癌の疑い有りって事で禁煙してるんだ」
北島「その成りで会社勤めしてんのかよ……」
西岡「何か言った?」
北島「いや、別に。松本はダイエット中だって?」
西岡「見れば分かると思うけど、会社の健康診断で糖尿病と痛風でダイエット中なんだと」
北島「そんな奴がこれから焼肉屋に行って良いのか?」
西岡「糖質とアルコールを摂らなければ良いだけだから肉は良いんだって本人は言ってた。
北島「あっそう。村野は?通院中だって?」
西岡「ついこの間、脳卒中になっちゃって、今は治療中なんだと」
北島「何で出歩いてんの?」
西岡「仲間と一緒に虚勢を張ってないとやってけないんだって」
北島「お大事にって言っておいて」
西岡「後で本人に言えば良いじゃん」
北島「それもそうか」
西岡「藤原は禁酒中だって?」
北島「元々アル中だったんだけど、会社の健康診断で引っかかって禁酒中なんだと」
西岡「あんな成りで会社勤めなのか……」
北島「お前が言うな」
西岡「あはは。枝村は別居中だって?」
北島「今、離婚協議中なんだって」
西岡「皆、何かしら『中』なんだなぁ」
北島「だな」
西岡「そういうお前は今、何中なんだ?」
北島「皆の様子を経過観察中かな」
―――終わり
『貴族のマッサージ店』
・登場人物
北島
藤原
川崎
枝村
西岡
藤縄
米山
大島
今井
高橋
佐藤
石川
小川
儀間
菅原
加藤
井上
中山
板垣
福島
藤沢
川田
島崎
・舞台
マッサージ店
明転。
マッサージ店。舞台上手側、店の外。舞台中央から舞台下手側、マッサージ店。舞台中央には受付カウンターとベッド、ベッドの下には籠。藤原、板付き。北島、舞台上手から登場。
北島「貴族のマッサージ店?知らないなぁ。入ってみるか(店の中に入る)」
藤原「いらっしゃいませー」
北島「予約してなくて初めてなんですけどいけますか?」
藤原「はい。すぐにご案内出来ますよ」
北島「料金表とかって見せてもらえますか?」
藤原「(カウンターから料金表を出す)どうぞ」
北島「首、肩、腰、太腿、脹脛、足裏、どれも千円なんですね」
藤原「一人当たりその価格になっております」
北島「大人数で来る客もいるんですか?」
藤原「時折、いらっしゃいます」
北島「じゃあ腕も追加して全身くまなくマッサージしてもらいましょうかね」
藤原「宜しいのですか?このお店は高いですよ?」
北島「だって一箇所、千円なんでしょ?」
藤原「はい」
北島「じゃあ全身やっても一万円、行かないくらいでしょ?」
藤原「まぁお客様がそう仰るなら……こちらへどうぞ(バインダーとボールペンを持って北島と共にベッドの方へ行く)。こちらにお掛け下さい」
北島「はい」
藤原「こちら同意書になります。一度お読みになってからこちらにサインをお願い致します」
北島「はい(サインをする)」
藤原「本当に宜しいのですか?そんな禄に読みもせずサインしちゃって」
北島「どうせ大した事、書いてないでしょ?要するに店に責任は無い、自己責任、医療じゃないって事でしょ?」
藤原「まぁ、お客様がそれで良いなら良いですけど。では施術を始めますのでお荷物をそちらの籠に置いて、うつ伏せになって下さい」
北島「はい(財布とスマートフォンを籠に入れる)」
藤原「では本日、担当致します、藤原です」
北島「宜しくお願いします」
藤原「今回は頭を担当致します」
北島「頭を担当?」
川崎「(舞台下手から登場)今回、首を担当致します、川崎です」
北島「え?」
枝村「(舞台下手から登場)今回、右肩を担当致します、枝村です」
北島「は?」
西岡「(舞台下手から登場)今回、左肩を担当致します、西岡です」
藤縄「(舞台下手から登場)今回、右の肩甲骨を担当致します、藤縄です」
米山「(舞台下手から登場)今回、左の肩甲骨を担当致します、米山です」
大島「(舞台下手から登場)今回、腰の右側を担当致します、大島です」
今井「(舞台下手から登場)今回、腰の左側を担当致します、今井です」
高橋「(舞台下手から登場)今回、右二の腕を担当致します、高橋です」
佐藤「(舞台下手から登場)今回、右の前腕を担当致します、佐藤です」
石川「(舞台下手から登場)今回、右手を担当致します、石川です」
小川「(舞台下手から登場)今回、左二の腕を担当致します、小川です」
儀間「(舞台下手から登場)今回、左の前腕を担当致します、儀間です」
菅原「(舞台下手から登場)今回、左手を担当致します、菅原です」
加藤「(舞台下手から登場)今回、右臀部を担当致します、加藤です」
井上「(舞台下手から登場)今回、左臀部を担当致します、井上です」
中山「(舞台下手から登場)今回、右太腿を担当致します、中山です」
板垣「(舞台下手から登場)今回、右脹脛を担当致します、板垣です」
福島「(舞台下手から登場)今回、右の足裏を担当致します、福島です」
藤沢「(舞台下手から登場)今回、左太腿を担当致します、藤沢です」
川田「(舞台下手から登場)今回、左脹脛を担当致します、川田です」
島崎「(舞台下手から登場)今回、左の足裏を担当致します、島崎です」
北島「こんなにいるんですか!?」
藤原「貴族のマッサージ店ですので」
北島「あっ、あの大勢の臣下に揉ませてる的なアレですか!?」
藤原「そうです」
北島「怖い、怖い、怖い!やっぱり止めます!」
藤原「気持ち良いですよ~。すぐ楽になりますからね~」
北島「別の意味で楽になりそうなんですけど!?」
藤原「ほ~ら、怖くな~い、怖くな~い」
北島「う、うわああああああああああああああああああああああ!?」
藤原枝村西岡藤縄米山大島今井高橋佐藤石川小川儀間菅原中山板垣福島藤沢川田島崎「はいリラ~ックス、リラ~ックス……」
北島「止めろ!止めてくれー!」
藤原枝村西岡藤縄米山大島今井高橋佐藤石川小川儀間菅原中山板垣福島藤沢川田島崎「はい気持ち良~い、気持ち良~い……」
北島「嫌だあああああああああああああああああああああああ!!」
暗転。
明転。
マッサージ店。
北島、ベッドの上で寝ている。
北島「ぐが~……は、ハッ!?」
藤原「(舞台下手から登場)あ、お目覚めになりましたか?」
北島「俺は、一体……?」
藤原「我々の施術中に寝てしまったんですよ。気持ち良かったですか?」
北島「いえ、恐怖のあまり気絶したみたいです……」
藤原「そうですか。それは残念です。ではご準備が出来ましたら受付にてお会計になります」
北島「はい。(準備をして受付に行く)おいくらですか?」
藤原「二万四千円になります」
北島「高っ!?何でそんなに高いんですか!?一箇所千円でしょ!?」
藤原「そうですよ?」
北島「だって首、肩、腰、脚、腕で五千円くらいなんじゃないですか!?」
藤原「もっとありますね。頭、首、両肩、両肩甲骨、両二の腕、両腕、両手、腰回り、両太腿、両脹脛、両足なので、計二十三箇所です」
北島「えぇ!?一人当たりってもしかして施術する人、一人当たり千円って事ですか!?」
藤原「そうです」
北島「あんなに怖い思いをして二万四千円も取られるの!?」
藤原「気絶してましたけどね」
北島「気絶してたからちゃんと施術されてたかどうか分からないのに金払わなきゃいけないの!?」
藤原「監視カメラ観ます?」
北島「あ、はい……(監視カメラの映像を観る)あ、本当に施術してくれてる。分かりました。信用します」
藤原「ありがとうございます」
北島「でも気を失ってるだけで二万四千円かぁ……」
藤原「気を失うって体験、なかなか出来ないと思いますよ?」
北島「それもそうか」
藤原「ではお会計、二万四千円になります」
北島「はい」
藤原「二万四千円、丁度お預かりです。領収書とレシートは要りますか?」
北島「要らないです」
藤原「畏まりました。それではこちらスタンプカードになります。もし宜しければまたご利用下さい」
北島「スタンプカードっていくらで一ポイントなんですか?」
藤原「千円で一ポイントです」
北島「って事は今回で二十四ポイントか」
藤原「そうですね」
北島「いくら貯めるとどうなるの?」
藤原「百ポイントで半額クーポン券になります」
北島「じゃあいっぱい来た方が得じゃんね。これからも来ます」
藤原「ありがとうございます。宜しくお願い致します」
北島「じゃあまた来ます。ありがとうございました(店を出る)」
藤原「お客様お帰りでーす!」
藤原枝村西岡藤縄米山大島今井高橋佐藤石川小川儀間菅原中山板垣福島藤沢川田島崎「ありがとうございましたー!」
北島「次からは気絶しないようにしなきゃな」
藤原「お客さまー!」
北島「何ですか?」
藤原「こちらをお渡しするのを忘れてました」
北島「『気絶割チケット』?」
藤原「はい」
北島「何これ?」
藤原「気絶した方に渡す割引券です。一回で更に半額、お安くなります」
北島「あ、そうなんですか?じゃあ有難く」
藤原「またお越しくださいませー」
北島「また気絶しに行くかぁ」
―――終わり
『奴は四天王の中でも最弱』
・登場人物
勇者
魔王
四天王A(以下:四A)
四天王B(以下:四B)
四天王C(以下:四C)
四天王D(以下:四D)
・舞台
魔王城
明転。
魔王城。玉座が一つ。
魔王、四A~C、板付き。魔王、玉座に座っている。勇者、舞台上手から登場。
勇者「やっとここまで来たぞ!魔王!四天王!今日こそ決着を着けてやる!」
魔王「ククク……来たか、勇者よ」
四A「ここに来たって事は」
四B「我ら四天王の一人のアイツは」
勇者「あぁ!倒した!残るはお前らだけだ!」
四C「そうか、やられたか」
魔王「だが奴は四天王の中でも最弱」
勇者「何だと!?」
四A「アイツは弱かった」
四B「気が弱く」
四C「愚かだった」
勇者「死んだ仲間の事を悪く言うなんて……!許せん!」
魔王「だが上司思いで」
四A「部下思いで」
四B「誰よりも優しくて」
四C「強い信念を持って生きていた」
勇者「え?」
魔王四ABC「良い奴だった……!」
勇者「え?え?え?」
魔王「毎日、我らに食事を作り」
四A「毎日、我らの部屋の掃除をし」
四B「毎日、風呂で我らの背中を流し」
四C「毎日、我らに頼まれた買い物をし」
魔王四ABC「本当に良い奴だった……!」
勇者「え?あの、その……」
魔王四ABC「貴様だけは許さん!」
勇者「何かごめん……」
魔王「『何か』じゃない!」
四A「貴様は俺達の大事な者を奪った!」
四B「とても大切な、世界中でただ一人のアイツを!」
四C「ここから生きて帰れると思うなよ!」
勇者「何か思ってたのと違うなぁ……」
魔王「何が?」
勇者「いや、何かこう……もっと部下を駒にしか思ってない的な感じかと思ってた」
四A「そんな訳無いだろ!」
四B「アイツは血は繋がってなくても!」
四C「大切な家族だった!」
魔王「それを奪ったお前だけは!」
魔王四ABC「許さねぇ!」
勇者「あ、そういうスタンスだったんだ……何か本格的にごめん」
魔王「掛かって来い!」
四A「俺達は逃げも隠れもしない!」
四B「真っ直ぐだったアイツのように!」
四C「俺達の為に最期まで生き抜いたアイツの為に!」
魔王「俺達は!」
魔王四ABC「負けねぇ!」
勇者「結構、家族思いなんすね……」
魔王「そういうお前には家族はいないのか!?」
勇者「いや、いたけど……」
四A「『いた』って言うのは何か意味深だな!?」
四B「どういう事だ!?」
勇者「いや、あの……貴方達に家を吹き飛ばされました……」
魔王四ABC「何っ!?」
四C「それはすまなかった!」
魔王「ご家族は無事か!?」
勇者「その時、バカンスに行ってたので無事です……」
四A「……あっ!?アレか!?」
四B「あの時のアレか!」
勇者「何?」
四C「あのー、非常に申し上げにくいのですが……」
勇者「何か事情があるの?」
魔王「それ誤解です」
勇者「どういう事?」
四A「それ魔法の実験に失敗して爆発したんです……」
勇者「は?」
四B「火力を確かめる実験でパワーを調節してたら間違えて火力マックスにしちゃって暴発しちゃったんです」
勇者「え?でも昔から人間と魔族って争ってない?」
四C「昔はありましたね。今はお互いに共存してます」
勇者「今は?俺、自分の国の王様から命を受けてこうやって討伐しに来てるけど……?」
魔王「あの爆発事故が原因であの国が『魔族は撲滅すべき!』って運動があって、それに巻き込まれたんだと思います」
四A「なので今は一部のその勢力と戦ってるだけなので基本、人間達とは喧嘩はしないんです」
勇者「あ、そうなの?じゃあ四天王って名乗ってんのって何?」
四B「別に意味は無いです」
四C「家族になった者をそう名乗ってるだけで、三天王になったり五天王になったりしますよ」
勇者「そう、なんですか……俺は洗脳されてたんですね」
魔王「まぁ、そうなりますね。二世ってやつですかね」
勇者「あ、もしかしたらまだ息の根、止めてないかも!今ならアイツ、助かるかも!」
魔王四ABC「何っ!?」
勇者「すぐ行きましょう!」
魔王四ABC「はい!」
暗転。
明転。
魔王城。
勇者、魔王、四A~D、舞台上手から登場。
魔王「いや~。助かって良かったなぁ」
四D「ご迷惑をお掛けしました」
勇者「いや、こちらこそ申し訳ありませんでした」
四A「しかし最近の医療技術って凄いなぁ」
四B「うん。あれだけ出血してても治るんだもん」
勇者「本当にこの度は申し訳ありませんでした」
四D「良いんですよ。先に攻撃をしたのはこっちなんですから」
四C「そうそう。こっちも『勇者が来た!』って言われて攻撃したんですから」
勇者「それでも、ごめんなさい」
魔王四ABCD「こっちこそ、ごめんなさい」
一同、爆笑。
勇者「じゃあ俺はこれで」
魔王「え?もうですか?」
四A「もっとゆっくりしってって下さいな」
勇者「いえ。俺にはやる事があるんで」
四B「何をですか?」
勇者「自国と魔族の和解の為の架け橋になる事です」
四C「大丈夫なんですか?そんな怖い事して」
勇者「大丈夫です」
四A「何か我々にお手伝い出来る事はありますか?」
勇者「いや、人間の問題は人間で解決します」
魔王「そうですか。ご武運を」
勇者「ありがとうございます。では(舞台上手に退場)」
魔王「行っちゃったな」
四B「はい」
四C「あの子も我々の家族になりましたね」
魔王「あぁ。五天王は」
四A「俺様は剣術が長けてて」
四B「私は頭が良くて」
四C「俺はユーモアががあって」
四D「僕は優しくて」
魔王「アイツは」
魔王四ABCD「コミュ力お化け!」
―――終わり
『人違い』
・登場人物
北島
藤原
枝村
・舞台
道端
取調室
明転。
舞台手前、道端。舞台奥、取調室。取調室にはデスク一つに椅子二つ。
北島、舞台手前下手から登場し、舞台手前上手側に向かう。藤原、舞台手前上手から登場。枝村、舞台手前下手から登場。
藤原「北島康介だな?」
北島「え?あ、はい」
藤原「警察だ」
北島「警察?藤原警部さん?と枝村刑事さん?が何の用ですか?」
藤原「俺達が来たって事は、意味は分かるな?」
北島「いや、分かりませんけど……」
枝村「署までご同行、願えますか?」
北島「まぁ、疑いが晴れるなら……」
藤原「じゃあこっちに(舞台手前上手に北島と枝村と共に一旦退場し、取調室がある奥の舞台奥上手から北島と枝村と共に登場)。まぁ座れ」
北島「はい」
藤原「北島康介。そうだな?」
北島「はい」
藤原「1996年五月二日、宮城県仙台市、生まれ。そうだな?」
北島「はい」
藤原「東高校、渋井大学を出てるな?」
北島「はい」
藤原「小川美幸という女性を知っているか?」
北島「あぁ、彼女です」
藤原「一か月前から行方不明。そうだな?」
北島「そうなんです。電話にも出ないしメールも既読にならないしで困ってたんです」
藤原「別れ話はあったか?」
北島「あ、そうですね。一か月前に郊外に散歩デートした時に向こうから別れを言われて、それっきりです」
藤原「ボロが出たな。一か月前に小川さんから別れ話をして、それから行方不明。お前が殺したんだな?」
北島「え?」
藤原「この写真を見てみろ」
北島「……美幸ですね」
藤原「そうだ!お前が殺した女性、小川美幸だ!」
北島「殺してませんけど?」
藤原「何!?まだシラを切るのか!?」
北島「人違いじゃありませんか?」
藤原「郊外の山の裏で刺殺体で小川美幸さんが見付かったんだよ!そこに指紋が付いたナイフと髪の毛も見付かってるんだよ!」
北島「多分、違いますよ?」
藤原「え?まだ言う?」
北島「多分、人違いです」
藤原「そんな訳あるか!この写真とこの写真はどっからどう見てもお前と小川美幸さんだろ!?」
北島「確かにそうですけど、だって身に覚えが無いし」
藤原「……一応、指紋と髪の毛を取っても良いか?」
北島「どうぞ」
藤原「(指紋を取るシートを取り出す)じゃあこっちに指を押し付けてくれ」
北島「はい」
藤原「おい」
枝村「はい(ハサミを取り出し、北島の髪の毛を一本切り取る)」
藤原「じゃあこれを鑑識に回してくれ」
枝村「はい(舞台奥上手に退場)」
藤原「さて、鑑識、待ちだ」
北島「はい」
間。
北島藤原「あの……」
北島「あ、何ですか?」
藤原「あ、そっちからどうぞ?」
北島「あ、いえ、そっちからどうぞ?」
藤原「あ、いや、そっちからお先にどうぞ?」
北島藤原「あ、あ、あ、あ、あ……」
北島「あ、じゃ、じゃあ俺から……何か、気まずくありません?」
藤原「俺もそう思ってた。何か話さないと息が詰まりそう」
北島「良かった……俺だけじゃなかったんだ。この気持ち」
藤原「小川さんとの馴れ初めとか聞いて良い?」
北島「おっ、そこ聞きます?あれは大学生の時の事です……」
藤原「えーっ!?じゃあ十年以上の付き合いだったんだ!?」
北島「そうなんですよー!いやー、美幸は美人でねぇ!」
藤原「どこで出会ったの?ねぇ、ねぇ」
北島「そう急かすなって!時間はあるんだから!」
藤原「早く!早く頂戴!?」
北島「美幸とは大学のサークルで出会ったんですよ。あ、美幸は一個上の先輩だったんですけど」
藤原「はー!姉さん女房、良いねぇ!」
北島「もー!まだ奥さんじゃないですよー!」
藤原「おっと、つい先を言ってしまった。続けて?」
北島「この早とちりさんめ。そのサークルの飲み会で声を掛けてきたのが美幸だったんだよ」
藤原「えーっ!?向こうから誘ってきたのー!?」
北島「そうなんだよ!そこで意気投合して、そのまま美幸のアパートに行ってお付き合いをする事になったんだよ!」
藤原「女のアパートに行って、って、それってまさか……!?」
北島「そうだよ!そういう事だよ!言わせんな!恥ずかしい!」
藤原「って事は、向こうから誘ったのに、向こうから振られたって事!?」
北島「そうなんだよなー!勝手過ぎるって思わない!?」
藤原「思う、思う!そりゃあ殺されても仕方ないよなー!?」
北島「そうだよなー!?死んでも仕方ないよなー!?」
間。
北島「あれ?どした?」
藤原「……本当に殺してないんだよな?」
北島「何で?」
藤原「今までの会話はトラップだったんだよ」
北島「え?どういう事?」
藤原「上手く話を誘導して、殺したかどうかを探ってたんだよ」
北島「……あ、今『死んでも仕方ない』って言ったから、それで疑ってんの?」
藤原「そう」
北島「俺だったらそんな言い逃れせずに真っ直ぐ自首するよ」
藤原「そうだよな……そうだよな……!お前が悪人には見えねぇよ……!でも俺は刑事だから、疑わなくちゃいけないんだ!許してくれ!」
北島「別に気にすんなよ。俺と警部さんとの仲だろ?」
藤原「ありがとう、北島……!」
枝村「(舞台上手から登場)失礼します。あ?どうされました?警部?」
藤原「いや、何でもない……何?今、話の途中なんだけど」
枝村「結果が出ました」
藤原「あ、そう言えばそうだった。で、どうだった?」
北島「軽っ」
枝村「全くの別人でした」
藤原「はっ!?」
北島「だろうね。俺やってないもん」
藤原「指紋もDNAも一致しなかったの!?」
枝村「はい」
藤原「じゃあ誰だ、お前はー!?」
北島「北島康介だよ!」
藤原「知ってるよ!いや、知らねぇよ!どっちだよ!?」
北島「自分で自分に問い掛けるな!」
藤原「小川美幸の方はどうだった!?」
枝村「それも裏が取れました。今、全く見た目が同じ同姓同名の生年月日も同じ別人が実家の秋田に帰っているそうです」
北島「あ、生きてるのね!?良かったー!」
藤原「もう帰れよ、お前!」
北島「もう帰って良いのかよ!?」
藤原「犯人じゃないなら用は無ぇ!帰れ!」
北島「分かったよ!帰るよ!……本当に、これが最後で良いのか?」
藤原「え……?」
北島「俺と警部さんは数十分前まで何の面識も無かった。でも、ついさっきまでで友情を育んだと俺は思ってる!」
藤原「北島!」
北島「警部さん!(藤原と握手する)」
藤原「俺とお前はもう友達だ!それは揺るがない!」
北島「そうだよな!?警部さん!」
藤原「『警部さん』だなんて止めろ!藤原で良い!」
北島「藤原ー!」
藤原「北島ー!(北島とハグをする)」
枝村「何やってんすか?」
藤原「あぁ、そうだったな。ほら、これ(名刺を取り出して北島に渡す)」
北島「名刺?」
藤原「俺の電話番号とメールアドレスが書いてある。いつでもここに連絡して良い」
北島「そっか。サンキュ!じゃあ後で俺の名前のメールアドレスが届くと思うからそれが俺だと思ってくれ」
藤原「あぁ、分かった。じゃあ枝村、北島を外まで案内してやってくれ」
枝村「はい。じゃあこちらへ」
北島「またな!」
藤原「おう!」
北島「(枝村と共に舞台上手に一旦退場し、手前の道端の方の舞台上手から枝村と共に登場)じゃあ俺はここで」
枝村「お手数お掛けして申し訳ありませんでした」
北島「いえいえ。それでは(舞台下手側に歩く)」
枝村「それにしても」
藤原「北島康介と小川美幸って」
北島「一体」
北島藤原枝村「誰だったんだよー!?」
―――終わり
『相合傘』
・登場人物
北島(警察官)
藤原正将
小川美幸
・舞台
道端
・衣装
北島・・・警察官の制服
明転。
道端。
藤原、小川、舞台下手から登場。藤原、傘を持っている。
小川「じゃあ正将君。今日も練習しようね?」
藤原「おう」
小川「今日こそは成功しようね!?」
藤原「任せとけ!美幸!」
小川「じゃあ行きましょ!」
藤原、傘を差し、小川と共に相合傘をして舞台上手に退場し、舞台上手から登場し、舞台下手に退場。そして舞台下手から登場し、舞台上手に退場。それを繰り返す。その間、何度か小川に傘を傾けてぶつける。その度に小川は「いてっ」と言う。何週かして藤原、小川、舞台下手から登場。
小川「もう!『今日こそは成功しようね!?』って言ったよね!?」
藤原「ごめん……!『任せとけ!』って言っておいて、不甲斐無い!」
北島、舞台上手から登場。
小川「もう一度、練習しよ!?」
藤原「ありがとう!」
北島「あの~……?」
藤原小川「はい?」
藤原「あ、警察の方?」
北島「はい。そうです」
小川「何か、あったんですか?」
北島「いや、あったというか、今なんですけど……」
藤原「どういう事ですか?」
北島「ちょっと職務質問しても宜しいですか?」
藤原「はい」
小川「どうぞ?」
北島「何か、ここ最近、雨も降ってないのに傘を持ってウロウロしては『いてっ』って言ってる不審な男女がいるって通報がありまして……」
小川「まぁ、怖い」
藤原「そんな奴ら、すぐに捕まえて下さいよ」
北島「あの、多分なんですけど、お二人の事かと……」
藤原小川「(振り返る)」
小川「えっ?誰もいませんけど?」
藤原「見えちゃいけないモノでも見えてるとか、そういう話ですか?」
北島「いえ、貴方方、お二人の事だと思うんですけど……」
※同時に。
藤原「……あ、俺達?」
小川「……あ、私達?」
北島「あ、はい……そうなんですよ……」
小川「別に怪しい者じゃありませんよ?」
藤原「練習をしていただけです」
北島「何の練習ですか?」
藤原小川「相合傘」
北島「え?」
小川「ですから、相合傘です」
北島「え、あ、えーっと……?相合傘の練習とは……?」
藤原「俺、相合傘をするの下手くそなんですよ」
小川「なので慣れるまで練習してるんです」
北島「あー、そういう事でしたか。もう少し静かに、昼間とかに出来ませんかね?」
藤原「いやぁ~、二人共、会社勤めなので出勤しなきゃいけないんですよね~」
小川「リモートワークが通じない職場でして」
北島「ちなみにどういうお仕事か聞いても宜しいですか?」
藤原「スーパーの品出しと」
小川「建設現場の監督です」
北島「……あ、一瞬、逆かと思いました。えーっと、貴方がスーパーの品出しで?」
藤原「はい」
北島「貴方が建設現場の監督で?」
小川「そうです」
北島「変な偏見を持ってしまって申し訳ありませんでした」
藤原「いえいえ~」
小川「警察も大変ですねぇ。こんな事で出動させられるなんて」
北島「いや、まぁ、これも仕事の一つですので」
藤原小川「いつも、お疲れ様です」
北島「あ、どうも。出来ればの相談なんですけど、お休みの日に、とかって出来ませんかね?」
藤原「週七勤務なんですよね」
北島「は?」
小川「私も週七勤務ですね」
北島「え、あの、それって労働基準法違反では……?」
藤原「でも週七で一日、五時間しか働いてないしなぁ……」
小川「短期集中型でフレックス制なんで……」
北島「あ、そうですか。じゃあお互いの休日を何とか照らし合わせてやれませんか?」
藤原「そうすると、またすぐにコツを逃して失敗するので」
北島「そうですかー。じゃあ場所を変えるとか」
小川「夜、遅くに遠くに行きたくないです」
北島「うーん……困ったなぁ……」
藤原「そもそも誰が通報したんですか?」
北島「誰とは言えませんが、複数の通報がありました」
小川「そうですかー。まぁこっちが慣れるまで我慢してもらうしかないですね」
北島「とりあえず通報してきた方々にはこちらから説明しておきますので、一刻も早く相合傘をマスターして下さい」
藤原小川「分かりました」
藤原「ちなみにコツとかって分かります?」
北島「えぇ?特に無いですけど……筋肉を駆使するしか無いんじゃないですか?」
藤原「品出しで筋力には自信があるんですけどねぇ……」
北島「じゃあ見てみますから、やってみて下さい」
藤原「分かりました」
藤原、小川、相合傘をする。
北島「あー、成程。分かりました。彼氏さんね、自分の事に集中してないんですよ」
藤原「え?普通、逆では?」
北島「彼女さんを雨から守ろうとして余計に傾けてるんですよ。だから、ぶつけるんですよ」
藤原小川「成程ー」
小川「じゃあこれからは自分の事を守ろうとすれば良いのね」
藤原「そうだな」
北島「じゃあ後は頑張って下さい」
藤原小川「はい」
暗転。
明転。
道端。
藤原、小川、舞台下手から登場。
小川「今日も雨が降ってるね」
藤原「今日こそは」
小川「そうだね」
藤原、小川、相合傘をする。藤原、自分の方にしか傘を差さない。藤原、小川、舞台上手に退場し、戻ってくる。
小川「何でかなー?濡れてるよ」
藤原「俺の方に意識を向けたんだけどなー」
北島「(舞台上手から登場)あのー」
小川「あ、この前の警察の方?」
北島「そうです」
藤原「また通報でもありましたか?」
北島「いえ。どうしているのかなー?と思って。その後、どうですか?」
小川「見ての通りです。私がずぶ濡れになってるんです」
藤原「何でなんですかね?」
北島「多分なんですけど、今度は自分の事しか考えてないからだと思いますよ?」
藤原「えぇ?じゃあ、どうしたら良いんですか?」
北島「中間を目指しましょう」
小川「中間?どういう事ですか?」
北島「お互いを守りましょう」
藤原「俺を意識しつつ美幸を意識する、って事ですか?」
北島「そうですね」
小川「中間……そんな高等技術、出来る?」
藤原「自信、無いな……」
北島「大した技術じゃないですよ?」
小川「でも私達、極端ですから」
北島「まぁ、見てたら分かりますけど。あ、じゃあいっその事、彼女さんに持ってもらうとか?」
藤原「それじゃあ格好が付かないじゃないですか」
北島「試しにやってみましょうよ」
小川「分かりました(藤原と相合傘をする)あ、何か良いかも」
藤原「確かに」
北島「どちらにせよ、買い物の後は重い荷物を持って帰るんですし、彼氏さんに荷物を持ってもらって、帰りは彼女さんが傘を差してあげれば良いんじゃないですか?」
小川「いや、そういう買い物は車で行くんで」
北島「じゃあ何故、相合傘を?」
藤原小川「イチャイチャしたいだけです」
北島「……地区センターで練習して下さい」
藤原小川「その手があったか!」
北島「そろそろ彼女さん、お休みでしょ?彼氏さんも休日を作って集中してやってみて下さい」
藤原小川「分かりました!」
暗転。
明転。
道端。
藤原、小川、舞台下手から登場。合羽を着ている。
藤原「じゃあ行こうか」
小川「そうだね」
北島「(舞台下手から登場)あのー」
藤原「あ、この前の警察の方?」
北島「そうです。その後、どうですか?」
小川「一向に改善しなかったので合羽で行く事にしました」
北島「相合傘でイチャイチャしたいのでは?」
藤原「雨の日に周りに見せ付けたいだけなので」
小川「相合傘をしなくても、こうやって手を繋げばいい話ですしね」
北島「そうですか。まぁ苦情が無くなればそれで良いです」
藤原「まだ苦情があったんですか?」
北島「地区センターで不審な男女が相合傘をしてウロウロしているって苦情がありました」
小川「こっちは真剣だったのに……」
北島「まぁ、これはこれで良いんじゃないですかね?お幸せに!」
藤原小川「ありがとうございます!(手を繋いでスキップしながら舞台上手に退場)」
北島「(無線に)こちら北島。例の不審な男女、無事、解決しました。はい。本当にただのバカップルなだけでした」
―――終わり




