コント集18
コント集18
171・・・嫁イビリ
172・・・企業スパイ
173・・・馬鹿舌
174・・・身代金
175・・・チョコクッキー
176・・・タナオロシ
177・・・誘拐
178・・・出身地
179・・・嘘
18-・・・桃の香り
『嫁イビリ』
・登場人物
美幸
愛真
正将
・舞台
家
※服の件は季節によって変えて下さって構いません。
明転。
家。テーブル一つに椅子四つ。舞台奥に障子。舞台上手にアイランドキッチン。キッチンには鍋。
美幸、掃除機を掛け終える。正将、席に着いて新聞を読んでいる。愛真、舞台下手から登場。
愛真「美幸さん。お掃除は終わったの?」
美幸「あ、お義母さん。今、終わったところです」
愛真「ふぅん?どれどれ……(障子を指でなぞる)あらっ!良いわねぇ!」
美幸「良かったですか?」
愛真「えぇ!埃がまだあるじゃない!」
美幸「あ、そこはやってませんでした……」
愛真「もう!しっかりして下さいね!」
美幸「すみませんでした……」
愛真「良いのよ!ところでその服、いつ買ったの?」
美幸「つい先週ですが」
愛真「もう夏が終わるのよ?なのに何で秋物じゃなくて夏物買ったの?」
美幸「まだ暑いですし、安くなってたので……」
愛真「すぐ涼しくなるわよ!?先を見越さなきゃ!こんな無駄遣いして!」
美幸「すみません……」
愛真「良いのよ!そういえば洗濯物は畳んだのかしら?」
美幸「あ、向こうにあります」
愛真「どれどれ……(舞台下手に退場し、洗濯物を持って再び登場)あらっ!何コレ!?綺麗に畳んでるじゃない!」
美幸「それ程じゃあありませんよ。普通に畳んだだけです」
愛真「でもこの畳み方はウチのやり方じゃないわ!」
美幸「え?そうでしたか?すみません……」
愛真「良いのよ!私が畳み直しておくわね!全く、困った嫁だわ!(鼻歌混じりに舞台下手に退場)」
美幸「ねぇ、正将さん。何でお義母さんあんなに嫁イビリするの?」
正将「まぁ生き甲斐みたいなものだろ」
美幸「そうなの?困るんだけど」
正将「そういうものだろ」
美幸「でもお義母さん、どこか楽しそうというか、嬉しそうなんだけど、どういう事?」
正将「楽しいんだろ?嫁イビリが」
美幸「この調子じゃやっていけないんだけど。私、そんなに駄目かな?」
正将「いや、お袋的には百点だと思ってると思うよ?」
美幸「えっ?でもあんなに虐めてくるし……」
正将「俺の前の妻が完璧超人過ぎてイビリ甲斐が無くてつまんなかったらしいんだよね」
美幸「は?」
正将「嫁イビリするのが将来の夢だったらしくて、今、活き活きしてるんだよ」
美幸「何それ迷惑」
正将「ただ前の妻は家事は完璧だっただけど、俺の会社の上司と不倫して出て行ったからな。やっとまともな嫁が来てくれて嬉しいんだと思うよ?」
美幸「まとも……?こんなにミスしてるのに?」
正将「まぁ姑孝行だと思って我慢してくれ」
美幸「嫌だよ。何で私が我慢しなきゃならないの?」
正将「美幸が我慢してくれれば万事解決なんだよ。頼む。この通りだ」
美幸「はぁ……分かったよ」
正将「ありがとう」
愛真「(舞台下手から登場)美幸さーん?そろそろご飯にしましょー?」
美幸「はーい。今用意しまーす」
愛真「全く、言わないと準備しないなんて駄目な嫁ね!」
美幸「すみません……」
愛真「良いのよ!私も手伝うわ!(美幸と一緒にご飯を食卓に並べる)じゃあ頂きます」
美幸正将「頂きます」
愛真「あらっ!何コレ!?良いじゃない!」
美幸「お口に合いましたか?」
愛真「味が薄いじゃない!」
美幸「そうですか?結構、濃い目で作ったんですが……」
愛真「これじゃあウチの味にならないわ!もっと濃くしなさい!」
美幸「わ、分かりました……」
愛真「良いのよ!全くもう!仕方ないんだから!」
正将「あ、そうだ。美幸。今度、食洗器、買いに行かないか?」
美幸「食洗器?」
正将「前から欲しいって言ってただろ?今月はボーナスが入ったから思い切って買おうかなって思って」
美幸「良いね。じゃあ今度、買いに行こうか」
愛真「また無駄遣いして!この子、この前も服を無駄買いしたのよ?」
正将「でも母さん。食洗器があったら水道代も節約出来るし時間もその分、別の事に使えるんだよ?」
愛真「それは分かってるわよ!この子を連れて行ったら絶対、質の悪いのを買って来るに決まってるわ!」
正将「じゃあどうすんの?」
愛真「今度、私と美幸さんの二人で買いに行くから!」
美幸「えっ!?」
愛真「何?嫌?」
美幸「あ、いや、嫌じゃないです……」
愛真「じゃあ決まりね!ついでに私のお気に入りの喫茶店にも連れて行ってあげるから覚悟しなさい!」
美幸「は、はぁ……」
愛真「あそこは良いわよ!美味しいコーヒーが沢山あるから!」
美幸「あの、私コーヒー苦手で……」
愛真「じゃあお紅茶は!?」
美幸「紅茶も苦手で……」
愛真「じゃあジュース!オレンジジュースは!?生搾りで美味しいわよ!」
美幸「それならまぁ……」
愛真「子供舌ね!」
美幸「すみません……」
愛真「良いのよ!それにしても楽しみねぇ!」
美幸「は、はい……」
正将「俺は?」
愛真「嫁姑の水入らずなんだからアンタは仕事でもしときなさい!」
正将「はい……」
愛真「ちょっとトイレ行ってくるわね!(鼻歌混じりに舞台下手に退場)」
美幸「ねぇ。正将からも強く言ってよ」
正将「俺、前の妻に逃げられてから強く言えないんだよ……」
美幸「それはそれ、これはこれでしょ?」
正将「そうだけど……そんなに小言を言われたくないなら美幸が変われば良いんじゃ……」
美幸「何それ!?モラハラ!?」
正将「ごめんなさい!」
美幸「でも一つの案かもね……ここらでビシッと宣言するのが良いかもしれない」
正将「事を穏便に済ませてくれよ?」
美幸「そうするつもりよ」
愛真「(舞台下手から登場)ただいま~!」
美幸「あの!お義母さん!」
愛真「何かしら?」
美幸「私、これから変わりますから!」
愛真「どういう事?」
美幸「少しずつですが、変わります!」
愛真「ど、どうしたの?急に?」
美幸「いつかこの家を追い出されるんじゃないかって日々、怖かったんです。でも、どうか私を見捨てないで下さい!どんなイビリも受けますので、出て行けって言わないで下さい!」
愛真「あ、それはもう前の嫁に言ったから大丈夫よ」
美幸「え?」
愛真「不倫してたから頭に来て流石に言える!と思って言ったわよ。そしたら本当に出て行っちゃったのよ」
美幸「そ、そうですか……でも、家事の事は完璧に出来るように努めますので、どうかこれからもご指導の程、宜しくお願いします!」
愛真「それは困るわ!」
美幸「え?」
愛真「私は不完全な貴方が好きなのよ!」
美幸「は?」
愛真「どこかヌケてる所が好きなのよ!ミスを直されたら私の生き甲斐が無くなるわ!」
美幸「えぇ……じゃ、じゃあこれからもミスをしても良いんですか……?」
愛真「貴方はそのままで良いのよ~!?そのままで~!最高のお嫁さんよ~!?」
美幸「褒められてる気がしない!」
正将「嫁姑問題って大変だなぁ」
美幸「良いよねアンタは他人事で!」
―――終わり
『企業スパイ』
・登場人物
北島
藤原
枝村
・舞台
会議室
明転。
会議室。机一つに椅子が三つ。
北島、枝村、板付き。
北島「では次の方どうぞー」
藤原「(舞台上手から登場)失礼します!藤原正将です!宜しくお願い致します!」
北島「藤原さんですね……どうぞお掛け下さい」
藤原「はい!失礼します!(席に着く)」
北島「藤原さん。弊社を希望された理由をお聞かせ下さい」
藤原「はい!企業スパイとして活動したいからです!」
北島「……ん?つまり、弊社の諜報部員として働きたいという事ですか?」
藤原「いえ!御社の技術を盗みたくて今、勤めている会社からスパイを命じられてここに来ました!」
北島「は?そんなの許される訳無いじゃないですか」
藤原「駄目を承知で来ました!」
北島「えぇ……?」
枝村「素直で宜しい。採用」
北島「ちょっと社長!そう簡単に決めないで下さい!えーっと、藤原さん?一応、聞いておきますが、今、勤めている会社は弊社と同系統のものですか?」
藤原「はい!西岡商事です!」
北島「西岡商事?この前、横領で社長が捕まった所じゃないですか?」
藤原「そうです!経営難になって、これはもう他社の技術を盗んで特許を取るしか、経営改善にならないとの上の判断です!」
北島「余計に貴方を採用する訳にはいきません。どうぞ、お引き取りを」
枝村「まぁ待て。嘘偽り無く全てを話してくれたその姿勢、私は買うぞ。採用」
北島「待って下さい!この方は企業スパイなんですよ!?」
枝村「分かってる。だがその野心があればこの会社をより良くしてくれるだろう」
北島「分かってない!その野心は別の会社の為にあるんですよ!?」
藤原「私が御社に入社すれば業績は右肩上がり間違いないです!」
枝村「ほら、こう言ってる」
北島「今更そんな事を言っても遅い!第一、この会社に入っても真面目に仕事しないでしょう!?」
藤原「いえ!ちゃんと仕事しないと重要な案件に携われないので、それまでは御社に尽くします!」
枝村「ちゃんと仕事してくれる即戦力。採用」
北島「社長!事の重大さを理解して下さい!ハナから分かってる裏切者なんですよ!?」
枝村「でも我が社を思ってくれるんだろう?」
藤原「はい!」
枝村「なら良い。採用」
北島「いやいや!そうはならないでしょう!?大体、そっちの会社は火の車でしょう?そっちが先に潰れたらどうするつもりなんですか?」
藤原「はい!どちらにせよ職は失わないので、こっちが潰れたら御社に残り続けて働いていくつもりです!」
枝村「その決意があるなら信用出来る。採用」
北島「いやいやいや!ちょっと社長!こっち来て下さい!ちょっと待ってて下さいね!?」
藤原「はい!」
北島「(枝村を連れて舞台下手の端に行く)どういうつもりですか!?あんなのウチに入れたら業績下がるに決まってるじゃないですか!」
枝村「西岡商事は我が社のライバル会社だ。上手くいけば即戦力だけでなく、向こうの技術も盗めるかもしれん。これ程、美味い話はあるまい」
北島「諸刃の剣ですよ!?下手したら全て失うんですよ!?」
枝村「大丈夫、大丈夫。こっちで上手くやっておくから」
北島「えぇ……?もうどうなっても知りませんよ!?」
枝村「安心してくれ(北島と共に席に着く)お待たせしたね」
藤原「いいえ!大丈夫です!」
枝村「早速だが、来週からウチに来てくれ。仕事を任せる」
藤原「ありがとうございます!」
暗転。
明転。
会議室。
北島、藤原、板付き。
北島「藤原さん。もう仕事には慣れましたか?」
藤原「はい!先輩方が優しくてアットホームな職場で、給料も良くて福利厚生も良いので言う事無しです!」
北島「それは良かった。ところで、あっちの会社はどうなりましたか?」
藤原「はい!私が持ち出した技術のデータをこちらに持ち込んだので倒産しました!」
北島「社長からいくら積まれたんですか?」
藤原「それは言えませんよ~!でも七桁は頂きました!」
北島「社長が貴方を買収するとは思いませんでしたよ」
藤原「あのブラック企業と比べたら金を積まれなくても寝返ってましたよ!」
北島「これからは正式にウチの社員として真面目に働いて下さいね」
藤原「はい!絶対に裏切りません!」
―――終わり
『馬鹿舌』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
藤原宅
明転。
藤原宅。卓袱台一つに座布団二つ。
北島、板付き。藤原、エプロン姿で舞台上手から登場。
藤原「もうすぐ飯が出来るからな」
北島「あぁ。家の鍵無くしちゃって帰れなくて困ってたんだ。泊まらせてもらう上に夕飯まで悪いな」
藤原「友達だろ?困った時はお互い様さ」
北島「ありがとな」
藤原「それより明日の講義のノートとか教科書とかは大丈夫なのか?」
北島「あぁ、それはサークル室に置かせてもらってるから大丈夫」
藤原「そうか」
北島「それにしても流石、大企業のお坊ちゃんだな。部屋の大きさが俺んとこのアパートとは全然違う」
藤原「それ程でもないよ」
北島「ところで今日の夕飯は何だ?」
藤原「カレーだよ」
北島「そうか。そういえば藤原の手料理食べるの初めてだな」
藤原「大学三年間でそういえば無かったか、食べる機会。あまり期待すんなよ?」
北島「何で?」
藤原「俺さ、実は生まれた時から味覚障害なんだよ」
北島「えっ。そうなのか?」
藤原「だから不味い料理とか分かんなくて、人からよく馬鹿にされて過ごしてきたんだ。だからあまり期待しないでくれよな?」
北島「辛かったんだな……でもカレーだろ?そうそう不味くはならんだろ」
藤原「でもこの際だから言っておこうと思って」
北島「分かった。でも最後まで食べるよ」
藤原「ありがとな」
北島「出されたもんはアレルギーと毒以外何が何でも最後まで喰う。それが俺の信念だ」
藤原「そうか。(SE、ピー、という音)あ、ご飯炊けた。カレーも丁度かな?今、持ってくる(舞台上手に退場)」
北島「サンキュ」
藤原「(舞台上手からカレー二皿とスプーン二つを持って登場)お待たせ~」
北島「サンキュ。じゃあ頂きます」
藤原「召し上がれ」
北島「……マッズ!」
藤原「え?そう?分かんないな……」
北島「味覚障害って本当だったんだな……これを平然と喰えるとは……」
藤原「普通に美味しいと思うんだけどな」
北島「美味しい?これが?」
藤原「うん」
北島「……もしかしてお前、味覚障害じゃなくてただの馬鹿舌なんじゃねぇの!?」
藤原「えっ?そうなのか?」
北島「(ポケットからサルミアッキを取り出す)ここにサルミアッキがあるんだけど、舐めてみ?」
藤原「今カレー喰ってんのに飴、舐めんの?」
北島「物は試しよ」
藤原「(北島からサルミアッキを受け取る)分かった……滅茶滅茶、美味いじゃん、コレ」
北島「マジで!?世界で一番不味い飴って事で有名なんだぞ!?」
藤原「何でそんなの持ち歩いてんの?」
北島「好奇心で買ったは良いけど不味くて喰えたもんじゃないからサークルメンバーに舐めさせて消費させようと思って」
藤原「あっそー。俺、これ好きだわ。全部、頂戴」
北島「あ、あぁ、良いけど……お前、もう味覚障害って言わない方が良いよ」
藤原「何で?」
北島「味、分かってるじゃん」
藤原「何喰っても美味いとしか感じられないんだぞ?」
北島「あぁ、貧乏舌でもあるのか……」
藤原「失敬な。これでも大企業のお坊ちゃんだぞ」
北島「そうだったな。でも味が分かるなら味覚障害じゃないよ。普通、味覚障害って味が分からなくなる大変な病気だから」
藤原「ある意味では味が分からないぞ?」
北島「分からないんじゃなくて、分かってないだけだと思う」
藤原「難しいなぁ」
北島「それにしてもこのカレー……うん、やっぱり不味い。どうしたらこんなカレーになんの?」
藤原「隠し味かなぁ」
北島「隠し味?何入れた?」
藤原「蜂蜜でしょ?すりおろし林檎でしょ?後ー……」
北島「内容的には普通だな」
藤原「バナナでしょ?プレーンヨーグルトでしょ?味噌でしょ?ニンニクでしょ?赤ワインでしょ?オイスターソースでしょ?醤油でしょ?インスタントコーヒーでしょ?チョコレートでしょ?チャツネでしょ?レモンでしょ?レッドペパーでしょ?クミンでしょ?ブーケガルニでしょ?ケチャップでしょ?塩辛でしょ?後ー……」
北島「待て待て待て!入れ過ぎ!それが原因だろ!」
藤原「そうなのか?」
北島「道理で甘さとコクが馬鹿みたいに出てると思ったら……それ隠せてないよ。隠し味になってない」
藤原「でも当てられなかったじゃん」
北島「そういう問題じゃない!隠し味だらけでカレーが破綻してるって言ってんの!」
藤原「俺の家庭で育った味なんだけど……」
北島「これ、ご家族は何て言ってんの?」
藤原「俺以外は皆しかめっ面してた」
北島「でしょうねぇ!誰が作ってたの?」
藤原「お袋」
北島「お母様、ご自身で作ってしかめっ面してんの!?」
藤原「そうだねぇ」
北島「自分の料理の腕が壊滅的だって分かってんのに何でこれを作り続けたんだ……?」
藤原「俺が喜んでたからじゃない?」
北島「喜んでたって事はやっぱり味が分かってんじゃねぇか!」
藤原「これが……味……?」
北島「初めて感情を知った怪物みたいな反応!?」
藤原「北島、ありがとう……お前のお陰で、大切な物に気付けたよ……」
北島「そりゃどうも!」 ―――終わり
『身代金』
・登場人物
北島(誘拐犯)
藤原正将
藤原美幸
藤原愛真
藤原拓
藤原菜奈美
・舞台
舞台上手、藤原宅
舞台下手、北島宅
明転。
藤原宅。舞台上手側、ソファ一つにテーブル一つ、椅子四つ、部屋の手前中央に固定電話。
北島宅。舞台下手側。ガランとした部屋。
菜奈美、北島宅で縛られている。正将、美幸、愛真、拓、板付き。
美幸「菜奈美、遅いわねぇ。お父さん?」
正将「まぁ遊びたい盛りなんだろ。母さん」
愛真「そうそう。お祖父さんも昔は親祖日をよくしていたものよ?」
拓「それを言うなって、祖母さん……」
美幸「そういう問題じゃないんじゃないかと思いますけど……」
北島「(舞台下手から登場)良いか?大人しくしてろよ?(スマートフォンをスピーカーモードで藤原宅に電話を掛ける)」
SE、固定電話の着信音。
正将「はいは~い。もしもし?」
北島「藤原さんのお宅かな?」
正将「えぇ、そうですが?」
北島「お宅の娘を誘拐した!」
正将「は?」
北島「だから、お前の所の藤原菜奈美を誘拐した!」
正将「何だって!?」
北島「今、声を聞かせてやる。おい、喋れ」
菜奈美「助けて!お父さん!お母さん!」
正将「菜奈美!」
美幸「どうしたの?」
正将「菜奈美が誘拐されたって!」
愛真「何それ?悪戯じゃない?」
正将「菜奈美の声だった!」
拓「正将、スピーカーモードにしろ」
正将「あ、あぁ!(固定電話をスピーカーモードにする)」
北島「事態は理解したか?」
正将「こんな事して許されると思っているのか!?」
北島「お説教はよしてくれ。娘を返してほしければ身代金一千万円用意しろ!」
正将美幸愛真拓「一千万円!?」
北島「あぁ、一千万円だ。びた一文まけない」
正将「そんな無茶な!」
北島「無茶だから身代金なんだよ」
美幸「そんな馬鹿な!?」
北島「ちなみに警察に通報したら娘の命は無いと思え」
愛真「そんな……!」
拓「分かった!警察には言わない!だが一千万って……!」
北島「大事な大事な一人娘だ。これでも安いくらいだろう?
正将「あぁ!安過ぎる!」
北島「え?」
正将「菜奈美の価値はそんなもんじゃない!俺は二千万、出すぞ!」
北島「え?」
美幸「私は三千万、出すわ!」
北島「え?え?」
愛真「私は四千万!」
拓「俺は五千万!」
正将「ふむ……ざっと計算したところ、合計、一億四千万円になった。これでどうだ!?」
北島「え?え?え?ちょ、ちょっと待って!?おい、お前の所の家ってそんなに金持ちなのか?」
菜奈美「財閥の娘よ。そんな事も知らずに誘拐したの?」
北島「いや、東京の一等地の豪邸に住んでんなって程度で誘拐したから……」
菜奈美「馬鹿なの?」
北島「まぁ、馬鹿じゃなかったらお前を誘拐して身代金を求めないというか……」
正将「どうなんだ!?犯人!」
北島「ちょっと待ってくれ!おい!いくら何でもやり過ぎだ!お前からも何か言ってやってくれ!」
菜奈美「分かったわ。お父さん!お母さん!お祖父ちゃん!お祖母ちゃん!」
正将美幸愛真拓「菜奈美!」
菜奈美「私の価値はそんなもんじゃないわ!二億円、用意して!」
北島「お前もそっち側かよ!?」
正将「だよな、菜奈美……よし分かった!二億円、出そう!それでどうだ!?犯人!」
北島「まぁ、そっちがそれで良いなら……用意出来た頃合いを見てま連絡する(電話を切る)」
菜奈美「貴方、馬鹿ね」
北島「さっきも言ったが、馬鹿じゃなきゃこんな事しないぜ」
菜奈美「そう」
暗転。
NA「本日、午後十一時三十分頃、東京都中野区の公園で一人の男性が逮捕されました。藤原菜奈美さんを誘拐し身代金、二億円を奪おうと計画していた模様ですが、父親の藤原正将さんが全て一円玉で用意したところ、二百tの身代金を車に積んだ際、車が潰れて運べずにいたところを正将さんが警察に通報。後に逮捕されたとの事です」
明転。
藤原宅。
正将、美幸、愛真、拓、菜奈美、板付き。
菜奈美「やっぱりこうなったね」
正将「分かってたか」
菜奈美「そんな簡単に大金を渡すなんて考えられないもの」
美幸「菜奈美に対する愛の重さを体現したのよ」
菜奈美「あら、私、そんなに軽い女じゃないわ」
―――終わり
『チョコクッキー』
・登場人物
北島
藤原(クッキー屋)
・舞台
商店街
明転。
商店街。露店が一つ。露店には色々クッキーが置いていある。
藤原、板付き。北島、舞台上手から登場。
藤原「そこのお兄さん!クッキー如何ですか?」
北島「クッキー?」
藤原「はい!」
北島「俺、クッキーには五月蠅いよ?」
藤原「味には自信ありますんで!」
北島「そっかー。じゃあちょっと見て行こうかな」
藤原「ありがとうございます!」
北島「俺、チョコクッキーが好きなんですけど、ありますか?」
藤原「それは良かった!丁度、今チョコクッキーフェアやってるんで色々ありますよ!」
北島「チョコクッキーにそんなにバリエーションあるんですか?」
藤原「はい!まずはこちら、普通のチョコクッキーです。試食、如何ですか?(チョコクッキーを差し出す)」
北島「うん……うん、美味しい。他は?」
藤原「こちらは更にチョコ感を増した超チョコクッキーです(超チョコクッキーを差し出す)」
北島「……良いじゃん。そういうの好きだよ。滑らかで」
藤原「こちらは更にチョコ感を出したスーパーチョコクッキーです(スーパーチョコクッキーを差し出す)」
北島「……あー、少しトロリとした感じね」
藤原「そうですそうです!こちらは更にチョコ感を出したウルトラチョコクッキーです(ウルトラチョコクッキーを差し出す)」
北島「……あー、生地自体にチョコを刷り込んだ的な?」
藤原「そうですそうです!で、こちらは更にチョコ感を出したハイパーチョコクッキーです(ハイパーチョコクッキーを差し出す)」
北島「……ん?うん。まぁ更にチョコ感を増したかな?もうほぼチョコだけど」
藤原「こちらは更にチョコ感を出したグレートチョコクッキーです(グレートチョコクッキーを差し出す)」
北島「……もうこれチョコでは?」
藤原「こちらはこれに更にチョコ感を加えたアルティメットチョコクッキーです(アルティメットチョコクッキーを差し出す)」
北島「……チョコでは?」
藤原「こちらは更にチョコ感を加えたパーフェクトチョコクッキーです(パーフェクトチョコクッキーを差し出す)」
北島「チョコでは?」
藤原「で、こちらが先程のチョコクッキーの要素を全て取り入れた超スーパーウルトラハイパーグレートアルティメットチョコクッキーです(超スーパーウルトラハイパーグレートアルティメットパーフェクトチョコクッキーを差し出す)」
北島「チョコでは?クッキーどこ?」
藤原「究極を極めた結果がこれです」
北島「もうクッキーを名乗るの辞めてチョコ屋さんで食っていったら?そこそこ美味いし」
藤原「私は究極のクッキーを目指しているんです。もう後には引けません」
北島「あっそー。ちなみにこれいくらなの?」
藤原「二百円です」
北島「一個?」
藤原「いえ、十個入りで、です」
北島「一個、二十円?そこは究極じゃないんだ」
藤原「あくまで商品に究極を求めたいので価格はどうでも良いんです」
北島「究極を求めるなら素材も究極にしなきゃいけないでしょ?儲けとかないと材料費に金掛けられませんよ?」
藤原「あぁ!その発想は無かった!」
北島「馬鹿かな?」
藤原「じゃあこれからは一万円に設定します!」
北島「極端!一個、千円のチョコに誰が金払うんですか!?」
藤原「いや、一個、一万円!」
北島「だから極端!十個入りだから十万円じゃないですか!誰が買うんですか!?」
藤原「それだけの価値が私のチョコクッキーにはある!」
北島「これ買うくらいなら市販の板チョコ買うわ!」
藤原「え?」
北島「これくらいの味ならそこらの板チョコで充分だわ!」
藤原「で、でも他のチョコクッキーは!?」
北島「これも普通の市販のチョコクッキーで充分だよ!露店だからちょっと特別扱いしたけど、味は普通だよ!」
藤原「そんな!?裏切らないで下さい!」
北島「最初からそっちの味方でもねぇよ!あくまでただの客の一人だよ!」
藤原「お客さんならこっちの味方でしょ~!?」
北島「まだ買うかどうかは決めてねぇよ!ただの通りすがりに過ぎないよ!」
藤原「さっき客って言ってたじゃないですか~!」
北島「言ったけども!」
藤原「それにさっき試食したでしょう!?折角なんでその分のお代払って下さい!」
北島「試食だろう!?だったらタダだろうが!」
藤原「八枚、食べたんで八万円です!」
北島「一枚、一万円はさっき決めた事だろうが!」
藤原「食い逃げですか!?」
北島「違法請求だろ!」
藤原「あー!もう!分かりましたよ!出るとこ出ますからね!」
北島「勝手にしろ!」
暗転。
明転。
商店街。露店が一つ。
藤原、板付き。北島、舞台上手から登場。
藤原「あ、いらっしゃいませ」
北島「テレビ番組のグルメ特集で大分、繁盛してるみたいで」
藤原「そうなんですよ。お陰様でこうして食っていけてます」
北島「それは何よりです」
藤原「何かお買い求めになりますか?」
北島「じゃあ高級板チョコ一つ」
藤原「はい」
―――終わり
『タナオロシ』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
倉庫
明転。
倉庫。棚がいくつかある。棚の上には段ボール。
北島、藤原、舞台上手から登場。
藤原「じゃあ北島君、今日が初めてなんだ?タナオロシ」
北島「はい」
藤原「バイトとかでやらなかったの?」
北島「塾講師のバイトだったので棚卸しの経験は無いですね」
藤原「そうなんだ。タナオロシは月に一回行うよ」
北島「はい」
藤原「タナオロシの事は課長から何か聞いてる?」
北島「課長からは結構、面倒臭いって聞きました」
藤原「まぁ確かに面倒臭いな。結構、疲れるし」
北島「社会人になってから知りましたけど、棚卸しって精神的に疲れるんですよね?」
藤原「あー、どちらかというと肉体的に疲れる感じかな」
北島「肉体的?」
藤原「うん。まぁこっち来てよ(北島と共に棚の方に行く)今からこれを下ろしていく」
北島「はい」
藤原「(棚の一番上の段に手を掛ける)北島君、そっち持って?」
北島「え?あ、はい(棚の一番上に手を掛ける)」
藤原「持ったー?」
北島「はーい」
藤原「じゃあ持ち上げて、床に置くよー」
北島「え?あ、はーい」
藤原「行くよー?せーのっ(北島と共に棚の一番上の板を床に置く)ここに置こう。これを繰り返す」
北島「は?」
藤原「棚下ろしはカビ防止や虫食い防止の為のものだからな。こうして棚を下ろして風を当てるんだ」
北島「あ、そっちの棚下ろし!?棚を下ろす作業の事だったんだ!?商品の在庫チェックじゃないんですか!?」
藤原「まぁ、それもあるけど、一番の目的は品質管理かな」
北島「は、はぁ……ま、まぁ、それも大事な事か……」
藤原「じゃあドンドン下ろしていくぞー」
北島、藤原、次々と棚を下ろしていく。
藤原「さて、在庫チェックだ。やっていこう」
北島「はい(在庫をチェックする)あ、藤原さん。花火、二点、足りないです」
藤原「あっそー」
北島「『あっそー』って、良いんですか?」
藤原「良いも何も、そっちのタナオロシはそっちを担当してる社員の仕事だから」
北島「えぇ……?じゃあこれ、バイトの仕事に近いんじゃ……?」
藤原「バイトと言うか窓際部署だねぇ」
北島「えぇ!?じゃあ俺、最初から戦力外通告って事ですか!?」
藤原「いや、新人は皆、最初はここに配属されるんだ。いつかこうならないように肝に銘じてもらう為にね」
北島「あ、そうなんですか。え?あれ?じゃあ藤原さんって窓際部署なんですか?」
藤原「そうだよ?」
北島「いつからなんですか?」
藤原「かれこれ十五年くらいかな?」
北島「勤続年数は?」
藤原「今年で十六年かな?」
北島「一年で戦力外通告!?何したんですか!?」
藤原「んー、まぁ何もしなかったって言うのが正しいかな」
北島「単純に仕事出来ないだけだったんですか……」
藤原「出来なかったんじゃなくて、しなかっただけかな。その気になれば仕事するし」
北島「じゃあ仕事すれば良いじゃないですか」
藤原「俺はな、この仕事が好きなんだ。誰にも邪魔されず、新人をこの手で育てる最前線に立てて、静かに自分のペースで出来る、この仕事がな」
北島「……一見それっぽい事言ってますけど、要は責任を感じずに下の人間ばかりが来るから威張れて楽出来るって事ですよね?」
藤原「おっ、よくそこに気が付いたね。君だけだよ。それに気付けたの」
北島「そうですか」
藤原「凄いね。君は伸びるよ」
北島「藤原さんに言われても嬉しくないです」
藤原「大先輩からのお褒めの言葉だぞ?誇り給え」
北島「年月だけ重ねてるだけの先輩からのお褒めの言葉なんて誇らしくないです」
藤原「あのなぁ、俺のこの棚下ろしの仕事が無いととこの会社の仕事は成り立たないんだぞ?」
北島「バイトで済む話でしょ。てか手が空いた人にやらせればいいだけの話でしょ」
藤原「だが俺はこの仕事の役職を貰っている」
北島「係長か何かですか?」
藤原「窓際部長」
北島「大丈夫かよ、この会社……」
藤原「これでも部長だからな。下に課長と係長もいる」
北島「大丈夫かよ、この会社」
藤原「上には専務もいる」
北島「大丈夫かよ、この会社っ」
藤原「今は部下が二十人を超える大規模部署だ」
北島「大丈夫かよ、この会社!?」
藤原「ようこそ、我が社へ!ここが登竜門だ!」
北島「転職します!」
―――終わり
『誘拐』
・登場人物
北島
小川美幸
小川正将
小川愛真
・舞台
舞台上手、小川家
舞台下手、誘拐犯のアジト
明転。
舞台上手、小川家。テーブル一つに椅子四つ。
舞台下手、誘拐犯のアジト。ペットボトルの水がある。
正将、愛真、板付き。スマートフォンを弄っている。北島、美幸、板付き。美幸、縛られている。
正将「美幸、遅いな」
愛真「残業でもしてるんじゃない?」
北島「いいか?大人しくしてろよ?」
美幸「(頷く)」
北島「(スマートフォンで電話を掛ける)」
SE、正将のスマートフォンの着信音。
正将「知らない電話番号だ」
愛真「詐欺かもしれないしスピーカーにして」
正将「分かった(電話に出る)もしもし?」
北島「お宅の娘を誘拐した!」
正将「融解?溶けてるの?何を?」
北島「(咳払い)良いか?もう一度だけ言うぞ?お宅の娘、小川美幸を誘拐した!」
正将愛真「何だって!?」
北島「返してほしくば身代金を用意しろ!」
正将「娘は!娘は無事なんだろうな!?」
北島「それはそっちの出方次第だ」
正将「娘は目に入れても痛くない……!訳じゃないな。痛いは痛い」
北島美幸「え?」
愛真「私の命よりも大切……!でもないな。私の命の方が大切」
北島美幸「えっ?」
正将「娘は蝶よ花よと育てて来て……!無いな。割と放任主義だったし」
北島美幸「えぇっ?」
愛真「貴方の為なら死ねる……!じゃないな。これは夫に言う言葉ね」
正将愛真「へへへへへへ……!」
美幸「ちょ、ちょっと良い?」
北島「何?」
美幸「ちょっと電話代わって?」
北島「あ、あぁ。はい。どうぞ?」
美幸「ちょっとお父さん!お母さん!」
正将「おー!何だ、元気そうじゃないか!」
愛真「そっちで元気にしてる?」
美幸「してるしてるー!じゃなくて!私の心配は無いの!?」
正将「もう成人してるし、自分の事は自分でしなさい、と思って」
美幸「限度がある!こっちは誘拐されてんだよ!?」
愛真「遅くならないようにね~」
美幸「二度と帰って来れないかもしれないのに!?」
正将「まさか仕送りに頼ろうとしてるんじゃないだろうな?」
美幸「仕送り程度で払える額か!」
愛真「じゃあ実際いくらなの?」
美幸「え?あの、いくら?」
北島「え?あー、えっと、一千万円ですけど……」
正将愛真「一千万!?」
北島「事の重大さにようやく気付いたか?」
正将「母さん、今いくら持ってる?」
愛真「えーっと、二万三千円。お父さんは?」
正将「えーっと、二万七千円」
愛真「あらぁ~……これじゃあ、あの子を取り返せないわ」
正将「誘拐犯さん、九百九十五万円、負けてはくれないだろうか?」
北島「する訳無いだろ!娘の命がどうなっても良いのか!?」
正将愛真「良い」
美幸「薄情者ー!」
北島「良いのか!?金さえ払えば娘の命は助かるんだぞ!?」
正将愛真「金は命よりも重い!」
美幸「守銭奴ー!」
正将「そもそもウチの経済力で娘を助ける事なんて出来ん」
北島「無理を承知で脅迫するのが誘拐なんじゃないか」
愛真「じゃあ警察に通報するわ」
北島「そんな事したら本当に娘を殺すぞ!?」
正将「犯罪者を逮捕出来るなら娘も本望だろう」
美幸「本望じゃなーい!死にたくなーい!」
愛真「美幸!いい歳こいて駄々を捏ねるんじゃありません!」
美幸「駄々じゃなーい!命乞いだー!」
正将「そんな我儘な子はウチの子じゃありません!家から出て行きなさい!」
美幸「もう出てるー!」
愛真「この際だから一人暮らししたら?」
美幸「そういう話じゃなーい!」
北島「お、おい。お宅の娘さん、大分、錯乱してるぞ……?」
正将「そっちの問題だからそっちで解決してくれ」
北島「は?」
愛真「この事態を招いたのは誘拐犯さんなんだから、その問題はそっちで解決してもらわないと困るよ」
北島「えぇ……?と、とりあえず水、飲むか?」
美幸「……うん(飲ませてもらう)」
正将「で、娘はいつ攫ったんだ?」
北島「え?あー、夜道、一人、歩いているところをさらった感じだけど?」
愛真「じゃあここから近いのね」
北島「それは言えないけど、車を使ったよ?」
正将「じゃあタクシーで帰って来れるな?」
北島美幸「は?」
愛真「もう夜も遅いし、夜遊びは程々にして早く帰ってきなさーい?」
北島美幸「はぁ?」
正将「仮にも女の子なんだから夜道には気を付けるんだぞー」
北島美幸「はぁっ?」
愛真「じゃあそろそろ寝るから。晩ご飯は冷蔵庫の中にあるからチンして食べてねー」
北島美幸「はぁっ!?」
正将「じゃあ誘拐犯さん、良かったら娘を宜しく頼む。じゃ(電話を切り、舞台上手に退場)」
北島美幸「ちょっ!?待っ!?」
SE、ツー、ツー、ツーと電話が切れる音。
沈黙。
北島「……帰る?」
美幸「帰る」
北島「タクシー拾う?」
美幸「万札しかない」
北島「じゃあ送ってくよ」
美幸「ありがとう」
―――終わり
『出身地』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
会議室
明転。
会議室。ロングソファ二つにテーブル一つ。
北島、席に着いてスマートフォンで電話をしている。
北島「はい、はい。あ、分かりました。先方には私から伝えます。どうかお気を付けて……はい、はい。それでは……(電話を切る)」
藤原「(舞台上手から登場)申し訳ありません。枝村は台風の影響で電車が遅延しており、到着が遅れるそうです」
北島「あ、こちらの西岡も渋滞で遅れるみたいです。申し訳ありません」
藤原「いえいえ、こちらこそ申し訳ありません」
北島「申し訳ありません」
藤原「今回の件は枝村が不在だと会議が進められません。申し訳ありません」
北島「いえ、こちらも西岡が不在では話が出来ません。申し訳ありません」
藤原「そうですか……」
北島「はい……」
沈黙。
北島「(心の声:気まずいなぁ……こういう時、何て話したらいいんだよ……)」
藤原「(心の声:気まずい……枝村さん、早く来てくれ……)」
北島「(心の声:何か話題を振らないと……)あの、藤原さんって、私と同い年位に思うんですが、もし失礼でなければ教えて頂いても宜しいですか?」
藤原「二十三歳です」
北島「あっ!やっぱり!私も二十三歳なんですよ!」
藤原「そうなんですか!?じゃあ今年、入社ですか?」
北島「はい。私は今回は研修で同伴してるんですよ」
藤原「私もです。ご出身はどこですか?」
北島「東京から大分離れた所です。田舎ですよ」
藤原「私もです。えっ、もしかしたら出身、同じだったりして」
北島「かもしれませんね。あ、じゃあアレ、どうです?名物のアレ」
藤原「あぁ!あれですか!良いですよね!油で揚げて!」
北島「そうですそうです!カラッと揚げて、サクサクしてて!」
藤原「中はふんわり!」
北島「やっぱり!同じ出身地ですね!」
文字、北島側「ザンギの事だと思っている」
文字、藤原側「サーターアンダギーの事だと思っている」
北島藤原「あっはっはっはっはっは!」
藤原「しかしあれじゃないですか?時折、恋しくなりません?故郷」
北島「なりますねぇ。スーパーとかで名物店みたいなのに並んでるとついつい買っちゃいます」
藤原「あの甘いのが良いんですよね」
北島「そうそう。噛むとジューシーな油が出てくるのがまた美味しいんですよ」
藤原「そうそう。日を跨いじゃうと少しヘニャヘニャなっちゃいますけど、それでも美味しいっていうね」
北島「そうそう。でもスーパーで売ってるのも美味しいですけど、やっぱり現地で揚げたてをお店で食べるのが一番ですよね」
藤原「それを言っちゃいけませんよ。そんな事、言ったらどの名産品もそうなっちゃうじゃないですか」
北島「それもそうですね」
北島藤原「あっはっはっはっはっは!」
藤原「でもやっぱり、あの茶色が良いんですよね」
北島「そうそう。小洒落た見た目じゃなくて、素朴な見た目だから食欲をそそられるんですよね」
藤原「そうそう。で、一個、また一個、と次々と食べちゃうんですよね」
北島「そうそう。幼い頃はあれだけを食べてお腹いっぱいになりたいなぁと思ってましたよ」
藤原「分かります~!大人になっていざやってみたらもう油ですぐお腹いっぱいになっちゃって意外と食べれないってやりました」
北島「結構クるんですよね~!昔はヒョイパク、ヒョイパクと食べてたのに!」
藤原「自分で作られた事ありますか?」
北島「ありますよ。かなり油使うんで後始末が大変でした」
藤原「分かります。その瞬間は美味しいが勝つんですけど、食べ終わった後の地獄がね」
北島「一度だけ、二日続けて同じ油で揚げたらいまいちだったんですよね」
藤原「あ、私もやりました。何かネバネバになるんですよね」
北島「そうなんですよ。だからそれ以降は出来合いの物を頼むか、お店で買うようにしてます」
藤原「東京だと現地の物に近い味の物があるので、気軽に食べられて良いですよね」
北島「でもやっぱり本場の味が一番ですよね」
藤原「ですよね。今でもたまにおやつとして食べてます」
北島「おやつ……?結構、腹に溜まりません?」
藤原「え、だっておやつでしょう?」
北島「おやつだって認識は無かったですね……私はご飯のお供として食べてます」
藤原「えぇ?あの甘いのが?」
北島「甘いのが良いんじゃないですか」
藤原「そ、そうですか……まぁ人それぞれですもんね」
北島「最近は居酒屋に置いてあるのでついつい頼んじゃうんですよ」
藤原「居酒屋……?普通、スイーツ店やパン屋では?」
北島「スイーツ?パン屋?え、肉料理でスイーツってミートパイ的な感じですか?」
藤原「肉料理?何を言ってるんですか?」
北島「え?」
藤原「え?」
北島「え?」
藤原「え?」
北島「ちょ、ちょっと整理しましょう。ザンギの事ですよね……?」
藤原「えっ?サーターアンダギーの事だと思ってましたが……?」
北島「え、あ、そう、ですか……」
藤原「あ、はい……」
沈黙。
北島「……何かすみませんでした……」
藤原「いえ……こちらこそ……」
北島藤原「(心の声:気まずーい!)」 ―――終わり
『嘘』
・登場人物
小川美幸
小川正将
・舞台
小川宅
明転。
小川宅。テーブル一つに椅子が二つ。
美幸、板付き。
正将「(舞台下手から登場)ただいま~」
美幸「おかえり。ちょっと良い?」
正将「何?俺、今回の離婚調停の仕事で疲れてるんだけど」
美幸「その事で話があるの」
正将「ふぅん?まぁ良いけど(席に着く)何?」
美幸「正将、浮気してるでしょ」
正将「何だよ、藪から棒に。してないよ」
美幸「この前、仲良さそうに女の人と歩いてるの見たんだから」
正将「多分それ、同僚の儀間さんだよ。仕事の打ち上げで飲みに行ってたんだと思うよ」
美幸「本当に同僚?」
正将「本当にただの同僚だよ。それ以上でも以下でも無い」
美幸「じゃあこれは何?(浮気写真を取り出す)」
正将「あー……」
美幸「ただの同僚がラブホテルに行く?何とか言ってみなさいよ」
正将「気付かれたくなかった……」
美幸「何?今まで騙してた事を?」
正将「うん……いつまでも、この関係が続けば良いと思ってた……」
美幸「何それ?ずっと浮気が続けば良いと思ってたの!?」
正将「うん!」
美幸「……はぁ?」
正将「ずっと浮気が出来れば良いと思ってた!」
美幸「嘘吐いてた事に罪悪感は無かったの?」
正将「人を傷付ける嘘はしない」
美幸「だからそれで傷付いてるんでしょうが!」
正将「だから嘘を吐いてたんだよ!美幸を傷付けたくなくて!」
美幸「は?どういう事?」
正将「美幸が気付かなければこの嘘は円満に進んで、皆、幸せになってたんだよ!」
美幸「益々、意味が分からない!人を傷付ける事に変わりは無いでしょ!?」
正将「だから人を傷付けたか?誰かを傷付けたか?この嘘で誰が傷付いた?」
美幸「私!」
正将「だからそれは自分から暴きに行ったからでしょ?それさえしなければ俺達は誰も傷付かなかった。そこは分かる?」
美幸「何それ!?私が悪いの!?」
正将「そうだよ?」
美幸「それはおかしいでしょ!?アンタが浮気しなければ良かった話じゃん!」
正将「元も子もない事を言うな!」
美幸「悪いと思ってるんじゃん!」
正将「この衝動は抑えられなかった!」
美幸「何で浮気したの?」
正将「純粋に顔が好きで」
美幸「妙に潔いな……何で嘘を吐いてたの?」
正将「俺は昔から誰かを傷付ける嘘が嫌いだったんだよ。誰かの為になる嘘なら良いと思ってた。だから今回はバレなければ良いと思ってた」
美幸「何それ!?悪い事だって思ってたんじゃん!」
正将「法律的には何の問題も無いし、互いの私生活に支障が出なければ問題無いだろ?」
美幸「あっそ!じゃあ別れましょ」
正将「何で?」
美幸「『何で?』って何で!?こんな事になったらもう別れるしか無いじゃないの!」
正将「別に金の問題も無いし、自分のお小遣いの範囲で浮気してるし、家庭も支えてるだろ?何の問題があるの?」
美幸「浮気してる相手がいるのに夜の営みが出来る訳無いでしょ!?」
正将「避妊はしてるから清潔だよ?」
美幸「そういう問題じゃない!気分の問題だって言ってんの!」
正将「気分なら大丈夫。俺は切り替えが出来るから」
美幸「そうじゃない!こっちの問題だって言ってんの!」
正将「気持ちだったら大丈夫。俺、絶倫だから玉の問題は無い」
美幸「だからそういう事じゃないって言ってんの!何で分かんないかなぁ!?浮気された側の気持ち!」
正将「分かるよ」
美幸「え?」
正将「俺の元カノ達、皆、浮気していったから」
美幸「じゃあ私の気持ち分かるでしょ?」
正将「分かる。俺の浮気、知りたくなかったよね……」
美幸「何も分かってない!?そもそも浮気すんなって言ってんの!」
正将「美幸。言葉にしないと伝わらない事なんて、世の中に沢山あるんだぞ?」
美幸「アンタ、学生の頃、道徳の授業受けてなかったの!?」
正将「受けてたよ?だからこうしてバレないように過ごしてきたんじゃないか」
美幸「どういう理屈でバレなきゃ良いって発想が出てくんのよ!?」
正将「バレなきゃ皆、幸せになってた」
美幸「あぁ!さっきも聞いたわ!もうアンタとは離婚よ離婚!」
正将「だから何でそうなるのさ?」
美幸「私がアンタと同じ事をしたらどう思うの!?」
正将「俺が一番だったらそれで良い」
美幸「何その超理論!?私だったら絶対に嫌なんだけど!?」
正将「どう感じるかは人それぞれだよ」
美幸「どの立場でそれ言えてんの!?」
正将「浮気した立場」
美幸「もう話もロクに通じないの!?」
正将「話はさっきからしてるじゃん」
美幸「会話になってないんだよ!そこは分かれよ!」
正将「会話になってないかなぁ?純粋に美幸が俺の気持ちを汲み取れてないだけじゃない?」
美幸「何それ!?私が悪いみたいに!?」
正将「最初からそう言ってるんだけど?」
美幸「もう嫌!私、出てく!」
正将「どこへ?」
美幸「実家に決まってるでしょ!」
正将「あ、じゃあ俺、車で送ってくよ」
美幸「乗る訳無くない!?」
正将「じゃあ電車?もう終電無いよ?」
美幸「ウチの車で行くからいい!」
正将「じゃあ尚更、送ってくよ」
美幸「自分で運転するからいい!」
正将「それじゃあ明日、俺が乗れないよ?仕事に行けなくなっちゃうよ?」
美幸「知った事か!」
正将「美幸。少しは人の痛みを知りなさい」
美幸「どの口が言うんだ、さっきから!」
正将「この浮気相手とキスした口から……」
美幸「言うな!もう本当に無理!(テーブルの上に離婚届を出す)これ書いたらまた連絡して!」
正将「離婚届?そんな大袈裟な」
美幸「大袈裟な訳あるかい!いいから書いたらまた連絡してよ!?じゃあね!(舞台下手に退場)」
正将「あ、ちょっと!もう、何なんだよ……」
暗転。
明転。
小川宅。
正将、板付き。
美幸「(舞台下手から登場)まさか一日で書いてくれるとはね」
正将「あぁ」
美幸「じゃあ、頂戴?離婚届」
正将「はい(記入してない離婚届を美幸に渡す)」
美幸「……何これ?記入されてないんだけど?」
正将「これで俺と離婚せずに済むだろ?これ以上に嬉しい事は無いだろ?」
美幸「そんな訳無いでしょ!?こっちは早く離婚したいんだから!」
正将「えー?嬉しい嘘だと思ったんだけどなぁ……」
美幸「こんなもんまかり通ってたまるか!こっちも出るとこ出るよ!?」
正将「えっ……?ナニする気……?(両手で胸を隠す)」
美幸「出すとこ出すって言ってんじゃないよ!出るとこ出るって言ってんの!」
正将「どこに何を出るって?」
美幸「弁護士事務所に決まってるでしょ!?離婚調停よ!(スマートフォンで電話を掛ける)」
正将「そんな無駄に金掛けなくても、解決策はあるよ?」
美幸「何?今更。もしかして大人しく離婚届に署名を……?」
正将「今回の件は水に流して、結婚生活を続ける」
美幸「流せる訳無いでしょ!もしもし!?離婚に強い弁護士さんのご紹介を!」
正将「無駄だと思うけどなぁ」
美幸「何が!?あ、いえ、こちらの話です。はい。はい……え?小川正将ぁ!?」
正将「美幸、馬鹿だろ。俺の勤めてる弁護士事務所に依頼するなんて」
美幸「五月蠅い!あ、すみません……実はその小川正将と揉めてるんです!別の弁護士の紹介を!はい、はい……あ、そうですか。分かりました。はーい」
正将「何だって?」
美幸「アンタ、クビだって」
正将「は!?」
美幸「前々から儀間さん?とかいう女の人から私と別れるように言ってたのに、なかなか別れてくれないから儀間さんが痺れを切らしたんだって」
正将「まさか……嘘だろ……?あんだけ愛し合ったのに……!?」
美幸「嘘は真実に勝てない。それだけの話だったのよ」
―――終わり
『桃の香り』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
北島宅
明転。
北島宅。卓袱台一つに座布団二つ。
北島、板付き。
SE、チャイムの音。
北島「開いてるよー」
藤原「(部隊上手から登場)お邪魔しまーす」
北島「いらっしゃい」
藤原「大学は?」
北島「休講になった。そっちは?」
藤原「午前で終わり」
北島「そうか。まだ酒飲むには早いし、夜までゲームでもするか?」
藤原「そうだな」
北島「あれ?何かお前、桃の香りがするな。香水?」
藤原「あぁ、これ?足の臭い」
北島「は?」
藤原「だから、足の臭い」
北島「マジで?何でそんな臭いがすんの?」
藤原「さぁ?生まれ付きだからな」
北島「もう桃の香り嗅いだらお前の事を思い出しそう……」
藤原「味も桃だよ」
北島「止めろ!余計に桃が食えなくなる!」
藤原「舐めてみる?」
北島「舐める訳無いだろ!気持ち悪い!」
藤原「若い女性って桃の香りがするらしいよ」
北島「止めろ!女の子と会う時お前が脳裏を過るだろ!」
藤原「実質、俺は女の子だった……?」
北島「そんな訳無いだろ!お前は男だよ!」
藤原「それはどうかな?」
北島「えっ、まさか、ずっと男友達だと思ってた奴が実は女だったってよくあるパターン?」
藤原「論より証拠。ほれ(ズボンの中を見せる)」
北島「……男じゃねぇか!汚ぇもん見せやがって!」
藤原「汚いとは何だ。今朝、風呂、入ったんだぞ」
北島「そういう問題じゃねぇ!男のブツを見せられて嬉しくねぇって言ってんだよ!」
藤原「北島。LGBT」
北島「え、お前ゲイなの……?」
藤原「違うよ?」
北島「じゃあ良いじゃねぇか!」
藤原「良くはないよ。人を傷付けてんだから」
北島「それは悪い!でもお前も大概だろ!」
藤原「ってか足の臭いってそんな気になる?」
北島「なるわ!」
藤原「お前さ、自分の足の裏、舐めた事ある?」
北島「あ?あぁ、まぁ、幼い頃にな」
藤原「味はどうだった?」
北島「しょっぱかったぞ。汗だし」
藤原「夏場とか一日、歩いたら納豆みたいな臭いしない?」
北島「するけど?」
藤原「それと同じじゃね?」
北島「だから止めろ!今後、納豆を喰う時に自分の足がチラつくじゃねぇか!」
藤原「別に良くない?飯、喰う時、別の事を考える事なんて普通だろ」
北島「思い浮かべる物が嫌だろ!」
藤原「そんなに俺の事、思い浮かべるの嫌?」
北島「お前自体は嫌いじゃないけど、お前の足の臭いってのが嫌なんだよ!」
藤原「嫌いじゃない?好きじゃないの?」
北島「友達としては好きだよ」
藤原「良かった。じゃあ俺の臭いもついでに好きになってもろて」
北島「お前を食べ物として好きになりそうで怖いわ!」
藤原「美味しく頂かれちゃうって事?」
北島「桃をな!?」
藤原「俺の桃尻を?」
北島「お前やっぱりゲイだろ!」
―――終わり




