コント集17
コント集17
161・・・縛られている男
162・・・・結構よく頻繫に
163・・・現地リポーター
164・・・ついてた
165・・・ボケ
166・・・部長と肩揉み
167・・・ボコボコ
168・・・地縛霊
169・・・否定と肯定
170・・・ハラスメント
『縛られている男』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
倉庫
※北島の「()」は口を塞がれてる状態の声。
明転。
倉庫。棚が一つ。棚には手前にカッターナイフ、縄、奥にサバイバルナイフ。
北島、縛られ、口も布で塞がれている。藤原、舞台上手から登場。
藤原「北島!」
北島「(藤原!)」
藤原「北島!何があった!?今、解いてやるからな!」
北島「(そんな事より犯人が!)」
藤原「クソッ!固くて解けない!」
北島「(そこのナイフを使え!)」
藤原「とりあえずそこ床だから痛いだろ!?今、座布団持ってくるからな!(舞台上手に退場)」
北島「(そんな事より口の布を外せ!)」
藤原「(座布団を持って舞台上手から登場)持ってきたぞ!(座布団を北島の下に置く)これで良し!」
北島「(良くは無い!)」
藤原「あっ、カッターあるじゃん。これ使お。クソッ!切れねぇ!」
北島「(だからまず口の布を!)」
藤原「このままじゃ息が詰まるだろ!?今ヒーリング効果のある音楽流すからな!(スマートフォンで音楽を掛ける)」
北島「(そんな事する暇があるならまず口の布を外せ!)」
藤原「これで良し!えーっと、カッターじゃ歯が立たないからデカいハサミ持ってくるわ!(舞台上手に退場)」
北島「(だから口の布を外せってば!)」
藤原「(大きいハサミとPCを持って舞台上手から登場)ちょっとこれで映画でも観て時間潰してて!」
北島「(何やってんのお前!?)」
藤原「クソッ!鈍らでこのハサミじゃ切れねぇ!」
北島「(だから口の布を外せってば!)」
藤原「そのままじゃ風邪を引くかもしれない!ちょっとブランケット持ってくるな!(舞台上手に退場)」
北島「(だーかーらー!)」
暗転。
明転。
倉庫。デスクが一つ。デスクの上にはノートPC。ゲーミングチェアが一つ。スピーカーが二つ。加湿器が一つ。マッサージ機器が足と肩に付いている。
北島、ゲーミングチェアの上にブランケットを被せられて乗っている。藤原、あの手この手で縄を解こうとしている。
藤原「クソッ!解けねぇ!」
北島「(早く口の布を外せー!)」
藤原「そうだ!お前の意見を聞こう!(北島の口の布を外す)」
北島「ぶはぁ!」
藤原「なぁ、どうやったらこの縄、解けると思う?」
北島「そんな事より犯人が!逃走したんだぞ!」
藤原「あぁ、それならさっき同僚が逮捕したぞ?」
北島「早く言えよ!」
藤原「え?あぁ、それならさっき同僚が逮捕したぞ?(早口で)」
北島「早口で言えって事じゃねぇ!それよりそこのナイフで切れ!」
藤原「ナイフ?どこ?」
北島「その棚の奥!」
藤原「あぁ、これか。(サバイバルナイフで縄を切る)切れた!何があった!?」
北島「犯人の一味にやられたんだよ!それよりお前なぁ!何してくれてんだ!?」
藤原「何が?」
北島「こんな贅沢な暮らしを俺は求めてないぞ!?」
藤原「え?質素な暮らしが良かった?」
北島「そうじゃなくて!こんな事してる暇があったら俺の口の布を外せば良かっただろ!」
藤原「だって犯人、捕まったし。もう焦る必要無いと思って」
北島「焦ってなかった!?」
藤原「そりゃまぁ早くトイレとか行きたいかなって思って急いではいたけど……」
北島「無駄なんだよ!空回りしてんの!」
藤原「分かったよ……(縄で手を縛る)」
北島「……何してんの?」
藤原「空回りしてるって言うなら最初からやり直させてくれ」
北島「馬鹿じゃないの!?お前、自分が何言ってるか分かってる!?」
藤原「RTAやるから、それで俺の評価をもう一度、検討してくれ」
北島「そんな無駄な事するくらいなら俺を病院に連れて行け!」
藤原「どっか怪我してんの?」
北島「縛られる前、頭を殴られたんだよ!もし一大事になったらどうする!?」
藤原「なら尚更、初めからやり直そう!これからの改善点になるし!(北島の口に布を被せる)」
北島「(馬鹿ー!)」
藤原「じゃあ一からやるから、また一時間後ここに来るね。じゃ(舞台上手に退場)」
北島「(うおー!)」
―――終わり
『結構よく頻繁に』
・登場人物
北島
藤原
枝村
・舞台
枝村宅
明転。
枝村宅。卓袱台一つに座布団三つ。卓袱台の上には缶ビールとつまみ。
北島、藤原、枝村、板付き。
北島「それぞれの会社、どう?」
藤原「まぁボチボチかな。ギリ、ブラックじゃない感じ」
枝村「俺の所はブラックよ。終電までは行かないけど、始発出勤だもん」
北島「あー、じゃあ俺は恵まれてるな。俺は完全にホワイト」
枝村「だって北島、大学じゃ優秀だったじゃん。そりゃホワイト企業に就職出来るでしょ」
藤原「だよなぁ。あ、ごめん、枝村。トイレ借りて良い?」
枝村「うん」
藤原「(舞台上手に退場)」
北島「終電までは行かないって、帰りは何時くらいになんの?」
枝村「十一時過ぎかな。で、家でも仕事して、三時間くらい寝てからまた始発で行く、みたいな」
北島「うわっ、キッツ……!体、大丈夫か?」
藤原「(舞台上手から登場)」
枝村「まぁ土日休みは確実だから本当にヤバい所よりはマシかな。ただ土日は寝て終わる」
北島「だろうな。藤原は?」
藤原「何?何の話?」
北島「ギリ、ブラックじゃないって言ってたけど、実際どうなの?」
藤原「うーん……ノルマがキツイってくらいかなぁ。たまに社長が『今子月は一人百件取ってこい!』とか言って来る時があるけど、それ以外は普段は普通よ?」
北島「一ヶ月で百件って頭おかしくない?」
藤原「だからまぁ大体の社員は無理よ?怒られれば済む話だから皆スルーしてる」
北島「凄ぇな……俺だったらもう辞めてフリーターになってるわ」
藤原「俺なんかマシな方よ?あ、ごめん、枝村。トイレ借りて良い?」
枝村「うん」
藤原「(舞台上手に退場)」
枝村「北島の所はどんな感じなの?」
北島「俺?俺の所は福利厚生がしっかりしてて、有休も理由とか特に聞かれないし、ノルマも二人程、厳しくないし」
枝村「羨ましー。俺の所なんか忌引き以外は基本、有休なんか許されないぜ?」
藤原「(舞台上手から登場)何?何の話?」
北島「枝村の会社がブラック過ぎるって話。枝村。それ、労基に言った方が良いんじゃない?」
枝村「それが前に労基が入ったんだよ」
北島「それで?」
枝村「社長が犯人探ししてその訴えた社員をクビにしたんだよ」
北島「何それ?不当解雇じゃん」
枝村「そうなんだよ。だからもう辞めてく社員が多いし、また労基が入ったら確実に潰れるだろうな」
藤原「ごめん、枝村。トイレ借りて良い?」
枝村「うん」
藤原「(舞台上手に退場)」
北島「……アイツ、結構トイレ行くな」
枝村「昔からだよ?アイツ結構よく頻繁にトイレ行くんだよ」
北島「どれかで良くね?結構か、よくか、頻繁にかで良くね?」
枝村「いや、アイツ昔からトイレ近いんだよ。本当に結構よく頻繁にトイレに行くんだよ」
北島「あっそー」
藤原「(舞台上手から登場)何?何の話?」
北島「藤原」
藤原「何?」
北島「お前、頻尿なの?」
藤原「まぁ、そうかもしれん」
北島「病気?」
藤原「いや、健康診断では何も言われなかった。俺も気になって医者に聞いたんだけど、一日に飲む水分の量が一般的な人の二倍から三倍くらいだから体質だって」
北島「あっそー。でもあまりにトイレが近いんじゃ実生活で困らない?」
藤原「まぁね。だから駅とか公園とスーパーとかコンビニとか、どこにトイレが使える場所があるか常に確認してる」
北島「トイレトレーニングとかしたら?」
藤原「トイレトレーニング?」
北島「ギリギリまで我慢して、なるべく一日のトイレの量を減らすってやつ」
藤原「結構ギリギリまで粘ってこれなんだけどな……」
北島「膀胱が小さいのかな?」
藤原「かもしれん。あ、ごめん、枝村。トイレ借りて良い?」
枝村「うん」
藤原「大分、喋っちゃったからもう膀胱が限界だ……あ」
北島「何?」
藤原「もう大丈夫」
北島「何が?」
藤原「もうトイレ行かなくて大丈夫」
北島「な、何で……?」
藤原「尿意が無くなった」
北島「えっ、怖い怖い怖い!何!?どうなったの!?」
藤原「出し切った」
北島「どういう事!?漏らしたって事!?」
藤原「やだなぁ。そんな訳無いじゃん。あ、ごめん、枝村。風呂、借りて良い?」
枝村「うん」
北島「待って待って待って!?やっぱり漏らしたんじゃん!」
藤原「大丈夫だって。こんな時の為に紙パンツは二枚、予備で持って来てるから」
北島「お前、普段から紙パンツなの!?」
藤原「そうだよ~(舞台上手に退場)」
北島「……良いのか!?」
枝村「何が?」
北島「アイツ、漏らしたんだぞ!?」
枝村「今に始まった事じゃないから」
北島「いくら幼馴染だからって何でもかんでも受け入れ過ぎじゃない!?」
枝村「でも言ったところで治る訳でも無いし」
北島「絶対に病院に連れて行った方が良いって!何かの病気だよ!」
枝村「さっき藤原が言ってたけど、アイツは所謂、飲み物のフードファイターなんだよ。通常の人の何倍もの飲み物を一日に飲まないと脱水症状で死んでしまう」
北島「そういうもん……?」
枝村「うん」
藤原「(舞台上手から登場)お待たせ~」
枝村「あ、使用済みの紙パンツ、可燃ゴミの袋に入れといて」
藤原「サンクス(舞台上手に退場し、すぐに戻ってくる)」
北島「ゴミくらい自分で持ち帰らせたら?」
枝村「おしっこ臭い荷物持って帰らせるの可哀想じゃん」
北島「懐が広過ぎるだろ……」
藤原「何?何の話?」
北島「だからいちいちトイレに行ってるから話が分かんないんだろ!病院行け!」
―――終わり
『現地リポーター』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
舞台上手が現地
舞台下手がテレビスタジオ
明転。
舞台上手が現地、舞台下手がテレビスタジオ。テレビスタジオは机一つに椅子一つ。
北島、藤原、板付き。
北島「さて、ここでスポーツのコーナーです。オリンピック会場に向かったリポーターの藤原さんに現地のお話を聞いてみましょう。藤原さーん!」
藤原「(ジャンプして今、着地したように話し出す)はーい!こちら現地の藤原でーす!」
北島「ジャンプしてもこちらから飛んだ事にはなりませんよー?」
藤原「(指でチョキチョキしてカットの合図を送る)」
北島「生放送でーす」
藤原「現場からは以上でーす!」
北島「まだ何も聞いてませーん。現地はどうですかー?」
藤原「言質は取られましたー!」
北島「何を話したんですかー?」
藤原「私の浮気についてでーす!」
北島「聞いてませーん」
藤原「離婚調停にて私が不利になる言質を取られましたー!」
北島「だから聞いてませーん」
藤原「でもこの裁判には勝ちまーす!」
北島「諦めて下さーい」
藤原「現場からは以上でーす!」
北島「だからまだ何も聞いてませーん」
藤原「(スタッフに)いやー、暑いね。この後、飲みに行こうよ」
北島「藤原さーん?」
藤原「北島さん、いちいち五月蠅いんだよね。あれどうにかならない?」
北島「藤原さーん?聞こえてますよー?」
藤原「え?あ、すみませーん!後で飲みに行きまーす!」
北島「そうして下さーい。後、日本に帰ってきたら説教ですよー」
藤原「はーい!」
北島「そちらの様子はどうですかー?」
藤原「とても眠いでーす!」
北島「そりゃ時差ボケはあるでしょうけどー。藤原さんの様子ではなく現地の様子はどうですかー?」
藤原「晴れてまーす!」
北島「見れば分かりまーす。気温はどうですかー?」
藤原「涼しいでーす!」
北島「さっき暑いって言ってませんでしたかー?」
藤原「気のせいでーす!」
北島「そうですかー。時刻は何時ですかー?」
藤原「何時でしょーか!」
北島「クイズやってるんじゃないですよー?」
藤原「今、何時なんでしょうかー?」
北島「こっちが聞きたいくらいでーす。あ、情報によると今そちらは午後三時だそうですねー」
藤原「そうなんですかー?」
北島「こっちに聞かないで下さーい。間も無く開会式だそうですが、選手の方々の様子等は如何でしょうかー?」
藤原「……あ、選手の皆さんは健康な状態で待機してるそうでーす!」
北島「突然の時差が入りましたねー?」
藤原「ボケーっとしてただけでーす!」
北島「気を付けて下さーい?」
藤原「時差ボケでーす!」
北島「知ってまーす。観客の様子はどうですかー?」
藤原「殺気立ってまーす!」
北島「興奮気味と言って下さーい?」
藤原「そうとも言いまーす!」
北島「そうとしか言えませーん。会場内は今回の為に気合を入れた出店が多く出店しているとの事ですが、グルメの方はどうですかー?」
藤原「どれもこれもアレルギーで食べられませんでしたー!」
北島「グルメリポーターの方に行ってもらった方が良かったですねー?」
藤原「その通りでーす!」
北島「皮肉ですよー?グッズ売り場はどうですかー?」
藤原「どれもこれも記念イラストが入ってるだけでボッタクリ価格で売ってましたー!」
北島「失礼過ぎますよー。何か買われましたかー?」
藤原「いえ、高くて買う気が起きなかったので買ってませーん!」
北島「経費ですよー?」
藤原「そうなんですか!?じゃあちょっと買ってきまーす!」
北島「もう遅いでーす。会場周辺はどうですかー?」
藤原「外国人だらけでーす!」
北島「日本じゃないですからねー。街の人達の様子はどうですかー?」
藤原「武装集団がウヨウヨいまーす!」
北島「警備隊や軍の方々だと思いますよー?警備はバッチリという感じでしょうかー?」
藤原「多分そうだと思いまーす!」
北島「断言して下さーい?ではリポートは以上です。明日のこの時間のオリンピック情報は藤原さんではなく急遽、枝村アナウンサーに代えてお送りいたします」
藤原「休暇って事ですかー!?」
北島「永久休暇でーす」
―――終わり
『ついてた』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
道端
明転。
道端。
北島、藤原、舞台上手から登場。
藤原「でさー、その時、西岡がさー。盛大にすっ転んで大慌てだったのよ」
北島「へー」
藤原「あ、ごめん(北島の肩を払う)」
北島「あ、ごめん。フケ付いてた?」
藤原「いや?幽霊が憑いてた。それでさー」
北島「ちょっと待って?今サラッと凄い事言ってなかった?」
藤原「何が?」
北島「幽霊がどうのって」
藤原「あぁ、大丈夫。もう払ったから」
北島「えぇ?怖い怖い怖い。本当に大丈夫なの?」
藤原「俺、霊媒師の家系だからそういうの得意なんだよね」
北島「初耳なんですけど」
藤原「言ってないからね」
北島「何で言わなかったの?」
藤原「言ったら引かれるかなって思って。インチキ呼ばわりされたら困るし」
北島「まぁ、今この関係だから引かないけど、最初の頃にそれ言われたら確かに距離、置いてたかも」
藤原「だろ?じゃあこの話はお終い……(北島の後ろを見る)」
北島「どした?」
藤原「ちょっとこっちに(北島を舞台下手側にズラし、地面をパッパッと払いながら舞台上手に退場し、すぐに戻ってくる)もう大丈夫」
北島「何、何、何?何があったの?」
藤原「お前に憑いてきた幽霊が多くて」
北島「何?俺、呪われてるの?」
藤原「多分ね」
北島「どうしたら良い?」
藤原「まぁ、ちゃんとした所でお祓いしてもらえれば良いんじゃない?」
北島「お前の所でやってくれよ」
藤原「えー?ウチ、結構高いよ?」
北島「他に信用出来る所無いし、頼むよ」
藤原「分かった。じゃあまた後日、連絡するから」
北島「ありがとう。じゃあまた明日、大学でな(舞台下手に退場)」
藤原「おう(煙草を取り出して一服する)インチキ霊媒師、また一人顧客を確保、と……」
―――終わり
『ボケ』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
北島宅
明転。
北島宅。卓袱台一つに座布団二つ。
北島、藤原、板付き。
北島「で、最近どうなの?お前の曾お婆ちゃん」
藤原「そろそろ限界かなって」
北島「そっか……もう百二十歳だもんな」
藤原「もう介護が大変でさ」
北島「足腰が悪いんだっけ?」
藤原「自力で風呂とトイレにはギリ行けるけど、それでもいつ転ぶか分からないから見張ってないといけないし、買い物も俺がやってるし」
北島「大変だな」
藤原「特に大変なのがボケちゃってきてさ」
北島「まぁその歳じゃあな」
藤原「もう毎日ツッコミが追い付かないんだよ」
北島「……あ、そっちのボケ?漫才的なボケ?」
藤原「そう」
北島「具体的にどんな?」
藤原「今日は暑いねぇ。五月でこの暑さなんだからきっと十二月は気温八十度くらいになっちゃうんじゃないかないかしら。みたいな」
北島「古典的な感じなんだ」
藤原「後は認知症が中核症状が出るようになってな」
北島「どんな感じ?」
藤原「同じ話を何回もしたり、何度も同じ事を聞いてきたりするんだよ」
北島「そっかぁ……それは寂しいな」
藤原「常時、酒飲むの止めてくれって言ってんだけど、止めてくれなくてさ」
北島「……それって酒飲んで酔っ払ってるから同じ事を何度もしたり、忘れちゃってるだけじゃない?」
藤原「後、今ご飯食べたのにまた食べ物をねだるんだよ」
北島「あー、それはよく聞くなぁ」
藤原「スイーツまだかー?って」
北島「しっかりしてるじゃないか」
藤原「スイス・エンガディン地方の伝統的銘菓、エンガディナー・ヌス・トルテはまだかー?って」
北島「滅茶苦茶しっかりしてるじゃないか」
藤原「それだけじゃないんだよ。別の時はご飯はまだかー?ってしつこく聞いてくるんだよ」
北島「またか」
藤原「だから俺達は言うんだよ。いやだなぁ曾お婆ちゃん。ご飯は一昨日食べたでしょ?って」
北島「毎日喰わせてやれ」
藤原「後、最近、漏らすようになった」
北島「あれ?さっき自力でトイレ行けるって言ってなかった?」
藤原「ううん。情報を」
北島「何の?」
藤原「家族の顔写真と名前をSNSで公開してる」
北島「何で?」
藤原「百二十歳のお婆ちゃんがSNSをやってるって言ったら収益が出るようになって、そこで家族を紹介してた」
北島「迷惑だけど収益出るなら良いじゃん。月どれくらい出てんの?」
藤原「二十万円くらい」
北島「じゃあ許してやれ」
藤原「後は最近、吐くようになったな」
北島「食べ過ぎ?それとも誤飲性のやつ?」
藤原「いや、弱音」
北島「どんな?」
藤原「もう少しでギネス記録更新だけど、その前に死んでしまったらどうしよう。みたいな」
北島「めっちゃしっかりしてるじゃん」
藤原「後は零す事も増えたな」
北島「手がおぼつかないの?」
藤原「いや、愚痴を」
北島「どんな?」
藤原「味が濃過ぎる。もっと薄味にしてほしい。とか」
北島「本当にしっかりしてるじゃん。普通、味を濃くしろって言うんだぞ?」
藤原「もう介護疲れだよ……」
北島「ちょいちょいお前側に問題がある感じがするんだが」
藤原「本当に大変なんだって。老人の相手をするってのは」
北島「言う程か?そりゃ買い物とか見張りとか大変そうだけど、案外、楽そうだけど」
藤原「実際に体験してみないと分からないと思う。この大変さが」
北島「そんなもんか」
藤原「そんなもんだよ」
暗転。
明転。
北島宅。
北島、藤原、板付き。
北島「曾お婆ちゃん、見事ギネス記録更新したな」
藤原「あぁ」
北島「盛大な宴会だったな」
藤原「あぁ」
北島「まぁ元気出せよ」
藤原「あぁ」
北島「まさかあの歳でボーイフレンドを作って結婚式を挙げるとはな」
藤原「曾お爺ちゃんになった人の介護も始まるからもう気が狂いそう……」
北島「ドンマイ」
藤原「SNSの再生数も増えたんだよね。ギネス記録更新と、世界で一番長生きの夫婦って事で」
北島「収益どれくらいになった?」
藤原「月百万円くらい」
北島「もうそれで生計立てていけよ」
藤原「そうするか……」
―――終わり
『部長と肩揉み』
・登場人物
米山(女性)
小川(女性)
藤原(男性)
・舞台
オフィス
明転。
オフィス。デスクが二つに椅子が二つ。デスクの上には資料やノートPC。
米山、小川、板付き。
小川「新人研修担当の小川です。これから米山さんが一人立ちするまでサポートします。宜しくお願いします」
米山「米山です。宜しくお願いします。小川先輩」
小川「この会社は他の会社と比べると大分ホワイトですが、一つ注意事項があります。藤原部長の事です」
米山「藤原部長が何か?」
小川「部長はセクハラが酷いです。女性なら見境無く行為を迫ってきます。気を付けて下さい」
米山「あぁ、前の職場でもいましたね。そんな輩。まぁそんなのは慣れてるんで大丈夫です」
小川「結構、酷いですよ?無理はしないで、何かあったらすぐに私に相談して下さい」
米山「安心して下さい。私は鋼のメンタルをしていますから」
小川「それでもです」
米山「ご心配ありがとうございます」
小川「それでは業務に取り掛かりましょう。前職の事務の仕事はあまり参考にならないと思うので、一から覚えて行って下さい」
米山「はい(席に着く)」
藤原「(舞台下手から登場)やぁやぁ、米山ちゃん。仕事、頑張ってる~?」
小川「来ましたよ。流せるまで時間が掛かるとは思いますが、気を付けて下さい」
藤原「何々?小川ちゃん?新人に対して嫉妬?」
小川「そんなんじゃありません」
藤原「ふぅん?まぁ良いや。米山ちゃん。仕事で分からない事があったら小川ちゃんだけじゃなくて、私にも頼ってよね?」
米山「お気遣いどうも」
藤原「それはそうと米山ちゃん。米山ちゃんは彼氏いるの~?」
小川「部長。セクハラですよ」
藤原「何よ。これくらい良いでしょ?軽いスキンシップだよ。ねぇ?米山ちゃん?」
米山「そうですね。軽いジャブくらいですね」
藤原「じゃ、ジャブ?で、彼氏はいるの?」
米山「彼氏はいないですが、キープしてる男は五人います」
藤原「へぁ!?五人!?セフレ的な?」
米山「まぁ取り巻きみたいなものですね」
藤原「そ、そう……ところで米山ちゃん、おっぱい大きいねぇ。肩凝りとか酷いんじゃない?」
小川「部長。流石にセクハラですよ」
藤原「こんなんでセクハラなんて世の中、終わってるなぁ。本人がセクハラだと思ってないならセクハラじゃないんだよ。ねぇ?米山ちゃん?」
米山「そうですね。これくらいは許容範囲です」
小川「米山さん、嫌なら嫌って言った方が良いですよ?」
米山「これくらい平気です」
藤原「おっ、米山ちゃん、素直で可愛いねぇ!肩揉んであげようか?」
小川「部長。ボディタッチはいけませんよ」
藤原「だーかーらー、本人が良いなら良いんだよ。ね?米山ちゃん?」
米山「そうですね。折角ですから揉んでもらいましょうか」
藤原「良いねぇ!じゃあ失礼して……(米山の肩を揉む)やっぱりおっぱいが大きいと肩が凝ってるねぇ!」
米山「ぬるい」
藤原「へ?」
米山「力が入ってなさ過ぎる!」
藤原「何、何、何?」
米山「相手の事を思うなら心を込めて力入れて肩揉まんかい!」
藤原「は、はい!」
米山「そこ!そこがツボだ!感覚で掴め!」
藤原「はい!」
米山「あー!もうこの下手糞!ちょっと代われ!(席を立つ)」
藤原「は、はい!(米山の席に着く)」
米山「(藤原の肩を揉む)こうだ!肩揉みってのはこうやるんだ!分かったか!」
藤原「分かりました!」
米山「部長なんだから金、持ってんだろ?」
藤原「へ?」
米山「金、持ってんだろ?」
藤原「いや、そんなには……」
米山「ちょっと跳んでみろ」
藤原「え?」
米山「ほら!(藤原を立たせる)」
藤原「わっ!?」
米山「跳べ!」
藤原「はい!(跳ぶ。SE、小銭の音)」
米山「持ってんじゃねぇかよ。出せ」
藤原「な、何を……?」
米山「金だよ。小銭で勘弁してやるって言ってんだよ」
藤原「は、はい……(財布から小銭を出し、米山に渡す)」
米山「ショベェな。まぁ女性の体を触れた上にマッサージもしてもらえたんだ。安いくらいだろ」
藤原「は、はい……」
米山「女性に触れたいなら残りの金でそういうお店に行くんだな。安く済ませようとしてんじゃねぇよ」
藤原「すみませんでした……」
米山「素人が良いとか思ってんのかもしんねぇけど、そういうのが得意な素人の女性はそうそういねぇから。夢見んな」
藤原「仰る通りで……」
米山「あー、運動したら喉が渇いたな。部長、茶」
藤原「はい?」
米山「(受け取った小銭からいくらか藤原に渡す)これで茶でも買って来い」
藤原「な、何で私が……?」
米山「あぁ!?」
藤原「はい!すぐに買ってきます!」
米山「昼飯の焼きそばパンもな」
藤原「はい!喜んでー!(舞台上手に走って退場)」
米山「ふぅ……」
小川「米山さん」
米山「何でしょう?」
小川「元ヤン?」
米山「はい」
―――終わり
『ボコボコ』
・登場人物
北島
藤原正将
藤原美幸
・舞台
道端
美幸「キャー!ドメスティックバイオレンスー!」
SE、パトカーのサイレンの音。
明転。
道端。
美幸「(舞台下手から登場)助けてー!殺されるー!」
北島「警察です!通報を受けて来ました!大丈夫ですか!?」
美幸「DVです!このままじゃ夫に殺されるー!」
北島「落ち着いて下さい!もう安心して良いですよ!」
正将「(声のみ)美幸ー」
美幸「あぁ!夫がもうそこまで!助けて下さい!」
北島「分かりました!とりあえず私の後ろにいて下さい!ちょっと旦那さん!?」
正将「(たんこぶと痣だらけの恰好に、ズタボロの服装で血だらけの状態で舞台下手から登場)」
北島「えっ!?」
正将「美幸ー?落ち着いて話し合おうー?」
美幸「そんな事言って、また暴力振るうつもりでしょー!?」
正将「もうそんな事しないって誓うからー」
美幸「そんな事信じられない!」
北島「ちょ、ちょっと待って下さい?旦那さん、ですよね?」
正将「はい」
北島「大丈夫なんですか?何か、大怪我を負ってますけど……」
正将「日常茶飯事です」
北島「えぇ……?とりあえず病院行きましょう?」
正将「私は大丈夫です。それより妻の怪我を診てあげて下さい」
北島「け、怪我?どこですか?」
美幸「ここです(袖を捲る)」
北島「どこ?」
美幸「ここです。暗くてよく見えないかもしれないですけど、強く腕を掴まれて痣になってます」
北島「……あー!確かに薄っすら痕になってる!ってかそれよりも旦那さんの方が一大事でしょ!」
正将「これくらい平気です」
北島「この痣とかたんこぶとか、日常的に受けてないと出来ませんよ!?DVを受けてるんじゃありませんか!?」
正将「私が妻にしている方がよっぽどDVです」
北島「自分からしてるって自覚はあるのに受けてる自覚は無いのか……」
正将「美幸?もう一度、落ち着いて話し合おう?」
美幸「嫌よ!また暴力振るうつもりでしょ!?」
正将「神に誓ってそんな事しないから。警察の人も困ってるでしょ?」
北島「まぁ困惑はしてますけど……」
正将「これは夫婦の問題ですから、警察の方はどうかお引き取りを……」
北島「いやいや。これは見過ごせませんよ。立派な暴行罪ですよこれは」
美幸「ほら!警察もこう言ってる!」
北島「奥さんの加害で書類送検出来ますよ?」
美幸「何で!?」
北島「何でって何でですか!?」
美幸「正当防衛ですよ!?これは!」
北島「仮に正当防衛だったとしてもこれは過剰防衛です」
美幸「身の危険を感じたからやったまでです!」
正将「妻の言ってる事は正しいです。全て、私が悪いんです」
北島「えぇ……?何でそこだけ意見が一致してるの……?と、とりあえず病院行きましょう?」
美幸「そうですね。この腕の痕が残ったりしたら大変ですし」
北島「奥さんの腕じゃなくて、旦那さんの怪我です」
正将「何故?」
北島「明らかに大怪我負ってるからですよ!すぐに治療しないときっと大変な事になりますよ!?」
正将「さっきも言った通りこれは日常茶飯事です。いちいちこれくらいの事で病院行ってたら治療費が大変な事になります」
北島「日常茶飯事……?でも手遅れになったらどうするんですか?」
正将「経験上、これくらいなら平気です」
北島「って事は日常的に奥さんからこれくらいの事はされてるんですね?」
正将「そうですね」
北島「何故、我慢出来るんですか?」
正将「私が暴力を振るうからいけないんです。ついカッとなってやっちゃうんです」
北島「明らかに奥さんの方が暴力を振るってる気がしますけど?」
美幸「ちょっとお転婆な性格なだけです」
北島「あ、自分で言っちゃうんだ?」
正将「とにかく、これは私は妻を許してるので問題無いです」
北島「許してるって、ちょっとは思う所があるんじゃないですか……(スマートフォンを取り出す)」
正将「ほら、美幸。帰るぞ」
美幸「嫌よ!どうせ暴力を振るわれるって分かってるのに何で帰らないといけないの!?」
北島「あ、もしもし?救急車、一台お願いします(スマートフォンをしまう)」
美幸「そこまで大事にしなくても、自分で行けます!」
北島「奥さんじゃなくて旦那さんの方です。脚、引き摺ってるし、自力で病院には行けないでしょう?」
正将「自己回復するので大丈夫です」
北島「そんな事言ってたらいつか本当に殺されますよ?」
正将「そんな大袈裟な。実際、今、目眩と動悸に襲われてるくらいで他は健康ですし」
北島「一大事じゃないですか!」
正将「だからこれくらいは日常茶飯事……(倒れる)」
北島「旦那さん!?旦那さーん!?」
美幸「正将!?」
北島「救急車ー!まだかー!?」
正将「おかしい……寒気がする……目の前が霞む……」
北島「あれだけ血を流していれば普通です!どうか気をしっかり持って!」
正将「美幸……最期かもしれない……言っておく事がある……」
美幸「何っ!?」
正将「浮気の件、すまなかった……!(気絶する)」
美幸「正将!正将ー!」
北島「浮気されてたんですか?」
美幸「私が」
北島「奥様が!?」
美幸「寂しくて……」
北島「浮気してた挙句、ⅮVしてたんですか!?」
美幸「DVは夫がしてたんです!」
北島「はぁ、そうですか。じゃあこれは旦那さん次第ですね」
美幸「何がですか?」
北島「裁判」
美幸「それを言うなら私次第でしょう?」
北島「絶対不利になると思うんで奥さんから裁判は起こさない方が良いですよ」
美幸「意味が分かりません」
北島「良いですよ。分からなくて」
SE、救急車のサイレン。
北島「あ、救急車、来た」
暗転。
文字「一ヶ月後」
美幸「キャー!ドメスティックバイオレンスー!」
SE、パトカーのサイレンの音。
明転。
道端。
北島、板付き。
北島「またか」
美幸「助けてー!殺されるー!」
北島「またですか。奥さん」
美幸「またです!」
北島「この前の裁判で旦那さんに無罪判決が出て、奥さんに非があると言われたじゃないですか」
美幸「それはそれ、これはこれです!それよりも夫が!」
正将「(声のみ)美幸ー?」
美幸「あぁ!暴力夫がもうすぐそこまで!」
正将「(たんこぶと痣だらけの恰好に、ズタボロの服装で血だらけの状態で、腹と脚にに包丁が刺さって足を引き摺りながら痛がって舞台下手から登場)」
北島「どうせまた奥さんが暴力を……!?」
正将「美幸ー?もう一回、冷静に話し合おうー?」
北島「ちょっとちょっと!この前より悪化してるじゃないですか!」
正将「あー、もう。また警察なんか呼んじゃって……」
北島「流石にこれは警察案件ですよ!?すぐに病院に行きましょう!?」
正将「大丈夫です。見た目程、悪くは無いので」
北島「本当ですか……?(正将の脇腹を触る)」
正将「イッテェ!(蹲る)」
北島「やっぱり痛いは痛いんじゃないですか!」
正将「見た目よりは案外、痛くないんです……!」
北島「そんな差分、要らないです!早く病院に行きましょう!」
美幸「そうですね……流石に今回はやり過ぎましたね……」
北島「やっと分かって頂けましたか!この惨状が!」
美幸「えぇ。だってこの腕の痕、残っちゃいそうですもの(袖を捲る)」
北島「根本的に分かっていない!?嘘だろ!?」
正将「これは夫婦の問題なのでお引き取りを……」
北島「前もそうでしたが何でそんなに寛容なんですか!?」
正将「ホレた弱みってやつです」
北島「それだけですか!?」
正将「それだけです。さ、美幸。帰るぞ(美幸の腕を掴む)」
美幸「嫌っ!離して!」
北島「旦那さん、あまり無理しない方が……」
美幸「嫌ー!離してー!殺されるー!(正将を突き飛ばして懐からナイフを取り出す)」
北島「ちょちょちょちょちょ!何する気ですか!?」
美幸「正当防衛!」
北島「トドメ刺したら正当防衛じゃなくなっちゃいますよ!?」
正将「美幸ー?もう怒ってないからちゃんと真剣に話し合おうー?」
北島「もう手に負えん!警察ー!誰か警察呼んでー!」
正将「貴方が警察じゃないんですか?」
北島「一人じゃ無理!」
美幸「このままじゃ殺されるー!」
北島「あぁ!私が襲ってるみたいな図になってる!」
正将「警察の方、そのまま妻を離さないんだったら痴漢で警察呼びますよ?」
北島「そっちに怒るんだ!?分かりましたよ!もうどうなっても知りませんからね!?」
暗転。
明転。
道端。
北島、板付き。正将、美幸、舞台上手から登場。
北島「どうでしたか?裁判は」
美幸「はい。正当防衛は成り立たなかったです」
北島「でしょうね」
正将「妻に暴行罪の判決が下りました」
北島「でしょうね」
美幸「でも夫は許してくれました」
北島「でしょうね」
正将「これからは暴力に頼らず、話し合いで解決するようにと忠告を受けました」
北島「でしょうね!」
美幸「これからは騒音被害を出さないように心掛けます!」
北島「心配所はそこじゃないってば!」
―――終わり
『地縛霊』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
マンションの一室
・衣装
北島・・・霊媒師っぽい服装
藤原・・・白装束
明転。
マンションの一室。缶ビールやらワンカップやらの空き缶や空き瓶やら酒のつまみの袋や箱が転がっている。盛り塩が置いてある。
藤原、板付き。舞台中央で酒を飲みながら寝っ転がって漫画を読んでいる。
北島、舞台上手から登場。
北島「藤原さん」
藤原「あぁ、北島さん。いらっしゃい」
北島「いらっしゃいじゃないですよ。いい加減にして下さい」
藤原「いい加減にしろとは?」
北島「この部屋から出てってください」
藤原「何でですか?家賃は払ってますよね?」
北島「もう解約されてるんですよ」
藤原「そんな勝手な!そんな話、大家さんから聞いて無いですよ!?」
北島「でしょうねぇ!だって貴方、死んだんですもの!」
藤原「地縛霊には住む場所も提供されないって言うんですか!?」
北島「成仏しろって言ってんの!」
藤原「出来たらやってますよ!」
北島「近隣住民から苦情が来てるんですよ!夜中、この部屋から笑い声が聞こえるとか!」
藤原「漫画を読んでたらそりゃ笑い声が聞こえてくるでしょうよ!」
北島「日によって部屋の物が移動してたりとか!」
藤原「漫画読んでたりアニメ見てたししたらそりゃ物が動くでしょうよ!」
北島「部屋の前の物が無くなっていくとか!」
藤原「ウーバーイーツみたいなのが毎日、家族や友人達から届くからそれを飲み食いしてるだけです!」
北島「ああ言えばこう言う……兎に角、早く成仏して下さい」
藤原「だからそれが出来てればやってます」
北島「ですね。地縛霊だからこの部屋から出られないですしね」
藤原「そうなんですよ。だから鬱憤が溜まっちゃって。せめて出られればもしかしたら成仏出来るかもしれないんですが」
北島「未練があるという事ですね?」
藤原「あるような無いような……俺、生前の記憶が無いんですよ」
北島「では仕方ないですね。強制的に成仏させます(念仏を唱え始める)」
藤原「俺、仏教徒じゃないんですけど」
北島「(念仏を続ける)」
藤原「あのー、俺、仏教徒じゃないんですけど」
北島「(念仏を続ける)」
藤原「おーい。俺、仏教徒じゃないんですけどー」
北島「五月蠅ぇ五月蠅ぇ五月蠅ぇな!分かりましたよ。じゃあ何かやり残した事を解決しましょう。その方面で事を進めましょう」
藤原「やり残した事?」
北島「はい。やり残した事をやれば未練が無くなって成仏出来るかもしれません」
藤原「でも俺、生前の記憶が無いんですよ」
北島「じゃあ今やりたい事をやりましょう」
藤原「あー……ハンターハンターとワンピースの最終話を読み終えたいです」
北島「いつ終わるか分かりませんよ!?ってか下手したら未完のまま終わる可能性も!」
藤原「こち亀だって終わったんですし大丈夫でしょ」
北島「それまでこの部屋は使えないって……ここの大家さんに何て言ったら良いんだ……」
藤原「その前に取り壊しが始まるかもしれませんよ?はっはっは!」
北島「何を笑ってるんですか!?このアパートが取り壊されたら、貴方、地縛霊じゃなくて浮遊霊になる可能性があるんですよ!?」
藤原「晴れて自由の身か」
北島「そんな刑務所から出られるみたいな……良いですか?浮遊霊になったら自分の意思が無くなるんですよ?」
藤原「意思が無くなる?となると、どうなるんですか?」
北島「無差別に人を襲うようになります」
藤原「はぁ」
北島「それだけじゃありません。仮に成仏しても天国にも地獄にも逝けません」
藤原「どこに逝くんですか?」
北島「無です。何も無い、感覚も無い。ただ意識だけがある真っ暗な空間で永遠を過ごすんです」
藤原「それ誰が言ったんですか?」
北島「え?我々の宗派の祖ですが?」
藤原「なーんだ。憶測かぁ。実際は逝ってみないと分からないって事ですよね?」
北島「それを言っちゃあお終いよ!でもこうして幽霊の存在は確認出来てますし、本当にその通りになっちゃかもしれませんよ?」
藤原「あ、今、思い出した。俺、新興宗教に入ってたんだった」
北島「どんな宗教ですか?」
藤原「スピリチュアルな事を潰す宗教です」
北島「具体的にどういう?」
藤原「幽霊や神や仏を信じなくさせる宗教です」
北島「あぁ、ヤバいんだかまともなんだか分からない宗教だ……」
藤原「後、一歩のところで位が上がるところだったんですが、その前に対象者に対して念仏を唱えていた最中に心臓麻痺で死んでしまったんです。その一歩が後、一人、改心させられればってやつだったんです。それを叶えられれば多分、成仏出来ます」
北島「そうですか。じゃあそれをやってみて下さい」
藤原「良いんですか?」
北島「どうせ私は改心させられませんが、行動に意味があるんです。それをすれば、結果はどうであれ、きっと成仏出来るでしょう」
藤原「そうですか。じゃあやりますね」
北島「どうぞ」
藤原「(念仏を唱える)」
暗転。
藤原「ハーッ!」
北島「ウワー!?」
藤原「はぁ……はぁ……あぁ……ありがとう、北島さん。お陰で成仏出来ます……」
明転。
マンションの一室。
北島、倒れている。
北島「うっ……(起き上がり、辺りを見渡す)そうか……幽霊なんて、最初からいなかったんだ……人間の恐怖心が産み出した、空想の産物だったんだ……」
―――終わり
『否定と肯定』
・登場人物
北島
藤原
枝村
・舞台
藤原宅
明転。
藤原宅。卓袱台一つに座布団三つ。卓袱台の上には缶ビール三つ。ゴミが散らばっている。
北島、藤原、枝村、板付き。
枝村「藤原ってさぁ、何でも否定から入るよね」
藤原「えっ?」
北島「そうだね。そういう意見もあるよね」
藤原「いや、そんな事無いよ」
枝村「ほら、そう言うところ。また否定から入ったじゃん」
藤原「いや、今のは条件反射みたいなもので」
枝村「また否定したよ。その癖、直したら?いつかどこかで大きなトラブル起きちゃうかもよ?」
藤原「いや、そうはならんやろ」
枝村「ほら、また否定したよ。それが原因で彼女さん、愛想を尽かして出て行ったんだろ?」
藤原「いや、まぁ、それは……」
枝村「だろ?今のうちに直しとけよ」
藤原「そうだなぁ……そうするかぁ……でもさぁ、そういう枝村も何でも肯定から入るよな?なぁ?」
北島「うん。そういう意見もあるよね」
枝村「あー、そうかもしれないねぇ」
藤原「ほら、そういうところ。何でも肯定するよな。なぁ?」
北島「うん。そういう意見もあるよね」
枝村「何か問題が?」
藤原「別に悪かぁ無いけど、何でも肯定してるといつか良いように周りから扱われるぞ?」
枝村「あー、そうかもねぇ……」
藤原「また肯定したよ。実際、会社でも後輩からも舐められてイエスマンになってるだろ?」
枝村「あー、そうだねぇ……」
藤原「だろ?少しは否定する事を覚えな」
枝村「そうするわ」
北島「二人共、難儀だねぇ」
藤原「そういう北島は否定も肯定もしないよな」
北島「えっ?」
枝村「確かに。いつも中間の立場に立つよな」
北島「あー、確かにそういう意見もあるよね」
藤原「ほら、そういうところ。『そういう意見もあるよね』。なぁ?」
枝村「うん」
北島「何?何か問題でもあるの?」
藤原「悪かぁないけど、誰も傷付けません的な考え方が少しイラっとする」
北島「誰も傷付けないなら別に良いだろ」
枝村「良いけどさぁ。自分の意見とか無いの?」
北島「そりゃあるよ」
藤原「あるんだったら否定なり肯定なりするだろ。でもお前、いつも中間の立場に立って自分の意見を言わずに周りに合わせるだろ」
北島「空気を読んでるって言ってほしいね」
枝村「そのスタンスが出来たのはいつなの?」
北島「あれは……小学校低学年の時か?」
藤原「早過ぎぃ!」
北島「最初は純粋で肯定してたんだけど、途中で反発するのが格好良いと思って否定してたんだよね。でもある話で、どちらにも不利になる状況になるなってなった時に、否定も肯定もしない答えをしたら万事解決して結果、良かったという事があってね。それからこのスタイルを貫いてる」
枝村「意外と大人だったんだな」
北島「昔から精神年齢は高い方だったよ」
藤原「まるで俺達が精神年齢低いみたいな言い方しやがって」
北島「ほらー。自分の意見言ったら誰かを傷付けちゃうんだよ。だから俺はなるべく自分の意見は言わないようにしてるんだよ」
藤原「別に傷付いてねぇよ」
枝村「折角だから色々聞いてみようぜ?」
藤原「そうだな」
北島「何?」
枝村「俺達はお前が意見しているところを見てみたいんだよ」
北島「意見する?」
藤原「そうそう。普段、俺達に思ってる事、言ってみろよ」
北島「えー?本当に良いのー?」
枝村「ちょっと未だに距離があるというか、そんな気がするからこの際、色々取っ払って話してみてくれよ」
北島「分かった。お前らの事を言えば良いんだな?」
藤原「うん」
北島「じゃあまず藤原」
藤原「おう」
北島「簡単に人を傷付け過ぎ。こっちの意見を簡単に否定してばっかりでウンザリする。否定だけじゃなくて普段の生活もだらしない。まずゴミを片付けろ。純粋に汚い。そりゃ彼女さんも愛想尽かすよ。仕事でもそうなんじゃない?営業成績が上がらないのを後輩さんに当たるの止めなよ。可哀想だろ。いや、可哀想なのはお前の頭か。後……」
藤原「もう止めろー!」
枝村「お、おい。大丈夫か?藤原」
藤原「何だよコイツ……そこまで言う必要、無いだろ……」
枝村「でも事実だろ?」
藤原「そうだけども……!」
枝村「で、俺は?」
北島「枝村はねー……」
藤原「止めとけ。心、抉られるぞ」
枝村「お前程じゃないだろうから大丈夫だろ」
藤原「酷くない?」
枝村「北島、頼む」
北島「枝村はねー、何でも受け入れ過ぎ。さっきも藤原に言われてたけど、良いように使われてるだろ。少しは否定というか断る事をしないと利用されるだけ利用されて後はポイされるだけだぞ。俺程じゃないけど自分の意見が無いように思われるから彼女も出来ないんだよ。流される事も多々あるし、何でもかんでも受け入れてたら仕事も恋愛も上手くいかないぞ。後はねー……」
枝村「もう止めろー!」
藤原「大丈夫か?枝村」
枝村「そこまで言う必要無いじゃん……何なんだよコイツ……」
北島「だから言ったろ?俺が意見を言うと人を傷付けるって」
藤原「お前にとって意見って人をディスる事かよ!?」
北島「俺、性根腐ってるから」
枝村「普段、俺達の事そんな風に思って過ごしてたの?」
北島「うん。二人がこういう話をしてる度に『馬鹿だなぁ』って思ってたよ」
藤原「じゃあ何で俺達とツルんでたんだよ?」
北島「……何でだろう?」
藤原枝村「はぁ!?」
北島「何でこんな馬鹿な奴らとツルんでたんだろう?もう縁、切るわ」
藤綿枝村「おいおいおい!」
北島「俺、帰る。じゃあな」
藤原枝村「ちょっと待てや!」
北島「何?」
藤原「俺達の友情はその程度だったのかよ!?」
枝村「そうだ!大学で同じサークルで毎日遊んでただろ!」
北島「あー……そういえばそうだったかも。でも他に同期がいなかったから仕方なくツルんでたんだよな」
藤原「マジで?」
北島「マジで。じゃあ俺、帰るわ(舞台上手に退場)」
藤原「怖ぁ、アイツ……」
枝村「本性、現したね」
藤原「アイツとの関係どうする?」
枝村「面白いから続ける」
藤原「だよな」
―――終わり
『ハラスメント』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
居酒屋
明転。
居酒屋。テーブル一つに椅子二つ。テーブルには刺身。北島の隣には紙袋。
北島、藤原、板付き。北島、日本酒、藤原、ジュースを持っている。
北島「じゃあカンパーイ」
藤原「カンパーイ」
北島「あれ?藤原君、お酒じゃないの?」
藤原「お酒苦手なんですよ」
北島「弱いの?」
藤原「いや、強いんですけど、味が苦手で」
北島「そうなんだ。この日本酒美味しいよ?苦手な人でも飲めるくらい。どう?一口」
藤原「アルコールハラスメントですか?」
北島「いや、そういうつもりじゃないんんだけど、もし次、飲む機会があったら飲んでみて?オススメだから」
藤原「はぁ(醤油に山葵を溶く)」
北島「あ、刺身はね、通は山葵を醤油に溶かすじゃなくて、刺身に少し乗っけてから醤油に付けて食べるんだよ」
藤原「グルメハラスメントですか?」
北島「いや、ちょっとした豆知識的なやつだよ」
藤原「そうなんですか」
北島「そう。あ、そうだ。この前、出張で北海道行ってきたんだ。これ御土産の白い恋人ね」
藤原「お菓子ハラスメントですか?」
北島「いや、普通に部下にあげるだけ」
藤原「じゃあ有難く頂きます」
北島「煙草、吸っても良いかな?」
藤原「スモークハラスメントですか?」
北島「あ、煙草、苦手?」
藤原「吸わないので」
北島「そっか。じゃあ止めとこう」
藤原「ところでこのサシの飲み会は何の目的が?」
北島「藤原君がこの部署に来て一週間だから親睦を深めようと思ってね」
藤原「コミュニケーションハラスメントですか?」
北島「違うよ。色々と藤原君の事を知りたいんだよ。良いだろ?」
藤原「まぁ答えられる範囲でなら」
北島「今、彼女はいるの?」
藤原「セクシュアルハラスメントですか?」
北島「いやいや、純粋な興味。どういう女性が好みなの?」
藤原「ラブハラスメントですか?」
北島「だから純粋な興味だって。言ったろ?藤原君の事を知りたいって」
藤原「はぁ」
北島「もし彼女さんがいて、結婚とか考えているなら、これからお子さんの事を考えたりすると仕事の割り振りとか考えなきゃいけないし」
藤原「いないですけど」
北島「じゃあ一人立ちしたらいっぱい仕事任せても大丈夫かな?」
藤原「パワーハラスメントですか?」
北島「いやいやいや、期待してるんだよ。研修も真面目で順調だし。期待の新人として見てるんだよ」
藤原「はぁ。それはどうも」
北島「ところでさっきからハラスメント、ハラスメントって、そんな気にして大丈夫?」
藤原「何がですか?」
北島「何か生き辛そうだなって思って。もっと気楽に寛容に生きた方が人生、楽しくない?いちいちハラスメントを気にしてたら相手、困っちゃうよ?」
藤原「ロジカルハラスメントですか?」
北島「違うって。あまりハラスメントばっかり言ってるとこれからの仕事、円滑に進めないよ?人間関係が大事な仕事なんだからハラスメントばっかり言ってたらやっていけないよ?」
藤原「モラルハラスメントですか」
北島「違うって。ただのアドヴァイス。そのままの調子じゃ結婚も遠のいちゃうかもよ?」
藤原「マリッジハラスメントですか?」
北島「だから違うって。純粋に心配してるの。ジェネレーションギャップかなぁ。君みたいな年齢の子はハラスメントに気にしちゃうのかなぁ。大変そう」
藤原「エイジハラスメントですか?」
北島「だから違うっての!素直な感想だよ!ところでまだ一週間だけど、研修の調子はどう?さっきも言ったけど順調そうだけど」
藤原「まだ始めたてで緊張してます。一人立ちしたら一気に責任が伴うと思うと不安です」
北島「まぁ肩の力を抜いて。仕事は一人立ちしたら案外楽しいものだから楽しみにしていなよ」
藤原「エンジョイハラスメントですか?」
北島「ただのアドヴァイスだよ!」
藤原「そうですか」
北島「そういえばここの空調ちょっと暑くない?温度下げてもらわない?」
藤原「私は平気ですけど」
北島「そう?俺、酒は言ってるからかな?ちょっと下げてもらっても良い?」
藤原「エアーハラスメントですか?」
北島「良いだろこれくらい!」
藤原「俺は丁度良いんです」
北島「そう?まぁあと一時間くらいだし良いか。ところでこの後、時間まだある?」
藤原「何でですか?」
北島「カラオケでも行かない?」
藤原「カラオケハラスメントですか?」
北島「違うよ!あ、カラオケ苦手だった?」
藤原「人前で歌うのは苦手ですね」
北島「そっか。俺、最近の流行りの歌とか疎いから教えてもらおうと思ってたんだけどな。残念。あ、ここニンニクの天ぷらが美味いんだよ。注文しようか?」
藤原「スメルハラスメントですか?」
北島「俺と一緒に喰ったら臭いなんか気にならないだろ」
藤原「明日、友人と会うので臭いには敏感なんです」
北島「そうか。なら仕方ない。でも男なんだから臭いくらい気にすんなよ」
藤原「ジェンダーハラスメントですか?」
北島「あー!今のはそうなるかー!それは申し訳ない!」
藤原「分かってくれたら嬉しいです」
北島「ところで趣味は何なの?」
藤原「趣味ですか?キャバクラ通いです」
北島「えー?意外。お金とかめっちゃ使うんじゃない?」
藤原「もう借金が五百万円になってます」
北島「使い込み過ぎだろ!止めなって!その趣味!」
藤原「パーソナルハラスメントですか?」
北島「純粋に心配してんの!破産したらどうすんの!?」
藤原「その時はその時です」
北島「控えめにしときなよ!?」
藤原「ここまで来たら後に引けないです」
北島「止めとけって!な!?」
藤原「彼女に貢ぐ為に働くと考えたらそれが原動力です」
北島「そんな理由で働くな!」
藤原「新型パワーハラスメントですか?」
北島「違うわ!もうこれここまで来たらハラスメントハラスメントだろ!」
藤原「ハラスメントハラスメントハラスメントですか?」
北島「そんなハラスメントは無い!それを言い出したらキリが無いだろ!もうお前と何話して良いか分かんねぇ!頭痛ぇ!」
藤原「難儀な性格ですね」
北島「お前がな!」
―――終わり




