コント集23
コント集23
221・・・・一個多い
222・・・・クラスの
223・・・立ってのお願い
224・・・田中太朗
225・・・しいこ
226・・・こだわりの
227・・・ふりかけ
228・・・ショク歴
229・・・ウィスキー
230・・・火事
『一個多い』
・登場人物
北島康介(息子)
北島美幸(母)
北島正将(父)
・舞台
北島家
明転。
北島家。ソファ二つにテーブル一つ。
美幸、正将、板付き。
美幸「いい加減にしてよ!」
正将「お前こそ何なんだよ!」
美幸「もう知らない!」
正将「頭冷やしとけよな!(舞台下手に退場しようとする)」
康介「(舞台下手から登場)おっと」
正将「あぁ、康介か。父さんはちょっと出てくるからな」
康介「あぁ、分かった。行ってらっしゃい」
正将「(舞台下手に退場)」
康介「……母さん?」
美幸「何?康介。あ、もうアパートに帰る時間?」
康介「いや、まだアパートには帰らないけど」
美幸「じゃあ何?」
康介「大丈夫?」
美幸「何が?」
康介「何か父さんと言い争う声が聞こえてきたから」
美幸「あぁ、大丈夫。別に離婚とかじゃないから」
康介「あっそう。でも何があったの?」
美幸「別に何でも無いわよ」
康介「いや、俺も今、結婚を前提に付き合ってる彼女いるじゃん?」
美幸「うん」
康介「結婚したら夫婦喧嘩も出てくると思うから、参考までに聞きたいんだけど」
美幸「あー……まぁ将来の事を思えば、協力しても良いけど……本当、くだらない事で喧嘩は始まるわよ?」
康介「女性目線での解決策とか聞きたい」
美幸「そうねぇ……どれから話せば良いやら……」
康介「今の話とかどうなの?」
美幸「え?あれ?些細な事よ?」
康介「些細な事からスレ違うのはよくあるって聞いた事あるし」
美幸「良いけど……ほぼ愚痴になるわよ?」
康介「良いよ。話して」
美幸「分かった。さっきの出来事なんだけど、私が夕飯の唐揚げを作っている時に、お父さん、つまみ食いしたのよ」
康介「うん。それで?」
美幸「それだけだけど?」
康介「え?そんな事で?」
美幸「だから言ったじゃない。些細でくだらない事だって」
康介「それくらい許してあげたら良いじゃない」
美幸「つまみ食いは今に始まった事じゃないのよ。前から止めてって言ってるのに、いつも食べるのよ」
康介「塵も積もれば山となるってやつか」
美幸「そう!しかも味が薄いとか、ニンニクをもっと入れろとか、ダメ出しをしてくるのよ!?じゃあ自分で作ったら?って言ったら、それが妻の仕事だろうって、もうモラハラよ!」
康介「それは父さんが悪いなぁ」
美幸「もうね!これだけ言われ続けてたら小言の二つや三つ言いたくなるわよ!」
康介「……一個、多くない?」
美幸「え?」
康介「普通、小言の一つや二つじゃない?一個、多くない?」
美幸「それくらい溜まってたって事よ!」
康介「あ、そう……でも父さんもそんなに声を荒げる程か?止めれば良いだけの話じゃん」
美幸「そうなのよ!お父さんの話によると、つまみ食いの二つや三つ、大目に見ろよ!とか言ってきて!」
康介「また一個、多いんだよなぁ……似た者夫婦じゃん」
美幸「全然、似てないわよ!あの人、自分の意見を三転四転するんだから!」
康介「だから一個、多いんだよなぁ……グルングルンに回っちゃってるじゃん」
美幸「気を付けてなさいね?本当にどうでも良い事で喧嘩に発展するから」
康介「あぁ、まぁ、分かったよ」
美幸「相手を許す事も大切だけど、自分の意見を曲げない事も大切だからね」
康介「それは何となく父さんと母さんを見てて分かったよ」
正将「(舞台下手から登場)母さん」
美幸「あら、お父さん。どうしたの?」
正将「これ……(紙袋を渡す)」
美幸「何これ?」
正将「さっきの詫び。ここのチョコレート、好きだったろ?」
美幸「あら!ありがとう!私もさっきは言い過ぎたわ。ごめんなさい」
正将「俺こそごめん。これで仲直りな」
美幸「うん!じゃあ皆で食べましょう?」
康介正将「あぁ」
正将「……何かこの店の味、落ちたな。甘過ぎる。でもコクが無い」
美幸「相変わらず二言、多いのよね。この人」
康介「やっぱり一個多いんだよなぁ……いや、今回ばかりは正しいか」
―――終わり
『クラスの』
・登場人物
北島
藤原
小川
儀間
米山
・舞台
高校の教室
明転。
高校の教室。机が二つに椅子が二つ、黒板一つ、教卓一つ、黒板の上に「人類皆平等」と書かれたプレートが下がっている。
北島、藤原、板付き。
藤原「よっ!転校生!昼は弁当か?」
北島「正確には転入生だけどね。弁当だよ。えーっと……?」
藤原「藤原だよ」
北島「北島だよ。宜しくね」
藤原「おう。一緒に食べても良いか?」
北島「勿論」
小川「(舞台下手から登場)ねぇねぇ、転校生君」
北島「転入生の北島だよ」
小川「北島君ね。覚えた。私は小川。どこから来たの?」
北島「隣の県から来たんだ」
小川「あら、案外、近いのね。これから宜しくね?」
北島「う、うん」
小川「じゃあまた(舞台上手に退場)」
北島「綺麗な子だなぁ……」
藤原「あれはクラスのマドンナの小川さんだよ」
北島「今時そういう言い方するんだなぁ」
儀間「(舞台下手から登場)今、聞こえてきたんだけど、隣の県なら電車でも来れるんじゃない?」
北島「県の端っこだったんだよ。えーっと……?」
儀間「私は儀間。宜しくね?」
北島「う、うん」
儀間「今は男同士の話がしたい感じ?藤原君」
藤原「うん」
儀間「そっか、じゃあまた今度ゆっくり話そうね?」
北島「う、うん」
儀間「じゃね~(舞台下手に退場)」
北島「可愛い子だなぁ……」
藤原「あれはクラスのアイドルの儀間さんだよ」
北島「え?」
米山「(舞台上手から登場)北島君だっけ?今どの辺に住んでるの?」
北島「あ、あっちの方向に二つ隣の駅の近くだよ」
米山「あれ?じゃあ私と同じだね」
北島「そうなんだ。えーっと……?」
米山「私は米山。宜しくね?」
北島「う、うん」
米山「今度、一緒に登下校しようね?」
北島「そ、そうだね」
米山「じゃあまたね(舞台下手に退場)」
北島「可憐な子だなぁ……」
藤原「あれはクラスのヒロインの米山さんだよ」
北島「え?」
藤原「編入初日にあの三人から声を掛けられるなんて運が良いな」
北島「ちょっと待って?クラスにマドンナ的な存在が三人もいるの?」
藤原「マドンナとアイドルとヒロインな」
北島「多過ぎない?」
藤原「何が?」
北島「クラスのなんちゃら」
藤原「本人達が言い出したんじゃなくて、男子達が勝手に言い出したからな。自然と出来たんだよ」
北島「あっそー……何か、贅沢なクラスに来ちゃったなぁ……」
藤原「ちなみにあそこにいるのがクラスの推しの古井さんで、あそこにいるのがクラス一の美少女、丸岡さんで、あそこにいるのがクラス一の美女、鈴木さんで……」
北島「ちょっと待って!?女子全員に二つ名があるの!?」
藤原「そうだよ?」
北島「何で!?三人でも多いのに、クラスの半分近くが二つ名を持ってるってどういう事!?」
藤原「そこは皆、不平等にならないように配慮した結果だよ」
北島「じゃあ男子にも……?」
藤原「あるよ」
北島「藤原君の二つ名は?」
藤原「クラスのリーダー」
北島「もしかして俺にも着くの……?」
藤原「多分ね。無いと不平等だし」
北島「別に要らないんだけど……」
藤原「何で?」
北島「だってあったところで意味無いじゃん。こんなに二つ名を持つ人がいたらあまり価値無いよ」
藤原「でも不平等じゃん?」
北島「そこまで気にする必要ある?」
藤原「よく見てみ?クラスの女子達を。皆、可愛いとか美人じゃない?」
北島「まぁ、確かにレベルは高いけど……」
藤原「だからね?皆で考えた訳よ。皆、平等に二つ名を考えようって」
北島「それで男子達にも二つ名を?」
藤原「それは女子達の提案」
北島「え?じゃあ女子達の二つ名と男子達の二つ名って皆で考えたの?」
藤原「そうだよ?」
北島「……仲が良いんだね」
藤原「それ程でも」
北島「じゃあ俺の二つ名も男子達と女子達、皆で考えるの?」
藤原「そうなるね」
北島「恥ずかしいんだけど……」
藤原「まぁまぁ。意外と着けられると楽しいもんだよ?」
北島「そうなのかなぁ……」
藤原「ちなみに隣のクラスも二つ名を持つ生徒がいるぞ」
北島「えっ!?隣のクラスも!?」
藤原「全部のクラスにあるし、何なら三学年、全てに二つ名を持ってる生徒がいるし」
北島「……もしかして先生も?」
藤原「呑み込みが早いな。うん。あるよ」
北島「あるのか……例えば?」
藤原「学校一の人気者、枝村先生。学校一の人情家、西岡先生。みたいな」
北島「何でそんな事に……?」
藤原「あそこにスローガンがあるだろ?」
北島「……『人類皆平等』?」
藤原「この学校を設立した理事長がずっと掲げてるんだよ。そこで数年前からクラスのなんちゃらってのは特定の人にだけ与えるのは不平等だってなって、女子達だけでなく男子達にも広がって、やがて先生達にも着くようになったんだ」
北島「へー……何かいっその事、この学校にも二つ名が着きそうだな……」
藤原「おっ!それ良いな!何が良いかなー?」
北島「二つ名の学校とか?」
藤原「良いじゃん!じゃあちょっと校長先生に言ってくるわ!」
北島「止めてくれ。恥ずかしい」
藤原「北島の二つ名は、そうだなー……あ、クラス一の秀才とか?」
北島「そこまで頭良い事、言ってないだろ!」
―――終わり
『立ってのお願い』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
校長室
明転。
校長室。ソファ二つにテーブル一つ。
北島、藤原、板付き。
藤原「北島君。本当に、私を訴えるつもりかね?」
北島「貴方から散々酷い仕打ちをを受けたので」
藤原「どうか考え直してくれないか?今となっては君無しでは我が校の野球部は続けられないのだよ」
北島「しかし校長先生。忘れてませんよ。貴方が私にしてきた事を」
藤原「何?」
北島「貴方のボンクラ息子が自分の仕事を私に押し付けてきても見て見ぬ振りをしてきた事や、貴方の息子が仕事で失敗した事を私の責任だと糾弾した事ですよ」
藤原「それは……」
北島「それに過度なサービス残業。残業代も出ない。始発から終電までの業務……もううんざりなんですよ」
藤原「考え直してくれないか?」
北島「そうですねぇ……では最後に一つ、チャンスをあげましょう。もし、私を本気で引き止めたいのなら、お金ではない誠意を見せて下さい」
藤原「……分かった。(席を立ち、気を付けをする)この通りだ!どうか我が校に残ってくれ!」
北島「……何ですか?それ」
藤原「この私、校長、立ってのお願いだ」
北島「……あ、立ってるのね!?そうじゃないでしょ!?膝を着け!」
藤原「あ、そうか(膝を着いて気を付けをする)。この通りだ!」
北島「何でそれで許されると思ってんだ!?手を床に着けろ!」
藤原「(女豹のポーズを取って顔を上げる)この通りだ!」
北島「頭を下げろ!」
藤原「(頭を下げる)この通りだ!残ってくれ!」
北島「謝れって事だよ!」
藤原「え?」
北島「謝れって言ってんだよ!『ごめんなさい』の一言でもありゃあ少しは考えたのに、もういいわ!」
藤原「『もう良い』って事は、許してくれたんだね!?」
北島「その『もういい』じゃねぇわ!私はもうこの学校を去りますからね!」
藤原「何でだね!?」
北島「逆に聞くけど何で!?あれで許す訳無くない!?」
藤原「謝ったところで私の悪行は無くなる訳でも無いし……」
北島「誠意を見せろと言っただろう!?形だけでも謝れよ!」
藤原「謝ったら許してくれてたのかね?」
北島「一応、情はありますのでね!」
藤原「(土下座する)申し訳無かった!許してくれ!」
北島「もう遅いよ!そんな言葉が届く訳無いでしょう!?」
藤原「話が違うじゃないか!」
北島「こっちの気持ちを汲み取らないで、謝らなかったアンタが悪い!」
藤原「これじゃあ誤り損じゃないか!どうしてくれる!?」
北島「何で逆切れしてんの!?知らないよ、そんな事!」
藤原「私の事を侮辱して!名誉棄損で訴えてやる!」
北島「どうしてそう自分勝手なの!?自分で蒔いた種じゃないですか!」
藤原「お前なんか金に物を言わせてどん底の人生を歩ませてやる!」
北島「あ、この会話、録音してますよ」
藤原「え?」
北島「こんな事もあろうかとずっと録音してます。訴えるならどうぞ。こっちも出るとこ出ますからね」
藤原「そ、そのデータをこっちに渡してくれ!」
北島「嫌です」
藤原「金か!?金が欲しいのか!?いくらだ!?」
北島「金じゃありません」
藤原「じゃあ昇進か!?君には副社長の座を渡そう!」
北島「それでもありません」
藤原「じゃあ息子か!?息子をクビにすれば良いのか!?」
北島「だから謝れって言ってんだよ!」
藤原「え?」
北島「本当の本当に最後のチャンスのつもりだったんですが、ここまで来て謝らないのは心から私の事を馬鹿にしてるって事でしょう?」
藤原「それは違う!馬鹿にしてたら呼び止めたりなんかしない!」
北島「じゃあ何で私を呼び止めたんですか?」
藤原「馬鹿みたいに良く働いてくれるから金ズルになるなって……」
北島「あー、あー、もういい。聞きたくない」
藤原「今度こそ『もう良い』は本当に許してくれたんだね!?」
北島「そんな訳無いだろ!馬鹿みたいに良く働いてくれる?金ズル?ふざけんな!」
藤原「でも事実を言ったまでだし……」
北島「校長先生の考えは分かりました。とことん私を馬鹿にしてるんですね」
藤原「それは謝る!だから考え直してくれ!」
北島「謝るタイミングが違うだろ!何でそこを謝るんだよ!?」
藤原「あれだけ『謝れ』って言われたから反省して……」
北島「反省するタイミングもおかしい!もういいわ!」
藤原「今度こそ許してくれて……!?」
北島「そん訳あるか!いい加減に察しろ!」
藤原「それが出来たら苦労はしない!」
北島「アンタよくそれで校長が出来てきたな!?私はこの録音を持って労働基準監督署に行きますからね!」
藤原「(気を付けをする)この通りだ!考え直してくれ!」
北島「もう労基が来るまでずっとそうしてろ!」
藤原「待ってくれ!」
北島「反省してろ!(舞台上手に退場)」
藤原「北島君!?北島くーん!?……反省して廊下に立ってるか……」
―――終わり
『田中太朗』
・登場人物
北島
小川
田中
・舞台
舞台右側・・・河崎商事オフィス
舞台左側・・・別会社オフィス
明転。
舞台右側、川崎商事オフィス。机一つに椅子が一つ。机の上には電話とキーボード。舞台左側、別会社オフィス。机二つに椅子一つ。
北島、小川、板付き。小川、ヘッドセットマイクを着けている。
北島「(電話を掛ける)」
SE、コール音。
小川「(電話のボタンを押す)はい、いつもお世話になっております。河崎商事、小川が承ります」
北島「いつもお世話になっております。藤原商事、営業部の北島と申します」
小川「北島様ですね。いつもお世話になっております」
北島「この度は弊社とのお取り引き、誠にありがとうございました。この後の生産ラインについてご相談したいので、御社の田中さんとお話がしたいのですが」
小川「畏まりました。弊社の田中は十七人、在籍しております。どの田中でしょうか?」
北島「田中太朗さんです」
小川「田中タロウは十六人います。どの田中タロウでしょうか?」
北島「今時、田中太朗さんがそんなにいらっしゃるなんて珍しいですね」
小川「そうですねぇ。それでどの田中タロウですか?」
北島「ロウが朗らかな方です」
小川「その田中太朗は十五人います」
北島「えーっと、眼鏡を掛けています」
小川「その田中太朗は十四人います」
北島「あー……年齢が三十代です」
小川「その田中太朗は十三人います」
北島「身長が百八十センチ以上あると思います」
小川「その田中太朗は十二人います」
北島「ガタイが良いです」
小川「その田中太朗は十一人います」
北島「えぇ……?」
小川「もっと無いですか?情報」
北島「そんな事、言われも……」
小川「ほら、もっと下さいよ。ほらほら」
北島「煽んないで下さい。えーっと、イケボです」
小川「その田中太朗は十人います」
北島「それで一人、削られるの可哀想じゃありませんか?」
小川「提示してきたのはそちらですよね?」
北島「ごめんなさい」
小川「どういう系統のイケボですか?」
北島「低音ボイスです」
小川「その田中太朗は九人います」
北島「えーっと、既婚者です」
小川「その田中太朗は八人います」
北島「確か美幸さんという女性と結婚しています」
小川「その田中太朗は七人います」
北島「息子さんが一人いたと聞いています」
小川「その田中太朗は六人います」
北島「あ、神奈川県出身だった筈です」
小川「その田中太朗は五人います」
北島「東京大学出身だったと思います」
小川「その田中太朗は四人います」
北島「経済学部出身だったと思います」
小川「その田中太朗は三人います」
北島「柔道部出身だった筈です」
小川「その田中太朗は二人います」
北島「……もうネタ切れだなぁ……」
小川「あれあれ~?もう無いんですか~?」
北島「だから煽んないで下さい。ちょっとそっちでも何か無いんですか?」
小川「ちょっと待って下さいね……あっ、脚のサイズが二十九センチと二十九.五センチの田中はいます」
北島「知らねぇ……それに微々たる差だよ……他には無いんですか?」
小川「あぁ、男性ですか?女性ですか?」
北島「え?普通、太朗って男性の名前では?」
小川「今は多様性の時代ですからね。たまたま、いました」
北島「あ、へー……男性です」
小川「畏まりました。少々お待ち下さい(保留ボタンを押す。SE、保留音)」
田中「(舞台上手から登場)」
小川「あ、田中さん。藤原商事の北島さんという方からお電話です」
田中「北島さん?誰だろう……(電話を取る)もしもし。お電話変わりました。田中です」
北島「あ、田中さん。この度はお世話におります。藤原商事の北島です」
田中「申し訳ありません。どちら様でしょうか?」
北島「先日、御社とお取り引きさせて頂いた藤原商事です。覚えが御座いませんか?」
田中「ちょっと記憶に無いですね……」
北島「あれ?一応、確認させて頂きたいのですが、川崎商事の田中太朗様で宜しいのですよね?」
田中「……あぁ、もしかして会社が違うのかもしれません」
北島「え?」
田中「ウチはサンズイの河の河崎です。恐らくそちらが仰っているのは三本線の川ではありませんか?」
北島「あっ!?そうだったのですか!?申し訳ありません!」
田中「いえいえ。番号も一つしか違いませんし、よく間違えられるんですよ」
北島「そうだったのですね……ご迷惑をお掛けしました」
田中「いえいえ。それでは私はこれで」
北島「はい。失礼します」
田中「(電話を切って舞台上手に退場)」
北島「(電話を切る)……今の時間、何だったんだよー!?」
―――終わり
『しいこ』
・登場人物
儀間椎子
小川美幸
・舞台
小川宅
明転。
小川宅。卓袱台一つに座布団二つ。
儀間、小川、板付き。
小川「どしたの?急にウチに来るなんて」
儀間「ちょっと美幸に相談したい事があって」
小川「珍しいね。椎子が私に相談なんて」
儀間「この前お見合いがあったんだけど、どの人が良いか決めてほしいの」
小川「ちょっとちょっと……一般庶民の私が財閥のお嬢様のお見合いを決められる訳無いでしょ?」
儀間「これは大事な事だから親友の美幸に決めてほしいの」
小川「えぇ……?大事な事なら親に聞けば?」
儀間「親は『貴方が決めなさい』って言ってて……」
小川「何人に絞ってんの?」
儀間「五人」
小川「とりあえずどんな男よ?」
儀間「(スマートフォンを取り出して画面を見せる)まずはこの人」
小川「……ふーん。草食系のイケメンじゃん。スペックは?」
儀間「北島産業の副社長。岡康介。身長百七十五センチ、体重六十五キロ。東大卒」
小川「良いじゃん。他は?」
儀間「(スマートフォンをスライドする)この人」
小川「スペックは?」
儀間「株式会社エダムラの社長。鹿島拓。身長百七十八センチ、体重七十キロ。慶應卒」
小川「成程。次は?」
儀間「(スマートフォンをスライドする)この人」
小川「スペックは?」
儀間「渋井大学附属病院次期院長。矢鎌清弘。身長百六十八センチ、体重五十五キロ」
小川「ほうほう。次は?」
儀間「(スマートフォンをスライドする)この人」
小川「スペックは?」
儀間「藤原大学法学部教授。厚釜正将。身長百七十五センチ、体重七十キロ」
小川「最後は?」
儀間「(スマートフォンをスライドする)この人」
小川「スペックは?」
儀間「政治家。浅間修造。身長百八十七センチ、体重九十キロ。元柔道部主将」
小川「成程……どれも良い男達だね」
儀間「いや、スペックはどうでも良くて」
小川「え?」
儀間「名前がね……」
小川「名前が変なの?」
儀間「結婚したら苗字が変わるでしょ?」
小川「うん。あっ」
儀間「分かった?」
小川「全員、『何々しい子』になっちゃうのか」
儀間「そう。楽しい子、姦しい子、やかましい子、厚かましい子、浅ましい子……どれが一番まともかなって思って」
小川「その問題があるのか……ご両親もこういうの見越して椎子なんて名前、着けなきゃよかったのに」
儀間「ね。お兄ちゃんが瑛太で、お姉ちゃんが美伊深なんだよね」
小川「あぁ、そういう流れなんだ」
儀間「そう。で、どれが良いと思う?」
小川「名前で決めるのもなぁ……アンタがビビッと来た人はいないの?」
儀間「話してみたら皆、良い人なんだよね。でも苗字がね……」
小川「贅沢な悩みねぇ。最初の副社長はどうなのよ?」
儀間「おかしい夫人だと思われたくなくて……」
小川「次の社長はどうなのよ?」
儀間「姦しい夫人だと思われたくなくて……」
小川「じゃあ時期院長先生はどうなのよ?」
儀間「やかましい夫人だと思われたくなくて……」
小川「なら教授さんはどうなのよ?」
儀間「厚かましい夫人だと思われたくなくて……」
小川「だったら政治家の先生はどうなのよ?」
儀間「浅ましい夫人だと思われたくなくて……」
小川「もー!何だったら良いのよー!?」
儀間「それを相談してるんじゃない!」
小川「私には分からんよ!もう適当に阿弥陀でもして決めたら?」
儀間「そんな不誠実な決め方したくない」
小川「ってか名前くらいでアンタを評価したりなんかしないわよ」
儀間「分からないじゃない。第一印象と先入観って大事よ?」
小川「じゃあ独身生活を続けたら?別に跡取りとかでも無いんでしょ?」
儀間「でも子供が欲しいんだよね……旦那も欲しいし」
小川「困った子ねぇ」
儀間「(スマートフォンが鳴る)あ、お母さんからだ……あ、この人、良いかも!」
小川「何?」
儀間「今度またお見合いがあるんだけど、その人がこれ!(スマートフォンの画面を見せる)」
小川「……ほう。また別の会社の社長さんか。身長も高いし太ってないし、年収も良いし顔も良い。良いんじゃない?」
儀間「名前、見て!名前!」
小川「えーっと?田野慎吾?」
儀間「たのしんごと楽しい子!とってもピッタリじゃない!?」
小川「まぁ、アンタが良いなら良いんじゃない?」
儀間「あ、でもシンゴママとか言われて母親が二人とか勘違いされちゃうかな?」
小川「もう名前に縛られるの止めなさいよ!」
―――終わり
『こだわりの』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
藤原宅
明転。
藤原宅。卓袱台一つに座布団二つ。
北島、藤原、舞台上手から登場。
藤原「さぁ、入って入って」
北島「お邪魔しまーす」
藤原「まぁ座れよ」
北島「おう。しかし珍しいな。藤原が飯をご馳走してくれるなんて」
藤原「拘りの飯を北島に食わしてやりたくてな」
北島「へー。何が出てくんの?」
藤原「まぁそれは追い追い。まずは拘りのビールからどうだ?」
北島「おっ、良いねぇ。何のブランドが出てくるんだろ?」
藤原「アサヒとキリンとサントリーとサッポロとエビス、どれが良い?」
北島「意外と王道だな」
藤原「そうか?」
北島「意外と知られてない銘酒的な物が来ると思ってた」
藤原「まぁ、ここはハズレが無いから」
北島「それもそうか。じゃあアサヒで」
藤原「オッケー。ちょっと待っててな(舞台下手に退場し、缶ビール二本持って登場)お待たせー」
北島「そんな待ってないけどな……何これ?」
藤原「え?ビール」
北島「それは見れば分かるよ。何で缶ビールなんだよ?」
藤原「拘りの缶ビール」
北島「何それ?コンビニでも買えるじゃん」
藤原「俺が好きなやつなんだよ」
北島「拘りなのか?それ。せめて瓶ビールだろ」
藤原「何で俺が缶ビールを選んだか分かるか?」
北島「知らないよ」
藤原「瓶はコップに注ぐからコップが要になるだろ?だけど缶はそれぞれの会社の努力の結晶だから基本的に缶で飲むだろ?だから缶でそのまま飲むからこそ拘りがあるんだよ」
北島「コップに拘りを持つもんじゃないの?」
藤原「つまみも拘ってるからそっちも見てくれ(舞台下手に退場)」
北島「はぁ」
藤原「(舞台下手から柿ピーを持って登場)はいこれ」
北島「何これ?」
藤原「柿ピー」
北島「それは分かるよ。何で柿ピーなの?」
藤原「ビールと言えば柿ピーだろ」
北島「何が拘りなの?」
藤原「安くて美味い」
北島「何それ?何でも良いんじゃん」
藤原「亀田製菓が良いんだよ」
北島「そういう事じゃなくてさ。何でコンビニで買えるような物を拘りだって言うんだ?」
藤原「最終的に辿り着いたのがこれだったんだよ」
北島「何でだよ。安い酒に安いつまみが拘りなのかよ?」
藤原「それ、これらを作ってる会社に失礼だぞ」
北島「別に貶してる訳じゃなくてさ……何て言うか、こう、あまり世界を知らないんじゃないかって思ってさ」
藤原「だから言ったろ?最終的に辿り着いたのがこれだって。色々と飲んで食ってきた結果、これに行き着いたんだよ」
北島「ちなみに何で柿ピーに行き着いたの?安くて美味いからだけ?」
藤原「米がまず良いんだよね。歯応えも他のより心地良いし、醬油も良い香りがするし、塩加減も良い。辛さも丁度良い。ピーナッツも炒り加減が丁度良いし、こっちも塩加減が良いし、何より柿の種の辛さをマイルドにさせる。一袋の量も程良い。値段もお手頃で美味い。だからこれにした」
北島「あっそー。で、何?これを俺に味わわせたかったの?」
藤原「この感動を共有したくて」
北島「俺でも知ってる物だよ……別に良いよ。いつでも買えるし」
藤原「でも意外と最近この取り合わせ、しないだろ?」
北島「まぁ、二十歳そこらの時は手始めにこれらを手に取ってた気はするけど……」
藤原「だろ?歳を重ねると意外とやらないだろ?」
北島「それもそうか」
藤原「とりあえず乾杯しようぜ」
北島「質素な飲み会だ……」
北島藤原「(缶を開けて乾杯する)かんぱーい(北島、缶を卓袱台の上に落とす)」
北島「あっ、やべっ!」
藤原「大丈夫か?」
北島「ごめん。床、濡らしちゃって」
藤原「良いよ。お前は濡れてないか?」
北島「ちょっと濡れた。卓袱台も濡れちゃったな。布巾か何かある?」
藤原「トイレの雑巾、使って良いよ」
北島「え?でも汚くない?」
藤原「別に気にしないよ、俺」
北島「そこは拘り無いんかい」
―――終わり
『ふりかけ』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
北島宅
明転。
北島宅。卓袱台一つに座布団二つ。
北島、藤原、舞台上手から登場。
北島「まぁ上がれよ」
藤原「お邪魔しまーす」
北島「適当に寛いでくれて良いからな」
藤原「悪いな。終電、逃しちゃって、泊めてもらう事になっちゃって」
北島「気にすんなよ。俺とお前の仲だろ?」
藤原「ありがとう。助かるよ」
北島「良いって事よ。それより夜食は食うか?」
藤原「良いのか?そこまでしてもらっちゃって」
北島「有り合わせの物しか出来ないけどな。ちょっと待っててくれ(舞台下手に退場)」
藤原「お気遣い無くー」
北島「(舞台下手から登場)すまん……冷蔵庫の中、禄なの無かった……」
藤原「そうか。どうしようかな。もう夜食の腹になっちゃった」
北島「ご飯なら炊けてるんだけど……」
藤原「あぁ、それだけあれば良いよ」
北島「良いのか?出前とか頼んだ方が良くないか?」
藤原「良いよ。米だけで」
北島「おにぎりにでもするか?」
藤原「大丈夫。米だけくれ」
北島「お、おう。分かった。(舞台下手に退場し、米をよそった茶碗と箸を持って舞台下手から登場)はいよ。本当に米だけだぞ?」
藤原「良いの、良いの。サンキュー(鞄からピルケースを取り出す)」
北島「何それ?ピルケース?」
藤原「そう」
北島「お前、食前の薬なんて飲んでたのか?」
藤原「飲んでないよ」
北島「じゃあそれ何だよ?」
藤原「ふりかけ」
北島「え?」
藤原「だから、ふりかけ」
北島「何でピルケースに?」
藤原「小物入れとして使ってる」
北島「果たしてふりかけを小物として扱うのだろうか?」
藤原「あ、これ海苔玉だ。胡麻塩が良いな(コンパクトを出す)あ、これでもない」
北島「それは?ファンデーション?お前、メンズメイクでもしてたのか?」
藤原「いや、これもふりかけ」
北島「何でコンパクトに?」
藤原「小さくて便利だから」
北島「その形状は使い易いのか?」
藤原「あった、あった(携帯灰皿を取り出す)」
北島「何それ?」
藤原「携帯灰皿」
北島「携帯灰皿?煙草、吸ってたっけ?」
藤原「いや、ふりかけ入れてる」
北島「何で携帯灰皿に?」
藤原「要は小物入れだろ?」
北島「大きな括りで言ったら小物入れかもしれんけど……ん?待って?胡麻塩が良いって言ってなかったか?」
藤原「うん」
北島「よりによって何でそれを携帯灰皿に入れたんだよ……」
藤原「何で?」
北島「色がマズいだろ……」
藤原「美味しいよ?」
北島「いや、味じゃなくてさ。色が灰色で細かいから灰に見えない?」
藤原「そこが良いんじゃないか」
北島「え?」
藤原「ヤバい物、食ってる背徳感があって良いじゃないか」
北島「俺には分からん。ところで何で三種類の入れ物にしてるんだ?」
藤原「どういう事?」
北島「普通、統一しない?ピルケースを三種類とか、あんまり考えないけど、コンパクトを三種類とか、携帯灰皿を三種類、とかさ」
藤原「パッと見ですぐ分かる形状にした結果、入れ物を数種類に分ける事にしたんだよ」
北島「あっそー。ちなみに携帯灰皿は胡麻塩で、ピルケースは海苔玉で、コンパクトは何だ?」
藤原「おかか」
北島「何でよりによっておかかなんだよ……顔に間違って塗っちゃう絵が浮かんだよ……」
藤原「そうか?」
北島「海苔玉もそうだよ。下手したら粉薬に見えるよ」
藤原「そうかなぁ」
北島「あれ?ちょっと待てよ?さっき数種類って言わなかった?」
藤原「うん」
北島「他にも何かあるのか?」
藤原「あるよ」
北島「何があるんだ?」
藤原「ロケットとお守り袋とシャー芯入れ」
北島「ロケットって、あの大切な人の写真とか入れるあれ?」
藤原「そう」
北島「何でロケットに?」
藤原「大切なふりかけだから」
北島「何だよ、大切なふりかけって……」
藤原「あれはもう十年前の話だな……」
北島「いいよ解説は。ってか十年前のふりかけってもう食えないだろ」
藤原「その時に食べたふりかけが美味しくて毎週、取り寄せてるんだ」
北島「あっそー。お守り袋は?」
藤原「このふりかけを持って行ったら大学に合格したから、それ以来このふりかけを持ち歩いて食べるようにしてる」
北島「ふーん。シャー芯入れは?」
藤原「丁度良い量のふりかけが入るから」
北島「全部、一回こっきりの物ばかりだけど良いのか?」
藤原「毎日、洗って入れ替えてるから清潔だよ」
北島「面倒臭くない?」
藤原「慣れた」
北島「ってかそんなにふりかけ好きだったんだ?」
藤原「ふりかけ作ってる会社から内定貰ってる」
北島「そこまで好きだったとは……」
藤原「さて、ご馳走様でした」
北島「お粗末様でした」
藤原「飯も食った事だし、もう寝るかな」
北島「あぁ、今、布団、持ってくるから待っててくれ(舞台下手に退場)」
藤原「悪いなー」
北島「(舞台下手から布団と枕を持って登場)こんなので悪いけど」
藤原「そんな気を遣わんでくれ。泊めてくれるだけで十分なんだから」北島「それじゃあ寝るから電気、消すぞ」
藤原「あ、ちょっと待って(鞄からふりかけの袋を取り出す)」
北島「あれ?普通のふりかけも持ってるんじゃん。まだ食うの?」
藤原「いや、これは……(袋に手を入れてクリームを着けた手を出す)ハンドクリーム」
北島「何でハンドクリームを?」
藤原「最近、乾燥して肌が荒れてるから」
北島「そういう事じゃなくて、何でハンドクリームをふりかけの袋に入れてんだって言ってんだよ!」
藤原「密閉性が丁度良いんだよね」
北島「どれもこれも、ちゃんとした使い方してやれよ!」
―――終わり
『ショク歴』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
就活エージェント
明転。
就活エージェント。テーブル一つに椅子二つ。テーブルの上にはPC。
北島、板付き。藤原、舞台上手から登場。
藤原「あのー……」
北島「あ、いらっしゃいませ」
藤原「ここって就活エージェントさんで合ってますよね?」
北島「はい。お仕事をお探しですか?」
藤原「そうです」
北島「畏まりました。どうぞお掛け下さい」
藤原「失礼します」
北島「今回、担当させて頂きます、北島と申します」
藤原「藤原です」
北島「藤原様ですね。良い出会いになれますよう努めますのでどうぞ宜しくお願い致します」
藤原「宜しくお願い致します」
北島「下のお名前も教えて頂けますか?」
藤原「正将です」
北島「藤原正将さんですね。どういったご職業をご希望ですか?」
藤原「どこかの会社で倉庫作業とかですかね」
北島「畏まりました。今はお一人で?」
藤原「はい。未婚で、実家で暮らしてます」
北島「そうですか。ご年齢はおいくつでしょうか?」
藤原「三十五です」
北島「最終学歴は何ですか?」
藤原「渋井大学法学部法学科です」
北島「資格は何かお持ちですか?」
藤原「自動車普通免許くらいです」
北島「成程。フォークの免許はお持ちですか?」
藤原「え?フォークに免許なんて必要なんですか?」
北島「そうですね」
藤原「じゃあ今まで無免許でフォーク使ってました……」
北島「それは危険ですね」
藤原「気を付けます。ちなみに免許があったら有利ですか?」
北島「そうですね。倉庫作業だとフォークの免許があった方が就職に有利になります」
藤原「へー。そうなんですね」
北島「今はどこか就職はされてますか?」
藤原「いえ、無職です」
北島「そうですか。ちなみに職歴はありますか?」
藤原「朝ご飯を食べました」
北島「……はい?」
藤原「あ、もっと細かく言った方が良いですよね。えーっと、食パンとバターと苺ジャムと牛乳と目玉焼きとコーンスープを食べました」
北島「えーっと……?」
藤原「あ、昨日のご飯から言った方が良いですか?」
北島「あのー……」
藤原「昨日の朝ご飯は納豆ご飯と味噌汁と目玉焼きで、お昼ご飯は醤油ラーメンで、晩ご飯が……」
北島「ちょちょちょ……何を仰ってるんですか?」
藤原「え?だから食歴でしょう?」
北島「……あ!ショク歴って、食べた事のある経歴の事を仰ってます!?」
藤原「そうですけど。違いましたか?」
北島「全然、違いますよ!?働いた事があるかどうかを聞いているんです!」
藤原「あ、そうだったんですね。あ、じゃあフォークの免許って?」
北島「食事の時に使うフォークの事じゃありませんよ!?」
藤原「じゃあ何ですか?」
北島「フォークリフトの事ですよ!?」
藤原「あっ、あの車みたいなやつですか?」
北島「そうです」
藤原「あー、そうだったんですね。勘違いしてました」
北島「で、働いたご経験は?」
藤原「無いです」
北島「でしょうね」
藤原「『でしょうね』って何ですか?」
北島「ショク歴って言って真っ先に食べた事のある経歴が出てくる当たり一般常識が無いだろうなって思って」
藤原「まぁ、そうですね」
北島「大学を卒業されてから今まで何をされてたんですか?」
藤原「息はしてました」
北島「は?」
藤原「後、ご飯を作って、食べてトイレで用を足して、お風呂に入って歯を磨いて、買い物をしたり趣味に没頭したり、顔を洗ったり寝たりしてました」
北島「要は何もしてなかったんですね?」
藤原「だから息をして、ご飯を作って、食べて……」
北島「あぁ、言い方が悪かったですね。つまり、働かずに日常生活を送っていたと言う事ですね?」
藤原「そうです」
北島「分かりました。ちにみに何故、働こうと思ったのですか?」
藤原「さっきも言ったように、私、今年で三十五なんですけど、去年まではニートだったけどこの歳になったらもうニートじゃなくて無職って扱いになるらしくて」
北島「まぁ、そうですね」
藤原「ニートじゃないならもう希望も無いのでじゃあもう働こうかなと」
北島「言わんとしている事は分からなくも無いですが……よく分かりませんねぇ」
藤原「あ、無職って職業もあるのかも」
北島「は?」
藤原「ほら、鳶職とか教職とか言うじゃないですか。なら無職って職業もあるんじゃないかなって」
北島「意味がよく分かりません」
藤原「これからは無を商売にしていこうと思います。仕事が決まりました。ありがとうございました」
北島「あの、ちょっと……」
藤原「ではさようなら(舞台上手に退場)」
北島「あ、あのー!?……こうして犯罪者が生まれるのかな……」
―――終わり
『ウィスキー』
・登場人物
北島
藤原
従業員
・舞台
バー
明転。
バー。カウンター一つに椅子が四つ。
藤原、板付き。北島、舞台上手から登場。
藤原「いらっしゃいませ」
北島「初めてなんですけど、大丈夫ですか?」
藤原「大丈夫ですよ。お好きな席にお座り下さい」
北島「(上手側に座る)」
藤原「何になさいますか?」
北島「ウィスキー、ロックで」
藤原「畏まりました。(ウィスキーと石を入れたグラスを出す)お待たせしました。ウィスキー、ロックで御座います」
北島「何これ?」
藤原「ウィスキーのロックで御座います」
北島「何で石が入ってんの?」
藤原「ロックですので」
北島「そのロックじゃないよ?」
藤原「石にウィスキーを染み込ませております」
北島「ミネラルじゃないんだから……」
藤原「ではどのように致しますか?」
北島「氷で出してよ」
藤原「畏まりました。(氷のウィスキーを出す)改めまして、ウィスキーのロックで御座います」
北島「何この茶色い氷?」
藤原「ウィスキーを凍らせた物になります」
北島「ウィスキーの凍結温度ってマイナス三十一度とかでしょ?」
藤原「そうですね」
北島「こんなの齧ったら凍傷起こしちゃうよ。せめて溶かして」
藤原「畏まりました。(溶かしたウィスキーを出す)どうぞ」
北島「あぁ、やっとまともな物が飲める……ブフゥ!」
藤原「どうされました?」
北島「度数、高過ぎない!?」
藤原「度数八十度ですので」
北島「割ってよ!こんなん飲んだら死んじゃうよ!」
藤原「畏まりました(トンカチを取り出す)」
北島「ちょちょちょ。何する気ですか?」
藤原「割ろうと思って」
北島「グラス毎、割ってどうするんですか。水で割って下さいよ」
藤原「畏まりました。(ウィスキーの水割りを出す)どうぞ」
北島「……あぁ、やっとまともなの飲めた。ナッツはある?」
藤原「御座いますよ」
北島「じゃあそれお願い」
藤原「畏まりました。ナッツー!」
従業員「(舞台下手から登場)ピィーアァー!」
北島「何この人?」
藤原「ナッツ。つまり頭のおかしい人です」
北島「何それ?いらないよ。つまみになる訳無いだろ」
藤原「じゃあこの人は……?」
北島「帰して」
藤原「畏まりました。裏に戻ってて下さい。ナッツ」
従業員「畏まりました。オーナー(舞台下手に退場)」
藤原「それで、どのようなナッツをご所望で?」
北島「噛み応えがありそうなやつ」
藤原「畏まりました。(ナットをいくつか入れた皿を出す)どうぞ」
北島「何これ?」
藤原「ナッツで御座います」
北島「これ工具のナットがいくつかあるんじゃん」
藤原「でも噛み応えが……」
北島「噛み応えどころの騒ぎじゃないよ。もう少し柔らかい、植物のナッツを出してよ」
藤原「畏まりました。(アーモンド飲料を出す)どうぞ」
北島「誰が飲み物で出せと言った?」
藤原「でも植物ですよ?」
北島「飲み物をつまみに酒が飲めるか。固形を出せ」
藤原「畏まりました。(ピーナッツバターを出す)どうぞ」
北島「固形だって言っただろ。何で半液体なんだよ」
藤原「さっきよりは固形かと思いますが」
北島「『さっきよりは』って言っちゃったよ。固形じゃないって思ってんじゃないか」
藤原「でもつまみには……」
北島「ならないよ。普通にナッツを出して?豆類の植物や落花生で、バターや塩で炒ったやつ。ここまで言わないと分からない?」
藤原「畏まりました(炒めたナッツを出す)」
北島「やっとまともなの出てきたよ……これで帰るからな」
藤原「ではこちら、お会計になります(会計書を挟んだ小さいバインダーを差し出す)」
北島「どれどれ……ブフゥ!?何だよ!?この値段!?
藤原「大分、手間を掛けましたので」
北島「だからってこんな法外な値段があるか!」
藤原「払えないんですか?払えないなら、裏の怖い人達を呼んできますよ?」
北島「払えるよ!だってウィスキー一杯とナッツで二十円だもん!」
藤原「無理しなくて良いんですよ?良い金融会社、紹介しますよ?」
北島「だから払えるって言ってるだろ!」
藤原「カード決済も出来ますよ?」
北島「丁度、小銭を減らして財布を軽くしようとしてたところだ!」
藤原「現金ですね?」
北島「そうだよ!(財布から二十円出してカウンターに置く)じゃあな!」
藤原「ありがとうございましたー」
北島「また来るからな!(舞台上手に退場)」
藤原「またのご利用、お待ちしておりまーす」
―――終わり
『火事』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
家の前
・衣装
学生服
明転。
家の前。道端。
北島、藤原、舞台上手から登場。
藤原「うー……寒ぅ……!」
北島「馬鹿だなぁ。田んぼに落ちるなんて。今日日、犬でもそんな間抜けしないよ」
藤原「五月蠅ぇ……暗くて足元が見えなかったんだよ……」
北島「早く家に帰って風呂に入れ」
藤原「おう、そうする」
SE、消防車のサイレンの音。
北島「何だ?火事か?」
藤原「みたいだな」
北島「お前ん家の近くで停まってるぞ?」
藤原「あ、本当だ」
北島「あ、お前ん家、燃えてんぞ!」
藤原「あ、本当だ」
北島「おいおい、結構ボーボーに燃えてるぞ!大丈夫か!?」
藤原「(火に当たりに行く)丁度良い暖かさ……」
北島「止めろ!暖まる為に燃えてるんじゃねぇんだよ!」
藤原「でも何で燃えてるんだろう?」
北島「何でそんな冷静なん?お前ん家、燃えてんだぞ?」
藤原「だって燃えちゃってるもんは仕方ないし……それより今は体を暖めたい……」
北島「とりあえず俺ん家でも行く?火が治まる迄、待つしかないし」
藤原「でも服がなぁ……」
北島「俺の服、貸してやるよ。ついでに風呂と洗濯していけば良いさ」
藤原「助かる」
暗転。
明転。
道端。
北島、上手から登場。
北島「まだ燃えてんな。おーい。ニュースでやってるかー?」
藤原「やってるー。どうやら俺の家に火を点けた犯人がいるっぽいー」
北島「何で分かんのー?」
藤原「警察が言うには、近隣住民の防犯カメラに犯人らしき人物が俺ん家に火を点けるところが映ってたらしいー」
北島「被害はー?」
藤原「周り四軒に飛び火したっぽいー。ウチは多分全焼みたいー」
北島「親父さんとお袋さんと連絡取れたかー?」
藤原「今取れたー。何か二人でレストランに行ってたらしいー。よいしょ(舞台上手から登場)。服、サンキュな」
北島「それよりこれからどうするんだよ?」
藤原「そうだなぁ。あの火で焼き芋しようかなって思ってる」
北島「だから不謹慎だろ!何でそう脳天気なんだよ?」
藤原「何だろう。焦っても怒っても悲しんでもどうしようもないって本能で理解してるからか、めっちゃ落ち着いてる。これからをどうしようとかも考えてない。現実逃避はめっちゃするんだけど」
北島「まぁ、そうか。辛いは辛いんだよな……」
藤原「でもこれを機に先生が宿題を減らしてくれたり、女子達が優しくしてくれるんじゃないかなとも思ってる」
北島「前言撤回。お前、全然、困ってないだろ?」
藤原「不便だなぁとは思ってるけど、困ってないな。寧ろ楽出来たり、ちやほやされるんじゃないかって期待感の方が勝ってる」
北島「屑だな、お前」
藤原「一番の屑は俺の家に火を点けた犯人だろ」
北島「人の心に漬け込む悪だろ。お前」
藤原「人の心を知らない悪はあの犯人だろ」
北島「人の優しさを何だと思ってる?」
藤原「人の事を何だと思ってるんだろうな?あの犯人」
北島「ああ言えばこう言う……これを機に少し自分の立ち振る舞いを変えたらどうだ?」
藤原「何で?」
北島「天からのお告げかもよ?お前の行いが悪いから家を燃やされたのかもしれない」
藤原「寧ろギフトじゃないか?今この時を楽してほしいって神様がプレゼントしてくれたんだよ」
北島「今を楽したら、その先の生活が苦しくなるだけだぞ?」
藤原「何で?」
北島「だってそうだろ?今、楽したら、後々に必要になってくる勉強が出来ないんだから」
藤原「あ、成程。そういう考えもあるか」
北島「一種、試練なんじゃないか?今ここを乗り越えたら、何か授けられる、みたいな」
藤原「じゃあ乗り越えてみようじゃないの。その試練とやらを」
暗転。
明転。
道端。
北島、藤原、舞台上手から登場。
北島「あれからお前ん家どうなった?」
藤原「それがさぁ、全焼しちゃって何も無いもんだから銀行とか何やらの手続きが大変でさ」
北島「そうか。そこら辺の問題もあったのか」
藤原「今までの家とは打って変わってボロアパートで、夜は寒いし嫌んなっちゃう」
北島「そうか。大変だな……俺に手伝える事があったら言えよ?金も貸すからさ」
藤原「ところがだね……」
北島「何?」
藤原「宝くじが当たったんだ!一千万円!」
北島「マジで!?急に大金持ちじゃん!神様からのギフトだ!」
藤原「ところがそうでもないんだよなぁ……」
北島「どういう事?」
藤原「家の建て替えで八百万円、俺の学費で二百万円……もう底を尽きた」
北島「あらぁ……それは残念……」
藤原「ってな訳で俺への制裁は終わったわけだ」
北島「制裁ねぇ……あ、そういえばあの時の犯人、捕まったってよ」
藤原「あぁ、ウチにも警察が来たよ。被害届、出せってさ」
北島「何がしたかったんだろうな?」
藤原「さぁ?」
SE、着信音。
藤原「あ、親父からだ。もしもし?うん、うん。あ、へー。そうなんだ。それで?うん、うん、えっ!?それマジ!?うん、うん……分かった。うん、うん……はい、分かりました。とりあえず家、帰ったら詳しく聞かせてくれ!じゃあまた後で!ふー……」
北島「どうした?」
藤原「いや、あの犯人の動機が分かったって」
北島「何だって?」
藤原「単なるストレス発散。家が燃えてる所を見るのが好きで、火を点けて逃げて、少ししたら戻ってくるんだと」
北島「よくある話か」
藤原「で、ここからが問題なんだけど、その犯人は俺の親父の会社の取引先の社長だったんだよ!」
北島「……するとどうなる?」
藤原「多額の慰謝料を払わせてくれって言って来たらしい。それで取引を継続させてほしいって」
北島「はー……」
藤原「あの犯人の名字どこかで見た事あるなぁとは思ってたんだけど、まさか枝村商事の社長さんの息子だったとはね」
北島「で、どうすんの?」
藤原「親父は許すんじゃないかなぁ?あの性格だし。変に気を遣う人だから。それにしてもやっぱり駄目だな、火事は。人の人生を変えてしまう」
北島「そうだな。後、最後、これだけ聞いて良い?」
藤原「何?」
北島「プライベートな事だから別に答えてくれなくても良いんだけど」
藤原「だから何?」
北島「具体的にどれくらい金が手に入るの?」
藤原「あ、やっぱ気になる?」
北島「ガメつくてすいませんね」
藤原「えーっとね、詳しくはまだ聞いてない」
北島「数百万?いや、数千万か?一億行っちゃったりして」
藤原「十桁とは親父は言ってた」
北島「は?」
藤原「だから十桁円」
北島「十?十桁って事はお前……十億円!?」
藤原「最低はね」
北島「最低は!?」
藤原「言ったろ?十桁って。だから最高九十九億九千九百九十九万九千九百九十九円になる」
北島「最高、約百億円!?凄ぇ!」
藤原「さぁ~て、いくらになるかな~?」
北島「藤原!いや、藤原さん!」
藤原「何だよ急に?他人行儀だな……」
北島「これからも俺と友達でいてくれませんか!?」
藤原「現金な奴だなぁ。勿論!俺達はずっと友達だ!」
北島「へへへ……ようがす。あ、喉渇いておりやせんか?アッシちょっくら自販機にジュース買いに行ってきやすね!」
藤原「……火事は人の人生を変え、金は人を変えるなぁ」
―――終わり




